ギャルとブレンパワード   作:vespa MDRN

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今回はネグレクトに近いような展開が軽く描写されます。過去・現在でそう言った経験があり、フラッシュバックする様でしたら、すぐに読むのを中断し、休息を取ったりや楽しいことをしたりをしましょう。


僕はずっと!待ってた!

 ケイディの潜入から一夜が明けた昼下がり。勇と比瑪はブレンパワードを使って補給の手伝いをしていた。ユウ・ブレンは馴れた手つきでコンテナを運び積み上げる。だが動きは少しぎこちなく、コンテナを置く際にどさりと音が鳴るのだ。

 

「もっと丁寧にやってよ」

 

 エレベーターから昇ってきたヒメ・ブレンから比瑪の声が響く。どうやらコンテナを積んでいる様子を見られてしまった様だ。近くでコンテナの数を確認していた英理佳は、また喧嘩が始まる、と冷や冷やしていた。だが珍しく、勇は強く言い返すことはせず「わかってます」と素直な返事をするだけだった。

 

「二人とも、あと少しだよ。ウチは副長に報告書、渡しにいってくるから」

「お願いね」

 

 二人のブレンパワードに背を向けて英理佳はブリッジへと向かっていった。暫く歩いていると真紅のカーペットが敷かれてくるのを目にした。それは端から端まで、極端に長く続いている。英理佳は誰かがへまをやらかしたのかと、カーペットへと手を伸ばそうとする。だが少しすると、その上をクーフィーヤを被ったスーツの男たちが歩いていくのだ。彼らは明らかにノヴィス・ノアのクルーではなかった。不審には思いつつも、アノーアかゲイブリッジが読んだ偉い人なのかも、と関わることをやめる英理佳。

 そんなこともあってようやくブリッジに着くと副長らはいつも通り、モニターとにらめっこをしている。その静寂を破る「お邪魔しまーす」という英理佳の掛け声でブリッジの全員がその方向へと顔を向けた。

 

「なんだ君か」

 

 副長は呆れつつも、何か用かと尋ねてくるので英理佳は報告書を差し出した。それを受け取った副長は一通り、書類に目を通すと軽く頷いてデスクにのせる。

 

「もうあと一隻で補給は完了するそうですよ」

「ご苦労だ……ん?」

 

 副長は英理佳の背後へと視線を移した。そこにはアノーアやゲイブリッジに加えクマゾー、伊佐未直子、そしてミスター・モハマドらが同行している。よくわからないメンバーながらも、それを不審に思うことはなく副長は補給が間もなく完了することをアノーアへと伝えるのだが……。

 

「ん? 何です?」

「何でしょうかねぇ!?」

 

 そう言いながら拳銃を構えているのはリクレイマーのパイロット、ジョナサン・グレーンだ。彼は強気に前へと進み、副長の口へと銃口を突っ込む。

 

「何やつよ?」

 

 ようやく異常に気付いた英理佳は腰に隠した拳銃へと手を伸ばしながら訊いた。するとジョナサンは銃で副長を押しのけながら答える。

 

「たった今、このノヴィス・ノアの究極の指揮権を持った者だ」

 

 この言葉を耳にしたクルー達は誰もが臨戦態勢に入るのだが、ゲイブリッジはその変化を感じ取ったのか「手出しはするな! 全員吹っ飛ぶぞ!」とジョナサンに爆弾があることを告げるのであった。これには英理佳も汗で握った銃のグリップがベタベタになってしまう。容易に武器が使えなくなった今、クルー達にできることは殆どなくなってしまった。

 

「流石提督。さて副長、管制表示を……お?」

 

 突如としてジョナサンの言葉が途切れる。その視線の先には、パネルに貼られた一つの小さなカードがあった。アノーアもそれに気づいたようで、緊張した面持ちでその様子を伺っている。だがジョナサンはそのカードの中身を確認するなり、乱雑にそれを握りしめて母親の前に突き出すのであった。

 

「まだこんなもの持ってたのか! あんたみたいな女が、こんなもの持つ資格はない!」

「母親が……子供のカードを持っていて……」

 

 それはクリスマスカードだった。アノーアとジョナサンに残された遺伝子以外の唯一の繋がり。どんなときでもカードがあれば息子を感じられた、ずっと思っていられた。たとえ姿を消したとしても、優秀なあの子ならきっと上手くやっている筈。そう思えたのだ。

 

「あんたがこれを持つ資格はない!」

 

 ジョナサンは戒めるかの如く、同じ言葉を投げかけた。その手はひどく震えているようで、彼の怒りの度合いがどれだけ高いのかを周囲に知らしめている。

 

「お前が十の時にプレゼントしてくれたのに……」

「よーく憶えてるから怒ってんだ。あの時だってママンは家に居てくれなかった! あんたにはカードを持って見せるような見せかけの愛しかない!」

 

 まくし立てるジョナサンに一同は言葉を失った。目の前のリクレイマーの男がアノーアの息子である事。そしてその息子が孤独で辛い思いをしていたという事。普段のアノーアを知っている者からすれば信じられない話であった。

 だが英理佳には彼の話が事実であると感じられた。殆どの時間を祖母や叔母と過ごし、両親は仕事に夢中で年に数回しか返ってこない日々。ここに二人がいれば、なんて考えが何度浮かんだことか。彼女にはジョナサンの抱えた痛みが理解できたのだ。

 

「こんなことやられたって、子供には分からない! 伝わらないんだ!」

 

 更に激昂したジョナサンは、その手に持った拳銃を母親へと突き付けながら話を続行する。

 

「男との愛情を育てるのを面倒がった女は、子供との愛情を育てるのも面倒だったんだよなぁ!? だから俺を捨てて、仕事に逃げたんだ!!」

「あなたを愛しているわ……」

 

 そう言いながらもアノーアは壁面に隠されたコンソールを操作してコマンドを入力する。それを察知したジョナサンはすぐさま相手を突き飛ばすも、一手遅かった。既に艦内警報が鳴り響き、ノヴィス・ノアの全機能がロックされたのだ。

 

「やるね、ママン」

 

 笑みを浮かべながら言いつつも、彼の瞳はどこか寂しげだった。仕事一筋な所に完全に愛想を尽かしたのか、あなたを愛している、その言葉が真に偽りだったと知ったからか。

 

「んな子供騙しのセキュリティなど、すぐに解除して見せる」

「殺したいのならそうしなさい。それであなたの、気が済むのなら!」

「よく分かってるじゃないか。うっ!?」

 

 母親へと銃口を向けるが、意外な人物が立ちはだかったことにより、ジョナサンは困惑した表情を見せる。それはまだ幼いクマゾーだった。アノーアを庇う様にして手を広げているのだ。彼の表情には恐怖や迷いは無く、確固たる意志が存在していた。

 

「クマゾー君!」

「キミ!? 君!!」

 

 こんな子供を撃つのか、とゲイブリッジは目線で訴える。ジョナサンも一瞬、戸惑って銃口を逸らすが、こんな女を庇うのがおかしいと再度構えるのだった。流石の英理佳も子供に向けられた凶器を見逃すことは出来ないと、隠した拳銃を強く握りこむ。

 

「このガキャ!!」

「まぁ、待ち給え。君の探しているものはひょっとすると、ビー・プレートではないのかね?」

 

 ゲイブリッジは両手を上げながら前に出て、ジョナサンを制止する。彼の口から出た"ビー・プレート"という言葉はアノーアですら聞き覚えがないものだった。だがゲイブリッジは何とかしてこの状況を打開しようと、何か策を練っている筈と、アノーアは彼に合わせる方向にした。

 

「ビー・プレートは我々オルファンに必要不可欠なものだ」

「そう、そうならば。だがね、どうだろう。私が君をプレートの格納庫まで案内して……」

 

 言い出しっぺのゲイブリッジが扉を開こうとするが、今はアノーアの音声認識でなければノヴィス・ノアは機能しない。彼は「艦長?」と声を掛けるとアノーアから許可の回答が返ってくる。

 

「いいだろう。だがそれまではあなた方全員が人質です」

 

 不敵な笑みを浮かべながらジョナサンはぐるりと人質達を一望する。選ばれたのは九人。アノーア、ゲイブリッジ、副長、直子、クマゾー、ミスター・モハマドとその部下二人、最後に英理佳だ。

 そして人質に選ばれて命の危機を感じたモハマドは、金塊の入ったジュラルミンケースを両手にジョナサンの前にやってくる。

 

「き、君~。その何とかプレートとかいうのは無いが、金ならある。これで何とか助けては……」

 

 助けてくれないか、そう言いかけた途端の出来事。耳をつんざく音がブリッジを駆け抜けた。ジョナサンがついに発砲したのだ。だが弾丸はモハマドの持つジュラルミンケースに命中しており、貫通はしていない。だがその衝撃で態勢を崩し、腰を抜かしたのか副長に支えられている。

 

「ほ、本当に撃った……」

 

 モハマドをしっかり立たせてあげながら副長はジョナサンの覚悟を改めて思い知った。近くにいた英理佳もケースから昇る硝煙と火薬の匂いで昨日、自分も発砲した事を思い返す。

 

「あんたって奴は典型的な方だなぁ! そこの坊やの方がずっと人間が出来てる」

 

 そう言われたクマゾーだったが、彼はジョナサンの言葉を何一つ信用していない様子。それを直子が分かりやすいよう、かみ砕いてクマゾーに伝えてあげるのであった。

 

「偉いって、お兄さんが褒めて下さってるわ、クマゾー」

 

 そうして人質達はジョナサンに命の綱を握られたまま、プレートの格納庫へ向かうのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 全員がプレート格納庫へ辿り着き、アノーアはその扉を開けた。そこからは一面が立てかけられたオーガニック・プレートが見える。

 

「さぁ、入り給え」

「先に入るのが諸君の立場だろう?」

 

 ジョナサンが指示を出すと、まずモハマドの部下達が動き出す。しかし当のモハマドは石造のようにびくともしないので、ジョナサンは「そっちの旦那も!」と銃で催促をすると、ようやく中へと入っていった。

 

「人質は私と艦長だけで十分だろう? 他の人達はここで解放し給え!」

「坊やもおばあちゃんも副長、それとお嬢ちゃんも入って」

 

 呼ばれた四人は言われるがまま格納庫へと足を踏み入れた。残るはゲイブリッジとアノーアの二人だが……。

 

「そうだ、お二人は並んで中へ入れ」

 

 ジョナサンは残りの二人に向かって指示をする。ゲイブリッジとアノーアが二手に分かれて、変な気を起こさないように念を入れたジョナサンなりの考えだ。

 

「優秀な男だな、君の息子は」

「申し訳ありません」

 

 策を破られたゲイブリッジは皮肉を交えながらジョナサンの言う通りにする。アノーアもそのことについて、謝罪することしかできない。

 全員がプレート格納庫へと入ったのを確認すると、ジョナサンは保管されたプレートをそれぞれ観察する。しかしビー・プレートというものは学者が定めた仮説でのものでしかなく、リクレイマーでもその正体はわからない。

 

「どれだ? どれがビー・プレートだ?」

 

 ざっと辺りを見回ったところでジョナサンは振り返りゲイブリッジらに尋ねるが、彼の期待した答えは返ってくることはない。

 

「ビー・プレートがどれか、私達にはわからないのは、知っているのではなくて?」

「何?」

「それはそうだろう。ビー・プレートの存在を仮定したのはオルファンの研究者達からで、その詳細は我々には知らされて……」

 

 ゲイブリッジが話している最中に格納庫の扉が急に閉ざされた。その間は誰もその付近には近づいていない。

 

「何故閉めたぁ!?」

「オートセーフティロック。もう外には出られないわ」

 

 淡々と状況の説明をするアノーア。しかし閉じ込められたと知ってもジョナサンは動揺することは無く、目の前で狼狽えるモハマドを殴り飛ばしながら一歩前に出る。

 英理佳の足元にモハマドはうずくまるが、非常時に自分のことしか考えられない人間に差し伸べる手は無いと、彼女はプイっとそっぽを向くのであった。

 

「人間の作ったシステムだ。どうとでもなるはずだなぁ、ママン」

「そういう甘さを排除しています」

「そうだ……直子さんには申し訳ないが付き合ってもらう事になる。英理佳ちゃんも……」

 

 そう言ってクマゾーを安心させる直子や、一人ふてくされている英理佳に目をやるゲイブリッジ。

 

「あなたとなら、どこまでも」

「覚悟のうちなんだよね。こーなることも……」

 

 直子はゲイブリッジと一緒なら大丈夫だ、と言った落ち着いた様子だが、英理佳に至っては少し機嫌がよくないようだ。人質になったのもそうだろうが、先ほどのジョナサンの言い分を聞いて共感してしまったが故に、募らせていた自身の両親への怒りが再燃し始めていたのだ。

 

「ありがとう。しかしクマゾー君には本当に短い人生になってしまって、申し訳ないなぁ」

 

 そう詫びるゲイブリッジだったが、クマゾーは彼の言葉の意味がよく分かっていないのか、何か褒められたかのような態度で頭をかいている。

 

「さて、ロープとハサミがあるな? お嬢ちゃん、それでみんなの腕を縛るんだ。きつくだぞ、緩く縛ったらその分の人間の命が危ないと思え」

 

 ジョナサンはどこからか取ってきたロープを英理佳へと投げ渡した。それを受け取ると早速、一人ずつ縛りにまわる。まずはアノーア。彼女は既に手を後方へと回していた。英理佳は「すみません、艦長」と囁いて恐る恐る手首をロープで縛っていく。

 

「ちゃんと後ろで縛るんだぞ。それと、お嬢ちゃんの腰に差した銃も後で捨てるんだ」

 

 その洞察力に英理佳は心底、恐怖を覚えた。いつからバレていたかは分からないが、それを見越したうえで人質を縛り上げる役を彼女にやらせたのだ。両手を使って仲間の自由を奪っている間は、自分は銃を扱うことも渡すことも出来ない。

 アノーアを拘束した後は並んでいる順番に縛り上げていったが、クマゾーは最後に回してあげた。子供に不自由というのは中々に酷な仕打ちだとわかっているから。

 

「ごめんねクマゾー」

 

 英理佳はそう言って少し緩めに小さな手首をロープで纏めた。それでも少し苦しそうだが、あと少しの辛抱だからと英理佳は自身に言い聞かせる。ノヴィス・ノアのクルー達がこんな状況下で何もせず指を咥えているだけのはずがない。何か策を講じているに違いない、そう信じていた。

 

「最後は嬢ちゃんだ、ほら」

 

 ジョナサンは拳銃をちらつかせるので、英理佳は腰に差した拳銃と予備のマガジンを目の前で放り投げて見せる。

 

「聞き分けのいい子だ」

 

 そう言ってジョナサンは残りのロープで細く白い腕をきつく縛った。

 

「ちょっと! 跡が残ったらどうすんの?」

「そんなこと気にしてる場合か。そこの端で、大人しく座ってろ」

 

 冷静に返されて英理佳はふてぶてしい顔のまま、隅にぺたりと座り込んだ。人質全員の拘束を確認するとジョナサンは格納庫にあった計器でビー・プレートを探し始めた。その間にもモハマドは交渉を続けるのだが、どれも徹底的に無視され、挙句の果てにはまた殴り倒されてしまう。流石に殴打され続ける彼に心配をし始める直子やアノーア。

 

「あなたは大変聡明な方の遺伝子を受け継いでいるのよ。こういう行動がどんなに馬鹿げているか、わかるはずです」

 

 その言葉を聞いたジョナサンはプレート捜索の手を止めて、母親へと向き直る。その時の彼の表情は何とも複雑で、何故まだわからないのか、と言いたげな疑問を呈するものだった。

 

「あんたは男と女の愛情なんかより、まだ遺伝子の方を信じてるんだなぁ?」

 

 ジョナサンは若干の苛立ちを抑えながらも、母親へと銃口を押し付けながら話を続けた。

 

「それで天才の精子を買って、シングルマザーになったが。この俺の気性は、その天才の遺伝子を受け継いだからじゃないのかねぇ?」

 

 そう言い切った後、彼は皮肉を声高に下衆な笑いを響かせた。そんな醜態をアノーアは見ていられず、思わず瞼を閉じてしまう。そして問題があったのは自分の方であると認めたのだ。しかし、ジョナサンが求めていた回答ではなかった故に、彼はまた激昂するのであった。

 

「だったら!! 自分に欠陥があるのなら、子供なんか作るなぁ! 俺の前で母親ヅラなんかするんじゃない!」

 

 そのやり取りを聞いて何を思ったのか直子は立ち上がり、親子の間に割って入る。

 

「ジョナサンさん、そうやって憎まれ口を叩けるのも、命を与えてくださったお母様がいらっしゃるからでしょう?」

 

 その言葉に賛成と、険しい表情のゲイブリッジ、クマゾー、そして副長らが続いて前に出てくる。だが英理佳はそうはしなかった。どちらかというと、彼女はジョナサンの意見に賛成していたからだ。

 

(確かに……ずっとほっといた癖にいまさら母親ヅラされたって……)

 

「男を一人も愛さなかった女を、どうして母と呼べる!」

 

 ジョナサンは手に持った拳銃を再び構えて怒鳴り出すが、普段のアノーアを知るゲイブリッジが彼の意見に反論する。クリスマスカードを肌身離さず、見えるようにして持っていたこと。

 

「勝手に思ってるだけの思いなど、子供に伝わる訳がないだろ!」

 

 そう言い放つとジョナサンは何やら葛藤しているのか、悲痛な唸り声を上げた。そんな痛ましい姿を見ていた英理佳は心に釘を打ちつけられた気分になる。だが共感はしても、一緒にアノーアを責める気にはなれなかった。それは彼女に残る理性がそうさせた。どんなことがあろうと、敵はリクレイマーやオルファンであるという認識。敵を見誤ることはしないのだ。

 それから数分が経過した。ジョナサンは再びビー・プレートの捜索を続行する。その間も時間は流れていく。時計も無いのでどれだけ拘束されたのかもわからない。生きるか死ぬかの極限状態、クマゾーはよく耐えていたが、同時に限界もそう遠くないのだろう。そんな彼を見かねた直子は声を掛けるのだった。

 

「もう少しの辛抱よ。比瑪お姉ちゃん達が必ず助けに来てくれますからね」

 

 その言葉で気力が少し回復したクマゾーは顔を上げて待つことにした。その時、彼は見え隠れしながら不規則に動く光を通気口付近で目撃する。それは他の人質も同様で、すぐに助けがやってきたのだと悟る。すぐに副長はジョナサンの気を逸らすためのストレッチを開始した。

 

「もぞもぞ動くな!」

「ストレッチぐらいさせろよ」

 

 彼の狙い通り、ジョナサンは少し気が散ったようだ。その間にモハマドらは通気口の近くに移動し、やってくる救助者を隠すような配置に座る。

 

「副長、人質だということを弁えないと最初に殺されるぞ」

「これが国連が信託している軍艦か」

 

 馬鹿馬鹿しいとジョナサンはまた作業に戻った。その隙にやってきたのは比瑪やクマゾーと一緒の孤児院に居た子供達、ユキオとアカリだった。彼らはクマゾーに気を引くように指示すると、その間にゲイブリッジやアノーアの拘束を解いていく。

 

(アカリとユキオが?)

 

 二人が助けにやってきたのを知って、英理佳はゆっくりとアノーアらに接近している、まさにその瞬間の出来事。叩くような鋭い音が格納庫へ響く。激怒したジョナサンにクマゾーがぶたれたのだ。だが殴られた本人は痛みに泣くことも喚くこともしない。

 

「クマゾー!!」

「貴様は!」

「それはよくない」

「クマゾーちゃん、大丈夫!?」

「ジョナサン!」

 

 皆口々にジョナサンを叱咤したり、片頬を赤くするクマゾーを心配したりする。だがジョナサンはそれに反論するのではなく、クマゾーに言われた言葉に対して話始めるのだった。

 

「違うぞ、違うんだ! 俺はこんなことの為にここに来たんじゃない!」

 

 そのさなか、アノーアにはある幻覚が見え始めていた。立ち尽くすクマゾーに重なるようにして、幼き頃のジョナサンの影が映る。そして同じく幼い声で話始めるのだ。

 

『そうだよ、母さんに会いに来たんだよ。なのにさ……』

「このガキ、何言ってやがんだ! その顔吹っ飛ばしてやる!!」

 

 幼いジョナサンの影が言った言葉、それは現実でクマゾーが言い放ったものだった。だが現実でのジョナサンはひどく動揺しているようで、目の前の子供に拳銃を向ける。

 

「その子に手をかけては駄目! ジョナサン!」

 

 必死な声でアノーアが訴えかけるがジョナサンの暴走は止まらない。トリガーに指をかけて、いつでも発砲できるようにするが、彼の両手は微かに震えている。

 

「黙れぇ! こんな時に何言ってる!」

「そんなことしたら、おっぱい貰えないも!」

 

 クマゾーは今にも銃弾が飛んでくるかもしれないというのに一歩も退く様子はない。それどころか、ジョナサンを叱るような言葉まで送っているのだ。その勇気に感化された英理佳は急いでクマゾーを庇う様にして前に出る。

 

「ジョナサン! あんた!」

「あなたは、相手が分かってるの!?」

 

 同時に拘束を解かれたアノーアが拳銃を片手に息子へと肉薄した。その銃口は真っすぐジョナサンの眉間を狙っている。当のジョナサンは驚いたのか銃を明後日の方向へと向かせていた。

 

「止めなければ、母があなたを殺します」

 

 アノーアの決死の行動に恐れおののいた副長やモハマドらは耳を塞いで地に伏せる。ジョナサンがいつ自爆し出すかわからないのだ。取っ組み合いになるジョナサンらだが、隙を見て爆破スイッチへと手を持っていくその時、格納庫に轟音と共に巨大な風穴が空いたのだ。チャクラ光が閃き暗かった周囲は、一瞬だけ太陽の下に出されたかのように明るくなる。

 

「「わっー!」」

 

 叫ぶクマゾーと英理佳を、ジョナサンは覆うようにして庇った。その隙に少年だけを抱え、ジョナサンはプレートの影に隠れる。

 

「あれ? クマゾーは!?」

 

 目を開けた際、英理佳の近くにいたクマゾーの姿はどこにもなかった。それに壁の融解で発生した煙で視界が悪い。そんな状況の中で一生懸命、手探りで探すが手がかりも何もない。

 

「あの時に攫われた? ……あ!」

「ジョナサン! 観念しろ!」

 

 風穴を更に突き破って姿を覗かせたのは勇とユウ・ブレンだった。先ほどの射撃も彼によるものだろう。この影響での怪我人はゼロだ。そんなライバルとブレンパワードの登場で追い詰められたジョナサンは、人質をちらつかせながら脱出を図る。

 

「このチビも殺したいのか? 人質だぞ!」

 

 だが行く手を阻むゲイブリッジとアノーアに邪魔をされて、ジョナサンは武器を手から落としてしまった。体も押さえつけられ、残るはベストに巻き付けられた爆弾のみ。英理佳も自分の拳銃を拾って敵へと突き付ける。八方塞がりのジョナサンに直子は「もう終わりにしましょう」と諭すので、彼はその提案を受け入れて爆弾付きベストを脱ぎだした。だがそれを脱ぎ終わった途端、ジョナサンは起爆装置を起動させてユウ・ブレンへと投げつけるのだった。

 

「逃げろ! それは爆弾だ!」

 

 ゲイブリッジの警告を聞いた勇はすぐさまブレンに格納庫の残骸を持ってこさせ、爆風を受け流す。強力な爆発音と爆風に皆は一時的に行動が阻害され、ジョナサンはその隙をついて格納庫から逃走を図る。

 

「ブレン!」

 

 主人の掛け声でユウ・ブレンはジョナサンを追跡するが、流石に人間用の通路までは追えない。勇や比瑪、英理佳はそれぞれ侵入者を追うこととなった。勇達は先回りするルート、英理佳はジョナサンの後をそのまま追う形だ。

 全力でジョナサンを後を走るが、長身の彼の走りに英理佳は距離を離されるだけだ。途中でフリュイドスーツ姿のカナンと合流したので並んで走っていく。次に二人がジョナサンを目にした瞬間、眩い光に目が眩む。これはモハマドが持ち込んだカーペットに仕込まれた"護身用武器"で、マグネシウムの燃焼で目くらましを行うものだった。当のジョナサンは既にクマゾーを連れて姿を消していた。

 

「この焦げ跡は、花火でもやった!?」

「マグネシウムの光? 何だったの?」

 

 こうして上手く撒かれてしまった二人は手分けしてジョナサンを探すことにした。カナンは下のフロア、英理佳は上だ。階段を素早く駆け上がり、最上部のフロアまでやってくると、ジョナサンを追い詰めるアノーアと勇の姿が目に映った。

 

「クマゾーを解放しな!」

「もうこれ以上、上には上がれないぞ! ジョナサン!」

「悪いな、今日はお前と遊んでいる暇はない」

 

 そう言いつつも背後が二人に塞がれて、逃げられないことに心の中で舌打ちをする。もはや母親との対峙からは避けられないようだ。覚悟を決めて、ジョナサンは前だけを見据える。

 

「いい加減でクマゾー君を降ろして投降なさい。そうすれば悪い様にはしません」

 

 そう言いつつもアノーアは実の息子に拳銃を向けたままだ。こんな仕事一筋の姿勢が息子に不満を募らせ、こうなってしまったとも分からずに。それに対し、英理佳は「艦長。武器を降ろして、彼の話を……」と説得を促すが、それを遮るようにしてジョナサンは口を開くのだった。

 

「噓をつけぇ! 悪いようにしないなんて、ずーっと言ってきたじゃないか! だけどいつもいつも裏切ってきたのがママンだ!!」

「そんなことありません!」

 

 どうしても自分は母親だと譲らないアノーアに、いっそ思っている事全てをぶつけようとジョナサンは心の奥底に封じていた記憶を蘇らせる。孤独で寂しい日々。あの日だけは必ず帰って来てくれると、信じ待ち続けて裏切られた幼子の気持ち。それでも親は親。子供は親がいなくては生きられない。

 

「八歳と九歳と十歳の時と、十二歳と十三歳の時も僕はずっと! 待ってた!」

「な? 何を……?」

 

 そう言われたジョナサンの中で何かがプツンと切れる音がした。今の今まで目の前の女のことを憎んでいたが百パーセントではなかった。どこかにまだやり直そうという気があるのなら、そうしたかった。だというのに、この期に及んで彼が何に痛み苦しんでいたのかを分かっていないときた。悲しみと恨みの籠った瞳で彼はこう言い放った。

 

「クリスマスプレゼントだろ!!!」

 

 辺りに響き渡った言葉にアノーアは絶句した表情を浮かべ、思わず銃口を明後日の方向へと向けてしまう。

 

「カードもだ! ママンのクリスマス休暇だって待ってた! あんたはクリスマスプレゼントの代わりに、そのピストルの弾を息子にくれるのか!?」

 

 ジョナサンは悲痛な叫びを伝えた後、アノーアの横を通り過ぎていく。これには英理佳は体が凍り付いてしまい、彼をすぐに追いかける気にはなれない。

 

「そんなに忘れてる…………」

 

 勇はすぐに駆けだすが、ジョナサンが去っていた扉がロックされて別の道から行く羽目になった。残された英理佳とアノーアは二人してその場に立ち尽くしている。そのうちに英理佳が子供ながらの意見を呈しようと歩み寄っていった。

 

「だから艦長……」

「何も言うな……。今は一人にして……」

 

 艦長の命により、英理佳の発言は許可されなかった。よろよろと去っていくアノーアの姿に心配しながらも、ジョナサンの追跡・捕縛を続行するのであった……。

 

「勇が言ってたオルファンの抗体ってのは、ああいうのなのかな……?」

 




なんていう光り方をしているんだ(勇)
なんて色!(アノーア)

金ぴかへの当たりが強い方々。
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