TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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第二話 僕が魔法少女に!?①

「今日もね――」

「そうなんだ――」

 

 

 とある地方都市の中学校。一限目の授業が始まる前の教室。生徒達は各々のグループを作り、会話に花を咲かせている。

 多くのグループが、同じ話題に夢中になっていた。その内容とは、昨日出現した魔獣とそれを退治した魔法少女についてだった。

 

 

 近所の小学校に現れた一体の魔獣。幸い児童達が通う昼間ではなかったため、犠牲者が出ることはなかった。

 校庭の遊具や校舎の一部を破壊しながらも、住宅街に魔獣が進出する前に、その場に駆けつけた魔法少女によって見事に討伐された。

 

 

 その魔法少女の名前は、ダイヤモンド・ダスト。

 氷属性の魔法を得意としている。日本に存在する魔法少女の中では随一の実力を誇っている。

 メインの活動地域は東京であるのだが、偶々近隣の応援によって魔獣討伐に訪れていたため、ついでといった形で小学校に現れた魔獣も倒していった。

 

 

 まさに英雄の如き活躍。年頃である中学生である彼らは、男女の垣根なく、最強と名高い魔法少女の話題に熱中していた。

 

 

(今日も人気だな……魔法少女は……)

 

 

 そんなクラスメイト達の様子を眺めながら、次の授業の準備を進める一人の男子生徒。

 彼の名前は有栖川悟。どこにでもいる一般的な中学生だ。

 生真面目さのせいか、準備のため友人との会話を少し早めに切り上げた悟は、机の中から教科書やノートを取り出していた。

 

 

 作業途中で悟の耳に入ってくる話題は、どれも昨日の一件――魔法少女ダイヤモンド・ダストのことばかりだ。

 そもそも彼女だけではなく、ほぼ毎日のように魔法少女の話題でクラス中――いや日本に限らず世界各地で同じような光景は当たり前に見ることができるだろう。

 

 

 六十年程前までは、漫画やアニメの中でしか存在し得なかった空想上のものでしかなかった『非常識』。

 魔獣や魔法少女。

 一学生にすぎない悟にとって、それほど詳しい情報を知っている訳ではない。

 魔獣は、神出鬼没な人類の敵。

 魔法少女は、そんな魔獣を倒すために、これまた空想上じみた存在の妖精と契約した少女達の総称。

 そのぐらいの認識であり、その他大勢も同様だろう。

 

 

 また悟は魔法少女に関する話題が少しだけ苦手だった。

 自分と同年代か、下手したらそれよりも幼い年齢の少女が命を賭して、魔獣を倒しているのだ。

 それなのに関係のない民衆は、彼女達をアイドルか何かと勘違いしているのではないのか。

 連日報道されるニュース。クラスメイトとの会話。それらを通じて、齎される魔法少女達の活躍――だけではなく、訃報。

 その情報は単なる日常を送っているだけの悟の神経を徐々にすり減らしていった。

 

 

『――お兄ちゃん』

 

 

 この場にはいないはずの少女の声が聞こえる。いつもの幻聴のようだ。

 軽い頭痛と共に脳裏に過るのは、三つほど年の離れた妹のことであった。

 

 

(――あの時、僕に力があれば……)

 

 

 『あの日』から何度繰り返したか分からない自責の思考。

 この平穏な日常も、誰かの犠牲で成り立っている。

 どうしようもない、世界の法則。

 無力な者はただ虐げられるだけだ。

 

 

 考えが同じ場所をループして、精神的に参りそうになっていた時。悟に話しかけてくる人物が一人。

 

 

「おはよう、有栖川君」

「ああ、おはよう。佐々木さん」

 

 

 何とか取り繕い、返答を返す悟。

 声をかけてきたのは、悟の同級生である女子生徒――佐々木恵梨香。彼女とは家が近所ということもあり、家族単位で長い付き合いとなる。

 俗にいう幼馴染というやつだ。

 

 

 悟の個人的主観が多分に入るが、彼女の容姿は中の上、あるいは上の下に位置する。

 その容姿の良さだけに留まらず、誰とでも仲良くできる性格の明るさに、コミュニケーション能力。

 学年中で一定数以上のファンがいるのも、納得できる。

 

 

 そんな恵梨香と幼馴染というアドバンテージを得ている悟であるが、甘い雰囲気になったことは一度もない。

 あくまでも友人以上の関係に発展することはなく、これから先もないだろう。

 また特定の誰かと付き合っている訳でもないらしいが。

 

 

 毎朝の挨拶を終えた後、普段と様子が異なる悟に対して、心配の言葉を投げかける恵梨香。

 

 

「大丈夫? 調子悪そうだけど」

「うん、問題ない。いつも通りだよ」

「なら、いいんだけど……もしも無理だったら、保健室に行くのよ。私も付き添うから」

「……本当に大丈夫だけど……その時は言葉に甘えるとするね」

 

 

 そう言い終わると、同時に全国共通のチャイムが鳴り、休憩時間の終了が告げられる。

 席に座らずお喋りに興じていた生徒達は、慌てて各々に席につき、教科書を机から出して準備をしていた。

 恵梨香も他の生徒に倣い、悟の隣の席に腰掛ける。

 ガタゴト、と。数秒の間教室の中が慌ただしい音で満ちる。

 

 

 その音が落ち着くのを見計らったように、前方の引き戸が開けられて、一限目の教科である国語を担当する男性教諭が入ってくる。

 教壇に立った男性教諭は、生徒達に先日の課題を提出するように求めて、受け取ると教科書を開き、黒板に文字を書き出し始めた。

 

 

 男性教諭の眠気を誘う声に、欠伸を堪えながら悟はふと視線を隣の席に向ける。

 どうやら悟の幼馴染は真面目に準備を受けているようだ。

 眠たげな様子など一切見せずに、視線が黒板とノートを行ったり来たりしている。

 カリカリ、とシャーペンがノートを滑る音が不思議と心地よく感じられた。

 

 

「……どうかしたの?」

 

 

 小声で問いが投げかけられた。どうやら悟の視線に気付いたようだ。

 

 

「何でもないよ」

「そう。調子が悪いんだったら、早く言ってね」

 

 

 そこで会話は切り上げて、恵梨香は黒板を書き写す作業に戻っていった。

 男性教諭に気付かれて注意をされる前に、自分もノートをとるか。そう意識を切り替えた悟は、早々に睡魔に襲われてしまった。

 

 

 いつの間にか、幻聴によって発生した悟の頭痛は治まっていた。

 

 

 

 

「起立、礼! ありがとうございました!」

 

 

 学級委員である女子生徒の挨拶を合図に、他の生徒達が「ありがとうございました!」と元気よく復唱した。

 担任教諭の言葉を最後まで待たずに、部活に向けて廊下に走り出していく男子生徒。

 帰り道にどこに寄るか、巷で人気な俳優が登場する今晩のドラマの展開について盛り上がる女子生徒達のグループ。

 

 

 その何れにも属さずに、悟は何人かのクラスメイトに別れの挨拶を告げると、手短に帰りの支度を済ませた。

 教室に残っている生徒の数も疎らになっている。

 開いたままの出入り口から歩いて退出して、昇降口の方へ向かおうとする。その時に、恵梨香が扉のすぐ側の壁に背を預けるように立っていた。

 どうやら教室の外で、悟が出てくるのを待っていたらしい。

 

 

「あ、ようやく出てきたね。有栖川君」

「僕のことなんか待たなくてよかったのに。さっき他の子に誘われてたんじゃないの?」

「それはいいの。また別の日にしてもらったから。それに朝は体調が悪そうだったし」

「またその話? まあ心配してくれてありがとう……」

「ふふふ、そのぐらい気にするような間柄じゃないでしょ」

 

 

 悟は照れくさく、微笑む恵梨香の顔が直視できずに、目を逸らしてしまう。

 若干頬を赤く染めながらも、それを誤魔化すように少しだけ強めの声をかける。

 

 

「じゃあ、帰ろうかな」

「うん」

 

 

 ここだけを切り取れば、青春の一場面に相応しいのだろうか。

 そんなことを頭の片隅で考えていた悟は、早々に思考を打ち切り、恵梨香との会話のネタを求めて、視線を周囲に向け始めた。

 

 

 過去はどうあれ、こんな日常がいつまでも続く。

 そう信じていた悟の考えが甘いと思い知らされるのは、そう遠くない。

 

 

 

 

「じゃあね、有栖川君。また明日」

「うん、佐々木さんも。気をつけてね」

 

 

 帰路についた悟と恵梨香。家が近所とはいえ、完全に隣という訳ではない。

 通学路が一緒なのは途中までだ。分岐路に着いたため、二人は別れの挨拶を交わす。

 

 

 恵梨香の姿が曲がり角の奥へ消えていくまで見送る。

 一人になることで、不思議と通い慣れた通学路であっても、普段と違って見えてくる。

 

 

 夕日によって茜色に染色された電信柱やアスファルトの床。不気味に鳴り響く鴉の合唱。

 ホラーゲームの導入部分のようだ。それこそ異世界にでも迷いこんでしまったと錯覚するほどに。

 

 

 思春期特有の妄想と侮ることなかれ。現実に魔獣という脅威が存在するのだ。

 警戒はするに越したことはない。

 

 

(今日は胸騒ぎがする……早く帰るか)

 

 

 嫌な予感を覚えた悟は、残りの道のりを早足で駆けていく。

 辺りに人影はなく、運動靴が時々蹴り飛ばす小石の転がる音が大きく感じられた。

 

 

 自宅に辿り着くまで、後数分もかからない。

 そう安堵しかけた悟の前に、どこからか声がかけられる。

 

 

「――やや、そこの君! 魔法少女に興味がありませんかな!」

 

 

 ふいに視界に現れるのは、黒色の兎のぬいぐるみであった。おまけに喋る機能まで搭載されている。

 

 

「君! 今失礼なこと考えましたな! 吾輩、ぬいぐるみではなく、妖精ですぞ!」

 

 

 どうやら喋る兎の正体は妖精らしい。

 今の悟には、それは重要な情報ではない。

 

 

「それで魔法少女になりませんかな!?」

「――僕、男ですよ?」

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