TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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第四十一話 晴れ、時々血の雨

「じゃあ、任せたわよ。悪い『魔女』さん」

「――――」

 

 

 夕暮れ時、人気が無いビルの屋上に、二人の少女の姿があった。

 一人は露出の多く、悪魔を連想させる黒色の衣装の少女――『魔女』メフィスト。もう一人は鮮血のように真っ赤なデザインのドレス姿の少女――柏崎利恵が変身した姿である『魔女』エリザであった。

 メフィストからの声かけに反応を見せないエリザ。彼女の瞳には光が確認できず、傍目に正気があるようには見えなかった。無言のまま、コクリとも頷かない。

 

 

「うんうん。しっかりと私の魔法も効いているようだし、問題なさそうね。黒アリスちゃんの目に止まるように、頑張ってねぇ」

「――――」

 

 

 相変わらずエリザはメフィストの言葉に応える様子はなく、佇むだけだ。それでもメフィストは笑みを絶やさずに、背後に形成した黒色の『渦』――転移魔法による『門』に飲み込まれて姿を消していった。

 

 

「――――」

 

 

 メフィストの魔力、姿が完全に消え去った瞬間、エリザは数歩足を進めて、眼下に広がる街並みを伽藍堂の瞳に映す。

 友人と言葉を交わしながら帰る、部活動に励んでいた生徒達。母親に手を引かれて、今晩の夕食のリクエストをする子ども。

 ありふれた日常がそこにはあった。そして、たった一人の『魔女』の悪意によって操られた少女によって、その日常は壊されようとしていた。

 

 

 右足から大きく跳躍したエリザは、深紅のドレスのスカートを風にはためかせながら、車の往来が多い道路のど真ん中に降り立った。

 突然現れた人影に、走っていた車はクラクションを鳴らして、ブレーキが慌ててかけられる。先頭の車はエリザの華奢な体に触れる前に、緊急停止が間に合った。しかしその後ろの車はブレーキがギリギリ間に合わず、衝突が連鎖的に発生していく。

 

 

「どうなってんだよ! これは!」

「きゃあああああ!?」

「は、早く警察に――」

 

 

 悲鳴と怒号を叫ぶだけの者。急速に変化した状況が理解できずに、その場に蹲る者。事態を打開させるために、外部に助けを求めようと、少しでも冷静に行動しようとする者。

 一気に混沌とした場において、先ほどまでと同じように無表情を崩すことなく、直立した状態のエリザ。そんな彼女の姿を目に止めた一部の人間は大声で叫ぶ。

 

 

「も、もしかして、あいつは『魔女』か!?」

 

 

 『連盟』が未登録の魔法少女を識別する際に用いる名称。単純に『連盟』に所属していない魔法少女に付与される称号ではない。『魔女』と判定されるのには、二つのパターンがある。

 一つは、力を闇雲にふるうことはないが、『連盟』に所属せずに、魔獣退治を行っているパターン。

 もう一つは、私利私欲で妖精と契約することで得た力を用いて、一般人に危害を与えるパターン。

 どちらの場合も『連盟』に所属していない未登録の魔法少女が、初期の保護対応を過ぎた段階で設定される。黒アリスは前者、エリザは後者に分類されていた。

 

 

 エリザの場合は、行使する度に血を欲する魔法が悪い方向に作用してしまい、後者の意味での『魔女』にされたことは正気に戻った時は不満そうにしていたが。

 

 

 黒兎から魔力譲渡を受けることで、暴走状態を脱したエリザはアリスに会うまでは再び変身することはなかった。久々に魔法を使うことになったのも、黒兎に頼みがあったからだ。

 そのせいで、世間では忘れかけられていた『魔女』としての過去が蒸し返されてしまったが、彼女にとってはアリスに会える機会になった為、それほど気にしていなかった。

 

 

 ――これから起こる惨劇はエリザ本人の意思によるものではない。被害者達にとっては不運であった。そうとしか言いようがない。

 

 

「――――」

 

 

 周りの人間からの怒鳴り声を気にした様子も見せず、エリザは魔法を発動させる準備をしていた。その対象は彼女の周囲に群がる人間。メフィストに与えられた命令――黒アリスの注意を惹くという内容。その命令を達成する単純な方法。

 黒アリスは『魔女』に分類されるが、その力の使い道は魔獣退治に用いている、善良的な『魔女』だ。そんな彼女を確実に表舞台に引きずり出す為に有効な手段は――。

 

 

 言葉を発することなく、右腕を振り上げられる。メフィストのしかけた魔法によって、エリザの秘められていたポテンシャルが引き出された。とても最悪な形で。

 

 

 エリザから放出された魔力が血に変換されて、大量の血の剣群が形成された。エリザの挙げられた右腕が、ゆっくりと降ろされた。

 それと同時に。空中で滞空していた剣群が雨のように降り注いだ。

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