ある朝、エロステータスが見れるようになった勇者くんと仲間(♀)たちのお話。

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仕様です

 

 この世界は狂っている。

 さも当たり前かのように、それでも歪みは確かにそこにあったのだ。

 

 僕、こと勇者クレス。

 世界を救う宿命を背負った英雄クレス。

 ある朝、とあるスキルが僕の身体に宿った。

 

「今朝はよく冷えますから、身体が温まる朝食を用意しました」

 

 僕の……一人目の仲間。

 こんな無謀な旅路に進んでついてきてくれた、神官少女よ。

 その温かなシチューを皿によそいながら、いつもと変わらぬ、温かな笑みを向けてくる君よ。

 

「あの、クレス様? 顔色がすぐれませんわ……?」

 

 あるいは――彼女とめぐりあわせた運命よ、神よ!

 僕は今でも鮮明に思い出せるのだ、彼女と潜り抜けた幾多もの危機を!

 あれは彼女が異教徒たちに囚われてしまった時のことか。僕がどうにか彼女を外にまで連れていくことはできたけど、異教徒たちの追手を撒くことが出来なくて、僕が囮になることを選んだんだっけかな。

 

 あの時の彼女は綺麗な顔をこれでもかというくらいぐちゃぐちゃにして、僕に縋ってきたものだ。

 死なないでくれと、置いていかないでくれと。

 まあ僕は最強なので奇跡でもなく必然的に生き残りはしたが、しばらく彼女が僕の傍から離れてくれなかったのを覚えている。

 僕にとっては妹のようで、でも家族よりも大切だと間違いなく言えるほどの、一番の仲間。

 

 旅の間は献身的に僕の世話をしてくれるんだ。

 僕よりも早くに起きて朝食の準備をしてくれるし、ダンジョン攻略の予定があれば装備の調整までしてくれる、凄く真面目な子で。

 かと言ってお堅いわけじゃなく、男慣れしてないのか、僕と手が触れると顔を真っ赤にしたり、褒めるとはにかみながらテレテレしたり――。

 

 そう。

 大切で、可愛らしい、僕の仲間。

 僕は、そんな彼女の――頭上に表示された数字の羅列を見て、

 

 

◇◇

 

 ジョブ:神官

 経験数:398

 

◇◇

 

 

「オエーーーーッッッ!!」

「く、クレス様ーっ!?」

 

 盛大に吐き散らかしたのである。

 

 

 

 

 クソしんど。

 ありえへんたわけディスティニー。

 意味が分かりません。仲間がとんだビッチでしたって?

 

「死にたい」

 

 通行人のご婦人がぎょっとした目でこちらを見てきた。

 頭上の数字――経験数は12。小さな赤子を抱えており、道の先には夫と思しき若い男性が。

 

「398……? えぇ……?」

 

 赤ちゃんいる奥さんを優に超えてるんだけどウチの仲間。

 なに398って。どうしたらそこまで数字が伸びるの? パワーレベリングでもしてきたの? 僕が何一つ勘付かないまま?

 

「……いや、ある……! 心当たり、今思えば……!」

 

 そう、そうだ、彼女は僕より早起きで、それに加えて夜は僕より遅く寝るのだ。

 神への祈りだとか、教会から出される課題への勉強とか、色々な理由を付けては僕が先に寝るのを待っていた。

 それで時折、僕が早起きすると、彼女は顔を赤くして、どこか疲れたような、汗の香りを漂わせて、誤魔化すように笑っておはようと挨拶してくるのだ。

 

「僕が寝静まった夜に……だと!?」

 

 日中は一緒に居ることが多いから、そういうことが出来るのは夜に限られる!

 つまり彼女は、僕が何も知らず寝コケているところでレベリングに励み……何事も無かったかのように朝僕に笑いかけてくる、ってコト!?

 

 終わりだよこの勇者パーティ。

 辛いってもんじゃない。HPが削れるというか、最大値ごと持ってかれるような喪失感というか。

 いや、分かる、分かってる、あくまでパーティメンバー、それも大きな使命を背負っての旅路、プライベートに僕が一喜一憂するのも気持ちが悪いってことは。

 でも僕死にてえよ。それは本音だよ。泣きそう。

 

「……そ、それでも、あの子は……ずっと献身的に尽くしてくれていた。素行がどうあれ、彼女は大切な旅の仲間だ」

 

 思ってねえから。

 結構いい雰囲気じゃねとか、僕らお似合いじゃねとか。

 ちょっと王国の記者に話を聞かれた時とかに「彼女となら、どこへだって行けます(キリッ」とか言っちゃったけど、期待とか何一つ無かったから。

 マジ勘違いNG。いやホント、色々な意味でね。つら……。

 

 今日は何も言わずに飛び出してきちゃったけど、まあもともと休みだったしな。

 このまま遠くに行ってみようかな。

 誰とも会いたくねえ。

 

「あれ、クレスじゃん」

 

 神よ……。

 こういう時に限って知り合いに出会ってしまうとは。

 僕は努めて表情を繕いながら、声がした方に顔を向けた。

 

「……ん、あに、私のことは顔も見たくないっての」

「いや……」

 

 不機嫌そうな声。

 その、別にね? 怖いとかじゃなくて。

 

「元気、ない?」

 

 察しが良い彼女から掛けられた声。僕は思わず反対方向の空を仰いだ。早朝の雲一つない空である。

 僕が今活動拠点にしているこの街。この場所で彼女と同じ空を見上げることができるなんて、あの頃は思ってなかった。

 

 彼女は今でこそ人の姿を取っているが、元は魔族、僕ら人類の敵である存在だ。

 魔族の特徴である大きな角も、尻尾も魔術によって巧妙に隠されており、高名な魔術師でもそれを見破ることは困難であろう。

 彼女もまた、僕の仲間。……だけど、仲間に加わる以前は、僕らは敵同士だった。

 

 五魔将と呼ばれる、魔王軍幹部を姉に持つ彼女。

 惜しくも才は姉には届かなかったが、人類にとって脅威であることに変わりはなく、ほとんど幹部と同列視されるほどの強敵だった。

 

 僕は何度も何度も彼女と戦った!

 最初の戦いは僕が圧勝したのだが、それからというもの、ここぞというタイミングで戦場に乱入してきては、僕だけを狙って大魔法をぶっ放してくる迷惑女!

 あと一歩まで追い詰めた魔族を取り逃がしたことなど一度や二度じゃない!

 

 僕らが分かりあうようになったのは、五魔将である姉に追われている彼女を助けた時だろうか。

 

 お節介だったとは今でも思う。

 なんなら僕も追われてたからね、魔王軍に取っ捕まってたし。

 でもまあ、あわや殺されるってところを間一髪で助け出して、その場限りのコンビで彼女の姉を打倒したんだ。

 

 いがみ合っては衝突の毎日、分かりあう日なんて二度とこないと思っていたんだけど、これが不思議なもので、僕らってば凄い息が合ってね。

 彼女も姉を超えたことで口が軽くなったのか、その晩、僕に色々なことを聞かせてくれたんだよ。

 悩みや、望み。

 

 僕は最高だからね、それを叶えてあげるから一緒に来いと誘ったんだ。

 彼女は空っぽになってしまったように見えたから。

 

 かつての敵も、今やただの町娘。

 しかも彼女、今は花屋の手伝いをしているらしい。

 そう、今も、その両腕にはいっぱいのお花を抱きしめて、彼女は笑うのだ。

 幸せいっぱいという風に、僕に笑いかけてくるのだ!

 

 

◇◇

 

 ジョブ:魔法剣士

 経験数:266

 

◇◇

 

 

「ぐぁぁぁあああああああああああああああ――ッッッ!!!」

「ひゃっ、な、なに!?」

 

 脳が! 脳が壊れ、こわ、壊れた。

 頭を押さえて髪を掻きむしる。そんな馬鹿な! こんなことがッ、許されていいのかッ!?

 

「ど、どうしよ、クレス、今人呼ぶから……!」

 

 ――ッ、冷静になれ、クールになるんだ、俺!

 考えろ、彼女とはもともと敵! 僕が歩んできた人生とは全く別の道から交わった子なんだ!

 どんな生き方をしていようと、それも魔族としての価値観の元生きてきたからだろう! 僕が、僕がこんなにも苦しむ理由は無いんだ!

 

 例え、そう、大雨の中、遭難した山の中で二人きりの時、致し方なく裸で温め合ったあの時、「お前以外の男には、私のこんな身体は晒さないし、触らせない」なんて言ってた情景が思い出されようとも、それは理由にはならないのである!

 

「なんともォォ……ねぇぇよォォ……ッ!」

「姉さんが私に裏切られた時みたいな声出すじゃん……」

 

 別に……ねえよ!

 なんも、ねえよ!

 悲しくもなんとも、ねえよ!

 これは涙なんかじゃ、ねえんだよ!

 

「ごめんね、ぢょっとひどりにじでぐれる?」

「えっ、あっ、うん……?」

 

 あーうあー。

 僕は駆けた。

 つらすぎつらすぎ。

 勇者に対する仕打ちじゃねえよこれ。

 

 花売ってそういうコト!?

 とかちょっとでも思った僕のことを殺したい。

 

 

 

 

 エロステータス。

 僕の見た数字とは、つまりそういうことなのだろう。

 ある日突然スキルに目覚めることはあり得ることだとは知っていたが、こんなスキルは聞いたこともない。

 というか知りたくも無かったよね。

 

「266ぅ……?」

 

 何、魔族ってそういうの緩いの?

 いやでも裸は僕以外に見せないって……リップサービス? マジ?

 あの子の素顔を知ってるのは僕くらいだろうなあ……(ニチャア みたいになってた僕がバカみたいじゃん。バカかな? バカだね。

 

「やっていけなくない?」

 

 無理じゃない? これからどんなかっこいい言動をしたとしても(でもこの子経験数3桁なんだよな……)ってなっちゃうよ?

 シチュとしては理解できるけど現実的に考えると脳破壊以外の何物でも無くない? 魔王軍の攻撃でもここまで痛いことないよ?

 

「他の町の住民は普通なのに……なんであの子たちだけ」

 

 数字がバグっているのではと考えもしたが、どうにも正常に働いているようで。

 赤ちゃんや子供は0として表示され、そこから歳を重ねていくごとにちらちらと経験者が増え、妙齢の女性なんかは2桁の経験数があったりする。

 3桁はいねえよ。どうやって至るんだよその領域に。僕もう分かんねえよ。

 

「僕が童貞なのがおかしいだけか……?」

 

 でも、僕くらいじゃまだ経験してない子の方が多いだろうし……。

 もしかしたら戦場に身を置くと自然と経験も増えていくのだろうか。

 ……考えたくないが、これまでに出会ってきた何人もの友もまた、3桁の経験を持っていたりもするのだろうか……?

 

「……クレス?」

 

 ベンチでうなだれていた僕に、少女が不安そうに顔を覗き込んできた。

 特徴的な三角帽子。きらりと光るルビー色の瞳。

 

「こんなとこにいたんだ。その、あの子が探してたよ、あなたのこと」

 

 僕の視線は自然と彼女が持っていた大杖の先、魔法石へと移っていた。

 

「そっか、まあ、ちゃんと帰るよ。それより君は……そろそろこの街には慣れた?」

「……うん、まあ、まだ来たばっかだけど、良い街だとは思う。変な目で見られないし、それに、く、クレスもいるし」

「あはは、嬉しいこと言うなあ、前はいつも「この変態ゆーしゃ!」って怒鳴ってきてたのに」

「ま、前って、ずっと前の話でしょ!? 私だってもう大人なんだから!」

 

 いつも通りなやり取りに、僕はつい笑いを零す。

 そうだそうだ、彼女との会話はやっぱりこうでないとな。

 

 魔法使い。魔女の弟子。

 彼女は様々な名で呼ばれるが、一貫して人々の認識は『忌み子』であった。

 類稀なる魔力量、卓越した魔法の技量――そして彼女は、少しばかり世間知らずだったのだ。

 

 この国はもっと広かったと、今でも誰かが口にする。

 地図を広げてみればすぐに分かる。海に面した国家の一部が、不自然に削られていることに。

 実際に足を運んでみれば、そこが()()()()()のがよく分かる。突発的かつ不可避の魔法災害。目の前の小さな魔法使いは、大陸の一部を消し飛ばした張本人なのだ。

 

 人々は口々に彼女への罰を求めた。

 だが真実は、彼女は国内の利権を求める争いに巻き込まれ、利用されただけに過ぎなかったのだ。

 その小さな肩に、人殺しの業を背負わせ、罪悪感を利用して兵器として利用されていた彼女を助け出したのが、最良たる僕ってわけ。

 

 彼女の顔に笑みが戻るまではかなり時間がかかったが、今ではもうすっかり素が出切っている様子。

 今の彼女は自分の力を完璧に制御し、人類のために大きな力を振るう決意を固めた、間違いなく英雄の一人である。

 じきに、彼女自身が『魔女』として認識されるようになるだろう。それだけ、彼女の活躍というのは凄まじいものがあった。

 

 だがまあ、人並み外れた活躍なだけあって的外れな噂もたくさん流れている。

 やれ妙齢の女だとか、人狼だとか、魔族の血が流れてるとか、人の姿をしてない化け物だとか。

 それを聞く度むきになるこの子には悪いが、僕としてはなんだか優越感を感じる瞬間だ。

 

 なんせ、僕だけが知るんだ。

 強大な力を持って、魔王にも、英雄にもなれる素質を持ったこの子が、ただの年端のいかぬ少女で、僕にからかわれるたびに表情を七変化させる、普通の女の子なんだってことを。

 

 

◇◇

 

 ジョブ:魔法使い

 経験数:3

 

◇◇

 

 

「――ッッッッッ!!!!」

 

 息が止まるかと思った。てか止まった。

 3。3? 一桁だね、普通でよかった――ならねえよ! このくらいの数字が一番効くんだわ!

 

「あ、クレス? ど、どうしたの、怖い顔して……」

 

 こ、こんな小さい子が。

 人間不信に陥っていて、今でも人見知りなこの子が。

 3、だと?

 

「大人にィィィ……なったなァァァ……!!」

「そのセリフ言う顔じゃないよぉ……!」

 

 いや、早い子はこのくらいでもう経験するものだろう。

 それに、僕に着いてくることが多かったからか、同世代のこと関わることなんてほとんど無かったんだ、戦場から離れた今、出会いがあったりするのかもしれない。

 だが――そんな――娘が自分の元を離れて行ってしまうような感覚。

 この辛さは……さっきの二人とはまた違った角度から僕の心を刺してくる。

 

 僕か。

 僕だけが、遅れているのか。

 誘惑はいっぱいあったさ。

 でも使命のためにって自分を抑えてきて。

 誰でもいいから応えておけば、こういった時でも余裕を保つことができたのかな?

 

 いや。

 うん。

 まあ。

 いいさ。

 受け入れよう。

 これが彼女たち。

 でも何も変わらない。

 そもそも、僕が知り得ちゃいけない情報だったわけだし。

 忘れよう。

 そしてとっととこの戦争を終わらせて。

 遠くに行こう。

 そう思った。

 

「ね、ねえ、クレス?」

 

 意識が飛びかけていたところを呼び戻される。

 

「きょ、今日は、私、何もないから……また、クレスのとこ、行ってもいい?」

 

 僕の泊まってる宿か。

 それは構わないんだけど……結構頻繁に来るな、この子。

 まだこの街にも来たばかりで不慣れだからだろうか。これで4回目くらいか?

 

 まあ広さだけはあるからな、あの宿。

 遊びに来るくらいなら全然問題ない。

 僕は頷くと、彼女はパッと花が咲いたように笑う。

 

「でも3なんだよなあ」

「えっ?」

 

 ボソッと思わず口に出してしまった瞬間、僕は僕を殺してやろうかと思った。

 

 

 

 

 3人の仲間と、僕。

 とりあえず同じ街にいる仲間を呼んで、一緒に食事をした。

 今朝急に飛び出したことを彼女に心配されてしまったが、適当に言い訳を述べて事なきを得たのだった。

 

 夜も更けて、僕は思った。

 まあいいかと。

 あの子たちと一緒に居るのは楽しいもんだ。

 勝手にショックを受けたのは、まあ僕の気持ち悪い部分が出たからで。

 結局のところ、彼女たちと一緒に居るのは仲間である以上に友達だからだ。

 そういうの、貴重だろ。

 このご時世なんだしさ。

 

 さて。

 僕は規則正しい生活を心がけている。

 生活バランスを崩してしまうと、戦いのコンディションに影響してしまうからね。

 とはいえ、子供のころから続けている習慣なだけあって、寝る時間は周りよりも早い。

 おかげさまで、まだ話したりないのであろう女性陣からはじとっとした目線を受けたりもした。そんな目をしたって、仕方ないじょのいこ。

 

「私たち、つい騒がしくしてしまうかもしれません。クレス様、それでも大丈夫でしょうか?」

 

 おずおずと、彼女は聞いてくる。

 僕は布団をかぶりながら答えた。顔だけ向けると、彼女が膝に置いている手鏡が見えた。

 

「大丈夫だよ。僕抜きで話したいこともいっぱいあるだろうし、好きなだけ騒いでいいからね」

 

 徐々にやってくる眠気。

 僕はゆっくりと瞼を閉じながら、つづけた。

 

「……僕は一度眠っちゃうと、何されても起きないからさ」

 

 まったく、困った体質だよね。

 敵意とかを向けられれば起きられるんだけど、ベッドから落ちても寝続けられるくらいの鈍感野郎だから。

 

 瞼を閉じきる寸前。

 彼女たちの視線が熱を帯び、口角が上がったような気がしたのと同時。

 

 手鏡に映る僕の姿。

 その鏡面に、何かが浮かんでいるような気がした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 ジョブ:勇者

 経験数:2978658

 

◇◇


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