職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件 作:やっくんYU
奈落にて暫くの間平和に過ごしていた事から忘れがちになってしまう事がある。
それはハクと言う人物像についてだ。
人柄が極めて良く正しくまさに勇者———より、そこまで目立つ事をしない。極力しない様にしているので、あまり勇者っぽくない。……なら善者、と言う称号のそれが良いかもしれない。
つまり、
メイド妖精らを始めとして、いつも奈落が陽気な声で包まれていたのも、ライトだけではなくハクの存在もあったからだろう。
正直、そこにライトを比べるとかは恐らく、否、絶対あり得ない事だが、ライトは普段から事務的な仕事に忙殺される事もあって、中々お目通しが叶わないから、そう言う時はハクで代用(失礼)と言った感覚だろうか。
そう言う背景もあって忘れがちになっていたのだが————やはり、杞憂だったとゴールドは笑う。
「わははは! あの心地良く穏やかな心に加え、この黄金精神をも震わす程の殺気。穏やかな気勢と底知れぬ殺気。それらは相反するものだと思っていたが、複合する事でまるで爆発的なナニカを発揮しているとしか思えぬな。―――改めて頼もしい限りだと吾輩は思う」
ギルドにて、とある事を確認した後にゴールドは笑ったのだ。
因みにギルドでの確認———それは今現在大盛り上がりを魅せている事と同じである。
「ハクレンさんが例の大型モンスターを打倒したらしいぞ!」
「しかもレベル1200越えのブラッディ・バイパーだって!!」
「え? マジ?? それってソロで討伐可能なのって白の騎士団くらいじゃね??」
「い、いやいや、そもそもあの森の中ってレベル1000のバケモノが居るって事の方がヤバくない!? そんな所にどうやって潜れと!!?」
「………やべぇな。いやでも良かった。そんなバケモノが跋扈している森に入ってたら今頃……。欲に目が眩んで死んじまったら元も子も無ぇ」
「……予定通りの策で、森の調査にオレ達はいくか」
「だな。賛成だ」
ギルド内では今朝から大盛り上がりだ。それが収まる気配は一向に見せない。
その中心部では、大型のモンスターの死体が横たわっている。スペースの問題~と言うより広く周知する為に敢えて置いていると言った感じだ。このレベルの凶悪なモンスターが蔓延っている可能性が高い、と言う話と、何より分相応の力で挑むべきではない、と言う注意喚起も兼ね備えていると言えるだろう。
ギルドとしても無駄死には避けたい。人材はギルドにとって宝であり、その姿勢は一応表向きで裏側は違うのかもしれないが、
ドワーフ王国のギルドでは、
「だね。元々のハクさん……ハクレンさんのこの国での人気を鑑みたら、これだけの武勲を挙げれば当然の現象だって頭では理解できるけど、——それでも僕達にとってはやっぱり想定以上かな? エルフ種の国でここまで早くに溶け込めるとは思ってなかったから」
「自分もそう思います。ハクレン殿の手引きにより、益々ダーク様の名も売れて、より迅速に目的達成出来そうですね」
ライトはゴールドに対してそう告げ、それなりに嫉妬の目を向けていたネムムも特に否定する事なく言っていた。
あのブラッディ・バイパー。奈落から連れてきたモンスターの1体。
つまりアオユキがテイムしているモンスターの1体だ。
正直、幾ら作戦の一部とはいえ、奈落の仲間? でもあるテイム・モンスターを手にかけるのは————と抵抗があったハクだったが、アオユキは何も問題ない、とした。本当に捕まえたばかりの野生のまんまな種を選んできたとの事。
ある程度ハクの性格を読んでいたからこそ、である。
そして地上世界ではあのフォーサイス・マンティス レベル500でさえも、大騒ぎの事態になる。如何に平均レベルの高いエルフ種の国のギルドとはいえ、エルフ種の上限は基本1000。
1200のモンスターなど出現したらギルド総出での大討伐作戦になってくる。
ブラッディ・バイパーは名の轟くネームドモンスターとされているのも拍車がかかると言うものだろう。
そんなバケモノをたった1人で、ソロ討伐したともなればもうお祭り騒ぎ。
国の人気者が討伐したともなれば更に相乗効果。
ライト達、黒の道化師のパーティーをこの国でも周知させるのに一番なのは影響力のある者とレイドを組む事。いや、元々ハクレンはソロ活動で占い師兼冒険者をやっているので、この場合臨時パーティー、という言い方の方が正しいかもしれない。
「ダーク殿!」
「ハクレンさん!」
そして―――ハクレンの方から好意的に、親しみやすそうに、ライト達に接する様な事になれば、一同驚愕する事間違いなし。
次のやり取りは間違いなく更に倍増しで場が騒然とするだろう。
「今日からよろしくお願いしますね。共に巨塔の謎を追いましょう!」
「はい! こちらの方こそよろしくお願いします! 沢山勉強をさせてください!」
ライトとハクのやり取り。それを聞いた周囲の反応は想像していた通り、いや想像以上、想定を超える。
ギルド内が爆発でもしたのか? と思えるくらいに驚き騒ぎ始めたから。
【あのハクレンさんがなんで
【……オレ、あいつの話聞いた。今話題の黒の道化師、とかいうパーティーだ】
【詠唱破棄のサンダーアローに加えて、
【ハクレンさんはそれを知ってたのか? いや、あの感じは……顔馴染み、なのか?】
【うそだ!! うそだ!! なんでハクレン様があんな
何せハクレンがソロの冒険者である事は最早周知の事実。
これまで幾度も勧誘があったのだが、その全てを断ってきている。
本業? にしている占いの方にかなりのウエイトを占めていた~と言う言い訳があったり、断ったお詫びに~と言う名目で無料で占いをしてあげたりすることで、自身へのヘイトを華麗に避けていて、特に問題は無かったのだが……ここへきてまさかの
ただ、ハクレンの支持は占い活動が本当に国民性に刺さったとでもいうのか、最早市井の間ではゆるぎないものとなっており、更に今回の実績を見せた事でその実力は天井を突き抜けていると言う存在になってしまった。故に強引に
恐らく、ハクレンに迫る戦力はもうエルフ女王国最高戦力である白の騎士団だけしかいないだろう、と言う結論にも至った事だろう。
ここまで強大になれば、王国内部も黙ってはいない。接触を図ってくるに違いないが、ハク自身はここまでとしている。王宮入りを辞退する方向性は元々決まっているとの事。
あんな環境に身をやつしていたら、またライトの邪魔をしてしまうかも? と言う気遣いなんて恐らくは1日で塵箱にぶん投げてしまうだろう、と自覚しているからだ。青筋をいくつも作ってるハクの姿を見たら、きっとライトも笑って問題ない、と言いそうだ。……エリー辺りは物凄く抗議してくるだろうが。
それはそれとして、現在の事。
ハクレンがダーク達
だから、今後少なくともエルフ女王国内での活動はスムーズに行える筈……
————と、思っていたんだけれど……、馬鹿は死ななきゃ直らない、とはよく言ったモノで。
「チッ。あのゴミ共め」
先ずはネムムが声を上げた。
それはハクレンの視界の外。ハクレンの背後から睨んでいる男たち2人が明らかに敵意を剥き出しにしてきているのだ。
嗜虐心と色欲が混ざった様な視線はよりネムムを苛立たせる。
「
そして呆れる様にため息を吐くハク。
あの2人に対してもそれなりに対応をしてきたし、何なら占いと称してちょっとした運気操作の力で良い想いもさせている2人でもあった。正直気分が良いモノではないが、ある程度の信頼を得る身分となった方が後々都合が良いから、と我慢をしていた、と言う方面もある。
そして恩———とまではいかないが、ある程度~と言うのはかなり謙遜していて、信頼は持っているものと思っていたのだが、ああもあからさまな態度を、その気配を微塵も隠す気が無い、と言う所を鑑みても、やはりエルフ種と言うモノは基本プライドが無駄に高い。特に
いや、きっとこれはエルフ種に限った話じゃないだろう。
あの手の者は何処にでも居る。それが相手が
「認識が甘くてすみません、ダークさん」
「いえいえ。これはハクレンさんが謝る事ではありませんよ。大した問題でもありませんので」
「なら良かった。………それと取り合えず、ネムムさんには申し訳ないのですが……、替わりに一発殴らせてもらっても良いですか?? 勿論、森の中で」
ニコニコ、と笑いながら拳を握りしめるハクの姿にライトは思わず苦笑いをする。
先日の宴の席で、結構我慢していた事を打ち明けられている。ライト自身、悪い~とまでは流石に思わないし、勝手に我慢しているだけなので、そうは思わないで貰いたい! とハクからも言われているし、でそこまで気にはしていなかったのだが、やっぱりハクの事が、その好感度が天井を突抜けると言うモノだ、と改めて認識する。
―――が、当然怒る時は怒るし、ムカつく時だってある。キレる時だってある。普通の人? なのだ。
奈落ではそう言った姿勢は一切見せなかった。
でもそれは単純に奈落では居心地が良い場所であり、不和が起こる訳もない場所だと言う事。ただ……ライトの為にとちょっぴり暴走しちゃう
それにしても強大な力を持てば、力に酔いしれる危険性を孕むものである、と言う話を聞いた事があるが、そう言う訳でもないらしい。個としての強さには限度がある、と言うのが通説だが、あまりにも応用が効き、あまりにも汎用性に優れる強い力はまさに個の極致。
本人は認めず謙遜している姿勢を貫いているが、まさに能ある鷹は爪を隠す、と思えてならないのである。
ただただ我慢していた分、原型留めない位に叩きのめしたい、と殺気を纏わせているのも寧ろ親近感が沸くと言うモノだ。
「森の中……そうですね、人気の無い所で良ければ。騒動になれば動きにくくなりそうなので」
「あははっ。それはそうですよね」
ライトは苦笑いをしつつも、本心では物凄く嬉しかったりもする。
勿論親近感がある~や、
あの程度の有象無象、幾らでも処理できるし、片手間な作業と言わんばかりでそこに殆どの感情が介入する事は無いとも言えるのだが(ライト以外は別)……、それに対して自分の事の様に怒ってくれるのは嬉しいのだ。
「と言う訳でネムム。それでも良いかな?」
「ダーク様の御命令と在らば問題ありません!」
ネムム自身の感情としては、ライトの命令があるならば即座に首を刎ねると殺意を内包させているが、その行動を縛っているのもライトの存在。主にとって不利益になる様な事はする訳がないし、考えてすらない。
この身、魂に至るまでがライトの所有物なのだから。
———が、やはりそれでも心揺さぶってくる相手がいるのがどうも落ち着かない。
無論、ハクの存在がそれだ。
ライトが顕現した存在以外に、ここまで心を許す者が出てくるなど想像だにしてなかった、と言う事もある。
「ネムムさん、ありがとうございます。……正直、あいつらに腹立って仕方が無かったので………。以前にも、色々とありましたし」
「いえ。自分は大丈夫ですよハク殿」
ある意味夢中になってしまってるメイドたちの気持ちが解りそうになってるのも……何処か複雑だ。アレほどまでに嫉妬の念を向けていたのだから、その気持ちは必然とも言えるだろう。
「うむ? ハク殿はあの2人組と面識があるのか?」
「……ああ、ええ。ありますよ? ほんのちょっとですが。この国で馴染ませる為にも
笑顔だが笑ってないのがよく解る目で、ハクは語った。
占いで気を良くした2人が、ハクに……ハクレンに対して色々と誘った事があった。
それのどれもが
外に出ても大体の種族が同じ様な対応。ただそんな中でもギルド内だけは空気が違った。冒険者になって良かった、と心底思ったものだ。
「ではお誂え向き、と言うヤツだな。あの気配と態度、ハク殿が、ハクレン殿としてここにあったとしても、一切変わらぬ。故に、吾輩たちを森で襲う可能性が極めて高いな」
「ですね。当初の予定通り、一旦別れた後に森の中で殺意を向けたのを確認した後————こう、こつんっ! と一発
「こつん、と、
ゴールドも思わず苦笑いする。
随分と可愛らしい擬音を使っている様だが、どう考えても《こつん》じゃ済まないだろう。
何なら、あの時のカイトを襤褸雑巾の様に吹き飛ばした時以上の轟音が轟きそうな気がしてならないのだった。