ギャルとブレンパワード   作:vespa MDRN

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ウチもオルファンに行っちゃうカンジ~!?

 ノヴィス・ノアの船内を英理佳は何の理由もなしに歩き回っていた。彼女が投げかけた言葉が、父親にどう作用していたかを思い返しながら。

 

「全て無かったことにした方がいいのかも」

 

 事実上の縁切りの言葉。こういうものは大抵、親から言い渡されるものだ。というのも、英理佳は自分が言われる側だと覚悟していた。

 アメリカでは孤独を埋めるために、悪い友人達とつるんで軽いイタズラに走った事もあった。その瞬間だけは寂しさは忘れられたから。しかし、結局そんなものはまやかしに過ぎない。彼女が求めた心の栓は、それではなかった。

 辿り着いた先の、閑散とした休憩所でベンチに寝転ぶ。ノヴィス・ノアの休憩所は一般的な船舶のそれとは違って室内は広く、機能が充実している。寛ぐには最適で質としては最上級だろう。だが英理佳はそうは思っていなかった。

 無駄に広がった空間にただひとり、自分がいる。それは自身が孤独であることをより強調させるのだ。だから彼女は広い空間があまり好きではなかった。

 対してアンチボディのコクピットは居心地が良かった。狭いのは勿論のこと、常に誰かがいて、包容されているような暖かさがあるのが一番の理由。

 だと言うのに英理佳はブレンの元へとは足を向けない。それは自身の精神状態が良くないのを把握していたからだ。

 エリカ・ブレンは人の感情を推し量るような時がある。だからその時々の英理佳の感情に寄り添おうとするのだ。悲しんでいたら慰め、嬉しい時は共に喜んでくれる。

 だから今回もブレンは慰めようとしてくれるだろう。それが英理佳にはつらかった。

 人を乗せなければ生きていけないアンチボディ。母親なしでは何も出来ない赤子が必死に生きようと、乳房に縋り付くかのように、アンチボディも主人となった人間に頼らなければならない。

 そうやってブレンに気を遣わせる事が英理佳には苦しかった。もっと自由にさせてやりたくても、それが出来ない。でも、一緒に居たいという気持ちもある。相反する感情はせめぎ合いを続け、彼女の決断を遅らせた。

 

(もしかして……)

 

 両親が家を出る時もこんな風に迷っていたのではないか? そういう考えが英理佳に浮かぶ。父も母も軍関係者な彼女がその道に進むことを避けさせようとしたのではないか? 自由な道を選べるように、親のレールから外そうとしたのでないか?

 今まで思いつきもしなかった、様々な憶測が頭を巡る。

 でなければあの時、父親は“愛している”という言葉を呟きはしないだろう。

 

「そう……だったのかな」

 

 憶測ゆえに確信は持てない。だが、彼女がノヴィスに来て、子を持つ親の勇姿を目にしてきた。息子への贖罪のために大海原に消えたアノーア。二度と子供を失うまいと、命を賭してやってきたマリアンヌ。

 もしかしたら英理佳の母、上水流刻子も何か訳あってアンチボディ・オウカの面倒をみていたのかもしれない。

 

「謝らなきゃ……」

 

 父親の元へと戻ろうと彼女は立ち上がる。気づけば時刻はもう昼時だ。食事でもしながらこれからの事を話し合おうと、足を前に踏み出した、その途端。けたたましいサイレンが艦内に鳴り響く。

 

「何のサイレン!?」

 

 敵襲かと英理佳が休憩所を飛び出すと同時に、何かに足を引っ掛けて派手に転んだ。

 

「いてて……玩具はちゃんと片付け──って、何コレ!?」

 

 彼女が目にしたのは、うねうねする黒い根っこのようなものだった。見るからに化け物のそれから英理佳は後ずさるが、攻撃の意思は見えない事に気づく。

 それはまるで、何も見えないからと手探りで何かを探す素振りで動いているのだ。

 

「何をやってるの、コレは?」

 

 根っこの、その先が気になる英理佳だったが、先ずは発生源を辿るべきだろうと理性が知らせる。彼女は踵を返し、根っこがやって来た方向へと向かった。少女が前に進むほどに、複雑に枝分かれした根っこが収束していく。

 その最中にクルー達が根っこに慄いていた。が、英理佳はそれに恐怖を抱くことはない。好奇心が勝っていたのもそうだが、一番は敵意を向けられていないから恐れる必要がないと判断したからだった。

 そうして彼女が辿り着いた先はアンチボディの格納庫……その下にあるブロックの地下格納庫。クインシィ・グランが居る場所だった。

 

「この根っこはクインシィ・グランなの?」

 

 格納庫のシャッターを開けて、英理佳は根っこの正体を明るみにする。

 やはり、そこにいたのは手を木の根のように伸ばしたクインシィ・グランがいた。これで根っこが何をしようとしているのかを彼女は理解する。

 

「クインシィを探してるんだ……ウチが合わせてあげれば、こんな事には……」

 

 クインシィ・グランのボロボロになりながらも、四方八方に伸びた指を目にしながら英理佳は言った。そんな時、ふとコクピットハッチが開けっぱなしである事に気づく。きっとクインシィがいつでも乗れるようにしているのだ。そう考えた少女だったが、グランチャーに空いた深淵が彼女の視線を釘付けにする。まるで自分が呼ばれているかのような気分に陥ったのだ。

 

「……何? 手伝って、欲しいの……?」

 

 一歩、また一歩と英理佳は進む。暗闇の奥にあるコクピットへと向かい、足をかけた。同時にハッチが閉じ、彼女は半ば閉じ込められる形でグランチャーの中へと入る。

 今回も拒否反応は起こらず、しかもスリットウェハーに警告の言葉を映し出されることもない。かと言って歓迎もされていないようで、コクピットの中は依然として暗いままだった。

 暗闇の中、英理佳はグランチャーのスリットウェハーを手探りで見つけ、それを優しく撫でる。初めは獅子のような唸り声を上げるクインシィ・グランだったが、次第に落ち着いて来たのか、それをすることもやめた。

 

「やっぱ、グランとも分かり合えるよね……前はごめんね、約束守れなくて。でも、今なら君の力になれるはず!」

 

 英理佳がクインシィ・グランのスリットウェハーに触れる。すると、搭乗者を得たアンチボディはみるみる力を取り戻していった。

 

「クインシィはそっち! 角から三番目の部屋!」

 

 指示に従い、グランチャーは伸ばした指で部屋へと向かう。しかし、クインシィへの扉は固く施錠されているようだった。

 

「しょうがない! 壊しちゃえ!」

 

 

 

 

 一方、クインシィは部屋の一角で休んでいた。自身の抱えていたプレッシャーを吐き出して、精神的に参っていたのだ。そんな時に施錠された扉を何度も強く叩かれ、不審に思った彼女は身構える。その瞬間、けたたましい音とともに扉が破壊された。同時に真紅の爪が弾丸の如くやってきて、クインシィの頭上をかすめる。

 

「お前は!?」

 

 その特徴的な色を彼女は憶えていた。オルファンにいる頃から、ずっと共にいる、そのアンチボディを見間違えるはずもなく。クインシィは間髪をいれずに、グランチャーの伸びた指を抱きしめる。特有の温もりや感触を体で感じ、彼女の心は落ち着いていった。

 

「ずっと私を探していたんだな、お前は……よぉし、オルファンへ戻ろう!」

 

 決意を固めたクインシィはグランチャーの指に導かれ、扉の先へと駆けていく。そうして順調にグランチャーの元へと向かっていった。クインシィが格納庫へとやって来た頃には、既に事は起こっているようだった。

 指を鞭のように伸ばしたクインシィ・グランが、一人のブレン──カナン・ブレンを拘束しており、その横でネリー、ヒギンズのブレンが身構えていた。今にもアンチボディ同士の戦闘が始まろうと、火花が散るその間に割って入ったのはクインシィだった。

 

「待て! 大人しく出ていくから、これ以上は手出しをするな!」

「出ていく? あの人が?」

 

 意外な回答を耳にしたヒギンズはブレン構えを緩め、コクピットから身を乗り出す。

 

「ここは退け、クインシィ・グランチャー」

「そうだよ。ウチのいうコトは聞かなくても、クインシィの言うコトはちゃんと聞いてよね」

 

 クインシィ・グランのコクピットにいる英理佳は勝手に動くアンチボディに手を焼いていた。しかも、当初は無かったはずの拒否反応が徐々に頭痛となって現れ始めたのだ。そのせいか、英理佳の指示を無視し始め、グランチャーのみの意志で動き出した。故に、カナン・ブレンを攻撃し始めたのだ。

 そして今、クインシィの指示に従ったグランチャーは攻撃を止め、真の主を迎えるために指を蜘蛛の糸のように伸ばす。

 

「行っちゃだめだ!」

「離せ、勇!」

 

 依衣子がクインシィに戻り、オルファンへと舞い戻ってしまうのを弟は必死に止める。やっと美しい記憶のままの姉に会えたというのに、今ここで失ってしまうのは勇にとってはとてもつらい事だった。もうこれ以上、家族を失うのは嫌なのだろう。

 

「行ったら、オルファンの抗体。アンチボディになったままになるぞ! それでいいのか!?」

「勇、冷静になって!」

 

 そう言って彼を止めるのはヒギンズだった。クインシィにしがみつく勇を、グランチャーの指ごと引きちぎり救出する。その時の勢いでクインシィ・グランは力なく地に伏せた。パイロットを乗せているとはいえ、アンチボディ自体にオーガニックな力が湧いてこなければ、本領は発揮できない。今やグランチャーは小鹿と大差ない状態だ。

 

「どうしよう、誰も傷つかずに解決は出来ないの!?」

 

 コクピットに乗せてくれた以上、それなりの働きはしなければならないと思っていた英理佳。だというのにまともな動きすらさせてやれない。それが歯がゆくて、彼女は歯を食いしばる。

 

「なんてことを……」

 

 弱弱しく立ち上がるグランチャーを目にしてクインシィは悲痛な声をあげる。だが相手のヒギンズは一切の油断も慈悲も見せず「かかって来るなら、相手になる!」とブレンに武器を構えさせた。もはや戦況は覆せない程にブレンパワード側に傾いている。それでもクインシィ・グランは主を助けようとにじり寄った。

 

「来るんじゃないグラン!」

「姉さんは渡さない!」

「来るな! パイロットがいなければ勝ち目はない! 相手は一人じゃないんだぞ! ひとりで逃げろ!」

 

 そう指示を受けてもグランは小さく唸り声を上げて、クインシィの元へと手を伸ばした。何度も指を伸ばしたせいか真紅の外皮は所々が破けている。その悲痛な様にクインシィは目を背けてしまった。

 

「指がボロボロじゃないか……!」

「そうだよ! ここは逃げるべきだよ。そんじゃウチを降ろして……わっ!?」

 

 クインシィ・グランは英理佳の言葉には聞く耳も持たず、ノヴィス・ノアを颯爽と飛び去って行った。

 

「これって、ウチもオルファンに行っちゃうカンジ~!?」

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