TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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第五十九話 ■様の命令は絶対です!

 悟が形勢逆転の一手を取る為には、数分間に渡る時間が必要であった。普段であれば気にならないだろうそれは、戦闘においては致命的な隙になってしまう。

 その隙をカバーする為に、悟は前衛を使い魔であるチェシャ猫とトランプ兵達に任せた。

 

 

 対するメフィストが使役するのは、一体の使い魔。その名をバフォメット。首から下は人間に似た造りをしているのに反して、頭部は二本の角が特徴的な山羊のものであった。

 狂気を宿した瞳で、メフィストからの命令があれば、すぐにでも屠れるように敵対者を睨みつけていた。

 

 

「――じゃあ、暴れなさい。バフォメット!」

「Guuuu……!」

 

 

 メフィストの指示がバフォメットに下される。それに答える忠義者のように、獲物の前で舌舐めずりをする愚者のように。バフォメットは吠えた。

 筋骨隆々の膝を曲げて、バネの要領で前進。一直線に悟を潰そうと駆ける。

 悟の目では、追うのがやっとの速度で迫るバフォメット。しかし彼はその場から動くことはできない。決して中断できない『作業』に全力で取り組んでいた。

 

 

「Nyaaaa!」

 

 

 凄まじい速さで迫るバフォメットに辛うじて反応したのは、チェシャ猫。その身で主の命を脅かそうとした、鋭利な爪を受け止めた。布に似た表面から、綿が溢れる。

 

 

「Nyaaaa……」

 

 

 チェシャ猫の口から苦痛を堪らえる悲鳴が洩れる。ジャバウォックとは違い、再生能力は持ち合わせていない。一度完全に破壊されてしまえば、再召喚には半日以上の時間が必要となる。無意味に特攻させれば、苦しめるのは悟自身の首になる。

 

 

 それだけではない。悟が魔法少女に変身してから、窮地を何度も救ってくれたのはチェシャ猫だ。魔法による産物であったとしても、喜怒哀楽や自我を持ち合わせていることも、悟は理解していた。

 無駄に苦痛を長引かせるつもりは、悟にはなかった。

 

 

 近接武器を持ったトランプ兵達で、バフォメットの気を逸らしチェシャ猫から引き離そうとするが、空いた手でトランプ兵達を一蹴する。

 その後トランプ兵達が攻撃を続けるが、効果があるようには見えない。残存していたトランプ兵の数が、みるみるうちに減っていく。

 

 

(間に合わない……!?)

 

 

 悟の中に湧き上がる確信。このままでは悟の強制召喚を待たずして、チェシャ猫とトランプ兵達による戦線は崩壊してしまう。そうなれば悟の身はどうなるか分からず、黒兎や同じ学校に通う生徒達にまで被害が及ぶ可能性もある。

 

 

 負ける訳にはいかない。しかし、どう足掻いても時間は足りない。どうするべきか。悟の思考が止まりかけた頃。悟の耳元で、一人の少女の囁く声が聞こえた。

 

 

「――仕方がないから、力を貸してあげるよ。お兄ちゃん」

「――え? 久留美――」

 

 

 その声の持ち主を、悟は直感的に理解できた。トラウマに由来する幻聴でも、姿を偽った詐欺師のものでもない。実の妹の声であると。

 

 

 真実を問う悟の言葉を遮るように、少女は振り返ろうとしていた悟の肩に手を置く。

 

 

「――お兄ちゃんはそのまま前を向いていて。あの『暴れん坊さん』は私が呼ぶからね? ――■王の名の元に、来なさい。『■■の国の■王・ジャバウォック』」

 

 

 少女がそう発言すると、悟の影から紫色をした異形の竜――ジャバウォックが姿を現した。

 

 

「■■■■■ッ!」

 

 

 ジャバウォックは咆哮を上げた。以前のような、強制的に呼び出された故の不機嫌なものではない。仕えるべき■王に招集に応える、配下としての意思表示であった。

 

 

「――今回だけだけど、ジャバウォックは言うことを聞くように伝えてあるから。じゃあ、後は頑張ってね。お兄ちゃん」

「ま、待って久留美――」

 

 

 慌てて振り返った悟の視線の先には、既に誰も存在しなかった。

 

 

「な、何……その使い魔……。私が調べた情報にはなかった……!」

 

 

 どうやら突然現れたジャバウォックの威圧感に圧倒されて、メフィストはそれまで浮かべていた笑みを崩して動揺の色が見える。

 どうやら先ほどの久留美の姿は見えてなかったようだ。彼女の使い魔であるバフォメットも、チェシャ猫から腕を離して、すぐさま距離を取った。

 

 

「■■■■」

「Nyaaaa……」

 

 

 ジャバウォックはチェシャ猫の傍に行き、労るような鳴き声を上げ、チェシャ猫もそれに返事らしきものをする。何度かやり取りを交わした後、チェシャ猫は悟の影に吸い込まれるように姿を消した。

 ジャバウォックは首を少しだけ動かし、悟の方へと視線を向ける。

 不本意ながら協力してやるよ、と言わんばかりに。その態度にカチンときた悟はジャバウォックに大声で告げた。

 

 

「――絶対に今回の件が片付いたら、言うこと聞かせてやるからな! だけど、その前に……悪魔退治と行くよ! ジャバウォック!」

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