太陽は廊下で電話に出る。画面にはトゥワイスという名前が映っている。
いつもはこんな夕方に電話してこない。深夜帯か休みの日にしか電話が来ないはずなので少し疑問に覚えながらスマホを耳に当てる。
「もしも『太陽!!!マグ姉が、マグ姉が殺されちまった!!!!』…は?」
底冷えする様な地獄の底から聞こえる様な声が太陽の喉から出る。強くスマホを握ってしまったのかビシリとスマホから悲鳴の様な音が鳴る。明るい声の聞こえる共有スペースとは裏腹に廊下は絶対零度の様な空気が漂っている。
「待ってろ。今行く」
太陽は慣れた手つきで門を生み出しその中へと消えていく。
後には夕日にすら当たらない暗い廊下が影を残していた。
「トゥワイス!!」
太陽が門を通って辿り着いたのはどこかの廃倉庫。廃倉庫のシャッターや入り口のあったであろうそこは無惨にも砕かれて外からの生ぬるい風が吹いている。そこには黒霧を除いた
「太陽か!!!マグ姉が!!」
トゥワイスの元へといくとそこにはマグ姉の死体があった。上半身を失いそこからは絶えず血が流れ出ている。上半身であろうところは見受けられず、上半身がついていたであろうところは破かれた紙のようにボロボロになっていた。
マグ姉ばかりに気を取られていたがコンプレスも左腕を根本から失っている。
「下半身はあるのか。よかった…」
「よかったってどういうことだよ!?死んでんだぜ!?」
「指一つでもあれば生き返らせれる。《治癒》。ついでにコンプレスにも《治癒》」
太陽が唱えると数秒後にはメキメキと音を立てて肉体が再生していく。そして、再生が終了するとそこには元通りのマグ姉の上半身とコンプレスの左腕があった。服は再生できず再生した部分だけ肌が露出しているが両方とも肉体は男性のため問題ない。女性であれば服でも被せていたであろう。
「うえ!?おじさんの腕が元通りなんだけど」
「マグ姉。動かないよ?」
心配そうに太陽を見つめるヒミコ。太陽は「大丈夫」と一言って呪文を唱える。
「《復活》」
マグ姉の肉体がサラサラと崩れていき青っぽい灰になる。塩のようで塩ではない何かの混合物。死柄木は驚いたように感情を露わにする。
「何やってんだ!?」
「大丈夫。みてろ。《復活》」
太陽がもう一度同じ呪文を唱えると逆再生のように灰が肉体を形作る。灰の一粒ずつが結合してマグ姉の骨になり細胞を作り筋肉を生み出し皮膚を再生する。マグ姉の肉体が綺麗に再生されるとピクリとマグ姉の指が動き出す。
「マグ姉!!」
「マグ姉!生きてるか!?」
「ハァハァ……私死んでたはずじゃ!?」
少し焦点の合わない目を動かす。少しばかり狂気に精神を蝕まれているみたいだ。発狂するほどではないのが幸いだろうか。
体を起こしたマグ姉にヒミコは抱きつく。少し困惑しながらもマグ姉はその体を抱きしめる。
「どうしたの?ヒミコちゃん」
「マグ姉が死んじゃって…もう会えないって思って……よかった」
「はぁ………帰るぞ。今後の計画を立てる」
死柄木は冷静にそう伝える。その言葉にはどこか安堵のようなものが混じっていた。
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あの訓練の次の日、相澤先生からインターンについて説明された。
誘拐などもあり危険で学校側はできるならやりたくないが、これではヒーローが育たないことが懸念されたためインターンの実績があるヒーロー事務所に限り1年生の実施を許可ということになったそうだ。太陽はなんとなく前の職業体験と同じリューキュウ事務所にでもしようかと考えた。
それから数日後の週末。
太陽は電車で1時間かけてとある街へとやってきていた。
「そこそこ人多いな」
これにはちょっとしたワケがあった。
1日前、太陽は
「よし、全員集まったな」
死柄木がソファとテレビの間に立って説明を始める。
「マグ姉とコンプレスの腕を潰しやがった死穢八斎會だが、協力関係を結ぼうと思う」
「ええ!?なんでですか!?」
大袈裟にヒミコが驚いた声をあげる。他の面々もどこか不思議そうに死柄木弔を見ている。
「理由は幾つかある。一つ、あいつが使ったこの弾だ。こいつのせいでコンプレスは一時的に個性が使えないようにされた。あいつらはこれを使って何かしでかそうと考えているんだろう。それが邪魔だ。だから俺たちがあいつらの懐に入ってその情報を盗み取る。二つ目、今関係を持たないとしてもいつかはあいつらと良い悪い関係なく関わりになるはずだ。なら、早めになったほうがいいだろ?後は、治ったとは言えこっちの大切な仲間を傷つけられたんだ。こんな簡単に引き下がれるわけがない。異論はあるか?」
誰からも反対意見は出なかった。
死柄木は「じゃあ」と作戦を締めくくる。
「初めは俺1人で行く。どうせ、後で何人かあっちに送り込むだろうからその時は太陽、お前がいけ。それと、ついでに今度この名刺の事務所付近を見てこい」
「了解」
「マグ姉とコンプレスは待機だ。あいつらにお前らが治ったことを知られたくない」
「は〜い」
「わかったよ」
「残りは後で伝える」
こうして作戦会議は終了した。
太陽は夕食までに寮に帰るため門を作り出す。
「そういや、太陽」
「ん?どうした弔」
「お前
死柄木は不思議そうに尋ねた。
「いや、弔も決めてないじゃん」
「はぁ?俺はいいんだよ。死柄木弔が
「あーね。確かにこれからヒーローと戦うこともあるのに呼び名がないといけないねぇ…」
太陽は数秒考えるそぶりを見せる。そして、一つの名前を告げる。
「グレート・オールド・ワン。いや、呼びにくいな。…ルーラー。ルーラーと呼んでくれ!」
太陽はそういうと門を通って帰っていく。
「ルーラー…支配者ねぇ。いい名前じゃねぇか」
そうして、今日に至るのである。
太陽は遠目で死穢八斎會を確認する。古き良き日本家屋でありすごいくらいヤクザらしい。太陽の元の世界では普通にいたヤクザもこの世界ではヒーローの台頭に伴い年々数を減らしていっていた。殆どがヒーローの手によって潰されたのだ。それでもなお残っているのがこの死穢八斎會という組織である。現代ではヤクザではなく指定
「よし、その辺ふらついて帰るか」
太陽が死穢八斎會の事務所を離れて街込みに消えようとしたところで路地裏から出てきた1人の少女とぶつかる。
「きゃっ!?」
「うおっ」
その少女はベージュの病院服のような質素な服を着ていた。年齢は6歳ほどだろうか、太陽の腰ほどの身長しかない。その長袖の服から見える腕、足には真っ白な包帯が巻かれている。極め付けはその少女は裸足であった。
太陽は即座に少女に声をかける。
「どうしたの?」
「た、…」
「た?」
「助けて」
太陽にはその一言で十分だった。少女を抱き上げると耳元で囁く。
「大丈夫だよ」
路地裏からは数人の黒いスーツに身を包んだペスト医師のようなマスクをつけた人と、緑色のジャケットに紫のファーをつけた服を着た同じくペスト医師のマスクをしている男が現れる。その男は太陽に抱かれている少女を見るとこちらに近づいてきた。
「すみません。うちの子が迷惑をかけてしまって。ほら、壊理、お兄さんの迷惑だから離れなさい。帰るよ」
とても胡散臭い声で話しかけてきた。ニャルでもここまで胡散臭くできないだろう。慣れないのかどこか辿々しい笑顔と1オクターブ高い声で壊理と呼ばれた少女に声をかける。
そう呼ばれた当の壊理は太陽にしがみついたままフルフルと震えていた。
「すみませんね。壊理を降ろしてもらっていいですか?」
「え、嫌ですけど」
「は?」
「だから嫌だって言ったんですけど。あの、その胡散臭い顔面をどうにかしてくれませんか?まじで腹立つんで。一回死んだ方がいいんじゃないですか?なんかその顔見てるとクソ野郎の姿を幻視するんで早く消え去ってください」
「テメェ」
「あ゙?腰巾着は黙ってろよ。俺は今そこの胡散臭い奴と話してんだよ」
「テメェ!!」
腰巾着Aと呼称しよう。腰巾着Aは今にも襲いかかりそうになりながらもギリギリ残っている理性でそれを阻止している。
胡散臭い奴は額の血管をビキビキと鳴らしながらも人が多いからが敬語で話してくる。
「すみませんが、あなたがやっていることは誘拐という立派な犯罪ですよ?」
「そうですか。でもあなたみたいな胡散臭いクソ野郎に返すと後々嫌なことが起こりそうなんで」
「は?ヒーロー呼びますよ?」
「いいですよ。呼んだらどうですか?そのマスク、死穢八斎會でしたっけ?
「テメェ!!!!」
「抑えろ。そういえば私の名前は治崎廻。どうぞお見知りおきを」
治崎は手袋を外して握手を求めてくる。その顔は怒りに塗れており笑っているにも関わらず目は笑っていない。手袋を外した際に苦虫を100匹は噛んだような目つきをしていたため十中八九潔癖症ではないかと推測できる。
「なんの手ですか?」
「握手ですよ」
「あーね。嫌ですけど。知らない奴のけつを拭いたかもしれない手なんかに触れるワケないでしょ」
「………」
当たり前のように地雷を踏み砕いていく太陽。潔癖症だと思われる人に対してその回答は秀逸と言わざるを得ない。
治崎はの顔は最早怒りを通り越して仏のように無表情になってしまった。
「じゃあ、俺はこの辺で」
太陽は踵を返すと壊理を抱き抱えたまま人混みへと消えていく。
「追えっ!!殺してでも奪い返してこい!!」
背後からそんなふうな物騒な声が聞こえてきたため太陽は走り出す。後ろからはやけにはっきりと追っ手の足音が聞こえる。
「…大丈夫…?」
「壊理ちゃんだっけ?大丈夫大丈夫。心配はいらないよ」
太陽は笑顔でそう伝える。壊理は太陽の体に顔を埋めてさらにギュッと強く抱きしめた。
数分走っただろうか、正面に見知った顔を見つける。
「あ〜!!出久じゃ〜ん!!」
「えっ!?夢見くん!?」
緑谷と通形であった。どちらもコスチュームに身を包んでおりインターンなのだろう。今朝、緑谷が急いで寮を出ていったのはこのためかと勝手に納得する。
その間も後ろからは追いかける足音が聞こえる。
「どうしたの?その子」
「迷子かな?」
緑谷は太陽に抱きついている壊理に言及する。
「ん、拾った」
太陽は当たり前かのようにスッと言う。
背後からはさらに足音が近づいてくる。
「待てやぁ!!!!」
追いついたのか太陽の背後から大きな声が聞こえる。
腰巾着Aの声だろう。緑谷はその人物を正面から見ておりとても驚いているのがわかる。
治崎も追いついたのだろう。腰巾着Aを除けるようにしてやってくる。
太陽は振り向き治崎を見据える。
「すみませんね。返してもらっていいですか?」
「嫌だが?」
今にも一触即発のような空気感。それには緑谷や通形も介入するしかなかった。
「すみませんが、この子の保護者の方ですか?」
通形は一歩前に出て質問する。
「そうですよ。
治崎と緑谷たち、3人の視線が太陽を捉える。
太陽は素知らぬ顔をしている。
「何してるの!?誘拐なんて!!返してあげなよ!!」
「やっ!!やっ!!!!」
「すみません。時間も迫っているので早く返してもらえると」
「ほら、保護者の方も困ってるでしょ!?」
「………………………チッ、しゃあねぇな」
太陽は壊理の耳元で囁く。
「絶対、壊理ちゃんを困らせているところを潰すからちょっと待ってて」
「………っ」
「大丈夫。おまじないをかけてあげる。《肉体の保護》MP250。これで安心。絶対に誰からも傷を負わせないから」
泣きそうな壊理に1つの
「必ず、お前を殺す」*1
そして、治崎は来た道を戻っていった。
太陽はその後通形からこっ酷く叱られた。曰く、保護者がいる少女を連れ回すなんて。曰く、あいつは死穢八斎會の治崎であってとても危険だからもうこんな危ないことをするな。曰く、あの少女についてはこっちでもなんとかする。あの服装で保護者を名乗るとは考えにくかったらしい。だが、決定的な証拠もないため何もできないそうだ。無能かな。と太陽は訝しんだ。
太陽はそんな説教など意にも返さず一つの目標を立てる。
帰り際、太陽は死柄木に電話をかける。
『なんだ?』
「弔、ごめん。死穢八斎會ぶっ潰すわ」
『いいが、まだ待て。できるなら情報を全て頂いてからだ』
「わかった。だが、壊理ちゃんが傷つけられることがあったらその瞬間ぶっ壊すから。いい?」
『好きにしろ』
壊理のつけた《肉体の保護》。MPを250も使っていればそう簡単に割れることはない。例え、それが神格による攻撃だとしてもだ。それでも壊理の精神は守れないため早急に助け出す必要がある。
太陽は一つの目標のために行動することを決めた。
この場で太陽が抱えている壊理を保護しようとは動かないと考えてこの構成となりました。
緑谷や通形が出会っていれば壊理の不安な部分を理解できるでしょうが、太陽に抱き抱えられていればよくわかんないでしょ。困っているかなんて。
一回は太陽が連れ去る展開も考えたがその後の死穢八斎會とのやりとりが思い浮かばなかったので泣く泣くこうなりました。だが、やくざはちゃんと潰すので心配なく。