大魔導士リンネの異世界交信記 異界の者よ、我が呼びかけに応えよ 作:哀川まひる
魔電量販店についた俺たちは、先ずはパソコンコーナーを見て回った。リンネ曰く「今の時代、パソコンの一つもなければ情報を集められないわ! 我が部にはネット環境の用意がいるのよ!」らしい。そして最新型パソコンだとえらく値が張るので、少し型落ちの20万円で買えるデスクトップ型パソコンを購入することになった。それでも高いが。尚、インターネットに使う配線等は学校から借りられるから心配しなくても良いとのこと。根回しが早い。自分のしたいことには一直線のリンネらしいと言えばリンネらしいが。
そして次に寄ったのはアウトドアコーナーだ。これまたリンネ曰く「泊りがけになることもあるかもしれないからね! 野営の準備はしておかなくちゃ!」とのこと。そこで俺たちはテント2組と寝袋5つ、計20万円で購入した。折りたたんで持ち運びのしやすそうな奴な。それにしても、すごい勢いで金が飛んでいく!
また、部室に貴重品を置くことになるからという理由で、結界石も購入。お値段10万円也。ここまで豪快に使うとは誰が予想できただろう。あんなにバイトで稼いだのに、もう残りはたったの10万円である。稼ぐのには時間が掛かるのに、使うとなると一瞬だ。
そして俺たちがリンネの金遣いの荒さに戦々恐々としている所、リンネはこう言った。
「じゃあ、最後にペンデュラムを見に行きましょうか!」
「ペンデュラム? そんなの何に使うんだよ」
ペンデュラムというのは所謂ダウジングなんかに使う道具のことだ。主に地脈や水脈、鉱石なんかを掘り当てるときに使う。占い師なんかも使うと聞いている。
「そんなの勿論異世界探索の為に使うに決まってるでしょーが。いーい? 異世界ってのはねえ。そう闇雲に探しても見つからないの。簡単には見つからないから異世界なの。そこでペンデュラムの出番って訳。あんたの持つ糸にペンデュラムを括りつけて、怪しそうな所をダウジング! そうすればあら不思議! 異世界関連の話に遭遇って、こーゆーわけよ!」
簡単には見つからないと言っているのに、ペンデュラムを使えば簡単に見つかるというその矛盾を、この女は自分で言っていて理解していないのだろうか。
「そのペンデュラムでしたか。それって10万円もするんですか?」
リンネにそう聞いたのはエマだった。
「いーえ。普通のペンデュラムなら5000円もしないわね。でも魔石を使ったものなら10万円くらいするわ。異世界を探すのに妥協は許されない。感度が良くて、片っ端から不思議なものを探り当てるペンデュラムが要るのよ!」
リンネは左手の拳を握りしめる。と、ここでカロルからツッコミが入った。
「でも、感度が良すぎると不思議なもの以外も引っ掛かるんじゃない?」
具体的には、地脈やら、水脈やら、鉱石やら。この台詞には、言われてみてリンネもそう思ったのか、思わず「う……」と唸った。ちなみに俺もカロルと同意見である。だが最終的にリンネは、
「そ、そこら辺はヴェルナーがなんとかするから平気よ! 普段から糸を使い慣れてるし、ペンデュラムも使い慣れたら異世界かそうでないか判断出来るようになるわよ! ねっ?」
と、のたまった。なんともまあ、他人任せな考えの奴である。しかも俺が使い慣れるようになるまでは、毎回地脈やら水脈やら鉱石なんかを探し当てることになるのでは? 俺はジト目でリンネを見た。
「うっ……」
「ま、まあまあ。お二人とも。リンネさんだって悪気はなかったみたいですし、ね?」
リンネを庇ったのはやはりエマだった。優しい。
「だが、悪気はなくとも10万円だぞ、10万円。それならペンデュラムはもっと安いのを買って、他にみんなのタメになりそうなもんでも買ったらどうだ」
「タメになりそうなもんって何よ」
「例えば扇風機とか」
これから暑くなるだろうしな。つーか現在既に暑い。残念ながら我が異世界交信部の部室にはエアコンなんてもんはついてないし、扇風機もない。従って、夏が近づけば近づく程、暑さで頭がやられちまいそうになる。一部既にやられちまってるような奴もいるが、それは置いておこう。
一応、魔法で風を操ったりなんかして涼むことも出来るんだが、それだとやっぱり面倒くさい。機械がやってくれるんなら、機械に任せた方が手っ取り早いだろう。
こんなこと年寄りに聞かれたら「最近の若いもんは贅沢ばっかり覚えよって。わし等が若い頃なんか全部魔法でやっていたわい」とか言われそうだが、昔と現在では気温が違うのだ。温暖化現象だったかが起きて、近頃夏は特に暑い。
つーことで俺は扇風機に一票。エアコンは高いからそこまで贅沢は言わん。なんなら冷蔵庫か、冷凍庫でもいいぞ、自販機で買った飲み物を冷やせるからな、と発言してみた。カロルも「そうだね」と俺の意見に頷く。ただリンネは、
「それでもわたしはペンデュラムが良いわ。だって、安物を買ってもそれで見つかるとは思えないもの!」
と、いつになく真剣な表情でこう言った。それに同調するようにエマも、
「そうですね。確かに10万円もするペンデュラムは高いかもしれません。ですが、異世界交信部は異世界を探す部活です。そこに妥協は出来ないというリンネさんの気持ちは解ります」
と言った。俺とカロルは顔を見合わせて、まだ何も言っていないナナリーの方を見た。すると彼女も、
「構わない」
と、肯定を示した。どっちの構わないかは聞くまでもないだろう。
「後になって、俺が上手く使えないと解っても後悔するなよ?」
「誰がするもんですか。みんなで貯めたお金で、わたしが決めたものを買う。そこに後悔も未練もないわ。あるのは未来に対する希望だけ!」
そう男前な台詞でリンネが宣言をしたことにより、俺たちは10万円もするペンデュラムを購入することに決定した。やれやれだ。
買い物も終り、俺たちは昼飯を食うために近くのハンバーガーショップに入った。もう昼前だからそれなりに混んでいる。俺はチーズバーガーセットを注文し、カウンター席に腰を下ろした。注文した商品は後で店員が席に持ってきてくれるシステムだ。座って待っていればいい。
俺の左隣にはカロルが座り、右隣にはリンネが座る。残念ながらエマとナナリーの分までは空いてなかったので、2人は少し離れた席に腰を下ろした。そしてチーズバーガーセットが運ばれてくるまでぼけーっと待っていた俺なのだが、不意にリンネが俺に話しかけてきた。
「これでやっと異世界との交信が始められそうだわ」
そう言って鞄の中を物色するリンネは、まるで小さな子供が喜びを隠しきれないような顔で笑っていた。こんな顔も出来るんだな、こいつ。俺は頬杖をつきながらそんなことを思った。そして物色し終わったのか、リンネの手には先程買ったペンデュラムが握られている。
「はい、これ。あんたに渡しておくわね」
そして無造作に差し出されるペンデュラム。10万円もするんだからもうちょっと慎重に扱って欲しいもんである。
「はいはい。大切に預かっとくよ」
俺がそう言うと、リンネは「うんうん」と大げさに頷く。
「で、早速なんだけど。ジャーン!」
リンネは俺にブツをよこすと、そのまま鞄の中から一冊の本を取り出した。タイトルは地図帳と書かれている。この流れはまさか。
「まさか今からするのか? ダウジング」
「当然よ。エマとナナリーもちょっとこっち来て! ダウジングの初お目見えよ!」
リンネが2人に声を掛けると、2人とも席を立ってこちらの方に歩いてくる。しかし店内で叫ぶのは恥ずかしいからやめてくれ。周りの客も何が始まるんだろうという顔をしているぞ。
「まずは、やっぱりわたし達の近場からよね!」
そんなことを言いながらぺらぺらと地図帳のページをめくるリンネ。そしてページをめくるのをやめると、地図帳を開いてテーブルの上に乗せた。開かれたページを見てみると、俺たちの住んでいる市が載っている。なるほど、宣言通りまずは近辺から洗い出そうという目論見らしい。
「じゃあ、ヴェルナー。よろしくぅ!」
リンネはそう言ってサムズアップした。俺はやれやれと溜息を一つ吐き、ペンデュラムに糸を括りつけ、地図帳の上にそれを垂らす。さて、どうなるか。本当に上手くいくのかね。
俺は目を閉じ、糸に魔力を集中させる。すると糸が勢いよく弧を描くように回りだす。そしてある一点を指し示すかのようにピンと糸が張った。俺は目を開けた。
「これは……うちの学校?」とエマ。
ペンデュラムが指し示しているのは確かにうちの学校だった。
「そうね。そうみたい。これはうちの学校にまだ何かあると見て良いわね」
リンネはいつも通りの獰猛そうな笑顔でそう口にする。ペンデュラムが全く役に立たない可能性もあったのだから、彼女としては結果が出ただけでも万々歳なのだろう。実際、俺も本当にダウジングが出来るだなんて思っていなかった。半分くらいは嘘っぱちだろうと思っていたからな。それがまさか一発で成功するとは。それにしても学校か。つくづく縁があるな、学校に。
そんなことをぼんやりと考えていると、カロルが口を開いた。
「でもこれって、七不思議じゃないのかな」
それは俺も思った。
「どーだろうな。確かに俺たちは、っつーか俺が七不思議のほとんどを倒しちまったからな。もしペンデュラムが示すのが七不思議なら、その残党ということになるが」
「倒していない七不思議と言えば、美術室の怪談。それと後は天井に縫い付けて放置したという人体模型でしょうか」
「そうなるな」
「……いいえ、倒してない七不思議だったら、鏡の魔物も含まれている筈よ」とリンネ。
「おいおい、お前の偽物なら俺が糸で……」
「それは知ってるわよ。でも鏡に映ったのはわたしだけじゃない。あんたとエマの偽物がいる筈でしょ。それに鏡に映ったわたしたちの偽物をいくら倒したとしても、肝心の鏡自体は倒していないじゃない」
「あ……」
そう言われてみれば、確かにそうだった。
「つまり、ペンデュラムが学校を指し示しているのは、七不思議の事件がまだ完全に決着してないからってことですか?」
「……そう考えることも出来るし、もっと別の見方も出来るわ」
「どういうこった」
「七不思議の残党もそうだけど、学校にはまだ曰く付きの噂があるもの」
あったな、そういえば。
「もしかしたらペンデュラムはそっちの噂に反応しているかもしれないわ。もちろん七不思議の残党も関わりがあるのかもしれないけど……」
「そこら辺は実際に行ってみないと解らないね」とカロル。
リンネはその台詞に満足したように頷いて、
「じゃあみんな、食べたら学校に戻りましょうか!」
と、左手の拳を振り上げた。そして彼女が宣言すると同時に、俺の席にチーズバーガーセットが運ばれてきた。せめて飯だけはゆっくり食わせてほしいもんだ、ほんと。
で、魔電量販店で買い物を済まし、ハンバーガーショップで昼飯を食った俺たちは、また魔道列車に乗って、自分たちの住んでいる市の駅前まで戻ってきた。今日は買い物に一日掛かりになるかと思っていたので、そういう意味では肩透かしだ。まあ、ペンデュラムの効果を早く知りたい奴がいたのだから仕方ない。実際効果も出てしまったしな。
そうしてえっちらおっちら道を歩いて、ついに目的地である学校に辿りついたのだった。ちなみに全員私服のままである。俺たちは守衛に学生証を提示して校門をくぐった。流石に夜中に忍び込んだときみたいに壁を飛び越えたりはしない。昼間だから人の目があるからな。
途中リンネが事務課に寄り、学校の見取り図を貰い、俺たちは部室に入った。ちなみに鍵は職員室にあるので、部室の鍵は俺の糸で開けた。職員室に寄って、私服姿をまたぞろ何か言われるのではないかとリンネが嫌ったためだ。今更そんな所で常識を発揮されてもな。いつもの非常識さは何処へ行ったんだよ、とツッコみたくなるのは俺だけだろうか。
「ふー、とーちゃーく!」
俺たちは魔電量販店から背負ってきた品物を順番に部室に置いて行き、各々椅子に座った。しかし座ったと思ったらリンネは再び立ち上がり、
「じゃあ、ヴェルナー。よろしくぅ!」
と言って、先程事務課でもらってきた学校の見取り図を長机の上に置く。
「もうやんのか?」
「当ったり前でしょ! 善は急げよ!」
果たしてこれは善なのかという疑問は残るが、言っても聞きそうにない奴なので俺は溜息を吐きながら再びペンデュラムを構えた。
目を瞑り、深呼吸する。そして糸に魔力をじわじわと込めていく。するとペンデュラムは弧を描くように回りだす。そして、ある一点を指して糸がピンと張る。目を開けるとそこは体育館横にある桜の木がある場所だった。
「まだ、あの場所には謎が残されていたのね」
リンネはにやりと笑みを浮かべる。その後に続く言葉を俺は既に知っている。
「さあ、みんな。場所は解ったわ! それではこれから異世界との交信を開始します!」
元気よく高らかに、リンネはそう宣言した。