TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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第五十四話 いつも不幸は唐突に

「―それでは、次に教科書の五十ページを開いてください」

 

 

 教師の言葉を聞き流しながら、悟は遠く離れた場所にいる黒兎と念話をしていた。その内容とは、目下一番に解決すべき問題、利恵を洗脳した相手の討伐である。

 

 

(――それで黒兎は思い当たる人物はいる?)

 

 

 黒板に板書された内容をノートに書き写す作業の合間に、悟は黒兎に質問をする。候補に挙げられるのは、魔獣や『魔女』。そして『連盟』の魔法少女。この内のどれかだ。

 まず最初に魔獣は除外できる。魔獣はどれだけ賢しい手段を講じてきても、所詮は獣。もしも魔獣の仕業であれば、食料を得る手段が妨害された時点で姿を現しているだろう。

 

 

 次に『連盟』の勢力も除外できる。純粋に魔獣討伐を掲げる人間と、『エネルギー』回収を第一とする妖精という二つの種族で構成されている組織である為、当然ながら『連盟』も一枚岩ではない。

 しかし共通しているのは、魔獣を一体でも多く倒したいという意思。その動機が善意や悪意のどちらであったとしても、それは変わらない。

 よって、残る候補は――。

 

 

(――普通に考えるのであれば、『魔女』だと思うんだな)

(黒兎も、そう思う? でも一口に『魔女』って言っても、日本だけでも六十六人もいるらしいし。しかも『連盟』に目撃情報があるだけでもこれだけなら、未確認も含めればもっと多いだろうな……)

 

 

 一番可能性がある『魔女』であるが、それを絞り込むのは不可能に近い。昨晩も自力でネットで調べられる範囲は当たった悟だが、洗脳系の魔法を扱う『魔女』だけでも十数人もいる。

 しかもその誰もが、行動範囲は悟達がいる地域よりも遠く、利恵を襲撃した動機も不明である。そもそも行動原理が破綻している者が多い『魔女』に、明確な理由を求めるのが間違いなのかもしれない。

 

 

 当然『魔女』の中には、悟や利恵のようにどうしようもない理由で『魔女』になった者も少なくはない。

 しかし結局の所、そういったまともな『魔女』は早々に『連盟』に保護されるか、活動を自粛して『連盟』に存在を認知されていない場合が多い。

 現に目撃情報が少ない『魔女』程、『連盟』が開示するその『魔女』に対する危険度は低くなっている。

 

 

(……そもそも次の襲撃があるかも不明だよね。『帽子屋』の魔法が、その『魔女』に効果があった場合。柏崎さんを襲ったことや、それに思い至るまでの過程を全て忘れている可能性もある……)

(いや……それはないと思うんだな。相手の魔法は精神に作用する効果を持つ。それを考えると、他者からの同系統の魔法にはある程度の耐性があっても、不思議ではないんだな)

(そこの違和感を感じて、原因であろう僕――黒アリスの方に襲撃があるかもしれない。そういうこと?)

(そうなんだな……)

 

 

 長々と念話で話し合った二人であるが、肝心の『魔女』の正体は判明せず、万が一襲われたとしても、その対応は受け身にならざるを得ない。

 脳内対策会議が一段落したと判断をした悟は、追いついていない板書を慌ててノートに書き留めようと、ペンを握る右手の早さを上げる。

 

 

(……そう言えば気のせいかもしれないのだが、洗脳された利恵と戦闘していた時に、吾輩が知っている魔力反応があったような気がして――)

 

 

 突然耳に入ってきた爆弾発言に、悟の右手が思わず止まる。

 

 

(どうして、そういう重要なことをもっと早めに言ってくれなかったの)

(その件についてなんだが、その時は吾輩も暴走していた利恵の攻撃の余波を防ぐのに精いっぱいだったんだな……。それに加えて、『帽子屋』の認識改ざんの影響もあって忘れていたんだな……)

 

 

 直接姿は見えないが、悟の脳内には申し訳なさそうに土下座をする黒兎の姿が浮かんだ。彼の声色から、直前まで忘却していたことを事実と理解した悟は、その続きを促す。

 

 

(……それで誰なの? 黒兎の知っている魔力反応の持ち主は?)

(それは――)

 

 

「――今日の授業はここまでになります。次回は復習を兼ねた小テストがありますので、しっかりと勉強してくるように」

 

 

 黒兎の言葉に被せるように、チャイムが鳴り教師によって授業終了が告げられる。先ほどが午前中最後の授業である為、次は昼食の時間になる。

 

 

(なんか話の腰を折られてしまったような気がするんだな……悟。改めてよく聞いてほしいんだな)

(……黒兎。その話は一旦後でもいい?)

(それはどういう……!? 了解したんだな! 噂をすれば何とやらという奴なんだな!)

 

 

 悟と黒兎は同時に魔力の反応を感知した。黒兎の知り合いの可能性がある魔力の持ち主を筆頭に、魔力の反応は一つ、二つと増えていく。

 

 

「……って、流石に多くないかな。これは……」

 

 

 異常を察知した教師やクラスメイトに混じり、教室の窓から校庭に視線をやる。以前の魔獣との戦闘の跡が直ったばかりの校庭には、魔獣の姿があった。しかもその数は一体という可愛いものではなく、十体以上にも及んでいた。

 

 

 そして悟の目線は、魔獣の集団にいる人物を捉えた。『魔女』と思われる、黒猫を連れた一人の少女であった。

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