その頃、M4A1は
M4A1はアドミニストレーターから任務を受け取るため指定された場所と時間に、指定された通り案内を受けた部屋でアドミニストレーターの到着を待った。
しばらくすると案内役が時間通りにドアが開き、アドミニストレーターが現れた。
「やあ、M4」
「おはようございます」
挨拶をするM4にアドミニストレーターは満足そうに笑い、「まあ、座れ」と言い椅子を勧める。
言われるまま腰掛けるM4を見て、自分も向かい側の席に腰掛け話を始める。
「訓練はどうかの?」
「それはもう────」
色々言いたいことがある、まとめたら地獄って言えばいいんだろうか?それとも、筆舌に尽くしがたいとか?いや、そんな言葉じゃ言い表せないほど酷いものだった、無論これが自分の役に立つための訓練であることは承知している。
「ええ、最強の兵士が出来るのも納得の訓練かと存じます」
だとしたらこういう愚痴を不快にならないように表現するしかない、戦術人形は嘘をつけないから。
「面白い世辞だ」
しかし、アドミニストレーターにはあんまりお気に召さなかったらしい、苦笑しながら「それで本題だが」と言う。
「お前の初任務が決まった」
M4の顔色が変わる。ようやく始まったのだ。私の任務が、私が……周りに仲間だと装いながら、他の誰かに忠誠を違うという人生が。
「内容は?」
すぐに行動を起こそうと考えているM4を見て、アドミニストレーターはニヤリと笑う。
「その前に見せたいものがある。ついてこい」
M4はアドミニストレーターに連れられると、そこは見たこともない機械が大量のコードにつなげられており中央にはまるで「ここから飛び降りろ」と言わんばかりの青い光を放つ、巨大な空洞が出来ていた。
「ここは……?」
「ここか?そうさな…一言でいえば、”ここではない世界”に人や物を送り込んだり、受け取る装置だ」
ここではない世界…?
私はSF映画の話を聞いているのか?
「信じられないものを見るような顔だ。実際、みんなここに来るたび同じように驚いてくれる」
「冗談でしょう?まさか…本当に異世界とつながっているでもいうんですか?」
「受け止めきれないものを見たかもしれないが、冗談ではないとも」
頭が痛くなりそうだ。
アドミニストレーターが本気でこの話をしているとして、この先が異世界なら入ったらここには戻れないのではないか?
「確認しよう。お主はここがただの海底都市だと思っていたか?」
「わかりません……だって、海底に都市なんていつ潰れてしまってもおかしくありませんし、作るのが怖い」
そもそも、海底都市が"ただの"なんて言葉で括られるのが間違いな気もするが、追求するだけ野暮なことだろう。
「なるほど、安全で合理的だな。なら、こう考えるのはどうだ?ここは我々が開発する前に原形の"遺跡"があったと」
「……!」
もともと、あった?
「当時の第二次世界大戦が終わったばかりの冷戦期……世界では技術力を見せつけて、それを応用したらどうなるか、というので互いに牽制しあっていた。核実験に、宇宙開発……あげればキリがないが、その開発のひとつに海底探査があった」
「……」
「当時は海底ケーブルがどこまで把握できるのかという名目もあり、巨費が投じられた。そして……巨費の理由も知らずに日々熱心に研究していたアメリカの海底探査チームが偶然見つけたのさ。この遺跡を」
とんでもない話だ。
「海底に遺跡があったのも衝撃的な事実だったが、さらに驚くべきことはこの遺跡がずっと稼働していたことだった」
「まさか、それが……」
「ああ、この穴だ」
なるほど、その時代は東西諸国両方とも湯水のように資金が使われたと、この海底都市で行われた座学で教えられた。
「アメリカはこの穴を研究するために都市を作ったんですか?」
「正解だ。なにせ当時の合衆国は焦っていた。遺跡の技術を使った爆弾というとてつもないものを使っても北ベトナムとの戦争に撤退を強いられ……かと思いきやソ連の開発した遺跡の兵器に巨費をかけて育て上げた兵士や工作員が跡形もなく殺されているという時期。本来なら国連に即座に報告するべきものだが」
「ソ連にいいようにされている時勢に一発逆転出来るようなものを国連に正直に話せばソ連はますます手がつけられなくなる……そういうことですね」
アドミニストレーターは頷いた。
「だから当時の政府は2大政党関係なく、湯水のように巨費を投じてこの遺跡を隠すように秘密裏に海底都市を作った。当時、この海底都市を作るプランに私も参加させてもらったよ」
「当時って……?」
二時戦以降の冷戦って、100年以上も前の話だ。
アドミニストレーターは100年以上も生きているという話になる。
「当初は入ってから、色々入れてみたようだが……カメラもロクに映像を記録できず、痺れを切らしてようやく、探査機の性能が向上して、まともな映像を中継することが出来た。まともな映像を得て初めて私たちは初めてこの穴は異世界に繋がるものだということがわかったのだ」
サラッと犠牲者の話が話されている。
私もこの犠牲者の1人になるかもしれないというのに。
「異世界に辿り着いたドローンが調査をすると我々でも使える資源がかなりあった。それを聞いた当時の連中は大喜びしたよ第三次世界大戦の核で本当に運が悪く無くなってしまったがな。それに行くのは良かったが戻るのにも苦労してな……まぁ、それも最初の話だ。一度、戻ることに成功すれば段階的に人間も送ることができるようになった」
人を送ってなにを?
「資源回収と現地調査のためにな。偵察ドローンの点検、計測器を定期的に設定して帰るだけの簡単なことだ。そこは無人の世界で、運がいいことにコーラップス現象に対抗できる資源や兵器に必要な鉱物、誰もが取引したがる希少金属が大量に回収できた。……残念なことに作物は回収も育てることも適していなかったが。ユーリ達が使っている装備や兵器も個々の資源を使って開発された」
「無限に優れた兵器を作れたのは元手があったということだったのですね。……なるほど、あなた型が世界中にパイプがあるのが分かりました、みんなあなたの持っている資源を他より安く欲しかったんですね」
つまり、世界中のお偉方がこっそり利用できるディスカウントストアである、か。
「そして我々は最近、新しいルートを見つけた。その日は偶然にもお前がコーラップス兵器の爆弾を使った日だったよ。お前達にはその世界を調べて欲しい」
あの爆弾があの世界を開いた、とは思えない。思いたくないが、関係がないとは言い切れない。
アドミニストレーターは因縁がありそうな私に瀬踏みの役割をさせたいらしい。
「私はこの穴の中に飛び込んで異世界に行く…?私が開いた、穴に?」
「そんな確証はない」
けれど、私は直感でアドミニストレーターが私こそが開いた張本人だと確信を持っていることを感じた。
「これは安全のためでもある。我々が最初に到着した場所も過酷なところだった。到着先が過酷だったとしても、人形ならば耐えられて、そのまま戻ってこれるやもしれぬ」
安全ね。
いかに聡明なアドミニストレーターでも
やっぱり、人形の価値は意思のある命が安いモノだということらしい。
だが、もしこれが本当に私の責任で出来たものだとしたら……この穴に飛び込むのは安い取引やもしれない。
「怖いならやめてもいい」
「まさか」
それに、私が嫌がっても他の奴が行く。そしたら私は臆病者だ。
ユーリは私を責めないだろうが、私が臆病なせいで、彼が責められる可能性は存分にある。
事実、慎重な選択を優先してターゲットの狙撃を先送りにしたSTAR-15の判断を臆病者を抱えた隊長だとクメレンタ指揮官時代に同じ基地の人形や指揮官に馬鹿にされたものだ。
まぁ、公聴会のゴタゴタでクメレンタも含めて部下の人形ども私が随分殺したものだが。
そして、ユーリのために命をかけられない臆病者の私は嫌だ。
「お前の任務にはA-545も付ける。期限は設けない。ただ、辿り着ければいい。連絡手段も渡しておく」
「了解です」
A-545と合流し、異次元へ行く方法を一通りレクチャーされたM4達は装備と武器を整えて穴の前に立つ。
「……」
ふと、M4は足を止めると、ポケットから写真を取り出し、それをじっと見つめる。
そこには、ユーリとM4のツーショット写真が収められている写真だった。
…この穴に入って生存できる可能性は100%という保証が出来ない、入ったら最後になるかもしれないと危惧してから行動だった。
「A-545、作戦開始までの時間は?」
「あと5分」
5分か────この5分が長く感じる、見方を考えればあと5分もあるということだ。
「アドミニストレーター」
<どうした?>
「メッセージを残したいのです。許可を頂けますか?」
<構わんよ、ただの別れの挨拶なら伝えないからな?レイラ?>
「ありがとうございます」
M4が端末を動かして、メッセージを録音する機能を作動させると画面に録音のタイマーがカウントされたのが表示される。
「ユーリ。私よ、M4。この前はお祝いのメールありがとう、東ドイツにいるんだっけ?私はドイツに行ったことがないから面白いところなのかは分からない。でも、アナタがグリフィンの手伝いに行かされているということはグリフィンは相当な強敵を相手にしないといけないってことなんだと思う。前置きが長くなったわね…ここから、本題────私はアドミニストレーターからの初めての任務を受けるのそれも私の口からいえない任務。無論、帰ってくるつもり…でも、やっぱり…不安なのアナタに話すことがないまま時間を重ねることが…ユーリ、アナタは分かっているかもしれないけど私はあなたのことが好き、アナタが私のこと褒めてくれた時、とっても嬉しかった。────そろそろ、時間か…そろそろ切るわ!グリフィンのみんなにもよろしくね!じゃあ!!」
録音を終了させる。
「よし……」
「準備は?」
これでいい。
死んだとしても、思い残すこともない。
「大丈夫、行きましょう」
「了解」
A-545、M4が互いに見つめるとジャンプ────そのまま二人で穴の中へ飛び込み、そして…消えた。
二人が消えた後、アドミニストレーターはM4達が飛び込んだ穴を見つめていた。
「……頼んだぞ。レイラ、A-545」