貴族のお嬢様が問題を起こしてしまい、そのツケを払うために宇宙船で戦場のど真ん中に放り出される短編小説です。

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お嬢様、出撃ですぞ!

 とある宇宙の片隅にて、一隻の宇宙船が砲火の中へと突き進んでいた。

 

「そのまま速度を緩めるな!主砲一番二番は指定ポイントへ牽制射!」

 

「先行していた探知魚雷が敵防護巡洋艦を捉えま…通信途絶!撃墜された模様!」

 

「左舷より敵航空機、攻撃機三…訂正五機!」

 

 宇宙駆逐艦に分類されるこの艦艇は尖兵として敵陣に突っ込み、敵艦隊の主力である宇宙戦艦の撃沈を目指して敵の攻撃を交わし突き進んでいた。本来展開される筈だった正確かつ濃密な弾幕は太陽フレアによる電磁波で乱れており、彼らに付け入る隙を与えている。

 

「いい風ですな艦長!恒星のお陰で探知網や通信が穴だらけです!」

 

「この船も穴だらけでしょう!?」

 

「何をおっしゃいますか、駆逐艦に装甲は皆無でありますぞ」

 

「さも当たり前のように!気が気じゃありません!」

 

「いいではないですか、貴方はどっしり構えていれば良いのです」

 

 艦長と呼ばれ狭い艦橋の中央の椅子に座るのは我らがカンナギ家を傘下に収めるグレアム家の御令嬢殿だ、まあ継承権は三位から四位くらいらしい。血の気は引いているが、副艦長のボケに突っ込める程度には強固な精神を持っていた。

 

「どうせ家に帰られても毒殺か絞殺か、はたまた何処ぞの変態に売付けられるという最悪の末路しかございませんことはよくご存知でしょう?」

 

「…よ、よくお分かりで、カンナギ副艦長」

 

「だから我らを損耗率の高い水雷突撃戦隊に組み込み、この駆逐艦に乗せたというのは調べがついていますからな!」

 

 そう笑う中でも並走していた駆逐艦が爆沈、周囲に破片を撒き散らすと敵航空機が巻き込まれて爆発する。装甲の薄い船の末路は悲惨なものだが、やはりあっという間に沈むというのは見ていて気が気ではない。

 

「あれはどこの家の駆逐艦ですかな、我らについて来たのは良いですが…些か動きが単調でしたな」

 

「なんで、なんでこんなことになってしまいましたの…」

 

「そりゃあ決まってるでしょう御令嬢殿、貴方がよく分からん女のつまらん挑発に乗ってまんまと大恥をかいたからに違いありません」

 

「全部お調べになられたのですね!」

 

「舌を噛みますぞ」

 

 駆逐艦が突如バレルロールの軌道をとったかと思えば対艦誘導ミサイルが次々と突っ込んでくるが、回転軌道についてゆけず駆逐艦を通り過ぎて背後で爆発する。しかし飛散した破片が船体へと突き刺さり、砲塔の一つに致命的な打撃を与えた。

 

「左舷二番対空砲大破!」

 

「案外喰らいませんなぁ、幸運の女神が座すかも?」

 

「悪運の悪魔に!違いありませんわ!」

 

 防護巡洋艦に主砲の斉射を浴びせて怯ませ、すれ違いざまに後部発射管から魚雷を発射し巡洋艦を沈める。そのあっという間の出来事に、御令嬢殿の戦場慣れしていない身体はついていけない。

 

「おお、巡洋艦が沈みましたな」

 

「当たりどころが良かったようで、弾薬庫に命中したものと思われます」

 

「大金星ですな!これまでの戦果で勲章の二つや三つは貰えまずぞ!」

 

「生きて帰ることができれば、でしょう!?」

 

 艦隊防空網に空いた穴から後続も突っ込み、他の駆逐艦も手当たり次第に魚雷を放つ。ほとんどが太陽フレアにやられて機能を失うだろうが、それでも原始的な接触信管による起爆は驚異だ。

 

「良い混乱具合ですなぁ、このまま敵戦艦に突貫しましょう」

 

「正気ですの!?」

 

「汚名返上には武勲が必要でしょう?」

 

 ばら撒かれていた無誘導固形燃料噴進弾がレーダーに移り、対空砲で最低限の数を叩き落として押し通る。数発掠って元から脆い甲板が破片で穴だらけになり、艦橋のアンテナがもぎ取られるが誰も気にしていない。

 

「見えてきましたな御令嬢殿、華の二水戦と行きましょう!」

 

「なんですのそれ!」

 

「ご説明しましょうとも!」

 

華の二水戦とは?

宇宙戦艦は質量が大きく、急な方向転換が出来ない。

一度舵を切る(回避する)と、次の回避が不可能。

つまり戦艦に真っ直ぐ突っ込んでビビらせて一度回避させ、もう動けなくなったところに魚雷を全弾叩き込んで沈める。

 

「というわけですな!」

 

「この阿呆!水雷キ○ガイ!命知らず!」

 

「褒め言葉ですな!」

 

 駆逐艦は戦艦に対して殆ど効果が無いはずの主砲を撃ち放ち、正確に迎撃用の副砲を破壊した。速度を緩めずに突撃する彼らに対して戦艦は回避行動を始め、周囲の船も庇うように進路の先へと侵入してくる。

 

「立ち塞がる気か…擦っても構わん、間を通せ!」

 

「ほ、本気ですの!?」

 

「主砲をこちらに向けております、反対側に抜ければ撃たれるまでの時間を稼げますとも」

 

 副艦長の指示により後部の魚雷発射管には今回の出撃に際して二発しか用意出来なかった対消滅弾頭を装填し、それと同様に前方の発射管にも残りの一発を押し込んだ。

 

「懐かしいですなぁ、アルファ・ケンタウリの戦線では対消滅弾で敵要塞の放熱口を狙い撃ちにして敵に地獄を見せたものです」

 

「お父様の武勇伝でよく聞きますわね」

 

「お嬢様と同じで艦長の席に座っておられましたからね、自分が乗る以上補給も装備も一級品ばかりを用意して下さるので楽で楽で…」

 

「このやり口は私が最初ではないのですね!?」

 

「…そりゃまあ、ええ」

 

 二隻の巡洋艦の間に船体を押し込み、火花と外装の残骸を散らしながら奥へと抜ける。対空砲が降り注ぐが、幾ら駆逐艦とはいってもその程度では止まらない。

 

「お嬢様、指示を」

 

「魚雷発射ァ!!……これでいいんでしょう!?」

 

 あらゆる装甲を無視する威力を持った対消滅弾頭が二発、敵陣のど真ん中で旗艦とその護衛に向かって放たれた。

 

ーーー

ーー

 

 御令嬢殿の乗る駆逐艦は無事帰還、航空機多数、敵駆逐艦2隻、防護巡洋艦1隻、戦艦1隻の大戦果を挙げて帰還した。旗艦を潰したことでその後の海戦も味方の勝利に終わり、彼らの胸には新たな勲章が光り輝いていた。

 

「これでヘマした分はチャラですな!」

 

「…認めるしかありませんが、学園に復学出来たのは貴方方のお陰ですわ」

 

「いえいえ、我等カンナギ家は貴家に大恩がありますからな…お嬢様、お元気で」

 

「ええ、ご武運を祈っていますわ」

 

 しかしその数ヶ月後、御令嬢殿は喧嘩を売り続けられ精神のダムが決壊し相手をぶん殴って停学処分となって帰ってきた。駆逐艦で戦艦沈めて帰ってきました、というのは正直言ってお嬢様方ばかりの学園では悪評同然だったらしい。

 

「締まりませんなぁ」

 

「こ、今度はただの機雷処理任務ですのよ!」

 

 この後の任務においても彼女は幸運の女神となり、王国一番の英雄として語り継がれることになるのだが…それはまだ当人には想像も出来ない話だった。




過去に書いた物が眠っていたので供養。

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