大魔導士リンネの異世界交信記 異界の者よ、我が呼びかけに応えよ   作:哀川まひる

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第08話 異世界交信部

 その後のことについて、少しだけ語ろうと思う。

 

 例の華道部3人は無事現実世界に戻って来られて、こちらの世界で自分たちが失踪していたのを知り、めちゃくちゃ驚いていた。そりゃ本人たちからしてみたら、ゲームして四日間過ごしていた記憶しかないからな。世間がそんな風に事件として扱っていたなんて聞いたらそりゃ驚くだろう。まあ、なんにせよ無事で良かった。エマの知り合いだという人も、俺たちに礼を言っていた。

 

 そして俺たち3人だが、夜中の学校に忍び込んだことについてはお叱りを受けたが、警察でも進展がなかった事件を解決し無事に生徒を連れ帰ったとあり、何故か警察に表彰されることになった。ちなみにその事は全国紙に載ったりなんかもした。しかもその時、リンネが新聞記者に聞かれてもいないのに、

 

「我が異世界交信部は今回の事件のように不思議な事件の解決を請け負っています。皆さん、不思議な話を聞いたら是非我が部へご相談ください」

 

なんて言ったりしたもんだから、それがそのまま記事にされてしまうことに。記事を書いた記者を責めるのも筋違いだと思うが、あの発言をそのまま載せないでほしかったと思うのは、きっと俺だけじゃない筈だ。掲載された記事を読んだ学校側もさぞかし驚いたことだろう。そして、流石に全国紙だったので今更学校の方も引っ込みがつかなくなってしまい、なし崩し的に異世界交信部は設立される運びとなった。ほんと、ただでは起きない奴である。

 

 ちなみに部員はリンネと俺とエマ、それから以前入部しても良いと言ってくれた魔技科の首席と武闘科の三席だ。リンネに付き合わされるなんてご愁傷さまと言いたいところだが、それを言うと自分にとんでもないブーメランが返ってくるので、俺は口をつぐむことにする。さっさと別の部活にでも入っていればよかった。

 

 なんにしても、平穏な日々が戻ってきたのである。結果オーライというべきか。

 

「それにしても今回の事件、異世界じゃなくて残念だったな」

 

 放課後、部室で俺はリンネにそう言った。ちなみに魔技科の首席と武闘科の三席はまだいない。おおかたHRが長引いているのだろう。部室には俺とリンネとエマの三人だけである。だが俺の台詞を聞いたリンネは、首を傾げながら「あら? 異世界だったわよ」と反論してきた。

 

「どこがだよ。異世界じゃなくてダンジョンだったじゃねえか」

 

「いーえ。あれは紛れもなく異世界だった。ううん、異世界とダンジョンが混ざったものだったと確信を持って言えるわ」

 

「なに?」

 

「あの、どういうことでしょう?」

 

 俺とエマは同時に答えた。するとリンネは左手の人差し指を立てながらご高説をのたまった。

 

「まず第一に、わたし達は別館一階の女子トイレの洗面台の鏡を見て鏡の世界へ行った」

 

「おう」と、俺は頷く。

 

「この時点でおかしいのよ。あんたはダンジョンっていう魔物が持つ特殊能力、転移トラップだと推理したみたいだけど、そんなトラップで鏡の世界に行ける訳ないじゃない」

 

「そうなんです?」と、エマ。

 

「そうよ。せいぜいが現実世界にある別の場所へ飛ばすのが関の山、転移トラップって、普通は同じダンジョン内の別の場所に飛ばすものよ。鏡の世界なんて別世界を作り上げてそこに飛ばすなんて、ただの魔物のダンジョンには土台無理な話に決まってるでしょーが。神様でもあるまいし」

 

「確かに」と、俺は頷く。リンネの説明は一々筋が通っている。学校で習ったダンジョンの能力から考えてみても、別世界を作れるダンジョンなんてのは聞いたことがない。ダンジョンという魔物が出来るのは、せいぜい魔物を生み出したり、宝箱を設置したり、転移トラップを発動させたりくらいのものだ。だが、と俺は反論する。

 

「だが現に俺たちは鏡の世界へ行っただろ。あのダンジョンが特別だっただけで、鏡の世界はダンジョンの一部だったって話じゃないのか?」

 

 するとリンネはこう答えた。

 

「そう、あんたの言う通り、あのダンジョンは特別だった。どれくらい特別かって言うと、異世界を作り上げるほど。つまりわたし達は別世界への渡航をしたってわけ。あんたの話を聞いても、鏡の世界は例のダンジョンコアの少女を倒さない限り、脱出不可能な閉鎖空間だったと推測できるもの。普通のダンジョンじゃあ、そんなの在り得ない。そんなことが出来るダンジョンがそこら辺に存在してたら、今頃トレジャーハンターなんて仕事、存在しなくなるわ」

 

「それは……そうかもな」

 

 俺はあの空間をダンジョンだと思っていたが、実際にはダンジョンではなかったってことか? いや、リンネの言葉を借りるなら、異世界とダンジョンが混ざったものだったのか。

 

 俺とエマは顔を見合わす。

 

 確かにあの空間から脱出するには他にどうすればいいか俺には解らなかった。それに警察も匙を投げていた事件だ。リンネの言う通り、特殊なダンジョンだったのは間違いない。それが異世界を作れたかどうかはまた別問題だが、リンネの話を聞いているとそうなんじゃないかと思えてくるから不思議だ。

 

「第二に鏡の世界の魔物よ」

 

「魔物ってヴェルナーさんが戦ったっていうピアノとか人体模型の事です?」とエマ。

 

「そう、それ。ヴェルナーだけが別の場所に飛ばされた。そして七不思議の魔物たちと会った。わたしとエマは最初からあの白い部屋の中に飛ばされていたから会っていないもの。後から確認を取ったら、華道部の3人も人体模型やらとは会っていなかったみたいだしね」

 

「はい。鏡を覗きこんだら、あの白い空間に飛ばされていました。目が覚めたら何故かゲームをしていて。既にわたしもリンネさんも寝ている間に洗脳されていたんですね」

 

「ぐっ、わたしが洗脳されていたのは忘れてちょーだい。あれは油断していただけよ」

 

 もし相手が洗脳なんて手段を取らずにそのまま殺しにかかっていたとしたら、その時点でゲームオーバーだったがな。まあ、俺も女子トイレで5分程寝ていたので強くは言えないが。

 

「とにかく! わたしもエマも華道部3人も、あんた以外全員白い部屋に連れ込まれていたの。七不思議の魔物にあったのはあんただけ、ここまでは良い?」

 

「解ったって……でも、おかしな話だよな。俺は洞窟に入る前に魔力感知をしたが、洞窟に入って行ったお前とエマ、それから華道部の3人の魔力を確かに感知したぞ?」

 

 俺はリンネにそう言った。確かにあの時、5人分の魔力が感じられたのだ。

 

「そう、それがおかしいの。普通、魔力感知では魔力の痕跡を辿るから、それが正しいなら、確実にわたしとエマは白い部屋の外にいたことになる」

 

「でもお前は鏡に飛ばされたら、最初から白い部屋の中にいたんだろ」

 

「ええ」と頷くリンネ。

 

「おかしいじゃないか。まさか誰かが魔力の痕跡を偽造したっていうのか?」

 

 そんなの、現代の技術力じゃ不可能だ。エマも「そうですよ」と俺に同意する。だがリンネは獰猛そうな笑顔でこう言った。

 

「そのまさかよ。そして、わたしが怪しいと考えているのは、あんたが会ったっていうわたしの偽物」

 

「まさかあの偽物の魔力だって言いたいのか?」

 

 そんなバカな。魔力は人それぞれ個性がある。量も個人個人違うが、何より質が異なる。他人が簡単に真似できるものではないし、真似たとしても違和感は残る。それこそ指紋のように生半可に変更できるものではないのだ。姿形なんかを真似るより、よほど高度な技術がなければ不可能だ。

 

「例の偽物。戦闘力は今一つだったみたいだけど、その特性が別のベクトルを向いていたとしたらどう? 例えば魔力の質までも完全に真似できるとしたら」

 

「そんなの」

 

 そんなの、常識が覆る。でも、それくらいの事情がなければ、あの現象は起きなかったのだ。俺はこれでも魔力感知には自信のある方だ。

 

「それで、わたしが言いたいのはそんな魔物、今まで世界でも確認されていないって事よ。鏡の偽物だけじゃない。あんたが戦ったっていう人体模型も、ピアノも、ボールも、銅像も、腕も、そんな魔物今まで聞いたこともない。突然こんなに新種が出てきたら世界中、大騒ぎよ」

 

 それは確かにそうだった。俺がダンジョンで出会った魔物は全て、ダンジョンコアが見せた幻として片づけられた。俺としてはちゃんと糸で切断した感触が残っているので、幻ではないと解っているのだが、大人たちはそういう風に片づけてしまった。

 

 リンネは続ける。

 

「今まで発見されたこともなかった魔物たち。それこそ異世界の魔物たちだわ」

 

 なるほど、そう持っていきたいわけか。俺は納得した。

 

「そして第三に」

 

「まだあるのかよ」

 

「これで最後だからちゃんと聞きなさい」

 

「はいはい」

 

 俺は溜息と共に姿勢を正した。

 

「第三に、あんたが何もしなかった美術室の絵。こちらでも発見されたわ」

 

「マジか」

 

「本当ですか?」

 

 俺とエマは声を揃えて聞き返した。

 

「マジよ。ちゃんと確認してきたんだから、わたしを崇めなさいよね」

 

 それは御免被る。そんな俺の表情を読み取ったのか、リンネは、はあと息を吐く。

 

「描かれていたのは全部で七人。わたしとあんたとエマ、華道部の3人。それから例のダンジョンコア」

 

「例のダンジョンコアまで描かれていたのか?」と俺。

 

「そう。ここからは多分に推測が混じるけど、あの子もあの鏡の世界に囚われていた一人なんじゃないかって思うのよね」

 

「そりゃまたなんで」

 

「あんたも聞いたでしょ。あの子は元人間で、心臓の替わりにダンジョンコアをつけられてずっと、ずうっと生きてきたって。あの鏡の世界で」

 

「言ってたな」

 

「言っていました」

 

 ただ、あの時の少女は既に語り口調が支離滅裂になっていたから、その話も何処まで信憑性があるかは結構疑問ではあるが。

 

「わたし思うのよね、死体もないのにいつまでもこの世に留まっていられると思う?」

 

「それは、留まれていたんだから留まれるんじゃないか?」

 

 我ながらトートロジーみたいなことを言っている自覚はある。だが、他になんて言えばいいんだ。リンネは俺の目を見ながら話を続ける。

 

「……わたし思うのよね。あの世界はあの子が望んだものじゃなく、あの子を縛り付けるための世界だったんじゃないかって。そう考えれば、美術室の絵にも納得できるでしょ?」

 

 それは、そうかもしれない。あの子は遊び相手を欲しがっていたように見えたけど、狂っていた。幽霊に普通という言葉が通じるのかは解らないが、普通、あんなになるまで現世に留まろうとするだろうか? それよりもリンネの言うように、あの子も縛り付けられていたんじゃないかと考える方が自然ではなかろうか。

 

 でも何に縛り付けられていた? 美術室の怪談に、か? あの絵は、俺たちをあの世界へ縛り付ける役割でも持っていたのだろうか。そして、あの子自身も七不思議の被害者だったのだろうか。じゃあ、美術室の怪談を含む七不思議を用意した真犯人はいったい誰なんだ。

 

 その答えを俺は持ち合わせちゃいなかった。

 

「結局のところ、あの子を誰かがダンジョンにした。その結果、あの子は異世界を作るまでに至った。もしくはあの子を閉じ込めようとした存在が別にいた、そう考えると辻褄が合っちゃうのよ。色々とね」

 

 だからわたし達は異世界に行ってきたのよ、とリンネは言いきった。しかも謎は相変わらず残ったまま。ダンジョンコアは倒したが、それは単に倒しただけで、自分たちは今回の事件を何一つ解明出来ちゃいない、と。

 

「あとは、そうねえ。こう考えることも出来るわ。実はあのダンジョンコアの少女は自殺したがっていた。だからわたしたちを呼び寄せた、とか」

 

「えーと、それはどうなんでしょう。わたしもリンネさんも華道部の方々もすぐに洗脳されてしまいましたけど」とエマ。

 

「きっとすぐに洗脳したのはダンジョンとしての防衛本能が働いたからよ。でも心の底では誰かに自分を殺してほしかった。そう考えれば、ヴェルナーが一人だけ別の場所に飛ばされたのも納得できるわ。わたし達は体の良い実験動物だったのよ」

 

「……お手上げです。わたしにはあのダンジョンコアの少女が何を考えてあのような行動を取ったのか、全然解りません」

 

「そんなのわたしもよ。もう一度あの世界に行ければ少しは手掛かりがあるかもしれないけど」

 

「そんなことを言われても、もうあの世界には行けねえぞ。肝心のダンジョンコアを倒しちまったんだからな」

 

「分かってるわよ、そんなの。でも残念なのは残念ね。わたしもエマも白い部屋とダンジョンコア以外は見てないし。実際に七不思議と出会ったのはあんただけ。これじゃあ、異世界に行ったって実感がわかないわ」

 

 はあ、とリンネは溜息を吐く。おいおい、勘弁してくれ。また七不思議を探そうってのか? 俺はもうあんな不思議体験は二度と御免だぞ、と俺はリンネに抗議した。

 

「何言ってんのよ。何のために異世界交信部を立ち上げたと思ってんの? わたしがこれから不思議をたっくさん体験するために作ったんだから!」

 

 するとリンネは呆れた顔でそう言った。でも俺は思う。それでもやっぱり不思議体験はもうこりごりだと。頭を使うのもな。華道部3人は確かに助けられたが、こんなに謎が残っているんじゃあ消化不良だ。誰か説明できる奴がいたら答えだけ俺に教えてくれ、頼むから。

 

 だが、そんな俺の願いが叶えられることはないと、誰よりも俺が知っていた。そして今後も不思議体験をする羽目になるということも。なんせ俺はその不思議を探すための部活、異世界交信部とやらのメンバーに入れられちまってるんだからな。

 

 俺が溜息を吐いた丁度その時、残りの二人が部室にやってきた。今度はなるべく俺の負担が少なければ嬉しいね。この二人にも頑張って貰ってさ。そんな風に俺はぼんやりと思うのだった。

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