その鼓動《ハートビーツ》は止まらない 作:天異ペンチ
“超人社会”。
それは今の社会を形容する最もポピュラーな言葉だ。
世界総人口の八割が特異な身体機能“個性”を持つ今の時代はそう呼ばれてる。
そんな社会で脚光を浴びる1つの職業がある。
個性犯罪者……
少し遅くなったけど、これは私が夢を追い続ける物語だ。
◇
冬の寒い朝、雲も殆どない。多少ケチはつくけど快晴と言って差し支えない。
そんな今日、私は高校入試の試験日を迎えた。
ここの家主である後見人が久しぶりに戻ってきていたのか、少ない文字数のメモ書きが置かれていた。
「気を抜くな……か。あの人らしいや。」
受験票に記載された持ち物については昨日の内に確認を済ませている。身だしなみも整え、準備万端だ。
「行ってきます。」
玄関の扉から外に出る。私は弾む心臓に身を任せて近隣にある試験会場へと向かった。
私が受験するのは雄英高校“ヒーロー科”。
倍率は毎年300を越える、紛うことなき名門校だ。
倍率が300を越える理由は多くのトップヒーローがこの学校からプロになり、活躍している事が大きいと私は考えている。
少し考え事をしながら歩いていると、受験会場……雄英高校本校舎に着いた。
さて、今日は筆記試験の後に実技もある。体力の配分を考えないとな。
筆記試験は苦労せずに解けたし、大丈夫かな。
筆記の試験教室を出て人の流れに加わる。
人の流れに流されるまま少し、視界が開けた先に大きなホールがあった。この場合講堂かもしれない。
もう既に数百、いや数千人規模で座ってる。
わかっていたけど、多いなぁ。
「今日は俺のライヴにようこそー!エヴィヴァディセイヘイ!?」
静まり返ったままの会場に、壇上にいる人が「コイツはシヴィー!」と言いつつも、試験の概要を説明していく。
彼はプレゼントマイク。とある理由で何度かお世話になったことがある人物で、恩人の1人だ。雄英を受けるのを真っ先に祝福してくれた人でもある。
「入試要項通り、この後リスナー達には10分間の“模擬市街地演習”を行ってもらうぜ!」
持ち込みは自由との事。これも要項通り。
「演習場には仮想敵を三種・多数配置してあり、それぞれの“攻略難易度”に応じて、ポイントを設けてある!」
「各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君たちの目的だ!」
ふむふむ。でもこれ……
私が説明から感じた違和感に首を傾げていると、
「質問よろしいでしょうか!」
私と同じ事を考えたのか、誰かから壇上に向けて質問が飛んだ。
「プリントには四種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローの指導を求めてこの場に座しているのです!」
真面目なのが伝わって来る物言いだった。
物怖じせず、分からない事を放置しないのは素直に感心する。
「ついでにそこの縮れ毛の君!先程からボソボソと気が散る!物見遊山のつもりならば即刻ここを去りたまえ!」
さっきから何か聞こえるとは思っていたけど、彼か。
緊張しいにしては良く喋ってるし……なんでだろ。
ただ、今は彼ばかりを気にしてはいられない。
そう思って意識を壇上に戻す。
「オーケーオーケー。受験番号7111君ナイスなお便りサンキューな!」
「四種目はポイント0!スーパーマリオブラザーズやったことあるか?レトロゲーの。アレのドッスンみたいなもんさ!」
「ソイツは言わばお邪魔虫!各会場に一体、フィールドに所狭しと暴れている“ギミック”よ!」
それを聞いて朧気ながらどんなものか想像してから、眉をひそめた。
言い方に恣意的なものを感じた。破壊不能であると印象付けている。
何か意味があるように感じられるその言葉を覚えておくことにした。
でも、まだ何か引っかかる。……今は説明を聞いて後で考えよう。
「俺からは以上だ!最後にリスナー達に向けて我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄、ナポレオン=ボナパルトは言った!“真の英雄とは困難を乗り越えていくもの”だと!
試験概要の説明が終わると講堂から出てそれぞれの会場へ向かう列の中に私も並んだ。
流れに沿って指定の会場に着くと、周りには多種多様な個性を持つだろう受験生達がいた。
皆がそれぞれ準備するのを見て、私も自分の個性に合った準備をする。
心臓のあたりに手を当てる。
少しジャンプしても問題はなし。
心臓が問題なく駆動しているのを確認して前を向いた。
「はい、スタートー!」
そういえばさっきの説明……え?
「どうしたあ!?実戦じゃカウントなんかねえんだぞ!走れ走れ!」
「いきなりだなあ!」
他の受験生に遅れること少し、私も試験会場に足を踏み入れた。
「標的捕捉!ブッ殺す!」
横っちょから出てきた1P仮想敵を見る。脆そうだ。
アームを振り上げた隙に懐へと入り込んで機関部を貫手で貫く。
まずは1
それにしてもこのタイミングで出てきた敵に、私は挟撃用だとあたりをつける。
急がなきゃまずいかな。
私は地面を強く蹴って走った。
会場の中央に着くと、既に多くの受験生が仮想敵と戦っていた。
横取りをしないように私もそこに加わる。
しかし、多分残り時間は3分あるかないか。
急がなきゃ。そう思った瞬間、轟音と共に新たな仮想敵が現れた。
周囲の建物より頭一つ分高いロボット。
「0P仮想敵……!」
思い起こされるのは数分前の説明。
フィールドに所狭しと暴れているギミック。
元々“所狭し”という言葉が気にかかっていた。それでも。
「大きいなあ!」
胸の奥で鼓動が高まる。どこまでいけるのか試せと叫んでいる。
でも。
「頭だけは冷静に。」
今のままでは獲得したポイントが合格ラインに届いているか微妙なところだ。
だから、冷静なまま賭けに出る。
「0ポイントの存在意義、それは多分炙り出し!危機に直面した際の行動を見ているんだ。だから。」
試験としては間違っているかもしれない。でもヒーロー志望としては、間違いじゃないはずだ。
私の考えるヒーロー観に賭ける。
前を見れば腰を抜かした受験生がチラホラいる。彼らを全員無事に帰す。そのために力を振るう!
「プロセス破棄。熱機関リミッターカット。」
枷から解き放たれた心臓が激しい鼓動を刻む。そうだ、この胸の高鳴りこそが私だ!
「デッドヒート!」
先程までとは比較にならない速度で0P仮想敵の眼前に飛び上がる。
「うおっしゃい!」
前に伸びた頭部をグーパンでぶん殴った。
その図体故に回避出来ず直撃した仮想敵はバランスが崩れ、進みが止まるだけでなく後ろに傾いた。
「もいっちょ!」
近場のビルを蹴ってもう一度殴った。
後ろに向けて倒れ始めている仮想敵の後ろに回り込む。今の身体能力ならビルの側面を蹴って回り込むことも容易い。
さて、ここからが本番だ。
拳で地面を叩く。
「重加速!」
私から広がる力の影響で仮想敵が落ちてくる速度が目に見えて遅くなる。
この速度なら、倒れても衝突時の音も揺れも最小限なはずだ。
「終了~!!」
お、終わった。試験が終了したのに心臓の鼓動が激しい。
鎮まれ、鎮まれ!
そう念じて安静にしていると、なんとか収まってきた。
プロセス破棄でデッドヒートしてしまったからか、心臓が今も少し痛い。
試験の結果だけど……正しいことをしたと信じて帰るしかないかな。
私は不安から逃げるように試験会場を後にした。
◇
私が帰って来てから4時間と少し。日も沈みきった頃、私は閻魔に裁かれる罪人の気持ちを深く理解していた。
鍵の音がした。
玄関の扉が開いて彼が帰ってきたのがわかった。
「ただいま。」
「おかえりなさい。消太さん。」
私は平静であることに努めながら、入ってきた人物を出迎えた。
彼はここの家主兼私の後見人だ。名は相澤消太。合理性を重んじる効率厨だが、優しいところもある私の恩人。
そして、今日試験を受けた雄英に勤める教師の1人でもある。
「で、だ。
「ですよねー!」
私の心の内をぶった切るように掛かった声に私はあきらめるしかなかった。
優しい人なんだけど、怒ると閻魔になる父から逃れることはできないみたいです。
私が作った夕食を二人で食べてから、歯磨きを済ませて、丸テーブルを挟んで私たちは向かい合った。
「今日の入試、心音は合格だ。」
ゴウカク……合格?
「良かったあ……」
思わず安堵で息を吐いた私に、消太さんは「ただ」と続けた。
「試験開始時、別のことを考えてたな。」
その言葉を聞いて身体が固まった。
「あれがなければ主席もあり得たんだ。かなり非合理なことをしたと自覚しろ。」
「はい……」
「だが、それ以外は良かった。特に最後の0P仮想敵を倒した判断。事後処理までできていたのは高評価だ。しかも、お前はあの時の判断に根拠があったんだろう?」
「うん。ひざしさんは問われなければ0P仮想敵の説明をそもそもしないつもりだったんでしょ?」
「そうだ。だがそれだけか?」
「もちろん違うよ。違和感の発端はそこだけど、確信したのは別。」
ひざしさんは“良い受難”を、と言った。ナポレオンの言葉を引用して“真の英雄は困難を乗り越えていく”とも言っていた。
でも大半の受験生は2P仮想敵ぐらいまでなら倒せる。3Pで明暗がわかれるようだけど、合格に足る実力を備えた受験生にととって3Pは受難に値する困難には見受けられなかった。
それに……
「人を見捨てて得た合格通知に私は胸を張れないとも思ったから。」
「そうか……反省会で忘れてるかも知れないが、合格は合格だ。」
消太さんは芝居がかった調子で両腕を大きく広げた。
「ようこそ、ヒーローアカデミアに。」
少し、驚く。
「消太さんはそういうことしない人だと思ってた。」
「たまにはいいだろうが。」
初めて見た後見人のむすっとした顔にどこか嬉しく感じた。
「ごめん。否定したいわけじゃなくて……驚いたけど。ありがとう。消太さん!」
「ああ、どういたしまして。」
消太さんは、私の言葉に薄く笑って返してくれた。
天異ペンチです。
ハートビーツ第1話、読了ありがとうございます。
ドライブをご存知の方は心音のモチーフがすぐに分かってしまわれたかもしれません。
彼女の苗字「蛮野」はドライブ世界でとても強い意味を持ちます。そこがどう絡んで行くのか楽しんで頂けると幸いです。