『企業の命令を……いや……同胞達の遺志……障害を、排除する……』
「くく……フハハハハハハハハハ!! 最高のショーだと思わんかね?!」
「このッ、外道がああああああああ!!」
社長室に哄笑と怒声が響く。彼と彼女達とを隔てるそれを幾ら撃とうと殴ろうと、相手の姿が一瞬僅かに歪むばかりでびくともしなかった。
「無駄だよ。ベリウスの遺産にしてロストテクノロジー、相転移装甲だ。透明なガラスに見えるのはメタマテリアルコーティングのおかげさ」
「うるせえ!! ツネコに何をしやがった!?」
便利屋68を除く実働部隊一行は、立ち塞がる悉くを打ち砕いてプロフェッサー・ウェンズデイの元に辿り着いた。拠点に攻め込まれている危機的状況にも関わらず、ウェンズデイは古い革張りの椅子に足を組んで座り、プロジェクターで映し出したその悲劇を鑑賞していたのである。絶対的な安全が確保されているのをいいことに、彼は余裕のある態度を崩さない。
「量産型強化人間に施していた思考制御を『山野ツネコ』に応用できるかどうかのテスト、の筈だったが、結局は古典的な方法に頼ったよ。人間の心の硬い殻の中にある一番柔らかいところを、少し小突いてやっただけだ」
「洗脳と何が違うのですか! あんなロボットに乗せてまで――」
「ロボット? あの化け物ならあれの私物だよ。あの機体の襲撃で、制御システムのデータと遺伝子サンプルを失ってね、痛い損失だ……」
憤りに満ちたハスミの指摘がウェンズデイに否定され、生徒達の間に困惑の波紋が広がった。
あの純白の機体はムラクモが製造したものではなく、ツネコの持ち物だという。ワイルドキャットのレーザーブレードでも、あそこまで簡単に、しかも正確に、そして大規模に渡り廊下を寸断するような芸当は不可能だ――ワイルドキャットと実際に戦ったホシノにはわかっていた。絶望的なまでの性能差が、デッドコピーを作るに留まっていたムラクモとの技術格差を物語る。そんな機体を、ツネコは一体いつ用意したというのか。
「何だっていいわ。あなたはここで終わり。ムラクモもキヴォトスから消えることになる」
確かなのは――ウェンズデイの言葉が正しければだが――ツネコによる攻撃は一定の戦果を上げ、『山野ツネコのクローン』が生まれるのを未然に防いだということ。後はムラクモ側の人員を確保すれば、強化人間手術の技術流出も防止できるだろう。残る問題は、あの機体に乗ったツネコをどうやって止めるか。
だが、自社の切り札をそのオリジナルに水の泡にされた筈のウェンズデイ本人は、冷え切った目をしたヒナに自分と組織の破滅を告げられても、蛙の面に水だった。
「終わらんさ。我輩の代わり、ニールくんらは既にここを発った。我々がこれまで、BAWSから請け負った仕事もせずに、ただこの施設の改装だけに血道を上げていたとお思いか? 広大なベリウス地方に、一体どれだけの研究施設跡とジオフロントが残っているか知っているのかね? 強化人間の製造拠点こそ陥落したが、我々には知識と技術がある。連邦捜査部如きに我々は止められん」
失念していた。エラの見せた資料によれば、ムラクモがBAWSからの案件を請けてベリウス入りしたのは約四年前。そこから現在までの期間で、自社の研究だけでなく本来の仕事もこなしていたとしたら、それは彼らにも新たなアジトの候補地を探すという意味で利のあることだったに違いない。BAWSには過少報告して成果を独占し、研究を進めながらじっくりと場所を選ぶ、そういう腹積もりだったのだろう。ウェンズデイにしてみれば、その予定が早まっただけのこと――ホシノは自分の盾の裏側で歯軋りした。
「……この装甲は電力を使い過ぎる。予備電源の蓄電池が持つのも四十分程度、隔壁が開けば我輩はお縄だ……まあ、その頃には決着も付いていることだろう。ニールくんも遥か遠く、どこに向かったことやら。それまではこの茶番に付き合って貰おうか、生徒諸君」
腹立たしいのは、ニール達が逃げ延びることさえできれば、自分の無事は勘案していないウェンズデイの開き直りぶりだ。シャーレがプロフェッサー・ウェンズデイを主犯格として捕らえる必要があることを利用した、目的の為に自分を餌に使うことさえ厭わない厄介さ。知性を糧に狡猾どころか狂気にさえ至った、ムラクモという亡霊そのものがこの男。
ところが、この状況で笑ってみせたのがもう一人。
「うふ、うふふふふ……」
「す、スミカ、ちゃん……? 何で笑って……」
それはスミカだった。荒事に向いていなさそうに見える――見た目だけなら、美少女そのものであるミカやこの中で最も小柄なホシノもそうだが――スミカが自分達のチームに割り振られたのは、彼女の身を守る為だと思っていたが、何か重大な見落としをしていたのではないか。
ホシノはそこまで考えて、ふと気づいた。行きに彼女が背負っていた、大きなガンケースのようなものが消えていることに。
「――茶番はおかしいものでしょう?」
ピッ、という電子音。いつの間にかスミカの手に握られていたスイッチが、その細い親指で押し込まれ、何かの起動を伝える音。
耳が痛くなるような沈黙が一瞬だけ訪れ、そして装甲の向こう側で、社長室の天井に設けられたダクトのカバーが弾け飛んだ。
「なっ――」
続けてダクトから飛び込んできた何かが、呆気にとられたウェンズデイの頭上で炸裂し、
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁッ!!」
壁越しのホシノらを一瞬怯ませる程の、猛烈な閃光と爆音がウェンズデイを襲う。
ホシノが目を開けた頃には、壁の向こうのウェンズデイは床に倒れ伏していた。
「……ふう、やりましたねおじさま!」
『ハッハァーッ! ムラクモめ、我がファーロンのマイクロ飛翔体技術を甘く見たな! ダクトの中をタンデム飛行して命中させるくらい、我が社の製品には朝飯前なのだよ!』
スミカが喜色満面で通信を始めれば、ホログラムで映し出されたスーツ姿のタヌキも、ゲーム機のコントローラーのようなものを手にガッツポーズを決めている。彼女におじさまと呼ばれているということは、この人物がファーロン・ダイナミクスの社長・ユーティライネンなのだろう。
『よし、そして……今、ベリウスのハイウェイ跡を北上する不審な車両を、我が社のロケット推進自爆ドローンが撃破したところだ。どうだね、エラ社長。これでご満足いただけたかな?』
『……はいはい、わかったよ。あのクズ――ニールの回収が済んだら、今後についてゆっくり話そうじゃないか』
諸悪の根源が目の前で無力化され、周辺の問題も急転直下に解決しようとしている。その上彼らは、既に強制監査終了後を見据えているのだ。ホシノはスミカ以外のメンバーが自分同様に口をぽかんと開けていることに気付き、思わずすぐ隣のヒナと顔を見合わせた。
『ほら、何をぼさっとしてるんだい小娘ども。ここはあたしらが受け持つから、早く先生に加勢してやりな。……ツネコのこと、頼んだよ』
通信越しにエラに尻を叩かれて、ホシノは自分のするべきことを思い出した。
ファーロンとBAWSにとって、この作戦が成功裏に終わることは確定事項なのだ。それは企業の打算でもあり、先生と生徒達への信頼でもある。特にエラにとっては、夥しい数の犠牲者の血に染まったベリウスを禊ぎ、ツネコというある意味で最大の被害者に対する罪を贖う唯一の機会。
先生以外の大人(セリカのバイト先の大将を除く)は信用ならないと常々思っているホシノだったが、今回ばかりはその願いを叶えてやろうという気が沸き起こっていた――大切なものを、二度と失わせない為に。
「……行こう、皆。ツネコちゃんのところへ」
「“伏せて!”」
先生の合図で全員が頭を低くし、頭上を通り過ぎる巨大な光波に肝を冷やす。街路樹や街灯、フェンスやコンクリート壁まで伐採しながら拡散し消えていくそれは、避けきれなかった場合の自分達の末路を示しているようであった。
ツネコが乗って現れた、光波兵器で固めた謎の機体。その戦闘能力は、ツネコ自身の操縦技術も相まって脅威の一言に尽きた。
「“次、光波キャノン! タイミングをずらしてくるよ!”」
「ひいいぃッ! どうしてレーザーが追いかけてくるのよぉおおお!?」
エンジニア部との共同研究で遂に完成したらしき光波キャノンは、弾速と発射サイクルが改善され、誘導性能が強化されていた。先生の指揮を以ってしても回避するのがやっとである。
「“光波ライフル! チャージ……違う、速射だ!”」
「フェイントかけてくるの?! ツネコちゃんてばもしかしてドSぅ?!」
恐らく光波キャノンの技術がフィードバックされたのであろう右腕の光波ライフルは、チャージの有無によって速射弾とマルチロックホーミング弾の撃ち分けが可能なようだった。
「“光波ブレード! ハルカ避けて!!”」
「わあああっ!?」
「ハルカッ! 大丈夫?!」
「だ、大丈夫です! 服に少し掠っただけで……」
極め付けは左腕の光波ブレード。構造上直接斬り付けることは想定していないようだが、そこから発振・投射される‘飛ぶ斬撃’とでも云うべき光波の圧倒的な輝きは、機体に接近することさえ許さない。
先生は完全に攻めあぐねていた。ツネコを傷付けたくないのもそうだが、まずもって攻撃のチャンスすら掴めない。アル達が繰り出す散発的な攻撃も、ワイルドキャットが玩具に思える程の機動性で手品の如く躱しいなされてしまうのだ。背後に実験体の生徒達がいる以上、一旦退いて体勢を立て直すことも不可能。
「“背に腹か……アミダ、聞こえる?!”」
なりふり構ってはいられない。先生は生徒の為に大人に借りを作ることを覚悟した。
『ファンタズマはそっちにやれんぞ。コンバットシステムがフリーズしやがった。復旧までは……』
「“映像を送るから解析して!!”」
『おい、話は最後まで……なんだこいつは。まさか……』
いちいち了承を得ることももどかしく、シッテムの箱から得た敵の情報が(アロナとプラナの手で瞬時にまとめられて)アミダに送信される。ファンタズマのコックピットに座っているのだろうアミダは、文句を言いかけて止め、僅かな沈黙と打鍵音。次いで飛ばされたのは、聞いたこともないような彼の怒声だった。
『何だこの機体は!! ふざけているのか!!』
ムラクモの無能に対するそれをも超えた怒りの発露に、先生も冷や汗を禁じ得なかった。ワイルドキャットの開発者をここまで激昂させるかの機体――その理由の答え合わせは、すぐに行われることとなる。
『おいエンジニア部!! こんな設計思想をお前らは許したのか?! つい十時間前に俺の工場の稼働ログがあるぞ!!』
『こ、これは……!? 先生!! 早くツネコを止めてくれ!! このままじゃ、彼女は……!』
データが転送されたのであろうエンジニア部側の通信から、悲鳴じみたウタハの懇願が響く。絶望的な恐怖と悲嘆に満ち満ちた彼女の声音もまた、先生には耳慣れぬものだった。
「“落ち着いてウタハ! どうしたの?!”」
『……その機体は、ツネコが私達に黙って作ったものだ。コアボックスやモニターはおろか、擬似神経ネットワークの運動伝達やFCSの解像度すら、人間の搭乗を前提とした設計になっていない……ブースターのクイックブーストリロード性能に至っては、人間の耐G限界を全く考慮に入れていないんだ!! こんな機体に乗っていたら、幾らツネコだって命が幾つあっても足りない!!』
『登録されている機体名は『エフェメラ』。短命なもの、転じて使い捨ての印刷物を意味する語だ。強化人間の抹消、拡大自殺の為だけに作られた呪いの落とし子か、本当に笑えない冗談だクソが!!』
戦闘中だというのに、先生は立ち眩みを起こしかけた。ツネコが作り上げた人型兵器は、強化人間の生き残りのみならず、情報的・物理的バックファイアによって己の命さえもこの世から消し飛ばす為の処刑台だったのだ。
ツネコを苦しめる悪意によって生まれ、ツネコを助ける善意によって完成し、そして乗り手諸共死んでいく、誰も望まなかった最悪の成果物。美しくも悍ましく完成されているのに、その全てが壊して壊れることを目的とした、カゲロウの如く儚いモノ。自らが消えることを安いコストとして世界に強要し、命を利用し尽くしてゴミにする究極の無駄遣い。特攻しないだけの特攻兵器。鋼鉄の死装束。それを形容し得るあらゆる言葉が全て、ツネコが自ら銘した『エフェメラ』という名に集約されていた。
行く手に立ち塞がる絶望的な末路――それを打ち破らんと声を上げたのは、アルだった。
「何か……何か弱点はないの?!」
『駆動系周りのシステムがワイルドキャットから流用されている。機体が軽量な分残留衝撃の処理能力は向上しているだろうが、ACSの負荷限界閾値はむしろ低くなっている筈だ!』
「つ、つまり……どういうこと?!」
『
“当てられさえすれば”。それがエフェメラを相手にどれ程困難なことか、口にしている本人にもわかろうというもの。故にか、彼は先生が口を開くよりも早く、一切の油断も容赦もなく策を詰めていく。
『ヴェリタス! 機体のシステムに侵入できるか?!』
『……ダメ。さっきから試してはいるけど反応自体がない。完全にスタンドアローンだよエフェメラは』
『道理でぶっこ抜きの癖にこっちから見つけられない訳だ……ならECMでも何でもいい、奴の目と耳を可能な限り塞げ! ……おい、ファーロンの使いっ走り!』
『え、わ、私ですか?!』
『今ファンタズマはまともに動かん。お前、レーザー目標指示装置を持っていたな? 周波数をこっちのミサイルのシーカーに合わせろ。一度に強い衝撃を叩き込めば隙だらけにできる』
『わかりました! 今用意します、お待ちを!』
『セミナーは補給シェルパに弾薬をありったけ積み込んでこっちに送れ! 代金はシャーレにツケておけばいい!』
『何を勝手に命令を――いえ、わかりました。すぐに手配します!』
通信を聞きながら、シッテムの箱の表示を頼りになんとか自分と生徒達をエフェメラの攻撃から回避させていた先生にも、アミダは助言と指示を出した。
『先生、よく聞け……ワイルドキャットとエフェメラには、共通する弱点がある。ジェネレーターの余剰エネルギーを利用するクイックブーストは、エネルギーゲインによって単位時間あたりの発動回数に限りがあること、そしてブースター配置とACSベクトル制御の都合上、機体の鉛直向きに対して垂直方向にしかブースターを噴かせないことだ。とにかく撃ちまくって回避方向を誘導し、山野ツネコにクイックブーストを使わせろ。容量がゼロになれば機動性は大きく下がる……その隙にLGM数十発を直上から浴びせてスタッガー状態に追い込む。後はどうとでも料理してやれ!』
お膳立てともとれるアミダの言葉に、先生は感謝と同時に納得していた。その桁違いの機動性に惑わされて見落としていたが、確かにエフェメラのクイックブーストはワイルドキャットと似た挙動をしている。そればかりかよく観察すれば、ブースターの噴射時間自体も短いらしく、一度のクイックブーストで移動できる距離はワイルドキャットより短くなっているようだ。
「先生っ!!」
プロフェッサー・ウェンズデイの無力化に成功した別動隊(アミダにレーザー誘導を指示されたスミカを除く)も集まってくる。これだけの頼もしい力添えがあるなら、先生も百人力だった。
本当なら、全ての責任は自分にある筈なのだ。環境と安全の確保に拘泥し、過度な配慮で核心に踏み込もうとせず、周囲の生徒達に解決を任せて希望的観測に頼り過ぎていた、自分の責任。だからこそ、ここでツネコとの対話の機会を失う訳にはいかない。先生は今一度覚悟を持って、ワイルドキャットとの戦いを思い出しながら再び指揮を始める。
全体的な機体性能自体は然程大きく引き上げられている訳ではない。ジェネレーターの補充遅延の改善を除けば、装甲と安定性、パイロット保護に必要な性能の多くとトレードオフに、機動性と火力を手に入れているに過ぎない。それが、先生指揮下の連合部隊を相手に露呈しつつあった。
ホシノの盾が迫る光波を受け止め、その陰からヒナとムツキが濃密な弾幕を展開。
崩壊した渡り廊下の残骸をミカが投擲・設置して、即席の遮蔽物兼障害物を形成。
ツルギとハルカがショットガンでヒットアンドアウェイを繰り返し、ネルが鎖を巻き付けて機体に貼り付き接射。
アルとハスミは後方から遅発炸裂弾と徹甲弾で容赦なく狙撃。
カヨコとスミカの姿が見えない――強化人間の生き残り達を退避させてしまったようだ。
完璧な、あまりにも完璧な連携だった。光波ライフルと光波キャノンでマルチロックバーストを仕掛けようが、光波ブレードで薙ぎ払おうが、ブーストキックで蹴り飛ばそうが、常にその動きの先にこちらのACS負荷を蓄積させるような攻撃が待ち構えている。それをジャンプやクイックブーストで回避しようにも、ジェネレーターのEN容量をギリギリで回さねばならず、許容せざるを得ない被弾と消耗が増えるばかり。まさに先生の思うつぼだ。
「……っ」
ジェネレーター容量枯渇。先程から照射を逃れ続けてきた誘導レーザーに、遂に捕捉されてしまった。直後に降り注ぐミサイルの雨。
「……だが」
ACS負荷限界。全員が遮蔽から飛び出し、一斉に攻撃を仕掛けてくる。それは丁度、生徒達が機体の前方に集まっている状態だった。
「終わる訳にはいかない……」
「“皆逃げ――”」
先生の指示は間に合わなかった。
エフェメラの後背部に現れた、光背を模ったようなパーツ。直後、前方に指向された強烈な光。呑み込まれた十人の生徒は、その一度の攻撃に耐えることさえ叶わず、地に倒れ伏した。盾の陰に身を隠すことができたホシノでさえ、上体を起こすのがやっとである。
『アサルトキャノンだと……?! そうまでして強化人間を滅するとほざくか……!!』
「ツネコさん……皆……」
工廠の屋上でスミカは立ち尽くしていた。自身が誘導したファンタズマのミサイル、それによって得た優位は一瞬で覆されてしまった。固定挙動での強制キャリブレーションでスタッガー状態から抜け出したエフェメラは、早くもバックブーストで距離を取りつつ、光波ライフルのチャージを始めている。
『一度、生まれたものは……そう簡単には……死なない……火種から、消さなければ……』
「“ツネコ!!”」
キヴォトスでも最強と謳われる各学園のトップランカー。先生の指揮のもと、寸分の狂いもない連携を見せていた彼女らが、青白く無慈悲な光条の標的として為す術もなく狙われている。それを庇うように物陰から飛び出し立ち塞がった先生も、ただ冷徹にその対象の一つとして加えられた。
『強化人間が、いなくなれば……私達の……仕事は、終わる……私のことは、忘れて……普通の人生を……』
スミカは理解してしまった。ツネコには、助かる気など毛頭ないのだと。
ムラクモ=ウェンズデイという諸悪の根源を、強化人間という悪夢の果実を、己の命諸共焼き滅ぼし、全てをゼロに還す。争いながらも自分なりの平穏を享受してキヴォトスに生きる者達のために、
「わ……私が……私のせいだ……!」
自責の念に駆られ、スミカは制服の胸元を引きちぎらんばかりに握りしめた。そもそもをして、自分がツネコに戦う理由を与え続けていたからこんなことになったのではないか。
新米の傭兵起用担当だった、一年生のあの頃。素人丸出しで誰も相手にしてくれなかった中で、初めて依頼を受け取ってくれたのが、正義実現委員会の制服を着崩したツネコだった。
“ふーん、ファーロンがね……うん、いいよ。乗った”
クールな振舞いと放埓さ、義理堅さを並立させる独特な気風を纏う当時のツネコは、今にして思えば、常に戦う理由を探していたように思う。そんな彼女に、自分は甘えてしまったのだ。戦うたびに強くなり、名声を上げ、更にハイリスクハイリターンな依頼が舞い込む彼女に、ファーロンもまた価値を見出し、その依頼を自分は次々に斡旋した。出会った当時、ツネコがまだ駆け出しだったことも考慮すれば、ツネコが戦いの渦中に居続ける構造の発端を生み出してしまったのは、まさに自分だ。そしてそれが、ツネコがニールの卑劣な罠に嵌まる最悪の未来への第一歩だった。
この上、今や自分はBAWS第二工廠の屋上から、ツネコが最後に選んだ「死ぬための戦い」を見下ろすことしかできずにいる。
「やめて……やめてください……ツネコさん……!」
スミカは肺の奥から必死に絞り出そうとしたが、掠れて声が出なかった。全てを破壊し尽くす頃には、ツネコはコックピットの中で物言わぬ肉塊に成り果てていることだろう。絶望と無力感が、スミカの胸郭を押し潰す。
だが、零れ落ちた涙で歪むスミカの視界の中で、エフェメラは唐突に光波ライフルのチャージを中断しつつ、横向きにクイックブーストを噴かした。
「……ぇ――」
その瞬間、エフェメラの立っていた場所に何かが超高速で着弾し、巨大な振動と爆風を巻き起こす。何が起きたのかスミカが理解する間もなく、上空から飛来した影が工廠の敷地に降り立った。
スレートグレイと蛍光ブルーの人型。右手にアサルトライフル、左前腕にレーザーブレード。背負っているのは軽量ガトリングキャノン、そしてレールガン――スミカは与り知らぬことだが、そのレールガンの銘は『光の剣:スーパーノヴァ』といった。
『間に合いました! 勇者アリス、パーティーのピンチに遠隔操作で参上です! ツネコ、メカカスタマイズアクションで対戦しましょう!』
大変長らくお待たせしました。
使いたいセリフはかなり前から準備していましたが、投稿までに結局こんなに時間がかかってしまいました。分割におけるシーンの締め方もかなり迷った末、エンディング(及び次章)に向けた伏線をより早い段階で回収する方針に変更したのが、今回のラストシーンになります。
さて、2Pカラーのワイルドキャット(withスーパーノヴァ)を操るアリスの登場で、ハッピーエンドの足音が聞こえてきたのではないでしょうか?(自画自賛)
ここからクライマックスへと加速して参ります。乞うご期待!
なんということでしょう万魔殿夏イベで小森スミカというキャラクターが出てしまいました(涙)流鏑馬スミカと名前が被ってしまいましたが、変えるべきでしょうか?
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変えるべき
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変えなくていい
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完結までにツネコも被ったら変えればいい
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それよりはよ完結させろ