独自設定マシマシの回です。
彼らは、もうレーションを食べない。
フィーカも、もう飲まない。
私の友人は、どこにもいなかった。
◆
「オキーフ」という偽名を名乗る前。
かつての私は、どこにでもいるルビコニアンだった。
友人達と共に味気ないレーションを食い、泥水のようなフィーカをすする。
なけなしの金で旧世代強化手術を受け、安物のACを駆り、かつてのガラクタを漁ってはドーザーに売り渡す。
そういう生活をしていた。
苦しいが、今にして思えば幸せな時期だった。
「おい、さっきの話だが」
「また蒸し返すのかよ……俺が7でそっちが3! そう決めただろうが」
「納得できるわけねぇよ! いくらなんでも少なすぎる!」
「じゃあ俺の仕事をできるのか! あぁん?! できねぇから俺がやるしかねぇだろうが!!!」
だが、苦しいものは苦しい。
ガラクタをどれだけ売っても日々の食い扶持を安定して確保できることはなく、次第に友人間との関係はギクシャクしたものとなった。
それこそが人間であると悟るには、当時はあまりにも若すぎた。
「おい待て、敵だ! ……ウィーヴィル?! コーラルで動く無人兵器だ!」
「くそ……この機体じゃ荷が重い! おい、囮をやってくれ!」
「はぁ?! そんなもんやったら死ぬじゃねぇかよ! 俺にあいつの攻撃を避けれるわけねぇ」
「やらなきゃ全員死ぬだろうが! 俺はミサイルしかねぇんだ! 俺以外の誰かでやるんだよ!!!」
かつての私達の拠点を襲ったC兵器。
その迎撃作戦の構築すらできない程度には、仲は冷え切っていた。
「もういい。私がやる」
そんな彼らを信用できず、私が囮役を引き受けた。
……もはや、一人ですべて迎撃するつもりと言っても過言じゃなかった。
それが、ダメだったのだろうな。
「お、おい?! ヘリアンサスだ?! なんでこんなところで重な……っ?!」
「っ?! 一人やられたぞ?! ミサイルはどうなっている?!」
「故障だ! なんだってこんな時に……っ?!」
「ふっざけんなぁぁあぁ?! どいつもこいつも、俺を舐めてっ……?!」
ウィーヴィルは単独で倒した。
だがその後ろでヘリアンサスが現れたことに気づくことができず、私が気づいた時には全滅していた。
……今でも思う。
あの時、少しでも連携を取ろうと回線を開いていれば。
いや、そもそも友人達がいる後ろを少しでも振り返っていれば。
きっとこの結末は変わったのだろう、と。
「オールマインドは貴方をリリース計画の協力者たり得ると判断しました」
「よろしければ、これよりお伝えする任務を遂行ください」
「我々の計画であれば、貴方のやり直しも叶いましょう」
オールマインドから連絡が来たのは、彼らの機体を回収した直後のことだった。
◆
オールマインドは、私に「オキーフ」という偽名を与えた。
これから潜入する先に相応しいものとして、私も積極的にこの偽名を使った。
潜入先は、アーキバスだ。
「お前が、オキーフだな。私はフラットウェル。お前と同じ、エルカノの者だ」
潜入の際、エルカノ……厳密には、後のルビコン解放戦線となる専用の下部組織……の者という体裁を使った。
まずは先んじて潜入していたミドル・フラットウェルのパイプを用いるため、シュナイダーに入社。
それから数年程度の下積みと準備を重ねた後、アーキバスに渡る。
それがオールマインドからの依頼であった。
「早速だが、アイランド・フォーに向かってもらおう。お前は、諜報活動に優れていると聞いている」
「ああ。成り上がりのため、しこたま勉強した。慣れないことだったが、幸い適性があったようだ。師からは満点を貰った」
「ならばよい。その勉強の成果、示してくるといい」
アイランド・フォーの動乱。
そこが、私の下積みと準備の場だった。
そこで実績を積み、シュナイダーからアーキバスへ渡る計画だ。
「貴方ですか、オキーフとやらは」
「知己を得て光栄です、スネイル"閣下"」
「……フン。シュナイダーの成り上がり風情が厚かましい。参画は認めますが、余計なことはしないことだ」
後のV.Ⅱであるスネイルと顔を合わせたのは、この辺りだった。
彼はもともとアーキバスの"貴族"の次男坊ということであり、実家との仲は最悪だが、その血筋を狡猾に利用してすでに高い地位にいた。
それだけに、己以外を見下す姿勢は強いものだった。
後から知ったことだが、同期の一人が離れた事件があったらしく、それでかなり荒れていたという。
「おいスネイル。面白そうな機体がいる。誘導しろ」
「何をしているのですフロイト……! その目標を無視しろと言った筈です……!」
「聞こえなかったか? "面白そう"なんだ。三度目は言わん」
「っ……おの、れ……っ!」
そんなスネイルを曲がりなりにも制御していたのが、後のV.Ⅰであるフロイト。
この時点で、スネイルを振り回していた。
私がスネイルと会う時、毎回のようにフロイトのことで愚痴を吐いていた。
「……。何が"面白そう"ですか……! 作戦に支障をきたすとわかっていれば、はじめからそのように言えばいいというのに……っ!」
「おいスネイル。ベイラムのカタログでいい玩具があると聞いた。何とかしろ」
「……自分が何を言っているのかわかっているのか?! ……また仕事が増える」
だが不思議なことに、スネイルはフロイトのわがままに報いていた。
上層部との会議でフロイトの行動に詰められた時も彼を援護し、言葉では文句をつけたベイラムの武装も調達して見せた。
その際もくどくどとフロイトに嫌味を言い続けていたそうだが、フロイトは気にするそぶりを見せず試し打ちに向かった。
そこまでされてなお、スネイルはフロイトに対する"態度"は変えなかった。
「おいスネイル。封鎖機構がやってきたぞ。どうする?」
「……囮役は貴方だ。私が仕留める」
「まぁ、ここはそれが一番だな。しくじるなよ」
「貴方こそ、機体と肉体の保全は怠らないことだ。やってもらうことは山ほど残っている」
「それは大変そうだ」
スネイルは、フロイトに対しては信用をしていた。
いっそ、嫉妬すら覚えるほどに。
◆
「強化手術を受けるというのか。……確かに脳内コーラルの焼き付きを中和できる。だが現行の第七世代では不完全となる」
「ならば後の世代の強化手術も受けよう。……確実に、中和したい」
「わかった。そのように調整しよう。……いずれその条件での"招聘"が行われる。それがアーキバスへ行く際の合図だ」
「感謝する。事が成った暁には、必ずこの恩に報いる。……"必ず"だ」
オールマインドの手引きにより、本来は旧世代のままアーキバスに潜入できる算段だった。
だがその時点ですでに"色々と思うところ"があり、結局は受けることにして潜入した。
友人達との件だ。
「おいオキーフ。このむかつく機体がいやがるんだが……」
「作戦にない目標だ。無視しろ」
「おいオキーフ。この武装だが……」
「私達はアーキバスだ。却下に決まっている」
「おいオキーフ。封鎖機構がやってきたぞ!」
「囮役はお前達だ。どうせ"次"があるのだろう?」
オールマインドは、私の友人達を蘇生してみせた。
それが、計画に乗る際の対価だった。
「おいオキーフ。何へこたれてんだよ」
「……私は、お前達を…………」
「気にすんなよ。お前の言った通り、俺達には"次"がある。……肉体があった頃より、ずっと便利だ」
「…………」
彼らは肉体を持たず、機械さえあれば何度でも復活できた。
機会を介する分、物資は必要とした。
が、それでも彼らは「安定した命を得られた」と喜んでいた。
「なぁ、オキーフも早く来いよ。飯を食わずに済む生活はいいもんだ」
「……。私には、まだ仕事があると聞いている。肉体が必要だ」
「あー……なんかそういうのあったっけ。肉体が必要な仕事。……機械がありゃ、十分だと思うんだがなぁ」
「…………」
だが私は、それが不気味なもののように思えた。
彼らは、もうレーションを食べない。
フィーカも、もう飲まない。
私の友人は、どこにもいなかった。
◆
オールマインドの計画通り、ヴェスパー部隊がルビコン進駐を本格的に始めた際。
スネイルは独立傭兵を召喚した。
ブレイン。
かつての、スネイルの"悪友"であるという。
ブレインの登場以降、スネイルの精神は安定。
フロイトもまっとうにスネイルの指示を聞くようになった。
当人は決して認めないのだろう。
だが、スネイルにはまだ友がいたのだ。
「先ほどの威勢はどこにいったというのです、第三隊長オキーフ。……いや、卑しい裏切り者め」
「……それはお前の方だろう、裏切り者の第二隊長殿」
「クハハハ……! お前達は何も理解していない。この私と敵対する意味を。貴様も、あの忌々しい第四隊長も、無駄に抗う解放戦線も、頭の悪いアーキバスも!」
ブレインによる壁越え、封鎖機構の機体情報入手。
MTへの命令"事件"に、旧宇宙港および管理基地の制圧。
彼が齎した成果は、悉くスネイルの有利に働いた。
これを快く思わなかった上層部……否、オールマインドは早期にスネイルの直接的排除を決定。
「終わりですよ。お前達全員、もう終わりだ! 楽に死ねるとは思わないことです……! 絶対の恐怖に陥り、惨めに苦しみ続けるのですからねぇ……!!!」
「終わりなのはお前の方だ"閣下"。このアーキバスバルテウスに、お前のACは追いつくことはない」
「……ク、ハハハハハハハハ! この期に及んで、まだそんな甘い希望にすがるというのですか? 馬鹿だ。貴様は、途方のない大馬鹿者だ!」
本来なら、オールマインドのその決定に従うつもりはなかった。
私からすれば、もはや他所の内輪もめも同然だ。
それでも奴の計画に従い、スネイルへの攻撃に参加したのは、その嫉妬故か。
「っ?! これは、ベイラムのバズーカ……フロイトか!」
「おっと。我ながらいいタイミングか」
「御託はいい。……フロイト、この場はすべて貴方に任せる。迎撃に専念なさい」
「やりすぎないよう俺を監視するんじゃなかったのか?」
「業腹ですが、どうやらこの場で最も視野が広いのはフロイト……貴方の方だ。私が策を弄するより、貴方に任せた方が効率的と判断しました」
「その態度を俺達以外にも見せていれば、もう少し人望が厚かったろうに。……了解した、スネイル。適当なタイミングでまた援護する」
"ここ"に私の友はいない。
だが奴には、友がいた。
そこにいるのが私と彼らなら、きっとあそこまでうまくできなかった。
だがあの二人は、完璧に連携をこなしている。
「っ……仮に私達を倒したとて、お前達が終わりであることには変わりない。なにせ"あの機体"が動いている。あれは誰にも止められん」
「……ブレインとスカルが迎撃している機体を指しているとでも? 馬鹿馬鹿しい」
「お前が奴らを高く見積もるのは勝手だがな。……あれはダメだ。ブレインは、フロイト並かそれ以上の怪物ではあっても"イレギュラー"ではない。なら、奴は勝てない」
「いい加減、その口を閉じてもらおう……オキーフ」
ラスティは勝てない。
私も勝てないだろう。
あそこまでオールマインドがお膳立てしてなおも、流れは彼らの味方をしている。
それが何故か。
時の運であると、そう言うことができればどんなによかったことか。
「そんなにもブレインは強いのか? 恐怖をまき散らす以外に能のない、一人では何もできやしないあの無能者が? ……どうやら思っていた以上にお前の頭は腐っているようだな」
「黙れッ! 貴様のような凡夫に、ブレインの何がわかるッッッ!!!」
スネイルは、友を信じている。
語弊を招きそうな表現だが、しかし私がどれだけ揺さぶっても、スネイルはブレイン達の勝利を疑っていなかったのは事実だ。
その力で、スネイルは最後まで諦めず私に応戦し続けた。
アーキバスバルテウスという、奴にとっては最強最悪の兵器となるだろうこの機体に。
「……恨むぞスネイル。なぜお前だけが、友に恵まれる」
友の有無で、戦場の流れを決する。
まるで青春活劇の舞台だ。
甘いと言わざるを得ない。
友への態度を間違い、友を失った私には似合いの末路だ。
あのスネイルが、友への態度を間違えず、故に愛されている……というのは、少し似合わないようにも思えるが。
しかし、どういう理屈であれスネイルは人の情を正しく理解していた。
ならば、これは仕方のないことなのだろう。
まったくもって、うんざりだった。
終盤のスネイルの台詞ですが、これは……
「黙れッ! 貴様のような凡夫に、ブレイン(を召喚することを決めた私の偉大な頭脳)の何がわかるッッッ!!!」
……という意味になります。スネイルの視点では。
どうあがいても邪推される奴。どのみちブレインを高く評価していること自体は事実ですし。
描いてて楽しかったです。