私は…アドミニストレーターに向かって手を伸ばした。
アドミニストレーターは伸ばした手を取ってくれて力強く握り返した。
「ようこそ、これでお主も我々の仲間だ。M4A1」
────私は、アドミニストレーター達の仲間となった。
「……ただ、どうしましょうか。内定はもらいましたけど、こっちに転職するなら、グリフィンに退職をすると言わないと」
「心配するな。二足わらじでも構わん。現にユーリもやっておるだろう」
ユーリのヴェルークト、グリフィン……確かに、二足草鞋だった。
「アリアがすぐに返すと約束してしまった以上、お主は早めにグリフィンに返す。組織がお主を呼びに来るまで、グリフィンに残ってもらう」
「え?呼びに来るって?ヴェルークトを使うとか?」
「いや、もっと体面がいい手段をとる。私が新ソ連の政治家に召喚状を書いてもらうように要請する。お主はグリフィンに戻った後に召喚状を受け取り、何食わぬ顔でここにもどればいい」
「……やっぱりとんでもない組織ね。ここは」
「ああ、それと…帰る前に返してもらわないとならないものがあってな────」
────
───
「本当に帰っていいのね……」
2日後にM4A1は潜水艦で沖に出たあと、小さいボートでグリフィン近くの港に降ろされた。
潜水艦は目立つから、こういうやり方で乗り降りしているらしい。
この港は知っている、休暇中バスで街に行く時よく見ている景色だ。
「このバス停使うの初めてだなぁ」
最寄りのバス停でバスを待つ。
景色はよく見るがこの辺りで乗り降りしたことはないので、ある意味新鮮だ。
待つこと、20分。いつものように時刻表より時間より少し遅れてバスがバス停で止まった。
バスに乗ると適当な席を見つけて座る。
「ネットでもみるか」
ここから、基地まで30分くらいだ。流石に暇だ、携帯を使って時間でも潰すか……そうだ、久しぶりに古代生物のコラムを見てみよう。
ここ最近、趣味に使える時間が全くなかった。
「……また、ティラノサウルスの再現が変わったの?今度はこんな頭になっちゃって」
ネットニュースに出ていた最新のティラノサウルスの記事の写真について言及する。
ああ、愛しのT-REX。今度はペリカンみたいな頭になるのね……
「その声……もしかして、お姉ちゃん?」
「まさか」
聞き覚えのある声だ。
もしやとおもって、振り返る。
「SOPⅡ!?」
「やっばり、お姉ちゃん!」
なんと、偶然。後ろの席にM4SOPMODⅡが座っていた。
何かの帰りだったらしい。
「終わって帰れたんだ!」
「……ええ、終わった」
用事か……別れる時は、それしか聞かされていなかったのだから当然だが、当然私が彼らの仲間になったことは知らず、若干安心したような視線を向けるSOPⅡの視線は決意を固めたばかりのM4A1に後ろめたさを覚えさせる。
「どうしたの?元気ないね」
「……ここまで、長旅だったからね」
「そっかぁ」
「SOPⅡこそ、バスで帰るなんて。何か用事があったの?」
「……うん、実はね」
SOPⅡは少しずつ、話し始めた。
自分はとある子供を世話をすることになり、家を買ったからグリフィン基地にはこうしてバスで通勤するようになったことを。
そして、その子供はM4A1が使った爆弾の生き残りだという事を。
「……っ」
「あ!ごめん……こんな、重い話しちゃって」
「SOPⅡが謝る事じゃない。悪いのは私よ。私は……受け入れる義務がある」
結果を受け入れなければ、あの時に見せたアドミニストレーターへの決意は茶番でしかない。
「その子は……元気なの?後遺症、とかない?」
「うん。大丈夫、今日もまた大きくなったんだよ」
「……そう。それは、よ────」
それは、よかった。とM4A1は言いかけたが、不適切だという事に気がついて口をつぐんだ。
「────もし生活のことで困ったら私に言って、ある程度なら渡せるお金もあるし」
「うん……ありがと」
そして、そのままバスに乗って私は基地に帰った。
基地に戻ると、AR小隊のみんなが出迎えしてくれた。意地悪されなかったとかアレコレと心配された。
これはアドミニストレーターが前もって予想してくれた通りの展開で、彼女があらかじめ考えてくれた言い訳”外務省から提供された装備の返却手続きと無くした装備の経緯を話していた”と言うとあっさり納得してくれた。
「全く。役所はコレだから。だから、いつもトラブルが起きたら私たちが割りを食うのよ」
「ええ、そうね。(本当に信じちゃったわ。さすが、”あの方”)」
基地の食堂ではささやかな歓迎パーティーが開かれていた。
「SOPⅡ。次、装備を紛失や破壊したら全部自分で説明させるからね」
「コレカラハ大切ニツ使イマス」
そして、AR小隊でのたわいない会話。
ようやく戻ったような日常。だが近いうちに自分に迎えがきて、グリフィンでありながらグリフィンではない人生を送る。
不思議だ。いつもと同じような会話をしているのにどこか別の話をしているようだ。
「おやおや、M4A1さんのご帰還じゃないですか」
自分たちのいる食堂にやってきた人形が話しかけてきた。
誰だ?と思って、その方向を見ると……M4A1は意外な相手を見つけた。
「……RPK-16?それに、反逆小隊の皆さんまで」
食堂には反逆小隊の人形がお揃いで、この基地に来ていた。
なんの要件で来たのだろうか?
「M4、この前は助かった」
「そう?私は力押ししただけだと思うけど」
「謙遜はやめろ。あのエレベーターでの暗闇での的確な指示、エルダーブレインを追い詰め……そして、あのパラデウスの強力な個体を引き受けてくれなかったら今頃どうなっていたか」
「そこまで褒めてくれるなら、これで反逆小隊で面倒見てくれた分はチャラにしてくれるかしら?」
「ああ、そうしよう」
これで、貸し借りなし、たわいない会話だ。
AN-94が研修に来たおかげだろうか、お互い気安い関係だ。
「そうだ。反逆小隊はなんの要件で基地に来たの?」
まさか、反逆小隊を辞めてグリフィンに転職したわけではあるまい。
「ああ、M4には話していませんでしたね。アンジェリアさんの義手の状況を診もらっているんです。義手を作ったのはペルシカさんですから」
「……そうなの?」
「その話をするのも忘れてたわね」
ROが教えてくれて、夢中になって忘れていたことをSTAR-15は思い出す。
AK-12がいないのは付き添いか。
「M4A1」
「はい、どうしました?」
しばらく黙っていた、大柄な反逆小隊の人形が私に話しかける。
この大柄の人形はたしか、AK-15だったか。
「RPK-16から、話を聞いている」
「え?私、彼女に伝言した?」
「違う。RPK-16から聞いたのはお前は最高の戦術人形だという話だ」
そういえば、エルダーブレインと戦った時、なんか言っていた気がする。
「それを聞いたAK-12は」
────ええ。こんな筋肉ダルマより、M4A1のほうが全然有用よ!
────A、AK-12…確かにM4A1の方が頼りになるけど、AK-15の単純な戦闘力だって……あ
AK-12が私を引き合いに出したのか。
AN-94もフォローのつもりで失礼なこと言ってるし。
「奴は戯言が多い。本気にはしないし、民生用の人形を愚弄する気もない。ただ、メンバーに言わせるお前に興味を持った」
「ええと……つまり、私と戦いたいってこと?」
AK-15は無言で肯定する。
「AK-15、気になるのはわかったけれど……M4はそんなこと興味ないだろうし……そもそも、彼女も長旅で疲労しているから」
「────いいわ。付き合ってあげる」
訓練場所は2階建ての高低差のあるフロア。
周りに立っている木や鉄の障害物はホログラムのようなダミー。
「始まっちゃったよ!」
「ヒー!どうしよー!!」
滞在している間にAK-15は強さを見せつける機会があったのだろう。
M4A1がどう酷い目にあわされるかしか想像できない。
────久しぶり、
「(ええ、久しぶり。カービン)」
────AK-15、あれは凄いわよ。
「(見ただけでわかる。全力で望まないと)」
今日のライフルを見る。
SIGの"ロメオ"ダットサイト、シュアファイアタクティカルライト、〇〇製スチールフォアグリップ、BCMガンファイターストック、そしてTTIのマグウェルがついたスチールマガジン。
────タフなもので組んだアタッチメントね。
「(AK-15、どうやら力押しするタイプの人形だからね。余波で装備が壊れるかもしれない、そんなのを避けるためにこれにしたわ)」
「!?」
M4A1もAK-15の戦いはスタンダードの7回勝負の比較試験だ。
勝利数が超えるか、先に3勝したら勝ちの勝負、AK-15のストレート勝ちでおわる、誰もがそう思ってた。
だが、誰にとっても予想外なことが起きた。
なんと、初戦でAK-15をM4A1が倒したのだ。
AK-15の破壊力を利用して、壁の裏に"二重"で隠した爆弾を破壊して、自滅させたのだ。
姑息な勝利だが、それでもM4A1は勝利した。
あくまでデータさえ取れればいいと、眺めていた人形達の空気も変わった。
そして、それはAK-15もだった。
2戦目はAK-15も慎重、神経質になり、M4の罠を透視の裏力で徹底的に見抜いて執拗な戦いで倒した。
3戦目、これもAK-15の勝利。やはり、AK-15は気を抜かず、透視で見抜いても壁越しでライフルを貫通させてから安全を確認して突っ込むほど、神経質になり勝利した。
最初のM4の勝利はまぐれか。たまたま彼女の狡猾さが功を制した、そう思われたが。
4戦目、なんとM4とAK-15が引き分けた。
そして、5戦目、AK-15になんとまたM4と引き分けた。
しかも、これはAK-15には苦しい引き分けだった。なにせ、AK-15がつけていたグレネードが暴発しなかったら、M4A1によるAK-15の虚をついたスモーク攻撃の最中偶然の重なったトラブルが起きたからだ。
その証拠に6戦目は、M4A1が勝利した。
M4A1は入り組んだ箇所と手持ちの照準器を組み合わせた、機動砲撃に遠距離戦法にまるで近づけないままAK-15は倒された。
ここまでな出来事になると基地は大騒ぎ、本当にM4A1がAK-15を倒してしまうのではないか、
オッズの熱いリングになっていた。
ただ、当のM4A1は少し困っていた。
最初の一回は勝てると思っていた。予測通り、M4A1は勝った。
そして、次の2回をAK-15分析に回すため捨て試合にした。
次の一回、M4A1は引き分けにした。
AK-15にプレッシャーをかけるため、倒すための戦術を駆使した。ただ、運が悪くAK-15がM4と引き分けた。
流石にこのまま引き分けたら負けるので、M4A1はAK-15に確実に勝てるとっておきの戦法を使わざる得ない。
……さて、ここまではうまく行ったが。
────まさか、AK-15ってあんなに運がいいなんて
「それか、私の運が殊更に悪かったか」
そして、最後の模擬戦。
その結果は……
「(AK-15。とんでもないやつね)」
こういう相手には手の内を全部さらしたくないから、途中で手を抜いて価値を譲るのだが、AK-15だけにはそうはいかなかった。
あの暴力的なスペック。
あれ相手に手加減したらケガで済むことが、大破に繋がりかねない。
「(侮っていたことを認めなければ、M4A1。あいつは別格だ)」
最後の模擬戦でM4A1は出力開放を使った。
AK-15は力押しを強要された。
個人戦だからどうにかなったが、チーム戦はどうなっていただろうか?
「頂きよ!」
「しまった────」
私の負けはほとんど、自分の力押しを利用された結果だ。
引き分けだって、運が絡んでいた。
とにかく狙いの正確さと作戦の狡猾さでAK-15に優位を取っていたはずのM4A1がスピードと連射力を活かした近接砲撃に切り替えた。
AK-15も最強と呼ばれたスペックをフル稼働して、M4A1にたち向かう。
予想外だったのは出力開放したM4A1はAK-15を肉薄する近接戦を披露し、周りはもちろん慎重に距離を保つのがセオリーだと思っていたAK-15は最後の最後で戦いのスタイル180℃変えて襲いかかる様に度肝を抜いた。
「……あまり時間がないわね」
AK-15に必死で喰らいつく、M4A1はAK-15に勝っても不思議ではなかった。ただ、まだスペックの上をいくAK-15はM4A1に対応している。
あと少しの差で戦いに決着がつく、その時だった。
「全員、作業の手を止めろ。こちら、新ソ連の企業管理委員のものだ」
M4A1とAK-15の動きがピタリと止まる。
新ソ連の企業管理委員、これは新ソ連が委託している業務全てに強力な決定権を持つ組織だ。行政の強制捜査も彼らが行う。
「反革命的行為をした疑いで同行を要請する戦術人形がいる」
「(あの人は……)」
M4A1はアドミニストレーターが迎えにいくと話した人員の中にその人物がいた。
なるほど、彼がその人物か。随分と手の込んだ行為を。
「M4A1はいるか!外務省から、非公式に装備を受領した疑いがある!この決定には逆らえないぞ!」
「時間か」
「時間だと?」
そこまで強く言わなくていいだろうに、グリフィンは強く脅したら反発するんだから。
M4A1はAK-15に向けていたライフルを下ろした。
「時間切れなら……勝ち数の多いあなたの勝ちね、投了するわAK-15。やっぱり、新ソ連最強は凄いのね」
「私に勝ちを譲ると言いたいのか?」
なんと、M4A1は投了を宣言した。
たしかに……最強の人形であるAK-15が最強であり続けるなら、民間の人形と軍用人形の力関係を明確にするにはM4の投了を認めるのは効率的な手段だ。
そうだったはずだ……!だが、負けたかもしれない、決着がつかないというその事実がAK-15を酷く苛立たせた。
「次会うときまで決着は預けておく」
「……わかった」
M4A1は踵を返すと企業管理委員の役員の後に続いていった。
「お姉ちゃん!」
「や、やめろ!」
SOPⅡが追いかけようとするが慌ててAN-94が止める。
AN-94達も企業管理委員の権力の強さは理解しているからだ。
「……彼らに手を出すな。グリフィンが企業として認められているのは企業管理委員があるからだ。……大丈夫だ、委員と保安局は横のつながりが強い。きっと彼らも私を悪いようにしないはずよ」
「……AN-94の話を信じましょう。あなたが介入して取り返しのつかないことを起こすのはM4A1も望まないはずだから」
────
───
男はM4A1に車の助手席に座らせる。
「タイミングが悪かったようだね」
「構いません。組織に入る前に手の内を全部見せてしまう私も浅はかでした」
委員会の男は基地の正面玄関を出るなり、気遣うような発言をした。
「ははは、君の顔は名残惜しそうにしているがね」
車は港について、またボートに乗るとそのまま潜水艦に乗せた。
「また、呼ぶとは聞いていましたが今回は私に何を?」
「うん、つまるところ訓練だよ」
「そうでしたか」
「E.L.I.Dやあの遺跡と戦う組織だからな。各国のE.L.I.D戦術や潜入訓練をありったけ叩き込まれてもらう」
潜水艦は数日かけて浮上して、以前アドミニストレーターとあった場所と同じ基地らしきところに到着した。
「……?」
基地には自分を出迎えているであろう、金髪の人形が立っていた。
「彼女は?」
「君の同僚になる人形さ。あの方はいい友達になれると話してたよ」
「お友だち…ですか」
その人形は昔、流行ったような所謂ゴスロリと表現できるドレスを着ている……しかし、この容姿どこかでみたような?
「彼女が…」
彼女と目が合った、目が合ったことを理解すると彼女は口を開いた。
「初めまして…私は、戦術人形…A-545」
A-545…この名前、どこかで聞いた覚えが。
「A-545?ユーリが使っている銃と同じ獲物を使う人形だな」
そうか…思い出した、アサルトライフル”A-545”。
国営企業のカラシニコフの明らかな依怙贔屓によるトライアルのなかでもAK-12よりも優秀であると評価されたアサルトライフル…
その名前を冠する戦術人形…その人形はベオグラードにもいたはず。
「友達ではあるがお前の監督役でもある。端的に言えば上司のこと」
自分を連れてきた男が付け加えて説明した。
監督役?
「よろしく……お願いします……?ベオグラードで会いました?」
どういう意味かよく分からなかったがM4がぎこちなく頭を下げるとその少女……いや、人形は口角を上げ微笑んだ。
「宜しく、ええ。覚えてくれたんですね」
冷たい表情だったから、笑わないと思っていた。いや、私も笑わない人形だとか他の人形に思われていたかな?
A-545が何かを差し出してきた、どうやら私に差し出したものであるのは間違いないだろう。
差し出してくれた物を受け取る、どうやら瓶だ。ラベルは張っていないが、何らかの液体が入っているのはしょっちゅう重さの位置が変わるという感覚で理解できる。
「これは?」
M4が瓶の中身について質問をした。だが、彼女の有無言わせない態度に思わず苦笑いをする。
「すべてにおいて役にたつ有用な飲み物です」
「そ、そう…それじゃあ…」
そこまで言うのなら、飲んで見せようじゃないか。
M4は瓶の蓋を開けて、瓶の中の液体を口に付けた。
液体が舌に味を理解して、瓶の中身の正体について察しを付けた。
「こ、これ…!?」
私が慌震える様子を見て、周りは腹を抱えて、A-545は静かに見守った。
「お、お酒じゃない!?何考えてるの!?」
口にしたのはアルコール類だった。
しかも、ウォッカの味がする……つまり……
「これが万能な飲み物"ウォッカ"。寒い時は体温を上げて凍死のリスクを減らせますし、ケガをしたら消毒に使えます」
「極論すぎる…」
肩透かしを食らった気分だが、好意を無下にはできない。M4はそのまま瓶の中身を一気に飲み干すことにした。
「よい、飲みっぷりです」
「家族にアルコール中毒の姉がいるんですよ」
M4は口を拭いながら答えた。
「それで…?訓練でしたっけ?何をするんです?」
「主体的なのはいいことです。そうですね、私たちにはこれから私たちに任せたい仕事があるとのことで、その訓練をするようですね…」
A-545がうんうんと頷きながら端末を動かした。
ドッグにいるままでは埒が開かない、A-545は改めて街の中に招待した。
「まずは”研修”ですね。貴女には学ぶべきことがある。そして、訓練、仕事です」
「ユーリも同じようなことを?」
「ええ、そのようですね。では、まずはここがどんなところか案内します」
A-545に先導されて、街を進む。
相変わらずホテルのような部屋が左右に設定されている廊下に続いていた、廊下を突き当りまで進むとエレベーターが設置されており、A-545がエレベーターに乗ったので自分も乗ることにした。
エレベーターは透明になっていて外の漆黒の摩天楼の景色がよく見える。
「地上にまだこんなに整った環境があったなんてね」
「地上?」
A-545が聞き返す、なんだろう?
こんなに巨大な都市があるのは地上としか思えないのだが…
「ここは地上ではありません」
「地上じゃない?なら、私たちはどこに?」
「もちろん、海底です。潜水艦でここまで来たのでご存じだったかと」
その言葉を聞いて私は自分の耳を疑った。
潜水艦できたのは自分たちの存在を隠匿するために使用したと思っていたからだ。
しかし、その考えは間違っていた。
「私たちは深海にいるってこと……?」
「ええ、ここは深海の都市です。外が真っ暗なのも太陽の光がこの年に届かないからです、ほら……見えてきましたよ」
外の景色が映った瞬間、M4A1は現実に起きていることを疑った。
外には数多くの奇妙な、平べったい海洋生物が漂っていて……幻想的ではあるが、とてもこの世の場所とは思えない景色が広がっていた。
本当に海底だ。水圧で潰れたりしないんだろうか?
「水中都市かぁ…」
まるで御伽噺だ、SOPが見たら大変喜ぶに違いない。
そう思っていたら、エレベーターが目的の階にたどり着きエレベーターのドアが開いた。
ドアの先は自分たちがこのビルに入る時使った入り口のホールだった。あの不気味な甲冑の兵士がホールを巡回していた。
「気になっていたけど、あの兵士たちは?」
「彼らはアドミニストレーターを警護する親衛隊です。我々の中でも特に選ばれた実力を持つ存在のみが、あのアーマーの着用を許されています」
親衛隊か…
「アドミニストレーターって、すごいのね。アメリカやソ連の人間に対して影響力があるなんてただものじゃあないわ」
「あの方は世界中の権力者とパイプを持っているらしいです。ヴェルークトやアメリカ軍が装備しているパワードスーツ…あれはあの方から提供された技術から開発されましたしね」
納得がいった、道理で運用方法や姿形が似ているわけだ。
その後も、A-545に都市の説明を受けて、どのような施設がどのように稼働してのか懇切丁寧に教えてくれた。
この都市については大方理解できた。
ビルばかりで会社のオフィスが立ち並んでいたかと思ったが、A-545の説明を受ける限り、ここは新型の武器や技術を実験が出来る開発場と新兵を鍛え上げるための修練場だ。
ほかにも立ち寄った人員や新兵が止まるための宿舎にもなっている。
もちろん、レストランとか娯楽施設がないわけじゃないが施設の配置をじっくり考察するとここに住んでいる人たちが一番面倒なくたどり着ける施設であることも分かる。
ここは都市だと思ったが、それだけではないここは都市と同レベルの大きさをもつ軍事施設だ。
そんなことを考えると緊張してくる。
「大丈夫ですよ」
不安げにしている私の心情を見抜いたようにA-545が声を掛けてきた。
「あなたは実力を見込まれてアドミニストレーターから直々にスカウトされた我々の仲間です。信頼を勝ち取るまでに時間はかからないでしょう」
万能な飲み物の例として、お酒を上げるのはどうかと思うがM4はその丁寧な態度や説明の分かりやすさを見る限り…信頼できそうな人形だなと思った。
確かに自分の上司という存在としては適切だろう、参考になる箇所が多い。
M4はこの日、A-545に対する印象を好意な印象を持たせた。
「恐れ入るけれど、信頼を勝ち取るには何をすればいい?」
A-545に案内されるまま建物の中に入り、見学を終えた二人はそのまま食堂へ向かった。
M4は食事を注文して席に着くと質問をした。
「そうですね、ここでの暮らしを覚えることから始めましょう」
注文した、ジャンクフードが配られる。A-545は話を続ける。
「まず、ここでは皆それぞれの立場にあることを認識してください。例えば同じ料理でも土地ごとにアレンジがあるでしょう?」
「多様性に富んでいるのね」
「そりゃあもう、だからこそ敵対している国の人間だったとしても。ここではそのしがらみにとらわれないでください。できますか?」
ここに来た時点で何でもする覚悟だ、それに私は怒りですべてをダメにした。
自分を律するにはなおさら良い機会だろう。
「もちろん。ユーリの為よ。努力するわ」
「よろしい」
と満足そうにするA-545にもラーメンが配られた。
食事を15分ほどかけて食べ終わると、彼女が言った通り仕事内容を教えてくれるとのことで、訓練所に行くことになった。
訓練場は広大な空間でそこには無数の的があり射撃練習ができるようになっていた。銃火器から近接戦闘用まであらゆる兵器が用意されているようだ。
「これからこの施設はあなたを鍛えます。M4、確かにあなたは我々の仲間です。ですが戦力として数えるならまだ覚えてもらうことがあります」
施設内に緊張が走る。これがA-545の気迫か…
────
───
それから、数か月に渡ってM4はこの都市の戦力として数えられるための訓練が始まった。
訓練の内容はまさに地獄の窯に焼かれた気分だった。ストレスでも肉体的でも死にそうな思いを繰り返した。
「まだですか!?M4!!」
「やってるでしょうが!!クソ……!直ってよクソッ……!」
都市の武器や兵器、機械を使いこなすための気が遠くなるほどの座学と実際に使いこなせるか想定をした身体的訓練、極限まで追い詰められた中に発生した人間関係の悪化。
「相棒が悪いと言えば済むと思ってるのか!?罪を認めることもできないのか!?
「はい……!はい……!」
「ハイハイしか言えないのか!?なら今すぐ海に放り捨てられて、潰れちまえ!その答えもハイなんだな!?
「いいえ!いいえ!!(A-545……覚えておきなさいよ!)」
A-545とはしょっちゅう仲が悪くなったし、責任をなすりつけ合いもして教官にその度に涙と小便が出るほど叱られた。
「うわあぁあああ!!」
時には砲撃ひしめく塹壕をシュミレートした地獄絵図の訓練もした。
こっちは砲撃で頭がおかしくなりそうで涙が止まらないほど怖い思いをさせられているのにE.L.I.Dのデータ体は知ったことかとじりじり迫りよる。
M4A1とA-545が泣かない日はなかった。
「……痛い」
「もう少しだから、耐えてよ……A-545」
「丁寧にやれ!!クソ痛いって言ってるのよ!!」
それでも、訓練で負った互いの傷を針を刺して糸を縫って、激痛が走る消毒液を流し込むという痛みは凄まじいものだった。
「くそっ!クソッ!麻酔はどこよ!?」
「ないわよ!!耐えろ!クソM4!」
「────っっっ!!クソ!クソッ!!終わったらぶん殴ってやる!」
……極限状態を再現するために麻酔も何もかもが足りない設定を設けられていたが、血のついた不潔な針をを通すたび、泥のついた糸が皮膚を通るたび凄まじい激痛が走り、終わったらお互いに治療してくれた相棒をぶん殴っていた。
「また、顔のあざが増えてるぞ」
「「コイツの治療がヘタクソなせいです」」
どれも、A-545とやり遂げて見せたことだったが2度と思い出したくないものばかりだった。
「以上で必須科目の教練は全て終わらせた。お前ら、地獄行きおめでとう」
数ヶ月経った。M4とA-545はこの数か月の訓練をやり切り戦力として数えてもいいかもしれない。…という、スタートラインに立てた。
「よく訓練をやり切って見せましたね」
「頑張ったわね……ホント」
流石に毎日怒鳴りあったり、仲良くなったり、絶縁したり、互いを頼りにした2人も終わったら労いの言葉を渡す?
何とか食らいつくことができた。あの過酷な日々を乗り越えてここまで来たのだ。
「これで私も戦力ってこと?」
「そうなんじゃないですか……実感が湧きませんよ」
「明日は任務がアドミニストレーターから直接下さるんだっけ?」
「そうでしたね。それまでゆっくり休んでおくことをお勧めします」
M4の苦労を知っているのか知らないがA-545は何も聞かず休むように促してきた。
M4はその言葉に従って、帰路に就くいつも使っているビルに入ろうとしたら…
「あれ…?」
ビルに入るためのキーが差込口にさしても、全く反応しない
「すみません。これ、動かないんですけど?」
「動かない?」
M4が差し込んだキーについて指さす、それをみたビルの監視員が差し込んだキーを調べる。
「ああ、なるほどなお前。今日で訓練が終わったのか?」
「ええ。明日から任務を言い渡されるから早く寝たくて…」
「それはお疲れさんだが……悪いな。訓練が終わった人員はこことは違うビルで寝泊まりする決まりなんだよ」
正直驚いた。
そんな制度も出来ていたとは…大方、訓練内容のコツが漏れないようにするためだろうか?
「ここがお前の新しい部屋だ、いままで使ってたキーで入れるぞ」
M4は監視員から自分の新しい住居を案内してくれるデータをもらった。
「3か月、ありがとうございます」
「新しい仕事も頑張れよ」
データを見たここが私の新しい住居だろう、玄関に入るとそこはまるでこじゃれたホテルのような玄関ホールがあった。
キーを差し込む、指紋認証でも、顔認証でもいいが、今までの癖でついキーの認証を済ませてしまう。
キーが認証され、ロックされたドアが開いた。
自分が差し込んだキーにはこれから自分が住むこと許される、部屋番号が記されている。
記されていた部屋番号のドアのロックを解除し、開けるとその先に待ってのは高級ホテルの一室のような光景だ。
廊下の奥の部屋はどうやらリビングルーム以外にもシャワールームもある、前は風呂場もなかったからね……私は臭かった。
部屋の隅には荷物が入った箱が置いてあった自分の私物もここに先んじて運ばれるのか。
「凄いなぁ」
こういうところに来たのは人生で1度か2度しかない。
これが勝者のみが報われる景色か、ここまで待遇が変わると感動すら覚える。
さっさとベッドに入って寝ようとも思ったが、リビングルームに置いてあったソファの座り心地を確かめたくなり座ってみる。
「────はあぁ…!」
素晴らしい、なんて柔らかさだ。
気を抜いたら眠ってしまいそうになる、さすがにソファーが快適だからとはいえ、ベッドで眠らないといけないだろう。
「……?ー
ベッドに向かって睡眠をとろうとした瞬間、いつも使用している端末にメッセージが入る。
受け取ったのは1件。
差出人は…A-545か、何時に集まるのかの指定だろうか?M4はあれこれ考えながら、メッセージを開く。
『M4A1へ、訓練終了及び、合格おめでとうございます。先ほどはお疲れかと思ったので、改めてメッセージでお祝いさせていただくことを先んじて謝罪します。
さて、今回の結果は”あの方”からは予想がついていたとのことですが合格をお喜びになっておりました。
この件をあの方はユーリ大尉に報告されるほどに、それを聞いたユーリ大尉は驚いていられていたようですよ?
つきましては、あなた宛てにメッセージを送る事を希望されたので送られたメッセージを添付いたします、ぜひご確認下さい
繰り返しになりますが、合格おめでとうございます。よく頑張りましたね』
まさか、メッセージ!?抑えきれない動悸に震えた指で添付されたメッセージを開くための項目を選択した。
『おめでとう、レイラ。君が”あの方”に呼ばれるなんて聞いたときはどうなるかと思ったが…まさか、スカウトされたなんて思いもしなかったよ。
君に何事もなかった…わけじゃないが、無事で安心した。
俺は今地上にいるからな…海底基地にいる君とは会うことが出来ないのは残念だよ。
傷の事は心配しないでくれ、もう戦場に出れる体に戻って東ドイツの方にいるあの方の指令で外務省の仕事を続けている、後は…後々訪れるグリフィンの為に下準備かな?
…すまない、緊張して世間話が少し長くなってしまった。
俺個人の感想だが…正直、仲間になってくれるのはとっても嬉しい、期待もある。
君はこれから君自身が予想もしない出来事をたくさん知るだろう、その出来事が君自身の視野を更に広げて、様々な視点から見渡せるようになるはずだ。
俺はこれからも成長するであろう君に期待している。
ありがとう、M4…そして、愛してる』
「……!!」
M4は読み終わったメッセージを聞いてしばらく呆然としていた…なぜだろう…涙があふれてくるのを止めることは出来なかった。
「バカね……。ほんと……私って」
彼は最後まで変わらない。いつだって…自分の傍で支えてくれる、期待してくれる。
昔の私は期待されることなんて、プレッシャーと責任を押し付けるための理由付けにしか考えてなかったけど…今は、彼に期待されている事に嬉しくて涙があふれてくる。
ああ、ユーリ私の好きな人、愛している人…私は、あなたの為ならどんなことだって頑張れる。
昨日まで不安だった人生の選択も、今日はこの選択は間違いではなかったかもしれない。
ベッドにたどり着くと、体をベッドに早速預けた。
左手の薬指に着けている銀色の指輪…誓約の証を抱きながら、これから起きるであろう希望を感じながら、滑らかなベッドの感触を感じて、まどろんだ。