「──諸君、自慰行為はしているか?」
困惑する男たちを外に連れ出すなり放った俺の言葉に、男たちがざわざわとし始めた。
「え、自慰行為って言ったか?」
「ま、まさか……騎士団長だぜ? 示威行為と聞き間違えたんだよ……」
いきなり俺は何を言ってるんだ、と思ったに違いない。だが全くもって問題なし。
なぜなら近くに俺の知り合いは一人もいないからだ。
ローウェン? アイツはニヤケ顔で婚約しましたぁ、とか言い出しそうだから酒場に置いてきた。
今この場にいるのはモテないクソ野郎どもしかいない。勿論俺を含めてな!
だからこそ──俺は大ホラを吹く。
一つだけ、
「【
ふわっと風が巻き起こる。
特別な変化は起こっていないが、俺は何が起きているのか正確に把握していた。
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その効果は──、
────
【
────
最初このスキルを手に入れた時は何の意味があるん? と思った。マジで。
俺はてっきり女の子に精力を付与してエロエロにするみたいな神スキルが来たと思ったのだ。よしんばそうだったとしても、純愛が好きなので使わないけどな。そんなんだから童貞なんだよ。
自虐はさておき、能力の検証のために城の裏門を守っている娼館バカのリチャードくんに【性の奮起】を掛けてみたところ、特段何かしらの影響は見られなかったが、どうにも俺の言葉を
適当な嘘で「エールにちんちん浸すと大きくなるらしいよ」って言ったらマジでやってたからな。……いやでもアイツバカだから能力関係なしに信じそうだな……。
まあ、つまりは精力とはやる気の根源そのもの。それを付与した状態は所謂やる気に満ち溢れて熱に浮かした状態になる。
そこに言葉を投げかけることで信じやすくする……的な能力なんじゃないかと思う。
おう、今にぴったりな状況じゃねーか。
「貴様ら知らないのか? 自慰行為の回数はそれすなわち男を磨く回数。すればするだけモテるという寸法だ」
「なに……!?」
「そんなバカな……」
「そういえばバカみたいに毎日やってた頃は女友達いたかも……この間結婚してたけど」
効くの早杉ィ!!! もう信じてそうなヤツおるぞ、あとなんか悲しい出来事発表してる人もいるし。……うーん、まあ流石に全肯定させるくらい信用するにはまだまだ足りないな。
ということで俺は畳み掛ける。
「──最近酒のせいで勃ちが悪いんじゃないか? 質の悪い酒精は勃起に影響するからな。自慰行為だって最後にしたのいつだ?」
「確かに仕事サボり始めてからしてねぇや……」
「ええと……3ヶ月前……毎日飲んでるから分かんねぇ……」
「最近性欲マジで無いんだよなぁ」
酒が勃起に影響するのはマジ。どうやら俺の予想通り、自慰行為をしばらく行っていない者がほとんど……というか全員だった。
余程酒の質が悪いと見える。
「貴様らがモテない原因、それは自慰行為の回数だ!!!」
「「「な、なんだって!?!?」」」
俺はまず本題を叩きつける。
働かないことを問題に挙げるんじゃない。恐らくコイツらが一番コンプレックスを抱えているであろう場所を攻める!!!
ちなみにこれは諸刃の剣なので勿論俺もザクザク傷ついてるゾ!!
「貴様らと年齢が近くて結婚してる奴らは、毎日毎日仕事終わりに過酷な自慰行為をしている!! 奴らは男を磨く鍛錬を欠かしていないんだ!」
「た、確かにこの間結婚してた冴えないあの野郎……ずっとイカ臭かった気がするぜ……!!」
「そういえばアイツも……!」
「アイツも……!!」
まともに結婚してる人、ごめんなさい。
一応形だけ謝っておきます。
「貴様らがここ一年で周りに置いていかれている理由……それは男を磨く鍛錬をサボっているから他ならない!! ……思い出せ、貴様らも仕事に励んでいる時、どれだけ疲れていても自慰行為はサボらなかっただろう。労働は良いスパイスになるんだ、鍛錬のな」
「仕事した後ってなんかムラムラするよな……」
「あれって鍛錬だったのか!! 俺ってもしかしてすごかった……!?」
「一年……つまり365回無駄にしてたってことか!?」
何だかどんどんボルテージが上がってきた。嘘しか言ってないのに。
これ、目論見が成功しても俺の名声とか上がらなくね? 変態野郎として記録に残るんじゃ……。……まあ、ええか。
なんてことを考えていると、一番後ろにいた少し小柄な青年が意を決したように俺を睨みながら叫んだ。
「そ、それって本当の話なんですか!? お、俺、確かに酒が入ったら勃ちが悪くなったけど……それでも七日に一回は……!!」
「──王都の結婚してるヤツは全員毎日してる(大嘘)」
すると青年はわなわなと身を震わせると──不意に瞳を輝かせた。
「まじかよ王都ってすげぇ……!」
「やっぱり田舎と違って都会って進んでるんだな……」
信じんのかよ!!! お前らチョロすぎて俺はびっくりだよ!! ……いやまあ、性欲に頭支配されてる時って男は総じてバカになるからな……。
「と、ということは騎士団長って一日に──」
「──八回だ」
「「「うおおおおお!!! すげぇぇぇ!!!」」」
歓声が沸き立つ。
一切モテてないし結婚してないけど情報は本当なだけに悲しい。メイさん、俺を貰ってください。
そんな悲しい独り言を心の中に浮かばせ、俺は最後の仕上げに移る。
「それもこれも全て労働のお陰だ!! 労働の後の自慰行為は心も体も鍛えることができる!! 貴様らがモテるにはそれが足りていないのだ!! 分かったか!! 分かったら働けぃ!!」
「「「はい!!! 師匠!!!!」」」
男たちはキビキビと動き出すと、手早い動きでクワを持って畑に駆け出していった。
ふぅ……色々と嘘ついたけどコレで解決だな!!!
こんなんで名声が高まるわけないし、誰にも尊敬されないけどな!!!
◇◆◇
「騎士団長さますごい〜!! あんなに働くのを嫌がってた飲んだくれを更生させるだなんて!」
「「「騎士団長さまぁぁあ!!!」」」
なんこれ。
なんか朝起きたらめっちゃ囲まれてんだけど。
──どうやら俺は救世主として村民に伝わっているらしい。
どうしてこうなった。
「幾ら豊作が続いたからといって、畑を放置していたら土が悪くなる一方だ。来年あたりは不作になっていたかもしれねぇ。助かっただよ、騎士団長さま」
村長曰く、そういうことらしい。
やっぱり下ネタは世界を救うんやね。問題は説得方法を知り合いに聞かれたらドン引きされるってことなんだけど。
とりあえず今のところ、俺の説得方法は伝わってないっぽいので一安心。変態の烙印が押される前にとっととこの村からおさらばだぜ!
「アルス、何したの……?」
「過酷な鍛錬だよ」
今月の25日に当作品の2巻がオーバーラップ文庫さまから発売されます!!!
このお話も収録されていますし、かなり先の展開まで見ることができるかと思いますので、よろしければ予約・購入のほうよろしくお願いいたします!!
なんと!! 聖夜……性夜に発売です!!!
また、web版もお気に入り、高評価、感想のほうよろしくお願いいたします!!