ところで皆さんお労しい人の話好き過ぎませんか?
「この度はお忙しい中お時間を作っていただき、まことにありがとうございます」
アビドス高校、廃校対策委員会会議室にて、床に正座し、美しい土下座の構えから一向に動かない少年は、今すぐ殺されても文句は言えないと若干震えている陸八魔シン。アビドス高校に何度も連絡してアポを取った上で突撃をかまし、ソロモンに搭載したイジェクトシステムを利用してスライディング土下座を敢行した勇気ある少年である。
その衝撃で額から血を流していたり、角が削れたり、骨に罅が入っているのだが、シンにとっては軽傷。死なない限りは掠り傷なのだ。お労しや弟君。
「うへ、まず顔を上げてくれるかな? おじさん達、そのままじゃ話し難いよ」
「”ホシノの言う通りだよ。顔を上げてくれるかい”」
「いえ……このままでお願いします……体動かすだけでも骨が軋んで痛いので……」
「「「そんな体でスライディング土下座を!?」」」
驚愕するアビドス高校の生徒達はどうにか柔らかい敷物に座らせて、土下座モードを解除するように訴えかける。誠意を見せる方法をそれしか知らないのか、シンは敷物に座ることも断ろうとするが、アビドス高校側の要望であるとして、渋々敷物に座って土下座モードを解除する。
「とりあえず、改めて自己紹介をしてくれる?」
「ゲヘナ学園一年生、陸八魔シンと申します。しがない技術屋です」
「ゲヘナ学園? 結構遠いですよね? 生徒さんが何をしにここへ?」
「本来は、テロリストから逃走、慰安目的でアビドス砂漠に。……今回、ここに来た理由は、皆様へ謝罪をするためです……」
凄く申し訳なさそうに、そして今にも吐きそうな表情で、シンは口を開く。吐けるものは情報だけなのだが。
「アビドス高校自治区で、何らかの事件が、私の姉とその仲間によって引き起こされます」
「”姉?”」
「四人組の、ゲヘナ学園生徒です」
「四人組で、ゲヘナ学園? …………あ! もしかして柴関ラーメンにいた……!」
「う゛……はい、その四人で間違いないかと」
(((今吐きそうだったけど、大丈夫なのかな……?)))
注意して見ない限り分からないレベルのクオリティが成す痩せ細った体を隠す化粧。もはや特殊メイクと言っても過言ではないが、これもシンの発明が特殊メイクを成功させている。【No.57
「その四人が、九分九厘事件を起こします。……アウトロー目指してるらしい姉、悪戯好きな姉の幼馴染、公私を分けるとか言ってる人、姉を信仰してる人……!! あ゛あ゛っ、畜生! なんで俺が頭を下げなきゃいけねぇんだよ!! 」
突然、シンの中に溜まっていた闇が爆発する。
「ひえっ……」
「ん、憎悪が滲み出てる」
まさに悪魔と表現することができる形相は背筋を凍らせるよりも先に、どうしてこうなるまで放っておいたのだろう、という疑問が浮かび上がる。
「ふざけやがって! 倒産しちまえあんな会社! 過労死しちまえあんな連中!! ……はっ、すみません。取り乱しました」
「いや、この際だから吐き出した方がスッキリするんじゃない?」
血走った目────というか血涙が流れている────をギラギラと輝かせながらも、頭を下げるシンを責める者はどこにもいない。憎悪と慟哭は、同情することすら憚られる程に切実な叫びだった。それを見ていた誰もが、シンがいつもその者達の尻拭いなどをしていたのだろうことを察するに余る。そんな者を責めるなど人間以下の獣だろう。
「悪い人たちでは、無いんです。だけど! だからやらかしを許せとは言いません。見かけたら徹底的に潰してください」
「”それは……”」
本当に、それでいいのか?
そう言いだそうとした直後、シンが腕に装着している腕輪型デバイスが不安にさせるようなアラート音を発生させた。
『マスター、緊急連絡だ』
「何があったソロモン」
『警備として放っていたNo.21
その声を聞いた途端に、シンの表情だけではなく、アビドス高校の生徒と先生の表情も変わる。
「数は!」
『凡そ五十名』
「到着時間は!」
『約三分と断定』
「指揮官は!」
『便利屋68、陸八魔アルと推測』
「…………………………あは」
ボキリ。
折れていなかった方の角が、養生テープと共に折れた。血が流れる────前に、変化が起こる。
「あは、あはは……」
「”シ、シン……!?”」
ベキ、ベギュ、グジュ、ゴジュリュッ! と音を立てて捻じれ、歪み、形成されていく角。
先程まで生えていた角が、美しい宝石を羊の角のように加工した装飾品の形をした鈍器にも似た形状とするのなら、今形成されていく角は赤く、どす黒い返り血を浴び続けたような禍々しい呪われた武器のような角だ。
確実に鏖にしてやる、という意志を感じる恐ろしい形状の角が生えたシンの目は血走り、赤黒く染まり、見え隠れしていた鋭い牙のような歯がギリギリと鳴っている。
「クヒッ、クヒヒヒヒヒヒヒヒ……! ギヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒウヒヒヒヒヒヒイヒヒヒ!!! 」
「”し、シンさん?”」
「……はぁ。人様に迷惑をかけるような仕事をするなと、何度言えばいいんだろうなぁ」
悪魔。魔王。そういった凶悪な存在を連想させる形相となった彼の体から、苛立ちのあまり血が出るが、傷が一瞬で再生する。
これだ。これなのだ。陸八魔シンという少年が、なぜ死なないのかは、これなのだ。凄まじい再生能力とストレスで折れず、倒れず、気絶しない精神。トリニティ総合学園の最強格剣先ツルギ並みか、それ以上の再生能力を備えるからこそ死んでいないのである。
おお、神は何をしているのか。彼に救いは無いのか。*1
「誰かの弟であるということは、家族の間違いを正すということ」
「と、飛び降り────!?」
窓を開けて、飛び降りたシンを捕まえるのはコウノトリの姿をした鳥型ロボット。ハルファスの助けを借りて着地したシンは、ポタポタと血を滴らせながらソロモンのエンジンを遠隔起動させる。
「ソロモン、35と61。混ぜろ」
『了解。No.35
ソロモンのトランクから飛び出したのは、肩のパーツから蒸気を吐き出す灰色の巨大な腕と脚。狼の意匠を施されたそれは、シンの腕に接続され、狼の遠吠えのような駆動音を響かせた。
『人工筋肉、安定稼働。外骨格補助、起動。ジェネレーター出力、上昇。オーバーヒートによる稼働限界まで、10分。
「面倒なことになる前に、ケジメを……」
限界だった。元々限界だった? それはそう。優しさを向けてくれるのは給食部の二人と、ブラックマーケットで知り合ったペロロ狂いの友人やソロモン、カラオケに連れて行ってくれるキラキラ部の二人くらい。万魔殿の人間はイブキ以外信用すると痛い目を見そうだし、風紀委員会は捕まったら何をされるのか分かったものではない。二大テロリストはどうして自分を追ってくるのか分からない。
心の安寧を求めながらも、後腐れの無いように問題を解決してからゲヘナを退学しようとしていたシンの心はもうズタズタに切り裂かれていたのだ。
なお、フラストレーションを解消したらメンタルが回復して後始末のために頭を下げて、懲りない姉と愉快な仲間達に説教を叩き込み、自分のやらかしたケジメとしてソロモンに積んであるお金を支払うだろう。足りなかったら労働力を売り込み、それでも足りないなら指を詰める覚悟である。不器用過ぎて狂っているぞ弟君。
自分はここまで身内に憎悪の類を向けることができるのだな、と心の隅で感心しながらも、シンは遠くに見える人影を目撃し────────
「あkhjふぉぱいえrhごいあsfdjvないおpsdjふぁおぴsdfはおぴsづfj!!!!!!!」
もはや言語にすらなっていない叫び声を上げて、真っ赤に染まった視界に映ったその人影に襲いかかった。
「アルさ────」
最初に殴り飛ばされたのは、便利屋68の突撃役、伊草ハルカだ。ガオンッ、という空間が歪んだような音と共に殴り飛ばされたハルカは、近くにあった廃車に激突して脳を揺らす。
「は……?」
その襲撃に対して、誰かが呟いた。便利屋68が雇った傭兵が呟いた言葉だったかもしれない。便利屋68の誰かが呟いた言葉だったかもしれない。シンが飛びかかった頃に校庭に飛び出してきたアビドス高校の誰かが呟いたのかもしれないし、先生が呟いたのかもしれない。
敵意と憤怒と殺意と憎悪とが混ぜ込まれたシンの目をはっきりと見た便利屋68が幻視したのは、不機嫌な空崎ヒナ。これほどの圧を、凄味を放ってくるシンを見たことがなかった便利屋68の面々は、一瞬だけではあったが、『死』を錯覚する。
「し、シン、どうしてアビドスに────」
「死゛ね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!」
「ヒッ────!!?」
「社長!!」
ゴギャアッッ!! と、アルが先程までいた場所が頭突きによって砕ける。誰もが青ざめる中、咄嗟にアルを突き飛ばしたカヨコは、最も恐れていたことが起きたと内心泣きそうになっていた。
分かっていた。分かっていたはずなのだ。シンのストレスの根っこに、便利屋68のことがあるということを。
(なのに、私は……私達は……)
アルの弟、ということで何となくアルのように寛容であると決め付けていたのだ。頭突きは喰らうし、説教をされることも許容していたが、彼の優しさに心のどこかで甘えていた。
その結果どうだ? シンの角は宝石のように輝いていた角ではなく、殺意を体現するが如く禍々しい形状になっている。血走るどころか、どす黒く染まった目は瞳孔が開き切っており、鋭い歯はお前達の喉笛を噛み千切ってやると言わんばかりにギチギチと音を鳴らしている。
血管が切れ、脆くなっていた肌が裂けて血が出ては、再生して塞がり、乾燥して黒くなったり、血で赤くなったりを繰り返す彼の姿は、人間の形をした魔王と呼ぶにふさわしい。
そして、そんな怪物を目の当たりにした傭兵達はというと────
「に、逃げるんだァ……!」
「勝てるわけがないよ……!」
「撤退せよぉおおおおお!!?」
恐怖で上手く動かない身体をどうにかして動かしながら逃走を図っていた。どれだけ金を積まれようと────値切られてはいるが────あんな怪物とドンパチするなどしない。してたまるか。
命あっての物種だと言わんばかりの、蜘蛛の子を散らしたような騒ぎで逃げ出していく傭兵達を引き留めようとする程、便利屋68は、陸八魔アルは余裕がなかった。ハルカは復帰しようとモゾモゾ動いているが、脳が回復していないのか、生物としての本能が動くと殺されるぞと叫んでいるのか、その場を離れないでいる。
そんな時だった。一瞬だけシンから目を逸らして呆然としているアビドス高校の面々を見たムツキとカヨコが、巨大な腕に掴まれ────
((あ、これ死ん────))
「ああああああああああ!!!!!!」
「へ────ぐぎゅうっ!!!?」
地面が削れる勢いで引きずられ、アルのいる方向に投げ飛ばされた。
言語を失っても若干理性が残っているのか、ヘイローが点滅する程度に留められているのは、シンの人間性の発露である。いたずらに暴力を振るう獣とは違うのだ。今のシンは獣だが。
『全装甲、右腕に接続。ジェネレーター出力再上昇。出力最大、オーバーロード。
とどめと言わんばかりに両手両足を組み合わせ、巨大な鉄槌を生み出したシンは、恐怖で失禁しているアルにその鉄槌を────
「────────」
『No.35
『No.61
『ソロモンより二機へ。マスター陸八魔シンの生命維持を最優先に行動せよ』
振り下ろす前に、血を吐いて倒れる。禍々しい角も砕け散り、血が流れた。
鉄槌は持ち主の意識が消えたことにより生命維持を優先。分離し、生物の姿を取り、停車していたソロモンに搭載されている【No.10
『ソロモンからアビドス高校へ。マスター陸八魔シンの指示により、九千万クレジットを慰謝料として支払う。足りない場合は、後日送信する番号へ連絡を』
車が喋ったことに驚く暇もなく、ソロモンは法定速度ギリギリで走り出す。目指すはミレニアムサイエンススクール自治区に建設された大型病院。便利屋68と陸八魔シンの久しぶりの邂逅はこうして、どちらにも利の無い状態で終わった。
歴戦王ネルギガンテのBGM聴きながらやってたらこうなりました。便利屋68はアビドス高校に捕まりました。恐らく病院に見舞いには行くでしょう。間違いなく頭突きを喰らいますが。
理性無き陸八魔シン、悉くを滅ぼす鏖魔シンはモンハンに例えると、常に怒り状態、全身の肉質90~150の柔らかモンスターだけど全く怯まないし攻撃したら何倍にもして返してくるし、やたらと速い理不尽モンスターです。
体力は雑魚です。8900程度しかありません。余裕ですね。余裕でヒナ委員長とかネルとかツルギとかに負けます。そもそもこの状態になることが稀です。三年に一回あるかないかです。普通なら。