ギャルとブレンパワード   作:vespa MDRN

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時系列的には、6話『ダブル・リバイバル』あたりになります


憧れのジャパン?

 そんなこんなでバイタル・ジャンプで日本に飛んできた英理佳とブレン。だが余りの長距離移動にブレンパワードは疲弊し、動きが緩慢になっていた。

 

「疲れたなら休もうか……ウチもなんか、眠くなってきた」

 

 英理佳は大口を開けてだらしなく欠伸をし、零れた涙をジャケットの袖で拭う。

 

「ここは日本のどこなんだろ。トーキョーとかヒロシマとか、どっかに書いてくれればいいんだけど……」

 

 彼女らがやってきたのはどうやら、どこかの港の跡らしい。多くの船が停泊しており、鮮魚の市場や工場の残骸等が多くある。これも近年起こっている異常な自然現象の影響なのだ。

 そんな色んな建物や看板を、繰り返し流し見する度に英理佳に眠気が襲う。目が次第にトロンとし、首がかくんかくんと揺れていく。だが、それを由々しき事態と捉えたブレンが疲れた体に鞭を打ち、アクロバットを敢行する。

 

「わっ!」

 

 英理佳は突然の揺れとGに目が覚めたようで、自分が居眠りしていたことに起きてから気づく。学校でもたまにこんなことあったなぁ、と昔を思い返す。あの時は先生が教科書で軽く叩いてくるので、痛みと叱られるかもしれない恐怖で胸がドキドキする。だが今は別の意味で彼女の鼓動は早くなっているようだ。

 

「起こしてくれたの? ありがとー」

 

 にこりと微笑んでブレンを撫でてやると、嬉しそうに瞳をキラキラと光らせる。こうしていると英理佳は母親にでもなった気分なのだ。かつて自分が親にされて嬉しかったこと。それを子供にできるようになることが、親になるということなのだろうか。そんなことを考えながら、山脈地帯へと進んでいく。そして導かれるままに、大木の傍にブレンを降ろさせる。

 

「今日はここで寝るか……」

 

 そこにブレンを持たれさせて、座らせた後に英理佳もコクピット内で横になり、両膝を抱えて縮こまった。眠りの波はすぐにやってきて、意識は深きに落ちていく……。

 次に彼女が目を開けた時、目の前には両親がいた。二人は"こっちへおいで"と手招きしている。英理佳は言われるがままに、その方向へと向かうが違和感に気づく。何故、自分はこんなにも簡単に懐柔されているのかと。こんなチョロい女ではないはずだ。自分をほったらかしにした両親に反抗しなくてはならないのに。足はどうしても前に進んでいる。こんなのは英理佳の本意ではない、間違った事だと叫びたいのに、できない。

 

「違う! こんなの、私の意志なんかじゃない!」

 

 目が覚めて飛び起きるとそこはブレンパワードのコクピット内。心臓が周りの音をかき消しそうなくらいにバクバクと鳴るなか、彼女は辺りを見回す。そこには悪夢に存在した者達はどこにもいない。大きなため息をついて壁にもたれかかると、汗で服と肌とが張り付いた。

 

「マジで、うなされてたんだ……」

 

 軽く髪を整えて外に出た英理佳。ブレンはまだ休んでいるようで触っても反応がない。何もすることがないので少し周りを探索しに歩いていると、彼女の視界いっぱいに緑の山々。そしてひときわ目を引くのが日本最高峰の活火山、富士山だ。

 

「ひょえ~、これが日本の景色! ロスじゃこんなのはなかったよ!」

 

 絶景に見とれていると突然、体が空腹を訴え出した。お腹から締まりのない音が鳴りだし、付近に人がいないことに安堵する。そうしてジャケットから財布を取り出すが、中身の殆どがドルばかり。日本円は母親から少し貰った硬貨しかない。

 

「円はあんまりないかぁ」

 

 そんな不安をぼやくが背に腹は代えられない。ブレンを休ませた大木へと戻り、すぐにでも出発しようと踵を返した、その時だった。

 鳥たちが一斉に飛び立ち、それぞれの方角へと去っていく。それと同時に地面が揺れ出し、英理佳は立っていられずに膝をつくことになる。

 

「何事!?」

 

 暫くして揺れは収まり、ようやく立ち上がることが許される。幸い彼女の付近では物が倒れたり、地割れや土砂崩れが起こることがなかった。だがブレンが心配だった英理佳はすぐさま、大木へと駆け戻る。

 

「ブレン、大丈夫?」

 

 丘を上がり、何事もなく木にもたれかかるブレンパワードが見えた時に英理佳はホッと胸をなでおろす。近寄って彼女が呼びかけると、スリットから輝く優しい瞳が覗かせた。それを見たらまた、お腹が鳴りだしてしまう。そのなんとも言えない音をブレンが揶揄うと、英理佳は咄嗟に両手で自らの腹部を隠した。

 

「ちょ! 笑わないでよ~、人間は食べないと死んじゃうんだから」

 

 そんなことを言いながらも、コクピットへと転がり込むと食料の調達のために山を下りることを決める。目立たないようにゆっくり、低空飛行で街の方面へと進む。……のだがアンチボディという巨人が目を引かないはずもなく、多くの村落に住む人達の視線を釘付けにしてしまう事実があった。

 

「そういえば、あんたが見せてくれた富士山とここでは、少し周りの景色が違うよね」

 

 見られていることなどお構いなしに英理佳は呟く。前にブレンが見せてくれたのは湖が一緒に映っていたが、彼女らが今いる場所にはそれらしきものがない。真反対の方向へ来てしまったのか、と色々と思考を巡らせている英理佳。こうなると梃子でも動かなくなってしまうのだが、それを突如として途切れさせる程の不快な気配を察知した。それはグランチャーのような、ぞわぞわとしたものとは違う。もっと根源的、本能的に嫌悪すべきものだった。

 

「何の気配?」

 

 それがやってくる方向へとブレンを向けさせると、太陽と重なって、逆光でシルエットになっているアンチボディを見つける。それはアメリカで人気のヒーローのようなマントを羽織っている。

 

「何アレ……」

 

 こちらが気づいたことを悟ったのか、逆光のアンチボディはマントをはためかせながら突進してきた。ぎょっとした英理佳たちは後ずさるも、むなしく肉薄されてしまう。そして相手のアンチボディは光の反射で輝くブレンバーを薙ぎ払って、ブレンを吹き飛ばしたのだ。

 

「ガチの馬鹿力じゃん!」

 

 飛ばされる勢いに耐えながら、ブレンに態勢を立て直させる。昨日のアメリカ軍からの追手かと考えた彼女はブレンに武器を装備させた。そうしてアーミー・グランチャーから奪ったソードエクステンションを取り出して臨戦態勢へ。

 

「何すんの!」

 

 チャクラ光がいくつもの束となって射出されるが、相手にはかすりもしない。それもそのはず英理佳──いや、ブレンは落とすつもりでやっていないからだ。自分を攻撃してきた敵に対して、何か思うところがあるから。

 

「どーして当たんないのさ!」

 

 なかなか射撃が命中しないことに苛立ちを覚える英理佳。そうこうしていると、マントのアンチボディは又もや接近してくる。その度に刃と刃がぶつかり合い、閃光と火花が生まれた。こうして、しつこく続く鍔迫り合いにしびれを切らした英理佳は、意を決してコクピットから身を乗り出す。

 

「あんた誰よ! いーかげん鬱陶しいんだけど!」

 

 それに答えるようにして相手のアンチボディのハッチとシャッターが開き、パイロットの姿があらわになる。その風貌はとても、まともとは言えず、プラスチック製の顔のような仮面にスーツ姿。そして極めつけは乗機とお揃いのマントだ。

 

「私はクルーエル・ブレイズ。アンチボディの伝道師だ」

 

 遠目からでは性別は分からなかったが、声のトーンからして女性だろう。だがそんなことよりも突然、攻撃してきたことや"アンチボディの伝道師"という言葉が気になっていた。

 

「だからさぁ、何でこんなことをしたのかって聞いてるの」

「あぁ、すまない。君の実力を拝見したくて……」

 

 クルーエル・ブレイズと名乗る女は、ゆっくりとアンチボディと共に近づきながら喋っているが、途中で言葉が途切れる。まるで何かに驚き、思考が停止したかのよう。仮面で視線の動きは分からないが、顔の向きからして英理佳のことを観察しているようだった。

 そのプラスチックの向こう側から、熱い視線を送られることに気づき英理佳は「あの!」と声を掛ける。すると仮面の女はブレンのハッチへと飛び乗り、英理佳へと急接近してきたのだ。

 

「君はそのブレンパワードとアジャストした、そうだろう?」

「はぁ?」

「優れた抗体ということだよ」

 

 女は仮面の下でニタリと笑った。やはり自分の目に狂いはなかった、この子には才能があるのだと。

 

「ちょっと意味わかんない……」

「だからこそ、私が君のティーチャーになってあげるのさ。私のことは、これからブレイズと呼ぶがいい」

「いや、もっと意味わかんない!」

「君はこれがグランチャーかブレンパワードのどちらか、直感でわかるかい?」

 

 ブレイズは自身の乗機であるアンチボディをへと顔を向けた。英理佳も同じようにして、まじまじと観察する。一見すると、どちらの特徴も無いように見える。だが細部へ目を向けるとブレンパワードの近い姿をしていた。

 

「これはブレンなの?」

「その通り。……だが目に見えるもので判断したね。それは直感とは言えないな」

 

 先ほどの嬉々とした声色は消え去り、真面目なトーンで話すブレイズ。彼女に表情は無いが、口調や声である程度の感情を読み取れるのは、楽だと英理佳は思った。彼女の知る大人の中には、顔が見えているのに感情が見えない人間が多々いるからだ。それを"信用できない人"と呼ぶのだ。しかし、だからと言ってブレイズという変人を信用した訳でもない。

 

「もっとブレンパワードの使い方を学ぶ必要がある。そのためには沢山のアンチボディと関わることが重要だ。私についてきたまえ」

 

 嫌だ、と言ってもそれを許すような人ではないと悟った英理佳は渋々ついていくことにする。どこかのタイミングで逃げ出す隙があれば、実行するだけと心に決めて。

 そんなことを英理佳が考えていると、ブレンがブレイズのブレンに対して何か話しかけている。同じブレンパワード同士だから通ずるところがあるのだろうか、関係は良好そうだ。

 

「先ほどの地震を知っているかい? あれはプレート性誘発地震と言って、地面に埋まっていたプレートが地上に現れる時におこる地震なのさ」

「プレートって何?」

 

 ブレイズは、そこからか、と若干呆れつつもアンチボディについて事細かに説明する。プレートはアンチボディがリバイバル、つまり産まれてくるものであること。それはブレンパワード、グランチャーのどちらも同じであるということ。オルファンという遺跡がアンチボディの誕生に深く関わっていること。

 

「着いたぞ」

 

 連れてこられたのは木曽山中、今朝の地震の震源地付近だった。そこには幾つもの円盤状のプレートが出土しており、研究員達が現地調査を行っている。英理佳達はブレンから降りて、もっと近くで観察しに行く。

 

「これがアンチボディが生まれるっていう、オーガニックプレート……」

「そうさ。プレートやリバイバルを知らないということは、その子とはどういう経緯で出会ったんだい?」

 

 その質問に答えようとした時、声は別の怒号でかき消される。誰かが言い争っている喧騒の方へ、吸い込まれるようにして向かった二人。その目に映ったのはオーガニックエナジーの研究者、源野三尾とパイロットスーツを着た褐色肌の女性、コモド・マハマが対峙してる様だった。

 

「お前らも理化研の連中か!?」

 

 コモドは右手に持ったピストルの銃口を英理佳達にも向ける。咄嗟に両手を上げる英理佳に対してブレイズは直立不動のまま口を開いた。

 

「君の所属を問おう。リクレイマーか? それともノヴィス・ノアか?」

「何の権利が!」

 

 更に声を張り上げるが、直後、彼女は何かに気が付いて三尾に覆いかぶさるように飛びついた。

 

「あぁ! 暴力はいけません!」

「グランチャーが来たわ」

「マジで?」

 

 英理佳が上空へと視線をやるとチャクラ光による射撃が飛び交っているではないか。その様を見てコモドはすぐさまその場を離れていく。

 

「グランチャーがどうして?」

「リクレイマーはプレートを集めて、アンチボディの独占と戦力の増強を図っているのさ。私達も行こう」

「あなた方は!?」

 

 三尾がブレイズ達に問いかけるが、二人は通り雨のように走り去っていった。まるでそんな人はいなかった、と言わんばかりに。

 

 

 

***

 

 

 

 英理佳達は自身のブレンに乗り、物陰でグランチャーの様子を伺う。あれらはワイヤーネットを器用に使い、プレートを回収しているようだった。

 

「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく……、いっぱい!」

「狼狽えることはない、奴らの目的はあくまでもプレート。こっちが刺激しなければ、攻撃はしてこないはずだ」

「それじゃ、プレートが奪われちゃうじゃん!」

「たかがプレート四、五枚。命に比べれば安いものさ」

 

 ブレイズは注意深くグランチャー達を観察する。そのうちの一人は左肩にマークがあり、オリーブドラブで鉤爪を携えたものがいる。彼女はあれが隊長機だと踏んで、一際、熱い視線を送る。だが……。

 

「なっ……!」

 

 隊長機のパイロット、ジョナサン・グレーンは樹木に紛れたブレンパワードを見つける。それも二人。しかしプレート回収の阻止もせずに、ただ黙って見ているのは妙だ。何か考えがあるに違いない。援軍が来るのを待っているのか、プレートの輸送中を狙っているのか。

 

「ブレンパワードだ! イランドも!」

 

 ジョナサンが思考を巡らせていると、回収班の誰かが叫んだ。どうやら英理佳達は見つかってしまったようだ。それに反応した他のグランチャーの一人が、ミサイルを放つ。目標は勿論、隠れたブレンパワードだ。

 

「避けろ!」

「あ、うん!」

 

 ブレイズの合図でブレン達が飛び上がる。だが対応が少し遅れた英理佳のブレンは、爆発による風圧をもろに受けて地面に伏せてしまう。その衝撃で英理佳はコクピット内で壁に顔をぶつけた痛みに堪えている。

 

「ドジったぁ~……あっ!」

 

 顔を上げた瞬間に見えたのは、ソードエクステンションを構え、狙いを定めるグランチャー。これにはブレイズも助太刀には間に合わない。

 助けて。そんな言葉すら上げる暇もない、ほんの一瞬。体が氷のように堅く固まり、瞼すら動かせない。まるで自分の体が何者かに自由を奪われた感覚。英理佳は今までで経験したことの無い恐怖を覚えたのだ。

 だが、そんな窮地を救ったのは一機のVTOL戦闘機イランド。それはミサイルによる攻撃をグランチャーに対して行い、ソードエクステンションの照準を妨害したのだ。

 英理佳は絶体絶命のピンチを救われたことに感謝しつつも、ホッと胸を撫で下ろす。だが、かくいうイランドはと言うと、先程の攻撃で敵視されたのだろう。ミサイルランチャー持ちのグランチャーに狙われているようだ。しかし、それでもイランドは巧みな飛行でこれを全て躱す。

 

「今の内だ、逃げるよ」

 

 ブレイズの声で英理佳は我に返り、すぐにブレンを飛ばした。そうしてイランドの後をついていきながら、グランチャーの群れから離れていく。

 

「無闇に撃つんじゃない! このプレートをヌートリアに運ぶのが先だろ!」

 

 ジョナサンは味方を制止しながら、イランドとブレンパワードが去っていくのを確認する。今は退いていったが、いつまた仲間を引き連れて戻ってくるか、わかったものではない。彼は周辺を警戒しつつ、プレートの回収を急がせた。

 

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