クトゥルフ神話の呪文は人を殺したり狂わせるか治すかの二極端な気がする。
しかも《支配》とかは瞬時なのに《復活》とか《治癒》とかは結構時間かかるし。
今日の朝のHRは何故か相澤先生が真面目にやっている。
手元に書類を持って説明をする。
「今日は救助訓練をする」
救助訓練。その名の通り人を助ける訓練をする。
相澤先生がいつもよりやる気になっている原因でもあるだろう。
「コスチュームの着用は自由だ。着用しない人は体操服を着ろ。着替えが終わったらグラウンドにあるバスの元に来い。それじゃあ、さっさと行動を開始しろ」
太陽はなんとなくでコスチュームを着ることにしたためコスチュームバッグを持って更衣室に行く。
男子はコスチュームをぶっ壊した緑谷以外全員、女子は全員着るようだ。
グラウンドに集まると早速飯田が委員長らしい行動をする。
「バスはスムーズに行くように2列に並ぼう!」
バスの座席は2列ずつではなく向かい合う座席もあったらしく飯田は落ち込んでいた。
「どんまい」
「次があるさ」
「マリトッツォ食う?あとタピオカミルクティーもあるよ?」
「のむ!!」
「ウチも!!」
「私も!!」
タピオカに食いつく女子。
どうやって取り出したのか気になる男子。
バスはガヤガヤと雰囲気良く進んでいく。
道半ばになったあたりで蛙吹が緑谷に話しかける。
「私思ったことすぐ口に出しちゃうから先に聞いておくわ、あなたの個性オールマイトに似ている」
「うえっ!?そそ、そうかな?偶然似てるだけじゃないかな!?」
「おいおい、梅雨ちゃん!オールマイトは自分で自分の腕ぶっ壊したりしないぞ?全く別物だって!」
「緑谷くん自分の身体大事にした方がいいと思うけど?体壊しながら進むのはヒーローじゃない気がするし」
動揺を抑えきれない緑谷を見ながら太陽は一昨日の出来事を思い出す。
(うーむ。言ってやろうかなぁ?)
悪どい顔で緑谷を見る。
緑谷はその意図に気がついたのか顔をブルブルと振る。
(やめて!!って言ってる気がする)
必死すぎる様子に太陽は言わないであげることにした。
タピオカミルクティーのおかわりを所望する葉隠におかわりをあげながら太陽は窓の外を見る。
(今度何か奢って貰えばいいか*1)
そんなこんなでバスは救助訓練の会場へと辿り着く。
─────────────
会場で出迎えてくれたのは宇宙服のようなコスチュームを着たヒーロー、13号。
「ようこそ!!ここは
「「いや、版権的に危なーい!!」」
「訴えられたら負けじゃね?」
13号に率いられてUSJの中に入る。
内部は入り口から見えるだけでも東京ドームよりも広く幾つかのフィールドに分けられていた。
入り口付近の広場で整列させられると13号と相澤先生が小声でやりとりする。
「あれ、オールマイト先生は」
「根津校長に詰められて遅れるそうです」
「本当にあの人は」
聞き耳を立てた太陽は内容を全て理解する。
オールマイトもここにくる予定だったが今これないといことらしい。
「んんっ。それでは皆さんには訓練に入る前に1つ、2つ、3ついえ10個ほど言うことがあります」
長いのでバッサリカットするが要約すると
個性は人を傷つけることがある。13号の個性〝ブラックホール〟も簡単に人を殺す。しかし、ヒーローたるもの人助けに正しく使って欲しい。
と言うことらしい。13号は特に太陽の方を見てはなしていた。
(まぁ、
太陽の心には響かなかったようだ。
13号は改めてこのUSJでの訓練方法を説明しようとする。
ズズズズズ
と階段下の広場にいつぞやのワープゲートが現れる。
「ん?なんでこっち見るんだ?俺じゃないぞ」
クラスメイトの視線が太陽に突き刺さる中、そのワープゲートがどんどん大きくなる。
それに合わせたのかUSJの照明も全て消える。
「なんだ?入試みたいないきなり本番の形式か?」
「お前ら、気をつけろ。あれは
先生の発言に一気にクラスメイトのおちゃらけた雰囲気が消える。
「おいおいおいおいおいおい、オールマイトがいないじゃないかぁ!?」
中から出てくるのはつい最近見た弔と黒霧。それと見た感じチンピラの輩。
弔がおどろおどろしい声で叫ぶ。
「子ども殺したら出てくるかなぁ!?」
「13号先生!侵入者センサーなどは?」
「ありますが、機能してません!!」
「いや、でもよ。ヒーローが沢山いるんだ。大丈夫じゃねぇのか?」
「あいつらはセンサーやらを潜り抜けたんだ。それだけの作戦はあるらしい」
「13号。生徒を頼む。俺は行く!!」
相澤先生はゴーグルをつけると階段を滑るように駆け降りる。
そして階段下の
「私たちも行きますよ!!」
13号が先導して入口へと戻ろうとする。
しかし、目の前に
「逃しませんよ」
その中からは全身が霧でできた異形の
影が不気味に笑う。
「初めまして。私たちは
「平和の象徴に生き絶えてもらおうと思ってのことでして」
緑谷がありえない!!と叫ぶ。
爆豪と切島がその
「皆さんは金の卵。ですので散らして嬲り殺す」
ワープゲートがクラスメイトを覆うように出現する。
13号が「危ないっ!!」叫んでも遅く、逃げきれなかったもの以外は吸い込まれてしまった。
「そこの神父服のあなたは。別のところへ」
太陽をワープゲートが包む。
逃げることもできずにそれに消えていく。
─────────────
太陽がワープゲートを通じで出たのはどこかの一室。
その部屋は広く明かりはない。
「やあ。夢見太陽くん。初めまして」
コツコツという足音と共に1人の男が現れる。
「誰だ貴様!?」
「君は知っているだろう?オール・フォー・ワンだよ」
顔上部が爛れていて目も鼻もない。体にはいくつものチューブが刺さっている。
それでもニコリと口角の上がった顔で太陽に話しかける。
その威圧感は神格ほどではないがミ=ゴくらいはあるのではないのかと思うほど。
「その魔王様がなんのご用で?」
「君の個性はとても興味深い。だから奪わせてもらうよ」
AFOの手から風の弾丸が飛ぶ。
太陽の腹にクリーンヒットするも全然ダメージを負っている様子はない。
「あぶねぇな!!」
「このくらいじゃ効かないかぁ。なら『空気圧縮』×5、『射出』、『並列起動』」
さっきよりもずっと強い風の弾丸が飛ぶ。
しかも多彩な場所から。
「うざってぇ。《肉体の保護》MP50」
さらに太陽に装甲がつく。
風の弾丸は太陽に当たるも一切ダメージを与えられない。
「見えない装甲か。さらに欲しくなったじゃあないか!!」
「生憎、俺以外には使いきれないのでね!!《ヨグ=ソトースの拳ver.2.0》」
不可視の拳がAFOにぶつかる。
AFOの肉体を捻じ切る。しかし、すぐに肉体が元通りになる。
AFOは恍惚とした表情で呟く。
「見えない攻撃。僕の知らない個性!!どんどん欲しくなっちゃうじゃあないかぁ!!」
「きっしょいなぁ。《支配》」
AFOの動きが止まる。
今まで饒舌だった言葉すらも話さなくなる。
「さっさと死ね」
AFOはその言葉の通りに自分に個性を使って自分の肉体をボロボロにする。
その都度肉体が再生するも絶えず個性を使い続ける。
「………ははっ!!肉体が知らない間に操作された感覚だよ」
「きっしょ。なんで戻るかなぁ」
「ほらほら、君の最高級の攻撃をしてみなよ!!僕がそれを上回って奪ってあげるからさぁ!!」
「は?」
太陽の言葉に怒気が混じる。
今まであった感情が全て抜け落ちて無表情になる。
「いいんだな?」
「何がかい?」
「全力でやっていいんだな?」
「いいに決まってるさ!!僕はそれを求めているんだ!!」
「はぁ、《神格招来 ニャルラトホテプ》」
虚空から人型の存在が現れる。
男のようにも見えるし女のようにも見える。子供のようでもあるし老人のようでもある。
AFOはその恐怖感に慄き後ずさってしまう。
「な…な、」
「発狂しなかっただけ最高じゃねぇか。おい、ニャル。宮殿に連れてけ」
「りょ〜かい」
2人のいるこの空間ごと転移する。
その先は宇宙だ。恒星が輝き何もない虚無が世界を支配する。
その宇宙の真ん中にある宮殿の入り口に2人は着く。
「ここは……どこなんだ!?」
「お前の言う、俺の最高級の場所」
宮殿の扉が開き、数多の存在が出現する。
虹色に輝く球体の集まりや雲のような木のようなものの集まり、目には見えないが音がそれを示す化け物、黄色い衣を纏った化け物。
全てがAFOを見ており全てAFOよりも上位の存在。
「なぁ、?あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
AFOは狂ったように叫び続ける。
人の内で最強格であろうとも一般人である限り神には勝てない。
それを体現するのであった。
─────────────
狂い切ったAFOはシュブ=ニグラスが美味しくいただくそうだ。
太陽は彼らに別れを告げてUSJへと《門の創造》を用いて戻る。
ここまでで大体30分。これならばヒーローが戦闘を終わらせているだろう。
「さて、どうなった、か」
門の先は阿鼻叫喚の嵐だった。
多くのボロボロのヒーローがおりリカバリーガールが右往左往している。
クラスメイトが担架に乗せられて運ばれている。
担架が足りないのか地面に寝かされている人もいる。
雄英の教師ではないヒーローまでもおりそこにはNo.2ヒーロー:エンデヴァーもいた。
しかし、辺りを見渡してもいないクラスメイトもいる。
葉隠や耳郎、緑谷がその筆頭。
「ムッ!?夢見少年!!今までどこに行っていたんだ!?」
怪我が激しいがそれでも気丈に振る舞うオールマイトが近づいてくる。
太陽は震える口を無理矢理動かしながら話す。
「オール・フォー・ワンと、戦って、ました」
「なにっ!?あいつが生きているのか!?」
「いえ、殺しました………クラスのみんなは……」
「…………すまない」
「だれが!?誰が死んだんですか!?」
「……………緑谷少年、耳郎少女。葉隠少女はまだ見つかっていない…」
「死体は!?死体は残ってないんですか!?」
「………
太陽は動揺する。
死体が完璧に残っていれば《復活》によって綺麗に生き返らせられる。
しかし、死体が残っていなければどうしようもない。
《夢見る人の罠》で魂を引っ張ってきても肉体がなければどうしようもない。
それはクトゥルフ神話を知っている太陽が1番わかっている。
狂いたいがSAN値上限0がそれを拒む。
「そうですか!!わかりました!!」
「!?大丈夫かい!?夢見少年!!」
故に笑顔を作る。
今さっきまで死にそうな顔をしていた人がするような顔ではない。
太陽は何もない空間に手を置く。そこから、渦巻くように空間が歪む。
「《時空門の創造》。では、全てを取り戻します」
太陽はそのまま空間が歪んでできた門に侵入する。
太陽を飲み込んだ門は1人でに消え去る。
─────────────
門を潜ると弔が相澤先生と戦っている様子が見える。
太陽が出てきた広場には黒霧がいる。
クラスメイトの多くが別のところへワープさせられた後のようだ。
「なぜ!?今しがたワープさせたはずなのに!?」
「うるせぇ、死ね。《ヨグ=ソトースの拳》」
不可視の攻撃が黒霧にぶつかる。
黒霧は驚愕の表情を露わにする。
「なぜ!?私の肉体にダメージが!?」
「うるせぇ。《ヨグ=ソトースの拳》×5」
5連撃の不可視の攻撃が黒霧を弔の近くへと吹っ飛ばす。
弔は飛んできた黒霧に驚きを隠せていない。
「さてさてさて、《幽体の剃刀》」
不可視の斬撃が弔を襲う。
相澤先生の肘を掴んでいた手が離れて、遠くに吹っ飛ぶ。
弔の近くに黒霧を投げ飛ばす。
太陽は吹っ飛んだ黒霧に近づく。
まだダメージから回復しておらずうつ伏せの黒霧の前でしゃがむ。
弔は決死の形相で太陽を睨みつける。
「なっ!?なんなんだよお前!?」
「俺はお前を殺す者だ」
「クソクソクソクソ!!!!なんなんだよ!?おい!脳無!!このガキをぶっ殺せ!!」
今まで寡黙を貫いていた脳みそが露出している黒光りの化け物。
脳無と呼ばれたそれは勢いよく太陽に殴りに来る。
ガギーン
と拳が太陽の肉体にぶつかる。
人の肉体が奏でていい音では無い。
「脳みそだけとかキモっ」
太陽が脳無に意識を取られた隙に弔は黒霧の元へ逃げる。
脳無は何度も太陽を殴りつける。しかし、ダメージはない。
「夢見!!無事か!?」
「あ、相澤先生。ここは俺がやるんでみんなの避難お願いします。……おい、逃げんな。《幽体の剃刀》」
「ダメだ!!生徒にそんなことをやらせる訳には行かない!!」
「ダメです。《支配》。生徒を連れて逃げてください」
別の場所にワープしようとしていた弔と黒霧に不可視の斬撃を与える。物理攻撃を全てすり抜けてダメージが入らないはずの黒霧にすらもダメージが入っており、苦しんでいる。
「はぁ、ウザってぇ。《招来 ザイクロトルからの怪物》、《招来 ミ=ゴ》」
魔法陣が現れる。
その中から金属的な灰色の木のような怪物と甲殻類のような胴体にバカでかい膜のような翼を持つピンクの怪物が召喚される。
「みっごみっごみー♪あなたの脳みそにみごみごみー♪あなたの脳みそ奪い取るユゴスのアイドル♪ミ=ゴちゃんだよー♪ミゴミーって覚えてラブみごっ♪」
流暢な日本語でミ=ゴは喋る。
凡そその異形から発せられる言葉では無い。
「おらっ、行けっ!!お前の好きな脳みそだぞ!!」
「ミ=ゴはとってもうれしいミゴ!!こんなところに召喚してくれてありがとミゴ」
ミ=ゴは手に持っている電気銃を脳無に当てる。
途端に脳無は麻痺する。
「あれー?これで死なないとか結構強いミゴね」
「ザイクロトルからの怪物は適当にその辺のチンピラ倒しといて」
ザイクロトルからの怪物は触肢を降ると広場から出ていく。
太陽は弔と黒霧の元へと行く。
「さて、どう死にたい?」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!ゲームオーバーかよォ!!!くそがァ!!!」
「〝ワープゲート〟を」
「させねぇつってんだろ?《幽体の剃刀》」
「ぐあっ!?」
黒霧に裂傷が走る。
霧状の肉体のため血は出ないが確実にダメージが入る。
「こっちは終わったミゴ」
太陽の元に来たミ=ゴは1つの脳缶を持っている中には脳無のものであろうものが入っている。
「どうしてだよ!?あいつは〝超回復〟を持ってるはずなのに!?!?」
「あぁ、結構回復しててめんどくさかったミゴけど、脳を取り除いたら動かなくなったミゴ」
「はぁぁ!?嘘ついたのかよ!?あいつ最強の脳無って言ってたのに!?…ゴボッ!?」
突如、弔と黒霧の口から泥が出てくる。
それは2人の肉体を包み込むとそのまま消え去る。
「あらら、いなくなっちゃった。ミ=ゴ、それ置いていってね。ザイクロトルからの怪物もありがと。《退散》」
「また呼んでミゴ!!」
広場には太陽1人と脳無の死骸だけが残った。
その時、扉がバゴンと開く。
そこからは雄英高校の教師でありヒーローである人達が現れる。
「私が来、た?」
「夢見!無事か!?」
戦いが終わった広場を先生は見る。
そこには無傷の太陽と頭の上半分が消失した脳無がいた。
「相澤先生じゃないですか!!こっちはもう終わりましたので!!こいつのことお願いします」
太陽は脳無の死骸を引き摺りヒーローの前に投げ捨てる。脳無の脳みそが入っている脳缶をオールマイトに手渡す。
「な、何故君はそんなにも…人を殺したことに後悔がないんだ?」
「そんなの決まってるじゃあないですか」
「敵だからですよ」
当たり前のように言う太陽に教師は戦慄する。
ここまで非情になれるだろうか。
もう少し後悔や苦悩をしてもいいのではないか。
しかし、太陽にとっての敵は殺すもの。殺さなければやつらは次元の狭間から世界の果てから彼を襲いにくる。
故に殺す。例えそれが神であろうとも。
─────────────
会議室。
雄英高校の教師が集まっている。
それは今回起きたUSJ襲撃事件についての話し合い。
太陽の事情聴取などで手に入った情報のすり合わせ。
「
「主犯は『弔』と『黒霧』で良いかと……〝ワープゲート〟なんて言うレアな個性持ちが
「個性届けや戸籍を調べたところ2人のものはなかったため戸籍なしの人たちでしょう」
一通りの情報共有が終わる。
根津校長は立ち上がって教師を褒め称える。
「それにしても死傷者ゼロ。これはいいことなのさ!!」
「しかし、全て夢見がやったことです。私は関係ない」
「……はぁ、しかしまぁ。あんな考えのやつとはなぁ」
「シヴィーぜ。一歩間違えれば
「相澤先生の証言だけでも不可視の攻撃に不可視の斬撃、あと洗脳のようなもの。入試を見ると異様な生物のようなものを召喚する。全く〝クトゥルフ神話〟とはどんな個性なんですか?」
「夢見の中学の時の話だと触手、しかも入試よりも何倍も小さいものしか出せなかったようだ。それなのにあんな変な呪文が使えるようになるとは」
「これほどにまでヒーローに向かない個性も珍しいですね」
そんな教師の憶測を根津校長は一蹴する。
「それでもヒーローになろうとしたのは事実!僕らでちゃんと導いてあげるのさ!!」
時空門の創造ってめっちゃ便利ですね。
ニャルが空間ごと転移させたのはそう言う神格的要素ってことで……
ニャルが喋るのは当然としてミ=ゴが喋るとは……しかもあんな変な口調で。
ミリしらミ=ゴですみません!!