大魔導士リンネの異世界交信記 異界の者よ、我が呼びかけに応えよ   作:哀川まひる

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第11話 学校、再び

 体育館横の桜の木の下には死体が埋まっているらしい。そんな噂を確かめるべく、俺たちはシャベルを用務員室からかっぱらってきて、桜の木の近くを掘り返している。どれくらいの深さまで掘るんだとリンネに聞いてみたところ、「あの日、あんたが見たっていう洞窟の中にあった、扉の深さまで掘るつもりよ」との答えが返ってきた。それはまあ、随分と深く掘る必要がありそうだ。しかし以前魔力感知をしたときは、ちょっとやそっとの深さには何も感じなかったからな。リンネの台詞も納得できる。俺はシャベルを地面に深々と突き刺した。

 

「ふいー」

 

 そうして、かれこれ1時間くらいは掘っただろうか。桜の木の近くには、随分と巨大な穴がぽっかりと出来ていた。深さにしたら10メートルくらいは掘ったか? しかしそれにしても重労働だ。

 

 シャベルの周囲に魔力を纏わせて掘る力を強化しているが、結構疲れる。ちなみにシャベルは2本しかなかったので、2人で代わる代わるやっている。6月ももうすぐ終わるこの時期、太陽も嫌になるほど頑張っている。俺たちは汗をだらだらと流しながら掘っていく。

 

 今のところ一番効率よく掘れているのはナナリーだ。流石武闘科である。強化魔法の長時間の使用にも全然堪えてなさそうだった。逆に一番先に音を上げたのはカロルである。強化魔法の連続使用には慣れていないらしい。まあ、魔技科だしな。力仕事に向いていないのは本人含めみんな解っている所だ。

 

 そして意外にもエマは強化魔法をそれなりに使えたが、ワンピースなので自重してもらった。流石に土いじりをその格好でやられるのはね。目の毒だ。本人も申し訳なさそうな顔をしていたし、俺はその顔を見れただけで満足さ。また次回、機会があったら頑張ってくれ。そんなことを考えながら掘っているとリンネが一言。

 

「ヴェルナー、ここらで一旦魔力感知してみてちょうだい」

 

「はいよ」

 

 俺はリンネに言われるまま、息を整えて魔力感知を発動させる。表面をただなぞるのではなく、地面の下に潜り込ますような魔力感知だ。普段は薄く広げる形を取るのだが、今回はある一定の広さまで広げたら、それをそのまま地下に向けて押し出していく形を取る。

 

「ん?」

 

 すると地中に何か反応があった。何か埋まっている?

 

「何かあるな」

 

「本当っ!?」

 

 興奮するリンネ。俺は「ああ」と答える。エマも「桜の木の下には本当に死体が埋まっていたんですね」と興奮している様子。

 

「まだそうとは限らないわよ。でもその可能性もありそうね。ヴェルナー、シャベルを代わりなさい!」

 

 俺の手から分捕るようにシャベルを奪うと、リンネは鼻歌交じりで掘り出した。

 

「ふっふーん。ふっふーん。いせかい、いせかいー!」

 

 どんな唄だよ、そりゃ。俺はトイレに行って顔でも洗ってくると言い残し、校舎の中へと入っていった。

 

「ふー、気持ちいい」

 

 顔をざばざばと水で洗い、ハンカチで顔を拭う。べたついていた汗が取れて気持ちいい。……そういえばあの日は洗面台の鏡を見たら俺の顔が気持ちの悪いくらいに歪んで笑っていたんだよな。俺はチラリと洗面台の鏡に目をやった。そこに映るのはいつも通りの俺だった。いや、少しだけ疲れた顔をしているか。ずっとシャベルで地面を掘っていたし仕方ない。午前中は買い物にも行っていたしな。

 

「それにしても、また七不思議に挑戦することになるのかねえ」

 

 俺以外誰もいないトイレで一人呟く。今度は5人で挑むのだから、少しでも謎が解けると嬉しいのだが。まあ、まだ七不思議に挑むと決まったわけでもない。もしかしたら、もっととんでもない謎が俺たちを待ち受けている可能性もある。なんにせよ、もう俺一人で頭を悩ます必要はないと信じたいね。

 

 顔を洗い終え、体育館横に戻るとちょうどリンネが何やら発見した様子だった。

 

「見なさい、ヴェルナー! こんなのあったわよ!」

 

 そんなにでかい声を出さなくても聞こえてるよ。リンネの指さすモノを見ると、どうやらそれは壺のようだった。

 

「骨壺かしら? それとも埋蔵金だったり?」

 

 リンネははしゃいでいるが、骨壺にしたらやけにサイズが大きい。一人で持つのにも苦労しそうな大きさだ。

 

「骨壺にしたら大きくないですか?」

 

「うん、僕もそう思う」

 

「……」

 

 エマとカロルも俺と同じ意見のようだ。ナナリーは無言のまま壺を見ている。

 

「まあ、開けてみれば解るわよね。それ、御開帳ー」

 

 そう言うや否や、リンネは早速壺の蓋を開けた。少しは躊躇する姿勢を見せてほしいものである。危険物が入っていたらどうするつもりだ。だが開けちまったもんは仕方ない。俺は壺の中を見た。そこに入っていたのは果たして、骨であった。しゃれこうべが鎮座してある。

 

「……人骨だな」と俺。

 

「じゃあ、やっぱり桜の木の下の噂は……」

 

「ええ。本当だってこと……ね?」

 

 瞬間、このあたり一帯の大気が震えた。この感覚には覚えがある!

 

「全員、魔力で身体を守れ!」

 

 俺はそう叫んで、この場にいる5人、即ちリンネ、エマ、カロル、ナナリー、そして俺の全員に糸を巻き付けた。

 

 世界が暗転する。

 

「ぐっ……!」

 

 強制的な転移。その負荷に身体が悲鳴を上げる。しかし、それも長くは続かなかった。

 

「みんな無事か?」

 

 みんなの顔を見るとリンネとエマは辛そうだが意識はあった。ナナリーも大丈夫そうだな。気絶しているのはカロルだけか。

 

「あの、ヴェルナーさん、ここって」

 

「ああ、前来た鏡の世界……とは言えないな」

 

 俺は空を見上げてそう呟いた。カロル以外の全員が空を見上げる。

 

「そうね。わたしとエマが目を覚ました白い空間でもないし、ヴェルナーの言っていた真っ暗闇の空間でもない」

 

「灰色の……空間」

 

 最後のナナリーの台詞がこの世界を簡潔に言い現わしていた。俺たちは灰色の空間にやってきていた。空が雲もないのに灰色に覆われている。そして太陽らしきものもない。だが、真っ暗闇でもない。正しく、灰色の世界。

 

 ただし位置は学校の桜の木の近くのままだ。見える範囲で確認してみても、いつも通りの学校に違いない。だが、先程俺たちが掘っていた穴も、以前鏡の世界で見た洞窟も存在していない。壺もしゃれこうべもなくなっている。

 

「強制的な転移、で間違いなさそうね」

 

 リンネが左手を顎に添えて考えるポーズを取る。

 

「はい。以前鏡を覗きこんだ時のような、何とも言えない感覚に襲われました。ヴェルナーさんが叫んでくれなかったら、わたしもカロルさんのように気絶していたかもしれません」

 

「それに全員に糸を巻き付けたのも正解だったわね。前みたいに離れ離れになると危険だし。ヴェルナー、良くやったわ」

 

「……」

 

 ナナリーも無言のまま首肯する。

 

「それは良いが、まずはカロルが起きるのを待つか。まさか置いていくなんて出来ないしな」

 

「そうね」

 

 そうして俺たちはカロルが起きるのを待った。時間にして、5分も掛からなかったと思う。目が覚めたカロルはゴメンと俺たちに深々と謝ってきたが、あの感覚を今まで体験したことがなかった以上、仕方なかったと思う。俺もリンネもエマも初回では意識を失ったからな。むしろ初見で対応できたナナリーの方が凄まじい。尋常ではない反応速度と魔法発動の速さだ。

 

「カロルも目を覚ましたし、これからどうする?」

 

 俺はリンネに尋ねた。

 

「そーね。まずはここが前来た鏡の世界とどれくらい同じなのか確認しときましょう。さしあたっては、七不思議の確認ね。取りあえず体育館が近いから、そこから行きましょう」

 

 そうして俺たちは歩きだす。隊列は前衛に俺とリンネ、中衛にエマとカロル、そして後衛にナナリーだ。今日のエマは、まさか買い物だけのつもりだったので爆弾は持ってきていないらしい。カロルも同様にアイテムの類は持ってきていない。頼りにできるのはリンネの魔法と俺の糸、それから普段から素手で格闘しているナナリーのみ。

 

「こんな事になるんだったら、爆弾を用意しておけば良かったです」とはエマの弁。いや、今日は買い物の予定だけだったからね? 街中でそんな物騒なモノを持ち歩いている人はいないよ、と俺は優しく諭した。反省すべきはエマではなく、今日中にペンデュラムを使って不思議探索がしたいと言い出したリンネの方だ。

 

「ふっふーん」

 

 だが、リンネは悪びれもせず目を輝かせていた。洗脳されていない状態で転移させられたからな。ここが異世界かどうかは俺には解らないが異空間ということだけは解っている。それがリンネをワクワクさせる要因になっているのだろう。俺は溜息を吐いた。

 

 体育館に入ると、ボールがひとりでに跳ねていた。不気味というか、なんかシュールだ。これも5人全員揃っているからだろう。1人だけで見たら不気味だと思ったはずだ。

 

「ヴェルナー、以前にあのボールは糸で倒したのよね?」

 

 リンネが俺に確認してくる。俺は「ああ、間違いない」と答えた。

 

「でも倒したはずなのに、またいる、と。ふーん。じゃあ、やっぱり前とは違う世界なのかしら」

 

 そう言いながらリンネは魔弾でボールを消炭にする。容赦ない。

 

「でも、この世界も七不思議関連の世界で間違いなさそうですね。体育館でひとりでに跳ねるボールが出てきましたし」

 

「どちらにせよ、調査は必要だわ。このまま運動場を見て回るわよ!」

 

 そうしてリンネ主導の元、俺たちは七不思議巡りを開始した。運動場の動く銅像。プールに引きずり込む手。理科室の人体模型。音楽室のピアノ。次々に現れる敵を、俺たちはバッタバッタと討伐していった。やはり真っ暗闇でもないし、誰かを探す必要もないのでさくさく進む。何よりリンネが容赦ない。そうして残るは鏡と美術室の絵だけとなった。

 

「残るは鏡と美術室だけですけど……」

 

「鏡の方は別館1階の女子トイレの洗面台を確認したけど、現れなかったわね」

 

「じゃあ取りあえず、美術室に行ってみるか?」

 

 何故か不思議な鏡は現れない。まあ、俺たちのいるこの灰色の空間は、既に元の世界とは違う異空間だからな。今更鏡の世界に連れていかれてもという話ではある。だから鏡も出てこないのかもしれない。俺の勝手な予測だが。

 

「そうね。不思議な鏡が何処にあるか解らない以上、先に美術室に行きましょう」

 

 俺たちは美術室の扉をガラリと開けた。鍵は掛かっていなかった。美術室ではいつか俺が目撃したように筆が空中に浮かんでおり、キャンバスに何やら熱心に絵を描いていた。

 

「どれどれ」

 

 リンネがキャンバスを覗きこむ。俺も後に続いた。

 

「これは……俺たち5人と、少女?」

 

 見ると俺たち5人ともう1人、見覚えのある少女の姿が描かれていた。

 

「見覚えのある顔ね」とリンネ。

 

「はい。あの時のダンジョンコアの少女です」

 

「へえ、これが……」と感心したような口調のカロル。ナナリーは相変わらず黙ったままだ。

 

「それにしても興味深いわね。あの時のダンジョンコアの少女がまた描かれているなんて。もしかしたら、またいるのかしら?」

 

「どうだろうな。今回は桜の木の近くには洞窟なんかなかったし」

 

「でも美術室の怪談に描かれているじゃない。きっと何処かにいるのよ。わたし達5人も描かれているんだから、彼女もこの空間に閉じ込められている可能性が高いわ」

 

 リンネはそう言って考え込む。そして、取りあえずの方針としては、美術室の怪談が絵を描き終えるのを待つことになった。まだこの筆は、未知のものを描くかもしれないからだ。俺たちは美術室で1時間ほど待つことになった。

 

「描けたみたいね」

 

 美術室の怪談である空中に浮く筆は、その役目を終えたかのように動かなくなった。もうこれ以上動くことがないと解った時点でリンネは筆を魔弾で消炭にした。本当に魔物には容赦のない奴である。

 

 そして出来上がった絵を見てみると、それはまあ、なんとも気味の悪い絵だった。絵に描かれている俺たち5人は1人の少女を取り囲んでおり、その手にはそれぞれナイフが握られていた。そしてキャンバスの中心に描かれたダンジョンコアの少女と瓜二つの少女の心臓に皆してナイフを突き立てているのだ。嫌にリアルに描かれているものだから気味の悪さが半端ない。色もついていないしな。白黒で完結してある。

 

「うーん。これだけかあ。何か新しく描かれたり、ヒントになるもんでも描くのかと思ったけど、これじゃあヒントにはなりそうにないわね。強いて言えば、美術室の怪談は、ダンジョンコアの少女をわたし達に殺してほしいと言っているのかしら?」

 

 そうかもな。しかしリンネが美術室の怪談を倒したのにもかかわらず、俺たちは現実世界へ帰還できていない。こうなりゃ残りは不思議な鏡と絵に描かれている少女だけ。どっちも何処にいるのかは解らない。

 

「というわけで、出番よヴェルナー」

 

 そう言ってリンネは学校の見取り図を差し出してきた。

 

「解ったよ」

 

 そろそろ来るとは思っていた。俺はペンデュラムを構える。そうして目を閉じ、深呼吸しながら糸に魔力を込めていく。糸は弧を描きながらくるくると回りだす。そしてある一か所を指し示して止まった。俺は目を開けた。

 

 ……次に向かう場所は図書室。

 

 そう言えば図書室も曰く付きの噂話のある場所の一つだったなと俺は思った。

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