社長の弟は今日も走る   作:エヴォルヴ

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息抜きなのでこちらは多分本当に気が向いた時にしか更新されません。そもそも供養として書いたやつですし。


社長の弟は今日も走る

「毎度思うがなんでだ!? なんで俺を襲うんだよお前らァ!?」

 

 爆煙の中から、何やらコンテナやら装甲やらが取り付けられている改造車が飛び出す。学園都市キヴォトス、ゲヘナ学園自治区の道路を爆走するその車の後ろからはゲヘナ風紀委員会のエンブレムがペイントされた装甲車が追走してくる。

 

「やつらへの人質になってもらうためだ!」

 

「ざっけんな畜生!? 一週間で退職した俺に人質の価値はねぇぞイオリ先輩!?」

 

「ごめんなさい、風紀委員会としてもこれが一番だと結論付けまして……捕まってくれると助かります」

 

「そりゃあないぜ火宮さん!」

 

 同じクラスの少女に嘆いた少年は、運転している改造車に叫ぶ。

 

「ソロモン! もっと飛ばせ!!」

 

『現在の道路の最高速度は70km。最高速度に到達』

 

 あまりにも無常。少年が乗り込んでいるAI搭載改造トレーラー車、《WZ-72SOLOMON》から伝えられた現実に少年は頭を抱えたくなる。

 

「そうだったなぁ畜生!? 武装は!?」

 

『No.46のみ使用可能』

 

「よぉし、ばら撒け!」

 

『No.46実態不明(ビフロンス)、オンライン。スモークグレネード、全弾射出開始』

 

 少年の指示に反応し、ソロモンの装甲の中から飛び出した大量のスモークグレネード。その全てが道路で起動し、大量の煙幕が道路に広がった。

 

「じゃあな風紀委員会! 仕事頑張ってくれよ!!」

 

 その煙の中をUターン、風紀委員会の装甲車とすれ違うようにして改造車に乗った少年は走り去っていく。

 

「ぐっ、なんだこの煙! 音が反響して────!?」

 

(これは確かビフロンス……! 完成してたんですね……!)

 

 煙が晴れた頃には車は遠くに走り去っており、風紀委員会の追跡から逃れている。今から追おうにも、ゲヘナ風紀委員会にはまだ仕事があるのだ。

 

「ぐ、ぐぐぐ……! 今日も捕まえられなかった……!」

 

「イオリ隊長、さすがに無理ですよ」

 

「あの車────ソロモン? あれが完成した時点で拘束は無理ですって」

 

「技術屋の夢全部搭載マシンですよ? スポーツカーでも使わなきゃ無理無理」

 

 一年生の風紀委員会達が、少年の乗っていた車についてぼやく。ゲヘナ学園一の技術屋、ミレニアムサイエンススクールに入るべきだったとも言われるほどの技術屋の逃走に、ゲヘナ学園の誰もが対応しきれないのである。

 

「次は捕まえてやるからな陸八魔シンッ!」

 

 風紀委員会の部隊長、銀鏡イオリの叫びが青空に響き渡る。その叫びは、逃走者────────便利屋68社長である陸八魔アルの弟、陸八魔シンの耳には届かなかった。物理的にも、精神的にも、全く届かない。なぜなら……

 

「畜生マジでソロモンのガソリン代が馬鹿にならねぇ……!」

 

『燃費の向上のため、改造を提案』

 

「それができたら苦労しないんだよ、ソロモン。なんで俺の口座まで凍結してんだよ風紀委員会……!!」

 

 自身が置かれている状況に頭を抱えているからだ。

 

 高等部になってから教室は安全地帯ではなく、風紀委員会や美食研究会、温泉開発部が待ち伏せしており、寮の部屋すら襲撃されることがある。ゆえに、授業はタブレットの配信サービスを使い、住む場所を転々とする日々が続いている。この生活でシンの体重は5キロ落ちた。

 

 それに追い討ちをかけるように起こったのが、風紀委員会によるシン個人の口座凍結である。もちろん口座凍結はシンには宣告されずに行われている。食糧のストックが尽きていたシンの体重が4キロ落ちた。

 

 連帯責任とでも言うつもりなのか、何度抗議しても同じような文言の書類がやってくる。生徒会はやる気がないのか黙認……これによってシンの体重がさらに6キロ落ちた。ストレス痩せによる減量は合計15キロである。ここに来るまでに3キロ減ったので18キロ。普通なら栄養失調で倒れても死んでいてもおかしくない。残念? なことに頑丈なため、何故か死んでいない。

 

 現在の体重は25キログラム。……なぜ死んでいない? 

 

『マスター』

 

「なんだ?」

 

『ミレニアムサイエンススクールへの転入を検討するべきだ』

 

「それじゃ全面戦争待ったなしだろうが……!」

 

 転入するにしても、後腐れなく。ゲヘナの人間らしい罵詈雑言を吐くこともあるが、根が姉の陸八魔アルと同じように善人なシンは問題が解消されるまではゲヘナ学園に残るつもりでいた。アウトローを目指すと行って便利屋68を設立した姉とその愉快な仲間達が何かをやらかすのではと心配なのもある。

 

「姉さんに迷惑はかけられない……迷惑かけたらブーメランになる……!」

 

『皺寄せがマスターに来ているのであれば、マスターが見限ったとしても因果応報ではないか』

 

「そんな簡単には切り捨てられないのが人間なんだよ。馬鹿みたいだろ? 俺もそう思ってる!」

 

『理解不能』

 

「直球かよ。まぁ、いいけど」

 

 改造車を現在の拠点としている廃墟に停めて、使用した自家製スモークグレネードを補給する。

 

「……そろそろ引っ越さねぇとなぁ……」

 

 なんだかんだと苦難を突破してきたシンの勘が正しければ、そろそろこの場所も見つかるだろう。

 

『セーフハウス候補を提示。ゲヘナ学園自治区辺境に存在する地下室』

 

「いいね。次の引っ越し先はそこにしよう。今日出るぞ」

 

『マップ情報、更新。繰り返しになりますが、セーフハウスへの移動は休息後の深夜を推奨』

 

 改造車のソロモンが装甲を組み替えることにより、風避け兼仮眠室へと姿を変えたのを見て、水なしシャンプーと皮脂、汚れ、汗などを拭き取るボディシートで体をある程度清めたシンは腰を下ろす。

 

『目覚ましは23時に設定した』

 

「頼んだ。防衛システムは?」

 

『No.15愛情と騎士(エリゴス)、No.24地獄の番犬(ナベリウス)を起動中』

 

 自立型ロボットの二機がコンテナから飛び出し、起動するのを確認したシンは問題ないと判断して目を閉じる。

 

「んじゃ、おやすみ」

 

 こうして14時になったら拠点を移して23時まで眠る。これが陸八魔シンの1日。なぜかゲヘナ学園に入学してしまった、わりかしまともな感性を持っている少年の1日である。8時間以上も寝れば、大分精神的に回復するだろうと意識を手放そうとした瞬間────────

 

『エリゴスからマスターへ。敵性反応を確認。反応、美食研究会』

 

『ナベリウスからマスターへ。敵性反応を確認。反応、温泉開発部』

 

「何だと────────!!!???」

 

 ゲヘナ学園のイカれ二大巨頭が迫ってきていると知り、飛び起きたシンはソロモンのエンジンを起こし、急発進する。もちろん拠点の物資は車の中に詰め込んで。

 

「眠らせてくれよ……! ええい、ソロモン! 予定外だがアビドス砂漠に行くぞ!」

 

 昼間は灼熱、夜間は極寒のアビドス砂漠であれば、さすがの連中も準備不足では手出しできないだろうという考えである。

 

『了解した。ところでマスター、給食部からの依頼が来ていたが』

 

「それは受注! 最高の調理ロボットを送るって伝えといて!」

 

『グラトニーⅢの作成依頼、受注。期限は2ヶ月だ』

 

「よぉし! 半月で仕上げてやるよ!」

 

 シンが眠れるのはまだ先の話のようだ。

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 一方その頃便利屋68では、メンバー全員揃って神妙な顔をしてテーブルを囲んでいた。

 

「社長、シンへの連絡はついた?」

 

「今までされてこなかった着拒を遂にされてしまったわ……」

 

「あー……」

 

 アルの手に収まっている電話から流れてくるのは、接続ができなかった時や電話が切れた時に聞こえる音。何度かけても同じ音しか聞こえてこない。ちなみに着拒しているのはシンではなく、ソロモンである。よくできた相棒だ。

 

 シンはなんだかんだと言ってはいるが、姉や姉を支える仲間を嫌いになれないのだ。身内への情の厚さと甘さは姉譲りである。

 

「お、怒ってますよね……シン君……」

 

「まぁ、シン君にとばっちりが行っちゃってるところはあるしねー」

 

「どうするの、社長。謝ろうにもシンの居場所は分からないよ」

 

「決まってるわ。探すのよ! シンのことだから、自治区内には確実にいるでしょうし」

 

 問題はその自治区が恐ろしく広いということだろう。もっとも、シンは自治区を飛び出してアビドスの砂漠へと向かっているのだが。

 

「まずはシンを探す。そして対話! 応じてくれるかはともかく!」

 

「間違いなくどつかれるよね、角で」

 

 室長ムツキの言葉に便利屋68全員が青ざめる。

 

「シンの顔面掴んでの頭突きはヤバい」

 

「思い出すだけで頭痛が……!」

 

 シンの男女平等修正ヘッドハンマー(手加減の頭突き)は、アルの角よりも凶悪な捻れ角────まるで金槌のようになっている角だ────による防御力を無視した頭突き。手加減されているため、脳髄をぶちまけることはないが、それでも恐ろしい一撃だ。

 

 だが、今アルの心を支配しているのは、頭突きの痛みへの恐怖ではない。

 

「見限られてもおかしくないくらい、私達はシンへ迷惑をかけてきたわ」

 

 事務所を無くした時はシン個人で持っていた部屋を貸してもらい、金がなくなった時は食事を提供された。施しは受けないとアルが言っても「栄養不足で社員がぶっ倒れたら社長の責任。んで、連帯責任とでも言わんばかりに俺へ迷惑が来る。食べねぇと流し込むぞ姉さん」と無理矢理にでも食べさせてくる。

 

 そんな弟に見限られる方が制裁よりも恐ろしい。なんだかんだと言いながらも支えてくれた弟に見限られたのなら、自分の心が荒む予感がしていた。

 

「借りを返さないのはアウトロー失格。まずはシンに謝って……そして────」

 

 何かを言い切る前に黒電話が鳴り響く。便利屋68に電話してくる者など、仕事の依頼をする者しかいない。ちなみに、シンは携帯で電話してくる。しかも出ていないのに第一声が怒鳴り声である。

 

「はい、便利屋68、陸八魔です」

 

『────仕事を頼みたい、便利屋。内容は────────』

 

 カタカタヘルメット団、アビドス高等学校への襲撃だ。

 

 低い大人の声から伝えられた依頼内容。どんな依頼でも承る便利屋68は、その依頼を受けた。それが怒りの拳骨及び頭突きを叩き込まれる鍵となるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

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