職業はヒーラー。気付いたら復讐【ざまぁ!】系主人公の邪魔をしていた件 作:やっくんYU
「これはこれは! ダーク様! ネムム様! ゴールド様! ようこそおいでくださいました!」
本日の宿。
助けた
カーネルもライトらの姿を見て嬉しそうに最高の笑顔でお出迎えをする。
色々と画策をしていたのは事実だが、まさか初日から選んでくれるとは思いもしなかったから、嬉しさも倍増と言うモノだ。
「折角ですので、カーネルさんのお世話になろうかと」
「ありがとうございます! では、最高のおもてなしをさせて頂きますね。―――勿論、お代は」
命の恩人から金銭など取れない。それもまた未来への先行投資。そう考えていたカーネルだったが、直ぐにライトに阻まれる。
「実は宿泊の際に、我儘を3つお願いしたいのです」
「!」
どの様な事でも対応すると宣言しているし、
「1ヶ月間、最上階のフロアの貸し切り。それと僕達が宿泊している間は、従業員の方を含めて、誰一人フロアに立ち入らせないで欲しいんです。その1ヵ月分の宿泊代金ですが———」
ライトは、ずっしりと重量感のある袋を取り出した。
最上階は所謂スイート。でも、一応は
「金貨300枚です。これで足りなければ言って下さい」
「え、ええ!! い、いえダーク様!」
足りない所の話じゃない。
破格過ぎる代金の提示だ。ずっしりと重量感ある袋の中身が全て金貨に驚きを隠せれないが、それ以上にライトにそこまでして貰う訳には……と受け取りを拒否しようとしたのだが。
それをまるで見越しているかの様に、ライトは笑顔を向けて言った。
「そして最後の我儘です。……僕に対する礼儀だと思って、お代は受け取ってください。」
「…………」
我儘の1つにされてしまえば、もう何も言えない。
いつか……、いつの日か、恩に報いる事が出来れば。いや必ず……どんな小さな事でも良い。彼らの力になる。
カーネルは強くそれを決意。画策をしていた自分が何処か恥ずかしくなってくるが、ライトの表情、そして目を見れば……それをも見越している様な気がしてならない。
「畏まりました。当宿はお客様のお望みをどんな事情にも対応させて頂きます、と以前より申しております。故に、対応をさせて頂きます」
最大限の感謝と敬意を胸に、カーネルは頭を下げた。
それを見届けるとライトも軽く頭を下げる。
「ありがとう」
「それでは準備が出来次第フロアへご案内させていただきます」
最上階のフロア全てを貸し切り。
最上階故に、部屋数はそこまで多くは無いが警戒するくらいには丁度良いだろう。
「……ふぅ」
ライトは3年前……《種族の集い》パーティでこの街を拠点としていた時期があった。
それを———少し思い出していた。
今や悪夢であり、憎悪を滾らせる記憶でしかないのだが、それでもあの時の記憶が脳裏に浮かんでしまう。
仮初だった。全てはウソだった筈の……あの光景を。
張り付けられた笑顔。面を善意で彩った果ての無い悪意。
何故、あの時の記憶が過るのか? 決まっている。
あの
「―――『
自身の持つ無限ガチャで得た力を解放していく。
瞬く間に部屋の中が本当の意味でクリーンとなっていく。
無論、亭主のカーネルを疑っている訳ではないが、念には念を入れて———でだ。
盗み聞く者、監視する者、その手のマジックアイテムは一切ないのも確認出来た。
「うん。念のためだったけど、間違いなく監視も盗聴も、他のマジックアイテムも無いね」
「うむ。これで気兼ねなく話せると言うモノ。他の冒険者は最上階より3階したの2階フロアとの事。警戒に越したことはないが、どう思う? 主よ」
「ご指示して頂ければ、直ぐに対応をして参ります」
「うーん………」
ゴールドとネムムの進言を聞いてライトは少し考える。
でも、ライトは首を横に振った。
「仕掛けたカードが反応しない限り、こちらから干渉する事はしないよ」
「了解致しました!」
「うむ。了解した」
もしも、彼らがこの最上階へ足を踏み入れるとするなら……その時何等かの対応をするだろう。
亭主にも従業員らの立ち入りを禁じる様にして貰ってる。その上でこの階にやってくる者が居たとしたら………。
「正直得体のしれない相手だ。底が見えないなんて思ったのは随分と久しぶりだった。(……そもそもエルフかどうかも怪しいって思える程に)……でも、敵意が無い以上こちらから何かを仕掛けるつもりは毛頭ないよ。……それに」
ライトは、少しだけ笑った。
「彼らの顔を見たら……ね。洗脳されているとか、そんな様子は一切なかった。……僕らの時とは違う。本当の意味で集まっていた。……数は
あの時の事を思い返す。
フードが外れたその男の素顔はエルフのものだった。
捲れたフードを元に戻し……それに対して慌てたのは素顔が顕になった本人ではなく、周りだった。
特に女の子の方の慌て方は逆に目立ってしまうのでは? と思わずにはいられなかった。……申し訳なくも思った。
エルフの彼は気にしないよ、と言っていたんだけど、ぶんぶんと首を左右に振って言っていた。
『ダメですっ!! 私達は兎も角、ハクさんが変な目で見られるのだけは絶対嫌ですからっ!!』
その言葉に、その場に居た
その様子を見て、少し心配になり【鑑定】を使って
そしてそのステータスには一切異常は無かった。
つまり、操られたりしている素振りは一切なく、純粋に
彼のステータスもあわよくば確認したかったが、やはりそれは出来なかった。やはりあのフードが阻害をしているのだろう。
でも、これ以上暴くつもりは無い。
ひょっとしたら、彼が《ますたー》なのかもしれないし、《ますたー》じゃなくても、それに通じる何かなのかもしれない。……だけど、だからと言ってあの領域を自分達だけの都合で乱したくないとも思っているんだ。
「(……後もう一度だけ、信じてみたかった、って気持ちが僕の中にあるのかもしれないな。………でも)」
ライトは少しだけ手に力を込める。
それが殺気となり殺意となり、憤怒となって周囲に現れる。
「(復讐は—————忘れない。必ず遂げる)」
それを間近で感じたゴールドやネムムも思わず身震いしてしまった。
単純なLvの差と言うモノも勿論あるが、唯一絶対の主の底なしの怒りはLv以上に気圧され、それでいて心酔させるだけのモノを持っているのだ。
「っと、ゴメンね。改めて僕を裏切ったあいつ等に怒りが湧いちゃったみたいで」
「うむ。仕方の無い事とはいえ、一般人らの前でその殺意をみせると心臓が止まるやもしれぬぞ主よ」
「ごめんごめん。ちゃんと注意するから。それにこの部屋なら大丈夫だしね」
ライトは大きく一呼吸をして気を落ち着かせた。
少しだけ揺らいだのは事実だが、……忘れた訳ではない、と再確認出来ただけでも十分だ。
「して、主よ。先ほどの金は」
「ああ、アレは地上で活動している仲間たちが商人として稼いだ本物だよ。この宿で偽金は使えないし、使う訳にはいかないしね」
「偽金とバレてこの宿に何かあっては困るものな」
「うん。でも偽造と言っても無限ガチャから出た金銀の延べ棒から作ってるから誰も見抜けたりはしないよ。でも、流石に乱用し過ぎたら地上経済が壊れるからね。必要最低限にとどめるつもりだ」
取り出した偽金を見るライト。
偽だと言えるが殆ど本物。これを見抜ける者が居るとしたら、それはもう空から見下ろしている女神様くらいだろう、と思える。
「それにしても自分達はともかくライト様……ダーク様がA級ではなくF級から始めなくてはならないのが到底納得できません! 受付も見る目があまりませんよ」
「あはははは。その辺りはしょうがないよ。ゴールドたちは兎も角、僕は建前上12歳の
この世界では冒険者ギルドと言うモノが存在して、その冒険者の強さ・実績に応じて6段階にランク付けしている。
A級 トップ
B級 一流
C級 熟練のプロ
D級 1人前
E級 半人前
F級 駆け出し
その上に極稀ではあるがS級と言う位がある。でもそれは例外中の例外であり、基本はこの6段階だ。
つまり、奈落の主は最底辺である駆け出しレベルにされている。
それに憤慨しているのがネムムだ。ゴールドだけは理解があり飄々としている。
「ネムムよ。まだ納得しておらんのか。主ならば直ぐに階級は上がる。アレだけ変態を晒して置いてまだ駄々を捏ねるその精神一周回って尊敬するやもしれぬな」
「!!! だ、誰が変態だ!!」
「《唯一無二の超ドS級》を要求したのだ。……ただの変態だろう? それはもう」
「う、う、うるさい!!」
しかも公衆の面前でのその発言。
ライトと同じ様に、ネムムもあの
「しっかりと反省したのだろう? 何せ主に謝罪をさせた大失態だ」
「あ、ああああああ………!!」
「どうどう。ネムムも大丈夫だから気にしないで。ゴールドもあまりイジメたらダメだって」
変態発言に加えて、掴みかからん勢いで受付に詰め寄った。
明らかに
その姿を見て盛大にネムムは項垂れたのである。謝罪をさせてしまった、と。
ゴールドは今と同じ様に失態だと笑っていたが。
「ぅぅ……も、申し訳ありません、ダーク様……」
「いや、ほんと。気にしないでネムム」
「こ、この償いに自分達に何でもご命令をしてください! ダーク様が御強いとはいえ、事故が起こる可能性は0ではありません!! あの未知のエルフ種の事もあります! なので、【奈落】で自分達に命令をしていただければ全て解——————」
最後まで言い切る前に、ネムムは思わず口を噤んだ。
大丈夫だ、と笑っていたライトの姿が、雰囲気が一変したからだ。
「―――ネムムは、僕から復讐を取り上げるつもりなのかい?」
自分の中にある黒く滾っている憎悪。
これを身に閉じたままにしろ、と言っているのか……?
「ち、ちが……じ、自分は——」
弁解をしようとするがそれも阻まれる。
底なしの憎悪を、底なしの狂気を、主のその姿を見てしまえば、口にする事なんて出来る訳がない。
「それとも————」
———ネムムは僕の邪魔をするのかい?
どれだけ忠誠を誓おうと。
どれだけ尊敬されようと。
例え仲間たちだろうと。
復讐を邪魔をする者は容赦はしない。
「ビックリっスね~。まさか最上階のスイート貸し切り~とか。そんなのこれまでに無かったっスよ」
「でもあの金ピカな人達が~だったら妙に納得できるなぁ。……あれ全部金で出来てるんだったら、トンデモナイ資金持ってる超大金持ちだろうし」
「そんな事より皆反省してっっ!! 変な事言わないでよ!! 次言ったらほんとにカバーしてあげないんだから!!」
「「はい……」っス……」
カーネルの宿に戻ってきたエリオら一行は、どさっと腰を下ろして今日の出来事を各々が口に出していた。
話題は主にミヤとハクの件だが、それに続いてあがってくるのが少し前に合った非常に目立った格好をした3人組。
派手だけならまだしも、あれらは黄金で出来てる~と街では噂になっている。大っぴらにそんな事を言えば盗賊とかに狙われるのでは? と心配にもなっていたが、そこはハクが首を左右に振って否定した。
「相応の自信があるからこその格好だと思うから。本人の信念なのかもしれないけど、自らを晒す以上、腕に覚えのある冒険者の可能性の方が高いと思いますよ。世界情勢とかを鑑みたら尚更」
この辺りは3国の境目に位置する。
ダンジョンがあり冒険者ギルドも出来たのである程度の抑止力になっているのは間違いないが、それでも止められないのが実情だった。
黄金の騎士もそうだが、傍らの女も相応い目立っている。そんな街であそこまで派手に動いているのだから何があっても対応できるのだろう、と考える。
ただ、
「うーむ、成程……」
「オレっち達もそれくらい堂々と歩きたいもんっスね~」
「いや、ギムラあの恰好似合うと思ってる?」
「ぜーんぜん! ただ、それくらい大手を振って堂々と歩いてみたい、って気概の話なだけっスよ」
「まぁ……な」
「なら頑張って強くならないと、ですね?」
「「「はい……」」っス」
「……(……こくこく)」
何よりも生き残る事、生き延びる事が一人前への近道なのだから、危機察知能力だけは磨かなければならない。ハクに助けて貰って無かったらここにも居ないかもしれないのだ。
変な夢を見る事なく堅実に現実を見て一歩ずつ前へと進んでいこう! とリーダーであるエリオが最後は締めたその時だった。
「――――(また、黒い風が…………)」
ハクが天上を見上げたのは。
丁度向かい合わせで座っていたミヤだけがその反応に気付く事が出来た。
「ハクさん? どうしました?」
「………(アレほどの
「ハクさーーん!」
「…………(
「ハーーークさ――――ん!!」
「………………(……あの世界、か。うん。懐かしい。……確か
考えに耽っていたその時だった。
えーーい! と言う掛け声と共に抱き着かれた感触があったのは。
「っ、とと!!」
「ハクさん、またどーしちゃったの!?? 何か、何か体調でも悪いの!??」
「え、あれ? どうしたんです??」
「さっきからずっと呼んでるのに、ハクさん上向いてずっと上の空だったから気になったんです」
「あ………」
どうやら考え込み過ぎて、ミヤの言葉が頭に入って来なかった様だ。
以前にも似たような事が有った。……これは反省点だ、と思いハクはミヤの頭を一撫でした。
「すみません。ギムラさんが言ってた上のスイートルームを、それも全室貸し切りにした、って人達の事を考えちゃってました。……幾ら他の宿に比べたら価格設定が易しいって言っても、あそこを全部貸切るってなると—————幾らくらいだろ? って思わず考えこんじゃってて」
てへへ、と苦笑いしながら答えるハク。
勿論半分はウソで、上の彼らに気になってはいたが、そこは金額面の話じゃない。でも割と説得力のある嘘だろう、と自画自賛もした。何せ頭の中で金額面を計算していた~ともなれば、考え込み過ぎてて、周りが聞こえなくなっても仕方ないだろう、と思って貰えそうだから。
実際、ミヤもなるほど! と手を叩いて納得してくれていたし。
「ミヤちゃーん。大胆っスねぇ~。流石のオレっちもビックリ」
「うんうん」
「お、お兄ちゃんはそう言うのは2人きり~とか、で、でーとの時~に取っておいた方が良い、って思ってるぞ! でも応援はする! 超応援はする!!」
「ッッッッ!!!?」
ここで漸くミヤがあまりにも大胆な事をしてしまったと言う事に気付く。
舌の根も乾かぬうちとは言い様で、散々ハク関連でミヤは皆に揶揄われていると言うのに、また思わず抱き着く勢いで飛び掛かっているのだから。ネタ提供をしてしまったのだから。
【これ以上言ったらカバーしてあげない! 援護してあげない!!】
———と言っているけど、これはどう考えても自分が悪い……と思ってしまったミヤは、怒るに怒れず、ただただ違う違うから! と手を振って否定するだけになってしまうのだった。
因みにハクはと言うと、中身は22歳なので流石に10歳くらい年下、10歳くらいの子に対して思う事は………まぁ、お察しである。
ただ、この世界の
10歳年下だが……だからと言って何にも考えてないと言う訳じゃない。
敬意と尊敬の念はしっかりと持っている。
「ほら、皆。今日はもう休んで明日に備えないと」
お祭り騒ぎになってしまってる面々を、リーダーエリオが~ではなく、ハクがちゃんと抑える。リーダーとしての役目……と、エリオはまた反省し、他の面々も何気にハクの言う事なら直ぐに聞く様になっていたのだった。ミヤだけはかなり安堵したのと、……対象に見られていない事を察して少し寂しい気持ちになるのだった。
因みに、某スイートルーム内でもまるで連動しているかの様に、賑やかで騒がしかったりする。
「き、貴様!! ライト様への自分の尊き忠誠に対して破廉恥な呼び方するな!!」
「いやどう見ても良い歳した痴女が12~13歳男子の足に発情しているようにしか見えなかったぞ? プレイと思われても仕方あるまい」
「なななな!! じ、自分がは、ははは、発情などする訳ないだろう!!!」
「なら何故そのように狼狽える? 図星としか思えぬな」
主に、いつも通りゴールドがネムムを揶揄っているのだ。
ただ、エリオ達とはまたワンランク違う。まさにミヤ以上の接近をネムムはしている。
先ほどライトに対して出来すぎた真似をして不敬を働き……ライト自身も感情的になり過ぎてしまった自分を諫めて仲直り~と言った感じで締めようとしたのだが、ネムムがライトへの忠誠を改めて捧げたい! と申したのだ。
その結果が、あのゴールドが言う様にプレイ———ではなく、足の甲へのキスである。
その意味は【隷属】。それは至高の喜びでありネムムに限らず、配下の異性たちは結構褒美として求めている。
それなりに歳を取っていたら、ライトにも性欲が備わっていたとすれば……ひょっとしたら………と思わなくもないが、それ以上に復讐心がとんでもなく振り切っているので、
そして、どちらのパーティも最終的に考える事は一緒だった。
『いよいよ明日。ダンジョンへ』