TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス   作:廃棄工場長

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第六十五話 記憶の世界①

「――え? 黒兎?」

 

 

 悟が寝かされていた部屋に入ってきた者の正体は、黒兎であった。悟が意識を失う前、彼の魂は何らかの手段で物資化されて、ビルの手中に収まっていたはず。

 悟が気絶した後で、黒兎も同じ場所に送り込まれたのだろうか。それにしては黒兎の反応には違和感がある。まるで初めて会ったような反応だ。

 

 

「? お嬢さんとは初対面のはずだと思うんだな……。もしかして吾輩が忘れているだけで、どこかで会ったんだな?」

「……本当に覚えてないの?」

「すまないんだな……」

 

 

 悟のことを忘却している。それは悟の勘違いでも杞憂でもない。紛れもない事実として、悟に突きつけられていた。

 悟は酷く落ち込んでいて、顔を下に向けて視線は床に固定されていた。一方の黒兎も、原因不明ではあるが自分がきっかけで見知らぬ少女を傷つけてしまい、申し訳なさそうにしている。

 

 

 室内の悪くなってしまった空気を変える為に、金髪の少女――クレアは大きな声で悟に話しかけた。

 

 

「ねえ、アリスちゃん! もしもだけど、貴女の知り合いに黒兎に似ている誰かいたかもしれないわ。良かったじゃない! 早速記憶を取り戻す手がかりを見つけられて!」

 

 

 悟はクレアに記憶喪失であると説明していた為、悟の奇妙な発言も記憶喪失によるものであると判断した。

 元気づけるような言葉に、何とか正気を保つ悟。

 

 

「……うん、ありがとうね。クレア」

「別に大した事ないよ。これぐらいなら、お安いご用よ」

 

 

 クレアに礼を言いつつ、悟は一つの仮説に至った。

 

 

(――もしかして、ここはビルの魔法によって作り出された異空間なのかも。少なくとも、目の前の黒兎は偽物だ。この黒兎からは、僕との間に魔力のパスが繋がっていない。僕を知らないだけなら、ビルに何かしら魔法を使われた可能性はあるけど、この違和感は無視できない)

 

 

 では、クレアと名乗る少女はどういう存在であろうか。この黒兎と同様に、偽物であるのか、ビルの魔法に取り込まれた犠牲者か。

 これまでの悟との受け答えでは判別はできなかった。

 しかしこの空間のあらゆる物体が魔力で構成されていることに気づき、悟の考えが全てではないが正しいことの証拠になるだろう。

 

 

(尚更少しでも早く元の場所に戻らないと……! ここが魔法によって作られた空間なら、無理やり破壊できるかな? ――『■■の国の■王』!)

 

 

 悟は無言で魔法を行使して、トランプ兵を召喚しようした。だが、普段であればすぐに出現する忠実な兵士はその姿を見せない。

 魔法が不発に終わった。どうやら魔法の使用そのものにも制限がかけられているようだ。

 

 

(……魔法は使えない。破壊するという手段は取れないか。そう言えば、ビルが魔法を使う前に言っていたっけ? 確か――)

 

 

『――実際に『彼女』を見て触れあえば、きっと頑固な貴女でも協力を申し出てくれるでしょう。良い返事を期待してますよ』

 

 

(……『彼女』が指すのは『聖女』。その子に会えば、何かしらの脱出の糸口には繋がるはず。『聖女』を探すことを第一目標にするか……)

 

 

 ビルの発言の意味を考察する悟は、とりあえずの方針を定めた。けれど、悟の中に一つの疑問が湧く。

 

 

(……でも何を媒体とした空間なんだろう? これだけ精巧な空間――世界の創造。たとえ範囲がごく小規模であったとしても、よほどの物を用いないと、すぐに破綻しちゃうだろうに。いや、もしかして……! 黒兎かビル自身の記憶を元に作られているのかな?)

 

 

 どちらにせよ、今の悟にはそこまで調査する術は持っていない。

 それだけではなく、現状彼が置かれた状況は最悪に近い。敵の手の内である空間で、魔法を使えない孤立無援。見た目通りの非力な少女でしかなかった。

 

 

 はあ、と大きくため息を吐く悟はクレアと黒兎(偽)に声をかける。

 

 

「――迷惑かもしれないけど、お世話になります。クレアさん、黒兎さん」

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