職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件   作:やっくんYU

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小戦争

 

 

 

「ハクさんのせいじゃない~と言うより、僕たちが原因で合流地点付近にあんな変なのを連れてきちゃったのが最大の原因でもあるしさ? だからハクさんもそれ以上は気に病まないでもらえると」

 

 

奈落の皆と合流出来たのは喜ばしい事、ジャックが言うようにハク自身も顔にその感情が出てしまったんだろう。

でも、それとこれとは話が別。

 

あのエルフの2人は、やろうと思えばハクの力ならば瞬殺してさっさと先へ~~と出来た筈なのに、これまで虐げられ、苦しめられ続けてきた人種(ヒューマン)の痛みをその身に、その魂に刻み付ける、と変なスイッチが入ってしまって、半ば拷問。死なない様な拷問をしてしまった事で時間がかかってしまったのは事実。

笑顔なままだけど、まだ少し引き摺っているハクを見て、ライトがそう提言したのである。

 

 

「うむ。それを言うならネムムがあ奴らを誘惑しなければこうはならなかった、とも言えるな」

「んな!!」

 

 

そして、予想外からの強攻撃にネムムはびくんっ! と反応する。

 

 

「し、失敬な事を言うなゴールド!! いつ自分があいつらに誘惑した!!」

「わっはっはっは! それはそうであったな。その薄い胸板では早々出来るものじゃないか」

「こ、この!! 自分は普通だと何度言えば!!」

 

 

ゴールドとネムムのやり取りを背景に、ハクはまた笑顔になりつつ、ライトに『わかりました』と頭を小さく下げた。

 

でも何故だか、謝罪ラッシュになってしまうのは次のアイスヒートの言葉。

 

 

 

 

「いえ、ライト様、そしてハク殿も謝罪する必要はありません。滅相もありません。約束の合流地点はあくまで目安。周囲300mに人影が無いのはスズが確認済み。むしろ機転を利かせてもっと早くこちらが動くべきでした。心から謝罪を。……そしてハク殿も申し訳ございません」

 

 

その部分に対して、アイスヒートが謝るなんて思いもしなかった。

 

 

「そ、そんな。僕が時間をかけすぎちゃったのも原因の1つですし! ライトさんにも沢山いただいたので、もう大丈夫ですから」

「アイスヒートの真面目さは美点だけど、むしろ謝るのはリーダーとしての僕だから気にしないで。それよりエリーとアオユキ、ナズナが待つ『巨塔』まで案内頼むね?」

 

 

これ以上は堂々巡りになると言う事で、終わらせるためにもライトは指示を出した。

 

 

「はい、お任せください! では、スズ。先行を」

「ッ!」

 

 

ライトが指示を出した以上、それ以外の事で時間をかけるのはそれこそ不敬に値するので、アイスヒートは何も言わず、そして雰囲気を察したゴールドやネムムも、喧嘩は止めて先へと進む事に切り替えた。

 

スズもこくりと何度か頭を上下に揺らした。

 

その態度に生真面目なアイスヒートの表情が僅かに歪む。

真面目で規律を重んじる彼女的には、スズの黙ったままの態度が許せなかったようだ。

慌ててスズの手にする長い槍のような『マスケット銃』と呼ばれる武器がフォローする。金属部分がカタカタと揺れた。まるでその動きが口の動きを表現しているかのように。

 

 

『スマネェ、らいと様、はくの旦那、アイスヒート姉サン、相方ハ極度ノ恥ズカシガリ屋ダカラナ』

「僕は大丈夫ですよ。スズさんの事は短い期間でしたが、よく知ってるつもりですし。自然体で、が一番です」

「ふふっ。じゃあ、僕もハクさんに倣って同じく。全く気にしてないって言うのも事実だからね。それよりエリーたちを待たせるのも可哀想だから移動しようか」

「はい! こちらです、ご主人様!」

 

 

僅かな時間だったかもしれないが、このメンバーは奈落の中ではハクとの絡みが多いと呼べる分類だ。だからこそ、スズの性質も解っているつもりだし、アイスヒートの事だってわかっているつもりだ。

 

 

「ケケケ。エリー様との再会も、一番楽しみにしているんじゃないか? ハクは」

「ぅ……、や、やーー、皆との再会も嬉しいんだよ?? そんな順番をつける様な事は僕、しないし」

 

 

巨塔へと歩き出す道中に、メラがニヤニヤと笑いながらハクにそう聴くと、ハクは一瞬狼狽えた。

付き合いの長さ、を先ほど称したが……短い間での付き合いの長さそのものに順位をつけるとしたら、間違いなくエリーが頭一つ抜けてくるのは事実。

 

そして、エリ―との絡みは最早奈落内では一種の名物になってしまっているので、メラはこれ見よがしに揶揄ってきたのである。

 

 

「ハクさん。エリーの事は僕の方からも言わなくて本当に大丈夫です?」

「あーあーあー!! ぜーーんぜん、大丈夫ですからね! ライトさん! ですから、寧ろライトさんの口から、エリ―さんに何か叱責する様な類は今後とも止めていただけるほうが本当に助かります!」

 

 

ハク自身、エリ―からは結構な目に合わされているのは否定しない。

強引に連れていくのは日常茶飯事だし、捕縛魔術も用いてくることだってしばしば。散々な扱い方をされている、と傍から見れば思う筈なのだが……ハクを見て見ると、確かに不満等を口にする様子は一切ない。

 

 

『そんな様子ジャア、はくの旦那。色ンナ()を疑ワレたとしても、仕方ナイんじゃ、無イか?』

 

 

カタカタカタ、と揺れるロック。スズもロックの言葉を聞いて少し頬を赤らめていた。

 

その言葉に対して、ハクは「うっ」と言葉に詰まる。

 

以前言われた、皆に広く流布されてしまった変な噂の事を思い返してしまったからだ。

 

 

「あのぉ……、そこだけは絶対的に否定しますので。良いです? ロックさん。必要に応じて、ライトさんに頼んででも、否定しますので、ご了承ください」

『アーーアーーー、スマネェ! 了解シタ』

 

 

ドM。

痛めつけられて喜ぶ趣味は一切ない。

 

でも、中々に説明するのも難しいし、厄介なのだ。

 

 

 

本当にエリーの姿が――――あの世界の彼女と似ている。

被って見えてしまうのだからハクにとっては仕方がない。

 

 

 

負けず嫌いな所や強引な物言い、その他余す所なく、どうしても被って見えてしまう。だからこそ、エリ―限定で本当に大丈夫なのだ。

 

 

「まぁ、ハクも男だ。受けるより攻める方が性に合ってる、って事だろうな」

「や、ジャックお兄さん、そういう話って訳でもないですから!」

 

 

MやSの話は兎に角もう辞めたいです! とハクはずんずんと前に進んでいった。

 

 

 

 

 

丁度、スズの隣に位置する所まで歩くと、速度を合わせて歩き、またロック(スズ?)と何か楽しそうに話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「スズもそうだけど、ロックともああも楽しそうに話をするのって、僕が知る限り、ハクさんが一番かもしれないね」

「ええ。ご主人様の言う通りです。流石は、ご主人様がお認めになられた御仁と見受けます」

 

 

アイスヒートの答えを聞いて、ライトの穏やかな声が響く。

決してまるで咎めるでもなく、叱責するでもなく——ただ、当然のようにアイスヒートの言を訂正する。

 

「僕が認めた~って言うと語弊があるかな? ハクさんは僕の恩人で……僕の友達だ。友達に認めるも何もないでしょ?」

「ッ! し、失礼しました!!」

 

 

その一言は、決して鋭利ではなかった。

けれど、アイスヒートの胸には、雷鳴のように響き渡った。主の威光に触れることを恐れ、何より敬愛し、信愛し、唯一無二故に、アイスヒートは常に言葉を選んできた。

礼を欠けば即、斬首。とも言える程に自身を戒めてきた。

 

だからこそ、この失言は自分自身が許せない、と激しく頬が火照る。それは叱責の熱ではない。己が放った浅い一言が、主の言葉に正された恥の熱だ。

何よりも忠を誇りとしてきた舌が、たった一度の油断で主の顔を曇らせてしまったのだ。

 

 

「勿論、アイスヒートの忠義は立派だし、僕はいつも感謝しているよ? だからこそ、ハクさんの事も僕に免じてどうか自然体で接してほしいんだ」

 

 

ライトのその微笑みは、氷のように張り詰めた心を一瞬で溶かす。氷と炎を操るアイスヒートをして、ここまでのモノを知らない。

 

そう、天にも昇るとは、まさにこのことだ――と思ってしまった時点で、既に彼の中で均衡は崩れていた。

その甘美が、同時に己を責め立てる鎖となる。

 

 

「はッ!! このアイスヒート、ハク殿を崇拝し、ご主人様に認めてもらえるよう努めます!!」

「えーっと……、ハクさんはそー言うのキツイと思うからさ? もっと柔らかく、マイルドに……ね?」

「ケケケケケ。アイスヒートは堅いし、硬い。堅牢なのは身体だけの方が良いってもんだよ」

 

 

隣で聞いていたメラに笑われたアイスヒートは直ぐに我に返った。

そんなアイスヒートにライトは再び告げる。

 

 

「接し方で言えば、メラの様な感じが良いんじゃないかな?」

「ぅ……は、はい……」

「ケケケケケ♪」

 

 

規律を重んじる真面目なアイスヒートと不真面目さが全面に出ていてマイペースなメラ。

真逆な性格をしていると言うのに、それでいて相手を師事する様な事は流石のライトの一言でも頷くのに少し手間取ってしまった様だ。

そんなアイスヒートを見て、メラはただただ笑うだけである。まるで、面白い玩具を目にしたように。

 

 

 

 

 

 

『スマネェな、はくの旦那。相方は、イツモこんな感ジ、口下手で』

「いえいえ。むしろ、ロックさんのほうがずっと饒舌で驚いてますよ。話をしていると楽しいですし」

 

 

渦中の1人でもあるハクはと言うと、ライトの言う通りロックと楽しそうに話をしていて、こちら側に気付く様子はなかった。

最初こそは、ハクはあのネタ(・・・・)から逃げる様に先頭に出てきただけだったりするが、もうあの話題、SやらMやらの話題は忘れたかの様に楽しそうに話をしている。

 

 

「スズさんの銃、と言うかロックさんのマスケット銃ってこちらじゃ珍しいですよね? 少なくとも、今まででは見た事ありませんでしたし」

『ホォ、旦那。ソノ呼ビ名、知ッテンダナ? 前ノ場所カ何カデ、扱ッタコトガ?』

「あはは、僕はそっち方面は苦手でして、扱いはしなかったですね。ガンナーは他の皆に任せてた、って感じです」

『ガンナー……。ヘェ、やっぱはくの旦那は、只者ジャネェナ』

「うん? どういうことです??」

 

 

会話の端々で、ハクやロックだけでなく、スズも時折相槌を打っているので、2人だけが楽しそうにして、スズだけが除け者~と言う訳ではなさそうだ。スズも楽しそうにしているからこそ、ロックの会話も弾むのだろう。

 

 

ただ、ハクの博識な所には、楽しそう以上に驚き、が勝っているとも言えるかもしれない。

少なくとも、マスケット銃、ガンナーの単語を知る時点で、それは驚きのポイントだから。

 

 

 

 

 

 

雰囲気は良く、このまま巨塔まで一直線―――と、言いたかった所だが……ここで小競り合い? が起きてしまう。いや、小戦争か。

 

 

 

 

 

 

 

切っ掛けはゴールドとジャックの会話から。

 

 

「まさかジャックの兄貴まで足を運んでくださるとは。吾輩も久しぶりに兄貴に敢えて嬉しいですぞ」

「エリー様の提案もあるが、先ほどハクにも言った通り。弟分たちが頑張っているのに、兄貴分の俺様だけが引っ込んで良い訳がないだろ?」

 

 

ここまでは穏やかな麗しき兄弟の会話と言えるのだが……ここからだ。一気に空気が凍ったのは。

 

 

「ゴールド。ライト(・・・)の事はしっかりと守ってやれているか? 優秀なヒーラーであるハクに頼り切ってねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ピシッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

空気が張り裂けんばかりに重くなる。

アイスヒート、メラ、スズ、ネムム――四人の眼光は凍てつく氷のようにジャックを射抜いた。今し方、ハクと楽しそうに話? をしていたスズもこの時ばかりは、ロックを握りしめると同時に殺意を漲らせている。

 

殺気は言葉を伴わずとも伝わる。四人の気配が合わさり、まるで一つの生き物のように周囲を支配している。

 

ジャックは眉をひそめ、口元に薄い笑みを浮かべた。

 

 

「おいおい、スゲェ殺気だな。仲間に向けて良い殺気じゃないぞ」

 

 

言葉は穏やかだが、胸の奥底で何かがざわつく。それは、四人の殺意を真正面から受け止める勇気の表れでもあった。

ジャックは続ける。

 

 

「俺様だって公私は分けているさ。今は身内だけ、飾る必要はないだろ? それにライトも俺様に情事畏まる事なんて望んじゃいねぇよ」

 

 

――挑発か、自己弁護か。空気の凍結は和らぐどころか、むしろジャックの言葉によって鋭利さを増していく。

寧ろ、同等の実力者による多勢に無勢状態だと言うのに、一歩も引かない胆力。そこにはジャックの信念が醸し出されていた様だ。

 

 

「逆にお前たちこそ、『自分たちの主らしく振舞って欲しい』とか一方的な願望を押し付けてライトを孤独にするつもりか?」

 

 

その言葉が空気を震わせる。表面的には仲間に囲まれ、誰一人として孤独ではないはずのライト。しかしジャックの指摘は、仲間たちの過剰な忠義が逆にライトの自由を縛り、心の隙間を塞いでしまう現実を浮き彫りにした。

それこそがジャックの信念―――なのかもしれない。

 

いや、元々ただの悪癖が全面に出ただけじゃ……と、ライトは苦笑いをしていたりするのは別の話。ジャックは、気に入った者を弟分、妹分扱いする癖がある。実際に非常に頼りになり、且つ面倒見も良いので、ジャックを慕う者は多く、ライトもそれを許容し、自分もジャック兄と呼んでいるので、問題視はしていない。それはハクも同様だ。

 

 

「それにアイスヒート。ハクに対して下に視た様な発言。幾らお前が妹分と言えども、俺様の気にも障ったぞ。折角出来たライトの地上の友。それがハクだ。それを見下す姿勢。これを続けるなら俺様も兄貴分として到底見過ごせねぇな」

 

 

ジャックの声は冷たく、しかし震えるほどの熱を帯びて響く。周囲の空気が一瞬にして硬直し、微かな緊張が肌に触れるように伝わった。

 

だが、だからと言って、はいわかりました。とならないのが他の面々。

唯一無二で絶対なのはライト。それは決して揺るぎないモノなのだ。不敬を働いた事実は消える事は無いのだ、と言わんばかりに4人の殺気が渦巻いていく。そしてジャックもそれに呼応する様に殺気に加えて拳をゴキリっ、と鳴らす。まさに臨戦態勢。

 

 

「ちょっと皆。僕はジャック兄の言動を許容しているからそんなに目くじらてたなくて良いよ―――ん??」

 

 

仲裁をしようとライトがそう言ったその時だった。

気付かなかった。いつの間にだろうか?

 

 

 

 

 

「ふぅ……、皆の殺気、凄すぎるから慌てて広げたけど―――何とかなったかな??」

 

 

 

 

領域拡張(フォースフィールド)

 

 

 

 

嘗て、あのダガスのダンジョンで感じられた目に見えない壁がライトが知覚するよりも早くに、周囲に広がり、場を覆っていたのである。

 

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