その鼓動《ハートビーツ》は止まらない 作:天異ペンチ
2026/1/21 追記
穏やかな日差しを浴びて、私は通学路を歩いている。
朝からとても晴れやかな気分なのは、天気が良いからだけじゃない。
なぜなら、今日が待ちに待った雄英高校登校初日だからだ!
ここしばらくは消太さんの指導の下、高校の内容を先取りして勉強したり、組手をして過ごした。
充実していたけど、連日のようにクタクタになっていたから正直、近いうちにもう1回は遠慮したいかなあ。
そんなに時間をかけずに校舎まで着いた私は、入学書類に同封されていた校内の地図を片手に自分の教室を目指して歩く。
校舎を進むと、その広さに驚くだけじゃない。
受験の時にはなかった発見もあって、あの時は緊張してたんだな。なんて思っていた。
「ねえ、アンタ。ちょっといい?」
後ろから話しかけられたことに気づいて振り返ると、耳からイヤホンジャックを伸ばしている子だった。この子の個性かな。
私と同じ雄英の制服を着ていて、顔の前でイヤホンジャックをもじもじと合わせていた。
「どうしたの?」
「いきなり話しかけてゴメン。ウチ、試験のときアンタに助けてもらってさ。お礼、言ってなかったな……って。」
「助けてもらって……というと、最後のアレだよね?どういたしまして。」
多分、0P仮想敵に潰されかけてた受験生の1人だよね。とは聞けなかったけど。多分そう。私が誰かをちゃんと助けたのはあの時ぐらいだからなあ。
受験とはいえ、視野が狭まってたと分かって顔をしかめそうになった。慌てて表情を取り繕う。
「私は蛮野心音。A組です。そっちは?」
「ウチは耳郎響香。同じくA組。よろしく。」
「こちらこそよろしく。響香って呼んでいい?」
「じゃあウチも心音って呼ぶよ。いい?」
「もちろんもちろん!じゃあ、一緒に教室行こっか。よーし!友達一人目だ!」
「ちょっと!置いてくなー!」
私がハイテンションで歩くと響香もついてきてくれた。
友達というのは、こういうものなのかもしれない。
雄英の広い校舎をグングン進んでいると、A組の教室が見えてきた。
「ドアでっか……」
「そうだね。バリアフリーかな。よし。取り敢えず……」
「え、心音待っ……」
響香とドアの大きさについて少し言葉を交わすと、響香の静止も聞かずにドアを開けた。
今の私は止まらない。響香の他には一体どんなクラスメイトがいるのか、とてもワクワクしているから。
ドアを開けると、教室には既に何人かで談笑しているのが見て取れる。お、何人かこっちに気づいた。
一番最初に声を掛けてくれたのは、実技試験前にひざしさんに質問していた彼だった。
「おはよう!俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!」
試験前に見たのと同じく真面目そうだ。今は少し堅そうだな、とも思ったけど。
「おはよう、飯田君。私は蛮野心音。この子はさっき合流した耳郎響香。」
「よろしく。」
「そうか!蛮野君と耳郎君だな。よろしく頼む!どうやら席は出席番号順らしい。君たちの席は……」
教えてくれた飯田君に感謝しつつ、席に着く。
響香とは席も近かった。縁があっていいね、と笑うと。響香も少し笑ってくれた。
すると、バシン!とドアが開いた。
髪型が爆発しているその男子は、席を確認すると舌打ちして、私の席の前に座った。
そう、私の前の席に、だ。しかも足を机に掛けてザ・不良を演出している。……もしかして素?
どちらにしろそれを真面目な彼が許すはずもないのは、付き合いのまだ短い私でも分かった。
「机に足を掛けるな!雄英の先輩方や机の製作者方に失礼だと思わないのか!」
「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」
なんとなくわかってたけど、不良の髪爆発君が態度を曲げることはなかった。結果、意見が正面衝突。言い合いになってしまった。
「ボ……俺は聡明中学出身、飯田天哉だ。」
「聡明ィィ~!?クソエリートじゃねえかぶっ殺し甲斐ありそだな。」
「君ひどいな!本当にヒーロー志望か!?」
飯田君は「ブッコロシガイ!?」と
髪爆発君との口論が一旦落ち着いたところで、飯田君は何かに気づいたようでドアの方にスタスタと歩いて行った。
あのドアからチラッと見える緑の縮れ毛は……
新しく登校してきた生徒に飯田君は私たちが受けたものと同じ挨拶をしていた。なんか、飯田君が同じプログラムを繰り返し実行しているロボットみたいで少し面白い。
半分ぐらいは私が言えたことじゃないけど。
「お友達ごっこしたいなら他所に行け。ここはヒーロー科だぞ。」
聞き馴染みのある声がしたと思ったら、随分とくたびれた人が入ってきたけど……って!
消太さんじゃん!私たちのクラスの担任になったんだ……
「君たちが静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね。」
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
消太さん。それフレンドリーなのか投げやりなのかわからないよ。
「早速で悪いが、
あ、今から着替えるんだね。
……これ入学式出られないやつじゃない?
◇
グラウンドに出た私たちは消太さんからの通達に戸惑っていた。
「個性把握テストォ!?」
「え、入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。」
消太さんは「雄英は自由な校風が売り文句。そして先生側もまた然り」だと続けた。
困惑する皆を他所にテストの概要が説明されていく。
簡単に言ってしまえば中学校でもやってきた個性禁止の体力テストをこの場では個性アリでやってみよう!ということらしい。
「国は未だ画一的な基準を作って平均をとり続けてる。まあ、文部科学省の怠慢だな。」
「爆豪。中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「67」
髪爆発君は爆豪君というのか、覚えとこ。
「んじゃ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ。」
爆豪君は円に入って、構えた。
「んじゃまあ、死ねえ!」
すんごいボキャブラリーだ。死ねってボール投げで使う言葉だっけ。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段。」
爆豪君が爆発する個性を使って出した記録は705.2m。かなりの好記録に少し驚く。
考えてみれば、消太さんは効率第一主義だ。デモンストレーションに呼ぶのは成績上位者の方が派手で効果も見込める。当然の選択で当然の帰結だった。
「なんだこれすげー面白そう!」
「700mってマジかよ」
「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!」
すると空気が一気に冷え込んだと勘違いするような底冷えのする声が消太さんから放たれた。
「面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、
「はああああ!?」
皆の絶叫が響く中、消太さんは髪をかき上げて続けた。
「生徒の如何は俺たち教師の自由。ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ。」
最下位除籍は理不尽だ、という抗議に対して、消太さんは鋭い言葉を返した。
「自然災害、大事故、身勝手な敵たち……いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう
「放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。
そして、消太さんの合図で個性把握テストが始まった。
【50m走】
二人一組で走るから私は爆豪君と一緒になった。
爆豪君は爆発する個性を上手く使って飛んでいた。あの感じだと掌で何かを爆発させてるのかな。
私はというと、デッドヒートは使わずに素の状態で記録を出した。
デッドヒートは体に反動が来る、時間制限がある、解除してから再使用には心臓を冷やさなきゃいけないという3つの理由から使えないし、重加速は周囲一帯に影響を及ぼす現象だから他のクラスメイトの妨害になってしまう。
あれ?このテストで私個性使えないんじゃ……
私は若干顔を青くしたまま次の種目の準備を始めた。
記録 3.22秒
【握力】
「ゴリラだ……!ゴリラがいるぞ……!」
へえ……
どうしたの響香?そんなに震えて。
私が怖い?ひどいなあ……
記録 3.53t
【立ち幅跳び】
記録 17m
【反復横跳び】
記録 76回
【ボール投げ】
記録 502m
さて次の種目の準備をしよう、と意気込んだタイミングで、響香が私の横で訝し気な顔をして呟いた。
「おかしい。」
「え、何が?」
「ウチの後の番に投げる人、まだ個性を使った様子がない。」
「は!?なんで!?」
個性を使わずにこのテストでいい記録を出すなら、長期間に渡って体を鍛え続けていたか私みたいな特殊なケースの二択。
縮れ毛の緑君はそのどちらにも見えないからこそ……
「分からない。でも
一旦切り替えて、私も彼を観察することにする。緑君が円に入って、ボールを構えて、投げる。
……特に何も起こらないまま記録が出た。
ボールをリリースする直前に投げる腕がバチバチとしたオーラを纏って、直後にかき消えた。消太さんの仕業だな。
「個性を消す……あっ!あのゴーグル、そうか!見ただけで個性を“抹消”する個性……抹消ヒーロー“イレイザーヘッド”!」
緑君が驚愕の内に叫んだ名前は消太さんはのヒーロー名だ。
個性“抹消”。対象を凝視することで個性発動を強制停止するその個性は、消太さんがメディアへの露出を避けているから世間でも知る人は少ない。
それを即座に導き出した緑君の知識量に感服する。でも、問題が解決してない。
消太さんが常備している捕縛用アイテムで縛られて、緑君は指導を受けていた。殆ど口答えもできず論破されたみたいで、意気消沈しているのが伺える。そうしてキツめの指導を受けたらしい緑君は、それでも円に入ってボールを構えた。その後ろ姿からは、焦りとそれより遥かに大きい憧憬が
さて、どうなる?
「SMASH!!」
さっきとは比べ物にならないほどに飛んだボールに私も目を見開いた。
それほどの個性なら、もっと早く使えば。そう思って彼の指を見て絶句した。重度の内出血に骨折もありうる大損壊。それを示すように紫色に変色して腫れあがった指。
一度目のように腕全体で使えば腕がああなってたに違いない……そう思って恐ろしさに身震いした。破滅的過ぎる。
「どーいうことだ!訳を言えデクてめえ!」
爆豪君!?
何を思ったのか、急に手をボガンボガン爆発させながら緑君に襲い掛かる爆豪君は、抹消を受けた上で消太さんの捕縛武器で制圧された。
「時間がもったいない。次、準備しろ。」
緑君はこの後も指の痛みのせいもあったのかパッとしない記録を連発。
結果発表の頃には暗い顔をしていた。
「ちなみに除籍はウソな。」
成績を一括開示した直後に消太さんが何気なく言った一言に、ほっとする。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽。」
グラウンドに絶叫が響いた。緑君なんて歓喜と怒りと驚愕が綯い交ぜになって……アレ顔が崩れてない?
ともかく、除籍なしで私たちは個性把握テストを乗り切った。いやぁ、緊張したな。
◇
個性把握テスト開始前に予想した通り、入学式は欠席になっていた。
……大丈夫?入学早々、クラス単位で非行まっしぐらだよ?
ただ、ガイダンスはしっかりとあった。
まぁ、ここは流石にね。これからの説明を一切しないまま放り出すのは非合理で、それは消太さんが最も嫌うことだ。
教科書等々の配布も終わる頃になって、緑君は教室に現れた。さもありなん。あの負傷では、学校医のおばあちゃんの個性でも即復帰とはならなかったのだろう。
緑君の合流を確認して、新入生ガイダンスが始まった。説明が進む度に、皆の中に雄英生としてこれからやっていく実感が湧いていくのが
そうして、初日の時限が全部終わったことで、下校時間となった。
「響香、一緒に帰ろ。」
終礼の後すぐに響香の席へと向かった。
「全然いいよ。けど、荷物纏めるから少しだけ待ってて。」
「オッケー。」
短いやりとりの後、言われた通りに待っていると、響香はすぐに荷物をまとめ終えた。
「おまたせ。」
「んじゃ、帰ろっか。」
私たちは、今日の出来事について話しながら昇降口へと向かった。
「いや、にしても初日から除籍の危機なんて流石に想像してなかった。結果発表の時、流石に大丈夫だろうとは思ってたけど心拍数上がってたよ、絶対。」
疲れた顔で響香が言う。さもありなん。憧れの学校へ入った初日に即除籍なんてたまったものではないのも事実だし。
私は靴を履き替えながら、響香に言葉を返した。
「いきなりかっ飛ばしてたからね……ただ、取り敢えず除籍者なしでよかったよ。去年は凄かったらしいからね。」
私の言葉が気になったのか、響香が尋ねてくる。
「でも、先生はさ除籍のことウソって言ってたじゃん。心音の言い方だと、なんか除籍の実例があったような……」
あ。
「ココネチャンシラナイ、ウソツカナイ……よーし、帰るよ響香!」
私は響香からの追跡を躱すために走り出した。
消太さんのことだ、"見込み無し"と判断すれば最下位でなくとも除籍にしただろう。流石に疲れてる今の響香にこのことを言うのは酷だしね。
「あ、心音!待ってってば!」
私たちのヒーローアカデミアはまだまだ始まったばかりだ。
天異ペンチです。
ハートビーツ第2話、読了ありがとうございます。
次回は早めに投稿したいと思っていますので、少しだけお待ちください。