大きな風切り音を立てながら、グリフィンのヘリがヘリポートに降り立った。
ゲーガーとアーキテクトを拘束した、ダッフルバックが解析チームの所まで運ばれいく。
「……せめてあの世では幸せになっててね」
怪物や無惨な死体となった被害者達を埋葬された人達に手を合わせる。
「SOPⅡ、私らはここまでだ」
「祝勝会してあげたかったんだけどね。また、今度だね…手伝ってくれてありがとう!R5!」
「ああ、また今度の機会に頼むよ。勘定はこっちもちでいいからさ」
事前にM4にやれと言われた仕事があるのか、それとも私達の次のサポートのために先回りするのか。
R5達はまだ、他の仕事があるらしい。
SOPⅡとアリージェンス部隊のR5と握手をしながら、祝勝会を開く約束をした。
「ご協力!ありがとうございました!!」
「ええ、こちらこそ。想定していたよりも、ずっと真面目な方で安心しました。これからもよろしくお願いします」
MCXが警官にしてはあまり、ちゃんとしていない敬礼にROは苦笑いを浮かべながら、仕事ができるアリージェンス部隊の事を評価した。
「アーキテクトを殴ったときは傑作だったわ」
「MCXのあれ?そうだね、アンタの分も残してやりたかったよ」
AR-57が次の任務に必要なものをヘリに運び込んでいるので、ダンデライオンは珍しく今回の件をお礼を言いながら運び込むのを手伝った。
「お別れだね、AR-15次会う時まで」
「そうね、M4には早く帰ってきて欲しいもんだわ」
「M16もね!」
「そうね」
AR-15はまだ、アリージェンスについてくらしい。
これはいっときの別れだとお互いに誓いながら、お互い別々の目的地にむかう。
────
───
一方その頃、ドイツでも動きがあった。
SOPⅡ達がゲーガーの捕獲作戦に従事した時と同じタイミングで、アリージェンス部隊が得た識別不明のマークがフローラ研究所で得られた断片的なデータの中に存在していたのだ。
アンジェリアはすぐさま、フローラ研究所で得られたデータの中身をフォトンに報告、
データの中身に記された、施設の調査のために404小隊とパディルスキのパラデウス施設で保護した幼体のネイト"アンナ"を付き添わせて派遣した。
派遣の際に、アンナはパラデウスのネイトになるよりも前の記憶を思い出した。
その記憶はドイツのブレーメンにある、児童養護施設の記憶だと断片的に主張────実際にドイツにいるアンジェリアに調査を依頼してみたところ、同行していたドイツの代表ウルリッヒの秘書である、"モリドー"がその児童養護施設の事を知っていたらしく、すぐさまアンジェリアはその児童養護施設の調査に乗り出した。
「でも、本当にいいんですか?アポイントメントは取ってますけど…こんなに夜中なんて」
「日を改めたら、その分だけ奴らに近づく為の証拠を処理されてしまう…フローラの時の様にね、奴らに一歩でも早く辿り着くには情報が得られ次第すぐに動かないといけないのよ」
アンジェリア達を乗せた車が走っているのは午後の8時を過ぎている、たどり着くには2時間はかかる。
午後の10時に訪問するなんて、マナーがなっていないが、バラデウスに得られる手がかりのためなら睡眠も惜しくないし…マナーの事を考慮する必要はない。
<アンジェリア達が行動を開始…どうする?ユーリ?>
<放っておけ。俺たちにはもっと差し迫った問題があるだろう>
アンジェリア達が走らせる車を監視していたユーリが監視するために使用した双眼鏡から目を離して、立ち上がる。
隣で監視していた、ユーリが立ち上がったのを確認したグレゴリーも立ち上がり、古びている誰も使っていない様な倉庫の扉を開ける。
お化け屋敷の様に明かりがつかない真っ暗な倉庫の中を進み、特別な手順で開閉する扉を開けた。
扉を開けた先には数十人の兵士達が待機しており、彼らは様々な国の人種で混ざって混成部隊だ。
各々が装備の整備をしていたり、指令書に記載された内容を確認している。
「全員いるな」
「ああ、問題ない。アンジェリア達は?」
「あの方の予想通り、グリフィンの指揮官さんから得た情報の真偽を確かめためにその情報の場所に向かっている」
ユーリは自分達を迎えたハンスと同じ同僚であるCIAの戦闘部門の兵士たちの間を通り過ぎる、
SAD、よく名の知れた名称で言えばパラミリタリーといったところが…誤解されやすい…自分も最近まで誤解していたが、
SADはPMCsの括りではない、正式に軍隊や元軍人から引き抜かれた人員から構成されているからPMCsと見られているが、れっきとした公務員だ。
使っている装備も米軍が使用しているものか、現地のものを代用している場合があるのもその認識を助長しているかもしれない。
殆どの兵士はSIG系のアサルトライフルやピストルを保持していた。
まぁ、米軍の装備としてはオーソドックスだな、と思いながら武器を眺めていくとひとつの武器を見つけて、ユーリは思わず足を止めてしまった。
「M4A1があるのか」
「ん?どうした?ユーリ」
「いや…なんでもない」
兵士が点検していた武器のひとつにM4A1が置かれていた。
「古い銃だが、そもそも2030年以降、まともに銃火器は進んでない。だから、こうしてレトロな銃も見かけるもんさ。お前のAM-17だっておんなじもんさ」
M4…俺の恋人、俺は……今も、彼女が自分のどう言う存在なのか、確立しきれていない。……俺は、彼女を大切だと思っているのに、どう大切なのか理解しきれてない……なぜだ。
いや、そんな事を考えるのはやめておくべきだ、今回の作戦の指揮官が来ているんだから…
「集まったかね…」
「指揮官殿のご到着か…」
ユーリは自分の指揮官になる男のロイス・グランヴル中佐の中年特有の疲れた様な声を聞いた。
ロイス・グランヴル中佐は元スペインの特殊部隊"UOE"の司令官だ。
第三次世界大戦でも、部隊の指揮をしている実績ある。
対戦後に自分が信頼していた政治家がロクサット主義の工作員に謀殺されたことがきっかけで"あの方"…アドミニストレーターの元に集ったらしい。
「それでは、作戦を説明する。各員、端末を広げろ」
グランヴルの指示に従い、その場にいたユーリを含む全員が、市民に偽装するための適当なシャツの裏側に丸めて突っ込んでいた電子ペーパーを取り出した。
「今回の作戦の目的はこのドイツに現れたという"グリフィン"という男を"殺害"することにある」
電子ペーパーの端末が40代から60代を思わせる、イギリス系の中年男性の顔が浮かび上がる。
「諸君らも知っての通り"グリフィン"はロクサット主義の中でも特に優秀な人物として重宝されており、実際に今の欧州が全体的にロクサット主義に傾いたのもこの"グリフィン"と言う男の手腕によるものだと断定されている…」
何人かが、グリフィンの顔を見て、ただでさえ強面の屈強な男達の顔が険しくなる。
ここの組織の目的はロクサット主義のこととはあまり関係がないが、あの方の元に集った理由できた連中の半数以上はロクサット主義に自分達が信じていた、政治的理念を奪われた連中だ。
その尖兵がたとえ命令で致し方なかったとしても、そいつらを殺してやりたいに違いない。
「長らく我々がそのグリフィンと言う男の容姿すらつかめていなかったがそれも2年前までだ。グリフィンが起業したと思われる民間軍事会社に潜入したユーリ・フレーヴェン大尉がグリフィンを創設した写真からグリフィンを特定することを成功させたのだ」
グランヴルに指さされて、一斉に兵士や工作員がユーリの方に顔を向ける。
尊敬、渇望、感謝、嫉妬色々なものが入り混じった視線を受けて、ユーリは少しバツが悪い表情を浮かべた。
「他にもその民間軍事会社、ひいてはその手綱を握っているはずの新ソ連の保安局の影響も削ぐことに成功し、その民間軍事会社と我々は間接的に信頼関係を…いや、直接説明した方が早いか」
グランヴルが端末をスワイプさせると、ユーリ達が持っていた端末の画面が切り替わる。
「一度グリフィンが表に出たら必ず民間軍事会社の戦術人形も動かすに違いあるまい。ユーリ、その民間軍事会社について話してくれ」
…俺の出番か、ユーリは立ち上がり自分が持っている情報や基礎スペックが書かれたデータをその場にいる全員に共有させた。
「民間軍事会社グリフィンとは我々が追っているサー・グリフィンと元ソ連内務省のクルーガー氏が共同で立ち上げた企業です」
ユーリが画面をスワイプさせてグリフィンの企業情報を開示する。
情報にはグリフィンの主な作戦拠点、目立った業績、取引相手、人員の規模が記載されている。
「ご覧の通り、グリフィンの戦闘単位は第三次世界大戦で投入が始まり、世代交代で第二世代となったモデルを今では新ソ連を中心とした東欧諸国でダウングレードされて流通されている民間用人形を戦闘に耐えられる様にカスタムして運用されています」
多くの戦いで彼女らと共闘して仲間だと思ってくれた人形達の情報をアドミニストレーターの元に集う、本来の仲間たち漏らしてしまっている。
後ろめたい気持ちがあるが…それでもユーリはサー・グリフィンを優先していた。
「グリフィン民間軍事会社が運用している戦術人形は烙印システムが備わっています。これは、烙印システムと繋がった武器と接続することにより、自分の武器がどこにあるのかを理解できるだけでなく、半世紀以上の銃火器であったとしても、短期間の訓練でその銃を引き出し、戦術人形化することができます。また、現在グリフィンを代理で動かしているクルーガーの方針により、民間用人形から戦術人形になった人形達の名前は烙印した銃と同じ名称として扱われています」
基礎スペックの説明なら、これで十分だろう。
ユーリが頷くとグランヴル中佐が作戦の概要の続きを話しだす。
「そこで、だ。上層部はこの民間軍事会社の人形に対してのカウンターとして…我々が開発したPPK-20…"ヴィシャス"を投入する事を決定した。すでに、一度保安局が運用する戦術人形と交戦して圧勝している」
つまり、ユーリが話をしてから、今までの間は目下の懸念点はある程度潰されているという心理的優位性の説明になる。
ここからの話がグランヴルの本題だ。
「あの方は今回のパラデウスが本気であることを予測した。今まで裏でコソコソしている時とは訳が違う。すでにサー・グリフィンがこのドイツで次の手を打つ気であることも予測している。奴が駒を動かすとしたら、必ず自分の会社の人形と指揮官を送り込むに違いない。誘き出す為には奴が動かしている人形達が鍵だ。グリフィンの他にもロクサットの信奉者も表に出ることは覚悟しているはずだ。我々が行くところにも"騒ぎ"あるだろう。だが、その騒ぎでサー・グリフィンは表に出て駒を動かすだろう。俺たちが動くタイミングはここだ」
表に出なければ、我々がロクサット連合の集まり…汎欧州連合最大の推進国であるドイツでロクサット主義の求心力が遅れれば世界統一は夢のまた夢だ。
ロクサットの狂信者どもはすぐさま、現地にいるグリフィンに「なんとかしろ」と要求して、グリフィンは人形と指揮官を手駒して動かすだろう。
そこでこちらも動く、こういう理屈だ。
例え、サー・グリフィンが臆病風に吹かれて、表に出なかったとしてもロクサット主義に対する不信感はドイツから瞬く間に汎欧州連合に広まる。
前提の作戦さえ、成功すればどちらに転んでも我々の得になる。
「諸君らがやる事についての説明をしよう。我々は以前から、ドイツにはロクサット主義に関して不平不満を溜め込み、クーデターになりつつある動きを察知している」
こいつが決まれば、ユーリ達が動く必要もなく、グリフィンが出張るに違いないが…
「ドイツも100年前よりはバカではない、既にシュタージが主要メンバーの逮捕に動き出している。そして、その動きをクーデターをする連中は確定する情報として勿体無い可能性がある」
秘密主義のシュタージだ。
情報統制は徹底していて当然だろう、ユーリ達もアドミニストレーターの予測から基づいた捜査でようやく尻尾を捕まえることができたからな。
「諸君らは、シュタージの徹底した妨害に取り組んでほしい。電波妨害、工作員の排除、クーデター派の支援とさまざまな仕事が諸君らには当てがう所存だ、まず…電子妨害する班のメンバーを発表する────」
「諸君らは、シュタージの徹底した妨害に取り組んでほしい。電波妨害、工作員の排除、クーデター派の支援とさまざまな仕事が諸君らには当てがう所存だ、まず…電子妨害する班のメンバーを発表する────」
数時間後、各々に与えられた役割を遂行する為に席に座っていた兵士は工作員達が立ち上がる、
無論、ユーリの役目も決まっている。
ユーリの役割は予想をしていた通り、アンジェリアの妨害とクーデターをしようとしている連中が追っている、謎の組織についての調査だ。
「可能なら、解決しろ…ね」
ユーリはため息が出た。
情報がこの、A4用紙一枚に書かれた情報でどう動こうか…という理由ももちろんあるが…一番の理由は、勘ではあるがこの任務で少なからず、アンジェリアとまた一戦交えなければならないだろうという確信めいた何かを感じ取り、それがユーリは頭を悩ませる。
そして、アンジェリアと戦えば必然的にAK-12とも戦うことになる。
ユーリにはアドミニストレーターの元で、アドミニストレーターの為に戦う理由がある…しかし、AK-12と戦いになって、この手でAK-12の始末をつけられるかの不安だ、要はアンジェリアと戦えない理由の方が強かったら…そう思うとユーリはまたため息をついてしまう。
多分、これはグランヴルによるテストなんだろう。
ユーリはアドミニストレーターの元に集う人間ではある、同時に新ソ連の人間だ。
その新ソ連が政府に秘密裏にロクサット主義に飲み込まれようとしているこの状況で、ユーリもロクサットに丸め込まれていないか、その確信はグランヴルには得てもらえていない。
まして、一度ロクサット主義に興味を持った彼からしたら。
だから、もしAK-12という義理の娘をその手で始末できるのなら…"仲間"として認めてやっても良い、それがあの男のテストに違いない。
「隊長。準備できました?」
アキがユーリの肩に手を置いて少し、心配した声で問いかける。
多分、ユーリの葛藤を多少なり理解してくれての心配か…
「AK-12でまだ悩んでいるんですか?もしも時は私が引き金を引きます。…その時は私に怒りをぶつければ…」
「心配しなくていい。始末が誰に回ろうとも大丈夫だ」
…例え、その始末が、ユーリに回ったとしても…だ。
────
───
「時間だな…」
数日かけて、準備を整えたユーリ達は件のロクサット主義を敵視しているグループが潜んでいると言われているスラム街の情報を手に入れることに成功した。
ギィギィと劣化が進んだ難民とドイツ市民を隔てる壁がゆっくりと稼働する。
難民達が住むスラム街の様相は完全に荒れきっていた。
いや、荒れていると言うよりはとっくのとうに見放されているという表現の方が正しいんだろう。
ユーリ達が偽装用に、着用している物乞いに似た衣装を着ていなければ生き残る為のカモにされていたかもしれない。
「ハンス、ユーリだ。スラム街に侵入した、確認を」
<見えたぞ…少し浮いてるが、まぁ…いいだろう>
先にスラム街に潜伏していたハンスから通信の返答が帰ってきた。
この街はあの男の庭の様なものだ、だからこの街に溶け込む為に必要な装いというのを知っているんだろう。
<早速、追われてるぞ…>
「あぁ、知ってる」
ユーリ達はとっくに…街の中に入ってきた瞬間に尾行されていたのに気がついていた。
視線が強いのだ。
こちらを警戒する様な強い視線が…ヒシヒシとくる、あっちも追跡のプロなのだろうが…凶暴なE.L.I.D…腐肉喰らいが自分達に向ける、"美味そうな肉"を見る視線がないか常に気を張るユーリ達にはその視線が警戒しなくても感じるほど強く感じるのだ。
恐らく、追跡しているのはシュタージ共だ。
目的の反対勢力には事前に根回しされているから、敵意があっても向かいうつ様に陣形を整えればいい、なのに尾行をしている。
その尾行する必要があるのは誰だ?シュタージだ。
「撒くか?」
<また追いかけられるのも面倒だ。始末しろ、奴らを突っついてやれ>
グランヴル中佐の命令が入った。
今は波風を立てたくない準備段階で、だ。
荒型は時に避けて、通ることで効率的に物事を進められる。
その効率を無くしてでも、打って出る理由があると言うことか。
「分かりました」
承諾したのはいいがどうするか…
まず視線に移ったのは路地、路地にすばやく入って誘い込んだ拍子に始末する。
オーソドックスなやり方だ。
次、人混み。
人ごみをかき分けて、動きを封じた上で背中から一突き…難易度は少し高い、しかし…上手くいけば、そのあとの追跡者を派遣するのにも時間をかけさせることができる。
どうしようか…と2秒間考える。
そして、面白いことが浮かんだ。
「行くぞ」
ユーリがハンドサインで着いてこいと合図をした。
相手が尾行されている中でこんな簡単な、見て誰にでも分かるハンドサインを出す奴は監視に気付けていないという油断を表すので無能な行為だ。
そして、その無能のハンドサインを見逃す様なやつはそれ以上のアホか無能だろう。
ここでシュタージ奴らはこう考えるだろう「あいつらは自分達が尾行していることに気付けていない…楽勝だ」と多少気が緩んでしまう。
────その、気の緩みがユーリの付け入る隙だった。
シュタージはこのレベルのやつならもう少し近づいても大丈夫だろうと思って距離を詰める。
距離を詰めた瞬間、シュタージの尾行が目にしたのは…
「あっ…!!」
シュタージの尾行が目にしたのは、配給に並ぶ行列だった。
ユーリを追いかける為に人ごみをかき分けたと思ったら、それは自分達の生活に直結する生きるか死ぬかの場だ、ユーリが先にこの行列に入ってフラストレーションが溜まった難民のすぐ後に尾行が割り込んだ。
────どうなるか?単純な事だ。キレる。
列に並んでいた、難民達は再び横入りされたと思いこみ、シュタージの尾行を囲い出した。
「ハメられた」そう思ってももう、遅い。
キレた難民達が自分達の食糧のチャンスを奪おうとするやつだと知り、次々と逃さんとばかりに尾行の逃げ道を塞ぐ。
ユーリが"無能"を演じたことで、シュタージは気を緩ませてしまった。
そこが彼女の運命を左右させた。
尾行は難民の1人に拳があてがわれた。
顔を殴られて、よろめき尾行は倒れる…その時、尾行が被っていたフードが外れてしまいその顔が露わになる。
露わになったのは女の顔だった。
難民達はそれを知るとニタニタと笑い出し、尾行の顔はどんどん青ざめていく。
囲っている難民達は、思いがけずとても良いものを手に入れた。
このスラム街に裁判官はいないし、警察は碌に仕事をしない。
おまけに偽装用の難民の格好をしているので、警察は難民同士の喧嘩だと思い込みこれといって手助けしないだろう。
しばらく殴られた音が響き渡り、引きずられる音に変わる。
これからされる事を理解した難民は必死になって暴れて抵抗使用するが、痩せこけようが10何人もの大人の力に勝つのは至難の業だ。
<酷いことするなぁ…アイツ、多分死んだ方がマシな間に合うぞ>
「…アイツの運と警戒心がなかった結果では?」
殴られて終わるだけだろうと思っていたユーリが自分の見通しよ甘さに少し後悔した表情をかけて再度、会合場所に歩き出した。
その姿は徐々に難民たちに雰囲気に溶け込み、紛れていき、やがて判別できないように溶け込める様にスラム街の人混みに紛れて見えなくなった。
────
───
「シュタージは撒けたな、よし進もう」
先程の難民の騒ぎで尾行の気配がなくなったことを確認したユーリ達は複雑なスラム街のさらに複雑な通路を通り、反ロクサット主義が指定した建物の中に入る。
「お待たせしました」
「入れ」
そこは薄暗い部屋だった。
薄暗い部屋がほんのり明るくなった。
部屋の中央にはテーブルがあり、その周囲に六人の男女がいる。
全員がフード付きのマントを着ていて、顔は見えない。あの方の予想通りとはいえ、彼らは表に出したくないことをしている立場か。
その中の一人が立ち上がって言う。
「誰にも気づかれなかっただろうな?」
フードの男がユーリ達に尾行されていないか質問してきた。
「一旦尾行されたが、ちゃんと撒いた、問題ありません」
「なら構わん、早速話を進めよう」
フードの人物の中でもとりわけ背が高い男がテーブルの隣に置かれている椅子に座る様に促す。
ユーリ達が全員着席したのを確認してからフードの男も座り、口を開く。
「先週、ソ連の保安局の査察官と名乗る女がここブレーメンに来た、どう見てもエージェントだが…どうやら、我々ではなくパラデウスとかいう組織追っているらしい」
「パラデウス……」
ユーリはその単語を聞いた瞬間、眉をひそめる。
「お前達は知ってるか?」
フードの男はユーリの反応を見て尋ねる。
「はい。ベオグラードの事件をご存知ですか?アレの首謀者がパラデウスだ」
「あの事件にか?そうか、ならあのエージェントもロクサット絡みということか?」
鋭い奴だな。
自分が提示した情報だけでそこまで辿り着くとは…フードを被った連中…ただの寄せ集めとは違うらしい。
「ええ。新ソ連の国情もロクサットに反対する輩を大勢粛清して不自然な程急激なスピードでロクサット主義化が進んでいる状況です」
新ソ連は国策が完全にロクサット主義になるまでの間に欧州とのなんらかの信頼関係が欲しいんだろう。
だから、保安局はアンジェリアを派遣した。ロクサット主義実現の排除も兼ねて。
アンジェリアとは個人的な中らしいからな、その辺りもすんなり行っても不思議な話ではない。
「お前らの目的は?そのテロリストのパラデウスか?」
「確かに標的のひとつですが……実はもうひとつありまして、こちらの目的もロクサット主義です。ただし、アンジェリアではなく"グリフィン"という男を探しているのですが、ご存知ですか?」
ユーリは一枚の写真を見せた。そこには四十代くらいの男性の顔写真があった。
「こいつは…」
「ご存知ですか?」
「あぁ、俺たちが追っている男と取引している奴だ。何度か目撃している」
ユーリはフードの男の目を見た。
これはこの後の情報を売ろうとしている目だ。
彼らに出来なくて、俺たちに出来ることをどれだけやらせるか計算しよう皮算用している目だ。
「この男の情報を知りたい。何をすれば教えてくれますか?」
経験上、こういう時はこっちからふっかければ話が進む。
回りくどくいくと取引も回りくどくなり、本来欲しいものが更に手に入りずらい事態になることをユーリは知っていた。
「話が早くて助かる。正直な事を言うと俺たちはあの新ソ連の保安局の女が来る事を知らなかった。お前らなら、あの保安局の女を妨害できるか?」
アンジェリアとそのお付きの反逆小隊の妨害ときたか…確かに反逆小隊の人形は手練れだが…
ユーリはチラリとヴィシャスを見つめた。対戦術人形のヴィシャスがいるなら出来ないこともない。
「可能です。アンジェリアとその護衛は任せろ」
「交渉成立だな。俺の合図でアンジェリア達の妨害をしろ、期待を裏切るなよ」
「ご安心を」
「では、次の話を話を始めよう。我々の計画についてだが────」
ユーリ達はフードの男達と共に地下施設から出た。
「俺は指令に連絡をとる。アンジェリア達が来るまでまだ時間がある、適当にぶらついて、いい場所を見つけるんだ」
「了解」
ユーリ達はスラムを歩いていた。自分達が知るスラムは2つある。
1つは、貧民街のスラム。低所得者が寄り添うスラムだが、それなりに活気はあったし、血の気の多い連中もいるが治安も成り立っていた。
自分が昔住んでいた、スペアタウンの様なスラムがそれに該当する。
そしてもう1つがここブレーメンとおんなじ様な難民エリアに存在する見捨てられた様なスラムだ。
仕事にありつける難民なんて、たかが知れている。じゃあ、どうやって生きているのか?
それは配給だ。少ないが最低限生きていける量の缶詰めを手渡される。
それでもここは腐肉喰らいはやってこないから外と比べて幾らか天国なのは疑うまでもないのが、この世界の人の残酷さだ。
ユーリはジャケットに忍ばせていたキューブ型の端末の電源を入れた。
司令官のグランヴルと通信が繋がった。
<取引の結果は?>
「なんとか話を纏めました。アンジェリアの妨害を条件に工作員グリフィンの情報を教えると」
<よくやった。引き続き妨害の件も任せる。何人か人員も寄越す、なんとしても成功させろ>
「分かりました」
通信が切れる。アンジェリア達の妨害か────奴はこの居住区にパラデウスの情報が欲しくてやってきたんだろうが、踏み込むべきではない狩場に足を運んだようだな。
────
───
同じ頃、ブレーメン市街地と難民居住区を隔てる壁にアンジェリアはやってきていた。
アンジェリア一向は今回もサポートでやってきたモリドーと合流した。
「あ、おはようございまーす!アンジェさん!今日もサポートお任せください!」
「ここに、危機感が感じられない秘書さんが1人…」
モリドーの格好はAK-12でも分かるほど危機感に欠いている格好だ。
まるで休日を楽しむかの様にラフで動きずらい格好をしていて、警戒心を持たせないためと言われても身を守る最低限の格好ができていない。
「今日中にいく必要があるのか?」
護衛のポップスは消極的だ、せめて護衛の準備を整えて大規模な動きをするべきだと考えているんだろう。
それは護衛の意見としては真っ当だ。
「ええ、植物研究所で経験したでしょ?アイツらは逃げ足が速い、奴らに追いつくには素早く動かないといけないのよ」
しかし、アンジェリア達は客人ではなく猟犬だ。
猟犬が隠れる獲物をみすみす見逃す様であれば、猟犬の失格である。
それに、アンジェリア自身、大規模な動きをするのは得意ではない。
「分かった。だが、互いに連絡は取れるようにするべきだ」
「当たり前よ」
アンジェリア達はホップスの意見に半分賛成する形で難民居住区に向かう。
難民居住区に入れる様にモリドーが警備員と交渉する、警備員は渋い顔を繰り返したが、どうやら折れた様でドアを開ける様に手配してくれた。
「いいか?アンジェリア、ここに来たら例え人形でも…」
ホップスが警告をしようとした時、彼のポケットから電話が鳴る。電話の送り主を見たポップスは顔を顰めた。
「すまない。個人的な電話だ」
「今からすること以上に重要なわけ?その電話」
「…あぁ。…遅れてすまん。いや、俺の方に問題はない…ただ、あぁ、そうだ…」
アンジェリアは電話をする為に離れたポップスの事を案外抜けているなと感じた。あんな渋い男にも色恋沙汰の一つでもあるなんて羨ましい限りだ。
「そうだ。そっちの事は任せる、あぁ、そうしてくれ…頼む。…待たせたな」
「別に構わないわ、今始まったみたいだしね」
アンジェリアが指差した方向にある大きな壁がゆっくりと開かれていく…難民居住区の入口が空いたのだ。
<ようこそ!安住の地!ブレーメンへ!!>
入口が開ききった時。自分達の入場を歓迎するアナウンスが鳴り響く。
一歩先がこれほどまでに荒れ果ててなかったら嬉しい歓迎だったに違いない。
アンジェリア達は敢えて堂々とスラム街を進んでいく。スラムの中は全くと言っていいほど人の気配がなく、ここの人間はみんな死んだのではないかと錯覚するほどだった。
「人一人いませんね…なんででしょう」
「難民居住区の難民は基盤的に配給時以外、外に出ない。外に出たら、カモにされて袋叩きに遭うと知っているからな」
モリドーの疑問に冷めた感情でホップスが答えた。政府が実行したとはいえ、その決定を支持したのはドイツの筈だ。ホップスの難民に対する態度はまるでどこでどう死のうかまわないと言いたげにに冷めている。
「警察は機能しているの?」
「機能どころか、駐在所の一つもない。数カ月前に腹をすかせた難民が警官を食う事件が起きてからな」
アンジェリア達の空気に寒気が走る。アンジェリア達が考えていたブレーメンの難民は盗賊に成り下がったり、食うもののために争う集団になっていたと考えていたがそれ以上に深刻なものだった。
「改善は考えているの?例えば配給を増やすとか」
「この物価が日に日に上昇していている現状では期待できないな、まともに働かないやつに食わせる飯をくれてやるのが惜しいくらい、それが政治屋の考えだ」
ホップスの冷ややかな態度の正体はこれか…ホップスは難民が嫌いなのだ。難民の事を仕事もしないでリソースを食い潰す害虫として捕らえている感情が冷たさの根源か。
「それで?反逆小隊はどうやって目的の男を探し出すつもりだ」
「強引な手段で行く。今、私たちの手札は少ない。勝つには賭けで行かないと」
人気のない、居住区に進んでいくアンジェリア達は昨日、グリフィンの指揮官…フォトンから送られた情報をもとにドイツにある児童養護施設を訪ねた。
その養護施設で得た情報によれば────パラデウスの関係者がこの居住区で取引を行っているらしい。
そして、取引の時間までに先回りをしてパラデウスの関係者を捕まえる予定だ。
「ルシア?」
「アンジェ、追われてるわよ」
AK-12…もとい、ルシアが軽く目配せして難民に偽装した男のことを伝える。
パラデウスの息がかかった者か、それとも別の誰かさんか…
「ここで一旦引っ掛けてみましょう」
RPK-16もとい、レナーテの言葉の意味は獲物のふりをして標的を捕まえようと言葉の意味だ。
「あんまり目立たないように、まだ大きな動きをするのは避けたい」
「了解」
一同は先にAK-12達を先行させ、アンジェリアとモリドー、ホップスと勝手についてきたエージェントJの2グループに分かれた。
「対象が二手に分かれた。男の方に多めの人員を割け、絶対に対象を見失うなよ」
難民に偽装していた尾行がマイクで他のメンバーに指示を出す。
<待て、何かおかしい。これは罠だ>
その尾行に対して、今回サポートとして入った男が割り込むように警告してくる。
「俺たちを舐めないでもらおう、これでも公安なんだ、少しは黙って────なんだ?」
通話してきた男に「舐めるな」と言おうとした尾行は信じられないものを見た。
難民の人集りがこっちに怒鳴り声を上げて睨みつけきたのだ。
アンジェリアは難民がより弱い難民に暴行していたのをスケープゴートに利用して、その辺のレンガで暴行していたグループの一人に投げつけたのだ。
投げつけられた男達は既にいないアンジェリアではなく、その場にいた尾行達が犯人だと勘違いしてヒートアップした感情で刃物を取り出す。
「く、くそっ!!」
尾行は隠し持っていた、AK-74uを構えると流石に難民達も動揺した。刃物があっても相手は銃、勝てる見込みがあろうと恐怖するのは必然だった。
「ハメやがったな…あのビッ────グッ!?」
尾行の注意が難民達に向いていたうちに後ろに回り込んだAK-12に蹴飛ばされる。
残り2人、2人も襲ってきたと理解したが、AK-12の間合いから逃れるではなく、銃を向ける。
AK-12は銃口が向けるよりも早く、残りの尾行の顎を砕いた。
「…やられたな、助ける暇もない」
「介入します?」
ユーリ達はスラムの高い建物上で、一部始終を見ていた。反ロクサット主義の男達…警告したにも関わらず、公安の出身と聞いていたが、まんまと罠に引っかかってしまったな。
「今はダメだ。目撃者が多い、妨害はもう少し決定的なタイミングで行いたい」
AK-12が倒した、尾行の装備を物色し、何者かを理解した彼女は銃は分解してゴミ箱にマガジンだけ頂いて素早く去っていった。
「もしかして、娘だから甘い態度をとるつもりじゃあ────」
ユーリの部下のアキがそこまで話して口をつぐんだ。彼の目はまるで蛇のように静かだった。彼の言葉に嘘はない、確実に反逆小隊を止める────任務を遂行する為にチャンスを窺っている。
「…すみません」
「いいんだ。疑う気持ちはわかる」
そんな恐ろしい目つきを見てしまったら、疑う方が無粋だとアキは理解したのだ。
「隊長?これからどうします?」
「そうだな…娘に会いに行くとするか」
ユーリはゴミ箱に捨てられた銃の部品を拾い上げると慣れた手つきで組み立て直して、元の持ち主のそばに予備マガジンと一緒に据えた。
「レナーテ、そっちは?"パウエル"は確認できた?」
<はい、確認しました。どうやら、難民救援センターの中にいます。熱源を確認したところ、"パウエル"の他にも数名分の発言を確認しました>
先行したRPK-16…もとい、レナーテが今回の目標である、"パウエル"の居場所を見つけて報告する。
「J、ホップス。私たちは北西から侵入して退路を断つ。アンタ達は正面から入って、パウエルを捕まえて」
「了解。前のようにホップスさんが犯人を殺さないようにするのを祈るさ」
「あれは不可抗力だ。それとも、味方を死なせた後にゆっくり捕まえるつもりか?」
Jの皮肉にホップスはムッとした。
ホップスは児童養護施設の調査の件で殺しにかかった犯人を正当防衛で殺してしまっている。
生捕にはしたかったJにとっては気に食わないらしく、何持った発言をする。
「喧嘩ばっかり、私たちがやった方がうまく行くんじゃない?」
AK-12は今にも殴り合いの喧嘩が起きそうな状況に呆れ果てている。
「私は敵が味方もわからない警察どもの方が懸念事項よ。奴らがパウエルの味方だったら、厄介じゃすまないわ」
「でしょうね、わかった。私たちは退路を断つ」
AK-12が素早く、難民街を進んでいき街並みに消えていった。
「位置についた。J、ホップス。私たちは階段にいる、もう一歩をそっちで押さえて」
「何が起きるか、分からん。今回はこっちが先行した方がいいのでは?」
「いえ、こっちでやる。この手でクソ野郎を捕まえたいの」
アンジェリアが登ろうとしている階段の上では写真で拝見した"パウエル"と同じ顔の小太りの音が複数の護衛に守られて何者かに電話を掛けていた。
「出迎えはまだか!?奴らはもうここまで来ているんだぞ!?」
アンジェリアは素早く、パウエルが直接確認できる壁に寄りかかり隠れる。
パウエルは電話に夢中でこちらに気づいていない。
────チャンスだ。
「────誰だ貴様!!」
怒鳴り声が聞こえて、アンジェリアはゾッとした。自分ではない…ホップス達が囲うはずだった所か!?
拳銃の甲高い音とサブマシガンの矢継ぎ早の銃声が児玉して、空気が変わった。
「く、くそ…もう来たのか!!」
パウエルはなんの迷いもなく、全速力で逃げ出した。
アンジェリアもパウエルを捕まえる為、意を決して飛び出した。
「侵入者────ッ!?」
身を乗り出すと同時に手に持っていたグロックで護衛の1人を発砲して始末する。
生き残る護衛はアンジェリアに向かってサブマシガンと発射した。
暫くたって、サブマシガンの弾丸が切れたので護衛達は一斉にリロードを始める。アンジェリアはそのツキをついてもう2人、始末する。
残る1人、残りはアンジェリアに撃たれる前にリロードが完了。リロードを済ませた護衛がアンジェリアに銃口を向けてきた。
「────!アンジェリア!!」
護衛があと少しでアンジェリアを撃とうとした瞬間────護衛の頭に穴が空いた。
「大丈夫か…?」
撃った相手の正体はホップスだった。
「────悪い、俺が突入しようとした時に背後から護衛が現れて…見つかってしまった。ホップスに助けてもらわなきゃ、俺は天国のかわい子ちゃんに挨拶するハメになってたよ」
「ついてないわね…まぁ、そういう時もあるわ。それより、部屋の確保をしてくれる?」
Jの口ぶりからして不可抗力の事態が起きたのが伺える。
<アンジェ、派手にやりすぎよ。外はすごい騒ぎよ>
マズイ、とアンジェリアは直感でそう考えた。
これではパウエルを捕まえるよりも前にここの住民に血祭りにされかねない。
「まかせろ────一旦、住民達は立ち退かせた。だが、次も通用するか分からん。次は武器をチラつかせられる前に殺しにかかるかもしれん」
数発銃声がして、人々が下がっていく。どうやら、空に向かって発砲して驚かしたらしい。
パウエルはこの街の顔役でもあったらしい。だから、難民救援センターなんていう施設に我が物顔で出入りできるのだろう。
「ま、マズイですよね…これ?」
素人のモリドーでも明らかに状況が悪いと理解する。つまりアンジェリア達の状況は非常に危険であることを指していた。
「ヘリで逃げた方がいいわね…J、ヘリって今から呼べる?」
「呼べないってことはないが…上に話を通さないとな」
「上に話が必要なの?」
「ウチも高い組織は名乗っているがこうやって身につけている武器すら、全部借り物だからな…」
アンジェリアは溜息つく。ベオグラードでユーリがよこした戦術人形小隊をダース単位で用意できる有り難みを改めて知った。
「上に言えばヘリは来るのね?じゃあやって、その間にレナーテはアーウィンと一緒にあのデブを捕まえなさい。話せるくらいに生きていれば構わないわ」
<フフフ、お任せを>
<了解>
反逆小隊は急いで、パウエルを捕まえに向かう。
アンジェリア達はヘリが来るまで籠城の準備をしていた。
<AK-12、外の様子は?>
「これはマズイことになったわね…」
一方、不測の事態備えて潜んでいたAK-12は外の様子を見て、「マズイ」と直感した。
────出ていけ!出ていけ!
────パウエルさんに近寄るな!
「なんとかしないと…」
アンジェリア達が籠城する建物に向かって何十人もの難民たちが武器を持ち、屯していた。
あれだけの数に攻め込まれたら流石のアンジェリアも危険だ。
「お困りかな?レディ?」
どこからともなく、声がして…虚を突かれたAK-12は慌てて振り返る。
「こんなところで会うなんて奇遇だな。でもいいさ、嬉しかったんだからな」
少し楽しそうな声が自分の上から聞こえたので思わず上を向くとその声の主と目があった。
「やっぱり来ていたのね────パパ」
この声の主はAK-12が一番よく知っている、私の父────ユーリ・フレーヴェンの声だ。
「やぁ、AK-12…いや、さっきの話を聞くに今はルシアって呼んだ方がいいのかな?」