ナニカサレタ生徒の顛末   作:影のビツケンヌ

11 / 15
役立たずめ……

「お偉方が言うには、カイザーの切り崩しを図る工作なんだとさ。いち早く不正を掴んで白日の下に曝しどうのこうのって」

『詭弁だな。真の狙いはムラクモの技術とノウハウを接収すること、違うか?』

「さてね。俺達は一兵卒、大した情報も貰っちゃいない。知る必要(Need to know)の原則って奴だ」

『どの道ここで得たものは全て廃棄だ。シャーレを甘く見ればカイザーの二の舞だぞ』

「ご忠告どうも。というかアミダ博士よ、あんたカイザーの社員だろ? いいのかよ、シャーレに味方なんかして」

『俺はシャーレの味方をやってるんじゃない。ムラクモの敵をやってるんだ』

「拗らせてんなあほんと……」

 

 そのどちらの本来の気質か、案外腹を割った兵士とアミダの会話を聞きながら、先生ら一行はトンネルの奥にある終着点に辿り着いた。地下鉄に似たプラットフォームの奥に、車両基地と思しき巨大なシャッターが聳え、その脇に煤けたオレンジ色の物資搬入口がある。周囲にはシュナイダーの兵士達が集まり、撤収作業に取り掛かろうとしているようだった。

 

「“……アロナ、プラナ。彼らが研究データか何か持ち帰ろうとしてないか、調べられる?”」

『『お任せください!』』

 

 アミダの高圧的な説得があったとはいえ、事が穏便に進み過ぎている。先生はシュナイダーの、これまで対峙してきた大人とは異なる異様な聞き分けの良さを薄気味悪く感じていた。杞憂であることを祈りつつ、静かにハッキングの指示を出す。或いは自分の方が、キヴォトスの気質に毒されて疑心暗鬼に陥っているのか――そんな内省を、ハスミの強張った囁きが遮った。

 

「気を付けてください先生。あのオオトカゲ、ヴェスパーです」

 

 見れば、装甲車両の陰に隠れるような場所で、滑らかなボディアーマーを身に着けた二足歩行のオオトカゲが、長い尻尾を揺らしながら立っていた。彼または彼女は、こちらからは見えない位置にいる何者かと会話しているようだった。

 

「“ヴェスパー?”」

「アーキバスの戦闘部隊に於けるエリート中のエリートです。彼はその中でも『番号付き』と呼ばれる八人の隊長の一人、Ⅴ.Ⅷ(ヴェスパーエイト) ペイター。輜重部門補佐官兼傭兵起用担当ですが、実力は侮れません。私でも勝てるかどうかは五分五分でしょう」

「“なるほど……じゃあ、彼がこの部隊の責任者なのかな”」

 

 スミカとシオ、企業の傭兵起用担当を務める二人の生徒を先に知った後では、本来大人が務めるものであろうその役職に就いているのが人間でないことに違和感を覚えてしまい、先生は内心苦笑した。同時に、ペイターと呼ばれたそのオオトカゲが、正実のナンバーツーたるハスミをも警戒させる程の実力者であるという情報は、先生の心に一抹の不安をもたらした――彼と同等かそれ以上の単体戦力を、アーキバスはあと七人も抱えている。

 何にせよ、シャーレがすることは変わらない。先生は先頭に立ってペイターへと近付いていく。トンネル内に響く兵士達の慌ただしい雑音に紛れていた会話の内容が、彼にも次第にはっきりと聞こえてきた。

 

「……私個人としても、この作戦が軽挙妄動なのは認めています。シュナイダーも親会社の横暴にはほとほと弱っているでしょう」

『な、なんというか……お疲れ様です。アーキバスって思ったより、その……ブラックって感じなんですね……?』

「ええ、第二隊長閣下も日々胃を痛めていますよ」

『あの人意外と苦労してるんだなあ……って、せ、先生!? どうしてそちらに?!』

 

 聞き覚えのある声。というより、つい先程思い浮かべたばかりの人物の声。果たしてホログラムに映し出されていた通信相手は、三日前にシャーレで会ったばかりのスミカだった。その時同席していたツルギの視線が鋭くなるのを尻目に、先生は「“やあスミカ、三日ぶりだね”」と努めて明るく振舞う。

 

「通信中で失礼します。アーキバスグループ傭兵起用担当、Ⅴ.Ⅷ ペイターです。以後お見知りおきを」

「“シャーレの顧問先生です。知己を得て光栄だ”」

 

 指抜きグローブで覆われた斑模様の彼の手と握手を交わす。後ろで睨みを利かせる生徒達を除けば、あくまで平和的なファーストコンタクト。これもキヴォトスでは珍しい体験だったが、無駄な争いが起こらないに越したことはない。

 

「“私達シャーレは、ムラクモ=ウェンズデイに対する強制監査の為に来ました。あなた方はここで何を?”」

『せ、説明させてください、先生。ファーロンのおじさまには、シュナイダー、エルカノ、BAWSの三社とパイプがあるんです。そこでツネコさんについて話した内容が、アーキバス本社の上層部に余計なヒントを与えてしまったみたいで……ペイターさんを筆頭に、シュナイダーの部隊がそちらの研究施設へと派遣されたんです』

「事前調査で得た情報を基に、施設を制圧し我が社の利益になるものを持ち帰るのが任務でした。上層部はリスクを理解していません。正直なところ、ここであなたと会えたのは幸運でした。シャーレが相手なら、仕事を切り上げる言い訳も立ちます」

 

 先生の(少なくとも表面上は)穏やかな問いに、スミカとペイターが並んで答える。前者の回答からは申し訳なさと衝突を避けようとする意図が、後者の回答からは無自覚な無遠慮と共感性の希薄さが滲んでいたが、どちらもシャーレに歯向かうつもりがないというのは確かだった。

 

「“現在、ムラクモ=ウェンズデイには、詐欺、背任、私文書偽造、偽計業務妨害の他、違法な人体実験に関与していた疑いが持たれています。この場にいたあなた方にも、捜査に協力していただきますが、よろしいですね?”」

「了解しました……こちらⅤ.Ⅷ ペイター。回収部隊各員に通達します。現時点を以って、入手した現物資料の権利をシャーレへと移行、録画映像はシャーレの検閲後全て消去・廃棄してください。突入部隊は護衛チームを組織、シャーレの先生及び派遣部隊に同道すること」

『……解析完了。強化人間手術に関わる情報は、録画映像及びシュナイダーが回収したデータには存在しませんでした』

『紙の資料も持っていたなんて、抜け目ないですね……先生が来なかったら、全部アーキバスのものにするつもりだったんでしょうか……』

 

 シャーレに遭遇した時点で損益分岐点を割ったと看做し、損切に動いているようにも見える判断と行動の迅速さ。追い詰められても尚抵抗することの多い、いわば‘往生際の悪い’これまでの敵とは違ったしたたかさを、先生は末恐ろしく思った。解析を終えたアロナ達も同意見のようだ。

 そして何より、ツネコ達を地獄の苦しみに陥れた強化人間という悪魔の技術が、ムラクモの手から離れて拡散しかけていたことに、先生は背筋が寒くなった。ペイターの言う‘リスク’という言葉が、健全な企業倫理の発露ではなく、シャーレの影響力への懸念でしかない可能性を排除しきれなかったからだ。アミダの推測通り、こちらが動く可能性を予見しての、アーキバス上層部の拙速な指示だったのなら猶更である。

 

「“……それで、スミカ。ここからの調査なんだけど……”」

『あ……はい。わかって、います。知らない方がいいですよね。報告しなければいけなくなるので……』

「“ごめんね、ありがとう。落ち着いたら、ツネコに会ってお話しよう”」

 

 形式上部外者であるスミカの同行はここで断っておく。友達思いな彼女ならば報告をごまかしてくれるかもしれないという期待はあったが、企業の人間としての彼女の立場を守る為にも「知らない」ことが肝要である。「失礼します」と通信を切るスミカを見送るツルギの視線は、先生にはどこか気遣わしげに、且つ名残惜しそうに見えた。

 

「“……行くよ、皆”」

 

 本来の目的を果たすべく、一行は数人の兵士達を伴い研究施設の内部へと足を進める。

 赤色灯で照らされた搬入口は、巨大な怪物が口を開けて待ち構えているようだった。

 

 

 

 

 

「妙に静かだな。人の気配というか、生活感がねえ」

「ここでの戦闘で、ムラクモの人員とは接触していない。自動防衛システムが働いただけで、それ以外の抵抗はなかった。そのお陰で予定より早く片付いたがな」

「なんだそりゃ……こちとら仕事は空き巣じゃねーっての」

 

 ガンタレットや自走機銃ドローンの残骸が転がる施設内は、不気味な静寂に包まれていた。B級SFホラーなら今にも敵が飛び出してきそうな中を、シュナイダーの兵士達の先導で、監査部隊はぴりつきながらも危なげなく進んでいく。安全確保がほぼ為されているおかげで、先生は普段より積極的に生徒達より前に立てた。

 私物一つ残っていない居住区を後にし、独房の並ぶエリアを通り過ぎる。どこもかしこも妙に清潔そうなのは、壁面を迷走する清掃ロボットのせいか。人員の退避と最低限の証拠隠滅を優先し、オートメーションシステムには手を付けなかったようだ。

 

「……ここが何なのか、本当にお前達は知らずに来たのか」

「当然知らない……が、まあ、推測くらいはできるさ。大方過激な実験でもやってたんだろ、カイザー本社からも見放されるようなレベルの。どうせろくなもんじゃないし、知りたくもないね」

「……それを確かめるのが、今の私達の仕事だ」

 

 道中にあった手術室らしき部屋は、敢えて少し覗くだけでスルーした――ムラクモの‘やったこと’など、ツネコの例で嫌と言う程知れている。独房という人を監禁するスペースが幾つもあったことからして、ツネコの他に被検体がいることは間違いない。問題は、それらの()()()()()()を、ムラクモがどこに隠しているのかということ。手術台が残されているならば、同様に()()()()()()()()は運び出さなかった可能性が高いのだ。

 最終的に辿り着いたドアの脇には、二人の兵士が待機していた。

 

「この部屋だけは、まだ中を見ていない。セキュリティロックがかかっているのもそうだが、入る前にお前さんらが来てドアブリーチでの突入は中止された」

『私が解錠しましょう。皆さんは準備を』

 

 ヒマリのドローンが接続端子の付いたアームを伸ばし、システムに侵入。ホシノをポイントマンとした隊列に兵士達も先生を囲んでぴったりと付き添い、閉所での戦闘に備える。小気味よい電子音と共に開いたドアのすぐ先には、もう一つドアがあった。

 

「……風除室、でしょうか?」

『後ろのドアが閉じないと前のドアは開かんだろう。トラップの類は?』

『ありませんね。レーザーでバラバラにされたりはしなさそうですよ』

『だそうだ、さっさと全員入れ』

 

 アミダに促されて小部屋の中に詰め込むように入ると、背後のドアが閉まり、数秒の間を空けて前方のドアが開く。同時に流れ込んでくる身を切るが如き寒気――エアロックが必要だったのは、向こうの部屋が冷蔵室或いは冷凍室だからだったようだ。

 

「鬼が出るか蛇が出るか……だね」

「“……”」

 

 この時点で、先生は嫌な予感がしてならなかった。冷やして保管する必要のあるものが、この場に於いてただの食料品や医薬品だとは到底思えなかったのである。

 足を踏み入れた先の暗闇には、緑色の小さなランプが等間隔に並んでいた。目が慣れてくると、それが図書館の閉架書庫にあるような移動式の棚のようなものであることがわかる。ただしそれは、一架の幅が三メートル弱、高さに至っては五メートル強もある巨大な棚の群れであった。

 

『おや、端末がありますね。アクセスしてみましょうか』

 

 部屋の入口側の壁際に設置されたマウスとキーボード付きの端末は、電源が付いたままだった。ヒマリのドローンは再びシステムに侵入し、こともなげに棚の操作権限を掌握する。続けてそこに何が収められているのかを確認しようとしたが、

 

『……!?』

 

 通信越しにヒマリが息を呑むのが先生にもわかった――彼にはそれが、悲鳴を上げそうになったのを直前で堪えたようにも聞こえた。『皆さん……少しこちらへ』とヒマリが皆を呼ぶ声も、明らかに震えている。

 

「どうした?」

『この番号の並び……もしや……』

 

 只事でない様子を察したらしきネルが、一番乗りで端末の前に立ち画面を覗き込む。生徒ばかりでなくシュナイダーの兵士までもが(流石に彼ら全員ではないにせよ)次々集まって、さほど大きくもない画面にに齧り付く恰好になった。ヒマリの遠隔操作で画面が遷移し、アルファベット二文字と三桁のアラビア数字で構成されたコードが無数に並ぶウィンドウが展開、そのまま下方にスクロール。

 

『……ありました』

「Tr024……? どういうこと?」

「ま、待ってください。たしかこの文字列、どこかで……」

 

 ある文字列が出現したところでスクロールが停止した。横から出てきたカーソルがそれを青くマークアップする。ホシノがそれに疑問を呈する一方で、ハスミは記憶を必死に掘り起こそうとしていた。

 

「……あのなあヒマリ、こんなの見せられたって意味ねえだろ。あたしらはもっと確実な生の証拠を探しに来て――」

 

 先生もそれに覚えがあった気がしたが、思考がネルの文句と行動に邪魔された。

 彼女の指がたまたま、マークアップされたその三つ下の文字列に触れた瞬間、画面に「呼び出し中」と書かれたポップアップが出現し、部屋の静けさがけたたましいブザー音に破られる。天井の黄色い回転灯はサーチライトの如く暗がりを明るく照らし、ゴウンゴウンと音を立てて棚が左右に移動し道を作った。

 

「……あ、あたしのせいかよ?!」

『今回は目を瞑る。全く紛らわしい、何故タッチパネルにマウスとキーボードなぞ用意しているんだ……』

 

 一瞬身構えたホシノとツルギにじろりと横目で見られ、珍しくたじろぐ――多少は悪いと思っているらしい――ネルを、アミダが結果的に庇う形になる。ブザーが鳴り止んでも数秒程度回転灯と棚は動き続け、ガチャンというロック音と共に停止。小さな脱気音と何かの動きを、暗い道の奥に先生は確かに認めた。

 一歩一歩、踏みしめるように先生は歩いた。心臓がバクバクと激しく鼓動し、耳の奥が痛くなって、生徒達に気を配る余裕がない。何の指示やお願いもせずについてきてくれていることがありがたく、そして危うくも思った。

 

「“これは……?”」

「先生、フラッシュライトだ。使ってくれ」

「“ありがとう”」

 

 棚から引き出しのように出てきたものの正体を、先生はすぐには量りかねた。兵士の一人から渡されたフラッシュライトで照らすことで、それがようやく半透明なラップで梱包された何かだということがわかった位だ。大きさはおよそ一五〇センチ程度で、『Ab001』と印字されたプラスチック製のタグが括り付けられている。

 タグを裏返して出てきた文面の意味を、先生の脳は理解することを拒んだ。

 

  『角山マサコ 出身地:アビドス 年齢:15 最終処理:XXXX/XX/XX』

  『神経ネットワーク構築完了。視覚及び運動機能との重大な齟齬あり』

  『神経接続過負荷による重篤な脳出血発生。死亡確認後廃棄せず凍結保存』

 

 いつの間にか近くに来ていたホシノの手が、先生からタグをひったくった。

 

「……アビドスって。十五歳って。じゃあ、これ、この……後輩って、こと?」

 

 ホシノのか細い声。彼女の視線がタグと目の前の物体との間で彷徨う。確かにそれは、全体として人の形をしているようにも見えた。

 

「この子……本当なら、アヤネちゃんやセリカちゃんと……一緒に入学する筈だった子の……」

「おい、おいおいちょっと待てよ。あたしが触ったのは――」

『Ab001だ』

「そうそれだよ、んでアビドスっつったか? ヒマリ、M()i()()()M()r()()()ってのはあんのか?」

『……あります。データ数十四……いえ、十四人分です』

「糞がッ!!」

 

 ガツンという轟音が部屋中に響き渡る。蹴りの威力で棚が倒壊しなかったのは、怒れるネルに残った一欠片の理性故か。

 

「……思い出しました。ツネコさんは、登録番号Tr024……つまり、ツネコさん以前に、少なくとも二十三人いたことになります。トリニティ出身の、被検体が……」

『そう、なります。最初の一人の‘最終処理’の記録は二年前……当時の年齢は、十七歳です』

「――ア゛アア゛ア゛アアアア゛アアあ゛ああああ゛ぁぁぁぁぁ゛ぁァァぁァァァァーーーーー……!! ふざけるなッ!! ふざけるなッ!! 馬鹿野郎ぁぁぁーーーーーッ!!」

 

 膝を突いたツルギの絶叫にも近い慟哭が、広く寒々しい冷凍室に空しく響く。ハスミの大きな翼はだらりと垂れ下がり、取り落とした銃を拾う気力もない様子だった。

 

『――知っていたんですか? ドクター・アミダ。知っていながら、私達にこんなものを……!』

『俺に責任を押し付けるな。正確な数や保管場所だってわかっていた訳じゃない』

『でも、こんな遺体が、あと九百人も存在するだなんて……!!』

『甘ったれるなよ小娘。これからもっと忙しくなるぞ』

 

 足元がぐらつくような感覚に襲われ、先生は僅かによろめいた。自分を囲む棚が、物言わぬプレッシャーを放って精神を蝕む。

 九百人、それがこの地下墓地めいた冷凍保管庫に納められた犠牲者の数。ホシノと彼女の過去を取り巻くアビドスでの一件で、自分が関わることもできずに命を散らした生徒の存在を意識したことはあったが、今回は規模と事情があまりにも違い過ぎる。タグに書かれた情報から推測すれば、こうして遺体が残っているだけでも僥倖かもしれない――‘廃棄’された者を暗数として数えるのは、最早考えることさえ悍ましい。

 

『先生、何をぼさっとしている。お前が保護者だろうが。早くデータを確認して各校自治区と連絡を取れ。シュナイダー、アーキバス本社の医療部門に話を付けろ。……死亡診断書がなければ葬儀もできん』

「りょ、了解……HQ、こちらアルファリーダー。大量の遺体を発見。医療スタッフの大規模派遣を要請する」

 

 同じ大人であるアミダがいてくれたことに、今日程感謝することはないだろう。先生は数回深呼吸して、それからスマートフォンをまだ若干震えの残る手で取りだした。

 

 

 

 

 

「AIと有意な差は認められんな。実験は失敗だ」

 

 くすんだ灰色をした全高四メートル弱の人型ロボットが、片膝を突くように擱座し、黒煙を噴き上げ炎上している。それをガラス越しに高みから見下ろしていたのは、上等な紺色のスーツの上から白衣を羽織った背の高いロボット。

 

「データは集まったとはいえ、やはり効率化が性急過ぎたようですね」

 

 そのすぐ隣にいた白衣姿の猫型獣人が、タブレット端末の画面を見ながらくいっと眼鏡を上げてみせる。対するロボットは独り言のように言葉を返した。

 

「……興味があったのだよ。無人機の時代を終わらせることさえ予感させた、山野ツネコとワイルドキャットの戦闘性能、その優位性がどこから来るのか。それを神秘などというオカルトめいた、凡人に演繹できぬ一握りの才能だけで済ませることは、我輩にはできんのだ」

「素晴らしいお考えです、社長」

 

 どこからか飛来した消火弾が、炎を上げるロボットに二つ三つとぶつかり、その勢いを弱めていく。機体回収用らしき大型トレーラーとクレーン車が現れ、周囲に人員が展開していくが、誰一人としてロボットのコックピットハッチを開こうとする者はいなかった。

 

「ファクトリーに伝達したまえ。次は()()()()()()()()を送るのだ」

「御意」

 

 猫が部屋から退出するまで、社長と呼ばれたその男は眼下の光景を見つめていた。パタン、と静かにドアが閉まると、懐からスマートフォンを取り出し、ノールックで操作して電話をかける。ワンコールで出てきた相手に、レストランで注文でもするかのように彼は告げた。

 

「第二次実地試験を開始しよう。Tr024の動きを注視しておきたまえ」

『周辺戦力への対応は?』

「この際それも利用してしまおう。シャーレの先生やあの男も巻き込めれば御の字だ」

『了解』

 

 そこで通話が終了しようとする気配を感じて、少し慌てたように「ああそれから」と社長は割り込む。窓から視線を外して背を向け、部屋の天井を見て僅かに逡巡した後、再び話し始めた。

 

「作戦開始時には我輩も遠隔で参加する。成果をこの目で見ておきたいのだよ。待っていてもどうせ暇だというのもあるがね」

『了解。改めて連絡致します』

 

 今度こそ通話が切られ、社長はスマートフォンを仕舞いながらもう一度窓の外を見遣る。消火剤にすっかり覆われて鎮火したロボットが、丁度荷台に載せられて運び出されようとしているところだった。

 

「――フンッ、役立たずめ……」

 

 吐き捨てるように呟いて、社長は部屋を後にした。

 エレベーターで最上階に向かい、『社長室』と書かれた札の吊るされたドアを無造作に開ける。広い部屋を一直線に窓際へ歩いていき、そこから見える景色を眺めながら、溜め息をつくように大きく排気した。

 

「実際、このベリウスという僻地では、顧客が取れる筈もないのだからな……」

 

 窓の外いっぱいに広がる夜空と海。辛うじて視界の端に映る、ハロゲンライトで照らされた消えかけのロゴマークは、BAWSのものだった。




長らくお待たせしました。もう一年経ったのにこの話数で完結もできていない。
もっとぐちゃぐちゃで血みどろなのを長文でお出ししようとしていたのに、結局はラップ巻きに逃げた無能はこの私、ビツケンヌです。何のために時間をかけたのやら…
最終処理のところにある日付XXXX/XX/XXは、自分がブルアカエアプ故正確な季節などを考察する体力が尽きてこんな形でぼかすことになりました。今後もこういうことがあるかもですがどうかいちいちこらえてください。

ペイター君がオオトカゲ型獣人になって登場しましたが、他のヴェスパーもキヴォトスナイズされています。ペイター君共々AC6の平行世界の同一人物という扱いです。どうせ本編では出す予定もないので(無慈悲)ここでどんな感じか書いておきます。

フロイト:トラ
スネイル:ハクトウワシ
オキーフ:ハシビロコウ
ラスティ:オオカミ
ホーキンス:カバ
メーテルリンク:アカシカ
スウィンバーン:ウサギ

現状大した設定もないので、この配役ももっといいものがあれば変わるかもしれません。登場するお話を書くならの話ですが…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。