ギャルとブレンパワード   作:vespa MDRN

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ジョナサンが呼んでいるのよ!

 ジョナサンの件から丸一日が経過した。結局あの後、クマゾーは解放されて比瑪によって救出された。あの日のことを彼が何も話さないことを比瑪は心配していたが、英理佳は大丈夫だと諭すのであった。

 そんなこともあって昨日、英理佳は全くブレンに事を見てあげられなかったのだ。だから今日はその機嫌を良くしてあげるため、表向きには警戒待機中として朝からずっと一緒に居てあげているのだ。

 

「昨日はホント散々だったんだよ~。ブレンにも全然構ってあげられなくて、メンゴ~」

 

 そう言ってデッキブラシでエリカ・ブレンの体をゴシゴシとこすってあげる。こうするとブレンパワードが喜ぶなんて思いもしなかったが、実際に機嫌がよくなっているのを英理佳は感じ取っていた。しかしブレンは主人のことを心配しているようで、いつも通り瞳を輝かせながら声を出した。

 

「え? ウチが何か思い悩んでる? まさか~……」

 

 とは言いつつも内心ではどこかで両親のことを考えていた。彼女が五歳の頃から家を出て、仕事にのめりこみ出した父と母。軍の関係者で国の為に働いていることはよく分かっている。それでも自分のことをないがしろにした事を許せていないのだ。そんな扱いを受けた子供達は奈落へと、じわじわとずり落ちていく。それはジョナサンが証明した。落ちるとこまで落ちてしまった彼は親元を離れてリクレイマーとなり、母親への復讐を誓ったのだ。

 

「ウチも親に会ったら……」

 

 ジョナサンのようになってしまうのだろうか、そう考えていた英理佳。だが彼女には敵対すべき親がどこで何をやっているのか全く分からない。かといって自分から探しに行こうとも思わない訳だ。考えてもしょうがないと、英理佳は前を向いて再びブレンをこすってあげるのであった。

 

『オーガニック・プレートの動きを探知。各員、非常警戒態勢』

 

 艦内アナウンスが警報と共に流れ出した。反射的に英理佳はすぐにブレンのコクピットへと飛び乗るが「英理佳は待機だ!」というメカニックのひと声で頬を膨らませるのであった。

 

「また留守番~!?」

 

 せっかくブレンを磨いてやって気分もいいというのに、この仕打ちかと足を投げ出してシートに寝そべる。英理佳がふてくされている間にカナン・ブレン、ヒギンズ・ブレンは、数機のイランドと共に夕焼けの空に飛び立っていった。その様子を眺めていた、比瑪とアカリ、クマゾー、ユキオは小さくなっていくイランドとブレンパワードの影を見送る。

 

「比瑪ねぇちゃんは?」

 

 ブレンパワードの出撃を前にアカリが尋ねると、比瑪は「勇が雲隠れ。一緒にプレート探しに行かなきゃならないからね~」と相方の不在を明かしたのだ。

 

「どこでサボってるのかな~?」

 

 一番年上のユキオは、まったくあいつは、という様子で腕を組んで愚痴を漏らす。するとクマゾーも同じようにして「サボってる!」と復唱するのだった。何を言ってもしょうがないと、比瑪は待機中の英理佳の元へ向かいだした。

 

「ねぇ? 英理佳」

 

 エリカ・ブレンのコクピットから生えている健康的な足に向かって比瑪は話しかける。すると足がもぞもぞと動き、ブレンのシャッターから英理佳が「どったの比瑪?」と顔を覗かせた。

 

「勇を見なかった?」

 

 そう問われて英理佳は一旦、辺りを見回してみるがそれらしき姿は見当たらないので首を横に振る。彼女は一日中ずっと格納庫に居たが勇を一度も見かけていない。ユウ・ブレンと会った時も反応が鈍かったのを思い出す。きっと主人がやってくるのを待ちわびていたのだろう、ただ一点だけを凝視していた。

 

「何かあったカンジ?」

「なーんにも。いつものワガママよ」

「そっか。それよりさぁ聞いた? アノーア艦長のこと」

 

 そう言われて比瑪は昼間の出来事を思い返す。勇から知らない方がいいと、詳細な事は遮られてしまったが、どうやら憔悴しきって業務も満足に行えないらしい。ジョナサンの一件が原因なのは火を見るよりも明らかだった。

 

「艦長さん、大丈夫かな……」

 

 比瑪は視線をブリッジのある方へと向けて憂いた表情を浮かべる。対して英理佳は険しい表情で、いい薬にはなったはず、と今後のアノーアの動向に目を光らせるつもりでいた。敵であるリクレイマーの息子とどう向き合い、対峙していくのか。その動向を追っていけば、親が何を思って子供と接しているのかを知る事ができ、自分も少しは両親を許せるかもしれないと思ったからだ。

 海底から宙へと手を伸ばすオルファン。だがその過程で地球上のオーガニック・エナジーを吸い取って死の惑星にしてしまう。そんなものを護り、崇めるのがリクレイマー達、という認識で英理佳は今まで彼らを戦い続けていた。だが勇やカナン、そしてジョナサンの事を知ってその考えが揺らいできたのだ。

 

「こんなでかい船の艦長やってるんだよ。すぐに立ち直るよ、きっと」

 

 そう言って身軽にひょいっとコクピットから出ると、英理佳は格納庫の出入り口へと歩いていく。比瑪がその姿を目で追いながら「どこ行くの?」と問いかけると「ちょっとブリッジに」と返ってくきた。

 暫くして英理佳と比瑪はブリッジへと入室する。そこにはアノーアの姿は無く、代わりに副長が指揮を執っていた。どうやらノヴィス・ノアをオーガニック・プレートが追尾しているようだった。オペレーターと副長が何やら会話を繰り広げている。

 

「プレートが本艦を追尾している?」

「イルカが船を追うような感じだと……」

「それってリバイバルしたがってるんじゃないですか?」

 

 アンチボディのリバイバルに立ち会った比瑪だからこその意見だった。あの時もプレートは町を縦横無尽に駆け巡り、最終的に彼女の目の前で落ち着いていた。ヒメ・ブレンのリバイバルはその直後の出来事だったのだ。

 

「そーいうのがわかるんです。比瑪って子は」

 

 よくわからないといった表情の副長達に英理佳が説明をしようとしたその時、ブリッジの扉が開いて誰かが現れる。

 

「状況はどうなっている?」

 

 やってきたのはいつも通りといった様子のアノーアだった。彼女の復帰にブリッジのクルー達は安堵の声を上げた。それだけ心配されていたと同時に信頼も寄せられていたのだ。そんな中で英理佳はちらりとアノーアと目が合ったが、すぐに逸らして口をつぐむ。その気まずさを追い払う様にしてブリッジのモニターにキメリエスのレイト艦長が登場した。

 

「コースのデータを送ります。プレートの位置はノヴィス・ノアの後方、約百キロです」

 

 彼の送ったデータによるとプレートは真っすぐノヴィス・ノアへと向かっているようだった。それ自体が移動することは珍しくも無いのだが、特定の何かを追跡しているというのは前例がない。何かに引き寄せられているのか、それともプレートやブレンパワードと共鳴しているのか。

 

「双子とイランドを出したのか?」

 

 アノーアが怪訝そうな顔をして尋ねると、副長は「呼び戻してます。ラッセと勇を出します」と次の行動計画まで提案して見せた。

 

「任せる」

「ウチは番犬ですよ」

 

 そう言って拗ねた態度で壁に持たれると、ブリッジの窓から飛んでいくブレン達を見送る。そうして数分が経過した頃、ラッセからプレートの発見報告が飛び込んできたのだった。送られてきた映像には輝きながら海中を進むプレートの姿が。アノーアはその様を"海中を走る不知火"と表現した。そんな中で突如として副長は「なんだって!?」と声を荒立てている。

 

「どうした?」

「グランチャーの影があるようだと。艦長!」

 

 副長からの報告にアノーアはすぐさま指示を出すのだが、その後にブリッジを後にするのだった。それを不可解に思った英理佳はその後をひっそりとつけていく。向かう先はウェッジやイランドが駐機されている飛行甲板だった。

 

「何のつもり?」

 

 航空機の影に隠れながらアノーアの様子を伺う英理佳。直接指示を出すために来たのかと思いきや、発進準備中のウェッジに飛び乗って操縦し始めたではないか。

 

「ちょっと艦長!」

 

 急いで英理佳が止めに入るも既に遅く、ゆっくりと垂直離陸を始める航空機の風圧にを前にして、体はバランスを取ることで精一杯。次に彼女が目を開けた時、ウェッジはヒメ・ブレンと共に上空へと飛翔していた。

 

「マジでやるつもりなんだね……だったら!」

 

 アノーアの行動を最後まで見届けようと、英理佳はすぐにブレンの元へと向かい、コクピットへと飛び乗る。ささっとモニターや計器を立ち上げると操縦桿を深く握りこんだ。そんな姿にエリカ・ブレンも気分絶好の様子。

 

「母親の意地とやら。ウチらにも見せてもらおうか」

 

 放たれたオーガニック・エナジーが緑色の光輪を作り出し、ブレンは力強く離陸する。その勢いは凄まじく、数秒としない内にプレート回収に向かったウェッジに追いついた。出撃したのはアノーアの機を含めて計三機。それらは陣形を組むようにして飛行している。

 

「アンチボディの影? あれはユウ・ブレン!」

 

 プレートを見張っていると思われるブレンの姿を英理佳は捉える。しかし彼女はラッセ・ブレンを確認できなかった。勇と一緒に出撃したはず、と辺りを少し探してみるが影も形も無い。

 その間にウェッジ達はミサイルによる牽制射撃を開始、プレートの回収作業に入りだした。水しぶきが上がり、プレートが海から舞い上がる。

 

「勇!」

「英理佳なのか!? あのウェッジにはアノーア艦長が!」

 

 ユウ・ブレン、エリカ・ブレンの二人が合流し、互いに向き合った。

 

「知ってる。それでラッセさんは?」

「カナン達の援護だ。それよりも、あのビー・プレートで捕獲できると思うか?」

「女の意地ってのが、あるんじゃない?」

「だとしても、あれは異常だ。たかがウェッジ三機で収められるはずがない!」

 

 英理佳と勇はウェッジとプレートが繰り広げる格闘を観戦する。今のところ、円盤の暴走を抑え込めているようだが、流石に推力不足かウェッジもそれ以上は出来ない。そのうちプレートは捕獲用ネットを破き、ウェッジを引きずりながら、ノヴィス・ノアの方向へと飛ぼうとする。ウェッジは獲物に竿の主導権を握られる釣り人のように荒れ狂うことになってしまった。

 

「ワイヤーを切れ!」

 

 咄嗟の勇の助言により二機はワイヤーを切り離して自由になるが、アノーアの乗る機は頑なにそれをしようとしない。何度も振り回され、海面に叩きつけられ、キャノピーが剥がれ落ちる。途中までは干渉せずに見ていようと思っていた英理佳も、この惨状で流石に声を上げざるを得なくなった。

 

「艦長! 諦めてワイヤーを!」

「誰がプレート如きに引きずり込まれるかぁ!!」

 

 アノーアがそう叫んだのと同時にプレートは更なる輝きを放つ。それに魅入られたのか彼女は両腕を大の字に広げて光を全身で受け止めようとする。

 

「ああ! あの光はジョナサンも見た光! なら同じ光に包まれた私なら、ジョナサンに本当の母親の愛を見せてあげられるわ!!」

 

 彼女は今にも振り落とされそうなウェッジの中でそう言うのだった。傍から見れば気が動転しているようにしか思えない状態。だがアノーアにとっては、息子との和解の一歩を踏み出せるかもしれない、幸福感に満ちた感情が溢れていた。

 そんな姿を見て勇はアノーアに言葉を投げかけるが一切届いていない。プレートの光が持つ力に当てられて、ジョナサンが呼んでいる、等ととてもそうは思えないことをうわ言の様に口にするのだった。

 

「英理佳! 左右からウェッジを抑え込むぞ! その後でワイヤーを切る!」

「オッケー!」

 

 アノーアの乗るウェッジにエリカ・ブレンとユウ・ブレンが左右から近づく……だがその瞬間、ウェッジは空中分解をしてしまう。コクピットに居たアノーアはプレートに引き寄せられるようにして投げ出されていく。一方でブレン達はプレートの放つ、強力なオーガニック・パワーに吹き飛ばされるのであった。

 

「もう何がなんやら!」

「プレートのオーガニック・パワーが強すぎるのか……」

 

 アノーアを引き込んだプレートは移動を止め、海水で球体のバリアーのようなものを作り出した。それは水晶の様に輝いて、獣のような荒々しい風を巻き起こす。

 流石にお手上げかと思われたが、ここユウ・ブレンの果敢な性格が現れる。なんとあのバリアーの中に突入してアノーアを救おうと言うのだ。勇も一時は戸惑ったが自分のブレンパワードを信じることにした。

 

「やれるな? ブレン!!」

 

 その言葉に共鳴するようにユウ・ブレンはオーガニック・パワーをため込む。そしてみるみるうちに速度を上げていき、水晶の中に突っ込むのであった。

 

「ホントに行っちゃった! ウチらも行かないと、ほら!」

 

 尻を叩かれたエリカ・ブレンは渋々とユウ・ブレンの後を追っていく。同じようにして水のバリアーを抜けると宙に浮くアノーアと、それを捕まえようと手を伸ばすユウ・ブレンの姿が視界に入った。

 

「ジョナサンが呼んでいるのよ!!」

「母親ごっこはやめろ!」

 

 勇が腹の底から声を出して叫ぶとプレートは共振を起こす。ユウ・ブレンがアノーアをつかみ取る一歩手前まで迫った時、プレートは彼を部外者だと認識したのかブレンごとバリアーの外へとはじき出していく。

 残された英理佳は慎重に距離を詰めた。あのプレート確実にアノーアと共振している。彼女の機嫌を損ねればプレートの力で何をされるか分からない。それが英理佳には理解が出来ていたが、その心は勝手に言葉を発していた。

 

「人間生きていれば、やり直せる! ママが駄目なら、パパにでもなればいいでしょ!」

「母親でもないのに何がわかる!」

「わからないけど、親に見捨てられた子供の気持ちはわかる!」

「母親の愛も理解しないでぇ!!!!」

「何ぃ!? うわっ!!」

 

 完全に拒絶された英理佳は、やはりブレンと共にアノーアの聖域から追い出された。その時の衝撃でエリカ・ブレンは手裏剣の様に回転しながら海面へと不時着。コクピットにいた英理佳は上下左右が分からないまま気絶していた。

 

 

 

***

 

 

 

 英理佳が次に目覚めると同時に朝日が昇る。彼女は昨夜、ブレンのコクピット内で気絶していたのを医務室まで運ばれたのだ。

 

「目が覚めたようね」

 

 微睡んでいる英理佳に声を掛けたのは船医のアイリーン・キャリアーだった。専門は整体、鍼、灸等の東洋医学だがメンタルサポートも受け持っている。国連軍のお墨付きを頂いた優れた医者だ。

 

「ウチ、何でここに……あっ!」

 

 彼女は昨晩の記憶を次第に取り戻していく。プレートの生み出したアノーアの領域が凄まじく、自分は拒絶されて吹き飛ばされた事。彼女は最後までジョナサンが呼んでいると信じて疑わず、最後にはプレートと共に姿を消した事。

 

「アノーア艦長は!?」

 

 そう言って英理佳はがばっと飛び起きると、アイリーンは「残念ながら、今のところ行方不明ね」と回答しながら怪我人の体を再び寝かせた。どうにかしてアノーアを救えなかったのかと英理佳は考え込む。もっと歩み寄るような言葉を掛ければよかったか。それとも彼女を肯定すればよかったのか。終わった事を悩んでもしょうがないと、わかっているのにそうしてしまうのが人だ。

 

「ジョナサンが何とかって言ってたけど……あのプレートは艦長に都合のいい幻を見せていたのかな」

「そういう考え方もできるな」

 

 すぐ傍から勇の声が聞こえて驚いた英理佳は飛び起きた。彼女がアイリーンがいた方向の反対側へ目をやると、椅子に座っている勇と比瑪が映る。

 

「い、いつからそこに!?」

「昨日からよ。勇ってば心配だからって……」

「そんなんじゃない。もしビー・プレートの影響を受けて、アノーア艦長のようになったら面倒だからだ!」

 

 勇は何を馬鹿なことを、と声を張り上げて立ち上がる。その様子を見て英理佳と比瑪は、男の子は素直じゃないなぁ、と顔を見合せて笑うのであった。

 

「何も無いなら、それでいい」

 

 そう言い残して勇は医務室を後にする。つんけんしていることが多い彼だが、その本当の気質は優しいのだと英理佳は知った。そういう人だからこそ、ブレンパワードの気質があるのかもしれない。

 

「それだけの元気があれば大丈夫そうね」

 

 アイリーンの微笑みに「アイリーンさんのお陰っすよ」と英理佳は同じようにニコリと返す。だがその表情の裏側では密かにアノーアのことを憂いていた。プレートに引き寄せられ、その後どうなってしまったのかを考えていたのだ。ジョナサンへの償いも果たさずに消えてしまうことが解せなかった。

 かと言って見つかるかどうか分からないアノーアをずっと探すために、ノヴィス・ノアの歩みを止めるわけにはいかないのだ。オルファンは既に浮上を開始している。地球を死の星にしないため、今日もノヴィス・ノアは進み続ける……。

 




 毎回サブタイトルで悩みます。基本的にはキャラクターのセリフにしてますが、サブタイトルとしての意味を持たせるためにわざわざ喋らせるのが難しいです。そのため結構、頭を空っぽにして決めていたりしてますw
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