職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件   作:やっくんYU

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遅くなりまひたぁ………ちょーたいへん、です(¯―¯٥)

ちょこちょこ、書いてたらめちゃくちゃながくなりましたが
何とかがんばりますーm(__)m


恋慕と憧憬、そして絶声

某日 ダガス・ダンジョン第1階層

 

 

 

開けたこの場所で珍しく少し湿った空気がそっと頬を撫でた。

そしてまるで何かに呼ばれたかの様にミヤは背後を振り返る。

 

そこにはいつも笑顔でいつも見守ってくれていた人が居た場所―――だったんだけれど、今は誰もいない。そのことがやっぱり寂しくて切なくて、自然と視界が滲み、歪んでしまう。……でもそれでも泣いたりはしない。

頑張らないとと思わせられて、ミヤの背を強く押してくれる。そんな存在なんだ。

 

でも、どうしても心がざわついてしまったら、こうする事に決めている。

 

 

「…………」

 

 

ミヤは、懐に忍ばせている大切な大切なお守り(・・・)を、薄く赤い光を仄かに輝かせ、僅かな温かみも含ませたその宝玉を握った。

まるで生きているかの様に、鼓動が聞こえる様な……気がする。

あの時、手を握られた時の事や、頭を撫でてくれた時の事。手を通じて感じる鼓動が、まるでその宝玉に宿っているかの様だ。

 

 

「………また、会いたいな」

 

 

誇れる自分になりたい。

そう思って頑張ろうと決めていたけれど、どうしても口から出てきてしまう。小さな小さな呟きは誰にも届く事はない。そして届けたくもない。

誇れる自分になるためにも、心配をかけてしまうような言動や所作をする訳にはいかないから。

 

彼は―――きっと今この瞬間も誰かを助けているに違いない。世界を見て回る過程で、数多の困っている人たちの力になっているに違いない。本当に偶然出会った私たちの様に。

 

 

「……ハク、さん」

 

 

身勝手な事かもしれない。ちゃんと我慢しなければ、と自戒もする。でも、それでも話をしたい。聞いてもらいたい事がある。まだまだ話せていない事がたくさんある。これまでも、そしてこれからも。

 

 

愛おしそうに懐にある宝玉を握り、そして撫でた。

その瞳はどこまでも遠く―――やや浮足立つ。

 

 

――そんなミヤに気付かない訳がないのが、他のパーティーメンバーである。

 

 

「ミヤちゃんってば、まーたハクさんの事考えてるっスよ。隠してるっぽいっスけど、あの通信石触ってるのモロバレっスね~」

「(こくこく)」

 

 

周囲の警戒をするのは当然の事。

索敵安全確認は切り込み隊長と任命されたギムラの仕事。誇れる仕事なのだ。だから周囲を警戒していたし、ミヤの事にも直ぐ気付いた。……勿論、ミヤが分かりやすすぎる、と言う理由もあるが。

ワーディはいつも通り極端に無口。でも、ジェスチャーを大きくすることで、喋らずとも、心情を周囲に表わしている、と言えるだろう。

つまり、ギムラとワーディは同意見である、と言うことだ。

 

 

無論、エリオも例外ではない。

と言うより、ミヤの兄だからそのくらいよーくわかるというもの。

 

 

「そろそろ一度くらいハクさんに連絡してみたらどうだ? ミヤ。兄ちゃん大賛成だし、もしもそれでハクさんに怒られちゃったとしても、一緒に謝ってやるからさ!」

 

 

エリオからの追撃により、3人の視線が一気にそろう。揃って皆頷きあって、そしてミヤの顔が、ぽっ! と小爆発する。

 

 

「ち、違うよ! そんなんじゃないから!! ほ、ほら! とっても大切で、こ、高価なものなんだし! もし落としちゃったら~~って思って、確認してるだけだから!」

 

 

慌ててる姿を見てしまえば説得力がない。元々説得力なんてものは端から無いけれど。

 

 

「やー、ミヤちゃんの場合、やっぱハクさんっスよね。ダークさんの方かも? とも思ったっスけど、種族的に」

「…………」

 

 

近頃、男性陣での議論の的になっているのが

 

【ミヤの想い人は誰になるのか?】

 

である。

ダガスに来るまでの間であるなら、間違いなくハク一択だと言えるだろう。

例え種族が違ったとしても、あの姿勢と信念、誰かを慈しみ、そして守る。種族など関係ない。と言う姿を見れば間違いなく。男でも惚れるというものだから。

 

でも、ダガスへやってきて少し風向きが変化した? と思ったのもまた事実だ。

 

同じ人種(ヒューマン)で底知れない強大な力を内包しているダークたち一行である。師と崇め、敬愛し、尊敬するのは皆同じで、ダークはミヤと歳も近そうだという事もあって、2人の間で揺れるのでは? と思わなかったといえば完全なる嘘だ。

ハクを助ける為に、助けを呼ぶ為に一番最初に出てきた名がダークだったことも鑑みたら。

 

 

「だ、ダークさんだって、魔術師として尊敬しているだけだよ! そんなんじゃないから!!」

「じゃ、ミヤちゃんの中じゃ、2人は同列って事っス??」

「え、や、う、いや! そ、そんなこと―――……、そんなこと、考えるだけで烏滸がましいって言うか……その……」

 

 

目が泳ぐのがわかる。

そして、ダークの名とハクの名を告げた事に対しての反応から見ても分かる。

やっぱり、ミヤの中でウエイトを大きく締めているのがハクだという事がわかる。

 

 

「……ミヤ」

「わぷっ!」

 

 

エリオがミヤの頭を撫でた。

 

 

「ハクさんだっていつでも連絡くれて良い、って言ったんだしさ? それにハクさん、ダークさん、ゴールドさん、ネムムさんたち師匠のおかげで、オレ達はかなり余裕が出来ている。……つまり、思い切って、で、でーととか誘ってみても良い、って思うぞ。何なら休日作るし、小遣いだって出すし!」

「も、もーーーーー!!!!」

 

 

オーバーヒートしたミヤは小爆発から大爆発へと変化した。

とは言っても、ここから先の展開は、最早今後起こる恒例行事となるだろう。

 

 

「あんまりしつこいと皆のこと、援護してあげないんだからね!! 今日のお水だってお預け!!!」

 

 

彼らは確かに強くなったが、如何に強くなれたと言えども、ミヤの援護やダンジョン内で貴重な水分の確保は必需。

 

恒例となる光景。

それは、頬をぷくっ、と膨らませたミヤと真っ青な3人。

ミヤが怒ってしまって―――最後はどうにか許してもらおうと謝り倒す3人の姿である。

 

 

 

「もうっ」

 

 

ミヤはぷりぷりと怒っていたが、3人に顔を見られないと分かった時点で、再び表情を戻して紅潮させた。図星どころの話じゃない。でも、それでも……いつの日か胸を張って会える日が来るまで。そう安易に甘美を求める訳にはいかないんだ。

 

 

「―――ハクさん!」

 

 

大丈夫だとは思っていても、わかっていても、どうしても気になってしまう。

尊敬し、敬愛し、そして……初めて出来た大好きな人の事、だから。

だから、今日も頑張ります! と胸の中で宣誓し、そして前を向いて歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 白の聖域にて。

 

 

今日も今日とて穏やかな風、そして賑やかな声が村中に響き、そして満ち溢れている。

朝の光を反射する緑の大地の上では子供たちは木の枝を剣に見立てて、無邪気に駆け回っていた。いつの日か【大きくなったなら、自分たちはハクお兄ちゃんの騎士になる!】と意気込んでる子供たちが多い。

そして、女の子の方は【ハクお兄ちゃんのお嫁さんになりたい!!】ときゃっきゃ、と燥いでいる。

 

そんな今日を生きるだけでも精一杯。明日の命があるかもわからなかった地獄の世界が嘘だったかの様なこの幸せを受け止め、今日も大人たちは自分たちの仕事をしっかりと熟し続けていた。

子供たちを見守るのは女性陣の仕事だ。仕事の合間には、無邪気な子たちを見守り、そして勿論家事仕事も手は抜かない。

洗濯籠を抱えながら穏やかに笑い、【ケガしない様に】と注意を促す。

男性陣は今日も狩りへと赴く。狩りだけでなく山菜取りや釣り等。

今日も村の皆を、そう《新たな家族》の皆の腹を満たしてやる為に。明日も笑顔でいる為に。

 

 

「ふぅ………」

「あぁ………」

 

 

そして、かつては家畜以下の扱いをされていた人種(ヒューマン)である自分たちにとっての奇跡がまだあった。

 

それはハクが創り上げた地上の楽園(ハクの自称)

温泉(テルマエ)

 

 

自称でもなんでもない、紛れもなく楽園だ、と思っている。……この村に、白の聖域に来た事自体が、皆にとって楽園の名に相応しいのだから。

 

そしてこの渾身の出来である温泉について少し解説をしよう。

 

清浄の泉を元に、大理石で大浴場を、村の皆が入っても大丈夫では? と思える大きな湯舟を創り上げ、魔道具で水流を操り、適温に上げるホットストーンも用いて、適度且つ快適、何より王侯貴族にしか縁のない風呂を、それに加えてドワーフ王国に存在する温泉地帯は一生賭けても払えない程の金額が必要な筈な施設を、何の取柄もなかった筈の自分たちが堪能しているという奇跡。

汚れといったモノの類に関しても対策済み。クラフト系でスローライフをする時に重宝する《生活魔法》を仕掛けているから、いつだって綺麗な温泉を堪能出来る。加えて、空気中に漂う魔力(マナ)を原動力にして稼働するので、完全なるオール自動を再現しているのだ。まさしくオーバーテクノロジーと言える光景。住人がハクの事を神聖視したとしても、仕方がないだろう、と思える。

 

 

湯気が立ち上る度に、森の香りが、花の香りが微かに混じり、それはまるで楽園そのもの。死して、女神様の元へと送られた。その場所である、と言われても……今言われたとしても信じてしまう。まさに楽園なのだから。

 

 

「――――幸せ……、とはこういうもの、ですわねぇ……」

 

 

湯舟の縁に、頭を預けながら女性の一人がうっとりと目を閉じる。

つい昔とは大違い。別の世界へ来てしまったのでは? 何なら死亡して女神の元へ送られたのでは? と錯覚するレベルなのだ。

 

 

「……やっぱり、ハク様へのお祈りの時間はもっともっと増やした方が良いんじゃないかな………?」

「でも、ハク様、『それ止めて。どんどん利用して。お願い』と言ってくれてましたから………」

「ぅぅ……ん。や、この天国を知れたら……確かにどんどん………ですけどぉ……」

 

 

この場所を利用する度に、祈りを捧げて捧げて―――、長い長い時をかけた結果、村人皆が利用する時間が無くなってしまって、一瞬で終わる~なんて事もあった。

本当に汚れを洗い流す程度で終わってしまう事もあった。

 

 

因みにハクが気付いたのは、ハク自身がお風呂を利用した時に、だ。

※勿論、男女分けて作っているので混浴している訳ではない、とだけ伝えておこう。

 

いつまでたっても入ってこない。あの騒がしい子供たちでさえも、入ってこなかったのだ。ずっと貸し切り状態になっていて(ハクは結構長風呂)、疑問を浮かべていて……外に出たら、なんと地に頭を当て、平伏したままの姿勢で微動だにしない皆がそこに居たのだ。

 

 

で、色々と事情聴取をすると――――全然利用できてない。ほとんどできてない事実に気付いたのである。

 

 

祈りの時間が長すぎて、殆ど湯舟につかれてない。故に一瞬で終わる。折角の湯なのに堪能できてない。それは子供ですら例外ではなかった。

環境が違い過ぎたから、わからなくもないのだが、皆皆【アリガタヤーアリガタヤー】とばかりで浸かってくれない。使ってくれないのはハクとしても不本意だったのである。めちゃくちゃ温泉大好きだから、と言う理由もあるだろう。

 

 

「習慣したら……、玉のようなお肌になって……」

 

 

利用者の1人、ソーシャは湯舟から足を持ち上げる。

艶々とした美肌がそこにはあった。これは女性としては何物にも代えがたい効能なのである。

体力回復、疲労軽減、魔力再生、その他諸々。迷い込んだ冒険者たちも大絶賛しそうな効能が備わっているのだが、一番は美肌効果、だろうか。

 

 

「次こそは、ハク様のお背中をお流ししたいです!」

 

 

ぐっ、と力を入れると同時に、立ち上がるソーシャ。

その言葉を聞いた他の女性陣も目をきらんっ☆と輝かせた。

ハクに対して一緒に入ろう! と手を引く女児たち。そして顔を赤くさせながら、男女で分かれてる仕様だから一緒に入れないんだよ、と言い聞かせるハク。

そして、私たちもハク様と一緒に―――と懇願するような女性陣。顔を真っ赤にさせて最後は逃げてしまったハク。

 

これは結構……押せば行けるのでは? と思わさせてくれるのである。

 

 

「馬鹿な事、言わないの………。ふぅ………。ハクさんを困らせちゃダメでしょ?」

「ぅぅ……で、でもぉ……」

 

 

最年長であり、よくハクにご飯を振る舞っているアーリアが窘める。

でも、実際は……牽制しているだけに過ぎない。ハクと一緒にお風呂。考えただけでも甘美でこの温泉と共に蕩けてしまいそうだから。そんな表情も誤魔化してくれる湯舟は最高だ。

 

 

「私たちは、これからもハクさんの為に………、出来ることを、全力で………、はぁぁぁ……」

 

 

説得力の無い雰囲気だが、それに対して誰かが突っ込んだりはしなかった。

この場の魅力を味わえば、どんなものでも阻害することなんで無理だ、とわかっているからだ。

 

 

「きっと、今この時も……ハクさんは、他の誰かの為に……」

 

 

行動の全てが慈悲深い女神のそれと同じだ。全てが一致すると言って差し支えないレベル。本人は神様じゃないよ、と否定しているけれど、心の中で念じる事だけはどうか許可をして欲しいと思っている。

 

 

 

 

様々な想い。

それを一心に向けられているハクはと言うと。

 

 

 

 

「え、ええええ!!??」

 

 

大絶叫。

舞台はエルフ女王国、原生林

 

 

木霊させていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ハクが大絶叫する少し前。―――遡る事数十分前。

 

 

 

 

 

ハクのお説教も終わり、皆が今いる原生林の更に奥にある巨塔へと足を踏み入れている道中のこと。

 

 

「そういや、ハクはエルフ女王国(こっち)じゃ、【ハクレン】って名で活動してたんだよな?」

「ええ。ハク殿は冒険者兼占い師として、名を轟かせておりましたぞ。おかげで我々のパーティ黒の道化師は、容易に名を売る事が出来、大変時間短縮となりましたぞジャックの兄貴」

「ほー、占いか。占術まで嗜んでるとは流石だ。兄貴分であるオレ様も鼻が高い」

 

 

ジャックとゴールド、そして直ぐ傍にハクもいて、話題はハクレンの話になっていた。

 

ハクレンの名はエルフ女王国ではちょっとした有名人となっていて、王家の方でも注目されている存在になっている。

今回の騒動(原生林に巨塔出現)が無ければ、白の騎士団入り若しくは宮廷占い師の地位にとスカウトに来る予定だったりする程だった。

 

 

取り合えず、ジャックの問いに関しては何の脈絡もなく突然の事……だったので、ハクは少し目を丸くさせたが、言っている内容については間違いないので少し肩を竦めて苦笑いしながら答える。

 

 

「占いに関しては、上手く取り入るのに好都合でしたので。あとダガスではエルフ種の《ハク》の名前で広がっちゃってた、っていうのもあってライトさんたち、黒の道化師との繋がりを悟らせないという意味でも、別の名前、姿の方が利があるかな? と。元々色々使い分けて活動するつもりでしたから。まぁ、安直な名なのは目をつむって下さい」

 

 

一つに絞るのではなく、数多の国に応じた姿で活動するのが吉である、と言うのはこの世界にやってきて、その性質を察して直ぐにわかった事だ。

なので、ハクは指を立てて順序よく説明をしていた。ハクとハクレン、確かに安直だと自分でも思うが……、結構簡単なのにしないと使い分けが大変な気がするから仕方ないのだ。ハク、ハクレン以外でも名はあるのだし。

 

 

そして実のところ……この後の展開はハク自身も分かっていたのかもしれない(・・・・・・・・・・・・・・)。だから、懇切丁寧に回答をしようとしていたのだ。……でも、やはりと言うか当然、必然と言うか。

 

 

「ケケケケ。つまりハクは女装趣味があった、って事なんだな? それか、女体が気になるむっつりさんか?」

 

 

防げなかった。

当然の様にメラ辺りが弄ってくるだろう。と予期していた通りとなってしまった。全然うれしくない予期、予知である。

 

 

「ち、違いますよ! これは変身魔法で、僕は女装趣味もってる訳じゃないです! ハクレンは確かに女性ですが、ゴールドさんも言ってる通り、冒険者兼占い師として活動してただけで他意は一切ないです!」

 

 

男が女の姿になり、それもかなり高性能な姿となって活動するのだ。そりゃ、色々と好奇な目にさらされるのはわかっている。

現実世界……、向こうの世界ではネカマとかなんとか、全然ありふれていたから、全くをもって珍しい事じゃないんだけれど、こちらの世界ではそうもいかないらしい。

 

 

「それでも、女性に成り、活動する―――とは、中々に大胆な事だと思いますが」

「あ、アイスヒートさんまで……。僕としてはただ、活動の幅を広げる為に~と言うだけで、本当にそんな深い意味は無いんですよ? 情報収集とかも女性の姿の方が上手く取り入る事だってできましたし! 変な事するやつもいましたが、ぶっ飛ばして実力わからせたりもしましたし!」

「…………ッッ」

「『オイ、相方。流石ノろっくモ、口ニ出スの、憚レルゾ、ソノ内容ハ』」

「スズさん!!? 何を考えてるんですか!! ロックさんも言わなくて良いですからね!」

 

 

騒がしく、賑やかな足取り。

この雰囲気は、ライトも大好きだ。

ライト自身を敬愛し過ぎる点もあり、それ自体には感謝もしているのだが、ハクとは初めての村の外での友達………、あの地獄を経て、初めて出来た本当の友達で、親友だと思っている。

だからこそ、こうやって皆と楽しそう? に話をしている姿を見るのはライト自身もうれしいのだ。……内容は、さておき。

 

 

「して、ハク殿。吾輩はそのハクレンの姿のままに、エリー様らと合流する方が良い、と思われるが如何か?」

「……ええ! どーしてです??」

「お、そりゃオレもゴールドの案に賛成だな。……勿論、ハクを揶揄ってる訳じゃなく、真面目な話で、だ」

「ジャックお兄さんまで……??」

 

 

ゴールドとジャック。

男性陣の半数がハクレンの姿のままが良い、と意識しているようだ。

そして、ライト自身もそれに関しては少し疑問が残る。

 

 

「ハクさんは別に知らない間柄でもないし、説明すれば良いだけだし。それにあの塔にはエリーとアオユキ、ナズナの3人しかいない筈だから、今のままで良い、って僕は思ってるけど? 何で2人はそう思ったの?」

「うむ」

 

 

ゴールドがライトに説明に入る。

 

 

「まずハクレン殿は、街中であっても誰もが目を奪われる程の美貌を持つ存在となっておる。仮初の存在だというのに細部まで練り上げたハク殿の魔術は天晴だ」

「……や、やめてください。エルフ種を模した姿なんで、他意は無いです!」

「わははは! まぁ、最後まで聞いていただきたい! 兎にも角にも、黒の道化師とハクレンの共同戦線。合同パーティーを組む以上、主とハクレン殿は共にある事が多くなろう? ……それ即ち、奈落の皆がその姿を一目する事にもつながる」

「「ふむふむ」」

 

 

ライトとハクは、ゴールドの話を聞いて、少しだけ頷く。

まだ完全に理由を把握できた訳ではない。確信するのはここからの説明だ。

 

 

「つまり、だ。ここに居るメンバー。俺たちは既にハクがハクレンである事実は知っている。……が、知らないエリー様、アオユキ様、ナズナ様が、ライトとハク、ハクレンがともに居る場面を見たら色々と説明が大変にならねぇか? って事だ。最初に済ましておいた方が後々楽になるだろ?」

「「……あー」」

 

 

ライトの行動に関して異を唱える者なんている訳がない。

ライトは唯一無二の絶対神として、奈落にて君臨する存在なのだから。

 

……が、だからと言って全てを良し! と心の中まで思える訳ではないのだ。

それが、異性が絡む話なら。……ひょっとして、万が一、億が一にも、性的な何かが絡むのであれば、話は別なのだ。暴走して少々困った事になるのは確かに憚れる。

 

 

「それは……確かに。事前に皆にも見せておいた方が説明してもらえそうですからね」

 

 

ハクレンの姿を知らない、ジャックやアイスヒート、メラやスズたちにもしっかりと姿は見てもらっておいた方が良いのは間違いない、とハクは理解した。

いちいちその場で説明をするのも面倒だし、何より外部にバレてしまう可能性だってゼロじゃない。そんな下手は打たないと思っているし、自信もあるが、懸念点は払しょくしておくのが吉だろう。

 

 

「うーん、僕の意見も同じだね。これから向かう巨塔の3人に伝えておけば、奈落の皆にも容易に伝える事が出来るし……。どうです? ハクさん、頼めますか?」

「はい、そういう事なら大丈夫ですよー。皆皆、ライトさんの事が大好きですからね。……そもそも、そういう系の誤解(・・・・・・・・)は遠慮したいですし!」

 

 

自分は同性愛者じゃないからだ。否定する訳ではないが、違うからこそ誤解はされたくないのである。

ハクはそういうと指を2本。

人差し指と中指をぴんっ、と立てた。

 

ぱちっ、ばちっ、ばちっ

 

火花にも似た何かがはじける様な音が周囲に響くと、軈て白いオーラの様なものが具現化される。それはハクを中心に突如発生した竜巻のよう。変身! をするときは己の姿を隠した後に出てくるというのが定番ではあるが、そんな感じだ。

 

 

「《白の幻想装(ホワイト・シフト)》」

 

 

軈て、白の竜巻が無産していく。

深奥に眠っていた何かが目を覚ましたかの様に。ハクとしての形は失われ、その理も離れ、虚と実とを重ね合わせ、新たな命が芽吹く。―――そんな感じがした。

 

ハクが、ハクレンとなり、そして琥珀色の優麗な髪が靡いたかと思えば、目を閉じていたハクは目を見開いて皆の方を見た。

 

 

「はい! これが僕が―――っとと、私 エルフ種、ハクレンです。皆さん、以後お見知りおきを――――と、言いたいですが、一段落したらこの姿と名前ともオサラバすると思いますけどね」

 

 

後頭部を摩りながら、てへへ、と笑うハクレン。

エルフ女王国の行く末は、最早決まっているも同然だ。

黒い風が、国全体を覆いつくしていて、その国の在り方までも変わってしまう程の事が起きるとその外見からある程度の予見が出来る。

そして、それを齎すのが誰なのか? どんな存在なのか? を考えた時に、もう納得、と言う言葉しか出てこないのだ。そして齎される災禍は、エルフ種がこれまでしてきたことへの強過ぎる業が生んだ因果応報だともいえるだろう。

 

 

それとハク自身もエルフ種の全てを知る訳ではないが――――奈落の戦力とエルフ種の戦力を比べたら……主観でも、砂上に築いた白が、潮風一つで崩れ去る様に本当に呆気なく影も形も無くなると言っても大げさじゃないのだ。少なくともあの白の騎士団が国の最高戦力だとするなら、結果は火を見るよりも明らか。悲惨な末路でしかない。

 

故に、ハクレンと言う冒険者・占い師の姿も今回ので終わりだろう。と言うのがハクの大方の予想である。……それとやっぱり女性の姿は色々と問題があるかもしれないので、よほどの事が無い限りは今回限りにしよう、とも思っていたりする。

 

 

「ほぉ~~……。いや、すげーな。確かに《鑑定》じゃ看破できん。さっきまでのハクのステータスとは全然違う。……つっても元々のハク自身のステータスもオレ様たちにゃわかんねぇが」

 

 

世界が違うからなのか、世界の理の外から来たからなのか。

この世界の鑑定で、ハク自身の姿を見た時は、完全にステータスがバグっているので、読み解く事が出来ない。

でも、エルフ種の姿や他の種族の姿などで活動するときは、何とかステータスを表示させる様に出来る様になっている。ステータス改変~ではなく、ほぼトレースに近い。変身魔法を使う際に、相手の力もある程度トレースして反映させているのだ。そのうえで、ある程度の数字はいっている。ソロで活躍してもおかしくないレベルにくらいは。

 

 

「うむ。ハクレン Lv988。エルフ種の上限と呼ばれている1000に近い猛者。ギルドでの活躍に裏付けされている、と言えるであろうな」

「そうですね。あまりに高くし過ぎると、国から過剰に目を掛けられそうですし、1人で問題ないって知らしめる為にもこの辺りが妥当だと思ってて」

「……まぁ、ハクレン殿のレベルを見たら、ギルドのエルフ種(あの屑たち)もおいそれと迫ってこないでしょうしね。雑魚ばかりでしたし」

 

 

ネムムも同調した。

ここへ来る時もそうだが、小蠅が集ってくるかのように鬱陶しい。そんな目に合えば口も自然と辛辣になる、と言うものだ。……元々な性格かもしれないが。

 

 

「「「…………」」」

 

 

そんな時、メラやアイスヒート、スズはと言うと。

初めてハクレンの姿を見た時から、固まってしまっていた。

 

 

「―――想像の3倍は違った」

「あ~~、ハクのビジュアル的にありえそう? とは思ったが、アタシも驚いた。ケケケ……」

「~~~ッッ」

『オイオイ相方。はくの旦那は男ダゾ。嫉妬スル意味、無イカラナ?』

 

 

3人とも驚きのあまり言葉も出てなかったようだ。

あのアイスヒートでさえ、メイにメイド道なるものを叩きこまれているアイスヒートでさえ、上品な口調がやや崩れてしまって口元に手を当て目を点にしている。

メラもメラで、隙あらば弄ってやろうかな? と画策していたのだが、想像を簡単に超えてきたので、フリーズ気味。スズはスズで顔を真っ赤にさせて、ライトの傍に居るハクに対してロックの言う様に嫉妬の念の籠った眼差しを向けていた。

 

 

「あー、こりゃ確かに。ご主人様と一緒に行動しまくってたら……、血の雨が降ってたかもな。ケケケ。ジャックのファインプレイじゃないか?」

「………同意、せずにはいられません。我々は、彼女……彼を、ハク殿だと認識しているが故に、平常を保ててますが、もしも合同パーティとして、夜間活動や野宿と言った範囲までライト様と共に四六時中あるとなると―――――」

「ケケケ! アイスヒートまでそう思うとはね」

 

 

真面目なアイスヒートが同調してくるとは思ってなかったようで、メラは楽しそうに笑った。そして、スズとロックのやり取りでまた風向きが変わってくる。

 

 

「………」

『マァ、ソレハろっくモ、気ニナル。巨塔ニはえりーの姉さん達ガ居ルカラナ。ドウ反応スルか……』

 

 

そう、巨塔の皆の反応だ。

細かく言えば……当然、エリーの反応だろう。そしてもう一つ気になる点がある。

 

 

「アタシたちの《鑑定》じゃ見破れなかったけど、エリー様ならどうか? とも思うね。ケケケケケ」

「う―――ん……、正直これまでのハク殿とエリー様のやり取りを思い返してみると………」

「…………」

『十中八九。はくの旦那ト気付カナイ、ダロウナ。ろっくモソウ思ウ』

 

 

エリーの魔術は奈落随一である事は疑う余地はない。禁忌の魔女にして奈落最強の一角、フォーナインの1人は伊達ではないからだ。

でもでも、ハクが来た事で、散々メイド妖精たちからは揶揄われたり、ただ見ている側も楽しくなってきたり、と威厳と言うものが少々薄れる部分はあるにはある。

 

 

「ケケケケ。賭けでもしないか?」

 

 

メラはそう一言。

 

と言うわけで、ハクはハクレンとして。

黒の道化師と共同戦線にして、エルフ種内部の友好的な協力者である事にして―――巨塔へと赴くのだった。

 

もう目と鼻の先にある巨塔へ。

 

その場所は、巨塔を中心にぐるっと半径数10mに渡って整備されている。木々は伐採、地ならしも問題なく、森が巨塔を中心にぽっかりと穴をあけてしまった様になっている。

そしてまだ話に聞いただけで実物は目にしていないが故に、強く思うのがその巨大さだろう。見上げる程に大きく白い巨塔。まさにドンっ! と聳え立つという効果音が似合う建造物になっている。

 

 

「わぁ……、絶景ですね。観光スポットとして公表したら絶対稼げそう……。うーん、スカイツリーの値段がアレだから、でもここにたどり着くまでの条件とかも鑑みて……」

 

 

圧倒されていたハクレンは巨塔に目を輝かせている。

世界を見て回る、と言う目的に合致する絶景と言う事だろう。ライトも自然と笑みが生まれた。

 

 

「確かに、良い商売になりそうですね。お金を払ってまで上に上ってきてくれるなら尚更」

「なりますなります! まぁ、空を飛べる人もたくさんいるので、頭打ちになるかもしれませんが、それ以外の人は非日常を味わう事が出来ると思うので、お金払ってでも~って考える人はいると思いますよ! ……ただ、富裕層のみになってしまうかもですが」

 

 

決して裕福とは言えない層の筆頭が人種(ヒューマン)だ。それを差し置いて、他の種族優遇となりかねない状況は遠慮願いたい、と思う気持ちを考慮してくれた上での言葉はライトとしてもありがたく心地よいというもの。

 

 

「ふふ。今後余裕が出てきたら、要検証、ですね」

 

 

ライトはそう言って微笑んだ。

すると、見上げていた巨塔に人影が視界の中に入る。

巨塔1段目に座って足をブラブラとさせていたアオユキ、そしてうろうろと歩いて落ち着かない様子なエリー。更に地上で森の方を眺めていたナズナ。

 

皆が一斉に駆けつけてきた。

 

 

「ライト神様! ようこそおいで下さいましたわ!」

「にゃーー!」

「ご主人様! 待ってたぜ!」

 

 

ライトに会えた事が何よりも喜び。極上の喜び、と全身で表す様に三者三様に笑顔で駆けつけてきた。

 

 

「おまたせ、アオユキ、エリー、ナズナ」

 

 

そんな3人に対してライトは笑顔で応答をする。

 

 

「はいですわ! 先ほど奇妙な魔力の波動を感じまして、警戒を強めておりましたが―――……」

 

 

ぱちり。

エリーが瞬きをするとほぼ同時に、その視界の中にはライトの直ぐ後ろ。斜め45度手前で控えているエルフ種の女性の姿がエリーの視界に入った。

 

無論、報告は聞いている。

 

ライト……ダークの黒の道化師のパーティーと合同パーティーを組むエルフ種が居る、と言う話。信頼はできており、且つ目的の共有も出来ているとの事。何よりエルフ種の在り方に憂いており、人種も差別することなく接し、時には助け、異端と一部では言われながらも、周囲を黙らせる実績と実力を積み上げている孤高の存在。

ソロ冒険者にして占い師のハクレン。

 

 

エリーと目が合い、そしてそれに続く形で、アオユキやナズナもライトの後ろに居る知らない女の姿に目を瞬かせた。

 

その視線に気づいたのか、ハクレンは優雅に、それでいて丁寧にお辞儀をする。

 

 

「お初にお目にかかります皆様。この度、ダーク様、黒の道化師の皆様と行動を共にさせて頂きますソロ冒険者兼占い師のハクレン、と申し上げます。以後お見知りおきを―――」

 

 

敬意を最大限に払う言い方。

それが本心から、心からの言葉であり、言い繕ったり、媚びを売ったりしているのではない、と言う事くらいは直ぐに解る。

 

 

「これはご丁寧にどうも。ライト神様より、ここ巨塔の管理を任されているエリーと申し上げますわ。ハクレンさんの事も聞いておりますよ」

 

 

当たり障りのない返事に、少しだけ空気がぴりつく。

それはエリーから発せられたものではなく、メラやジャック達からである。

無論、理由は『エリーがハクレンの正体。ハクだと気づいているのか否か?』である。当たり障りのない返事が故に、本心な所がわからないのだ。わかっていて、敢えてスルーしている可能性だって否定できない………が。

 

 

「(相手がハクだった時のエリー様の対応じゃねぇよな?)」

「(ケケケ。まぁ、ハクを相手するときのエリー様はコントだし。気づいてない方に1票だな。ケケケケ)」

 

 

こうして見守る事に徹する。

アイスヒート的には、エリーをだましているようでどうなのか? と途中から気が引けてしまっていたのだが、ハクも了承し、最後はライトが乗り気になっていて許可していたので、それを否定する訳にもいかない。ハク的には色々とエリーにはツッコミ替わりの色んな一撃を入れられているので、ここが反撃ポイント? と少し悪戯っ子な様子も見せていて、そこもまた普段の真面目で凛々しく、何よりも優しい彼にはない一面で愛らしくも思う。無論ライトが不動の1番である事実は変わらないが、そんなハクの姿を見たライトも朗らかに笑っているので、あの笑顔を引き出してくれたハクに対して、感謝と同時に嫉妬も少々……と言う、複雑な心情なのである。

 

 

『(マァマァ、あいすひーとの姉サン。ココハ、見守ロウゼ)』

「…………ん」

「(私から何かを言うつもりはないさ!)」

 

 

と言うわけで、エリーたちの一挙一動をじっと見定める方向性へ。

 

 

そんなエリーの心情は、つまり答え合わせはと言うと。

 

――ふーん。エルフ種と聞いた時点である程度の想定通り。思ってた通り容姿()整っておりますわね。気品ある雰囲気(オーラ)……目的の為と言えども、ライト神様のお傍に立つ以上相応の振る舞いを求めなければなりませんが……。

 

表情は変えずとも、視線と雰囲気で値踏みをしているのがわかる。

でも、内心を読んでいる訳じゃないので、他のメンバーには詳細はわからない。

つまり、エリーが分かっているのか、分かっていないのかがわからないのである。

実な所、エリー自身はもっともっと突っかかって食い込んで、行く気満々な所があったのだが。

 

 

「ハクレンさんは素晴らしい人だよ皆。僕も凄くお世話になってるからね。強く推薦してくれた事もあって、ランク審査も上々の兆しがあるし、依頼の選択幅も広がる。目的の為に最短最善で行けてるのは、ハクレンさんのおかげ、と言っても過言じゃないかな」

 

 

ライトが笑顔でそう言っているからだ。

あまり見ないタイプの笑顔。いつも笑顔で皆を照らしてくれる神様なのだが……、今のライトの笑顔は少し種類が違うと思っている。年相応とでもいうべきか……無邪気、と言う言葉が一番しっくり着て、エリー自身も下腹部がきゅんっ、と鳴ってくる。

加えて。

 

 

「いえいえ。私ライトさんたち、ダークさんたちの実力をもってすれば私が居なくとも十分過ぎました。私はほんの少しだけ、背を押しただけに過ぎません。―――その実力は、隠せませんからね」

 

 

――偉大なるライト神様からの極上のお言葉を賜っても、彼女はそれを誇示する事も慢心することも無いです。……どこまでも謙虚な姿勢、称賛を受けても心が揺らぐ事のない清廉さを感じますわ。……本当に、あのエルフ種なのです?? 信じられませんわ……。

 

 

何処までも甘美で至上の喜びであるライトからの御言葉。

それを一心に受けても変わらぬハクレンの姿勢を見て、その人柄は100点満点であることを認めざるを得ないのである。

 

 

「ふふ。ありがとうございます。……それに、ハクレンさんは僕たちの目的を知った上で、協力してくれてる人だから。最大限の敬意が必要だと思ってるよ」

「ッ―――」

 

 

極めつけとなったのは。

とどめとなったのは。

 

ライトの口から語られたこの言葉だ。

地上での目的に関しては外部に漏らしてはいない。漏洩するなんてありえない事だが、唯一それを可能にすることが出来るものが居るとすれば、それが絶対神であるライト自身の判断と口でに留まるのだ。

 

更に言えば、その情報自体はエリーも持っている。この巨塔へ来る時点で。

劣等種として凡そ人扱いされていない苦しむ人種(ヒューマン)を幾度も救っている活動をしている、と言う事実。

同種であったとしても非道なる行いは断じて許すべきではない、と言う国の方針にさえ牙を向く信念。

その姿に感銘をライトは受けたのだと。……エルフ種でここまでしてくれる人はいなかったのだと。唯一例外(・・)は居たが、()はエルフ種ではなかったので、違うものとしている。

 

 

「むぅ――――」

 

 

何にも言えなくなってきているエリーの姿を見て、いよいよ周囲の皆も少し笑いそうになってきていた。

これは、本当にハクの事がわかってない。ハクレンはハクなのだという事がわかってない、と。

 

 

「へーー、お前凄いんだな!」

「いえいえ。私が凄いのではなく、ライトさんが凄いんです。……本当に、とてつもない程に。ですから一緒に同行させてもらえて光栄なんですよ」

「えへへ! だろ! あたいのご主人様はすんごいんだ!」

 

 

ライトがあまりにも褒めるので、ナズナも一緒になって声を掛けてきた。

そして、ハクレンがライトの事を凄い凄いというから、ナズナ自身も嬉しくなっているのだ。

 

 

「んーーーー、あれ? おまえ……、ハクレン、だったか」

「???」

 

 

突然、笑っていたナズナの表情が変わる。少しだけ真剣な顔つきになる。

 

まさか、まさかのナズナが見破るという話題にも上がらなかった超大穴か?? と思っていたのだが、それは違った。

真剣な顔つきだったのが、自然と崩れていく。ふにゃり、と笑顔になってハクレンの傍へと駆け寄った。

 

 

「お前、なんか良いな。優しい感じがするぞ!」

 

 

そういって、ナズナは胸を張ると。

 

 

「ご主人様があんなにも褒めてるんだからな! あたいだって沢山褒めるぞ! それに感謝だってするぞ!! ご主人様を助けてくれて、ありがとなー!」

「あ、あははは。光栄です。ありがとうございます、ナズナさん」

 

 

花開く笑顔と言うのはこのことだろうか。

末っ子気質で甘え上手で、色々してあげたくなる、と言うのがよく解るそんな笑顔だった。

 

 

「……にゃー」

 

 

で、唯一溜息やあきれ顔をしているのがアオユキだけだった。

動物的な勘、とでも言うのだろうか。アオユキだけが何かを察した様に、エリーやナズナを交互に見比べて溜息を吐いた後に、ライトの傍へと駆け寄り、肩をそっと寄せた。

 

ライトもアオユキの行動に思う所があったのか、その頬、顎あたりを撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「こほん。ナズナさん。その辺りにしておきなさいな。これから重要な会議があるのですよ?」

「おおー! そうだったな!」

 

その後しばらく談笑をし、いつまでも離れないナズナを嗜めるエリー。

そしていわれて、素直にぱっ! とナズナは離れていった。

ハク自身もにこり、と笑っている。

 

「では、ライトさん。皆さんとも顔を合わせられましたし──手筈通り、一度これまでの調査報告をギルドへ持ち帰りましょう」

 

 

ハクレンの声色には、あくまで自然体の柔らかい気遣いがあった。“儀式の場に部外者で踏み込むつもりはない”という誠意が

配慮として滲んでいる様にも感じるのはエリーだ。協力者と言えども、一定のラインは引いていて、そこから先は安易に踏み込まない。越えない、と示している。

 

ライトは頷くと、一枚のカードを指先で引き抜く。

 

 

「リリース」

 

 

と一言。

淡い光と共にもう一人の“ライト”が姿を現した。

 

「じゃあ、僕の代わりを任せるよ」

「はい。畏まりました。『黒の道化師のリーダー・ダーク』として、ハクレン様と共にギルドへ赴き、クエスト達成報告をして参ります」

 

ライトがもう1人のライトをカードより顕現させた。

そのカードとは『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)

効力は使用者に姿形そっくりな状態で現れる影。着ている衣服も再現し、言動、癖も本人そのもので見分けはつかない代物だ。

ハク自身も奈落で見ているので特に驚きはしないが、これも大概反則級の能力だと言えるだろう。

元々のチート能力、無限ガチャで無限にカードを量産している。URから分かるようにレア度の高いカードを引き当てるのには色々と条件があり、且つ複製もののお約束である、オリジナルよりも質は落ちる、という制約があるかもしれないが、それを補ってる余りある成果を残し続けているのだ。

 

因みにこのライトで3人目。

もう一人は、奈落にて只管無限ガチャでカードを出し続けている。様々な力を封じ込めているカードを何百、何千、何万と。如何に確率が低かったとしても、ほとんど数撃ちゃ当たる状態。

 

かの世界で類を見ない程のチート性を持つ能力だと言えるだろう。資金をそれこそ無限に突っ込むことが出来たのなら、似たようなのが出来るかもしれないが、それは壊滅的な打撃を受けることになるから絶対にやらないのである。

 

「では、申し訳ありませんハクレンさん、後はよろしくお願いします。後ほど、もう一人の僕を通して念話にて連絡しますね」

「はい、大丈夫ですよ。手筈通りですから。では、えっともう一人のライトさ————じゃなく、ダークさん。王都までよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします! ハクレンさん!」

 

 

 

もう一人のライトがハクの手を握った。 

その場面をみて、ぴくり!!と眉を上げるのがエリーである。

 

そう、これからはライトは黒の道化師のリーダーとして、合同パーティーを組んでいるハクレンと共に王都にあるギルドへ赴くのだ。

 

如何にカードで顕現させたもう一人のライトと言えども、その姿形は一寸の狂いもないライトそのもの。

そんなライトとハクレンのような美麗な者が手を取り合うシーンを見せられて、胸中穏やかでいられるわけがないのだ。

 

「少しよろしいですの? ハクレンさん」

「? はい、何でしょうかエリーさん」

 

ハクレンは、手をつないだまま振り返る。

ライトとハクレンの手繋ぎシーンをまるで見せつけられたかのよう。ガツン!! と脳髄に響いてくる衝撃がそこにはある。 が、この巨塔を管轄し、そして何よりフォーナインが一角、ライトの側近たる自分自身の威厳を損なうわけには行かない、とエリーは踏ん張ってみせた。そして告げる。

 

 

「ライト神様の御身を模した存在とはいえ、不敬はお許しになりませんわよ? 軽々しく触れたり、馴れ馴れしくされては困ります!! 如何に貴女が恩ある御方であっても、肝に銘じて下さいませ!」

 

 

そのエリーの言葉に、ピシィッ、と場の空気が凍った。

 

横で見ていたメラが眉をひくつかせ、スズが口元を押さえて震え、ジャックは後ろを向いて肩を揺らしている。唯一アイスヒートだけが表情・仕草ともに変えずに不動だった。

ライト本人は、どう返すべきか迷いながらも、笑いを堪えて喉を鳴らした。

 

つまりエリーの言葉に対して、もう無理! と言わんばかりにこみ上げる笑いをどうにか飲み込んでいたのである。

 

肝心のハクレンだけが、ぽかんと目を丸くする。変装、否、変身をする時は一度己を自我を上書きするつもりで憑依させている。

だからこそ、今の彼は彼女、ハクレンなのだ。

 

でも、エリーの姿だけでなく、みんなの姿も見て我に返る様に思い出した。 

 

 

「……あ、そっか。忘れていました」

 

 

完璧なエルフ種のハクレンの威厳をまとっていたはずなのに、その瞬間だけ完全に“素のハク”に戻る。

そのギャップに、ネムムが危うく吹き出しそうになり、ゴールドが肩を掴んで止めた。

エリーはそんな空気も気づかず、真剣そのものの表情で言い切る。

 

 

「忘れていたのですか!? ライト神様の御身に連なるお方なのです。くれぐれも、礼節だけはお守りくださいまし!」

「あ、いえ。そう言う意味じゃなくてですね………」

 

 

ハクレンは少し目を瞬き、そして仲間たちの表情を順に見渡した。

 

皆が「そろそろ言ってあげて」と言いたげな目を向けている。

 

 

「……そろそろ種明かし、ってことでよろしいですか? ですね?」

「???」

 

 

ライトが「うん」と頷く。

他の皆も続いて頷き、ただ一人、エリーだけが「?」を頭に浮かべたままだった。

ハクレンはエリーへ向き直り、胸に手を当てて丁寧に頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません、エリーさん。本当は──“僕”でした」

 

 

ふわり、と輪郭が揺れる。

エルフの長い金髪がほどけるように消え、背が縮み、瞳の色が変わる。

光の粒が舞い散る中に現れたのは──黒髪の青年ハク。

エリーの脳が追いついたのは、変身が完全に解けたあとだった。

 

 

「……は………は…………は?」

 

 

そのあまりの素っ頓狂な声に、ライトがとうとう笑いをこらえきれず吹き出した。

 

 

「エリーさん、ごめんね。ハクレンは──最初から、ハクだよ?」

 

 

ハクが肩をすくめ、苦笑する。

 

 

「すみません。ちょっとした……悪戯、でした」

 

 

エリーはしばらく固まったのち、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 

「ぜ、ぜ、ぜ……全然気づきませんでしたわあああああ!!!」

 

 

そして、穏やかな笑顔に包まれる。無論エリー以外は。

 

変身魔法を用いているのはその光景を見れば一目瞭然。体格から魔力の質、仕草雰囲気、身につけている装備。ありとあらゆるものが変化しているのだから。

そして、また見抜けなかった事が、エリーの自尊心(プライド)に大いに触ったのは言うまでもない。

 

「あはは………」

 

和やかーになっている様だが、内心ではそろそろか? と戦々恐々となるのはハクである。

無論。

——最初からするな。

——こうなるの解ってるのなら尚更。

——ドMか。

 

と、客観的に見たら自分もそう思うハクだが、やはりエリーに関しては理屈じゃないのだ。その人柄や容姿、考え方まで、かつての世界にいた彼女と被って見える。だから、10回に1度、20回に1度くらいは、ついつい悪戯の一つや二つ、してみたくなる気持ちだって湧いてしまう。

 

その先に、100倍返し!! が迫っていたとしても。

 

「……………………………」

「ヒェッ…………………!」

 

喚いていたエリーだったが、その後ゆらーり、と立ち上がった。

横にゆらゆらと、身体を揺らせながら迫ってくるその姿は某ホラー映画の怨霊の様だ………。

 

「(ちょ、ちょーしに、乗りすぎた………かな? やっぱし…。)」

 

後悔先に立たず、とはよく言ったもの。

でも、出来ることがあるならすべきだとも思う。何もせずに座して待つよりはまだ良いはずだと思う。

 

「ハクさん。……ひとつ、よろしいでしょうか?」

「は、はい…」

 

目の前に立つエリーがいつもよりも大きく感じるのは気の所為じゃないだろう。

なんだか、捕食される側の気持ちがわかる。そんな気がするのも、決して気の所為じゃないだろう。

 

だからこそ、先に先に先手を打つべきだ、とハクは顔を上げるとほぼ同時。

 

「ご、ごめんなさい!」

「これまでの無礼、申し訳ありませんでしたわ」

 

——————ん?

これこそ、気の所為ではないか?とハクは思った。何を言われたのか、わからなかったからだ。頭が理解してなかったとも言える。

 

「え……? ええ?」

 

 

きょとん、とするハクを見て、エリーは少し深呼吸をしていた。

ハクが突然謝った理由は当然わかる。自分にいたずらを仕掛けてきたことに対して、だろう。それが魔術関連を用いた悪戯だとしたら、尚更だ。今までハクとの絡みはほぼ100%魔術に関することだったからだ。

 

 

「………もう一度、お伝えしますわね。聞いて頂けなかった様ですので。これまでの無礼を、お詫び致しますわ。ハクさんは、私達に益をもたらしてくれてましたもの。にも関わらず、私は理不尽な対応をしておりましたわ。深く、反省し、お詫び申しますわ」

 

手を胸に当てて、あのエリーのトレードマーク? とも言える三角帽子も脱いで、頭を下げていた。

 

その行為、言動。

ハクが理解するのにはやや時間がかかった。

 

そして、理解すると同時に————

 

 

「え、ええええ!!??」

 

 

 

と、ハクの驚きの声が周囲に轟いたのだった。

 

 

 

 

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