白い狐は何を与えてくれる。   作:きらりんぱ三上

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こう言うお話書くのは初めてでございます。



犬?猫?いいや、狐か。

夜遅く、周りの家も消灯し、街灯だけが光る夜道で疲れた顔をした男が歩く。

 

「・・・ふぅ」

 

季節は夏、上に着ているスーツも会社から出るときは腕に掛け暑さを凌ぐ。

何時もキツく着飾っていたネクタイも緩め、早急に家に帰り風呂に入った後キンキンに冷えた酒を飲みゆっくり寝たい、そう思うほどにだ。

 

「ん・・・?」

 

一つの街灯の下で白い何かがずっと不動明王の様に動かず、ただ空の一点のみを見つめていた。最初は犬か何かかと思い、襲ってくるかもと考え白い何かの反対をゆっくり通りすぎるとしようと考え、歩く。

 

「(犬・・・?いや、猫?違うな・・・狐・・・?)」

 

チラリと横目で見ると手先足先、尻尾の先が黒色であとは全部白。

そして印象に残ったのが耳の下に垂れ下がっている毛に赤と白の飾りが付いていた。

 

「(珍しい生き物もいたもんだ)」

 

感想としてはこれで十分、なんの動物かも分からない物には手を出さないのが一番。

触らぬ神に祟り無しとはよく言ったもんだと今更ながらに思う。

 

「あっ」

 

横目でチラチラと見ていたのが悪かったのか一瞬目が合い変な声を出してしまった。

そしてそれを待っていたかの様についてくる狐、立ち止まり後ろを見ると狐も止まる。

だるまさんが転んだ状態で遂に家に着いてしまった。

 

「はぁ・・・お前も家にお帰り」

 

何時までもついてくる狐に促すように喋りかけるが目を真っ直ぐに合わせたまま微動だにしない、物静かな生き物だなと思う。一定の間を取っていた狐はしゃがみこんだ自分の足の近くに近寄り座る、そしてまた目を合わせてくる。

 

 

「あのなぁ、俺の家はペット禁止なの。早く家に帰らないと保健所に捕まっちまうぞ?」

 

危険もなさそうだと判断し狐の首を撫でる。

狐は一瞬首を傾げたが直ぐに目を合わせてくる、正直この動作は愛嬌があり卑怯だ。

 

「はぁ・・・どうしたもんかなぁ」

 

何時までも目の前に座る狐を眺め、しゃがみながら頬杖を付いて何処かに行くのを待つが一向にどこにも行かない感じである。

 

「おや?どうしたんだいこんな夜遅くに?」

「あ、大家さんこんばんは」

「はいはいこんばんは」

 

初老のおじいさんがアパートの一室の部屋から出て、アパートの目の前でしゃがみこむ自分を不思議とおもったのか声をかけてきた。

 

「いやー実はこいつがどうやら懐いてしまった感じで・・・」

「ほう・・・?初めて見る生き物だね」

 

どうやら大家さんでも分からないらしいこの生き物、見た目は狐だが白い狐だなんてものすごく寒い所にしか住んでいないイメージが定着している。最初は犬か猫かと思ったが顔つきが猫や犬じゃない。

 

「ふーん・・・飼うのかい?」

「いや、まだ決まってないんですけど・・・ペット厳禁ですし・・・」

 

そもそも飼おうっていう判断にすらならなかったが。

この狐なら騒がないだろうし煩くないし噛まないと思う、うん。別に飼ってもいいかな?

 

「わしゃ別に構わんよ?第一ペット禁止なのはばあさんが動物嫌いなだけだし、家から出さないなら何とも思わん」

「えっそうなんですか?」

「うむ、可愛い面しとるのう。ありゃ?」

 

大家さんが狐を撫でようとするとスイッと避ける狐。さっきは撫でさせてくれた筈なのになぜだろう。

 

大家さんは構わないと言ったしこれは飼ってもいいという事なんだろうか。

 

「うーむ、どうやらこの子は儂の事が好きじゃないみたいだの」

「ふむむ・・・そういえばなんで大家さんも外に出てきたんですか?」

「これじゃこれ」

 

ポケットからタバコを出した大家。

 

「ばあさんがうるさいんでな、外で吸ってるんじゃ」

「成る程・・・本当に飼ってもいいんですか?」

「わしゃ構わんと言っておるじゃろうに」

 

ふむ、大家がいいと言うのなら別に言いのだろうが。

自分が良くてもまぁ、意志の尊重って大事だ。この狐も自分に飼われるのはいいのだろうか?

 

「っという訳なんだがオレんち来るか?」

 

こくりと頷く狐。驚いた、人間の言葉がわかるのかこいつは?

いやいやまさか、勘違いだろう・・・。

でもまあこれはOKという事でいいのだろう。

 

「んじゃついてこーい」

 

階段をゆっくり上がると狐も上がってくる。

うーむ、なんと物静かな動物。頭も良さそうだ。

 

「(あ、ペット用のトイレとか持ってねえぞそういえば。餌とかどうすればいいんだ?ネコ缶でいいのか?)」

 

203と書かれている自分の家の鍵穴に鍵を回している時、一度もペット等飼ったことなど無いと今更ながらに思う。

餌やトイレ、手入れ等何にも分からない。不安が拭えない感があるが・・・。

 

「ただいまー」

 

出迎える人等いないけど、習慣として身についてしまっている。

ここに彼女とかいればもうHAPPYだと思うけど、そんな運命の人はいない。

去年のクリスマスも仕事をしていたし、クリスマスらしい事をしたと言えばサンタのコスプレをしているアルバイトのお兄さんの口車に乗せられ買ってしまったケーキとシャンパンを一人で食べたという事だけ。

 

「はぁ・・・」

 

趣味も無い、かと言って見つける事も面倒臭い。

仕事休みは缶ビールを煽り、テレビを見ながら寝っ転がる。

怠惰の生活、唯一の救いは生活費以外に金銭は使わない故に金が貯まる。

 

「ん?どうした?入ってこいよ」

 

何時までも玄関に座る狐に言葉を投げる。

真っ暗な部屋に照明器具のヒモをパチリと引っ張り寂しい部屋に光を照らす。

 

「疲れた、何時もの事だけど」

 

上着を無造作に投げ、ネクタイを解き、ワイシャツを脱ぐ。

そのまま浴室に向かい、洗濯機に服を放り込んだあとそのまま浴室のとってを掴みガラリと開けて入る。

家に帰ると必ずする動作、しかし今日は違う。

 

「さ、お前もおいで」

「・・・!」

 

一旦浴室から出て白い狐を抱き抱え、風呂に招く。

 

「ん・・・?お前本当に野良か?獣臭くないな?」

 

獣特有の臭いが無い、寧ろすこしいい匂い。

狐は最初抱かれたときは驚いていたが徐々に慣れてきたのかシャンプーやらリンスの容器の匂いを嗅いでいる。

 

「ん?そういえば動物にシャンプーっていいのか!?」

 

よくテレビか何かでペット用じゃないと肌が荒れるとかなんとか言っていたような気がする、困ったな。風呂に入れるのはいいとしてシャンプーか・・・。

 

「そうだ」

 

唸り考えること2分、いい案を思いついた。

 

 

 

 

 

 

「すいません、ペット用の洗剤ってありますか?」

「おんやまぁ久しぶりじゃないのアンタ!あるにはあるけど・・・なんで裸なの?」

「いやぁちょっと・・・」

 

腰にタオルを巻き、家をでて10M 向かいのおばさんの家にて。

この前仕事が早く終わり、帰り道を歩いていると見かけたおばあさんの買い物袋が重そうだったので手伝ったら向かいの家だったという偶然だ。

前に家に上がらせてもらった時ペットも飼っていたしこの人ならペット用シャンプーを持っている筈、一回きりの甘えだ。

 

「はい、ネコ用だけど大丈夫?」

「あ~・・・多分大丈夫だと思います、すいませんありがたく貸していただきます」

「いいのよ~まだ余ってるからあげるわよそれ」

「本当ですか?すいません、では頂きます」

「今度はお茶でも飲みに来なさいな」

「ええ、また今度伺いますね」

 

会釈をして早々と家に戻るとしよう、この格好じゃ不審者と思われかねない。

警察沙汰にでもなれば仕事首切り待ったなし・・・だ。

 

 

 

「シャンプー持ってきたぞー」

 

浴室に待たせている狐に叫ぶよう言うが人間の言葉などわかるはずもないだろう。

あくまでも独り言ではなく帰ってきたことを知らせるための合図・・・そう、これは独り言ではない。

 

「おぉ偉いな、ちゃんと待っててくれたのか」

 

誰もいない浴室でちょこんと座って待っててくれていた狐。

荒らすこともなく何をすることもなく座っていたので褒美に撫でてやる。

 

「そいじゃ洗うぞ~」

 

シャワーから出てくる水がお湯になるまで待ち、ゆっくりと背中から掛けてあげる。

 

「ほーれ暖かいだろ?」

 

本当に静かな動物だ、まるで人間の様にゆったり疲れを癒しているにも見える。

非常に人間臭い動物だ、まさか人間なんじゃないか?

 

「なーんてな、んなわけあるか。アニメでもないしな」

 

う~ん何ともこの狐が人間だったらなんともメルヘンだろうか。

一昔前、さえない男の家にペットとして迎えられたネコが実は美少女だった・・・なんていうアニメに心躍らせたがアニメはアニメ、妄想や幻想を映像にしただけ。

 

「なんとも羨ましいよなー」

 

わしゃわしゃと狐の体を洗いながら考えるが結局は幻想だなと思えてしまう。

彼女いない歴=年齢というのはここまでこじらせてしまうものである。

 

「よっし、おわ~!?冷た!」

 

ひとしきり洗い終わった後、シャワーから逃れた狐はブルブルと体を震わせ体に付いた水を取ろうとする。

 

「待て待て、俺も体洗いたいからな」

 

狐を抱き上げ湯を張っていない浴槽に入れ、自分の体を清めることにする。

最近浴槽にお湯を入れずにシャワーで済ましているのも面倒臭いからだ、第一お湯に浸かるのは冬だけで十分とむかしから思っていた。

 

「ふぃ~天国だ」

 

日々の疲れを癒す時間はやはり良い。

上司の暴言、客のクレーム、すべてのストレスが洗い流されていく。

ここで湯船にでも浸かれば相乗効果で疲労などなくなるのだが正直に言うと水道代とガス代をケチっているだけ、前口上とはなんぞや。

 

「うむ・・・やはり俺はイケメンだな・・・水も滴るいい男!」

「・・・クスン」

 

なぜか風呂場の鏡ではイケメンになる現象、この現象をバス・ロマン現象と名付けよう。

 

「む・・・?お前今鼻で笑ったな?」

 

ただのくしゃみに聞こえたが笑われたような気がした。

しかもこのタイミングでだ、笑われてないと思う方がおかしい、ましてやこいつは人間臭い。

 

「ま、いいか・・・そろそろ上がんべ」

 

温泉は好きなんだが、なんとものぼせるのが早すぎるため長時間湯に当たれないのも辛いものだ。

風呂は好きだけど長時間入れないから入る回数を増やすっていう・・・。

 

「そんなのは関係ないか、ほらおいで。拭いてやる」

 

バスタオルを広げて待つとそれに誘い込まれるように入る狐。

うーん、人に慣れているのかこいつは、耳についている飾りもあるしやはり誰かが飼っていたのかもしれない、とりあえず明日辺りに警察に迷い動物のあれでも報告をしておこう。

 

「お前が正式に家に来れるのはこの問題を過ぎてかな~」

 

ドライヤーで乾かしているとまたもやビクついたがすぐに冷静になる。

ふーむ、飼われていたと思ったが風呂にびびったりドライヤーにもびびったりとなると外飼いだったのか・・・?

 

「って・・・俺何で独り言言ってんだろ・・・恥ずかし!」

 

身内が一人もいなくなってから、家族というものが恋しくなってくる。

父親は自分が小学生の時に病気でなくなったし、女で一人で自分を育ててくれた母親も後を追うかの様に自分が成人になった途端苦しみもなく父親と同じ病気で死んでしまった。

兄弟もいないし身寄りが一人もいない、親戚はとうの昔に疎遠だ。

 

「つまんねー事言ってんなよ俺、もっと気楽にいこーぜ」

 

いいじゃない独り身、独身フォーエバー、好きなことをできるって素晴らしい。

彼女なんかいたら楽しいだろうが金も減るし自分の時間も費やすことになるだろうしな!

 

「でも、楽しいからこそ時間と金が減るのは当然だろうがな!」

 

貯めまくった貯金を、一度旅行なんかに一気に使っちまうか?いやいや、今の時代金がなければ何もできん。なにか趣味を見つけてだなぁ・・・。

 

と、声に出したり出さなかったりする思想をぶちまけている訳だが。

 

「一人言が多くなったのも年のせいか?いや、俺はまだ若い!若い部類に入る!」

 

悟ったかのような事を思う自分だが、今年で齢は23。

随分と達観していると我ながら思う。

 

「ほいっ、程よく乾いたな」

 

狐は濡れた体が乾いた同時に、またもブルブルと震える。

おお、モッフモッフしてるなこの狐。

 

「テレビよし、ビールよし!そして、メインはこれだ!」

 

3分で作れる安価なおつまみ。

名づけて ゴマ味噌ピリ辛豆腐。

 

「そう・・・100円あれば家の調味料で事足りる!これが最強のつまみ!」

 

まるまる豆腐をさらにドンっと置き、そこにゴマと少量のゴマドレッシングをかけ、七味をすこしパラパラと入れる。

 

「ゴマは荒く削ったほうが食った感がある、ゴマドレの割合は薄すぎず・・・かと言って濃すぎず、そしてひとつまみ以下の七味をアクセントとしてかける」

 

出来上がり。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

「うむ、やはり仕事の後は夜中の美人女子アナを眺めながらの情勢把握をして、ビールとつまみを食う、これはやめられん・・・ッ!中毒的だっ・・・・!ん?」

 

チョイチョイと腕を引っ張る狐。

 

「なんだ、お前も食いたいのか??すこし辛いぞ?」

 

箸でひとつまみ豆腐を削り、それを狐の前に持っていくとパクリと食べる狐。

美味かったのかわからないが変な顔をした後、またくれと言わんばかりにあぐらをかいている膝の上に乗っかってきた。

 

「お前もいける口か?ほれ」

 

つぎは三分の一ほど削り小皿に取り分けた豆腐を片手で口の目の前に持っていくとパクリパクリと食べていった。

 

「旨いだろう、納豆にマヨネーズをすこし混ぜて海苔に巻いて食べる物もあるが今はこれしかないからな。また今度食べさせてやろう」

 

食べ終えたのを確認し、同時に自分の分のつまみと酒もなくなったところで就寝する準備をする。

 

「どっこいしょ・・・ん?入りたいのか?」

 

下半身を布団の中に入れるとそれまで足元にいた狐が隣に来る。

布団をすこし上に上げると程よく温まった暗い布団の中に入っていった。

 

「クーラーが効きすぎたか?すこし下げてっと・・・寝るとしよう」

 

パチリと電気のヒモを引き、オレンジ色の常夜灯だけが光る部屋の中、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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