TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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※ミスにより、前回と同じ話が投稿されていました。ご指摘下さった読者様、感謝いたします。


第五話 決意

「――吾輩と一緒に、この世界から魔法少女の存在を無くしてみないか?」

 

 

 妖精である黒兎がするとは思えない提案。しかしファンシーなぬいぐるみのような見た目に反して、告げられた声色は真面目そのものであった。

 

 

 真剣な様子の黒兎に、悟は思考を巡らして、逆に問いかけた。

 

 

「それは貴方が魔獣側に加担して、人間を滅ぼしたいから?」

「違う、違うぞ。少年! 言葉の綾だ! 言い方が悪かったんだな……。吾輩が君に頼みたいのは――」

 

 

 そこで黒兎は言葉を切り、深く息を吸った後、続きを話し始めた。

 

 

「――この世に存在する魔獣全てを滅ぼし、魔法少女が戦う必要性を無くしたいんだな」

 

 

 提案を受けるか、否か。

 悟は自分が人生の最大の分岐点が今であることを直感的に察した。

 慎重に考えなければならない。

 

 

 静寂が辺りを包み、枝や葉の擦れ合う音や悟の息遣いがやたらと大きく聞こえる。

 黙り込んだ悟を、黒兎は無言で見つめるだけだ。

 

 

 黒兎の言葉で悟が想起したのは、妹のことであった。

 

 

『――お兄ちゃん』

 

 

 ここ数年、悟を悩ましている幻聴で聞こえてくる少女の声。その持ち主は、悟の実の妹であった。

 年の差は三つ――彼女が生きていればだが。

 そう悟の妹である『有栖川久瑠実』は既に亡くなっている。

 悟が小学四年生の時の出来事であった。

 

 

 

 

 どこにでもある普通の家庭。有栖川家を表現するなら、それ以外の言葉はなかった。

 それが崩れたのは、今よりも幼かった悟と久瑠実が母親に連れられて、近所のショッピングモールに買い物に出かけた時だった。

 

 

 そのショッピングモールに一体の魔獣が現れた。

 どんな見た目をしていたのかは覚えていないが、偶然その場に居合わせた妖精と久瑠実が契約し、魔法少女になったことで難を逃れることができた。

 

 

『よかったよ……皆が助かって……』

 

 

 家族だけではなく、他の人間が無事であった事実に、安堵して笑う妹の顔が脳を離れない。

 

 

『よかったですね、皆さんに怪我がなくて。さあ、平和の為に魔獣を一体でも多く倒しにいきましょう』

 

 

 久瑠実に上手い言葉を囁き、魔法少女としての契約をこじつけた妖精の造り物のような笑みが、脳から離れない。

 

 

『私ね……一人でも多く助けられるように頑張るから……!』

 

 

 久瑠実が魔法少女になってから、有栖川家の日常には大きな変化が訪れた。

 久瑠実が家を不在にする日が多くなった。

 魔法少女になったことで、『世界魔法少女連盟』の日本支部に存在を把握されて、登録を促された。

 魔法少女及びその家族は、余計なトラブルに巻き込まれることを避ける為に、個人情報の保護。その国の政府を通じて、金銭的な援助等を受けられるメリットがある。

 

 

 しかしその代わりに近隣に魔獣が出現すれば、討伐命令が下される。その場合も、討伐報酬を受けることができる。

 年若く多感な時期の少女に、何度も命がかかった戦場に送り込まれるという現実は、酷く耐え難いものであったに違いない。

 

 

『嫌だよ……死にたくないよ……!』

 

 

 ある日偶々聞いてしまった久瑠実の本音。悟や両親の前では平気なふりをしていたが、その精神は当時の悟よりも幼い少女のものだ。

 いくら個人で強力な力を持っていたとしても。

 

 

 声をかけずに通り過ぎてしまった自分に対して、悟は死ぬ程怒りを感じている。

 

 

 魔獣との戦いで、久瑠実が死亡したと知らされたのは、それから一ヶ月も経たなかった。

 

 

 母親の泣き声。滅多に怒らない父親が無言で壁に手を叩きつける音。無性に大きく聞こえた自分の心音に、荒い呼吸。

 

 

 その日を境に、悟の家からは笑顔と大事な一人の家族が失われた。

 

 

 あの時悟はどう行動するべきだったのか。

 励ますべきだったのか、魔法少女を辞めるように説得するべきだったのか。

 何度自問自答しても、答えは出なかった。

 

 

 この一件がきっかけで、悟は魔法少女と妖精に関する話題が苦手になったのだ。

 

 

 

 

 妹である久瑠実のような、自分達のような被害者をこれ以上出しては駄目だ。

 そう決心した悟は、黒兎の提案を受けようと考えたが、その前に黒兎の真意を確認したかった。

 久瑠実と契約していた妖精が、悟の中で全ての妖精に対するイメージを下げていたのが、主な理由になる。

 

 

 大きく息を吸い、悟は黒兎に尋ねた。

 

 

「――それは本気のつもりですか?」

「――もちろんだとも。吾輩の妖精としての矜持に賭けて」

 

 

 黒兎はどこまでも真摯に答えた。

 その態度に、悟は黒兎の提案を受け入れた。

 

 

「これからよろしくね」

「よろしくだな」

 

 

 ここに誕生したのは、魔法少女が不要となる世界を目指すコンビであった。

 片や男でありながら魔法少女に変身する者と、片や妖精でありながら魔法少女の存在に否定的な外れ者の組み合わせであるけれど。

 

 

 

 

「……それでこの格好はどうすれば元に戻るの?」

「簡単だな、悟。心の中で念じるといい。元の姿の自分をイメージしながら」

「元の姿……」

 

 

 悟が思い描いたのは、男としての姿。時間にして十秒に満たない時間で、かの童話の主人公如きの姿は、平凡な男子中学生のものに戻った。

 無事に変身が解除されたようだ。慣れ親しんだ体が戻ったことに、悟は安堵の息を吐く。

 

 

「よかった……」

「安心している所悪いんだが、吾輩達のこれからについて話し合いたいんだな?」

「確かにその通りだけど……今は早く帰らないと……!」

 

 

 黒兎に言われて、自分が置かれている状況に気づく悟。

 男である自分が魔法少女に変身した場面を目撃した人物がいるのか、自分というイレギュラーな存在を『魔法少女連盟』に報告するか否か。

 

 

 考えなければならないことは山程ある。

 けれど悟の一番な気がかりなことは、幼馴染である少女――恵梨香の安否だけであった。

 

 

 確かに彼女が魔獣に襲われる前に、魔法少女に変身して間に割って入ることができた。身体自体には大きな怪我はないだろう。

 しかし精神的な面はどうだろうか。

 魔獣とはいえ、生物が目の前で無惨に死んだのだ。

 血や臓物を辺りに撒き散らして。

 

 

 当時の久瑠実よりかは恵梨香は年齢は上ではあるが、思春期で多感な年頃だ。

 心の不安定は、肉体にも影響を及ぼす。それを悟は実体験として知っている。

 

 

 恵梨香は悟の守りたいと誓った人物の一人である。久瑠実の時のように、些細な変化を無視して、失うことはもう避けたい。

 

 

 一刻も早く戻らなければ。

 その考えの元、悟は黒兎を急かす。

 

 

「あ、ああ……そこまで言うのであれば、了解したんだな。――転移魔法」

 

 

 黒兎の魔法が発動して、先ほど同じ黒い渦が形成される。普段であれば入ることに躊躇していただろうが、悟は一切の戸惑いなく飛び込んでいった。

 

 

「あ、待つんだな!?」

 

 

 悟の後を追いかけて、黒兎も自分が生み出した渦を潜る。

 

 

 

 

「ここは……!?」

「とりあえず落ち着くんだな! 人目にできるだけつかない場所に飛んだはずだが、大声は厳禁だな!?」

 

 

 転移魔法による『門』を越えた先の場所は、どうやら校舎の裏側のようだ。

 校庭の方には人が多く集まっているが、悟達がいる場所は死角になっている為、気づかれることはないだろう。

 

 

 黒兎の忠告に従い焦る気持ちを抑えて、恐る恐る顔を覗かせて、校庭の方へ視線を向ける。

 校庭は所々地面が抉られていたり、魔獣の死体の残骸が転がっていたりと、中々悲惨な状態になっていた。

 

 

 その下手人の片割れでもある悟は申し訳ないと思いつつも、忙しなく視線が動かす。そうして目的の人物を見つけることができた。

 

 

 女性教員に支えられて、立ち上がろうとしている所であった。

 幼馴染の無事な姿を見るなり駆け出した。

 

 

「……しばらくは待機であるな……」

 

 

 後に残された黒兎は魔力の気配をできるだけ殺し、『新たな』契約者を見守ることにした。

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