職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件   作:やっくんYU

12 / 29
どかん

 

 

 

————時間が少しだけ巻き戻る。

 

 

 

「さて、良い具合にレベリングも出来た~~っといいたい所ですが、流石に第1階層での狩りじゃもう中々レベルアップは難しいですね。あのカマキリがまた出てきてくれればよいんですが……」

 

 

本日も第2階層を目指すのではなく、ハクの索敵からの結界魔術を応用したモンスター引き寄せでレベリング&魔石・素材回収を続けていた。

実際な所、最終目標的な位置にしていた第2階層への到達は全く問題ない状態になっている。平均Lv50を超えているので、ギルド内で定められた推奨Lvを考慮すれば、第3階層だって到達できるだろう。

勿論、一足飛び足でレベルが上がったので単純に経験が足りないから慎重に越したことはないが。

 

まぁ、それはそれとして、四つ腕カマキリは流石に無理です!! とハクの言葉を全力で否定しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「カマキリは兎も角、あの狼は全然怖くなくなったっスね~!」

「おいおい。ギムラもあんまり調子に乗るなよ? 慣れてきた時が一番危ないんだからな」

 

 

エリオは調子よく燥ぐギムラに小言を言いつつ、魔石を回収していた手を止めた。

ハクの話を聞いて、色々と思う所があるからだ。

 

 

「そろそろ、本格的に第2階層に入ってみる、って言うのはどうかな?」

 

 

ハクの目をみて、そして全員の目も見る。

皆、それぞれ自信に満ち溢れた目をしていた。戦闘狂じゃなかった筈なんだけど、こうも容易く狩れるようになるとは思わなかったので、色々とハイになってしまっているのかもしれない。

……そこはハクがしっかりとクギを刺してるので、自信は持っても過信はしないを心掛けている様だが。

 

 

そして、エリオの言葉はミヤを含めた全員が頷き———ハクの方を改めて見た。

ハクは、ふむ———と1つ考えた。ハク自身も行った事が無い階層だが、基本的にバフの重ね掛けでごり押しは出来る。カマキリ討伐の時に盛大に驚かれ、盛り上がった点を考慮すると……あのレベルであそこまで評価されるのであれば何ら問題ない。

 

けど、それはあくまで自身を含めたパーティ編成での話。

彼らだけだったら、あのカマキリの相手は難しかっただろうし、レベルが上がったと言っても第2階層は未知の領域。……どうなるか未知数だ(心配性)。

 

 

「このパーティのリーダーはエリオさんですからね。そのエリオさんが出来ると判断したのなら、出来ると確信を持てるくらいになったのであれば、僕は否定したりしません。尊重します。……でも、全員の命を背負っていると言う自覚だけは常に持っていてくださいね? 向かう先は未知の階層ですから」

「はい! 勿論です!!」

 

 

エリオはリーダーとしての自覚、そして必要な知識と判断力を養う事に注力していた。

 

非常に頼りになるハクに決して頼り切らない事。

ダメージを負っても大丈夫かもしれないが、最低限ダメージを受けない、貰わない戦いを心掛けてやってきたつもりだ。

レベルと言う明確な数字は、あのカマキリを倒した辺りから殆ど止まっているが、目には見えない数値は確実に上がっているだろう、と思う。

 

 

「は~~、心臓がドキドキバクバクしてきましたぁ……」

 

 

未知の階層、新たな階層、最終目標だった階層。

ひと月にも満たない身近な間で行けるなんて思っても居なかった。それだけに、どうしても興奮する。以前の自分なら恐怖心の方が勝っていた筈だけど、今はこんなにワクワクしている。

そしてそれ以上に感謝の想いが湧いてくる。

 

 

「ハクさんのおかげ、ですね。頼り切過ぎない様に私も頑張ります! あ……やっぱりありがとうございます! と言わせてください」

「言わせてください、と言う前に言っちゃってますね。ははは。はい。受け取ります」

 

 

ミヤの感謝の言葉。

そして、それに続く形で残りの3人も頭を下げた。

 

 

「ダークさん達を先生! って呼んでた様に、ハクさんも先生っス! 先生よりパーティだし仲間~って呼んでと言われましたが、やっぱ先生っス! 今だけは許して欲しいっス! 先生感謝感激っス!!」

「……オレも、皆を守れるくらい、これからも皆の為に身体を張れる様に頑張ります。……先生、ありがとうございます」

 

 

ギムラとワーディがそれぞれ感謝を告げた。

特に無口なワーディからの言葉には驚いた。

何だか、目頭が熱くなってくる—————パーティメンバーの一員とは言っても教え子も同然だから。……だから、こういうのが好きだな、と改めて思う。あの世界ででも同じだったから。

 

 

「何だか、今日でお別れです! ここからは自分達だけで頑張ります! って聞こえなくもない気がしますが……?」

「ええええええ!! そ、そんな! せんせ————ハクさん!! きょ、今日で終わり……なんですか??」

 

 

まるで卒業する教え子を見送る~みたいな心境だったから思わず口にしちゃったが、想像以上にミヤが食いついてきた。離れたくない~~と目で訴える少女の姿。……それもやっぱり懐かしい。

 

 

「あははは。冗談です。もう少し……一応、僕がこのダガスに滞在する期間(・・・・・・)は一緒に居ますから」

 

 

ハクがミヤの頭を撫でる。

兄に撫でられる事もあるが、やっぱりハクのそれは兄とはまた違う。……心が温かくなる。

 

でも、今はそれどころじゃなかった。

 

これまでに無い情報が、頭の中に入ってきたから。

 

 

『もう少し』

『ダガスに滞在する期間』

 

 

これは初めて聞いた。

何時までダガスに居るのだろうか? と気になってきた。だからこそ————詳しく聞きたかったが、それは新たな来訪者の登場で阻まれる事になる。

 

 

 

「お前達! 火急の知らせだ!」

 

 

 

近くを走っていて、エリオ達パーティに気付いたのであろう壮年の冒険者が慌てて声をかけてきたのだ。普段ならば一気に警戒心を高める場面ではある……が、同じ人種(ヒューマン)である事と、50を超えるレベルに上がった事で心に余裕とゆとりが出来て、冷静に対応する。

 

 

「オレ達は偶然知る事が出来た情報だが、このダンジョンに『冒険者を殺して回る冒険者がいる』とギルドが確定した」

 

 

そして―――冷静な対応を心掛けようとしたが、早くも冷静さを失わせる様な情報が並んで嫌な汗が流れた。

 

 

モンスターによる死亡事故ならば、冒険者をしている以上、ダンジョンに挑戦している以上、切っても切り離せない問題。……だが、事冒険者間での諍いは別だ。

ダンジョンの外であれば、もみ消そうとする事が出来ると思うし、それぞれの種の国へ逃げでもすれば追いかけるのが難しいから有るかもしれないが、ダンジョン内部だと話は変わってくる。

地上への入り口は1つだし、捕まる可能性が遥かに高いからだ。

 

でも、この冒険者殺しはダンジョン内で凶行との事。

 

 

「十中八九、『冒険者殺し』には懸賞金がかかる。その内捕まるか始末されるだろうが、時間はかかるだろう。それまで同じ冒険者を殺して回る異常者がいるダンジョンに留まるのは危険だ。お前達も悪い事は言わない。今夜はダンジョンから出た方が良い」

「わ、わかりました!」

「ああ、それともう1つ。犯行は主に2階層以降で起こってる。ここは1階層とは言え、2階層に近いから特に危険だ、とだけ伝えておく」

 

 

タイミングが本当に良かった。

これから第2階層へと目指す予定だったから、運が悪ければその異常な殺人鬼に遭遇してもおかしくないから。

 

 

「あの、すみません。冒険者の殺害を、冒険者が行っている、と言う明確な証拠の様なモノはあるんでしょうか?」

 

 

ハクは壮年の男に聞いた。

よくよく考えてみれば、それも知りたい情報の1つ。このダンジョンには数多のモンスターが跋扈しているし、自分達同様に、あの四つ腕カマキリに遭遇しないとも限らないから。

 

 

「良い質問だな。それは簡単な事だ。殺された冒険者の遺体を目にしたが、焦げてたり凍り付いていたりと複数の攻撃魔術が使われた形跡があったんだ。ここ第2階層でそんな真似が出来るモンスターがいると思うか? 第3階層にだっていやしない。加えて殺された冒険者以外の足跡もない。これらの調査はドワーフ種と獣人種のパーティも同意している。つまり、複数の魔術が使え且つ空も飛べる。戦術級(タクティクス・クラス)魔術師が徒党を組んで襲っている、とみていいだろう。オレ達が慌てて逃げる理由も解るだろ?」

 

 

複数の魔術を使い、且つ空を飛ぶと言う戦術級(タクティクス・クラス)魔術までも使う。

確かにそこまでされたら、第2,3階層を主戦場とするレベルでは太刀打ちできないだろう。

空を飛ばれれば文字通り、手も足も出ずに一方的に殺される。

 

 

「―――以上だ。もう一度言うが今日はさっさとダンジョンを出た方が良い。あと戻る際は事情の知らない冒険者たちが居たら種を問わず注意勧告を頼むぞ」

「ッッ、わ、わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事情は察した。

それと同時にずっと感じていた気配が色濃くなり、今日が最も禍々しさをみせている事にも合点がいった。

冒険者殺し。特定されていない以上、普通の冒険者を装ってダンジョンの外に逃げている可能性だってあるかもしれないが……、十中八九それは無い。まだ留まっている。粘っこく、不快感だけしかない気配がしっかりと視えているから。

 

 

 

「い、今の話が本当なら……冒険者殺しには上位魔術が使える一流魔術師が交ざってるって事になるよ……。そ、そんなのがもしも襲ってきたら…………」

 

 

 

これまでハクに頼らずに~~を意識してきた。怪我をしても回復してくれるから心のどこかでは戦闘中であっても何処か安心感があり、上手い事身体の力も抜けて最善の対応が出来ていた。

 

でも、今回の相手は全く違う。あの四つ腕カマキリよりも脅威を感じる。

上級魔術を連発されたり、空と言う死角から急襲されたり………、どうしても悲惨な光景しか頭を過らない。

 

 

「――――ハク、さん」

「はい。皆の命を預かるのがリーダーの仕事でもあります。……何が最善か、解りますね?」

「ッ……はい」

 

 

ミヤも怯えている。ハクと共に居ればなんだって出来るんだ、とよく燥いでいたミヤとは思えない程に、怯え震えている。魔術の事は詳しくないが、その脅威くらいは図る事が出来る。

ミヤは、ハクが居ても危ない、と判断したのだと感じた。

 

 

「……忠告通り、戻ろうと思います。幸いな事に、ハクさんがおびき寄せてくれたモンスターを狩って、それなりに魔石と素材を得る事が出来てますから、ギリギリ黒字。大きなリスクは避けるべきだ」

 

 

目を大きく開けて、しっかりとした口調で言い切る。

 

 

「だから撤退だ。日が完全に暮れるまで時間が無いから急ごう」

 

 

一先ずテントを仕舞う。荷物も纏める。いつもの2倍くらいは早い。最近はよく話す事が多いから。だから、周囲の警戒が怠り気味でよく叱責される事が多かった。でも今は沈黙が続き、ただただ無心で準備を始める。

 

 

そして―――さぁ、出発だ。と移動を始めようとしたその時だった。

 

 

「お前達。何をしているんだ?」

「「「「!!?」」」」

 

 

突然、背後から声を掛けられた。

普段よりもずっと警戒している。モンスターの奇襲だってあるだろうし、そもそもいつもはハクの結界があるから、それをも抜けてきたと言うのだろうか、と身体が凍った様に動けなくなった。

 

どうやってここまで接近したのか。まるで突然降ってわいたかの様に現れた複数……4人程の冒険者。

 

フードを被った中で、一番背の高い冒険者が問いかける。

 

 

「もう日も落ちそうな時間帯。何故、野営を中断している? 何かトラブルでも起きたのですか?」

「あ、いえ。それは……その、あっそうです。冒険者殺しの情報を聞いたから」

「ほう? 冒険者殺し、ですか」

 

 

壮年の男も言っていた様に知らない冒険者が居たら注意喚起。種を問わずに、と言う言葉を思い出し、エリオは声をかけた。

 

そして、それを聞いた男はまるで初めて聞いたと言わんばかりに首を傾げる。それを見て、エリオは、エリオ達は丁寧に事情を伝えた。これまで教えて貰えた事を全て包み隠さずに。

 

 

「――――成る程。だから身の危険を感じてダンジョンで野営をする事なく外に出ようとしているのか」

「はい。そうなんです。ですからあなた達は?」

「僕様たちは獲物を探していたら、丁度君たちに気付いて、様子がおかしかったから一応声をかけたんだよ」

 

 

洞察力も身に着けた方が良い———と、ライト達と共に実戦形式での講習を受けた筈だが、この時のエリオは今の会話に違和感を感じ取る事が出来なかった様だった。

 

 

「なるほど、心配をかけて申し訳ありません」

「どうやら普通の冒険者の人達みたい、っスね」

 

 

エリオが警戒心を解いた事で、それが他のメンバーにも伝わった。誰一人として、違和感を勘づく者はいない。

 

 

「その選択は駄目ですよ。……悪手で、不合格です」

 

 

なので、ハクはそう言うと、まずミヤを後方へとやる。ワーディとギムラの間を通り、エリオの隣へ。

 

 

「まさか冒険者ギルドがこれ程早くに対応してくるなんて予想外だな」

「当方も驚きですよ。知りませんでしたが、冒険者ギルドは存外真面目に運営している組織なんですね。そうと知っていれば、もう少し隠蔽に力を入れたのですが……」

 

 

————え?

 

そう思うよりも早く、まるでダメな生徒に、子供に言い聞かせる様な柔らかい声が届いてきた。

 

 

「ほら、説明するまでもなく、わざわざ相手が教えてくれました。これで正体が解ったでしょう? 彼らが『冒険者殺し』です。―――もう少し警戒心は残しておくべきでした。相手はあからさまに怪しい風貌なのに、警戒を解いてしまった事が1番の減点、大減点です。なので、予習復習を忘れずに、次にしっかりと活かしてくださいね」

 

 

飄々と淡々と告げる眼前の男たちの正体。

流石の男も、悠長にネタバレ話を続ける訳にはいかなかった様だ。

 

 

「ほう、察しの悪い劣等種(ヒューマン)だと思っておりましたが、どうやらあなたは多少マシな部類の虫けらの様だ。……くくく、良い実験材料となるでしょう。光栄に思うと良いですよ。……カイトさん? 殺しては駄目ですよ」

「―――さあ、どうだろうな。虫けらはまだ他にも4匹いる。こいつの物言いは、僕様をイラつかせた」

 

 

フードを完全に取り払ったカイトは、宝剣グランディウスを構える。

ヤナークもカイトを止めようか、と思ったがある程度良いと言ってしまった手前もあり、あまり止めすぎるのもかえって溜め込み、いつか爆発させてしまう危険性もある為、黙認する事にした。

 

何より、カイトに気持ちは分かる。人種(ヒューマン)がこの場面で、正体を看破したのにも関わらず、あの不遜な物言い。思い返せば確かに死に値する行為である、と判断したから。

 

 

「今すぐ踏みつぶさなければ気が済まない」

 

 

 

圧倒的な殺気を周囲にまき散らせる。ただのそれだけで、恐怖し、身体が固まってしまう。

僅かLv50にも満たないエリオ達をその場に縫い付ける30倍と言う途方もないレベル差が故に仕方がない事なのだ。

 

 

「流石にこの相手に対して皆でレベリング……とはいきませんね。では皆さん。当初の予定通り、撤退としましょうか」

 

 

手をグッ、とエリオ達の方に向かって圧す所作をすると……、突然身体が浮き上がった。

浮き上がるだけでなく、何か見えない壁の様なモノに押され、後方へ。

 

 

「だ、ダメ!! ハク、ハクさん!!」

 

 

この時、恐怖故に完全に委縮してしまったミヤが回復した。考える事が出来る程度には回復した。この状況……ハクが逃がそうとしているのがよく解った。(レベリングの件は聞き取れてない様だが)

 

 

「僕の事は大丈夫ですから。皆はギルドに報告をよろしくお願いします。それだけで懸賞金が貰えるらしいですからね。そうだ。そのお金で美味しいご飯でも今度食べましょうか」

 

 

グンッっ!!

 

一気に半径100m程先に飛ばされてしまった。

 

 

「バカが!! 誰一人逃がす訳がないだろ!!」

 

 

突然、エリオ達が後方へ離脱した。離脱させた事に驚きはしたが、逃げられた方が面倒だと即行動を開始する。

 

シャラン……と楽器の様な音を奏で、宝剣が輝きを見せたかと思えば、次の瞬間には複数の刃を空中に生みだした。目算で約30。

 

 

「あの劣等種(ヒューマン)どもの全員の四肢を斬り落とす! 虫けらの分際で逃がせると信じた貴様に思い知らせてやろう!」

 

 

眼前のハクよりも先に、エリオ達を狙ったのは、それ程までにギルドに報告されるのが嫌だという事だろう。そう、冒険者殺しは大罪だ。何よりカイトにとってはエルフ女王国に伝わる事だけは回避しなければならないのだから。

 

 

 

「う、うわあああああああ!!」

「きゃあああああ!!」

 

 

無数の刃が一斉に襲い掛かってくる。

ハクに逃がされたが、まだ完全に納得できてなかった。仲間扱いを、と以前言われた事もあった。仲間1人を置いて逃げれる訳がない、と思っていたからだ。

 

でも、その判断が間違っていた事に直ぐに気づく。

 

 

圧倒的な暴力の差。

無数に迫る刃は、その1本1本が容易に命を絶つ事が出来る威力を秘めていた。人種(ヒューマン)など、まるで豆腐を斬るよりも早く……無慈悲に。

 

 

そして、死を意識したその瞬間だった。

 

 

 

キキキキキ!!

キキキキィィィィィンッ!

 

 

 

甲高い金属音が周囲に木霊したのは。

迫る刃は、眼前まで迫るもエリオ達を貫く事は無く、ただただ何もない空間に阻まれ続けた。目に見えない壁————そう、ハクの結界によって阻まれていたのだ。

 

これまで、索敵等でハクには結界を張っている~と伝えられてはいたが、実際にその結界が作用している場面は観た事が無かった。ましてや、あの攻撃を防げる程強力な結界だとは思っても無かった。

 

 

「ほら、大丈夫ですから。……だから、早く立ちなさい。急いで。自分達で出来うるその最善をする時ですよ。判断を間違えない様に。加点をあげませんよ?」

 

 

「ッッ!! で、でも、でも!!!」

「ミヤ!!!」

 

 

それでも追い縋ろうとするミヤ抑えて、無理矢理担いで走る。

 

 

「ワーディ!! ギムラ!! 行くぞ!!」

「「ッッ!!」」

 

 

言いたい事はある。

逃げたくないと言う気持ちも、当然ある。

 

でも、何も言えない。泣きわめくミヤと……その目に涙を浮かべて、流し続けているエリオの顔を見たら……。リーダーの指示だから従う訳じゃない。自分の不甲斐なさが、自分の弱さが、今日程憎く恨めしく思った事は無い。

 

 

「挫折が人を強くさせます。……皆なら、伸びしろは十分。太鼓判ですよ」

 

 

そんな声が……優しい声が後ろに聞こえる。

 

 

もう、叫ぶしかない。

 

 

 

うわああ、と泣き喚きながら――――ただただダンジョンの外へと目指して走る。

 

 

助けを、助けを呼ぶ為に。

 

 

 

 

走って、走って、走って……一体どれだけ走っただろうか。

叫び続けて走り続けて……。

 

 

 

「助け、助け、助けなきゃダメなの――――!!」

 

 

一番足が遅いミヤを、エリオがかばう形で走る。

 

 

 

ドシャッッ!! 

 

 

全力で走って走って、泣き喚いて――――もう姿が視えなくなった場所まで来て……そこでエリオがバランスを崩して倒れてしまった。

兄妹ともども、派手に倒れて傷を負ってしまう。

 

 

「く、み、ミヤ! 行くんだ。ハクさんの為にも、走るんだ!!」

「ッ……ッッ……」

「ミヤちゃん!! オレたちが出来るのは、1分でも、1秒でも早く、ギルドに知らせて、助けを呼ぶ事だ!!! だから立つんだよ!!!」

 

 

ワーディの全力の大声。

腕を掴んでミヤを立たせた。

 

 

「ワーディ……」

 

 

ワーディのここまでの大きな声、聴いた事が無かった。

長く幼なじみをやっているが、ここまで感情を爆発させるような事は無かった。

その顔は汗と汚れと涙でグシャグシャだった。

 

 

全力で走り続けたせいか、足がもつれそうになる。実を言うと足がつってしまっていたが、そのワーディの姿を見て、命を懸けて逃がしてくれたハクの姿を思い返して……、ギムラは思いっきり足を殴りつけて再び走った。

 

 

「根性みせる、っスよ!!! 最後にものを言うのは根性……! っス。例え、この足が折れたって……絶対に外に出てやるっス……!!」

 

 

 

助けたい。

でも、自分たちではどうしようもない。何も出来ない。ただ、足手まといにしかならない。

 

 

どうやったら、助ける事が出来る?

 

 

誰だったら……助ける事が出来る?

 

 

「だー……」

 

 

 

1人しか……浮かばなかった。

 

 

「ダーク、さん………!!」

 

 

ミヤが、その名を呼び……そして、また叫んだ。

 

 

「助けて――――助けてくださいッッ!!」

 

 

その願い……ミヤの強い強い願い。その願いにミヤの腕につけられたミサンガ、『祈りのミサンガ』が応えた。

 

淡く輝く光が―――ミヤ達を優しく包み込むと、全員を転送させたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 

それは、エリオ達を逃がした直ぐ後の事。

皆が走ったのを見届けて、ハクはカイトたちに向き直した。

 

 

「そっちの方から出てくるとは思ってなかった―――とは言わないですよ。大分派手に動いていた様なので」

 

 

死の気配の濃さを鑑みれば解る事だ。

この世界の気配と以前までの世界の気配とでは差異があるかもしれないが、大体同じである、と仮定するなら………間違いなく、この連中は派手に動いている。少なくともギルドが大々的に動く程度の事はしている。

 

 

「僕様の力が……!! この劣等種ごときが!!!」

 

 

シャラン……と、カイトの宝剣がうなりを上げるが、先ほどのエリオ達の攻撃を阻んで見せた様に、その刃はハクの身体をつらぬく事なく、ただただ弾かれ続けた。

 

 

「……バカな、カイトさんのあの宝剣グランディウスはエルフ女王国の国宝……幻想級(ファンタズマ・クラス)の力なんですよ!? それを完璧に防ぐ程の強度を持つ結界……。あの劣等種は一体何者だと言うのですか……!?」

 

 

カイトの攻撃はいくら撃っても弾かれる。

その光景が信じられずにただただヤナークは茫然としていた。あの剣でこれまで数多のモンスターを、数多の冒険者を刻んできた。その場面を確かに視ている。なのにも関わらず、目の前の人種(ヒューマン)に傷1つ負わす事が出来ない。非現実的な光景を見せられて混乱極まってしまった。

 

 

「どうやら、頭の方も良くない様だ。いや記憶力が乏しい、と言った所かな? ……僕が誰か、解ってない様だから」

 

 

確かにフード姿だから、素顔は見せてないけれど、声を変えている訳じゃない。

半ば呆れながら、ハクはフードをとって素顔をさらした。

 

そして、それを見て……カイトとヤナークは驚くと同時に合点が言った様だ。

 

 

「貴様……、エルフ種の面汚し、裏切り者だったのか!!」

「気付くのが遅いよ。僕様さん。……こっちはその珍妙な一人称を聞くまでもなく、雰囲気だけで、あの時の(ヤツ)だ、って気づけたのに。洞察力も無いようだね。まだエリオさんの方が能力値が高いよ」

「!!!」

 

 

人種(ヒューマン)の方が優れている。

 

そう言われた途端、カイトの視界が真っ赤に染まった。

 

 

 

「この僕様をコケにしやがってェェェ!!!」

 

 

 

これまでは、グランディウスの攻撃はただの斬撃。つまり物理的な攻撃法を用いてきた。

でも、今は違う。数多の属性攻撃を織り交ぜて、撃っている。

 

 

「当方も驚きましたが、劣等種(ヒューマン)ではないと言う事実を知れて、納得は出来ました。……ですが、本気のスタイルになったカイトさん相手に、貴方は何時まで持ちますか?」

 

 

雷、氷、炎、風、数多の属性攻撃がハクの結界を蹂躙する……事は無く、ただただ表面を削っているに過ぎなかった。

 

 

「ふむ。中々の威力のある攻撃……。この世界にきて戦ってきたモンスターの中じゃ一番ですね」

「も、モンスターだと!!! 僕様が、モンスターだと!!?」

「そういう意味で言った訳じゃないんだけど、まぁ良いか。はい、それで良いですよ。貴方はただ猛進するだけの畜生も同然。それにただただ、強い武器に頼ってるだけの3流です。戦いの中で創意工夫と言うものが一切無いですし」

 

 

ハクの力を目の当たりにして、驚きはしたが……直ぐにある情報を思い返して冷静さを取り戻すのはヤナーク。

そうなのだ。人種じゃない事実だけでも十分導き出せる事なのだ。

 

 

「確かに、支援を最も得意とする魔術師。成る程、それが傑出していると言う事なのですね。防御と回復特化型。堅牢な守りに加えて回復ともなれば更に堅牢でしょう。………ただし、それは裏を返せば攻撃力が乏しいと言う証拠でもある。成る程成る程、だからこそ、劣等種(ヒューマン)を手足の様に使い続けてきたのですか。己の足りない攻撃力を、劣等種(ヒューマン)なんぞで補うとは賢さとは程遠いモノだと当方は思いますが、コスト面を考えると、最も安価なのが劣等種(ヒューマン)ですから、まぁ一定の理解は出来ましょう。ただ、攻略の糸口は見つけましたよ」

 

 

ヤナークはそう結論付けて、口角を吊り上げる。

そしてカイトに続けて自分の考えを言った。

 

 

「攻撃手段を持たず、ただ守り続けているだけの戦術です。しかし、魔力は無限ではない。いつかは必ず切れます。その隙をもって一気に行きましょうカイトさん。当方も実験体を出します」

 

 

カイトの戦いに横やりを入れるとまた憤慨されるかもしれない、と思ったが今はそうはいかない事情がある。

 

 

「あの劣等種(ヒューマン)どもが、ギルドへ駆け込む前に、この男の障壁を突破致しましょう。如何に広大なダンジョンとはいえ、虫けらの速度とはいえ、時間が十分あるとは言えないので、当方も微力ですがお力添えを」

「ちっっ、この僕様の力でこの程度のヤツ、突破してやる! なめるな!!」

 

 

ヤナークの考えを聞いて、カイトは内心安堵感を覚えたりもしている。無駄に高いプライド故に決して声には出さないが、このハクと言うエルフ種は、防御魔術に特化しているのがヤナークが言った事でカイトにも理解が出来た。そして、魔力を無限に顕現出来る訳がない事も知っている。そんなのは、如何に強大な強さを誇る白の騎士団のメンバーであったとしても、無限は絶対ありえない。

 

 

「ふふふ。あの虫けらを逃がしたのは失策だったのでは無いですか? 大層な障壁で守る事が出来ると言うのなら使い潰せばよかったものを」

「壁に籠ってるだけの臆病モノが。今すぐ引きずり出して五体をバラバラにしてやる!」

 

 

攻略の方向性は決まった。魔力に無限はあり得ない。壁が削りきれるまで連続で、全力で潰す。物量で押し切る。

 

そう決めたその時だ。

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 

男の雰囲気が……変わったのだ。

 

そして同じエルフ種特融の金に輝く蜂蜜色の髪が、ぱちっ、ぱちっ、と音を立てながら黒へと変貌してゆく。

 

 

「さっきから随分てきとーな事言ってるが、オレが何時そう言った? ひょっとして、オレの事回復専門だけとか思ってたのか?」

 

 

白いオーラが身体全体を包みこみ、その黒い髪と合わさって逆立つ。

 

 

「失策? おめでたい頭ん中だ。――そもそも、あんまり今の姿を見せたくなかったから先に行ってもらっただけなんだよ。……やっと、とうとう見つけたんだ」

 

 

 

 

 

バシュンッッ!!

 

 

 

 

ハクを覆っていた結界が、カイト攻撃を遮っていた壁が一瞬のうちに消え去った。

 

まるで丸腰。

 

 

 

 

「お前らは、もう逃げられない。――――逃がさない」

 

 

「な、な、なななななな!!!!!」

 

 

 

結界を解いた。

つまり、唯一の強みである筈の防御の力を放棄した。

その上で、この男は何を言っただろうか?

 

 

「にが、さない? にげら、れない??」

 

 

ぶちんっ! と自分の中のナニカが切れたのを感じ、ハクとはまた違った意味で髪が逆立ち怒髪天を突くカイト。

舐めている。だからこそ、結界を解いたのだと。

 

 

 

 

「英雄である僕様にぃぃぃぃ!!! 死ね!!! クソ野郎がァぁぁぁ!!」

 

 

 

 

鬱陶しい結界が切れたのなら、もう何も言う事は無い。

ただただ、最強の一撃を入れるだけだ。念には念を入れて。

 

 

「喰らわせてやる! このグランディウス最強最大の業、この巨剣グランディウスで跡形もなく消し飛ばしてやる!!」

 

 

先ほどの30以上の刃を出していたスタイルとは違い、その刃を全て束ねる様に1本の巨大な剣を形成。

 

 

「死ねぇぇェェェ!!!」

 

 

攻撃手段は、巨体をいかした攻撃方法。そのまま振り上げて、ただ振り下ろすだけ。これもまた、ある意味では無骨で漢らしい、と言えるのかもしれない。

 

 

でも関係ない。

 

 

 

「どかん」

 

「は……?」

 

 

ハクは拳を前に出した。

そして土管? ではなく、どかん。……ドカン。つまり爆発する~的な音を自分の口で言っただけ……な訳がなく、その呆気にとられる掛け声と共に放ったのは右の拳だ。

 

剣と拳が撃ちあったらどうなるか。当然、普通は拳の方が斬れるのが一般的なのだが、ハクの拳は、巨大な剣となったグランディウスを撃ち返してしまった。それだけに留まらず、剣そのものをも粉砕してしまった。

 

 

「固い防御は固い攻撃にもなる。加えてどの職業を選ぼうが基本能力値をカンストさせると、どれを選んでも結局強い。……いや、結界解いた時に、何かあるかも? って少しくらい考えろよ馬鹿」

「ぐげぇぇぇぇぇ!!!!??」

 

 

グランディウスを粉砕、そして勢いはとどまる事なくそのままカイトの腹を穿った。

振りぬいたら身体を貫通させてしまうので、寸止めをしようとしたが。

 

 

「あ、寸止めくらいじゃ意味ないか。衝撃で……」

 

 

放った拳の衝撃がカイトの体中を巡り、骨と言う骨を砕いて粉砕してしまったのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。