職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件 作:やっくんYU
ダンジョン第3階層 沼地。
このステージは、モンスターだけでなくダンジョン内で形成された自然そのものが牙を向いてくる。大小の沼地が冒険者の足を止め、滑りやすくなり、そこに毒を持つモンスターが跋扈している。足止めと状態異常のコンボ……この辺りから所謂
冒険者としての格が問われる場所なのだ。
そして、得られる報酬も更に高額になるのでハイリスクハイリターンでもある。
そんな場所で今夜も狩りを終えた熟練
「ははっ。この前、獣人種が
彼が言う黒の道化師の話はもうこのダガスでは随分と有名になっている。
「エルフ種の『孤高の白』が彼ら『黒の道化師』が物凄い持ち上げるもんだから、更に人気に拍車がかかっててよぉ。あのエルフ種……いや、エルフ種なんでひとくくりにしたくねーわな~。めっちゃ良いヤツだったし」
2人の会話の筈なのだが、盛り上がってるのは1人だけ。
寝ずの番の名はスバランとギルバート。ギルバートは顎を摩りながら少しだけ考えて……。
「孤高の~ってのは聞き覚えがあるけど、そのくろの~~ってのは知らんな。……なんだそれ?」
「ああん? 知らないのか?? 知らなきゃ、
ニヤニヤと笑いながらも、説明するのが好きなのか、或いは眠気を飛ばしたくて強引にテンションを上げているのか、スバランは続けた。
「孤高の白は、ソロ冒険者。間違いなくこのダガスで一番有名なソロプレイヤーってなってるな。……エルフ種は基本徒党を組んで、自分らより弱い種を散々見下す事が多い種なのに、そう言う意味でもメッチャ目立ってる。ひとくくりにしたくない」
「あーあー、そっちは知ってるって。酒場で聞いた事あるし。……で、聞きたいのは
「あっはっはっは。そうだったな。んじゃ聞け。今最も注目されているパーティが間違いなく『黒の道化師』だ。道化師の仮面の少年に黄金騎士、妖精姫の3人パーティ。たった数日でダンジョン第5階層に到達した、って話だ」
道化師の仮面をかぶった少年が、黄金の甲冑を身に纏った騎士と御伽噺に出てくる妖精のお姫様の様に美しい女性を従えてダンジョンを踏破している。2人の様子を見て主としているのが少年である、と言うのは傍から見れば解るので、リーダーである少年の風貌からいつの間にか『黒の道化師』と言う名が定着したのだ。
「……いやいや、おいおい。スバラン。流石に担ぐのは無しだぞ。数日で第5階層に到達するなんて無理な事はオレ達なら骨身にしみて解っているだろ? 嘘をつくならもう少し現実味のあるヤツにしろよ」
「いやいやいやいや、これはマジな話だって。ただ、その到達の方法については謎が多いって言われてっけど、ギルドに納品する魔石から正式に鑑定されたらしくて、最初はギルドも懐疑的で、
ギルドの受付はドワーフの女性だ。
如何に万人に開かれている冒険者ギルドとはいえ種族差別に関しては根深いものがあり、あからさまに疑いの目を向けて、
それを真っ向から否定し看破した彼らはやはり凄い、と酒が進むのだ。
「そんでこっからもスゲーぞ? あの
黒の道化師の実力であり、成果である、とエルフ種であるハクに力強く説き伏せられてしまえば、もう疑いの余地はなし、となるだろう。
「そん時にもちらっと聞いた話なんだが、なんでも討伐戦で
「ちょっと待て、色々とツッコミどころが多いがまず1つ。あの
「ま、お前さんの気持ちも十分解る。オレが全く情報持ってない立場だったら、間違いなくお前さん側に立ってたさ。……でも、これはマジだ。断言する。なんせギルドが間違いなく
「……ああ、あの赤髪の兄弟の妹のほうか」
通常、
ミヤは金銭的な問題で魔術学校を中退しているが、冒険者からすれば魔術師には変わりなく、この街に来てから勧誘に走るパーティが幾つもあった。……兄たちが居る上にミヤ自身人見知りが激しくて惨敗に喫した様だが。
「最近スゲー笑う様になった、って話だよなぁ……。好きな男でも出来たかねぇ」
「なんでそっち方面はよく見てんだよ。ったく。10歳くれーの歳の子だぞ?」
「うっせーな。別に変な意味じゃねーよ。親心~~的なヤツだよ」
「まだそんなの早い!! 的なヤツか? そーゆーのは嫁さんの1人や2人、作ってから妄想しろ」
「うっせ!!」
ミヤ関連の話で、やや話題が逸れてしまったが……直ぐに立て直す。
ここまで状況的な証拠が揃っているのなら……と。そもそもギルドに問い合わせたら真偽なんか簡単に解る。なので、嘘をつく意味もない。暇つぶし、眠気覚ましの創作にしては出来すぎている。
「………もし、本当ならトンデモナイ話だな。孤高の白はエルフ種だから、彼が有名になってくのは解らなくもない、けど、黒の道化師の方は
色々と思考を巡らせて———自分でも天地がひっくり返っても有りえない様な想像をしている。でも、これらが全て実際に起こった事なら………そう思わずにはいられない。
魔術詠唱破棄は、それこそ高レベルのエルフ種、ダークエルフ種、魔人種、竜人種くらいじゃないと現実味がないのだから。
「成る程なぁ~。英雄か勇者の生まれ変わり……。ギルバートにしては良い例えをするじゃないか。将来、その英雄か勇者様がこのクソッたれな人種差別を覆して貰いたいもんだ」
人種差別を口にすると同時に、陽気だった表情が一気に変わる。口はへの字に、眉間には皺がよる。
「何かある度に自分達を他種は見下しやがってよぉ。………でも、だからこそ、オレぁ、あの孤高の白が来て不覚にも目頭が熱くなってきたんだよな」
ただ、そんな表情もあの
「はは。英雄か勇者の生まれ変わり。若しくは類稀なエルフの男が
「……まぁ、否定しねぇよ―――。オレも期待したくなっちまうぜ。……今日は良い夜だ。だからこそ、かもな」
スバランは空を……夜空を見上げた。
ダンジョン内部なのに空が————とは今更だろう。このダンジョンはもう1つの世界。各階層に各々の世界が広がっている。
そして、今この第3階層の空は見事なまでの満天の星空。
「本当に良い天気だ今夜は。……こんな良い日に、良い話が出来た。ひょっとしたら———って思っちまうぜ」
「だな。良い願掛けじゃないか。……何せ長年潜ってるが、沼地でこれ程までの星空は初めてだ」
満天の星空………。良い酒と肴でいっぱいやりたくなってくる。そして、隣には当然美人の妻やらカワイイ娘やらいるのが理想で———————。
「―――あー、やめやめ。こんなムサイおっさん2人で見あげるもんじゃねぇな」
「や、全くだ」
「く~~~、良い天気なのは良いが、寒さだけはアレだ。ちょっとションベンしてくるわ」
スバランが立ち上がるとスコップを手に取った。
寒いのもあるがそれ以上に身体を温める為にと白湯の飲み過ぎで催した、と言うのが原因。
「ちゃんと穴掘って埋めろよ。お前の匂いを嗅ぎながら夜は明かしたくないからな」
「解ってるって。そっちこそパーティの耳目である自分がいないからってモンスターに襲われるなよ」
スズランが用を足す為に離れる。
それこそが、合図だった。
冒険者殺し……
「虫けら種族の分際で僕様を待たせるとか不敬じゃないか」
用を足し、戻ってきたほんの僅かな時間で……ギルバートは、テント内で眠っている仲間たちは全滅させられてしまったのだ。
金髪、尖った耳、緑玉の瞳、……そして、ギルバートの骸を足蹴にする乱雑に扱う悪魔の様な所作。……そう、これこそが典型的なエルフ種の姿。
何を、希望を持ったのか、と怒りで滾る……が、それ以上に悲しみも襲ってくる。怒りと悲しみ、そして強大な相手への恐怖。だが、それらを押し殺してスバランは思考を巡らせ続けた。
仲間の理不尽な死……それは初めてではない。それらを乗り越えて、今の域にまできたのだから。
「僕様が話しかけているのに無視するとか、これだから
「ッ………」
頭を回転させ、いつも以上に考察し、生存への道しるべを模索する。
……そして、1つの結論が出てきた。
この男は恐らく魔術を使ってギルバートを殺した。でもなければ環境的におかしい。周囲は浅い沼地であり、徒歩で接近したのなら確実に水音で気付く。力及ばずともギルバートがそんな些細な音でも聞き逃す筈がない。……なのにも関わらず首をはねられている。斬撃を発生させる魔術を使った。
「(そして、相手は間違いなく格上のエルフ種。……逆立ちしたってオレじゃ敵わない。……だから、自分の力だけで勝とうと思うな!)」
こうして、腹を括った。
仲間を3人殺した事への報い……必ず受けさせる、と。
差別されているとはいえ、冒険者としてギルドにある種守られている部分はある。冒険者間の殺しはご法度。種に限らず即死刑ものの大罪だ。つまり、報告さえすれば討伐隊が組まれて、あの男は殺される。
「なんとか言ったらどうだい? 仲間を足蹴にされても黙っているなんて、いくら虫けらとはいえ、情けないのにも程があるぞ?」
何度も何度も頭を踏みつけられるギルバート。
また、頭が沸騰しそうになる———が、歯を喰いしばって耐える。
ここで向かって行ってもただの犬死だ。仇を打つ最善にして最高の手立ては、ギルドに通報する。つまり————
ぼんっっ!!!
逃げ切れば、自分の勝ちなのだ。
「!!? 煙幕! 逃走するつもりかよ!? 腰抜けにも程があるだろ!」
「言ってろクソエルフが!! 仲間の敵は絶対に、絶対にいつか取らせて貰う!!」
魔術の弱点。それは発動させる際に、倒すべき相手を視界で捕えなければならない事。大抵の攻撃魔術は視界を遮られると意味は無さなくなる。四方八方強引に撃ちこむと言う手段があるだろうが、それくらいなら掻い潜れる。
煙幕で目隠しをしている間に魔術範囲から出て、そのまま気配を殺し潜伏する。あわよくばそのまま逃げ切る。
「――――絶対に、償わせ——————————」
ゴッッ!!
スバランの取った行動は正しい。
この場で出来うる最善にして最高の手段。それしか無い、と言える。
ただ唯一誤算があったとするなら………、相手が悪過ぎた、と言う唯一にして絶対の点だ。
頭が爆ぜた。
即死する事は無かったが、強烈な一撃を受けた……気がした。視界が歪み、混乱の渦中にいる。煙幕で視界を遮ったのにも関わらず正確無比に頭を狙った。何が一体どうなればそんな真似が出来ると言うのか?
解らないが、兎に角何とかしようとスバランは、いう事の聞かない身体を起こし、背後を振り返った。
そこに、全ての答えが……その光景が広がっていた。
何故、皆が音もなく殺されたのか。何故、煙幕で目隠ししたのにも関わらず背後から奇襲を受けたのか、全ての謎が解けた。……そしてそこまでだった。
「…………! んだ、そりゃ……。く、くそ、が…… はんそく、だろ」
それがスバランの最後のセリフだった。
背後へと迫っていたもう1人の男が、スバランの首筋に一撃を入れたから。
「ふぅ。全く……逃げ出そうとするなんて。
ヤナークは、一撃入れて昏倒させたのを確認すると……念のため生存確認をする。
頭の傷は致命傷で、このまま放置すれば間違いなく死ぬだろう。死なせない為に回復魔法を施した。……勿論、命を救うためではない。実験体とする為だ。悪魔の実験……そのための
「カイトさん、困りますよ。当方の実験動物として
「実験動物なんて1匹いれば十分だろう」
「いいえ。全然足りませんよ。失敗の事も考えて多ければ多い程良いんです。次からは皆殺しにせずちゃんと確保してくださいね」
「チっ。解った。解ったよ。次からは気を付けるさ。だが、こいつの様に虫けらの分際で、変な小狡い知恵をもって反抗してくるヤツや無駄に抗おうとしたヤツがいた場合はむかつくからぶち殺すぞ? あの裏切り者をおびき寄せる餌って名目も立つだろ。
吐き捨てる様に、昏倒したスバランを睨みつける。
あの時口にした暴言の数々をカイトは忘れていない。根に持っている。殺せなかった事が残念だ、と思うくらいには。
「その気持ちは非常に理解できます。たまに居るんですよね。
「ふん。ダークエルフ種の癖にわかっているじゃないか」
互いに悍ましいトークで盛り上がった後、その間にヤナークが作り出した実験体が気絶するスバランを拘束し、彼を担いだ。
そして、再び音もなく沼地の野営地から姿を消す。
残ったのは無残に殺された冒険者たちの遺体だけだった。
同刻、第1階層にて。
「――――—近い、か」
「⁇ ハクさん、何か言いました?」
「あ、いえ。何でもありませんよ」
ハクとミヤは共に夜番をしていた。
眠気を逸らせる為に、何かを話してはどうにか起きていよう! と目を顰め、時には頭を叩いて気付けをしていたら、ハクが何かを言った? 様に聞こえてミヤが声をかけたのだ。
ハクは何でもない、と笑顔で首を振った。
その笑顔に安心出来た様で、ミヤはそれからも他愛の無い話をして、盛り上げようと努力をする。ハクもまた、それに応える様に会話を弾ませた。
———が、その脳裏では別の事を考えていた。
「(死の気配。……死の運命が色濃く
神眼………。仰々しい名を冠するその眼だが、実際の所殆どゲームの進行的な能力に過ぎない。なので対して良い代物とは言えないのだ。
所謂『クエスト』発生の合図の様なもの。そしてクエストとは その人の死。……死はドラマを生む……とか何とか、正直性格が悪いとしか思えなかった文言を見た記憶がある。その死の運命から救う事がクエストクリアの条件。……そして失敗は当然その人は死ぬ。
その目に、視界に超アバウトに現れるだけ。
任意でいつ、だれが、どこで、誰に、と言った明確な詳細は直ぐには明らかにならず、徐々に濃くなる事で時期が解る程度。
後は自分で散策するなり調査するなり対象を護衛するなりして、相手を、原因を突き止めろ、と言う事だ。
誰が殺すのかが分かったら速攻で排除して防ぐ事が出来るから、それでは面白くない~~と言う何とも人でなしな考え方を持った運営が居たものだと何度も思った。
今はミヤ達の気配を追っているので、それ以外の人達が何かあったとしても、何となく感じる~程度にしか察知出来ない。
人死の気配がクエストと言う形で発生する。つまり、その運命の先が見えるので、NPCたちからしたら、神を冠する目だと思われても不思議ではないが、自分からしたら正直ヤキモキしていた。感情移入をし易い性質だったんだ、と自身の性質を改めて知った。助けられなかった人も沢山いて……、それを重ねる度に白魔導士を極めようと思った。誰よりも助ける事が出来る職業だから。
そして現在の第1階層。
ミヤ達の死の気配がより濃く……禍々しく映り始めていると同時に、書き忘れていたが、
死の気配とは違う……死を齎す者の気配。平たく言えば元凶。原因を突き止めようとすると、死の気配を纏う者の傍に居続ければいつかは見える様になる。
「ハク……さん?」
そんな時。
一瞬、ほんの一瞬だけ、ミヤの目に見えるハクの表情が怖いと感じてしまった。向けられている笑顔は安心できるもので……、とても嬉しい気持ちになるモノばかりだった筈なのに、今一瞬だけ、ハクが怒っている様に見えたのだ。
「はい? どうしました————って、成程。やはり、眠気がキツイですか」
にこっと笑うハク。
そして懐から袋に入れた何かを取り出し、カップも取り出した。その中に茶色い粉? を入れて……焚火で温めていた水を沸かし、そしてそれを注ぐ。
これは、なんちゃってココアである。
色々とハクが開発したものだ。
「後少しです。これを飲んで頑張りましょう」
「!! は、はい!!」
「……無理しなくてもほんと良いんですよ?」
「いえ! 無理なんかしてません!! 私の方からハクさんと一緒に夜番をする! って言ったのに、無理なんかしてませんよ!」
少しだけ、安心出来た。今はもう優しいハクの顔だ。……ミヤが好きな顔だ。安心できる……顔だ。
ココアを受け取ってゆっくりと冷ましながら口に含む。甘い香りが口の中いっぱいに広がり————……。
「お、おいしい………!!」
ミヤは一気に虜になってしまった。
幸せそうに飲む彼女を見て……ハクはまた一瞬だけ表情を変える。
それはミヤ自身を見ている訳じゃない。……その背後に迫る死の気配を睨みつけているのだ。絶対に連れて逝かせはしない。……そして、何より————死を齎す者の正体が知りたい。
命を奪おうとする者に対して———相応の報いを与えると心に決めた。
そして―――数日後。
「はぁぁぁ!! ありがとうございます! ダーク様!! 今日も」
ダガスの冒険者ギルドにて、受付が大いに盛り上がっていた。
それもその筈、貴重な魔石や素材が大量に納品されているからだ。
「今日も5階層! イエティーの魔石、毛皮をこんなに沢山! 素晴らし過ぎです! 流石はダーク様御一行! 無事のお戻り感涙です! お疲れではありませんか? お食事は? それともお酒を??」
「いえ大丈夫ですので、魔石の精算をお願いします」
「はぁい。畏まりました!!」
小躍りしながら奥へと向かおうとしたドワーフ種の受付嬢……だったが、直ぐに足を止める事になる。
何故なら、呆れた様子のゴールド・ネムムが言ったから。
「やれやれ。当初とは気持ちの良いくらいの手のひら返しだな」
「全くです。初日に納品しにきた時は、嘘つきの盗人扱いでしたからね。それも、ハク殿が間違いない、と断言した上で、彼がいなくなれば更に疑り初めて」
「ひっっ!!」
そう———それは最早彼女の黒歴史となりつつある過去の記憶。
黒歴史どころか、冗談抜きで首が飛ぶ件。
当初は
ハクがちゃんと説明して、証言もして、その時は笑顔で頷いていた筈なんだけど、彼が居なくなった途端また手の平返し。あまりにも見事な手の平返しに思わずネムムも怒りを通り越して笑ってしまう程だった。
そして、ふたを開けてみれば超が幾つもつきそうな優秀な冒険者だった、と言う事。
黒の道化師一行がもしも、このダガスを抜けて別のダンジョンへ~~となったら、どれだけの損失を被るか、検討もつかない。
「そ、その説は失礼いたしました!! 二度と失礼な態度をとらぬよう、私を含め、ギルド全員に厳命致しますので!! 氷魔石を1日で大量に持ち込む冒険者に失礼を働いたなどと知られたら……ここのギルド員全員の首が危ないんです!!」
ジャンピング土下座。カウンターの上で土下座をし始める受付嬢に、ライトは思わず仰け反って引いてしまう。あまりにも必死直ぎて。
「特例でF級からD級……つまり、2階級特進いたしましたし、どうか活動場所を変更などしないで頂ければ………」
氷属性の魔物が済む5階層へ到達できる冒険者は極端に少ない。でも、氷魔石の需要は汎用性があまりにも高い魔石の為、ものすごく多い。本当に死活問題となりかねないのだ。
ライト側からすれば、あまりに手の平返しが過ぎて……腱鞘炎にでもなるんじゃないか? と思ってしまう程で、良い気はしないが……。
「ならば、ランクアップを希望します。ダーク様にD級など論外。最高ランク以外ありえません」
「そ、それはその……。確かに最早疑いの余地がない程にダーク様は実力も貢献度も高く、私たちとしてもC級までに推薦したいのですが、冒険者になってからの期間があまりにも短く…………」
これは制度的な問題。
如何に実力が高くても、本来は1つ上げるのにさえ3~4年かかる。Dへの昇給自体も前例の無い事。現時点でもゴリ押しをしてきたのでこれ以上ともなれば……。
「あと、あと1つ! 何か別の功績を上げて頂ければ……、それをカードに我々も押し切る事が出来る、と確信しております。……ですが現状では……」
氷魔石は確かに貴重。でも、他に居ない訳ではないから、上層部も中々説き伏せるのが難しいのだ。……無論、対象が
「功績、ですか」
「はい。それなんですが実は有力な案件がありまして、もうすぐ発表されるかと————」
「有力な案件?」
それは何か? とネムムが発表前に教えろと詰め寄ろうとしたが、その必要は無かった。
盛大にギルド内に響く鐘の音。
まだ冒険者となり、日も浅いライト達にはその鐘の音が何を意味するかは解らず、その響く方に視線を向けた。
「冒険者の皆さま!! たった今、ギルドより緊急クエストを発令いたしました!!」
これこそが有力な案件であると認識し、ライトやゴールドは勿論、ネムムも受付嬢に詰め寄るのを止めてその緊急クエスト内容を聞く事にした。
「現在、ダガスダンジョンにて発生している『謎の冒険者の死』を『冒険者殺し』による殺害と認定いたしました!」
「冒険者殺し、だと?」
あまり穏やかではない内容だった。
ダンジョンが直ぐ傍にあるのだから、スタンピード的なモンスターの大量発生やボスクラスのレイド戦を想定していたのだが……、全く内容が違う。
「動機や意図などは不明ですが、主に
そう言うとギルド長は盛大にクエスト表をばら撒いた。
「ダンジョン内の安全・秩序を保つ為、我がギルドは『冒険者殺し』に懸賞金をかけます! 現在『冒険者殺し』の正体は一切不明。どんな些細な情報も『冒険者殺し』に繋がれば懸賞金をお支払いいたします」
皆が目を通す。
すると……眼の色を変える者が続出した。その懸賞金の額を目にしたからだ。
「ほう、これはまた高額だな」
奈落を知り、地上での活動資金などは有り余る程持っているライト一行の1人、ゴールドでさえも多少唸るくらいの値を張っている。それ程までにギルドは本気だと言う事が解った。
そして、
それは兎も角として、放っておけない事件だと言える。
「主よ」
「うん。これが『案件』というやつですか?」
「はい。十分な功績になろうかと」
そして、ライトは二つ返事で受け持つ事にした。
ギルドからの帰り道。
「ダーク様。『冒険者殺し』を捕まえに行くのですね!」
「うん」
「このタイミングでのクエスト発生は吾輩たちの目的にとっては幸運ではある……が、手放しに喜べはせんな」
ライトの視線が鋭くなる。
確かに、真っ先に『冒険者殺し』を捕える事で、ランクアップの後押しになるのは間違いない。ギルドの受付嬢も暗にそう言っていたも同然だった。
だが……、どうしても許せない。
「そうだね」
狙っているのが
「
主ライトの覇気、怒気をその身に受け身震いすると同時に頼もしい主を持って幸運にも思える。命尽きるまで共にあろうと改めて誓える。
「では早々に片をつけよう。主の
「―――うーん、どうだろう? 『無限ガチャ』から排出されるカードは千差万別で強力なカードも多いけど、直接犯人を特定する様なカードはなかったはず。……とは言っても皆の協力とカードを使えば、特定は難しくないと思うよ。『飛行』を駆使して空から人海戦術でダンジョンを———」
ここで、ライトの脳裏にある記憶が浮かび上がった。
存在隠蔽でさえも看破して見せた強力な結界魔術を使用した彼————ハクの姿を。
「ハクさんにも協力願えないかな? 彼の結界を使った索敵は僕の目から見ても類を見ないくらい強力だったし、どれくらいの範囲を見れるか解らないけど、かなり時間短縮になると思うんだ」
「うむ。吾輩は異論はない。……宙に居る時に、ハク殿の結界に触れた経験から言えば、アレは接触さえすれば主の存在隠蔽ですら看破する程の分析力を持つ力だ。奈落の皆とそれが合わされば、確かに捜索が短縮、容易となるだろう」
「自分も異論はありません。なら、ダーク様。まずは奈落へ帰還し、準備を整えた後に彼の下へ赴くのはどうでしょう? あの場にハク殿はおられなかったので恐らくはあのパーティと共に第1階層に————……ッッ!!? ダーク様!!」
ネムムが意見具申を中断し、叫んだ
ネムムの注意とほぼ同時に、ライト達も異変に気付く。この場所の空間が……次元そのものが歪んでいくのが解った。
ぐにゃぐにゃ、と空間が歪みに歪み……軈て薄っすらと何かを形成し始める。
「「「「ッッ~~~~~~」」」」
すると同時に、まるで放り出されたかの様に、4人の男女が地べたに落ちてきた。
いったい何事か、誰だ、と警戒していたのだが……、山なりに重なった一番上に居る少女が、ライト達の思考よりも早くに始動したのだ。
「だ、ダークさん!!! お、おねがいします、おねがいしますっっ!! は、ハクさんを………、ハクさんをたすけてください!!!」
所々が汚れて、目は涙の後でぐしゃぐしゃになり、助けてと懇願する少女はミヤ。
ライトは驚きつつ―――一体何があったのかとミヤに聞くのだった。
少女は助けを乞いに走った。
死地より、逃がしてくれた大切な人を助けたくて。
自分達じゃ力が足りず、足手まといにしかならない事実を恥じ、それでも出来る事をしたい、出来る事をしなければと走り続けた。
命を賭して……自分達を守ってくれた彼に報いる。
何より、死んで欲しくない。助けたい。
そして、そんな少女の願いは————完全に無意味となる。
「ひょっとして
優しい顔に包まれたいつもの彼の姿は今は何処にもない。
静かだが、それはまさに嵐の前の静けさ。
「そもそも、あんまり、今の姿見せたくなかったから先に行ってもらっただけなんだよ。……とうとう、
エルフ特有の金髪の姿———ではなく、身体が白で包まれはじめると同時に、その髪は黒髪へと変化。白いオーラの様な何かを纏い、神々しいまでの光を放ち————眼前のカイトとヤナークを見下ろし、見下す。
「お前らは もう、逃げられない。―――逃がさない」