バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回珍しく蒼介君が絶不調です。 



準決勝④『ふざけるな』

優子「………この目で実際に見ても信じ難い……いや、信じたくないわね……代表が圧倒されるなんてことは」

飛鳥「うん、気持ちはわかるよ優子……蒼介だって無敵じゃない。鳳会長にはまだ勝てないって以前言っていたし、この前御門先生に負けたことも聞いている。

……でも、だからって一年生が蒼介を追い詰めるなんて思いもしなかった」

   

一見冷静なようにしか見えないが、実は今の二人の内心は困惑と混乱で埋め尽くされていた。この二人だけじゃない、少なくとも二年Aクラスの全生徒は似たような心境であろう。それほどまでに蒼介はクラスメイトから信頼されているということだが、それ故にたった今蒼介が後輩に追い詰められている光景は、驚天動地という言葉すら生温いものだろう。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  6517点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「ほらほらどうした先輩!アンタの実力はそんなものか!?」

蒼介「っ……!」

 

僅差、ほんの僅かな差である。だがしかしその差は絶対的で、〈詩織〉の剣は〈蒼介〉の体力を徐々に、そして確実

に削ぎ落としていく。

〈詩織〉が繰り出す水嶺流の剣撃に〈蒼介〉も負けじとまったく同じ剣撃で対抗するも、やはりほんの僅かな差で〈詩織〉の剣が一歩先を行く。このまま勝負が続けば勝敗は火を見るより明らかだ。

 

飛鳥「まさか蒼介が剣術で遅れを取るなんて……」

秀介「んー……彼も人の子だったんだねぇ」

飛鳥「……?どういうことですか?

あと貴方の子です鳳会長」

 

頭の中のぐちゃぐちゃした感情を抑え、飛鳥は何故か面白そうに見物している秀介に尋ねる。

 

秀介「私の見たところ、蒼介と綾倉さんの剣の腕にさしたる差は無い。極僅かに綾倉さんが上かなってところかな?」

飛鳥「それは見れば-」

秀介「いや、君はわかってないね。……召喚獣のスペック差を忘れてやしないかい?」

飛鳥「え……あっ!」

 

そう、試験召喚獣の身体スペックは使役する生徒が取った成績に比例する。パワー、スピード、耐久のどれかに特化するのかバランスを重視するのかは生徒次第だが、Aクラスの平均点並の点差が開いた二人の召喚獣のスペック差は、それはそれはかなりのものであろう。

 

秀介「それにね飛鳥君、召喚獣のスペックを抜きに考えても二人の実力はかなり伯仲しているんだ。今の戦況は綾倉さんが蒼介の実力をギリギリ上回っているように見えるけど、その実綾倉さんが未だ無傷のワンサイドゲームだ。実力が伯仲した二人だとこうはならない筈よ」

飛鳥「それは、そうですが……」

秀介「そうだね、そうは言っても現に綾倉さんは蒼介を圧倒しているからねぇ……

だけど答えは単純解明、蒼介が本来の実力を出し切れていないだけさ」

飛鳥「え……い、いったいどうしてですか……!?あの蒼介に限って緊張とかプレッシャー云々では無いでしょうし……」

秀介「()()()()があってね……綾倉さんは蒼介や私にとって、この上なく動揺を誘う人なんだよ」

飛鳥「綾倉さんが……?」

秀介「まだ断定はできないけど、もし綾倉さんが私の推測した通りの人物ならば……

 

 

 

 

 

彼女が今この世界に存在していること自体、本来あってはならないことなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  5642点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「……さて会長、そろそろ何か手を打たないと点数が逆転してしまうがどうする?よもやみっともなく足掻くくらいなら潔く……なんてしょうもないこと考えてやしないだろうね」

蒼介「安心しろ、戦死する瞬間まで剣を下ろすつもりは無い。……小賢しい策や小細工に頼るつもりも毛頭無いがな!」

詩織「っ!」

 

〈蒼介〉は壱の型・波浪による急激な緩急で〈詩織〉に肉薄してからの肆の型・大渦。左足を軸にした回転による遠心力と体の捻りから生じる反発力を剣に乗せた回転斬りが〈綾倉〉の喉元に迫る。

 

 

が…

 

 

詩織(やはりまだ剣に迷いがあるせいか、前以て想定していたレベルにはほど遠い。……まったく、察しが良すぎるってのも考えものだね……()())

 

草薙の剣が命中する寸前、〈詩織〉も左足を軸に回転し紙一重でそれをかわした。

 

蒼介(避けられたか-っ、まずい!?)

詩織(目には目を……“大渦”には“大渦”だよ!)

 

〈蒼介〉は左足を軸に逆回転して迎え撃つが、強引に方向転換した“大渦”が遠心力と反発力が100%加算された“大渦”に敵う筈も無く、〈蒼介〉は弾きばされダメージこそ喰らわなかったもののバランスを崩してよろけてしまう。

 

詩織「もらったよ!」

蒼介(くっ…南無三!)

 

そのような致命的な隙を詩織ほどの達人が見逃すわけがない。“波浪”の急激な緩急、高速剣撃“怒濤”、そして標的を確実に捉える“車軸”による刺突……それら三つの会わせ技、高速刺突連撃“豪雷雨“が〈蒼介〉目掛けて襲いかかる。どうにかすぐさま体勢を立て直して半分ほどは防げたが、もう半分ほどはまともに直撃し〈蒼介〉の点数を大きく削った。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3882点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 5286点』

 

 

詩織「……結構防がれちまったか。想定を下回るとはいえ、流石にそう簡単には決めさせてくれないね」

蒼介「……くそっ!」

 

2500以上も離れていた点差はひっくり返され、戦況は圧倒的に詩織に傾いている。蒼介は悔しそうに歯噛みするが、それは詩織の余裕そうな態度への憤りでも、一年生相手に不覚を取っている自身への怒りでもない。

有り得ないと断じた筈の仮説が、こうして剣を交えるごとに脳に刻まれるかのように、徐々に鮮明になっていくことへの苛立ちである。苛立ちにより蒼介はさらに集中を欠き、それに比例してより剣が鈍るという悪循環に陥ってしまっている。

 

蒼介(どれだけありえない、あってはならないと遠ざけ頭からしめ出そうとても……こうして剣を交えるたびに、綾倉詩織とかつての()()()が重なってしまう……!このままでは不味い…とにかく、今はどうにか綾倉の攻撃を凌いで-)

 

 

 

 

 

 

和真「ふざけるなぁぁぁあああああぁぁああああぁあああああぁぁああああぁあ!!!!!」

 

 

コロッセオ全体に爆音が駆け抜ける。

 

 

『ひぃっ!?(ビリビリィッ!!)』

蒼介・詩織「「っ!?(ビリビリィッ!!)」」

秀介(っ!これは、守那の……!)

 

控えスペースにいた和真が椅子に座ったまま発した声は、とてもただの大声とは思えないほどの圧倒的空間制圧力を秘めていた。声量は勿論のこと、正体不明の威圧感を伴った声の爆弾は直接向けられた蒼介や近くにいた詩織のみならず、会場中のほぼ全ての人間をその場に縛りつけ硬直させた。やがて会場中の視線が自分に向けられるが、それがどうしたと言わんばかりに和真は蒼介だけを睨みつけながら、立ち上がって再び口を開く。

 

和真「ソウスケェ!テメェさっきから何ウジウジしてやがんだ、見苦しいったらありゃしねぇぜ!……テメェとその小娘の間にどんな因縁があるのかは知らねぇ。興味も無ぇし大体んなことどうだっていいんだよ。今テメェのすることはなんだ!?四の五の考えずその小娘をぶちのめすことじゃねぇのかよ!?黙って見てりゃごちゃごちゃ別のことに気ぃ取られて情けねぇ闘いしやがって!勝つ気が無ぇならやめちまえこの腑抜けが!……以上!」

 

言いたいことを言って気が済んだのか、和真は満足そうに椅子に座り直した。そして急いで駆けつけた鉄人がその頭目がけて拳骨を振り下ろす……が、天性の直感で察知したのか見もせずにあっさりかわされる。

 

和真「うおっ、危ね」

鉄人「いきなり何しとるんだお前は!今は試合中だぞこの馬鹿者!」

和真「あー…そりゃすんませんね。ただなぁ、最大の好敵手と認めた奴が目の前で醜態さらしてると……なぁ?」

鉄人「なぁ?じゃない!」

 

ここぞとばかりに畳みかける鉄人の説教をのらりくらりとかわしていく和真から視線を外し、詩織は苦笑混じりに剣を構え直す。

 

詩織「……いい友達を持ったね。おそらくあの先輩なりの、会長への激励なんだろうよ」

蒼介「………ああ、そうだな。

まったく、私もまだまだ未熟だな」

 

自嘲めいた笑みとともにそう告げる蒼介の内心では、さっきまでかきみだしていた迷いが綺麗さっぱりと消し飛んでいた。

 

蒼介「お前に関して確かめたいことや問い詰めるべきことは多々あるが、カズマの言う通り今は栓無きことだ。大局を見失っていたと言わざるを得んな。私は是が非でも勝ち抜かなければならないというのに。ここまで不甲斐ない闘いをしてすまなかったな綾倉……ここからは気を引き締めて行くぞ!」

詩織「……本当に迷いがなくなったか試してやろう。さぁ、こいつをどう受け切るんだい!」

 

〈詩織〉は再び“豪雷雨”で〈蒼介〉に襲いかかる。この複合技を多用しているところを見るに、どうやらこの技は詩織が最も信頼している技のようだ。

 

 

しかし…

 

 

詩織「…なっ!?全部外れ…いや、外された!?」

 

〈詩織〉の放った〈蒼介〉が捌の型・夕凪を駆使して全ての剣撃を受け流した。そして〈蒼介〉がおもむろに利き腕を上げそのまま振り降ろそうとしてきたので、〈詩織〉はすぐさまバックステップで一旦距離を取る。

 

が、〈詩織〉の身体はいつのまにか切り裂かれていた。

 

 

《総合科目》

『二年Aクラス 鳳蒼介  3882点

VS

 一年Dクラス 綾倉詩織 4998点』

 

 

詩織「なっ!?い、いつの間に……??」

蒼介「わざわざ種明かしをするつもりはないが、お前に一つ言っておく。確かにお前が振るう壱から陸の型は私以上のキレであると認めよう……だがお前は漆以降の型を、習得はおろか伝授すらされていないようだな。水嶺流は壱から拾の型全て揃うことで初めて、全ての局面に対応できる無敵の流派と成り得る。それをこれから教えてやろう」

 

 

 




和真君は蒼介君が醜態をさらすと、すぐさま有り得ないほどボロクソに貶します。蒼介君は和真君が対等の実力者と認めていますので、そんな彼がグダグダしていたら……そりゃキレますね、はい。

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