職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件   作:やっくんYU

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お説教タイム

 

 

場面は白の巨塔。

 

エルフ女王国に突如として現れた白き塔は、不気味と言うより神秘的と言えるだろう。

神々しいとさえ思わされるものだった。

 

実にシンプルな形をしているが、それが白をより強調する事へと繋がり、天に届く高さはこの世の全てを見下ろしているとさえ思える。

 

昼も夜も関係なく淡い魔力の光に包まれ、絶えず静謐を湛えていた。荘厳でありながら、仮に高レベル帯のモンスターがいなくとも、どこか人を寄せつけぬ冷厳さも途轍もない。

 

その場所へ、お膳立てしライトの為に全てを用意した舞台に立つ3人。

 

 

 

――エリー、アオユキ、ナズナ――

 

 

 

奈落が誇る最高戦力。フォーナインの3人。

レベル9999の存在は、まさしくこの巨塔をより“絶対”だと象徴つけるものだろう。

神たる主を迎える場だ。それも当然のこと。

 

 

そして今日、全てが動き始める。

それを今か今かと待ち構えていたその時だった。

 

 

 

不意に空気が震えた。

 

 

「「!!」」

「お??」

 

 

 

そう、何かが遠くで解き放たれた。

目に見える波ではない。音でもない。ただ確かに世界そのものが揺らぎ、目に見えぬ圧が迫り寄せてきたのだ。

 

 

エリーは瞬時に顔を上げ、真紅の瞳を細める。

魔女と呼ばれる彼女にとって、その放たれた波動は看破できるものではなかったからだ。この場へ到達するまで気づけなかった自分自身が許せない、と思うと同時に。

 

 

「これはーーーいったい?」

 

 

ありとあらゆる魔を極め、全てを知る禁忌の魔女の何おいて、未知は何よりの冒涜だった。

 

 

――何だこれは?

 

 

知らない。知識の底にも存在しない。

それはまるで、大海原の底から立ち上る潮流のように、静かに、しかし抗えぬ力で空間を覆い尽くしていた。

 

 

 

「……………」

 

 

 

そして、エリーの隣で控えているアオユキは無言のまま、腰に手を添えた。軽く空気を嗅いでみる。手を翳してみる。その繰り返し。エリーがわからない事をアオユキがわかるわけがない。そもそも分野が違うのだから。でも、それでも感じられる事はある。

 

 

 

 

殺意や敵意の類は……無い。ということ。

 

 

 

 

だが同時に、だからと言って放置してよし、と片づけられるほど軽いものではなかった。

生き物の呼吸にすら影響を与えるような濃度を持ち、膨大な魔力(仮)の奔流が森を護るかのように広がっていきたからだ。

テイマーとして、モンスターたちを操り、そしてモンスターたちの感情を、感覚を共有させる。

 

すると――驚くことに、眼下の配下であるモンスターたちは皆落ち着いているようなのだ。あれだけのものを一身に浴びながら。

 

モンスターは人間よりも、感覚が鋭敏。それが得体のしれず、強者?のものであれば尚更。でも、彼らは等しく落ち着いており、アオユキの命令に対しても問題なく聞くと周囲を警戒しつつ歩き始めた。

 

 

「………にゃー」

 

 

ひょっとしてこれはーーーと、予想し始めたが、まだ結論を出すのは早い、とアオユキは目を細めた。

 

 

「なんだなんだー? 今の! 変な感じがした〜〜〜わけでもないか??」

 

 

ナズナは、木の棒を剣に見立てて、ブンブンと素振りをしながら遊んでいた手を止めて、周囲をキョロキョロと見渡していた。

彼女は元々幼く、更に大雑把な性格をしているが、事戦闘などへの勘に関しては異様に鋭い。

それが敵意の在るものであるなら、尚更即座に臨戦態勢及び迎撃の姿勢になる。

 

 

 

「んん? なんか、あったかいなー」

 

 

 

キョロキョロと見渡し、何もいない。周りに敵が来てない事は把握できたと同時に、この力の根源に宿る「優しさ」を感じ取ることができた。

 

 

 

――まるで、誰かが世界そのものを包み込もうとしている。

 

 

 

直感ではあるが、ナズナは、それを『あたたかい』と表現した。つまり、脅威の類は一切ない、と。

むしろ庇護に近いのだ、と。

 

 

 

 

 

人知を超えた力に悪意がないからこそ、それを扱う者の本質が問われる。放たれた波動の、その魔の残留を追い、解析を急ぐエリー

 

 

 

「……これは」

 

 

 

エリーの喉が僅かに震え、そして声が漏れた。

 

調べてもわからない。知らない。その事実がエリーを揺さぶる、遥か遠くから広がってきている。

広がりきったこの領域は、巨塔周囲を綺麗に包みこんでいるのがわかった。まるで、何かを外へ出さない様に包みこんでいる。その力の性質はまだはっきりしてない。故に解析が急がれる、と魔術を、展開し続ける。

 

 

 

調べ、調べ、調べ――持てる知識の全てを使って解析を続ける。

 

 

 

己の世界を展開し、外界を干渉から隔離する。

そんな理想郷にも似た構造を、自然に、当然のように、誰かが形作っている。

 

 

そして、調べれば調べるほどに………何も知らない、と言うのは誤りである、と言う結論に至った。

何故なら、この感覚には覚えがあったからだ。

 

 

「……にゃー」

 

 

アオユキは、のどを鳴らす。

彼女もどうやら自分と同じ結論を既にしているのだろう、とエリーは小さな笑みを浮かべた。やがて、苦笑に変わる。悔しさと焦燥と、そして……ほんの僅かな畏敬。

 

 

彼女は知っている。ライトの傍らに、異質な男がいることを。

この巨塔を象徴している白を、そのものを纏う男がいること。

 

事前の計画にはまだ入ってなかったはず。

※ライトが、現地で説明すれば良いか、と思ってたため。

 

どこまでもどこまでも………あの人は。

 

 

「………はぁ。まったく、ですわ。聞かなければならない事が増えたではありませんか。……勿論、全てを終えた後に」

「にゃー」

 

 

 

胸に鋭いざわめきが走る。

確信に近いものがある。確定とは言えないが、それでも間違いない、と直感は告げている。これは、あの男の力なのだと。

 

 

アオユキは瞼を閉じ、深呼吸した。ほんの一瞬心を揺らがせた。

 

 

――優しい。

 

 

あまりに優しすぎる。護るために張られた結界。

その根源には、一切の敵意も、驕りも、支配欲すらも無い。ただ、ひたすらに「守りたい」という意志だけがあった様に感じた。アオユキのテイムも言わば『理解すること』から始まる。故に、エリーの様な解析は出来ないが、その本質は理解する事が出来た。

 

 

 

「むー、なんか楽しみになってきたぞ!」

 

 

下のナズナも再び木の棒を、ブンブンと振り始めていた。心なしか、振る速度や強さが増した様子。

バキッと、直ぐに駄目になっては、新たな木の棒を得るために、木の枝を拝借している。

 

 

この場の誰もが感じていた。

 

 

これは危険ではない。

安易に放置できるものでもないのが正しいだろう。警戒はする。でも大丈夫なのだと、論理的ではない思考になり、彼女たちは主の―――主たちの到着を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハクは静かに呼吸を整え、全員を見渡した。

 

それはまだ先のはずの巨塔へまで、力を顕現した直ぐ後のこと。

 

 

目に宿る光は柔らかく、それでいて揺るぎない厳格さを帯びていた。

 

 

「良いですか? 皆さん、今のは本当に危なかったですよ? 今回、もしも皆さんの力をそのまま地上で発揮していたなら、周囲の森の生態系にどれほどの影響を及ぼしたか、想像できますか? この辺りのモンスターの平均レベルは約100程。そこに皆さんの威圧が轟いてしまっては―――」

 

 

それは、ハクにしては非常に珍しい光景だ。初めて見た、と言っても良いだろう。

ハクのお説教の時間である。

 

でも、見たことない、というのはまさに当然。

 

奈落にいた時に、粗相をするなんて、説教をされるようなことなんてほぼなく、合ったとしてもそれは普段のおちゃらけ、と言うか、ハク自身を弄って楽しんでる場面に尽きるから。

※主にエリー関係で。

 

 

でも、今回のハクは大真面目。

 

アイスヒート、メラ、スズ、ネムム、そしてジャック――普段は強大な力を自在に操る者たちも、ハクの眼差しの前では思わず身を縮めて、正座していた。

特にジャックは、弟分として慕うハクに向かって、口元に苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

「……まさか弟分にこうも的確に説教されるとはな。正論過ぎてぐうの音もでねーとはこの事か」

 

 

軽口を混ぜたが、声には自嘲も含まれていた。

 

 

「はい。そうですね? ジャックお兄さん。今回の行動がどれほど周囲に影響を与えかねなかったか………」

 

 

ハクの口調は柔らかく、しかし真剣だ。決して叱責を楽しんでいるわけではなく、教師が生徒に教え諭すような、慈愛に満ちた厳しさである。

 

ハクの肩には、森に住んでいるであろう小さな2匹のリスが固まっていた。安堵しているようにも見える。そこが安全地帯なのだと、野生の勘は告げているように見えた。

 

 

なんてことはない。ハクが護ったのは、小さな命。動物たちも含まれるということだ。

 

 

「――もちろんだ。反論の余地も無えよ。兄貴分として、情けない限りだ」

 

 

ジャックは素直に頭を下げた。弟分扱いを受け入れつつも、ハクの言葉には重みがあり、軽口ではどうにもならない。今回の結界があったからこそ、周囲への被害は皆無。安全が保障された今、素直に受け止めるしかないのだ。

 

他の四人も同様に、胸に手を当て、反省の色を浮かべる。

 

 

「このアイスヒート……心より猛省致します。申し訳ありませんでした、ハク殿……」

「ケケケ。これはアタシらが悪い。ジャックじゃねーけど、マジでぐうの音も出ない。素直にゴメンナサイ………だ」

 

ハクの優しさと冷静な指摘の前では、態度を正さざるを得なかった。いつも、ハクをどちらかと言うと誂う側のメラもしっかりと頭を下げている。アイスヒートは、目を伏せながらも強い謝罪の意を感じさせていた。

 

 

 

今回の件に関しては、すぐ後ろに控えている主ライトの説教、いや戒め、裁定、断罪、と同質とも言えるのだ。

 

 

 

何故なら。ハクのお説教は、ライトも認めていて、これが始まる前に、ライトとハクはこんなやりとりをしていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ…………。むー』

『ハクさん。周囲への結界をありがとう………って、どうしました?』

『ライトさん。ごめんなさい。少し、少しだけ皆に小言、いわせてもらって良いですか? 抑えてなかったら、色々危なかったですよ』

 

 

ライトへハクは説明をした。

 

アイスヒート、メラ、スズ、ネムム、ジャック。

あの5人の本気の殺気は、その威圧は周囲に多大なる影響を及ぼしていたのだと。結界を張りながら感じたと。

 

もしも、何もしなければその結果が齎すのは、生態系にダメージを与えるだけに留まらず、この辺りのモンスターたちが一斉に逃げだして、街道や街まで逃げてしまうちょっとしたスタンピードが起きる可能性だってあったと。

 

 

正直、エルフ種族は最悪なので、ある程度の犠牲が出たとしても、天罰覿面!くらいに考えるのだが、彼ら以外の種族もいるし、何より奴隷扱いされている人種も巻き込まれる可能性が極めて高いのだ。

ライトにとってもそれは納得でしかなく、ハクの気持ちもわかるので、了承したのだ。

因みに、ライトから言おうか?と言われたが、ハクから言う事になった。ライトから言われる、叱られるよりは、自分からの方がまだ良い、と判断したからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……っっ…」

『アー、ハクの旦那。コンな時も、ウチの相方ハ声出セ無くテ、申し訳無エ。デモ、本人ハめちゃくちゃ反省シテル、とだけ、言わせてホシイ』

 

 

スズは、何とか声を絞り出そうとしたが、なかなか上手くいかず、その代わりにロックが謝罪をした。

 

因みにこんな時まで、自分で言わないのか!と、アイスヒートは思ったりしたが、同罪なので何も言えず、口を噤む。

 

 

「自分も、心より謝罪を申し上げますハク殿。………そして、護ってくれた事に深く感謝致します……」

 

 

ネムムは、この中ではライトとゴールド、そして自分だけが、ハクの結界のことを知っている。故に、ハクが何をしてくれたのかをよく理解する事ができていた。

 

だからこそ、主、ライトの為にとは言え周囲への影響を全く考慮せずに怒りのままに行動した事を恥じ、頭を下げ続けたのだ。

 

 

 

 

全員がしゅんとした空気に包まれた。

 

 

 

ライトは少し苦笑し、肩越しに様子をうかがった。普段ならこんな光景はありえない。ハクが結界で全ての影響を抑えてくれたからこそ、叱責の場面は安全で、かつ誰も傷つかない。だからこそ、この瞬間のハクの真剣さと優しさは、何よりも説得力を持つのであった。

 

 

少し顔を顰めていたハクだが、両手をぽんっ!と叩くと笑顔に戻る。

 

 

「はい、ぼくからの話は以上です! 皆さん、解ってくれたので、これ以上必要無いですからね」

 

 

ハクの声は穏やかだが、重みは確実に伝わる。森の木々や、見えぬ動物たちにさえ、配慮するような温かみが感じられる。結界の内側、ハクの圧力は柔らかくも力強く、守るべきものを守るためのものだと全員が理解した。

 

 

「ハクさん。皆を代表して、僕の方からも謝意と感謝を伝えさせてください」

「いえいえ。謝意は沢山皆さんから受けましたから。これ以上は」

 

 

ハクは、慣れない事はするものじゃない、と苦笑いをしていた。

でも、ライトは少し懐かしい感じもした、と同じく笑っていた。

 

ハクのお説教は、あの時の人種のパーティで見た以来だったから。

 

 

 

 

その後、再び巨塔へと向かい始めた。

今回の件を反省し、次は間違えない、と、それぞれの決意を聞きながら。

 

 

ライトは一難去ったかな? と笑う。ジャックと女性陣の一触即発なあの空気。悪くなってたあの時に比べたらだいぶ良い、と。

 

 

 

ただ、一難去ったらまた一難、と言うのが世の常、というもので。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ええええ!!??」

 

 

 

 

 

巨塔についた後。

驚愕の声が、その周囲へと響いたのだから。

 

 

 

 

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