ギャルとブレンパワード   作:vespa MDRN

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話せばきっとわかってくれるわ

 依然としてオルファンは飛び上がる様子を見せず、大地を耕しながら這うのみだ。だからと言って彼女が空へ舞う意思を待たないとは限らない。タイミングを見計らっているのか、それとも誰かに止めて欲しいのか。その答えは誰にも分からない……。

 オルファン内部はアメリカ軍の参入で見違えるように効率化している。最新設備によるバイタルチェックが可能になり、他にもグランチャーの管理や配置が一新されていた。これらはリクレイマー達にも好評でアメリカ軍は彼らに快く受け入れられたのだった。

 

「バロン・マクシミリアンにはもう会ったか?」

 

 テッドが向かいに座っている仮面の女に問うが「いや……」と、らしくもない小声で答えてくる。顔色が伺えない相手の機嫌など取れやしない。そう思ったテッドは話を続けた。

 

「同じ仮面の者同士だ、波長が合うと思うが」

「そうだろうな」

 

 素っ気ない態度を見るに彼女はバロンと会うのを避けているようだ。同じだからこそ反発し合うのだろうとテッドはある少女を思い浮かべた。職業柄、顔も知らない相手と戦うのは慣れてはいる。だが、ここまで敵が脳裏に刻まれたのは初めてだった。ライバル──と呼ぶべき存在なのかもしれない。

 

(倒せなくとも、かけられた泥は返さなければ)

 

 テッドはカップに注がれたコーヒーをゴクリと喉に流し込む。休憩時間はまだ終わっていないのに彼は席を立ち、グランチャーの格納庫へと足を向けた。一人カフェテラスに残されたクルーエル・ブレイズは小さく笑い、遠ざかる背を見つめた。

 

「君が依然言ったように、何事もタイミングが重要なのだよ……」

「ガバナー閣下がお見えになる、ウィーリス中尉?」

 

 一人のアメリカ軍士官がやって来たが一歩遅かったようだ。テッドはもう見えない場所へと消えている。士官は少し顔を歪めながらブレイズに声を掛けた。

 

「テッド・ウィーリス中尉を見かけませんでした……? 茶髪でハスキーな声の……」

「彼ならグランチャー格納庫へ飛んでったよ」

 

 それを聞いた士官は軽くお辞儀をし、そそくさとその場を去る。典型的な態度にブレイズはまた小さく微笑んだ。暫くしない内に彼女もマントを翻しながらカフェテラスを後にした。

 一方でテッドは格納庫でグランチャーの整備を行っていた。二度目に与えられたこの乗機もだいぶ馴染んできて、使い勝手が分かってきたところだ。

 

「右腕の火器管制に問題はないようだな……オーガニック・マシンなんて呼ばれているが、どの電子機器とも互換性が無いのは不便だな」

「そりゃあ、オーガニックだからさ」

「ジョナサンか……」

 

 コクピットハッチにずけずけと上がってきたのはジョナサンだった。その下にはバロン・マクシミリアンが待機している。

 

「俺がいない間はクインシィとグランチャー部隊をまとめてくれたのは感謝する。だが……」

 

 不敵な笑みでジョナサンは辺りをぐるりと見回した。彼の目にはアメリカ軍の設備やグランチャー、改装された甲板が映る。一周したところでもう一度テッドに顔を向けて口を開いた。

 

「こんなことになるなら、一言くらいは欲しかったですなぁ」

「俺だって知らされてなかった」

「本当だか……軍幹部のご子息でも知らされてないとは。どういう謂れなのでしょうかねぇ?」

「黙れっ!」

 

 頭に血が上ったテッドには反射的に拳を放つが、軽い身のこなしのジョナサンにはかすりもしない。二人の間には火花が散り、今にも取っ組み合いの喧嘩が起こりそうだ。今まで表立って対立することは無かったが、ジョナサンはバロン・ズゥを手にして自信をつけた様子。対してテッドは現状に焦りを感じるばかりで自信などつけようがない。そんな弱みにジョナサンは付け入ろうと考えているのかもしれない。

 

「ジョナサン! 二人の間に何があるのかは知らないが挑発も程々にしろ!」

 

 見かねた長身のバロンが割って入り、いがみ合う男らの壁となる。その体躯と異様に低い声はテッドに畏怖の念を抱かせた。クルーエル・ブレイズには出せないであろう気迫に気圧されたのだ。

 

「まぁいいさ。アメリカ軍とリクレイマー、優秀なのがどっちか……すぐにわかる」

 

 ジョナサンはそう言葉を残して踵を返す。いつものように胸ポケットに手を突っ込んでゆっくりと歩き出した。バロンもそれに続くかと思いきや、それを追うでもなく、テッドを見つめてこう言い放つ。

 

「クルーエル・ブレイズという女は信用するな」

「彼女を知っているのか?」

「……彼女は狡猾だ。深入りすれば手足のように使われるぞ」

 

 仮面に仮面を警戒しろと言われても滑稽にしか見えない。だがバロンの声色からして嘘は言っていないようにテッドは思えた。実際、ブレイズは協力するとは口で言っていても具体的な案や情報を自ら開示することは少ない。まるで学校の教師が生徒に問題を出すようなのだ。

 

「お前はジョナサンを手足のように使っていないと?」

「私がジョナサンの手足となるのだ。あの女とは違う」

 

 バロンはそれだけ言うとジョナサンの後を追う。これは偶然なのかブレイズとバロンもあまり関係が良くないようだ。神のいたずらともいえる状況にテッドは頭を抱えた。オルファンを牛耳る計画は遠ざかるばかりだ。

 

「……ウィーリス中尉?」

「何だ?」

 

 テッドが苛立ちながら返事をするので声を掛けてきたアメリカ軍人はびくっとした。ウィーリスの名が意味する重みを知っているからだ。

 

「ガバナー閣下がお越しになります。上部デッキへ集合とのことです……」

「分かった……すぐ行く」

 

 手をぶらぶらと振ってテッドは"下がっていい"と軍人に命令する。言われた通りにする軍人を彼は視界にも入れない。ウィーリスのという呪いはいつまでも付きまとってくることに彼はうんざりしていた。自分の努力すらも家柄だ血筋だと認識されてしまう。彼自信を見てくれた人は極めて少数。だから、どうにかして見返したかったのだ。テッドにはウィーリスの名など無くともやれるのだと。

 

「ガバナーだか何だか知らんが、俺の邪魔はさせないぞ……」

 

 眉間にしわを寄せた彼の顔は般若のようで、今にも角が生えてきそうな勢いだ。しかし冷静さは欠いておらず、身なりをビシッと直し、ガバナーの出迎えへと向かう。上部デッキへ上がると、そこにはアメリカ軍人やその軍楽隊のみならず、リクレイマーの幹部やパイロット達も集まっていた。そうして数分もしない内にタンデムローターのヘリコプターが着陸する。音楽隊は演奏を始め、ヘリの搭乗口からある人物が姿を現す。

 

「ガバナー・ゲイブリッジに、捧げェ~つつ!」

 

 その合図で武装したアメリカ軍人達は銃口を上へ向けた、それ以外の軍人は敬礼をする。勿論、テッドも右手を頭に持ってくるのだが、ガバナーと呼ばれた相手がノヴィス・ノア司令官だと知って驚愕した。

 

(あれはノヴィスの司令官じゃないか? どうしてガバナーと呼ばれている?)

 

 同じくその場に居合わせたジョナサンもガバナーの姿を目にした。以前、ノヴィス・ノアでゲイブリッジと遭遇していた彼も驚愕する……かに思えたがジョナサンは眉ひとつ動かさない。

 ゲイブリッジは伊佐未夫妻の元へ向かうとオルファンの状況について話し始める。その流れで彼はバロン・マクシミリアンに目をつけて声をかけた。

 

「バロン・マクシミリアン……」

「マクシミリアンです。宜しく御目文字の程を」

「進化したグランチャーには興味があります。研究させて頂きたいな」

「ジョナサンに任せております故、彼の許可を得て頂きたい」

 

 そう言うとゲイブリッジはすぐそばの金髪の青年へと目を向けた。

 

「ジョナサン・グレーン、一徹の気性には感銘を受けております。今後の働きには期待するぞ」

 

 ゲイブリッジが握手の一つでも、と手を差し出した。しかしジョナサンは不適な笑みを浮かべ「俺もガバナーのお手並みには期待するぜ」とだけ答えてその場を去っていく。残されたゲイブリッジとバロンは互いに意味ありげな仲良く高笑いを響かせた。

 

 

 

***

 

 

 

 一方、英理佳は勇とナッキィを連れてブレンパワードの捜索に出ていた。彼女らがノヴィス・ノアに戻った途端、カント・ブレンがヒメ・ブレンを巻き添えにしてバイタル・ネットに飛び乗ってしまったのだ。幸いネリー・ブレンの力で二人が飛んでいった場所付近へと向かうことができた。しかし待ち受けていたのはブレンパワードではなく、アメリカ軍のグランチャーだった。

 

「ん? 勇、英理佳、見えるか?」

「グランチャー三人か」

「あの色はアメリカ軍のだよ!」

 

 英理佳達三人のブレンに相対するように、アーミー・グランチャー三人が編隊を組んでいる。敵はすぐさま武器を構えて、今にもチャクラ光を放ちそうだ。

 

「俺にとっちゃ古巣が相手だ、手は抜かない!」

「そーゆーことなら! ウチも!」

「待て、今は比瑪達を探すのが先だ!」

 

 そう言っても聞かないのがアメリカ生まれの二人だと、勇は呆れながらも後を追う。チャクラ光が飛び交い、戦闘が開始された。双方ともアンチボディ戦に慣れており、決着はなかなか付かずに泥沼化する。戦闘域は次第に下がっていき、景色は青色から白色、最後には黄色になっていった。そうして地面が間近になったところで、ナッキィは横たわる二人のブレンを見つける。飴色のヒメ・ブレンと黄色のカント・ブレンだった。

 

「こんな所に居た」

「比瑪とカントのブレン?」

「二人とも無事っぽいよ」

 

 英理佳はブレンの傍にある二つの人影がコクピットに潜り込んだのを目にした。暫くしないうちに空を仰いでいたブレンは立ち上がり、先頭に参加する。

 

「せっかくのデートを邪魔しちゃったかな?」

「いえ、いいんですよ。収穫があったから」

 

 ナッキィが茶化すが天才少年カント・ケストナーには効果は今ひとつ。彼を動揺させることが出来るのは世界にもそういないのだろう。

 

「このままじゃ振り切れないよ、どうする!?」

 

 英理佳が群がるグランチャーをいなしながら、離陸するヒメ・ブレン達を援護する。相手が同じアメリカ軍とはいえ、流石にアメリカで戦ったように一対三を覆すという訳にはいかないようだ。油断も容赦もない。

 

「みんな合わせろ。コンセイトレイト! チャクラ・フラッシュ!」

 

 勇の掛け声でブレン達はチャクラ光を放つ。それらは束となり、やがてネットのように広がった。アーミー・グランチャーらはそれに引っかかり、パイロット諸共しびれをお見舞いされる。その隙にブレン達は雲の中へと姿を隠していった。

 

「なんとか片づけられたけど……」

「あんなコトができるブレンだったら、オルファンにも一泡吹かせれるんじゃない? ウチのブレンだって再リバイバル出来たんだから、同じような力を持ってるかも」

「そんな楽観的な」

 

 勇と英理佳がそう話しているとネリー・ブレンが顔を上げながら唸った。その先へとパイロット達が視線を映すと、はるか上空で編隊飛行をするグランチャー部隊が。それも一つや二つの部隊ではなく、五、六の編隊がV字に整列している。

 

「今度は団体さんか……」

「あんな数勝てる訳ないでしょ!」

「ノヴィス・ノアに戻ろう」

「さんせ~、バレない内にね」

 

 ナッキィ、比瑪、勇に続いて英理佳が思った事を口にしている中、一人だけは冷静に状況を整理していた。カントはアメリカ軍が大局的に考えていると仮定して、すぐ傍のブレンパワード達を攻撃するとは思えないと考えたのだ。その考えを共有していると、不意にノヴィス・ノアから通信が入った。

 

『緊急連絡! ブレン達、応答! 応答してください!』

「はいはーい、アイリーンさん。焦らなくてもいいってば」

 

 英理佳が気軽な態度で通信に出るが、向こう側は切羽詰まっているといった様子。心なしか通信もノイズ交じりで精度が低い。

 

『アメリカの太平洋艦隊がノヴィス・ノアを包囲しています』

「何でさ?」

『取り囲んで攻撃しようとしているんです』

 

 その言葉で一同は顔面蒼白、すぐに援護に行こうと、居ても立っても居られなくなる。

 

「そんなことさせません! 勇、ナッキィ、英理佳、カント、戻りましょう!」

『戻ってきてはダメ!! ──あなた達は生き延びて欲しいの。逃げなさい……』

 

 アイリーンの声はそこで途切れてしまう。もう一度、通信を試みてもノイズが走るだけだった。

 

「艦長の言う通りだな。あのグランチャー部隊はノヴィスに向かうんだ」

 

 ナッキィがそう言って空を仰いだ。彼の言う通りグランチャーは下のブレンには目もくれず、まっすぐノヴィスへの道を辿っている。こんな規模のグランチャー部隊に加え、アメリカ太平洋艦隊もあるのだ。交戦状態になったらノヴィスはひとたまりも無いだろう。ここにいるブレンのパイロット達はそれを分かっていた。

 

「勇、止めるだけなら……」

「出来ますよ、撃墜するんじゃないんだ」

「さっきのコンセントレイト・フラッシュってのでさ」

「ああ、あの痺れは堪えるからな」

 

 一同はアーミー・グランチャー部隊を止める流れに向かっていた。先程、ネリー・ブレンが放ったチャクラ光による撹乱攻撃に皆は可能性を感じていたからだ。

 

「さっきから考えていたんですけどね、僕らのブレン、オルファンから呼ばれてたんです」

「オルファンが? ウチらを?」

「アメリカ軍のグランチャー達はオルファンが望んでいない抗体なのかもしれません。だから僕たちを呼び寄せ、戦わせる」

 

 その推測にパイロット達は納得すると同時に、コクピットの機器が警報を鳴らした。上空のグランチャー部隊が迫ってきてるのだ。

 

「正解らしいな、カント・ケストナー君」

「まだ採点してもらってないのよ、ナッキィさん!」

 

 意気揚々とナッキィは敵の迎撃へと向かう。複数の閃光が瞬いたのを見た英理佳は敵の規模が今まで以上だと悟った。

 

「大丈夫、さっきの技なら!」

 

 エリカ・ブレンはいつでも例のチャクラ・フラッシュが撃てるよう、ネリー・ブレン、ヒメ・ブレンとくっついて行動する。しかし、先陣を切ったナッキィ、カント・ブレンは孤立しているようだ。

 

「ナッキィとカント君はどこ?」

 

 激しい攻撃に耐えながら二人の位置を英理佳は探る。ナッキィ・ブレンは苦戦しつつも、相手に着実とダメージを与えているが撃墜までは持っていけていない様子。一方でカント・ブレンは飛んでくるチャクラ光を避けるので精一杯だ。

 

「敵は戦い慣れてるよ! 勇、英理佳!」

「軍人だからな……。単独戦に持ち込まれた!?」

「みんな、ネリー・ブレンに合わせよ!! 比瑪、ナッキィ、カント君!!」

「分かったわ!」

「おう!」

「はい!」

「いくぞ! コンセントレイト──何だ?」

 

 ブレン達がチャクラ光を撃とうと武器を構えた途端、アーミー・グランチャーらが不可思議な行動を見せ始めた。その場でたじろいだり、同じ味方を攻撃したり、自滅したのだ。その異様な光景にブレンパワード隊は困惑するしかない。

 

「何だか分かんないけど、ウチらの勝ちってことだよね?」

「これもオルファンの思い通り……ってことなんだな」

「ええ、僕の仮説通りでしたね」

 

 グランチャーを取り巻く雲のような現象を目にしながら、英理佳、ナッキィ、カントは呟く。その三人が敵を看取っている間、比瑪と勇は彼らとは違うものを目にしているようだった。

 その後、ノヴィス・ノアに戻ろうにも戻れないブレンパワード隊は降下して木々に身を隠すことにした。そこで次の一手を練るべく、話し合いが繰り広げられる。その中で比瑪はオルファンに会いに行き、対話を試みるという案を出したのだった。

 

「私、オルファンに頼んでみるわ!」

「何を?」

 

 突飛な考えに勇は疑問を返し、カントは素っ頓狂な声で「ええ?」と目を見開く。 

 

「オルファンだって意志を持っているんだから、話せばきっとわかってくれるわ」

「あんな山──山脈そのものって奴に言葉が通じると思うのか?」

「そーそー、言葉が違うと言いたいことも言えないし」

 

 ナッキィと英理佳がもっともなことを口にした。しかし、ここにいるパイロット達はブレンパワードと心が通じ合っているのだ。オルファンとて例外では無いと比瑪は感じているのだろう。勇にはそれが分かっており「そうだ、比瑪なら出来るかもしれないんだ」と呟いた。それを聞いた比瑪はにっこり笑って「やるよ」と返す。

 

「おいおい、待てよ」

「ナッキィ、英理佳、カントは待機しててくれ。俺と比瑪でオルファンに近づいてみる」

「二人じゃ無茶だよ、アメリカ軍だっているんだし。ウチも行くよ」

「大丈夫さ。ネリー・ブレンも賛成してくれた。やってみる価値はある!」

 

 勇は力強い眼差しで答えた。それを見た英理佳は、彼がこんなに輝いた瞳を持っているのだと気付かされる。初めて会った時の彼からは想像もできない変わりようだった。

 

「わかりました。あなた達なら、きっと成功するでしょう」

「やれやれ……もう勝手にやってくれ」

 

 ナッキィが肩を竦めながら赤い前髪を揺らしたが、その顔に少しの笑みが見え隠れしている。彼も勇と比瑪のペースにはもう完全に慣れたようだ。

 

「じゃあ二人とも、気をつけてね……」

 

 コクピットに乗り込もうとする二人に英理佳は声をかけると「分かった」と勇が、「行ってくるね」と比瑪が答える。ネリー・ブレンとヒメ・ブレンは緑色の光輪を生み出して、空へと舞い上がった。

 

「絶対に、帰ってくるんだよ!!」

 

 吹き荒ぶ風の中、英理佳は飛んでいくブレン達に向かって叫んだ。聞こえていなくとも、思いは一緒に飛んでいくと彼女は信じているから。二人のブレンが点になるまで英理佳は見送り続けた。

 

「さて、これからどうしたものかねぇ」

「このまま身を潜めてもいいでしょうが、アメリカ軍の数からして見つかるのは時間の問題ですよ」

「だったらさ、ウチらで引きつけちゃおうよ。そうすれば比瑪と勇の邪魔はできない!」

 

 これは名案だと英理佳は、ふふん、と鼻を鳴らす。しかし、それを聞いた二人の反応はあまり良いとは言えなかった。ナッキィは顔をしかめ、カントは既に何かを言おうと口を開こうとしていた。

 

「確かに筋は通ってますね。ですが僕達が無事でいられるかは別です。さっきはオルファンの気まぐれで助かりましたが、また同じことが起こるとは限りません」

「ネリー・ブレンがいない今、あのスタンも使えないからな……戦い方は考えなきゃいけないぞ」

 

 二人がそう言って言い出しっぺの方へと顔を向ける。彼女は数秒間をおいて、自分に視線が当てられていることに気づいた。

 

「え〜? ウチが考えるの?」

「チームで戦うなら、一番の経験者が指揮を執るのが筋ってもんだろ?」

「そりゃ、そーかもだけどさぁ……」

 

 英理佳がそう言った瞬間、閃光が瞬き、大地が鳴り響く。何事かと三人が周囲を見回すと、上空に黒い影が六つ、アーミー・グランチャー達だった。

 

『ノヴィス・ノアのブレンパワード! 投降するなら命くらいなら見逃してやるぞ!』

「この声! テッド・ウィー……ラス?」

「知り合いか?」

 

 ナッキィが尋ねると英理佳は歯ぎしりをしながら首を縦に振る。アメリカで戦って以来、ずっと刃を交えているのに未だに決着が付くことはない、半ば腐れ縁のような状態なのだ。

 

「ここは一旦、退いた方が良さそうですね……」

「ダメ! ここで迎え撃つ!」

「そうだな、やられっぱなしは癪に障るもんな!」

 

 アメリカ人二人はそう言い、それぞれのブレンのコクピットに飛び込んだ。残されたカントは「本当に無茶を言う人達なんですから!」とぼやきながらもコクピットへと走る。

 三人のブレンパワードが飛び上がるとグランチャーの一斉射が降り注いだ。しかし、英理佳が「散開!」と声に出すことでチャクラ光は全て地面に命中する。

 

『クソッ! 無防備な奴らに何やってんだ!』

『敵機、来ます!』

 

 無線から聞こえる声にテッドは「分かっている!」と怒鳴り声で返す。その間にアーミー・グランチャーの一人が撃破されていた。ブレンパワードらは相手のペースを作られる前に速攻で叩く戦法を取っているようだ。

 

「ナッキィ、カント! 次は孤立してるグランチャーを!」

「はい!」

「いいぜ!」

 

 英理佳達は三人編隊、ピッタリとくっついて各個撃破で動いていた。しかし相手も素人ではない。孤立した味方を援護するために火力を集中させる。

 

「アンタらの好きにはさせない!」

『この声は──傷アリのブレンパワードのか!?』

 

 相手が英理佳だと分かった途端、テッド・グランチャーの動きが格段に素早くなった。そして編隊から外れ、単独でエリカ・ブレンを突け狙う。この独断専行を他のアーミー・グランチャーは援護するのだが中々どうして上手くいかない。

 

『ここで会ったが百年目、今日という今日は!』

「脇ががら空き!」

 

 エリカ・ブレンが撃ち放った射撃がテッド・グランチャーを掠めつつ、その背後のグランチャーに命中する。煙を上げて降下する味方を尻目にテッドは頭を掻き毟った。

 

『畜生! 俺と戦え!』

『中尉、残りの敵機をロスト!!』

『何やってる!?』

 

 彼が無線に怒鳴っていると接近警報が唸り出す。嫌な予感がしたテッドはその場から離れた。その判断は正しかったようで、僚機のグランチャー達はあっという間にチャクラ光に貫かれる。ナッキィとカントのブレンが下からの不意打ちを決めたのだ。

 

『し、下からかっ!?』

「森に隠れてからの奇襲、上手くいきましたね」

「オーガニック・レーダーの弱点を突くとは、流石天才少年だな」

 

 数的有利が無くなり窮地に立たされたテッド。ブレンパワード達の射線上に居る中、背を向けたところで逃げ切るのは運任せだ。

 

『俺はこんなところで終わるのか!!?』

 

 アメリカでのアンチボディ戦がテッドの脳裏を過る。あの時も味方を落とされ、一対一になった最後には落とされたが一命は取り留めた。しかし同じ状況とは言え、今回も生きて帰れる保証はない。全身に冷や汗が伝うのを感じた彼は、無意識に操縦桿から手を離していた。

 

「動きが無いけど……投降するってコト?」

『お……俺は……』

 

 テッドが震える唇で言葉を紡ごうとするが……。

 

『ウィーリス中尉、無事か?』

『ク、クロフシュタイン大尉か!』

 

 崖っぷちのテッドに手を差し伸べたのは英理佳の父こと、アルバート・クロフシュタイン大尉だった。彼のグランチャーを先頭に援軍のアーミー・グランチャーらが戦闘に介入してくる。

 

「新手のお出ましだな……」

「蟻みたいに次から次へとキリがないですよ!」

「あのグランチャー……間違いない、アイツ父さんだ!」

 

 父親のグランチャーを見つけた英理佳は真っ先に攻撃を開始する。だが、先程のグランチャー達とは違い、父親の指揮するグランチャー部隊は動きが洗練されており、付け入る隙を与えない。ブレンパワード達はあっという間に分断される。

 

「英理佳! もう無駄な事は止めるんだ!」

 

 アルバート・グランチャーとエリカ・ブレンは一対一での空中戦を繰り広げるが、グランチャー側は防戦一方で攻撃の意志をまるで見せない。そんな動きにイラついた英理佳は更に攻めに徹する。父親に武器を向ける事に躊躇が無い事を悟ったアルバートは、静かにため息をついた。

 

「分かった……反抗期だというのなら、少し痛い目を見てもらうぞ」

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