冒涜的なヒーロー   作:月ノ蛇

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もう少しで夏休みが終わるので初投稿です。

鼻水と涙がやばすぎて時間通りに投稿できませんでした。1日寝ればよくなった。

前回の話の時系列を間違いました。すみません。ちゃんと読んだら襲撃終わってから1日経った2日目に神野区の悲劇があったんですね。そこを失念してたので少し改変しました。内容的には変わらないし描写も書き加えておらず最低限わかる様にしただけなので前話を読まなくても内容はわかります。


1人の少女の為なら命くらい賭けられるだろ

林間合宿から2日経った日。緑谷の病室には多くのクラスメイトが集まっていた。

 

「え、夢見くんを助けに…?」

「ああ」

 

切島が言うには八百万と泡瀬*1が襲ってきた(ヴィラン)の1人に発信機をつけることができたそうだ。そして切島と轟はそれを利用して太陽を助けに行く作戦を立てたという。

 

「つまりその受信機を作ってもらう……と?」

「ああ、そうだ」

「だが、それはプロヒーローに任せることだ!生徒が出ていい舞台ではない!!」

んなもんわかってるよ!!でもな、何もできなかったんだよ!!!ダチが狙われてるって言うのに俺は何もできなかった!!ダチなんだよ!!みんなは違うのか!?今なら、今ならまだ助けられるんだよ!!なあ、緑谷!!今ならまだ手が届くんだよ!!」

 

切島の今にも泣き出しそうな必死な表情に誰もが口籠る。

ワナワナと震えた飯田が両方の拳を握りしめて叫ぶ。

 

「ふざけるのも大概にしたまえ!!」

 

今にも切島に掴み掛かりそうな飯田を障子は手で静止する。

 

「俺だって悔しい。目の前で連れて行かれたからな。だが、これは感情で動いていい話ではない。戦闘許可も解除されているしな」

「そうよ。みんな夢見ちゃんが連れ去られてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれほど正当な感情であろうとまた戦闘をしようと言うなら…………ルールを破ろうものならそれは(ヴィラン)と同じものなのよ」

 

誰も何も言うことができずその場が静かになる。

丁度、タイミングが良いのか悪いのか医者が入ってくる。これ以上ここで話を続けることは不可能のため皆病室を出て行く。

最後に切島がボソリと緑谷に呟く。

 

「行くなら今夜だ」

 

 

深夜、緑谷は私服に着替え病院前にやって来た。

もう既に切島、轟、爆豪、八百万がいる。

 

「かっちゃん……」

「うっせぇ、俺はあいつに借りを作りたくねえだけだ」

「じゃあ、行くか…」

「待て」

 

背後から飯田の声が聞こえる。

 

「…なんでよりにもよって君たちなんだ……俺の私的暴走を止めてくれた…共に恩赦を受けたはずの君たち2人が……」

「飯田くん…」

「なんで俺と同じ過ちを繰り返そうとしている!?あんまりじゃないか!!」

「うるせぇ!!ゴタゴタ抜かしてんじゃねえ。そんなこと言うためならさっさと帰れや!!」

「なっ、爆豪くん。君はあいつらの標的なんだぞ!?行ったら君まで……」

「俺は悔しいんだよ!!なんであの時俺が解放されたか。考えればすぐにわかんだよ!!あいつが何かしたに決まってる……俺は借りは作らねえんだ」

「……」

 

「私も行く」

 

病院から葉隠が歩いてくる。飯田は露骨に驚いた様子で葉隠を見る。

 

「なっ!?葉隠くん。どうして君まで…」

「……私のせいなんだよ」

「え…」

私のせいなんだよっ!!太陽が連れ去られたのは!!………仮面の(ヴィラン)がいってたの。お前の身代わりだって。お前を人質に取って無力化したって!……私、人質にされてたんだよ。気がついたら捕まってて、気がついたら太陽に助けられたの。太陽は自分が標的だってわかってたのに、捕まったら何されるかわからないのに、私の代わりに行っちゃったの…… 私がちゃんと逃げてたら、捕まらなかったら、太陽が捕まることもなかったの!…だからッ!!だから……私も行かないといけないの!!私が…私がやらないと………」

 

葉隠の立っている地面には涙の跡ができる。今にも崩れてしまいそうなほど葉隠の心はボロボロだった。誰もが葉隠の表情を見ることができなくてもその感情を汲み取ることができる。

飯田はその意志の強さに諦めたのか眼差しをさらに強くして言い放つ。

 

「なら、俺も連れて行け」

「え…」

「俺だって夢見くんに助けられたさ。下半身付随の兄を救ってくれた。みんなと同じくらい悔しんだよ!!みんなが俺の言うことを聞かないなら俺だって行ってやる」

 

長野の病院から2時間かけて緑谷たちは横浜へと辿り着いた。

人の多い中心街。緑谷たちの格好ではどう足掻いても高校生程度にしか見られないだろう。また、ここの何処に(ヴィラン)が潜んでいるかもわからないため八百万の提案で変装をすることになった。

慣れない変装のためうまくロールプレイをできない中緑谷たちの耳に雄英の記者会見が入ってくる。

誰もがその映像に見入る。そして、行方不明者を1人出したという事実に一般人はまるでヒーローが悪いかのように声をあげる。

それはまるで弱いものいじめの図。自分たちが守られていると言う事実を棚に上げて石を投げる。

守られ続けて危機感を失っている社会は良い面を当たり前と捉えて悪い面に対して鬼の首を取ったように非難する。

この光景を太陽が見たら「いけない!!こんな腐ったクズどもは滅ぼさなきゃ」とでも言うのではないか。

 

「悪者扱いかよ……」

「クソが」

「悪いのは(ヴィラン)じゃないの…?」

 

社会経験が浅く社会というものを正しく理解できていないエリートである緑谷たちにとっては信じがたいこと。

緑谷たちにはその事実が深く伸し掛かった。

 

「発信機が示すのはここですわ」

「ただの廃倉庫じゃねぇか…」

「木の葉を隠すには森の中っていうし」

 

緑谷たちが今いるのは人通りもそれほど少なくない大通りから少し逸れた場所。

正面から廃倉庫を見るとドアの前には雑草が生えており久しく使われた形跡が見当たらない。

 

「私が行こうか?」

「いや、中に何があるかわかない以上、葉隠さんが危険になる。……裏に回ってみよう」

 

建物裏。建物と塀の間の細い隙間を緑谷たちは移動していた。人1人横向きになればギリギリ通れる広さ。

緑谷はふと建物についている窓に目がいく。

 

「あの窓からなら中が見えるかもしれない」

 

こんなこともあろうかと暗視鏡を持って来ていた切島と窓を見つけた緑谷が先陣を切って建物内を見ることになった。高さ的に届かないため緑谷は爆豪の肩に切島は飯田の肩に足をかけて覗き込む。

建物の中には太陽の姿を確認することができなかった。しかし、ヤバいものを見つけてしまう。

切島は焦りながら緑谷に暗視鏡を貸す。

 

「おい、緑谷。あれって…」

「え…あれって。脳無?」

「は、どういうことだよ!クソナード!」

「無造作に脳無が大量に作られてる…!?」

 

緑谷がさらに詳しくみようとした時、建物から轟音が鳴り響く。

建物が揺れコンクリート片がパラパラと緑谷たちの元にも落ちる。

あまりにも強い衝撃と爆風が緑谷たちを襲う。

 

「いてて、なんだ?」

「退けクソナード!!」

「ごめんかっちゃん」

「見てください!Mt.レディにベストジーニスト、ギャングオルカまでいますわ」

 

建物の中には大勢のヒーローが入ってくる。凄まじい速度で起動していない脳無を確保して行く。

手際よく処理していきこの場に太陽がいないこと以外全て問題ないように感じる。この建物内にいるすべての脳無を収容し終えた頃、建物の奥から声が聞こえてくる。

 

「弔のためだ。邪魔をしないでほしいね」

 

突如、建物が吹き飛ぶ。圧倒的な力によって脳無の格納されていた建物以外にその直線上の建物まで巻き込んで地面ごと吹き飛んでしまう。後には瓦礫も残らず消失し更地だけが広がる。建物内にいたはずのヒーローも皆瀕死に追い込まれてしまう。

ギリギリ射程範囲外にいた緑谷たちにまでその被害は及ぶ。塀が半壊し緑谷たちを隠すだけしか残っていない。

 

一撃、一撃しかAFOは使っていない。それでもその衝撃、恐怖は緑谷たちに襲いかかる。緑谷たちはこの瞬間死を予感する。自らの肉体がボロボロに千切れ去る感覚が脳内を駆け巡る。普段強気の爆豪ですらこの瞬間は顔を真っ青にするしかできなかった。

 

「さて、やるか」

 

─────────────

 

「げほっ、2回目でも慣れないな」

 

太陽たちに絡まりついた泥が消え去る。周りを見回すと一面更地になっている。少し先には瓦礫や遠くにはまだ何も問題のない建造物が存在し、ここで何かしらが起きたのは確かだろう。太陽は一目見てそう考えているうちに他の死柄木やヒミコ、火伊那が同じくこの場所に転送されてくる。

 

「度々悪いね。夢見くん」

「うげ、なんでいんの?」

「…ふふ、また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。そうして仲間も取り返した。この子もね。君たちが必要だと判断したからだ。その副次的効果で僕も得をした。…いくらでもやり直せ。そのために(せんせい)がいる。────────全ては君のためにある」

 

AFOは太陽の嫌そうな顔を無視して後ろに現れた死柄木に話しかける。腹の底から嫌悪感を抱く声色。普通の人間なら死の恐怖ですぐにでも卒倒してしまうだろう。死の恐怖に慣れ親しんでいる太陽はもとより他の(ヴィラン)連合メンバーも涼しい顔でその話を聞いている。

ふと、AFOは空を見る。

 

「来たね」

 

オールマイトが突入した隠れ家からここまで空を飛んでやってきた。怒りを孕んだ形相でAFOに組みかかる。

 

「全て返してもらうぞ!!オール・フォー・ワン!!」

「また僕を殺すかい?オールマイト」

 

2人が組み合っただけで地面にクレーターができ暴風が周りに吹き荒れる。咄嗟のことのため太陽や死柄木はそれに煽られて吹き飛んでしまう。

その余波は緑谷たちの隠れている塀にまで届いてしまう。緑谷たちは誰も動けない。誰も彼も自らの命のことを考えていた。故に気付けなかった。葉隠の姿が消えていることに*2

 

「バーから約5km、それに30秒もかかるなんて。衰えたね、オールマイト」

「貴様こそ、なんだその工業地帯のようなマスクは!?だいぶ無理してるんじゃないか!?」

 

どちらも先ほどの組合いではあまりダメージを負っておらず何もないような雰囲気で向かい合う。

AFOはマスクをかぶっていて表情は見えないものの愉しそうに笑う。

 

「夢見くんは連れ戻す!!貴様を(ヴィラン)連合諸共刑務所にぶち込む!!」

「それは、やることが多くて大変だな。お互いに」

 

オールマイトは辺りに舞った粉塵を吹き飛ばす勢いでAFOに肉薄する。

しかし、その瞬間AFOの左腕がおかしなほど膨張し掌からオールマイトへ空気の砲弾が飛ぶ。オールマイトはギリギリ反応できたものの回避行動を取るには間に合わず砲弾を体で受けてしまう。質量を持った空気の砲弾によってオールマイトは背後のビルへとぶつかり何棟も突き破って背後へと押しつけられる。AFOの正面には何棟ものビルの残骸が生み出される。

AFOはオールマイトが少しの間戻らないことを確認すると死柄木の方を向く。

 

「弔、ここは私に任せて逃げろ。その子を連れて」

 

右手の指を変形させて黒霧に突き刺す。気絶しているはずの黒霧が〝個性〟を使った。今指したのは『個性強制発動』の〝個性〟のようだ。

「そして」と続けてAFOは何もいない場所を見る。

 

 

 

「太陽くん……」

 

葉隠は今、〝個性〟を最大限に使いこっそりと移動していた。向かう先は太陽の下。全身が恐怖で震える。それでも足を止めることはない。

葉隠は太陽の姿が見えた時点で動くことを決意していた。例え圧倒的な死の恐怖の前に立たされているとしても、大切な人を失う方が怖かった。

葉隠は後数mのところまで辿り着く。そして気がついた。圧倒的な存在が葉隠を認識しているということに。

 

「無粋な真似はやめてほしいね」

「ッ─────」

 

AFOが先程オールマイトに向けた攻撃が葉隠目掛けて飛ぶ。葉隠は避けることのできない即死の攻撃にただ目を瞑ることしかできなかった。

頭によぎるのは太陽が葉隠の本当の姿を見てくれたあの日。一目惚れ、惚れやすいと言われても何も問題なかった。葉隠は初めて自分の目を姿を見てくれた太陽に大きい想いを寄せていた。思い出が次々と流れては消え流れては消えを繰り返す。一番最後に残ったのは太陽が連れ去られる瞬間の滲んだ光景だけだった。

 

「あーもう、何やってんだよ!?」

 

聞こえるはずのない声が聞こえてくる。葉隠は目を瞑ったまま数秒経つ。本来なら体がグシャグシャになるであろうはずが何も衝撃がやってこない。それどころか葉隠の体を誰かだ抱き上げているように感じる。

恐る恐る目を開く。目の前には恋焦がれていた存在が葉隠をお姫様抱っこする形でいた。

 

時は数秒前に戻る。

 

「は、なんであいつらおるんだ?」

「あ?どうした?」

「いや、なんでもない」

 

太陽はボウっとオールマイトとAFOの戦いを見ていた。極論それ以外することがなかったため地べたに座り込んでいた。隣には立ち上がってAFOを見続けている死柄木と後ろからヒミコが抱きついている。

 

「弔、ここは私に任せて逃げろ。その子を連れて」

「な、先生は!?」

「僕はここにもう少しいるよ。─────そして」

 

そこで太陽は葉隠の存在に気がつく。AFOが向いた方向をよく見ると〝個性〟をフル活用して隠れながら太陽の下までやって来ているではないか。

 

「クソッ。ヒミコ、一旦行くわ」

「え、わかりました…?」

「戻ってくるんだよな」

 

死柄木はぶっきらぼうに質問する。

 

「当たり前」

 

太陽は一言答えると葉隠の下へと走り出す。一般人の2倍以上あるDEX。その足の速さは目を見張るものがある。走りながら太陽は呪文を唱える。

目を瞑って死ぬ覚悟を決めた葉隠のもとに滑り込み太陽は葉隠を抱きしめる。

 

「《被害をそらす》!!」

 

太陽は左腕で葉隠を抱きしめ右手をAFOに向けてぐっと伸ばす。右手にぶつかる空気の砲弾は四方八方に分かれて空中に霧散する。

 

「あー、もう何やってんだよ!?」

 

葉隠は目を開く。太陽の姿を見ると今にも泣き出しそうな顔をする。

 

「大丈夫か?透」

「え、太陽、くん…?なんで?…夢?」

「透が危ないから来たんだよ。本当に。なんでこんな危ないとこに来たの?」

「だって……太陽くんが、太陽くんが!」

「話は後でな。今は逃げるぞ」

 

太陽が見つめる先にはAFOがいる。嬉しそうに愉しそうに太陽を見ている。

 

「やはり君はそっちか」

「女を助けるためならどっちでもいいよ」

「ハハハハッ!!!やはり君は面白い!!!」

「それはどうも。逃がしてくれる?」

「いいよ。君よりもオールマイトの方が目的だからね」

「オール・フォー・ワン!!!」

 

その瞬間、遠くへと飛ばされていたオールマイトが戻ってくる。

AFOは太陽たちから視線をオールマイトに向ける。

 

「逃がさん!!」

「夢見くんを助けれたからもういいんじゃないかい!?」

「貴様らを捕まえることも目的だ!!!」

 

オールマイトがAFOと戦っている間にも死柄木たちは退避をする。太陽もまた葉隠をお姫様抱っこしながら逃げる。今回はAFOをぶっ殺す理由も無い上にオールマイトが何やらAFOと因縁があるみたいなのでオールマイトに戦ってもらおうと考える。

 

「爆豪!!てめぇらも行くぞ!!」

「あ゙!?指図すんじゃねぇ!!」

「夢見くん!!」

 

太陽は先程見つけた緑谷たちの下へと走り緑谷たちを巻き込んで《門の創造》を使う。

瞬時に意図を察した緑谷たちはその門に飛び込む。門の先は戦闘場所から少し離れた駅前。ネオンに照らされた街のはずが今は喧騒に包まれている。誰もが駅前の液晶画面を見ている。警察やヒーローの避難勧告を無視して液晶画面に映るオールマイトとAFOの戦いを見ている。漸く逃げ切ることができたのだ。

*1
B組の生徒。個性:溶接。あらゆるものをくっつけられる

*2
元々透明で消えているけどね




作者は葉隠ちゃんが好きなのでもっと曇った顔を見たい。だから、人質に取って交換させる必要があったんですね。

あと、葉隠ちゃんにヘイトが溜まる気がする。
例えば「ヒーロー目指してるならもっと周り見ろ」とか「危険な場所に出てきて死にそうになってオリ主に助けられるのダメじゃない」とか思う人が出る気がしますが反論しとくと葉隠はね、ヒーロー候補以前に1人の女の子なんだよ。自分の代わりに好きな人が連れ去られたんだよ。漸く姿を見れたんだから感情的な動きをしてもいいだろ?
結局誰も死んでないんだから問題ないだろ?てか、うちのオリ主は大層なことでないと死なない。

あと、葉隠ちゃんは透明なんですが全裸です。
あ、あと太陽にははっきり見えています。
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