「…う」
グラグラと内部から頭を殴りつけるような、感覚を覚えてアンジェリアは目覚める。
「……ここは?」
怪物の唸り声が聞こえる。
「クソ…」
アンジェリアは悪態をつきながら、護身用に携帯しているグロック17を引き抜いた。
あの怪物どもの声は、E.L.I.Dの成れの果ての咆哮で間違いない。どういう経緯でここに感染者が来たか、それは後で調べればいい
「オオオ…!」
ほら見たことか、怪物の唸り声が近づいた瞬間、憎たらしいE.L.I.Dの顔が見えた。
迷うことはない、このグロックにスイッチのような安全装置はない、ただ意識して引き金を引く、それだけでこの拳銃は9ミリパラベラム弾をぶち込んでくれるのだ。
アンジェリアがトリガーに指をかけ、声のする方向に銃口を向ける。
「くたば──────」
「やめろ馬鹿!!」
叱責のような怒鳴り声を聞きつけた、次の瞬間──────今度は外から強い衝撃を受けて、アンジェリアは気を失った。
「──────っ!?」
次に目を覚ましたとき、アンジェリアの周りには武装した武装した人間たちに囲まれていた。
「大丈夫?アンジェ?ああ、吐かないでこの服高いんだから」
「AK…ルシア、これは?」
AK-12と言いかけるのをアンジェリアはこらえ、囲んでいた人間の一人が振り向いた。護身用のグロックを取り出そうとしたがそこにグロックはなかった。
「待てって!オレは味方だ!」
AK-12が首をへし折っていない事に免じて、自己紹介の機会を与えてやることにする。
「その前に、これで顔を拭きな」
「これは…」
アンジェリアは男からハンカチを渡され顔を拭くと、ハンカチが真っ赤に染まっていた。
「俺はKの同僚、Jだ。まあ、シュタージの人間さ、そして俺の一番の魅力はこの顔だ」
「舐めてるの?」
アンジェリアにはJの発言が舐めているようにしか見えない。
「いい、アンジェリア。よく聞いて、どうやらこの研究所は前からシュタージが潜入していたらしいの。とりあえず、今はお互い潰しあわないっていうことで話を付けていたわ」
「お前さんの指揮官サマがトチ狂って、このカワイ子ちゃんに引き金引かなければもっと、信用したんだがな。まあ、俺が撃たれなくて良かったよ」
Jが膝をついていた、モリドーを指さした。
「わ、私!頭、撃たれるところだったんですか!?」
「そうよ、アンジェリアを止めなかったら今頃、あなたの頭に風穴が空いていたの」
「ひええ…」
「……」
アンジェリアは、蹴られた場所をさすりながら、ため息をつく。
ひとしきりの騒ぎがあった後、外が静かになり、正面扉が開かれる。
「すまない、遅くなった」
「全然。アーウィンの方が足引っ張ったわね?アンティアはもう先についているわよ」
アンジェリアとAK-12は互いに目を合わせて笑うと、開いた入口へと歩みを進めた。
「まるでワルキューレ見たいです!」
「いや、アマゾネスだろ」
モリドーの感嘆の声にJはツッコミを入れ、周りが頷きそうな表情を浮かべる。
「ヴィシャス… は?」
「恥ずかしながら逃げられた。パラデウスの増援を食い止めると向かったっきりいなくなった」
アンジェリアの質問に対し、AK-15は逃げられたと答えた。
「……あなたが、私たちに何の難癖をつけたいかは定かじゃないけど、この施設にはまだ何らかの手掛かりがあるはずよ。それを見つけるまでは終われない」
「お堅いことで」Jは悪辣な表情を浮かべて、マガジンを交換する。
「レナーテは?」
一方その頃
「く…どうして、こんな…」
地価の施設の研究用のエリアにリオーネは隠れていた。
計画は完ぺきだったはず、強力な武器も得た。どうして、こうなる?
なぜ、保安局の人間がここにいた?あの、銀色3匹と金髪の人形は何なんだ?まるで狼だ。
いや、それだけじゃない、あの気味の悪い人形は何だ?手当たり次第に見境なく、そして一番現れてほしくない時に、一番現れる、サバンナのハイエナだ、あのオオカミのような人形よりも、アイツの方がずっと恐ろしい、オオカミすらその道を阻んだら体を壊死させるような牙で食い荒らされた。
アイツが好き放題してから、計画にケチが付き始めた。アイツ、アイツのせいなんだ…!度し難いモノ(ヴィシャス)だ、アイツはヴィシャスだ…!
「あの化け物…どうして、来たのよ…!?アイツさえいなければ…!!」
「本当にそうですね、本当にあんな奴来てほしくないですよね?」
近づく息遣いに気づかなかったレオーネは慌てて腰から拳銃を抜いた。
しかし、瞬く間にトラバサミのような力強い手がレオーネの腕をひねり上げ、激痛が走る。
「…あ、あ…あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
まるで、鉄の牙にかみつかれたような痛みに立つことすらできず、座り込み、拳銃が手から離れて落ちる。
「滑りますよ」
RPK-16が立ち上がろうとしたレオーネの足を蹴り、地面に勢いよく転ばせた。
そして、手を掴まれたまま、今度は背骨を抑え込まれる。
「ごめんなさい、銃がないので多少乱暴で行きますよ」
レオーネの走る、激痛が和らぎ、徐々に意識が取り戻されていく。
そして、どうしてこの人形が何のセンサーにも検知されず、音もなく近づいてこれたのだろうかと考えだす。
「貴女の研究資料は一体どこにあるのです?」
「だれが──────」
ガキリ、と鈍い音がレオーネの身体から発せられ、大声で悲鳴を上げる。
最も、悲鳴を聞きつけて助けてくれる存在はもういないのだが。
「そういう、台詞が聞きたいんじゃありません。分かるでしょう?」
RPK-16は相変わらず微笑んだまま、いやむしろ楽しむかのように右手の人差し指を折る。
「お前だって…!」
「?」
「お前だって…!あの、ハイエナのような人形に…問い詰められたときに、答えなかった癖…に!!」
RPK-16の表情が真顔になる。まるで、言われたくなかったようなセリフを付かれたように固まる。
「が、がああああ!?」
「よくそんな減らず口を叩けますね。研究員のくせに」
”研究員のくせに”RPK-16は初めて、リオーネを見下した発言を繰り出した。
見下した発言の瞳にはアンニュイは雰囲気は感じ取れなくなり、どこか怒りが灯ったようにも見える。
「…この!悪魔…が!」
今度は胸骨を折った。骨の折り方が悪かったら今度は内臓に骨が突き刺さる所だった。
過剰なストレス下で発生する、痛みを感じ取れなくなるような感触にレオーネは激しい過呼吸で酸素を取り込もうとする。
「生存の過呼吸をするとは、あなたも死にたくないんじゃないですか?あれほど人間の命より花の方を大切にしていたのに、死んで肥料になった方が貴女の主義に符合するはずなのに、あなたの命はそのために使えないんですか?」
圧倒的な力の格差で、リオーネを叩きのめし、抵抗もことを出来ない彼女に言いたい放題の言葉の暴力で打ちひすことでRPK-16の中にため込まれた留飲が下がっていく感覚を覚える。
「この…人でなし、化け物め…!お前に何が分かる…?いや、お前は人形だから──────」
ヴィシャスと相対した時、RPK-16の中に持っていなかったはずの屈辱感を覚え、そのことをリオーネに煽られたことで感情が一時的に爆発した、そしてまたリオーネの発言はRPK-16の屈辱感を煽り、もう一度爆発させてしまった。
「──────かっッ!?」
RPK-16がリオーネの頭をヒールで踏みつけた。
踏みつけられたときに頭を切ったのだろう、リオーネの額から血が流れている。
「そうですね、私はフランケンシュタイン。でも、あなたは?こうやって踏みつけられているあなたは可哀相な人間でしかない。私がヴィシャス…PPK-20にいいように遊ばれたように、あなたも結局他人に踊らされているだけ」
「私がいいように使われたと?…だから?私は研究の為に彼らと手を結んだ。彼らが資金を渡す代わりに私はその研究成果を渡した、お互い利用する価値がなかったら捨てるだけ。いちいち、そんなことに驚いていたらこんな世界で生きていけるわけがない。お互いをお互いで監視する。妻が夫を親が子供をはした金や安定した生活の為に他人を売るようなこんな国よ?いつ、だれが生贄になろうが誰も驚かないわ」
RPK-16の今まで一語一句、蔑みの為に噛まさず語りかけていた言葉が止まる。
少し考えればわかることだ、エピフィラムのようなものを喜々して育てるような科学者だ、悪魔と取引することやその代償をはじめから知っていても知らなくても行動をしてしまうようなマッドサイエンティストだったのだ。
RPK-16は遊ぶ意味も失われ、飽きてしまったおもちゃを捨てるかのようにリオーネを離した。
そして、仕事に戻るかのように踵を返してゆっくりとコンピューターに近づいた瞬間、
銃声が鳴る、振り向くとリオーネが折られていないもう一つの方腕で拳銃を拾い上げて、RPK-16に銃口を向けていた。
「9ミリパラベラム弾、そんな口径の弾丸では防弾ジャケットを身に着けた防弾仕様の素体の人形に傷ひとつ与えられませんよ?」
どうやら、リオーネはこの世界で生きるための処世術や植物の研究には特段秀でた科学者のようだったが、銃で撃ちあう殺し合いの世界の知識には疎いようだ。
RPK-16が先ほどまで飽きていた玩具がまた面白いもの見せてもらえるのだと喜ぶように一歩一歩近づいてくる。
まだ、リオーネが引き金を引く。
今度はかすかに顔を傾ける、顔面はたとえ防弾でも当たり所が悪かったら今後の活動に影響しかねない。
「殺せば?正当防衛よ?」
「生かしてこいと命令されたので、実際貴女は唯一の情報の在り処を知っている方ですし」
リオーネの中では吐き気がする、理想主義者の為に弄ばれるくらいなら死んだほうがましだという精神回路が出来上がっていた。
幸い、自分が予め訳室に込めてから弾倉に弾丸を込めている、あと一発は拳銃の中に弾丸が入っていることを知っている。
「一言、質問、もし一切の希望を無くしてすべてに見捨てられたらお前は死にたいと思う?」
「…死を選べるのは人間にのみ許された行為です。だとしたら、羨ましいことこの上ないですね」
それが人間の「未来」とでも、あまりにも滑稽でリオーネは笑いたくなる。
リオーネは拳銃をゆっくりと自身へ向け、こめかみに強く押し当てた。
RPK-16はなぜか、淡々とその様子を眺めている。
トリガーが引かれた瞬間、発射されるはずの弾丸がすでに空になっていた。
スライドストップが掛かっていない、弾丸もちゃんと数えていた。どうして?
──────
「ア?なんだこれ?」
ヴィシャスは”ユーリ達と別れ、AK-12の元に向かう前"掃除”という名目でたまたまリオーネが使っていたオフィスに足を踏み入れていた。
その際に、リオーネが机の上に置きっぱなしにしていた拳銃を見つけたのだ。
「ま、パラデウスとつながっている以上、こういうものをもらうわな。それにしてもあぶねえナ。弾丸を装填したまま机に置くなよ」
弾丸が装てんされたまま、銃を放置するのは危険だ。
しかも、暴発することで有名は拳銃だ。ちょっとしたことでトリガーが発射位置に前進して暴発してしまう。
「それにしても、スライドストップの為のレバーも削れてる…アん?これ、上に押しあがろうとしてもかからんな。まあ、おせっかいだ」
ヴィシャスは拳銃の弾倉を一旦抜いて装填された弾丸をスライドを引いて取り出して、ハンマーダウンさせると弾倉を装填しなおして弾丸を拳銃の隣に置いた。
────
───
RPK-16は自分の計算が外れているのではないか、それともこんな肝心な時に限って銃が使い物にならなくなったのか涙するリオーネの涙をぬぐった。
「ああ、やっぱり。それが最後の一発でしたね、その銃10発しか入りませんもん」
「どうして…?どうして!?私は…!10発入れた後に、もう1つ入れた、はずなのに、どうして!?」
RPK-16はハッとする、こいつ弾丸を数えた上で私を欺こうとしていたのか。
リオーネから、拳銃を奪い取り、急いでリオーネのオフィスの方に赴く。
「────ヴィシャス…!!」
屈辱だ、また屈辱を与えられた。
机の上には一つの弾丸が机に置かれていて。
”暴発すると危ないから、取り出しておいた。次は気を付けるように”
と書かれた、書置きが添えられていた。
私がリオーネを罵倒するために、優位に立てて、見下し人間を見下ろす観客になりたかったのに、
偶然にもヴィシャスに助けられてしまった、こんな屈辱は初めてだ。
「やっぱり…」
コンピューターの中には何もなかった。
研究資料も”パラデウス”の記録も、RPK-16が予想だにしなかった何もかも、一つも残されていなかった。
「あなたは何もしていないんでしょう。やり口からして、だいぶ前に処理されているでしょうし」
”オオカミもお寝坊さんのようだ”とヴィシャスの勝ち誇ったような声が聞こえる。
RPK-16は自重するかのように笑った。
ノックオンが聞こえ、アンジェリアが入ってくる。
「データは!?」
「ありませんよ。ヴィシャスにやられました、これで我慢しろってことでしょう?」
ヴィシャスのにやけ面にRPK-16が珍しいため息をついて、リオーネの首をつまみ上げる。
「大方、挨拶代わりでしょうね」
「挨拶の前にフライングで訪問された誰かさん達は計算外のようだけど……頂戴って言っても、渡してくれないんでしょ?」
ユーリとアンジェリアの関係性はやはり、平行線を超えたものではなさそうだ。敵の敵は味方、しかしずっと味方ではない。
「アンジェさんは植物が世界の未来だと思いますか?」
「違うにきまってる当然でしょ?」
RPK-16の問いにアンジェリアがきっぱり答えた。そして、ユーリはどう思うだろうか。
アイツは世界は人間だけで回らないと思っている。
人間以外の方法で解決できるなら、そのやり方を試すだろう。
ユーリ達がこの研究所に忍び込んだのもそれが理由なのだろう。アンジェリアは苦虫をかみつぶしたような顔をする。