「戻って来たな?この遅れん坊め?何してたんだよ?」
合流先のレストランに入ったヴィシャスはユーリ達を見つけて席に着いた。
「なんかわかったか?」
「いろいろと」
AK-12の元にヴィシャスが現れる、数日前────
「そうか…案外早いもんだな。どのくらいで来る?」
「数日といったところだ。アンジェリアの奴、さっきこのドイツに来たからな」
「そうか」とユーリは頷いた。
「親としての礼儀だ。来たら、会いに行ってやるか…」
「待てよ、隊長。AK-12と会うのは私に譲ってくれよ…頼むぜ?」
ヴィシャスのぎらついた瞳を見つめたユーリが一拍置いて、ため息をついてヴィシャスの頼みを頷きで許可した。
「クフフ…!やったゼ。感謝するよ、隊長」
「あまり目立つなよ」
「もちろん」
そう言って、ヴィシャスはユーリの肩をポンポンと叩いて笑っていた。
保安局の”ウルフパック”プログラムの戦術人形達との戦いを想定した…”ハイエナ”プロジェクト計画を推進していたお偉方もこの時が来るのを今か今か待ちわびているに違いない。
そして、ヴィシャス自身もAK-12やAK-15と戦う機会があるのを心待ちにしていたようだ。
ウルフパックの人形…いや、保安局の人形に対して有利な相性をヴィシャスは持っている。
反逆小隊の人形と戦う場合、ユーリの予想ではAK-12とAK-15、そしてRPK-16では歯が立たないだろう、素体の質が違うのだ。
そして、べらぼうに引き上げられたスピードとハイエナのような”ずる賢い”AIはオオカミをかく乱し、焦らせるに違いない。
AK-12達と戦うことになったことを想定した、シュミレートをユーリが走らせている間にこの施設のデータをコピーしていた端末がコピーが完了したという報告を受けて、ヴィシャスの合図とともに何食わぬ顔でサーバールームを出た。
サーバールームにも当然、監視カメラがあったがハンスが監視カメラの向きを意図的に違う方向に向けていたため、サーバールームにいる間の自分たちの姿は監視カメラに写っていない。
「データをコピーして、サーバールームから出たぞ。グレゴリー、そっちは?」
<こっちも見つけた、エピフィラムの花だ。タリンで見つけた資料の通りだ、奴らここで”エピフィラム”を量産している>
「了解、じゃあ、お前らは写真を撮って離脱しろ。俺は正面玄関から受付を通して外に出る」
<ヴィシャスはどうするんだ?>
「私はしばらくこの施設に隠れてアンジェリア一行を待ちまス。サーバールームから手に入れた情報に気になるものを見つけてね…これはちょっと聞かないといけないと思ったんです」
「目立つな、と言ったのを忘れたのか?」
「ああ、ダガ。そうも行かなくなった」
ヴィシャスのトーンはいつになく、真剣だ。
グレゴリー達も余程のことだなと、即座に理解して「了解」とだけ短く返した。
「それじゃあ、隊長、また後ほど……」
「ああ、またな」
ユーリは軽く手を上げてヴィシャスに応え、この研究所で隠れる場所がある階段に向かって歩き始めた。
ユーリ達は笑っていたが、ハンスは今にもため息が出そうだった。
さすがにヴィシャスもこの空気の悪さを掴んで、ごまかすように笑いながら席に座った。
「派手にやってくれたな?AK-12やRPKとやりあった感想は?」
「言うほどじゃないっすね、アイツらは私に全くついていけなかった。弱すぎる」
あっけらかんした態度で、ヴィシャスは答えるとレストランのメニューを眺めてベーコンエッグを頼んだ。
「ハンスさんは酒飲まないんすか?」
「お前なあ…あれだけ派手にシュタージの連中をボコボコにしておいて、火災報知器も起動させた、後処理を考えたら今更酒を飲む気になれると本気で思ってんのか?」
ヴィシャスの誤魔化すような乾いた笑いが、店の中で空しく響いた。
返答次第ではこの場で鉄拳が飛んできても、文句は言えなそうだ。
「状況を少し整理しよう、俺がヴィシャスをAK-12達のもとに送り出したのはフローラ研究所で手に入れた内容にまさか、と言えるようなものが混在していたからだ」
ユーリがサーバーから抜き取ったデータの内容が書かれている画面をこのテーブルに座っている一同に見えるように見せた。
書かれている内容には反逆小隊のRPK-16とパラデウスが通信でやり取りしている内容だった。
近いうちにアンジェリアがフローラ研究所に視察することや、誰と組んで行動するかについて事細かに書かれていた。
「アンジェリアたちの行動をリークしている。それはRPK-16がパラデウス側のスパイ、もしくは反逆小隊の裏切り者だと示唆されかねない内容だった。だからこそ、ヴィシャスに探りを入れてもらうために反逆小隊に対する接触を許可した。まさか、あそこまでデカい事態にさせるとは俺たちも想像しなかったが、正にヴィシャスだな」
「悪いと思ってますって」と言いヴィシャスは肩を落とした。
「何もないと、期待したかったが…RPK16は反逆小隊の人形の情報がパラデウスには筒抜けだったらしい。悪い方の予測通りアンジェリアはフローラ研究所で待ち伏せにあったが、ヴィシャスがいろいろ”手助け”してくれたおかげで困難は乗り切られた」
ウェイターの柔らかな声が耳を撫でる、ヴィシャスの元に注文した料理が届いた。
「飯はそろったな?じゃあ、次の仕事について話し合おう」
────東ドイツ:フローラ植物研究所
「─────な、なな何の音ですか!?」
突然研究所の外から響いた警報音に、視察にきたアンジェリアについてきたモリドーは驚いていた。
研究員はいつものことだという風に軽く流しているが額に汗が流れているようにも見える、何とかして隠しておきたいのかもしれない。
「─────だれか、状況を確認できる人形はいる?」
アンジェリアが反逆小隊に無線で問いかけると無線から声がする。
<アンジェ、私よ>
「─────ルシア!?どうしたの!?」
無線の声の主はAK-12だった。
通信越しに見える、AK-12の身体は服が割け、ボロボロに見える。
<─────”ヴィシャス”が出た、どうやら目的はレナーテらしいわ。捕まえようとしたけど逃げられた>
”レナーテ”はRPK-16のコードネームだ。
それをヴィシャスが付け狙っていた?しかも、AK-12がいたのにあのボロボロ加減、かなり出来のいい戦術人形だったのだろう。
「”アーウィン”、”アンティア”。聞こえる?」
<感度良好>
<いつでも動ける>
”アーウィン”という、コードネームを与えられた戦術人形”AK-15”、”アンティア”というコードネームを与えられた戦術人形”AN-94”がアンジェリアからの通信に応答する。
「”ヴィシャス”が出たわ、どうやら”レナーテ”を狙われた。もし、私たちも狙うようなことがあったら応対してあらゆる行動を許可する。油断しないで、”ルシア”でも歯が立たなかったらしいから」
<了解>
<ルシアが…わかった、ヴィシャスを見つけ、行動を始めら対応する>
そして、無線を切ると、アンジェリアは緊張が入り混じる息を吐いた。
「私たちも、ここから非難しましょう。リオーニさん」
「ここの花たちを見捨てろと?」
「いえ、そういうわけでは。でも、たかが花で─────」
その時、出会った時からまるで歓迎されていなかったが、リオーニの表情は出会った時以上にマスク越しでも分かるくらいに不快な態度を露わにしていた。
「─────たかが?ロクサット主義の監査役と聞いて、多少は期待していたけど…分かっていないわね?あそこに植えられている花たちは、お前たちがおろかな戦争している時でもずっと成長して、優雅な花を咲かせ続けていたのよ?奪い合いではなく、生きるためにね?あなたはこの花の偉大さと愚かな争い、どっちを大切にするつもりなのかしら?」
リオーニはアンジェリアを睨みつける。
「気を悪くしたら謝ろう。リオーニ、しかしだ。君がここでの出来事で死んでしまったら誰がこの花たちを守ってやれるのだ?」
割り込んできたのは以外にもホップスだった。
こういう時にモリドーが割り込むのではないかと考えていたがここはホップスの手腕の見せ所だったらしい、”現地の人間を使えばスムーズにいく”ウルリッヒの言葉がよぎった。
確かに、少し落ち着きをみせたリオーニを見て一理あるなとアンジェリアは思う。
「分かったわ。でも、少し待って。ここでの二次災害を防ぐためにスイッチを切らないと」
リオーニがいきなり、壁から現れた隠しスイッチを押す。
次の瞬間、モリドーが倒れる。
「─────え?」
突然倒れたモリドーをみて、アンジェリアは驚きを隠せなかった。
「何をしたの!?」
「あなたもすぐにわかる事になるわ」
今度は、ホップスも倒れた。
よく鍛えられた、元警察官のホップスが倒れたのだ、当然アンジェリアも次の瞬間、意識を失ってしまった。
────
───
「─────アーウィン。どう思う?」
「どう、とは?」
AN-94の問いに意味を図りかねているのか、AK-15は質問で返す。
「なぜ、レナーテは襲われた?」
「判断材料が足りない。確定していない状況で自軍を疑うことは将来的な戦力低下を招く。だが、判断はお前が下す。そして、その判断に私が従うそれが私の役割だ」
すごいプレッシャーだな、とAN-94は思う。
今までは誰かの命令を聞く役割が多かった、だが私は今、よりにもよってこの”AK-15”という因縁浅からぬ人形に命令を出す立場にある。
「お前には敵わないな。M4A1」
ここにはいない、世話になったAR小隊の隊長、”M4A1”の事をAN-94は思い出す。
昔、AN-94はM4A1…AR小隊の所に研修で飛ばされたことがある。
「AK-15は……M4をどう思う?」
その時にAN-94はM4A1の指揮を受けたことがある。
慣れない事だとM4は言っていた。
始めは甘えているのかと思っていたが、いざその役割を与えられる話が違う、まるで生きた心地がしない。
こんなプレッシャーの中で、まともな指揮を出せるM4や指揮官という存在は流石だなと今、その緊張状態を身をもって経験していた。
「M4A1か」
「M4とプラクティス戦闘を経験したとき、どう思った?
AK-15が”M4A1”という単語に反応した。
”元”反逆小隊の人形、そして最近訓練で自分を追い詰めた人形、気になる事でもあるはずだ。
「レナーテが良く話していたから、私は奴に興味を持って戦いを申し込んだ。そして、私は感じた。奴は危険だと」
「危険?」
「ああ、アイツは目的のために必要だと思ったらどんなことも躊躇いなく実行する。最後の戦い、奴は自分の得意だったセミオートによる遠距離と機動性を活かした攻撃をバッサリ切り替えて、フルオートの近接射撃戦を挑んできた」
人形であっても訓練や戦いを続ければ、体に癖が染み込まれるものだ。
体に染み込んだ普段の動きを捨てるなんて、人形であっても簡単に出来ない。
できるのだとしたら、M4はあらゆる事にこだわりがないか、あらゆる戦い方がM4A1の中に染み込まれているか、それしさAK-15には思いつかない。
「しかも自分の体が崩壊するほどのことをするとは」
「M4の出力解放のこと?」
「あれはそれで済ませられる技ではない。奴を透過して見たとき気づいた奴は体内のエネルギーを意図的に自爆させて自爆で発生したエネルギーを自分の力に変えていた……奴は危険だ」
AK-15はM4A1を危険と評価していた。AN-94はそれを珍しいと思う。
「なぜ危険なんだ?頼もしいはずだろう?」
「……M4A1が意識を向けているユーリ・フレーヴェンは我々の抹殺リストに一度入っている。もう一度入る事だってあるだろう、そしてその事態が起きたらM4A1は間違いなくユーリを守るために私たちと敵対する。絶対に、これはRPK-16も確信している」
RPK-16もか…と思った瞬間、普通とは違う足音が聞こえた。
「AK-15」
「聞いている」
AK-15が何もない壁の所に立った。
次の瞬間、AK-15が壁を粉砕した、粉砕された壁には部屋があった。どうやら、隠し部屋らしい。
「アーウィン、準備を」
「了解」
AN-94は自分の獲物であるライフルを、AK-15自分のライフルをそれぞれ閉まっているバッグから取り出した。
「行くぞ」
隠し部屋に突入すると、二人の男が倒れていたのが見えた。
どちらも、少し見たことある服装をしている。
「パラデウスの装備だ」
「まずい…アンジェ、そこは危険だ。すぐに…」
AN-94が何度か、アンジェリアに語り掛けるが返信が来ない。
「応答は?」
AK-15の問いかけにAN-94は首を振った。
このパラデウスの装備を持っているということはどういう関係であれこの研究所はパラデウスとつながっていると見て間違いない。
AK-15が死体を調べる。
「この男、首が278度曲がっている。頬の損傷加減から見て、殴られた拍子に曲がった模様」
「……ヴィシャスだ」
AN-94は確信した。首は多くの神経が詰まっているそれゆえ首をへし折るのは相当な力がいる、そしてそれは人間を大きく上回る腕力を誇る戦術人形でも、至難の業だ。
それを掴んでではなく、それよりも力がいる”殴る”という行為でここまで変形させる程の人形。
それはAK-12すら圧倒した戦術人形”ヴィシャス”しかいない。
「ルシア。話せるか?」
<感度良好、いつでも>
AK-12は通信に出てくれた。
「研究所で、アンジェと無線連絡が取れなくなった。そっちで探してほしい。こっちはいま、パラデウスと関連の可能性がある所を突き止めたんだが…そこにヴィシャスかもしれない痕跡を見つけた」
<分かった。アンジェの件はこっちで応対するわ、それとヴィシャスについてアドバイスして欲しいんでしょ?いい?よく聞いてヴィシャスは>
AK-12から何かの情報が教えようとした瞬間、突然通信にジャミングが入った。
ジャミングの感覚が収まった瞬間、通信機が動かなくなり、代わりに沈黙で退屈させないようなコツ、コツとした足音が響いてきた。
「ヴィシャス…!」
AN-94は銃を構えた。
「AK-12に続いて、今度はあんたらカ?仕方ねえ奴らだナ」
こちらが銃を向けているのにヴィシャスは呆れるような態度だ。
「なぜRPK-16を襲った」
「それはお前らが良く知っていると思うんダが…まあ、言わんがナ」
「そうか、それともう一つ。ここのスタッフもお前が殺したのか?」
ヴィシャスがせせら笑う。
「アア、すこしここにお邪魔させてもらっているときに私は見ちゃあいけないものを見たらしい。殺されそうになったから遺憾ながら殺し返したというこトさ」
やはりそうだったのか……。
AN-94はセレクターを解除した瞬間、一瞬でAN-94達とヴィシャスが消えて、しばらくしてヴィシャスとの距離が離されたことを理解した。
「な─────に?」
余りの速度にAN-94は緊迫に似たような感情を覚える。
AK-15もヴィシャスの速度を目で追えなかったのか、一瞬見失ったように視線を動かしていた。
「─────いたぞ!ロクサット主義の手先の人形だ!!」
突如、上の階からこの隠し部屋で死んでいた兵士と同じような格好をした兵隊がパラデウスの兵士が持っているのと同じ銃を構える。
運の悪い事にAN-94とAK-15は後ろを取られていた。
振り向きざまに銃弾を撃って切り抜けても、弾丸は素体に食い込むだろう。
─────パン!パン!と奥からサプレッサーで小さくなった射撃音が聞こえた。
ヴィシャスがいつの間にか持っていたサブマシンガンが後ろからやってきた兵士を撃ちぬいたのだ。
「お客さんカ」
「増援だと!?」
追加でやってきた兵士の一人の発言にヴィシャスはため息を吐いた。
「オイオイ、お仲間はお前ラだろ?」
「また来る!AK-15!」
「確認した」
AN-94はAK-15に声をかけて、隠し部屋の外では、さらに多くの兵士がやってきておりAN-94とAK-15はやってくる兵士たちに銃を構え直し、5.45×39mmと7.62×39mmの弾丸を叩き込む。
さらに、別の場所からパラデウスとは異なる武装した人間たちが現れ、兵士達に引き金を引いてきた。
「…どウなってやがる?」
ヴィシャスは武装した人間が放ってきた”PP-2000”の7N31貫通弾を前腕で弾きながら、反撃した。
「それはこちらのセリフだ」
ヴィシャスの問いにAK-15が答える。
AN-94とAK-15は二人は背中合わせになり、AN-94が前方、AK-15が後方を担当する。
「いったん休戦といかなイか?私たちの殺し合いはごちゃ混ぜな状況が片付いたら再開するとしよウ」
「何を勝手なことを────」
「いいだろう」
ヴィシャスの持ちかけをAN-94は承諾する。
どうやら、ヴィシャスは何かを知っているらしくここに現れたようだが、AN-94たちと接触した後の事はヴィシャスの考えに大きな齟齬を起こしているのかもしれない。
「決まりだナ。私のもう一つの名前を教えてやる、私の名前は戦術人形”PPK-20”ダ」
ヴィシャス改め、PPK-20”が自分自身の獲物であるサブマシンガン”PPK-20”をちらつかせる。
道理であんなに早いわけだ。
「お前らは兵士を私はあの武装した輩をぶっ飛ばす。これでいいだろ」
「いいだろう」
AN-94はそう言うと、AK-15と一緒に、兵士たち向かって前進し銃を引き金を引き、混沌と化した銃撃戦の鉄火場へとつっこんでいった。
────そのころグリフィン基地
「以上が、本作戦の概要だ。みんな分かったか?」
フォトンがSOPⅡ以外にも、AR-15、RO635…ダンデライオン、そして…
「はーい!分かりました!!」
この、朗らかな声の主低体温症で捕虜にした鉄血人形”アーキテクト”….この5人が作戦を説明するための司令部に集まっていた。
「指揮官。どうして、この任務に捕虜にしていたアーキテクトを入れたんですか?」
明らかに嫌そうな顔をした、STAR-15がアーキテクトを睨みつける。
確かにこのアーキテクト言う人形、グリフィンの預かる存在ではあるが融合勢力とは違って鉄血との戦いで捕虜にした人形だ。
戦いで敵のまま捕虜にしたアーキテクトを作戦に組み込むなんてAR-15にとってはリスクの高い内容であることに間違いない…最も、彼女が不機嫌な理由は……
「何か?」
「別に」
煽るような表情でAR-15を見つめるダンデライオンにもあるようだが…
「そういえば、なんでこのダンデライオンという名前のごく潰しは指揮官の制服着てるの?」
「指揮官から貰ったの、羨ましいでしょ?」
ふと、疑問に思った発言にダンデライオンはSOPⅡの方を見向きもせずAR-15に見せびらかすように制服を羽織りなおした。
フォトンは今にも始まりそうな、女の戦いを前にしてため息が出かねない。
「そろそろいいか?まず、アーキテクトをそこに連れていく理由は、さっきも説明したがそこにアーキテクトがいたことがあるから持っていく行けば何らかの役に立つと思ったからだ。役に立てないと思ったらそこらのスクラップ廃棄場に捨てるなり好きにしろ」
「え!?指揮官、ひどい!?せっかく自由にしてくれるって言ってくれたじゃん!!」
フォトンはアーキテクトの講義を鼻で笑う。自由にするとは確かにアーキテクトに言ったが、どの様にした自由なのかは明確に決まっていない。
「もう1つは、ダンデライオンの制服に対して。いまこいつがここにいる人形や人間に見られるわけにはいかないんだ。もし見つかっても、制服を着ていればグリフィンのスタッフだと誤認してもらえるかもしれないしな」
「指揮官、それなら、私にも下さいよ」
ダンデライオンが来ている制服を自分も欲しいと羨ましがり、STAR-15が冗談混じりにフォトンの制服が欲しいとねだる
「お前には仕事をくれてやっただろ」
「給料も増やして頂かないと」
「それは……まぁ、要相談だな。他に質問は?…ないな?それなら、明日の明朝に出発しろ。それまでは自由行動だ、解散」
全員が出て行った後、SOPⅡは時計を見て「まだ時間はあるな」と思って、基地を出ると最寄りの駅にある電車を利用して街に繰り出した。
時間はまだ夕方だ。家に寄っても深夜の電車を使えば、作戦の時間には間に合う。
電車から降りて、SOPⅡはスラム街に入っていった。
────某所:SOPⅡの自宅
「あ!エレナさんじゃない!今帰り?」
「そうなんです。”子供”の様子はどう?今日も元気?」
SOPⅡは近所の人相手にこの家で使っている”エレナ”という偽名を使っている。
別に隠し通したいわけではないのだが、近所の人をこんな”物騒な名前”で
警戒させたくないのだ。
自宅の奥を覗くようにしながら、拾った養子について質問した。
「子供たちは相変わらず元気よー。やっぱり、子供には学校が必要なのねぇ、あなたの子もたくさん勉強してるらしいわ……けど、ここだけの話。先生たちはちょっと厳しくなりそう」
「え?…もしかして減らされそうなの?配給?」
SOPⅡの質問に、近所の人は表情は神妙になっている。
「そうよ…国の話曰く、作物の出来は良くなっているという話だけど本当なのかしら?最近なんてベオグラードなんてところから…この街にやってくる難民の数も来てるし…しかも、最近はロクサット主義なんてものをひっそり広めようとする人もいるみたいよ」
「そうなんだ…」
ロクサット主義は人類が一つになって、みんな平等共通の問題に立ち向かおうというものだが共通する問題を解決しようということは誰も解決できてない問題を更に大きく扱うということでもある。
「ウチはロクサット主義を広めたら即処刑……なんていうけど、実際は見て見ぬふり。こうして私たちが噂をしても誰も気に留めてないし……まさか、ソ連のお役所は私たちをロクサット主義に売り飛ばそうとしてるのかしら?」
例えば、食糧問題だってそうだ。
今は、この町の政治がお金を出せばその分だけ物を買うことが出来るシステムになっているが、ロクサット主義の政治体制になったら”みんな平等”という社会システムになったせいで物は周りと同じ量しか買うことが出来ないだろう。
「いろいろ大変なんだね。じゃあ、私は子供の所に顔を出さないと」
「ええ!じゃあね」
世間話を終えて、自宅の中に入る。
ここを買った時は汚く殺風景だったが、今はものが少し増えて……人が生活していると主張できるくらいにはまともなところになっている。
子供が遊んでいた。時間からして、宿題は終わっているんだろう。
「おばさん!!」
「ただいま」
子供が私に気がついて帰りを歓迎してくれた。
初めて会った時より、本当にいい方向に変わってくれるのを見さてくれるだけで、SOPⅡはこの家に帰る選択が間違ってないと安堵できる。
「早かったね!明日も帰って来れるの?」
「あはは……そうだといいんだけど、明日からまた出張だよ……」
「またテレビに出るようなことならないよね?」
「……そ、それは!?どうかなぁ!?あ、あはは!!」
誤魔化し気味に笑うが、テレビに出るような事というのは生きて帰れるか保証できない危機的状況の中にいるという事だ。
そして、もしそこで生きて帰らなければこの子はまた1人で生きなければならない……そして、考えたくもないがまた1人になったらこの子は……
「けど、大丈夫、次も絶対ここに帰ってくるから」
SOPⅡは子供たちを優しく抱きしめた。
「ずっと……言おうか迷ってたんだけど」
娘とSOPⅡは夕食を食べている。
大丈夫と言った手前、本当に生きて帰れる自信がないSOPⅡはさっきまで黙っておくべきか悩んでいたことを話す事にした。
「私、少し前に……ラビのお母さん達を死なせた人に会ってきたの」
「……そう、なんだ」
重苦しい空気が流れる。
殺したという人は、コーラップス爆弾を起動したM4のことだ。
「もちろん!そいつは口ではなんとでも、言えるよ?でも、その人が後悔してて、君のことを知ってたら申し訳なさそうに、してた」
「そう、じゃあ……その人は私に謝っていたんだ」
でも、この子はヒステリックにもならず、ちゃんと私の話を目を見て話していた。
……凄いな、子供の成長早いとよく言われるけど、こんなに心も立派になるなんて。
「……そいつがどう思っても、私はそいつを許さない」
……いや、私が立派になっているからラビが気にしてないとそう思いたいだけだ。
本当はラビはお姉ちゃんを許しているわけじゃない。
「……おばさん。話してくれて、ありがとう。その人がどんなことを思ってたかそれは知れて良かったよ」
「そうだね……」
時計の短針が午後9時を示す。そろそろか。
あの子は備え付けの2段ベッドですやすやと寝息を立てていた。
私は上、あの子は下だ。
上から落ちたら危ないと思って、下で寝てもらってる。けど、同級生から聞いた話だとあの子は私が帰ってない日は上の方を使ってるらしい。
……懐かしいな、AR小隊になったばかりのころは私も同じ2段ベッドど寝る際はM4の目を盗んでは上の方を使っていた。
私はなんでいえばいいのだろうか、まだ私は実行犯がどう思っているかは話たけれど、その実行者が私の姉だったら。
そしたら、あの子は私に銃や包丁を向けるだろうか?……向けるだろうな、知っててずっと黙ってて、真実を隠して育てていた。
私だったら、怒ってつい、殺してしまうだろう。
この子は生活はまだままならないけれど、泥棒が入ったら家の中の武器を使って自分の身を守れるくらいもう強くなった。
昔は、この子の成長を…もっと素直に喜んだはずなのに…今では、この子の成長が怖くなっている。
「ごめんね……」
ラビが寝静まったのを確認すると、額をそっと撫でて家を出た。
「……ばいばい」
ラビは気が付かれないでそっと出ていくSOPⅡの姿を見送る。
夕食の時、私のお母さんを殺した人の話をしていた時、オバさんはとにかく様子がおかしかった。いつもなら、オバさんはその犯人をキツイ言葉で貶していたのに、今日は不自然に庇っていた。
きっと、オバさんにはその犯人となんらかの関係があるんだろう。
私にいえない関係が……
私は知ることがあるのだろうか、そして私が知ったら私はオバさんをどう思ってしまうのだろう。
ラビの中には不安が少しずつ渦巻いていった。
────
終電が目的の駅に着いた、時計は0時を指している。
グリフィン基地に帰るとSOPⅡは明日の作戦に必要な装備や銃、弾丸を整備していた。
装備を整えて、必要なもの用意したらすぐに作戦開始の時間になるだろう。
「短いな…時間って」
愚痴るのようにSOPⅡは独り言を呟いたが、今日のことを後悔していない。
自分の守りたいものを再確認することが出来た、M4がいなくなったことの喪失感を吹き飛ばすことが出来た。
そう思うと、SOPIIは明日の作戦にやる気が出て来る。
「……そうだね。生きて、帰らないと」
SOPIIは気合を入れると、宿舎へと戻っていった。