大魔導士リンネの異世界交信記 異界の者よ、我が呼びかけに応えよ   作:哀川まひる

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第01話 リンネ・スカーレット

 神隠しという言葉をご存じだろうか。人がある日忽然とその姿を消す現象のことだ。これだけだと今の世の中、おおかた魔物にでもやられて死んでしまったのだろうと多くの人は取り合わないだろうが、稀に神隠しに遭い、帰ってきたという人が実際にいる。そしてその人らは皆、自分は異世界に迷い込んでいたと証言するのだ。

 

 本当に異世界はあるのか。それとも只のデマなのか。気になる奴は何処にでもいるもんで、世間ではちょっとしたオカルトブームが巻き起こったりなんかもした。そして彼女もまた、異世界は本当にあるのではないかと考える一人だった。

 

 リンネ・スカーレット。後に希代の大魔導士と呼ばれる少女である。

 

 俺がリンネと初めて会ったのは、まだ十二歳の頃だった。その日は丁度入学式で、俺たちは学校にあるだだっ広い体育館で、校長先生をはじめとする学校関係者のながーい挨拶をありがたく聞いており、話が終わるのを今か今かと待っていた。

 

 そして待つこと2時間。ようやっとお偉いさんたちの長い挨拶が終わり入学式はお開きとなり、俺は自分のクラスメイトとなる連中とぞろぞろと1年1組の教室に入っていった。

 

 クラスメイトの連中がみんな席に座ると、1年1組の担任教師は自身の自己紹介をした後、俺たちにもそれぞれ自己紹介するように指示を出す。俺たちはその指示に素直に従い、各々自己紹介をしていった。別段変わったものでもない。名前と出身地を言い、これからの抱負を語っていくだけである。よくある光景だろ?

 

 そして、そんな自己紹介もつつがなく終わり、帰宅の時間になった頃だった。不意に肩を掴まれたのだ。

 

「あんたが次席のヴェルナーね。協力しなさい」

 

 振り向くと、目をギラギラとさせ、獰猛そうな笑顔を浮かべた少女がいた。目力が凄い。

 

「えーっと、確かリンネ・スカーレットさんだったか? 俺に何か用なのか」

 

 俺がそう尋ねると、茶髪のポニーテールをした少女は我が意を得たりと頷いた。

 

「リンネで良いわ。これから長いこと一緒にやってくんだし」

 

 確かに長いこと一緒にやるのはそうだろう。なんせ今日入学したばかりなのだ。彼女が途中で別の科に移ったり、飛び級で卒業したりなんかしない限り、6年間は同じクラスでやっていくのは間違いない。だが協力とは一体なんぞや……。俺がそんな風に思っているのが伝わったのか、彼女は一枚の用紙を差し出してきた。

 

「あなたに協力してもらいたいのはこれよ、これ」

 

 見てみると、その紙は入部希望届であった。こんなの一体いつの間に貰いに行ったんだ、こいつは。入学式からこっち、そんな時間はなかった筈だが。……もしや入学式が始まる前に、既に事務課に貰いに行っていたのだろうか。もしそうなら行動力の化身すぎる。

 

「部活か? もう決めたのか」

 

 まだ部活紹介なんかも行われていないのに、何ともまあ気が早い奴である。しかし俺がそう聞くと、リンネは首を横に振った。

 

「ううん。今ある部活はもう全部確認したのよ。名前だけだけどね。それで、わたしが入りたい部活がなかったから新しく作ることにしたの」

 

 ……新しい部活ねえ。禄でもなさそうな部活だと思うのは俺だけだろうか。

 

「ふうん。何て部活だ?」

 

「異世界交信部!」

 

 リンネは力強くそう言った。なるほど、確かにそんな名前の部活動は入学案内には書かれていなかった。恐らくそれに類似するであろう部活動も、だ。

 

「異世界交信部、か。具体的に何をする部活なんだ」

 

 確信をもって言えるが、絶対に禄でもない部活である。その活動内容を俺は何となく予想出来たが、一応リンネに聞いてみることにした。もしかしたら俺の予想は外れていて、健全な活動かもしれないからな。しかし、俺の予想は当たった。それも悪い方向で。

 

「そんなの名前の通りよ。異世界と交信するの! そして異世界が本当にあるって実証するのよ! その為には色んな不思議なことを探す必要があるわね。なんせ異世界よ、異世界! ああ、どんな不思議が満ち溢れているのかしら!」

 

 リンネは元気よく、そう答えた。後ろの方は何だか本人の希望が駄々漏れている気がするが、やはりかという感想が俺を襲った。本当に名前のまんまの活動内容だ。こいつは本気で異世界を探そうとしていたのだ。とんだ電波ちゃんである。だが、そんなリンネに言っておきたいことがある。

 

「でも、部活って2人だけで出来るのか?」

 

 これだ。部活というと、少なくとも10人くらいは参加する生徒がいるイメージだ。それにリンネは新しく作ると言っていた。確か部活って、部費とか予算とかの都合もあるだろうし、そう簡単には作れないんじゃなかろうか。あとは担当教諭とかも必要なんじゃないか、と俺は思ったことをリンネにつらつらと言ってみた。

 

 すると彼女は「そうなのよねえ」と俺の意見に同意するように頷いた。

 

「でもまあ、やっぱり人数は必要なのよ。最低5人。これは実際に確認したから確かなの。だからあんたも勧誘、手伝いなさい」

 

 何故かリンネの中では、既に俺は彼女の言う異世界交信部とやらに入っているようだった。いつの間に入れられたのだろうか。ついでだからこの際、聞いておこうと思う。何故俺なのかと。

 

「そんなの、あんたが魔道科の次席だからに決まっているじゃない。折角部活を作るのよ。どうせなら各科のトップを引っ張って来るべきだわ。そうしたら教師たちもわたしの部活の立ち上げに協力的になるかもしれないし!」

 

 なるほどね。俺を巻き込んだのはそういう意図があったからか。しかし意外と色々考えている奴で驚いた。突飛な言動をするくせに中々計算高い奴である。そして俺は今日ほど自分が次席だったことを悔いたことはない。今日入学したばかりだけどな! ただそうなると、リンネは魔道科でどの辺りなんだろうか。興味本位に聞いてみると、

 

「わたし? もちろん魔道科の首席ですけど何か?」

 

との答えが返ってきた。なんてこったい。こいつが入学試験の時、派手な魔法でグラウンドを一時的に使えなくした「恐れる魔女の襲来」だったとは。

 

 さて、そんなこんなでリンネと俺は早速翌日から行動を開始した。もちろん内容は部活の勧誘である。俺は勧誘をやりたいと言った記憶もないし、そもそも入部希望届はまだ鞄の中にあるのだが、リンネの頭の中では俺は既に入部している扱いになっているらしく、腕を引っ張られて仕方なくついて行く羽目になった。流石にここまでグイグイ来られると、押しの弱い俺では太刀打ちが出来ない。渋々着いて行った。

 

「まずは主席に話を通さなくっちゃね!」

 

 取りあえずはトップから話を持ち掛けてみるとリンネが言うので、俺たちは各科の首席に声を掛けにいった。具体的には魔技科、練成科、それから武闘科の首席だ。魔道科はリンネと俺でワン・ツー・フィニッシュである。

 

 それにしても、ほんと行動力の化身のような奴だ。その行動力は勉強とか運動とか、その他もろもろの健全なものに使えば良いのに。そっちの方が絶対将来、やってて良かったと思える日が来るだろうよ。俺はしみじみそう思った。

 

 で、俺としてはこんなけったいな部活なんぞに人は集まらないだろうと高を括っていたのだが、思いの外集まりは良く、魔技科と練成科の首席からはなんと、リンネの作るこの怪しげな異世界交信部なる部活に入っても良いという返事をいただいた。これにはリンネも大喜びである。

 

「やったわ。こんなに上手くいくなんて! 後は武闘科だけね」

 

 まったく酔狂な連中もいたもんだ。しかし、人数集めならわざわざ各科から1人ずつ選ばなくてもいいんじゃないか。調子よく集まっているのだし、このまま魔技科と練成科の次席に声を掛けに行ったらどうかと、俺はリンネに提案したのだが、

 

「甘いわよ、ヴェルナー。異世界と交信するのよ。実際に異世界に行くことになったら、どうするのよ。バランスってのはとても大事なの。近接戦闘が出来る人材が一人はいるわ!」

 

との彼女の熱弁に負け、武闘科の生徒の勧誘に行くことになったのだった。異世界に行ってまで戦闘する気なのかよこの女は。俺は心の中でそう呟いた。

 

 で、武闘科のクラスの前まで来た俺たち。見渡す限り男子ばっかり。まるで男子校に来たかのような錯覚を起こす。まあ、それでも魔技科には負けるんだけどな。魔技科は正に男の園なのだ。女子生徒なんて片手で数える程しかいない。いや、今は魔技科の話はいいな、武闘科の話だ。

 

 そうして俺たちは武闘科の主席の男子を探し出し声を掛けてみたのだが、反応はなしのつぶて。お前ら、そんな部活動作るのかよって目で見られたね。そんなのリンネに聞いてくれ。俺は知らん。

 

 しかし、これはもうダメかもしれんね。主席の反応からして、武闘科は間違いなく体育会系だと思う。きっと入る部活も暑苦しい部活ばかりに違いない。リンネのトップを連れて部活を作ろう大作戦は暗礁に乗り上げたと、俺はそう思ったのさ。案の定、次席に声を掛けた時も色よい返事は貰えなかったからな。しかしリンネは諦めなかった。

 

 まったく期待せずに勧誘に向かった武闘科の3人目。あまり武闘科には向いていないんじゃないかと思う小柄な少女にリンネが勧誘を行ったところ、

 

「構わない」

 

と、何故か同意を得ることに成功したのである。マジかよ。

 

 念の為、俺も確認してみた。こんな良く解らん部活に付き合って、6年間無駄に過ごすことになるかもしれないんだぞ、もう少しよく考えたらどうか、と。リンネはジト目で俺を睨んできたが、武闘科と言えば授業がハードなのは良く聞く話だ。部活選びにももっと慎重になっても良い筈だ。ただ彼女は真顔で、

 

「構わない」

 

ともう一度言った。どうやら聞き間違いじゃあなさそうだ。物好きもいたもんである。こうして5人目のメンバーは目出度くも揃っちまった。隣でリンネはくるくる回っていやがる。

 

「やったわ。これで第一関門はクリアー! あとは担当教諭と許可だけだわ!」

 

 本当に嬉しそうに喜ぶ奴である。ただ、その2つの方が難易度が高い気がするのは俺だけだろうか。特に許可なんて降りるのか。俺はリンネにそう言った。

 

「大丈夫よ。何のために各科のトップを集めたと思っているのよ。全ては成績優秀者によるゴネ得を通すため! 未来は明るいわ!」

 

 リンネは笑っていたが俺はそんなに上手くいくもんなのかと疑っていた。そして結論から言おう。異世界交信部は認められなかった。

 

「なんでよ!」

 

「なんでもなにも、そう決まったんだから仕方ないだろう」

 

 俺は憤慨しているリンネを宥める。だが彼女の怒りは俺が宥めたくらいじゃあ収まらなかった。知ってたさ。

 

「折角、各科のエリートを集めたのにっ!」

 

 言いたかないが、問題は正にそこだった。学校からしてみれば、そこそこの倍率ではあるが、入試を突破した生徒、それも各科のホープたちを怪しげな部活動に参加させるのは不安に感じたに違いない。そんなものに巻き込んでくれるな、と書類申請に行った際、学年団長の目は言っていた。

 

 ちなみに俺とリンネも、そんなけったいな部活なんか作らずに、既存の部活はどうかと言われた。魔術研究部なんかお勧めだぞってな。もちろんリンネは取り合わなかったが。

 

「どうするんだ」

 

 俺はリンネに尋ねた。すると彼女はポニーテールを揺らし、

 

「今は雌伏の時ね。今に見てなさい。いつか絶対に認めさせてやるんだから」

 

と鼻息を荒くしていた。こいつは意地でも諦めないらしい。

 

 そうして4月、5月と時間だけが過ぎていき、流石にリンネもそろそろ諦めただろうと俺が思った頃、それは起こった。集団生徒失踪事件が。




初投稿です。
流行の異世界転生・転移ものではないですが異世界ものです(強弁)
拙い文章ですが読んでくれると嬉しいです。
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