罪とは────広くは法律的、道徳的、または宗教的な規範に反した行為すべてをさすが、宗教的な意味での背反行為を、法律上の犯罪などから区別して「罪」ということがある。
では、私の…戦術人形M4A1の罪とは一体なんだろうか?
────コーラップス液を介した爆弾を使用して、愛していたはずのユーリ諸共道連れに事だろうか。私はあの時確かに引き金を引いた。
「負けるくらいなら」と意地を張り、あの男達を消し去ろうとした…
あの時にエゴール達以外に民間人がいた事を知っていたら私は命令の良し悪しを再考していたのだろうか?
「誰が」「どう」私の行いを判断しようとも…コーラップス液の兵器を使用した結果────私は今、ユーリが"あの方"と呼んでいる存在の前に立っている。
「ようこそ、我らの住処に。歓迎しよう。M4A1…いや、レイラ」
"あの方"と呼ばれている女がM4A1に話しかけた。
彼女のには声だけで相手を殺せそうな威圧感があった。
決して、声のトーンで殺気を飛ばしているわけではない。ただ、声を聞くだけで…私は殺されていく様なプレッシャーを感じていた。
「ほう、たじろくのか?」
「…」
アリアも私が"あの方"という存在に怯えている事、そのものが嬉しそうだった。
戦術人形は自身の構造上恐怖は自分の設定で調節できるはずなのに、目線が勝手に下がっていく。
「……!」
自分の足を見るとがくがくと膝も震え、身体中から汗が吹き出て、身体が冷え込む感じがする。
「ペルシカという輩は中々のおもちゃを作ったな」
心を読むようにあの方……アドミニストレーターはケラケラ笑う。
それを聞きながら、私達はいつの間にか部屋の背景が空に切り替わり、複数のミラーが現れている事に気づく。
「そちらに行こう。しばし、待て」
次の瞬間────パッ、とアドミニストレーターの姿が消えた。
そして、ホラー映画の展開に恐怖を感じて、コマ送りでやり過ごそうとした際に目の前にコマを飛ばしたら、不運にもピークの瞬間が映り込んだようにアドミニストレーターが目の前に現れ、そしてまた一瞬すら感じさせずに消えた。
「すまんな。お主を怖がらせるつもりはなかった」
詫びを入れるかのようにアドミニストレーターが先ほどの位置より少し後ろで現れた。
「本当はな、お主に礼を言いたかった」
「……えっ」
思わず聞き返した。そんな殊勝なことを言われると思わなかったからだ。
だが…これは嘘ではないらしい。プレッシャーは未だにひしひしと感じているが、アドミニストレーターからどこか褒めたたええる雰囲気を漂わせていた。
「礼…ですか?」
「お主がユーリを見捨てず、助けてくれたことについてだ」
本当に感謝しているようだ。
しかし、それを言えば自分もユーリだって助けられているし、あまつさえ私はコーラップス液でユーリを傷つけている。
「私は…フレーヴェン大尉をコーラップス液で傷つけました…私にそのお礼を言われる資格が?」
だからこそ、疑問を抱いたまま答えるわけには行かない。
「お主は腹を立つことはした。だが、礼は礼だ。私がユーリが死ぬかもしれないと思った出来事にお主はその予想を退けた。十分に礼に値するよ」
ただでさえ強い口調で言うと、さらに続けた。
「確かに貴様はコーラップス液を使用した外道だ。……であることを知らなければ、消えてもらおうと思ったが……我が子の危機を退ける力をもっていた。私は興味を持ってな…直接会いに来てもらった」
…危機を退けた、か
「あなたはユーリを含めた過去の人たちに予言者のように敬われているようですね。そのようなあなたでも予想外というのがあるんですか」
「予言か…私はどれが確立が高いと知らせているにすぎん。その高い確率通りに物事が進んだところで、預言者というのは周りの誇張だ」
アドミニストレーターがしばらく、私を見つめた。それは品定めをする様にも見えたし、私の全てを見るような視線でもあった。
私は自然とその圧力に耐え切れず目を逸らす。
「……お礼を話す為だけにここに呼んだのですか?」
「まさか。褒美もある、せっかくここまで足を運んだんだ……私に何か聞いてみたらどうだ?」
知りたい事…?
「それは褒美の内のひとつですか?」
「クク……慎重だな」
アドミニストレーターはクツクツと笑う。
「安心しろ。ただのアイスブレイクだ。だが、夢中になって報酬を忘れるのも残念なことだ。先にあげるとしよう」
アドミニストレーターはテーブルに置かれた手紙入れを滑らせて、M4の元に飛ばした。
M4がそれをキャッチして、手紙入れの中身を確認するとその中には1枚の許可証が入っていた。
「……全エリア移動の許可証?」
「その許可証があればグリーンエリアはもちろん、ホワイトエリアもわけなく通過でき、この世界で危険と名高いブラックエリアも引き止められず中に入れる、警察に絡まれてもこれを見せるだけでお前の地位を勘ぐり、怯え付き纏わないだろう」
偽造の跡はない、本当に正式発行された許可証だ。
「……これさえあれば怖いものなしですね。いいんですか?これほどのもモノを貰って」
「私のお礼の誠意を形で示してやりたかった。さて、早速話をしようか?せっかくなら話しやすい話題をしよう。お主の知らないユーリの話とか……どうかな?」
「────!」
M4A1はビクリと反応して、アドミニストレーターの方を向く。
「クク!やっぱり、反応してくれたか。緊張もいい範囲に逸れている、お主は本当に惚れているんだな、あの子の事を」
「……っ」
手玉に取られたような気がする。
やはり、この女は常人より遥かに優れた思考と頭の回転速度を持っているらしい。
「……あなたは私にユーリのどんな事を話してくれるんですか?」
「そうだな、聞きたいことがあれば答えよう」
……随分とオープンなことだ。
知りたい事…私の知りたい事、願ってもない話だがいろいろ訳が分からない事に振り回されすぎて、何を聞きたいのか頭でまとまらない。
「……私の知らないユーリのことを話してください」
「クク、これはまた難題だ。だが、話すと約束した以上は語ろう」
意外そうに笑うアドミニストレーター。
けれど、この女は絶対私がこの質問をすると分かりきっていたようだ。
預言者と言われるだけある。
「とはいえ、お主も色々ユーリのことを調べていたようだし、なぁ?知っている範囲は、おそらくユーリが新ソ連革命の余波の被害にあったころとヴェルークトの作戦の一部くらいか?ああ、あとはグリフィンに入った時の事を忘れていた。ただ、あれには驚いた。まさかあの子がお前にあそこまで入れ込むとはな」
アドミニストレーターは意外そうにグリフィンの思い出を語る。
「私が知っているユーリが……意外?」
「ああ、そうだ。それまで、私たちの知るユーリは……なら。これはどうだ?初めて私に会った時と私たちの一員になった出来事を話そう。これはお主も気になるだろう!」
「……!教えてくださるんですか?」
「ああ、聞かせてやろう。お主の知らないユーリをな……」
アドミニストレーターは指をパン!と鳴らす。
すると、2人分の椅子、そして菓子の並べられた机が出てきた。
「まぁ触れ。立ち話するには少し長い話になる。ほら、菓子もあるぞ」
アドミニストレーターが腰掛け、菓子を手に取った。
M4A1も言われるがまま、腰掛ける。
────では、話そう。私とあの子の出会いを……あの日の事を、15年前の第三次世界大戦の時のことだ。
────15年前
────イタリア戦線のある、塹壕にて。
「こちら、"メガロック"。報告します、アドミニストレーター。11:23に反転攻勢。18:44に敵、新ソ連軍部隊を撃退しました」
<うむ、私の予想と同じで安心した>
────第三次世界大戦の地上戦は奪って、奪い返されるということが日常茶飯事だった。
────その日も攻勢をかけたNATO軍の中に混じらせた私の子、"メガロック"とNATO軍が私の依頼したものを回収するために攻勢をかけ見事奪還した。
<よし、例のブツは?>
「確保しています。まさか、こんなものが戦争を変えるなんて…」
<よくやった、週を明けたら受け取りに行く。これで、第三次世界大戦の後に我々の選択肢がひとつ増えた>
「ただ、ひとつ予定外のことが起きまして……」
<予定外?>
────私がメガロックに何が予定外なのか聞くと、あの子は少し困ったように間をおいて、そして話してくれたよ。捕虜を数名確保した、と。そして、その中に子供の兵士がいるとな。
────……まさか、それが?
────ああ、ユーリだ。大人達は"徴兵"した子供達をここを放棄することを伝えずに置き去りにして我先と逃げたんだよ。
────ユーリの妹から、新ソ連が無理やり子供も戦争に連れ込んだと聞いたけど、そこまで腐っていたなんて……よくそんなことができるわ。
────ああ、同感だ。だが、腹立たしい事に新ソ連はそういう国だ。勝つためには子供だろうとでっち上げて冤罪で捕まった囚人、貧しい地域の住民すら戦争に投げ込む。
<NATOはその捕虜はどうする予定だ?>
「通常通り捕虜として扱う予定なのですが……やはり、子供もいるので扱いをどうすればいいか困っておりまして、私に面倒を見るよう頼まれました」
────そういうわけで、メガロックがユーリの捕虜としての面倒を見ることになった。
最初は本当に何も話さない子供で、あの子も扱いに困ったようだが……やがて、しばらくすると自分で英語…つまり、メガロック達の使う言葉で会話するようになったらしい。
「どうして……怒りをぶつけない?」
「なんだ、喋れるのかよ。お前、名前は?」
「ユーリ……」
「俺はメガロックだ」
────ユーリは短時間で他の国の言葉がわかるようになったんですか?
────いや、初めから知っていたらしい。だが、他のソ連兵に知られない為に隠していたらしい。
────……なぜ?
「ユーリ、手伝ってほしい。俺たちの言葉をアイツらに翻訳してくれないか?このままじゃ、言葉伝わらなくて捕虜と見張りで悲劇がおきる」
「協力してあげたいけど……できない」
「なんでだ?」
「僕が英語を話せることが分かったら、みんなが殺しにくる」
「みんなって……新、ソ連兵?」
「……それだけじゃない、ソ連のみんながボクを殺そうとする。英語を話せるだけでみんな、敵討ちのような怒りを向けてくるんだ」
────その理由を聞いてメガロックも私も騒然としたよ。
────今のソ連は英語を話すだけで、殺意を向けられるらしい。それは戦場だと余計に酷くて、大学を出たことのある兵士が英語の文書を翻訳しただけで次の日に謀殺されることがあったほとだ。
<あの子のお陰でベールに包まれた新ソ連の内情が少しわかったが……>
「無血革命を成功させたと公式では話していましたが、裏ではこれほどまで悍ましいことがあったなんて、それに重要都市の人間を戦争に向かわせないない為なら、重要じゃない場所の子供すら戦争に投げ込むとは」
────モスクワやサンクトペテルブルクの若者を戦争に向かわせないために、アレこそ、上級国民と言える奴らだな。
だからといって問題になってないわけではない。すでに人口ピラミッドは若年層が極端に少ない歪なものになっているし、いくつかの地域は破綻している。新ソ連が活発にPMCに管理が委託されているのもそういうことだ。
「おい!?アメリカ人!あれはなんだ!?」
「……なんだ?アレは」
「くっ!苦しい!毒ガスか!?」
「クソッタレのロシア人どもが!……ゴホッ!ガスの中から来る!」
「ゴホッ!ゴボッ!なんだ?俺の目がおかしくなったのか?人間じゃない見た目をしている!」
「俺も見える!ゴホッ!……あれが"戦術人形"ってヤツじゃないか!?」
────いくつかの週を経て、遂に運命の時が来た。
新ソ連が配備した戦術人形が参戦を押し上げる為に戦場に投入された。
死を恐れない、判断が素早い、痛みを知らない人形達は兵士たちを数で圧倒し、NATOの戦線を突破して行った……そして、あの子のところにも。
「ゴホッ……ゴホッ……!アイツら、人間が足りなくなったからってロボットの兵をよこしやがって……ゴボッ!」
「標的カクニン────」
「まずっ……」
────意外なことが起きた。メガロックが人形にトドメを刺されそうになる直前、ユーリが味方である人形を倒してあの子を助けたのだ。
────ユーリが?……どうして?
────あの子が言うには初めて人として察してくれたメガロックが殺されると知って、咄嗟に撃ってしまったらしい。彼にとっては新ソ連より、メガロックの方が味方に思えたのだろう。メガロックには……子供とはいえ、油断するな。と伝えてたのだが、まさか助けてしまうなんてな。
その時のユーリがどれだけつらい時間だったのか、M4A1は考えただけでも息が詰まりそうになる。
やっと、心を許せる人が敵…ユーリ、あなたはそこまで孤独だったのね。
「メガロック……!ゴホッ……!」
「……お前、なんで残って」
「……わからない!わからないよ!でも、嫌だった!」
「だからと言って、こんなことに付き合う必要なんて……いや、ちょうどいい……か」
────メガロックは、ユーリに私が依頼したものを渡すように頼んだ。
────それは一体?
────新ソ連が秘密兵器を投入している、という話を私たちはつかんでいた。だが、中身が何なのか分からなかった。だから、私はメガロックに依頼して回収をさせたんだ。
────その秘密兵器というのは?
────新型の毒ガス兵器だ。はあ、何時の時代も化学兵器は流行るものだ。しかも、それをガスが聞かない人形と一緒に組み合わせるとは。
「これを……"あの方"に渡して欲しい、場所は……この地図に書かれた通りだ」
「これも、持っていけ……!俺は、お前が渡すまでの時間を稼ぐ」
「そんなことしたら、メガロックが死んじゃう!」
「はは、俺はもう、助からない。見ろ」
「が、ガスが…!」
「く、苦しい…!」
────ユーリは毒ガスでバタバタと苦しんでのたうち回るイタリア兵を見たという。皮膚が溶け、声がかすれ、血を吐く、そして苦しむ兵士を殺していく人形の姿を。あの子がそのことを話すとき、いつも唇が震えているんだ。さぞ、恐ろしいものだったのだろう。
────…それは、そうでしょう
「俺も。ガスを吸ってしまった」
「少し、吸ったけど……ゴホッ!まだ、走れる!あなたも!」
「俺はもっと吸った。……悔しいが、歩けそうにない。お前もあいつらみたいになりたくないだろ」
「いやだ…」
「標的カクニン────」
「なら、逃げろ…!ここは、俺が食い止める……!」
「ごめんなさい……!」
────あの子は謝りながら、メガロックが足止めしてくれたあの塹壕から逃げ出した。ずっと、ここで死ぬべきだ。生きててもいいことなんてないと思いながらも、死にたくないと思って走って。走り続けたと私に話した。
<無事か!?ブツはいい!今すぐそこから脱出しろ!>
「大丈夫、です。あと、すこし。すこしで、あなたのところにいきます」
<誰だ?……なぜ、その話を知っている?>
「ユーリです。メガロックさんに、たのまれて。この、箱を…あなたのところに…」
<ユーリ?そうか、おぬしが…>
そうして、3日かけて私が指定した場所にユーリは来た。
私は初めて、あの子を出会った。
「あなたが、メガロックさんの話してくれた”あの方”という人ですか?」
「ああ、お前が私をあの方としか呼べないなら、メガロックの話した本人で間違いない」
────あの子を始めて見たとき、とても兵士とは思えなかった。
子供というのもそうだが、髪も顔も泥だらけで、破けた服の中からたくさん殴られた跡が見えた肌が見え、血まみれだったのに…あの子からは、なにもなかった。人を恨む、殺意、おびえ、何かあるはずなのに、なにもなかった。
「これを……あの人、メガロックさんは最後まであなたにこれを渡そうとしていました」
「そうか……おぬしが持ってきてくれたんだな。ありがとう、あの子はどうした?」
「分かりません。でも、僕の為に、残って……」
「そうか……私の子がまた、無理を……」
「でも、死にたくなくて…でも、ここまで来て、おもった。どうして、自分が生きているんだって」
────ユーリから受け取った時、そうして、分かった。なぜ、ユーリが何もないのかを。
自分の為にやさしくしてくれたメガロックを望まぬ形であれ自分で見捨てた形になった、それは自分が生きたいという理由を自分で捨ててしまったという結論を出し、何もかもをなくしてしまった。
「おぬしはメガロックを家族のように思ってくれたのか」
「家族?……!」
「さて、もうここを離れる時間だ…一緒に来るか?」
────ユーリは首を振った。
「いいのか?ここで断ったらあの、戦場にずっと取り残されるのだぞ?今ならここから、出してやれる」
「まだ、行けません。ここには妹がいる、置いていかない」
────そのとき、何もなかったはずのユーリからなにかあるような気配がした。生きる理由を見つけたのか。
「分かった。なら、これを」
────私はあの子にキューブを渡した。この戦争が終わって生きていたらまた取りに行くと伝えてな。
────そして、ユーリは生き延びた。あなたに会うために。
────そうだ、メガロックのやり残したことを代わりにやり遂げるために。私は、あの子を招き入れたのだ。
「懐かしいか?覚えていたのだな」
「……ええ、あの時のことは忘れていません」
────あの子とは約束通り戦争が終わった後、生まれ故郷で再開した。
ただ、再会した時の故郷は人形を作る工場になっていたよ。
────私が生まれた場所です。
────そうか…知っていたな。
「メガロックの代わりになれますか?」
「ないな。あの子の代わりは誰にもつとまらん。……が、お主にメガロックと同じ仕事を任せることは……できるかもしれない」
「やります。やらせてください」
「辛い仕事だぞ?常に誰かを裏切っている罪悪感をその身に背負い続ける必要がある。それでもやるのか?」
「……もう、俺は自分を裏切ってます」
「そうか、なら……お前はカーターの誘いを受けろ。彼はE.L.I.D特化の戦闘部隊を作ろうとしている。そして、そこで頭角を表せたなら……うむ、また私からお前に話してやろう」
────ユーリからもらう情報にはいつも助けられているよ。彼がこの情報は意図して嘘を流していると教えてくれるだけで、我々は彼らの流す陰謀論や偽情報に騙されることなく計画を進められた。
<ユーリ、お前の情報は助かった。お陰で新ソ連の妨害工作を避けて今回のプロジェクトが進んだよ>
「ありがとうございます。そうそう、そろそろ大佐が考えていた部隊がそろそろ正式に認められそうなんです」
<そうか。いい報告だ>
そして、彼はカーター達が纏めていた対E.L.I.Dの部隊の創設を手伝った。
彼の働きは誰にとっても想像以上だったよ、政治の大物から、金持ちのオリガルヒ、地元の住民、誰とでも粘り強く、嫌な顔をしないで地道にパイプを気づいて、ヴェルークトを作り上げていた。
<ユーリ、また世の中を救ったな>
「はは、全体から見たら未だに微々たるものです。それに、俺が裏であなたのような方々に協力しているなんて知ったらさぞ新ソ連の国民や閣僚はびっくりするでしょうね」
<確かに。それに、E.L.I.Dから人々を守りたいのも本心だとしたらさらに驚くだろう>
ヴェルークトは……彼に影響を与えた、メガロックの為に頑張って作ったものだったのか。
────あの子は国を裏切ることを承知しながら、私たちの為に働く一方。新ソ連すらも恐るE.L.I.Dの怪物を次々倒して、国民の小さい希望になった。あの子もそれを悪いとは思わず、小さい生きがいになっていた。このまま、それが続けば良かったが……だが、悲しきかな。その、ヴェルークトは頭角を妬んだ保安局と"人形"AK-12が粉々にしてしまった。……あれだけ、心血注いだ人も組織も対抗できない人形が奪って行った。
<手ひどく裏切られたようだな。あれだけ愛情を注いだのにな、人形というのは薄情だ。……いや、失礼だったな忘れてくれ>
「いえ……私のミスですから」
────ユーリとあなたたちの関係がバレたんですか?
────違うな、本当にバレていたのなら、私たちのことが察知されていたはずだが…その動きは全くない、ただの焦りと嫉妬だよ。
────ユーリの努力はそんなものに…
────ああ、そのときは悔しさと一緒にがっかりした。
────がっかり?あなたの役に立ったユーリに?
────あの子を馬鹿にしているのか?
アドミニストレーターはM4A1を睨みつけた。
────ガッカリしたのは人形にだ。毒ガスの中、私の子を殺しておいてなにも罪悪感を感じないくせに、”感情豊か”になった第二世代以降のAK-12は感情で自分の殺害命令を止められず、無抵抗の人間すら手にかけた。
M4A1は言い返す言葉見当たらない。
私という"人形"が生まれる為にユーリの帰る故郷を奪われ、
ユーリに希望を与えたメガロックも"人形"が殺して、
ヴェルークトも信じていたはずったらAK-12という"人形"が壊した、
そして、せっかく貯めた財産も私たち"人形"の家族が集まる為に浪費され、
仲の悪いクルーガーの部下になって就職先は"人形"の傭兵会社、
そして、彼の一番倒さなければならないコーラップス液、そしてその兵器を私という"人形"が起動した。
「……後はお主が知っての通りだ。すべてをなくしたユーリはしばらく傭兵で放浪生活しながら、我々に役に立つためグリフィンに入り、お前があの子に惚れて、私たちの根回しをうまく利用してヴェルークトを復活させて今に至る」
色々、ユーリについて知りたいことが分かったと思う。
ただ、知らなかった方がいいことの方が多かった……それは、どうでもいいか、私の感情なんて。
アドミニストレーターはこの組織の人たちを我が子のように大切に思っている。
彼女にとって、AK-12の裏切る行為にどれほどの怒りを覚えたのか。
「私に頼みたいことがあると聞きました。それは?」
「その前にひとつ、確認だ。”ルニシア”という名前、聞き覚えがあるかな?」
「その名前は…!」
みんなが私の事をそう呼ぶ。M4という名前があるのにあたかも真実のように話しかけれる…不快な名前!!
「食いつきがいい」
「その名前で呼んでもらいたくないだけです。人生が奪われた気持ちがするので」
アドミニストレーターは頷く。
「名前はその相手の願いを表す、グリフィンも人形の名前に銃名を付けるとは酷なことをする。もっとも…レイラ…”光”というのも抽象的な気がするが、人らしい名前ならそのほうがマシか?」
「M4A1という名前はクルーガーさんの考える事なので…それよりも、ルニシアとは?」
「ふむ」と、何か考え込む素ぶりを見せるがすぐにこちらを見た。
「お前がどうしてルニシアと呼ばれたのか少し気になったやつがいてな、パラデウスの捜査と並行して調べてみたら、ある指導者の名前とぶつかってな」
指導者?パラデウスは政治にも浸透している組織だというのか?
「今はドイツの工業情報省大臣兼国務委員会副主席を務めている、ルドルフという大物の娘の名前に”ルニシア”という名前があった」
「ドイツ人の…娘?」
私はその人間の名前で呼ばれていたのか?何のために?
「そして、ルドルフはあるコンピューター研究チーム所長をしていて、ルニシアの弟が良く手伝っていたらしい。そして、その弟は本来持っていた名前以外にも、こう呼ばれるようになった。”ウィリアム”と」
「さすがに、それはこじつけでは」
「それだけではな」
アドミニストレータは胸元に入れていたポケットに入っていた写真を抜き取ると、その写真をM4A1の席の元に滑らせた。
「お前達がベオグラードで戦ってた頃、私の別の子がパラデウスの施設を相当してな、そこがルドルフ所長率いる研究施設をそのまま使っていた拠点だった。そして、ルニシアの写真が見つかった。施設のログインの履歴をどうにか復元させると、なんとウィリアムのログイン履歴があったよ、ルドルフの息子のな。コンピューター研究チームとよく似ておるよ、見るか?元となったルニシアと呼ばれる少女の写真だ」
「これは…!」
手渡された写真を眺めるとそこには目や鼻といったパーツの位置は同じだ、ほとんど私にしか見えないほどそっくりだ。
「私…あんな奴から…生まれてたのは知ってた、でも、そんな…!そんな…!」
おかしくなりそうだ。
声にならない嗚咽があふれて溢れて止まらない。涙が出てくる。辛いとか苦しいではなく、不快と吐き気がした。
「私、私は…あいつの…肉親の模倣だったなんて」
「死骸を調べたところ、パラデウスはクローン以外にも誘拐、”寄進”で手に入れた子供を無理やり改造してネイト作り上げている。最近では著名な人物の行方不明も相次いでいる、お主はたまたま、戦術人形という存在に生まれ変わったが…」
パラデウス…なんということを…!
「お前もその被害者のうちのひとりなのだろう」
「…どうして、こんなことを…どうしてできるのよ…」
「私が考えるにエゴだ。そうでなければ、こんな狂気じみたことはしまい」
アドミニストレーターは断言した。
「私が会いたいと思った理由。わかるな?」
「……許可証を与えるためだけじゃなくて、あなたは私に仲間になってほしいんですね」
「ああ、あの子の話を通してお前の事を見させてもらったよ。あの子がそれほどまで気にかけるなんて、珍しいと思ったが……行き先々で発揮した、お前の情報収集能力、卓越した戦闘技能、指揮能力は欲しいと思わせた。それと、パラデウスとの繋がりはまぁ……あまり期待してない」
なんだ、パラデウスのことは脅威だと思っていたけど、私がどうつながっているのかどうでもいいのか。
考えてみれば、私は戦術人形であれ、ネイトの亜種みたいなものだ。必要ならネイトの死骸と回収すればいいのか。
アドミニストレーターがパラデウスのあれこれはただの発破でしかなく、私を買ってくれているのはM4A1としての能力が欲しい、それは本当のことなんだろう。
「働き次第で、ユーリと共に仕事をさせてみるのもいい。そして、それはお前にとってそう難しくないだろう」
だが、私にユーリと同じことをできるのか?……私はまだ、彼に追いつけてない。
彼は自責の念に取り憑かれていて、生きることより死のうとしている。私は彼に何をしたらいい?何ができる?
「お前はあの子を今ではどう思ってる?」
アドミニストレーターにユーリへの愛を試されている。
何をしたらいい?何ができる?……考えるだけ愚問だったわね。
そうだった……そもそも私は。
「答えるまでもありません。昔も、これからも、そして今この瞬間も私はユーリを愛している」
私は彼を愛している。それは間違いなく言える。
愛していた、愛している、愛し続ける。
私が愛する彼のために一番、助けになれることがあるのなら、どの組織に入るかなんて些細なことだ。
「口では好きに言えるだろう。レイラ、私に教えてくれ、これからお主は何を持ってユーリを愛すると証明する?グリフィンにのみ残って我々とは別の道を行くなら、あの子とお主が会えない日々が続く。少なくとも私はそう”予想”した」
彼女の予想はよく当たると評判だ。実際本当なんだろう。
そんなのは嫌だ。でも、グリフィンの仲間の面をしながら、本当は別の組織の為に働くのか?
それはSTAR-15やSOPⅡ、それにペルシカさんにはとても申し訳ないことだ。それで、ユーリとの時間を人質に取るか、まったく大した人だ。
「…」
アドミニストレーターは私が答えを出すまで黙っているその様子をじっと見ている。何を言うか分かり切っているんだろう。
……結構じゃないか、思い通りになったとはいえ面倒がないのはこちらにも都合がいい。
M4は顔を上げ、言葉を放った。
「いいわよ。あなたにヘッドハンティングされてあげる」
「迷いがないな。理由を聞いても?」
「予想がついてる癖に」
ただ、私にとってユーリの為に人生を費やすのとグリフィンの為に人生を費やすなんて、比べるまでもない。
「ユーリに会いたいからよ、共に居たいの。ずっと離れるなんていや。それにね」
「それに?」
「私は力がもっと欲しいの」
「力?」
「力には色々なものがあって、暴力だけじゃない。もっと複雑で……きっと私が本当に欲しい強いと言うのは身体が強い、頭がいい、心が強い、それだけじゃなくて、もっと沢山ある"力"を手に入れたい。そうしないと……私は彼を、ユーリを救ってあげられない。そう思ったのよ」
「なぜ、数多の種類の力を持たぬと救えぬと?」
「ええ。根拠は私の勘よ」
「勘、か。そうか、そうか…!」
アドミニストレーターはM4の発言に満足そうに頷いた。
「あなたなら私にそれを教えることができるのでしょう?」
M4はにやりと笑う。
そして、それはアドミニストレーターも同じだ。
「これは私にとってもいい機会なのよ」
「いいだろう。結論は出たな」
アドミニストレーターが静かに立ち上がり、M4の元へ歩いてきた。
「これを」
「これって、ユーリがたまに使ってた機械?」
彼女から手渡されたのはキューブの形をした一つの端末だった。
ユーリが時たまに使っていたものと同じに見える。
「我々の同士として認めるための証の様なものだと思えばいい。M4、お前を歓迎しよう」
「…なるほど、これは面接をしていたのね」
アドミニストレーターがそうだと言わんばかりに首を縦に振った。
「歓迎するよ、"レイラ"。お前の人生は良くも悪くもにぎやかになるだろう。ここに来るまでに見たであろ?見たこともない施設、兵器、機械、そして衛兵達。アレは我々の技術だ。その一端をお前の仲間となり、力にもなる。ただ、力を得る過程でそして試練にもぶつかるだろう。今までの仲間が敵になるかもしれない」
チラリとグリフィンの人形達や、AR小隊達のヴィジョンが通り過ぎた。
ここまで…自分の自業自得が絡んでいることがあるとは言えど、たくさんつらいことがあった。
楽しいこともなかったし望まないこと、自分の意思で選択すらできず訳もわからず無理矢理進んでいくしなかった。
それでも、たとえ誤りで傷つけてしまっても…私には守りたい人がいる、そしてその守りたい人の為の力に手が届くところまで来た。
そして、これが私の選択。
私は…アドミニストレーターに向かって手を伸ばした。
アドミニストレーターは伸ばした手を取ってくれて力強く握り返した。
「ようこそ、これでお主も我々の仲間だ。M4A1」