たったひとつの願い   作:Jget

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歯車の錯綜

 

「何のために……こんな?……くっ!?」

 

立ち上がろうとしても、本当に体が言うことを聞いてくれない。

力が思うように入らない。

立ち上がろうとして床に転がり、また立ち上がろうとして床に転がってしまう。

 

「身体は動かないよ。血液の中にナノマシンを入れていてね。力を入れようとするたびに体の動きを止めるように働いているんだ」

「どうして。こんなことを……エクスキューショナーに何をした……?」

 

男は、目の間にいるエクスキューショナーの肩に手を当てる。

ハンターは、それに我慢ならずに抵抗しようとしてもナノマシンによって体の動きが止まってしまう。

 

「彼女はね、戦場で大破していたのを回収したのさ。彼女の改修はそれこそ、大変だった、思う通りに治ってくれなくてね。まず、コアを収める位置が直せないくらいに歪んでいたから、別の位置にコアの収納する位置を作って交換した。結果は動いてはくれたが会話すらならず、暴走して逃げ出してしまったんだよ」

 

手術?

よく見ると、腹元にかすかだが縫い目のような跡が見える。

 

「偶然、AR小隊の隊長が稼働停止になるくらい痛めつけてくれたおかげでじっくり改造しなおすことが出来た。おかげで彼女は私の理想を受けた完璧な姿にすることができたのさ」

 

完璧な……姿?

生気が抜けた表情のエクスキューショナーが立ち上がった。

 

「手術の準備が出来たようです。”ドクター”」

 

エクスキューショナーが手術といった。

まさか……まさか、自分も目の前のエクスキューショナーみたいにすることを話しているのか?

 

「そうか……では、さっそく君を完璧な姿に変えてあげよう」

「はい……ご主人様」

「く、くるな……わ、私は……!」

 

ぷつり、と小さい音と首元に小さい痛みを感じ体中の力さらに抜けていく。

ばたり、とハンターは床に倒れた後、

エクスキューショナーがハンターを肩に背負った。

 

「では、始めようか。連れて行ってあげなさい」

「はい……ご主人様」

 

逃れようとしても、元から体格の大きいエクスキューショナーの腕力と薬でごっそりと削り取られた非力な筋力では逃れることが出来ない。

やがて、手術室に入ると本当に手術で人を置くような台にハンターは寝かせられると、手足を拘束具で締め付けられた。

 

「う…あ…」

 

天井を見ると、無数のメスを動かすアームが自分の視界を行き来している。

 

「これで君の身体を正しいものに入れ替えるのさ。麻酔をかけてあげるからね。痛みはない、目覚めたときは君は正しい姿になっているはずだ」

 

メスが近づいてくる。

自分の身体をバラバラに引き裂こうと近づいてくる。

 

「ひゃめろ……ひゃめっ……あ、あ、あぁぁぁー……あ」

 

弱弱しい最後の悲鳴が切られた糸のように、ぷっつりと止まってしまった。

そして、黙々とメスが肉を切る音と”正しい姿”に変えるための機材が無理やり押し込まれる音だけが、響き渡っていた。

 

……

 

「ようやく……終わった。手伝ってくれてありがとう、M4」

「指揮官こそ……お疲れ様です」

 

STAR-15を救出してユーリの指揮下に入ってはや1週間……

まだ、AR小隊最後の一人であるM16A1を救出するための情報と算段が決まっていないもののある程度、このグリフィンの基地はある程度の平穏を取り戻していた。

 

しかし、ユーリとM4A1が平穏を手に入れたのは戦いが起きていないことだけではなく……

この執務室の机に積まれていた、無数の書類の山という強敵をさばき終わった事を実感した時だろう。

 

「はあー……お疲れ。いやあ……肩と目が痛いよ……」

「同感です……」

 

STAR-15を救出して、軽い宴会が終わった後、ペルシカさんに救助の報告を入れたら……なぜか怒られた。

 

ペルシカさんの言い分は要約すると「STAR-15という怪我人を無理やり戦わせるなんて許せることじゃない」ということらしい。

どうも、AR小隊を失うなうことはI.O.Pにとって許しがたい損失らしい。

そして、その損失に繋がる指揮官の判断は無謀の極みと散々説教を食らった。

 

そして、驚くべきなのはそれに抗議したのが説教を喰らう羽目になったユーリでもクルーガーでもなく、AR小隊の隊長であるM4A1だった。

 

この抗議の内容も要約するが「怪我人を戦場に出したくなかったら、墜落覚悟で自分でヘリを飛ばせ」とか「これ以上、何かを言うようだったらパワハラで訴える」ととても開発者兼雇い主にするのはためらうような脅しじみた内容だったのは確かな気がする。

 

その場は一旦M4A1のお陰で収まったが、アッチはそれで終わりにしたくないらしく、報告書とは別に報告書と書かれた始末書をクルーガーと作戦と今回の作戦に参加した指揮官とそれを統括した上の人、そしてAR小隊の開発に関わったI.O.Pの人たちにそれぞれ一つずつ書くことになった。

 

一応、書類仕事には慣れているのでゴールこそ見えていたけれど、もし見かねたM4A1が手伝ってくれなかったら……

トイレと食事以外ずっと机に向かいケツが切れそうになるのを必死に抑えながら3日…いや、4日どっちでも良いがその始末書を書き続ける羽目になったに違いない。

 

「これを封に入れて……配達を申請して……これでよし」

「…お疲れ様です」

 

そして、さっき机の上に置いていた紙束を送りつけて、厄介ごとが片付いた事に安堵を覚える。

手書きで書かせて、送らせる当たり相手の悪意を感じる。

 

「お疲れ様です。これを飲んでください」

 

そして、M4が差し入れを渡してくれた。

紅茶か……好きな人は好きな味らしいけど、私にはそれがよくわからない。

あぁ…安心したら放って置いたことが気がかりだ、身体弛んでるだろうなぁ…トレーニング暫く増やさないと…

 

「始末書の書き写しをしてくれてありがとう。……悪いね、本来する筈のない仕事なのに」

「…いえ、指揮官は私達の為にここまでしてくれたんです…寧ろ、あのペルシカさんの子供じみた……いいえ、何でもありません」

 

M4A1も思うところはあったんだろう。

おとといからサポートの為に副官を買って出てくれて、始末書の手伝いをしてくれたのはありがたいけれど、おざなりにしていた事を任せてしまったが…大丈夫だったろうか…

 

「指揮官様!!」

 

倉庫の辺りでカリーナが飛んでもなく怒っている様な声が聞こえる、やな予感を感じつつも逃げる事は出来ないので戦々恐々としながら倉庫に向かった

 

「どうしたんだ?一体?」

「どうもこうもありません!!一昨日からずっ〜と!!ここの倉庫辺りのチェックが入っていませんよ!!」

「え?」

 

もし倉庫の備蓄とチェック量があっていなかったら本当に計画に支障でるのは目に見えている。

 

「本当です。幸い自分が使った量合わせて帳簿のズレがなかったのが不幸中の幸いですわ」

 

その後私はたっぷりとカリーナに絞られることになったやむ終えずでも仕事を出来なくて怒られる…これならまだ安いほうだ。

 

「ごめんなさい!!!」

 

食事を取る前に少し整理をしようと思って執務室に戻ったらいきなりM4が入ってきて私に向けて謝罪をした。

どうやらM4は自分が書類に追われている事の間に仕事を代行してくれていたがどうもその間にいくつかの仕事を忘れてしまったらしい。

そのまま気づかないで、忘れてしまい、自分がカリーナにどやされている時に偶々通りかかり仕事を確認していたら穴があった事に今気づいたらしい。

 

「…はぁ。いや責任はこっちにある、気にしなくていい」

「…ごめんなさい」

 

その場でM4に「次は気をつける様に」何て言えなかった。

本来やらなくて良い仕事をやらせたのはこっちだ。

M4A1が出したミスは自分が取るべき責任なのである。

だから、ただ「気にしなくていい」としか言えずそのまま返す事しか出来なかった。

 

夕食でも先に食事を食べ終えてしまった様で食堂に着いたらSTAR-15と一緒に部屋に戻ろうとしていた…

流石にM4からしたら私と一緒に食事を取るなんて、気不味いも良い所だろうか?

 

先程ペルシカさんからM4A1に一度I.O.Pに戻る様に言われたことは関係ないと思いたい。

ならばせめてSOPⅡやカリーナと行きたがったが…2人とも先に食事を終えていたらしい。

 

 

食事をとりメールをチェックしたらクルーガーからメールが送られてきた。

 

"未読メール1件 差出人 ベレゾウィッチ・クルーガー"

 

「……ヤな予感がする」

 

軍人の頃から思っていたが、立場が下で気に入らない所属の相手なら時間ギリギリでも問題ないとでも思っていないか?

 

【件名:

ユーリ

突然だがこれからお前には多くの指揮官が集う会議に出席してもらう。

要件は今後のグリフィンの運用体制を内外の存在にどうアピールするかの方針を定めることになるだろう…

 

グリフィン社員として空気を感じてもらうだけではなく、運用に対する意見も聞いて置きたい。本来は軍事顧問して雇うはずだったからな…

 

なお、分かっていると思うがこの会議は新人の貴様を入れると言っても機密性の高いものとなる護衛の人形も多くは連れて行かない、1人くらいが望ましいだろう。

 

追伸

 

来なければ今後のお前の待遇は保証できかねる。】

 

「それよりも件名が入っていないんだけど…」

 

給料だの、人使いなど、色々難ありの内容であったがまず最初にユーリから出た言葉これであった。

 

とりあえず、”あの方”にこの件を報告しておこう。

 

 

午後9時

 

訓練室でサプレッサーによる射撃音が減衰して響かない音が放たれる。

STAR-15が長いバレルを生かした中〜遠距離射撃の訓練をしていた

 

漸く全ての目標が打ち終わり、その訓練が終わった事を示すブザーが鳴り響く。

 

「…」

 

STAR-15は表示されていたテストの結果を神妙な面持ちで見つめていた。

結果はB+。

病み上がりとはいえ、エリート人形は普通Aの成績をとるので、STAR-15にとっては悪い点数だ。

 

「やぁ」

 

入り口からユーリがSTAR-15に声を掛けた。

 

「…指揮官ですか。如何なさいました?」

「じつは、君に頼みたいことがあって」

 

ユーリがSTAR-15のいる射撃台の所まで寄ってきた。

 

「……はぁ、私にでしょうか?」

「そうなんだ。君にしか頼めないんだ」

 

STAR-15は少し警戒した顔で何の話でしょうか?と質問するとユーリは少し申し訳なさそうな顔をして、

 

「明日、保護区域内でグリフィンの方針を決める会議をするらしい。その会議に私が呼ばれた」

「……はぁ。おめでとう、ございます?」

 

まぁ、STAR-15には”だからどうした”としか思えないだろう…

自分も上司から聞かされたらそう答える自信がある。

 

「それで、その会議の護衛を君に頼みたい」

「護衛、ですか?」

 

訓練室の雰囲気が変わる、まるで鳩が豆鉄砲食らった時の様に…

それはそうだろう先程まで自慢話かと思いきやいきなり自分も来る様にと言われたのだから。

 

「あの、聞かされている思いますけど、私の得意分野は狙撃といった支援ですよ?それなら、JS9でいいのでは?」

 

STAR-15がその役回りは向いていない事を説明し出した。

 

「JS9の実力が不満なら、M4A1…もしくはM4SOPMODⅡに頼んだ方が良いかと思われますよ?」

 

成る程……STAR-15は他の2人に比べると論理的な所が強い様だ。

 

「実は、SOPⅡとJS9は明日から非番で休み、M4はペルシカさんがどうしてもという理由でさっき研究室にまでくる様に、と呼び出してしまったんだ」

「貴方のスケジュール管理に問題がある様に思えますが…」

 

呆れたSTAR-15はこの指揮官は仕事をする気があるのか?と目を細めてそう思ったに違いない。

 

「それが今さっき、クルーガーの奴…いや、クルーガー社長が私を入れることにした、というメールを送信してきたのさ」

 

そう言って軽く端末を弄りSTAR-15に画面を見せる。

 

「うわ……絶対これ、あなたに踏み絵を…ンン!!急に決定された事だった様ですね…後、なんで件名がないんでしょうか?」

「それは昔からの癖だよ」

「癖?指揮官、貴方はクルーガー氏を前から知っていたんですか?」

 

ユーリはしまった…と内心そう思った。

別に話してもいいのだろうけれど、コネで入ったと知ったらグリフィンで今いい思いをしていないAR小隊たちに”騙された”と思われかねない。

 

「…I.O.Pのお偉いさんがM4の説明をするときにそう愚痴を並べていたのさ」

「…成る程、そういえば件名云々ならI.O.Pの際に話を聞きましたが、そういう事だったんですね」

 

咄嗟にそれもそうかと納得できる様な言葉を並べてSTAR-15の疑問を解消させる…危なかった。

 

「理解してくれて嬉しいよ。それで護衛の話なんだけど……さっきも話した通り、君が来らないとか行きたい区内というなら、1人で行くよ。安全な都市で会議をするんだ、護衛も必要ないかもしれない」

 

必要ない。

ユーリはSTAR-15に気を遣って表現したつもりだが、STAR-15には何らかの火がついてしまった。

 

「いえ、行きます。今までグリフィンには管理体制が整っていると思っていましたが…少し気になり出したので」

 

どちらかといえば会社の怠慢というよりもクルーガー個人の問題なのだが、それはそれとして助かった。

STAR-15は後々になって利用された、と感じるかもしれないがこれは本当に偶然が重なって始まった事なのだ。

 

これもクルーガーという人物がこっちのスケジュールを確認しないで日付ギリギリにメールを送りつけたせいだろう。

 

話が終わるや否やSTAR-15は訓練に戻り、ターゲットを狙い撃ちにした。

ちょうど良い、鈍った身体を直すにはもってこいだ。

 

「指揮官様も武器を持っているようですが、どれくらいの実力か見せてもらえますか?」

 

さっそくSTAR-15はこちらを値踏みしているらしい。

実力がよくない指揮官は信頼しない。

その実力主義なところは嫌いではない。

むしろ、気が合うかもしれない。

 

そう思ったユーリはAK-102を構えて、射撃訓練を開始するボタンを押した。

ブザーと共に、ターゲットが次々と立ち上がる。

 

安全装置を人差し指で解除し、素早くグリップを引き上げる様に銃を構えて、最初に現れたホログラム兵に弾丸を当てる。

 

そして、次々と現れる兵士に対して順番に胸元を狙い2発ずつ打ち込む、

 

途中で現れた人質と犯人のホログラムには犯人に狙いを定めて引き金を引き絞り、

リロードする際は素早く、それとも確実に戦術に合わせるタクティカルなリロードを入れ替える。

 

大切なのは堅実さだろう、素早くそして、出来るだけ正確に相手を倒す事を中心に進めていくと訓練が終わり結果が表示された。

 

結果はB。

人形たちでいう「まあ、頑張ったね」というラインの結果だ。

 

「(やっぱり、エリート人形の壁は高いな)」

 

自分が出したスコアとは比べものにならないほどの高得点をSTAR-15やM4A1…果てはSOPⅡまで叩き出している…

 

確かに戦術人形の方が信用できる、という意見も納得できる…

はぁ、脳信号とリンクして射撃の能力が格段に上昇する軍用アーマーがあれば話は大きく変わるんだけど……。

しょせんはたらればの話だ。

 

「どうかな?」

「……」

 

ユーリはさっき渡しそびれていたペットボトルの水をSTAR-15に手渡す

水を受け取ったSTAR-15は自分の結果を見るなりまるで値踏みする様にユーリをジロジロと見回した。

 

「……流石に、最低限の能力は備えているのですね。素晴らしいと思います」

 

気になるところがあったらしく動画を再生してSTAR-15は確認しようとしていた。

ちょっと傷ついたが、自分の方が実力があるという意思表示でもあるんだろう。

「お前より、有能な私がお前の言うことを聞いてやっているんだぞ」と。

 

「…それでは、明日はよろしくお願いします」

 

踵を返して、STAR-15は自室に戻っていく。

彼女話してわかったことがある、STAR-15は確かに真面目で冷静な判断が出来る合理主義者…

だが、それは内心自分が誰よりも優れていたいというコンプレックスが原因なのではないかと思う。

 

だからこそ、実力で相手を値踏みしたり、嫌味な発言をついついやってしまうのだろう。

……自分は優秀なはず。優秀でありたいと思っているから…

 

STAR-15に対するとりあえずの仮定は付けた。

だがそれが正しいという保証ない。

 

その事を確かめる事もついでに護衛任務で彼女の良いところを出来るだけ具体的に探し出してみよう、それこそ隅を突く様に……

 

もし、仮定正しいとするのなら、そのタイプのキャラクターには抽象的な褒めかたをすれば返って機嫌を悪くしてしまう。

 

反対にどこがどう助かった、どう役に立っているかを詳しく説明すればその場では納得しないが自分の事を見てくれている人だと、判断するかもしれない。

 

という考えをベッドの毛布の中で邪推していたユーリであった。

 

 

 

 

……

 

何があっ…クソ!

 

おい、何をした?……2……K……?

 

仕方なかったのよ、アイツ…武器を持ってたんだから

 

ここは前線基地だそ!?味方の兵士が武器を持っているのは当たり前だろうが!!

 

昨日私たちを撃った奴と同じ人種が持っていたのよ?あんな奴らが銃を持っている時点で…

 

仲間を撃つなっていう意味が分からないのか!!

 

アンタこそ、アイツらが仲間を名乗る資格がないっていうのをもう忘れたわけ?本当に私の父親役!?

 

いい加減しろ!今回の事はこの部屋にしっかり録画されている。…お前は終わりだ、…証拠データを

 

確かに記録していたわ。でも、私は起訴されない、記録は今頃消えているだろうから

 

どういう事だ?

 

わからないの?アンタの仲間を思いやる気持ちはロシア人だけで結構なの。他の劣等民族も助けようとするなんてね、部隊の毒なのよ!

 

ふざけるな…こんな事、もう沢山だ…!

 

……

 

「うっ……」

 

目覚まし時計が、けたたましいベルを鳴らしユーリは目覚める。

どうやら、あまりよくない昔の話を思い出したらしい。

 

いじめをする余裕があった頃だから、第三次世界大戦の少し後の話だっと思う。

軍隊での、同じ部隊通しのいじめ。

人種、出身、志願理由、そんな些細なことでいじめは起きた。

 

そして、そのいじめを快くは思わないと思いつつも表立ってやめろといえない環境。

それは、自分にもあった。

 

「はぁ…」

 

目覚めが悪い。

昨日の疲れのせいだろうか?

気だるい感覚を取り払う為にシャワーを浴びる。

 

雨のようなシャワーの水が流れて落ちて跳ねる、それが高速に繰り返される音を聞きながら身体を洗い流す。

 

熱湯とぬるま湯の中間を意識した様な温度が身体を取り囲む…

そしてシャワー室から出て冷たい風を感じ、目を覚ます。

 

この地域ではもう寒さが始まっている目を覚ますには十分だ。

 

会議に必要なものをすべてそろえて出かける準備を完了させると

午前7時になっていた。

少しだけ、余裕がある。

 

”あの方”に伝言でもいいから報告しておこう。

 

「ユーリです……ああ、起きてらっしゃいましたか。はい、今日は昨日報告した通り、グリフィンの今後の会議に参加します……そうですね。私もあなたと同じようにうんざりするような展望を聞かされると思いますが、ダメ元で頑張ってみます」

 

電話を切って、出かけるために駐輪場に向かうとSTAR-15が待ってくれたらしく、合流できた。

 

「スーツですか?良い格好です」

「ありがとう」

 

とりあえずグリフィンから支給されていたスーツを昨日のうちにアイロンを掛けてシワを無くして開けて良かったと思っている。

 

「移動手段は?まさか、ヘリではないでしょうね」

「違うよ。コイツに乗るのさ」

「え!?、これに乗っていくんですか!?」

 

STAR-15はバイクをガレージから取り出してエンジンをかけるのを見て叫び声に似た声を上げた。

 

「心配するな、君の銃もこのトランク中に入るさ」

「あ。ありがとうございます…って!なんの心配しているんですか!?」

 

私としても車で行きたかったがレンタカーは数時間くらいでは要請出来やしないのが現実である。

 

「ちゃんと安全運転を心掛けるさ。AR-15、バイクに乗った経験は?」

「……初めてです」

「大丈夫、すぐ慣れるさ」

 

渋々という様な表情でSTAR-15はユーリの腰に腕を回して対ショック姿勢を取る。

 

「それでは、行きますか!!」

「ちょっ、速ッ!?……い、いやあああ!!!」

 

勢いよく加速したバイクの感覚にSTAR-15は悲鳴に近い声を流れされる様に叫んだ。

 

午前9時

 

「よぉし、着いたよ!STAR-15」

「アリガトウゴザイマス」

 

それほどスピードは出していないはずなのだが、STAR-15は顔を青くさせて呟いた

 

「……バイク、恐ろしい乗り物ね」

「それにしても……」

「なんでしょうか?」

 

減速してすっかり青い顔も引いた様で落ち着きを取り戻したSTAR-15が尋ねる

 

「この施設のことで引っ掛かってね。ここはあの"グループ"の施設だ」

「…"グループ"?あぁ…グループ企業連合の子ですね?あそこはグリフィンと数少ない業務連携を組んでいる経済的パートナーとも言える存在です」

「へえ。よく勉強しているんだね」

「……他が勉強していないだけですよ。確かにグリフィンの施設ではなく他社の施設で会合とは…妙ですね」

 

ハッキリ言って注目をして欲しい所そこではない。

昨日の襲撃のやり方……あれは、グループのやり方だ。

グループが戦場で置いてけぼりになったり倒された人形を秘密裏に回収や捕獲している事はUMP9も確信していたらしく、証言もしたらしい。

 

それなのに警戒するでもなく、グループの施設を借りるとは例え"グループ"が自社の社員を強奪したとしても、それ以上の利益があるか、それとも…

 

いや、これ以上確証のないことであれこれ考えても仕方ない。

ただ…STAR-15を連れて行くのは良い判断では無かったかもしれない。

 

「ユーリ指揮官ですね、どうぞ。皆様も後から来られる予定です」

「分かりました。それと…彼女は」

「ユーリ指揮官の護衛を務めるST STAR-15です、よろしくお願いします」

 

その後は軽く手荷物検査をされ、STAR-15と自分が持っていた武器を預けて会合の場所に向かった。

 

「では、会議の後に」

「はい」

 

予定の部屋に入ってみるとそこにはテレビドラマで置いてある様な円卓が部屋の真ん中にドンと置かれてあり、そこに自分より早く来ていたグリフィンのお偉方らしき人達が座っていた。

 

「おやおや、入って早々にイレギュラーを起こしたユーリ指揮官のご登場だぞ」

 

促させれる箇所に自分が椅子に腰を降ろすと待っていたと言わんばかりの嘲笑が飛んでくる。

 

「身の丈に合わない若造が無謀を働いただけです、笑って頂きたい」

「…」

 

部屋の笑い声が少し収まった。

 

こんな馬鹿にというか嘲笑する相手には自分からもいいぞ、もっとやれと促せば舐めているのか!!と怒鳴れば自分の顔に泥を塗る、笑えば自分が程度が低いと示してしまう。

上手くやって行く奴は勝ち続ける奴ではなく、負けない奴だと経験場判断している

 

「まぁいい、どれだけそのことを責めてもユーリ指揮官が"成功させた"という事実は覆らない」

 

高官の1人は私がやった事に正当性が有ると判断したらしい…粗探しは辞めるつもりがないが…

 

「ユーリ指揮官。君は前回問題を繰り返し、危険な存在として目をつけられたSOPⅡの件をいくら自分に降りかかった事とはいえ、許したそうだな?」

 

「ええ、間違いありません」

 

その事か…きっと自分達に襲いかかったらどうするつもりだと聞いてくるんだろ?

 

「それは、他のグリフィン職員や保護区域の住民に危害が発生した場合、お前はど

 

そら見ろ、だが確かに弱った。グリフィンは兎も角否応なしグリフィンの、恩恵を得ている所謂、無辜の民と言うのもあるだろう…

 

「そのことに関しては、現段階ではまだ難しいですが、SOPⅡに…」

 

などと自分の胃が痛くなるような槍のようにくる質問による責めをどうにか言質を取られないように躱したり、言葉を選んで回答をしている内に

 

「人気者は辛いな?ユーリ指揮官」

「…貴方ほどではありませんよ、クルーガー社長」

 

クルーガーが入ってくるとグリフィンの高官達はクルーガーの方に目と身体を向け敬礼をした。

 

…ちなみにクルーガーなどの上官が見えたら敬礼するなんて決まりを決めたと言うことはやはり軍隊式の規範がグリフィンの人達には叩き込まれているという事なのだろう。

 

「それでは、会議を始めようじゃないか」

 

やれやれ…昔はあんなに暴れん坊で抑えが効かない上にかなりの口の悪さで有名な脳筋野郎が今ではガチガチの規則の硬い、大手民間企業のトップとは…世の中や人はどんな風になって行くか予想もつかないな。

 

そう思いながら配布された資料のページをめくった。

 

会議が始まったタイミングで護衛の人形は部屋を出され会議室に通じる扉の前で立たされていた。

 

「アンタ、AR小隊の人形でしょ?」

 

護衛の1人が、相当暇なのかわざわざ部隊名でからかうようなニュアンスでSTAR-15に話しかけてきた。

 

「そうよ。それが何か?」

 

STAR-15は相手を一瞥する。

 

「一度部隊を首にされたって聞いたけど、また新しい指揮官に拾われたんだ。人気者は違うねえ。やっぱり、取り入るのもコツっていうのがあるの?」

 

目の前のこいつは、私がユーリ指揮官に”体を売ったのか?”と聞いているのだ。

今、廊下には私とこいつ2人しかいないから止める奴もいない。

鬱陶しいことこの上ない。

 

「私がそんなことする人間に見える?こんな、自慢できるような体つきでもない私が?」

「ハハ、私は別に売春したなんて、一言も言ってないわよ?って事は……アンタを拾った指揮官は何も知らない純情さんか、タダの怖い事見たさのバカなんだろうね」

 

チッ…どうやら思った以上に心理戦や洞察力に鋭いようだ、今すぐ口を塞ぎたくなる。

 

「さぁ、新人の指揮官だからね。押し付けるにはちょうど良かったんじゃない?そう言うアンタはどうなの?アンタは自分の指揮官と情事にでも励んだわけ?」

 

正直質問を質問で返すのは気にくわない、だからわからないと言う回答を先に提示して質問を返した。

 

「うん、当然でしょ」

 

こいつ、特に隠しもしないであっけらかんとと話すとは……

かなり、面倒くさい女らしい。

 

「ま、こんな荒廃寸前のこのご時世だし、どんな奴がいても不思議じゃないよ。私の指揮官はセクハラが多いけど暴力は振るわないしクソみたいな命令は…まあ、それなりにあるけどそれでもフリーランスの人形とかに比べたらやっぱと楽して生活できてるしね」

 

そう言ってグリズリーは左手の薬指にある銀の指輪を見せつけた。

 

「グリズリー、アンタ"誓約"してるの?」

 

ここまで言ってなんだが私はグリズリーがグリズリー自身の指揮官を嫌いな比率が多い普通の印象でいる思っていた。

 

「レプリカだよ、レ、プ、リ、カあんな高いのは買えないけど愛の証として知り合いの職人さんに作ってもらったんだってさ」

「それでも嵌ると言う事はアンタも指揮官の事を愛してるって事じゃないかしら?」

 

それを聞いたグリズリーは一瞬目を見開いた後いつもの様な表情に戻り、

 

「…フッ、一本取られちゃったねこれでおあいこかな?」

「…勝手に競っていただけでしょ?それに、私はそもそも恋なんて……」

 

STAR-15の言い訳が突然なり響いた、銃声によってかき消された。

 

 

 

「全員動くな!!」

 

会場内に銃声がなり響いた後数十名の団体が会議室を占拠した。

 

「皆さん無事です…ギャッ!!!」

 

聞きつけ状況を確認する為にドアを開けた戦術人形が素早く撃ち殺され、その場に倒れ込み血しぶきが上がり、悲鳴が響き渡った。

 

「貴様、一体なんの真似だ」

 

クルーガーが団体のリーダーと見られる男をひと睨みして質問したら、

 

「我々人権主義は貴様ら”グループ”を許さない!!」

「貴様ら…何か思い違いをしていないか?」

「思い違いなのではない!!この堕落し、退廃した資本主義に染まった愚にまみれた貴様に我々が鉄槌を下さなければならない!!」

 

リーダー格が東ドイツ製の5.45弾を使うAKの銃口を向けた。

 

 

……

 

侵入した団体の男たちが、会議室に居たクルーガーたちを縛り上げていく。

 

「これで全員だな?」

「はい、問題ありません」

「よし、連れて行け!妙な真似をするなよ、謝って撃ち殺されてもそれは貴様らのせいだ!」

 

そう言って人権団体はクルーガー達を含めた高官達を拘束するとその部屋から連れ出し始めた。

 

その様子を隠れて見ていた、ユーリは舌打ちしていた。

 

「…チッ、マズイ事になったな休憩をしている間自分がトイレに行っている間にこんな事になっているとは…」

 

扉の隙間から連れ出されて行く高官達を覗きながら、これからどうするかという事を考えていた。

 

襲撃を受ける数分前……

 

「はぁ…あの様子じゃ、あと3時間は話し込むだろうな」

 

会議の内容は鉄血の絶え間なく、そして増大し続ける戦術、及びこれからグリフィンの体制はどうすべきかと言う議論だった。

 

お偉方の会議という物はどうもその場の解決策を見つけるというよりも誰が一番責任を負わなくていいか、という話に重点が置かれやすかった。

 

”あの方”の言う通り、新しい知見は今のところ見つけられない。

 

「せっかく手に入れた地位から蹴落とされるのは誰だろうとごめんだよね…」

 

そう思いながら、端末から帰りが君より遅くなるだろうと言うメールをM4とSOPⅡに送る。

すると、さっそくM4A1から返信が来た。

写真が添付されていてにはこの町のお店で買ったと思われる、ケーキの写真が映し出されていた。

なんと、M4A1も休暇で同じ町にいるらしいから、一緒に帰ってくれるらしい。

でも、ユーリたちが移動に使ったのは二人用のバイクだから……どう一緒に帰ればいいんだ?

 

洗面台に置いた携帯を拾おうとした瞬間、銃声が響き渡る。

乾いた音が聞こえたタイミングと同じタイミングに携帯を持っていた左手が手首に引っ叩かれた様な痛みが走る

 

「動くな!!!」

 

どうやら襲撃者の様だった、最悪だ。

「そこに伏せろ!!」

 

言われるがまま横になる、まずは安全確認か…

 

「銃を持っていただろ!!出せ!!」

「ち、違う!!携帯だ!!」

「嘘をつくな!!武器を持っていたのは……」

 

襲撃者が手に持っていた携帯を銃だと勘違いし、左手に目線を映した時に……ユーリは素早く、右手でMP443を引き抜いて、股の間から出来るだけ多く、発砲した。

MP443のスライドブローバックが太ももにぶつかり薬莢が手に当たる痛みを感じながら起き上がり、襲撃者のライフルを奪うととどめの一撃を与える。

 

「この野郎…やってくれたな」

 

先程持っていた銃弾で完全に穴が空いた携帯をポケットにしまい、先程倒した襲撃者からベラルーシ製のブルパップAK”SMAR-100BPM”と予備マガジンそして、無線を奪う。

 

そして、嫌な予感がして会議室に急いで戻ろうとして今に至るのだ。

それにしても、他の通路で待たせていた…STAR-15は無事なのだろうか…もし、単独行動をしているしたら…

 

「武器を取りに行っているかもな…」

 

 

同じころ……

 

M4A1はケーキを食べながら、携帯を弄っていた。

まさか指揮官が会議に行っている町が、自分の休暇先と同じになるなんて思わなかった。

 

町はいい、閉塞的で自分の悪いところしか知らない基地よりこういう自分のことを知らないで、ただ他人として接してくれる町の方がM4A1にとっては過ごしやすかった。

 

 

「……臨時ニュース?」

 

M4A1の携帯電話に映っていたのは、ユーリたちが会議に使用されていた会場がテロリストに占拠されたというニュースだった。

 

同時刻

会場の受付、

「クリア…襲撃者は居ないわ、そっちは?」

「部屋を確認したけど、見つからなかった…どうも玄関周りにいるのは危険だと考えたみたいだね」

 

あの後STAR-15とグリズリーは装備を持っていない今の状況では不利だと判断して、預けていた武器を回収することにした。

 

「…武器の場所はここね…チッ」

「どうしたの?…あぁ…もう」

 

烙印システムを頼りにどこに武器があるかを突き止めたが、武器は金庫の中に仕舞われていた、しかもこれはおそらく最新式だろう…

 

「どうする?殴って壊す?」

「今時の金庫が戦術人形を意識しないと思ってるの?」

「言ってみただけよ」

 

最新式なら人形の並外れた一撃だろうと問題なく守りきれるだろう。

なぜなら材質はあのフォースシールドと同等の素材でできている。

 

「冗談よ、でも本当に困ったね」

「…本当にいた。はぁ…よかった、見つかって」

 

落胆しているタイミングでふと声がして慌ててSTAR-15たちは振り向いた。

その視線の先にいたのは…襲撃者の銃を奪い取って武装していたユーリだった。

 

「指揮官、無事だったんですね?」

「まぁ、ね……ここから出て、助けを求めようとしたんだが……君はその金庫の前で何をしているんだ?」

 

ユーリはスリングを引っ張りSMAR-100BPMを背中にかけるとこちらに近づいてきた

 

「保管された武器がここにあるんですが…何分開け方がわからないですよ」

「そう言うことだったか……」

 

グリズリーの回答に納得したユーリは何かを取り出した

 

「何か分かるかい?」

「随分特殊なグレネードですね?」

 

パッと見た感じは丸いボール状にグレネードでピンが付いていない、普通とは違うと考えるには十分だろう。

 

「電磁パルス…手榴弾、通称"EMPグレネード"と言われている、占拠してた連中が持っていた」

 

STAR-15は愕然とした、人形の素材は天然物も含まれているが大半は電子機器で構成されている。

 

人間なら少し感電する程度だろうが、自分には電磁障害は致命的だ。

 

「離れて…」

 

STAR-15達が離れたのを確認して、ボタンを押してグレネードを金庫の前に転がす、転がったグレネードは数秒後高出力の電磁パルスを発生させ金庫と周りののシステムをダウンさせた。

 

安全の為金庫はロックを自動で解除されて、ドアが開いた。

 

「よし…これで戦える」

「…そうね…あ、しまった…」

 

金庫から武器を取り出して初弾を装填させてサイトを合わせる為に構えた瞬間STAR-15の顔が歪む。

 

「どうした?」

「スコープがイカれた…照門が綺麗に表示されない…」

 

EMPグレネードの影響でレンズが正しく表示されなくなり、スコープが機能していない。

STAR-15はスコープマウントを取り外し、フリップサイトを立ち上げる。

 

「これから、どうします?」

 

武器を取り戻したのは良いが、肝心の助けはまだ先だろう…

外に出ようとしても、扉は手動でロックがかかっているらしく、鍵でもないと開きそうにない。

 

<聞こえるか、この大地を奪った者共よ>

 

いきなりスクリーンに覆面をした男達が映し出される、その後ろには先程会議に出席していたメンバーもいた。

 

<我々は人権主義は、このグループ企業連盟の建物を占拠した。>

 

<グループ企業連盟は弱体化した土地に強引に介入し、暴力のまま弱い人々を弾圧し、搾り取っている!そして、搾り取って手に入れた利益を上流階級の奴らとのコネの為にばら撒いている>

 

人権主義…グループの業務拡大を狙い、元々住んでいた人達を旧式や改造された戦術人形などを使い殺したり、略奪の限りを尽くされ…生き残る為に戦う事を余儀なくされた人達だ。

 

<我々は貴様達に断固戦う、我々のロシア人に奪われた民族の誇りにかけて…>

「よし、移動開始だ」

「…どこに出るんです?」

 

STAR-15は表情にこそ出さないが動揺している。

人形だと思っていた相手が実は相手が人間、しかも企業パートナーに土地を奪われた者達なのだから。

似たような、境遇でもあるしすこし同情もあるんだろう。

 

「兎にも角にも、ここから出ないと。あいつ等は躊躇なく人間も人形も撃っていたのを見た。ああいう手合いは交渉が長引くと人質を殺しだすタイプだ」

「そんな……」

「……私は、あんた達と一緒なんて、お断り。二手に分かれよう、もし手掛かりが見つかったら連絡を」

 

グリズリーは自分達は反対の通路のドアを開けて去っていった。

 

2時間後

 

……いたか?

……ダメだ!見つからない!

……1人やられてるぞ!!

……ちくしょう!!必ず探し出して殺してやる!!

 

巡回が厳しくなってきた。

別の出口も確認してみたが、すっかり塞がれていて部屋を虱潰しに探している。

 

最初の内は一度クリアされた部屋に隙を見て隠れ直したりして撒いていたが二重で確認してきたので、その手ももう使えない。

 

どこかの部屋から銃声が聞こえた、辺りに緊張が走る…

 

「仕方ない…やるぞ」

「え、ええ……覚悟はできてます!」

 

どこの誰がやってくれたが知らないがお陰で相手は冷静さを失ったのかドア越しに銃を撃ち始めた。

これでは蒸し焼きにされるのと大差がない。

 

素早く飛び出して、引き金をセミオートで引き絞る。

廊下から壁越しに撃っていた2人を横から撃ち殺す。

 

「…クソ、クソ!クソ!!」

 

撃たなければ、やられる。

だが…それを承知しつつもSTAR-15は苛立ちを隠せないまま音を聞きつけやってきた相手に引き金を引いた。

 

「…クリアか?」

「…確認します、…はいクリアです…クソ…!!」

 

生きるとは言え、自分が嫌いでもない、むしろ嫌いな連中を殺した人間を殺してしまう…そんな自分に苛立ちを隠せない様子だ。

 

「…誰か、倒れてます」

「…確認したい、見張りを」

 

たまたま床に倒れて血を流していた警備員を見つけたのでの喉元をそっと触る。

 

「…ダメだ」

 

残念ながらもう事切れていた。

 

手掛かりがあるはずだと思い、警備員の身体を調べる。

すると胸ポケットから地図…いや、設計図が見つかった。

設計図を広げる、この建物の構造が書かれていた。

 

「もし、突入部隊が救出にやってくるとして…彼等が待ち受けるのに最適な箇所は…」

 

予想がつく箇所に印をつける。

これが合っているという保証はないが…そこにいなければ助けられる確率も上げられるとポジティブに考えるとしよう。

 

さらに複数の銃声が聞こえる

 

「だれだ……どこの誰が……」

 

さっきまで聞こえない銃声と聞き慣れた銃声が交錯する…どう考えても銃撃戦だ。

突入したのか?誰が?

 

 

 

……少し前

テロリストによって占拠された会場は声明を聞きつけて現場に駆けつけた警察が包囲して、慌ただしく動いていた。

 

「AA-12?どうするの?」

「さぁ、知らん」

 

ですよね、といってMk23がお手上げのそぶりを見せる。

鉄血の基地を爆弾で吹っ飛ばして、せっかく楽な任務で時間をつぶそうとしたタイミングでテロだ。

グリフィンは楽な仕事聞いていたのだけどな。

ロリポップの包み紙を開けてロリポップを口に運ぶ

 

「M249そっちは?」

「中継機が機能していない、指揮官と連絡取ろうと思ったけど、こりゃダメだねー…」

 

指揮官の指示も仰げない、警察連中が包囲こそしているがほとんどやる気のない奴らばかりでふらふらと行動してる。

 

「無線を借りようとしたけど、貸してくれないし…」

 

M1911の行動も無駄に終わったか…

 

「せめて、指揮ができる奴がいれば話は変わるんだがな…」

 

まぁ、人間にとって私達の様な歯車がどう思うが事態は変わらないだろうな。

などと思っていた矢先に…

 

「失礼します、グリフィンのM4A1です。状況を教えて頂けますか?」

「…お前、AR小隊の人形か?」

 

なんと、あの悪い噂しか聞かない、極悪部隊の隊長M4A1が現場にやってきたのだ。

うわあ、いやだなあ。

絶対、汚れ仕事をさせられるんだろうな。

 

「いや、私達も1時間前に到着したけどこれといってロクな進展はない」

「そうですか…」

 

会話を終えたら、 M4が地図を開いて状況を確認していた。

それから事態も進展しないのでは?と思った矢先……突然、占拠されたビルの反対側から大きい銃声が響いた。

 

「!?」

 

ビルの中が慌ただしくなる気がした。

どうやら、警察の狙撃チームが屋上に出た、立てこもり犯を狙撃したらしい。

 

「犯人が撃たれた…突入しないと…」

「いま、突入したら人質が危険だ!」

 

銃を構えて乗り込もうとしたM4A1を警察隊が止めた

 

「このまま、様子を見に行った立てこもり犯を狙撃すれば…」

「…いえ、このまま待っても同じです。突入します!」

 

静止を振り切り、M4はビルの窓口に向かった。

 

「おい、M4」

「AA-12?」

 

M4を呼び止める。

 

「手を貸す、1人じゃ行き先不安だろ?」

「…はい、そうですね」

 

まさか、本当に1人で会場内に向かうなんて…M1911が気づかなかったらどうなっていたのやら…

見ていないふりをしても絶対責任を取らされていたに違いない。

ずるい女だ、M4A1という女は。

 

「よし、先頭は私だ。初心者は後ろに隠れろ」

「ここに初心者はいないでしょ?」

「お前達のお気楽さは初心者レベルだろ?」

 

Mk23のツッコミを軽く無視しながら防弾シールドを展開して、防御態勢をとる。

 

「突入!!」

「…いませんね」

 

M4A1が事前に地図を使って調べていた立てこもり位置をショットガンブリーチングして突入したが見当たらない。

 

まぁ、数ある候補の内の一つだ…気にする必要も…

 

銃撃戦…!?まさか、誰かが逃げ出して…それとも、護衛の人形が奪還に乗り出したのか!?

 

「上よ!!」

 

M4が急かすように叫んだ。

止まっていたら人質が殺されてしまう、とにかく急がないといけない。

銃声がした所に向かうと、映像に出てきたのと似た格好の連中が現れた。

 

シールドのフォーメーションを変更して、攻撃を防ぐ。

攻撃が当たらない間に、チームメイトが射撃をして無力化した。

防がれたのを動揺した、この一瞬の隙にM4A1がサブマシンガンタイプのスピード型の戦術人形よりも素早い動きで、テロリストを蹴り飛ばした。

 

「お、おれの腕があ……」

 

骨折で済んだだけラッキーだろう。

M4A1が出来るだけ、殺人を避ける気分だったのをこのテロリストは感謝しなければならないかもしれない。

 

先ほど撃ち合い起きたのを示す痕跡は見つかった。

だが、そこには誰もおらず、移動していた跡と投げ捨てられていた設計図があった。

 

「行きます…!」

 

どうやら設計図を読んでM4A1がこれからどの場所に行くかの検討がついている様だ。

彼女には指揮をする事ができる能力がある。

混戦したこの状況も彼女の指揮のお陰で切り抜けられる…信頼には十分だ。

 

M4A1が設計図のもとに向かったタイミングで同じく、ユーリたちもクルーガーたちが移動させられたところに向かった。

 

「…クルーガー達が危険だ」

「急ぎましょう」

 

もし、報告が行けば最後の足掻きで重役達を撃ち殺すだろう。

そうなる前にどうにかしなければ。

 

「…ここだ」

「行きましょう。準備できてます」

 

目的の部屋の前にたどり着き、突入体制をとる。

ドアを蹴り飛ばし、STAR-15が素早く照準を定めて弾き金を引き絞る。

 

狙撃を中心としているからかM4A1やSOPⅡより、銃の重量の関係で構えるスピードは遅いが、それでも驚いた隙に相手を排除するには事足りたらしく、素早く腕や肩を寸分の狂いなく的確に打ち込んだ。

 

「クリア!!」

「行くぞ!!」

 

勢いよく部屋に入る、ビンゴだ。

縛られているが全員生きている。

どこで銃が打たれたかは分からないが…これで…

 

「指揮官!!」

 

銃口がこちらに向けられる、まだ生きて…!?マズイ…こちらはもう弾切れだ…!

 

「…こ、…れで」

 

次の瞬間、反対側の扉が勢いよく開かれた。

そして、銃口を向けたテロリストの手を何者かかが撃ち抜いた。

 

「放送室クリア!!」

「行け行け行け!!」

 

突然現れたM4A1が自分に銃を向けた相手を撃ったと思ったら、ゾロゾロ後ろから他の人形達も突入してたきた。

 

「ご無事ですか!?」

「…M4、なんで?」

「STAR-15…?なんであなたが……!?いえ、それよりも、人質や指揮官をここからお連れするわよ」

 

そして、M4達に連れ出される形で施設を出た。

 

「助かった…ありがとう」

「えぇ…たまたま、現場に出くわしてしまって」

 

M4に感謝の言葉を述べながら、私は今回の事を考えていた。

確かに自分達は連携を結んでは居るが、グループの人間ではなくグリフィン&クルーガーの人員だ、標的を間違えている。

…だがそれは何の言い訳になるのだろうか?

 

「指揮官…」

 

銃を預けたSTAR-15がこちらにやってきた。

相当参っている表情だ。

 

……それにしても、随分と楽に制圧できたもんだ

……アイツが盾になったお陰?そんなことないよね?

 

突入させた人形部隊の人形たちが今回の件を話している。

 

「…!!ゴホッゴホッ!!」

 

水が肺に入って思わず、咳き込んでしまう。

 

「指揮官!?」

 

慌ててやってきたM4が背中をさすってくれた…優しい手の感触がする。

 

「あ、ああ。大丈夫、STAR-15は?」

「私はもちろん、それにしても……今回の事を…グリフィンは知っているのでしょうか…」

「…噂程度で知っていたんじゃないか?有名な話だし、…でも、確証が無いから文句を言えなかった、根も葉もない事で亀裂を生みたくなかったのかもしれない…」

「…だから、ああやって放っておかれる人がいてもいいんですか!!??それで、不満がああやって爆発しても!?」

 

グリフィンだって重役はあまり言いたくもないが、人種が決まっていてほぼ、ロシア人で構成されている。

人類を守ると口ずさんでいるが実際のところはロシア人以外は信用していないのだ。

 

「私だって…!私だって!!」

 

近くにはSTAR-15のだと思われたコンパクトが叩き割られていた、

 

「ああやって困っている人がいたと知っていたら、助けたかった…!!」

 

きっとSTAR-15の顔がロシア人顔でモデルアップされているから…

ずっと揺れ動いていたのだろう、生真面目さとこんな非常な現実に。

 

「でも、命令には逆らえない…!!逆らったら…逆らったら…!私達は誰からも助けてくれない…!!私達は生きていけない…!!命令に背いた人形に居場所なんて…」

「いいんだ」

 

今にも泣き崩れそうなSTAR-15の手を優しく握る。

 

「指揮官…?」

「いいんだ、それを許す…君が目指したい目的の為に戦っていい」

「でも…!!」

 

そして、冷たい手をそっと包み込んだ。

 

「大丈夫…だって、私は君達の指揮官なんだから…」

「…は…い…!!」

 

握った手をSTAR-15は縋り付く様に自分の頰に寄せた…そして、そのまま背に手を回し呟く

 

「私を、私達を…助け…て…」

 

と指揮官は

 

「ああ、もちろんさ」

 

と答える、憑き物が落とされたように安堵した表情を浮かべて、STAR-15は私に抱きついた。

 

 

「…」

 

 

そして、その様子をM4は遠巻きに眺めていた。

それこそ、まるで泥棒を見るように。

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