3年前
前線基地にて、
「あんなことになったんだから、やばいって!」
「だ、大丈夫よ!彼は若いんだしドローンがひとつやふたつ減っても気にしないって────」
「────ドローンが減った?」
「げっ!?親父!?」
「みんな揃ってなによりだ。さて、俺が大佐の元に呼び出されている間にここにあった数台の輸送ドローンがあんな無惨な転がり方をしている理由を誰か説明してくれないか?」
部隊長のユーリは弾薬や食料を輸送するドローンが地面に激突し、煙を上げているその様を指差し、その場にいた一同に伺っている。
そして、その当事者と思われる兵士たちと保安局から出航してきたAK-12はユーリから与えられる圧力に慄き、誰か口を開くのを待っている。
「報告する人員も俺が指名しないといけないのか?よし、なら第三者から話を聞くとしよう。AK-12、何が起きたか教えてくれないか?」
「そ、それは……」
目をグルグルと回して、焦るAK-12。
それもそのはず、これはユーリが大佐のところに行って帰ってくる2日の間に、鬼の居ぬ間の洗濯のごとく基地のドローンでレース大会を開いてしまったのが原因だからである。
「────わ、私が」
「君が?」
今にでも土下座しそうに見えるAK-12、このまま罪を認め許しをこう、ように見えたのだが。
「私が止めたのに!この基地の連中が!中尉のいない間にドローンレースの開催を勝手に始めてしまったの!」
「あっ!この!他責人形!よくも、私をハメてくれたわね!」
言い出したAK-12が基地のメンバー売るという正に卑劣な行為に、売られたメンバーはたまらずAK-12に怒りを隠せない。
「へぇ…そんな話が。実はさ、昨日近隣住民から複数のクレームのお電話を頂いたんだよ。"オタクの基地がドローンをたくさん動かして、赤ちゃんが寝られない"、"そちらの基地から飛んできたドローンと自分の車がぶつかりそうになった"……ああ、こんなのも貰ったな。台の上に立って、演説用マイクで"ドローンレースの開始を宣言します!"と大声で宣言した銀髪の女の子が騒いだらしい。さて、この基地には銀髪の女の子なんて、1人しかいなかったけど……」
そうして、身もメンタルも凍るような冷たい笑顔でユーリはAK-12を見つめた。
やばい、全部ばれている。
「……ここも冷たくなってきたな、耐久テストをさせるにはいい時期だと思わないか?AK-12、君も興味があるだろう?どのくらい寒くなったら、人形の素体が限界になるのか」
なんて恐ろしいことを言うのだ、と震え上がるAK-12。
もう、これは隠し立てできない。
「はい……AK-12がやりました……!ドローンレースの動画を見て!私もやりたいと思ったAK-12が!みんなを誘って!輸送ドローンでレースして!ドローンを事故らせました!」
諦めたAK-12は即座に土下座して、洗いざらい吐いた。
「はぁ……もういい。住民には俺から謝っておいた……だが、お前達もちゃんと謝れよ。始末書と反省文は絶対だとして、そのあとは次歩けなくなるくらいグラウンドを走らせてやる」
ドローンの外装が凹んだだけだし、間違ってスイッチに接触しただけだったから、大事にはなってないか……
「上には黙って置いてやる。だが次、同じことして事故らされたら上に話を持っていくからな」
────
───
なぜ、そのことを今私は、AK-12は思い出している。
「やぁ、AK-12…いや、ルシアって呼んだ方がいいのかな?」
AK-12は考えていないわけではなかった。自分のユーリがこの件に絡まないわけないとは予想がついていた…
だが、どっちだ?ヴィシャスと一緒に行動しているのか?それとも、別々の理由でここにきているのか?
「ルシア、君はここには観光できたのかい?」
「……いや、それは」
でも、戦術人形ヴィシャスの明確な"敵意"がもし、ユーリからの命令で向けられたものだとしたら……同じように自分に向けられるかもしれない事実を受け止め切れる勇気はAK-12にはなかった。
そもそも、保安局だって海外で好き勝手仕事できるわけではない、仕事をするにも外務省に一言報告を入れてからという決まりがある。
もちろん言わなかったら、外交問題を犯したということで処分される。そして、私たちはその外務省に一言入れたか、というと……入れていない。
外務省に許可をもらいに行ったら、「それならうちが代わりにやろうじゃないか。他ならぬ、アンジェリアの悩みだ」なんて言われて私たちは蔑ろにされる。
AK-12自身としては、別に誰が解決してくれても構わないがアンジェは違う。
「確かに君はこんなところにも行くタイプだけど、ここに見るべきものはあまりないと思うけどな……どうした?気分でも悪いのか?」
ユーリは心配そうにAK-12の顔を覗き込んだ。
まるで、具合の悪い娘を心配する良き父の様に、せっかく心配してくれる父親に対して、AK-12は滅多なことでは開かない瞳を開き、恐怖で滝汗を流してスーツのしたのワイシャツはぐっしょりと濡れていた。
私達はルールを破っている。
非があるのはこちら側だ、と認めるべきか?いや、そんなことはできない、出来たら私たちは強制送還される。
いや、それだけではないアンジェ達と今までやってきたことがパーになる。
彼女の今の状態は骨を咥えた犬だ。せっかく咥えることが出来た大事な骨を誰かに任せるなんてできない。
「い、いえ…」
板挟みだ、お陰で唾の味が酸っぱくなる。
AK-12はなんとか言葉を捻り出して普通の態度を取り繕う。
観察が好きなAK-12がいつも見つめたいと思っている対象のユーリの顔を見ることを恐れている。
「目立ちたがり屋のお前がそんな所に隠れるなんて、もしかしてアンジェリアさんも今日はここにお邪魔しているのかな?」
「そ、そうかしら?アンジェはいつも適当だし、今日はそうなんじゃない?今日だってそばにいたわけじゃないし────」
「そっか、そばにはいないけどアンジェリアはここにいるんだな」
「あ────」
しまった。やらかした、言い訳が長過ぎた。
ユーリはその言い訳から、アンジェがこのブレーメンにいると確信を持ってしまった。
これでは、どちらだったとしても望まない結果になる。
「なら、ついでだ。挨拶してあげないと」
「ちょっ!?まってまって!?」
急いでAK-12はユーリの手を持って押し留める。
「どうした?」
「ど、どうしたって?勝手に出歩かない方がいいわよ!ほ、ほら!見て!ここ、いま危険じゃない。ねっ?ねっ?」
「承知の上だ。俺はここの東ドイツ公安局の要請で暴動の責任者に会いにきたんだ。公安の人、連絡取れなくなってな。代理で行くことになった」
公安局の要請……まさか、あの時尾行していたエージェントを解決しなかったら、ここで会うことはなかったってこと!?
「それって、責任者ってパウエル?ってひと?」
「よく分かったな。彼、有名人なのか?」
マズイ方向に話が明らかになっている。
まさか、ユーリ達外務省もパウエルと会うことを目的としていたとは……私たちは尾行されたとはいえ、先に手を出してしまった。
これは、共闘できたかもしれない状況を自分で放り捨ててしまったことになる。
「はぁっ!?じゃあ、この騒ぎを仕組んだのはアンタってこと!?」
「……え、それは話が飛躍しすぎじゃないか?公安に頼まれたのは難民の感染者対策だよ。第一、国外の感染者問題は外務省が担当することだろう?よそ者がE.L.I.Dという病気を運ぶかもしれないと恐れるのは世界共通の悩み。東ドイツの公安は感染者をより早くどう見分けるのか、見分けたあとどう隔離対応するのか。それを教えて欲しいって、新ソ連盟主の中央ロシア委員会に東ドイツが頼み込んだから、俺たちはここにきたのさ」
本当にそれだけで要請したのか?私もユーリと一緒にいたころ同じような要請で東欧や東アジアを転々としたがそれだけ済んだかとはない。
今回も頼まれた事を利用した、別の事情がユーリにはあるんだろう。
「パウエルをなんで知ってるかって言うのはあの罵声よ」
AK-12は玄関前を指さし姿は建物で見えないが騒ぎだている現状は理解できる。
「聞こえる?パウエルの名前がなんでも出てる。ここにとって大事な人だとしたら、責任しかいないという察しはつくわよ」
「いいね……君は賢くなった」
「私を泣かせるほどシゴいてくれた誰かさんのお陰でね」
だが、まだ懐かしい気分に浸るのは早い。
「私にとってはあなたがくることが意外よ。てっきり化け物対峙してると思った」
「フフ、ルシアは我が祖国の新ソ連をこんな病み上がりの人員に荒事を押し付ける国だと思うのか?」
「思うわよ」
「相変わらず君は捻くれた正論が好きだな、本当に人を人と思わないからな、あの国。怪我が治ってなかったらどう言うスケジュールを立てる気だったんだ?」
まぁいいさ、といってユーリはこの辺りの話を終える。
「それにしても結構話をはぐらかしてくれたな。……シラを切りたいならそういうことにしておくよ。そうだルシアに聞きたいことがあるんだ」
AK-12は顔を見ずにあくまで頭の角度を下げて首元まで見えるように留めていた。
「俺は今、人探しをしているんだ」
「人探し?……だれを?」
「名前は"グリフィン"という男だ。何かしらないか?」
「……は?」
AK-12は思わず、何を言っているのか、理解できず、固まってしまった。
"グリフィン"のことを聞くなんて、あそこはユーリの元職場だったはず、どうしてそんなことを聞いてきたんだ?それともグリフィンを忘れてしまったのか!?
「へぇ、その態度じゃあの男のことは何も知らないって事だな。いいよ、いいよ、この話は忘れてくれ」
ユーリは自分の中で繋がった推測を合わせていくようにうなづいて手を振る。
…なにか、引っかかる。"あの男?"
AK-12には何が何だか、わからないが…これで安心だろう。嵐は過ぎたとホットしたAK-12がユーリの顔を見ようとして見上げた時、全身の血の気が引いた。
「質問です。これから俺は何をするでしょうか?」
彼の目はまるで絶好のチャンスで獲物を狩る、蛇の眼だ。
「私たちの邪魔をするつもり?……じゃ、ないことをねがっているわ」
「残念。世の中、願った通りにはいかないもんだ。ウチに話を通さないで勝手な判断で同盟国を困らせる、悪いロシアの保安局にはちゃんとお灸を据えないといけないよな?」
平和のためにはルールを破った奴に痛い目に遭わないとならない……そうだろ?
「────パパ!知ってたのね!?」
「お前に観光なんて立派なこと出来るわけないだろ」
あの時の事を今、なんで思い出したのか、ようやくわかった。
ユーリはゆっくりとAK-12に近づいてくる。私はどれだけ嘘を言っても彼を騙すことはできない、最初からバレている。
ユーリから不気味な雰囲気を感じる。AK-12は震えた、このまま解放されると思っていたのに、人形の方が人がより強いと自信を持っているはずなのに…今のAK-12は殺されるかもしれないという狂気を肌で感じていた。
「……」
「(……もう、説得なんて無理!やるしかない!)」
震えながらも覚悟を決めたAK-12がスーツの中の武器に手を突っ込んだ時、ブレメーンからつんざくような悲鳴が聞こえた。
「今度は何!?」
「……なんだ?」
それはお互いにとって全く予想外のことであり、2人は悲鳴の方に視線を動かした。
────
───
「…はハ!あのブタ野郎め、割と早えな」
建物の上から状況を眺めていたヴィシャスの紫色の瞳が逃げるパウエルを捕らえた。
「見つけたゾ、奴は拠点を移すらしいナ。何か考えがある動きをしている」
<了解。追いかけてくれ、我々も奴を追いかける>
先日、ユーリと交渉した時のフードの男達の声が無線に響く。
ヴィシャスはその命令に従って、スラムのプレハブの屋根を伝って、パウエルを追いかけた。
追いかけて、数秒もしないうちに素早く動く2つの人影を見つけた。
「反逆小隊のオデマシか」
<なら、足止めするなり始末しろ>
「リョウカイ」
パウエルを追いかけていた人形はRPK-16とAK-15だった、ヴィシャスはAK-15に対してはこれといった疑いを向けていなかったので始末することはどうでも良かったが…RPK-16に関してはフローラで得た情報もありもう少し情報を吐かせたいとは思っていた、
だが、時間切れだと状況が悟っている。怪しいからと言って本来の任務をおろそかにするわけにいかない、ヴィシャスはRPK-16達を殺すつもりで動き出した。
「思っていたより早いわね、あのおデブさんは」
RPKは狭い裏路地を自分の庭のように、手足のように巧みに逃げ回っていた。
しばらく逃げ回った後、パウエルは施設の中に入り鍵を閉めた。
「おバカな人」
「パウエルのことか?」
AK-15の質問にRPK-16は笑みを浮かべる。
「いいえ、アーウィン。どうやら、私達を追いかけているそうですね」
AK-15はチラリと見て確認すると無言で頷いた。
どうやら、数人の男達が自分達との距離の一定を保ちつつ、追いかけてきている。
尾行達がスタンバトンを取り出した。どうやら、まだ自分達を始末するつもりはないようだ。
RPK-16達は素早く、近くの建物に身を隠した。
尾行達が分散して行く、包囲して逃げられなくするつもりらしい。
RPK-16はドアノブに力を入れて、パウエルが隠れた部屋の扉を強引に鍵ごと破壊して扉を開ける。
部屋に入った、RPK-16を追いかけた尾行は部屋の中に引き摺り込まれて行く。
不審に思った、グループが突入をかけようとした瞬間、彼らの背後にAK-15が現れて、音もなく叩き潰される。
不審に思った、尾行のリーダーが一旦体制を立て直そうと建物から出ようとしたその時、背後から服を引っ張られて建物の中に引き摺り込まれる。
「おやおや?仲間を見捨てて逃げるなんて薄情なリーダーさんですね」
振り向きざまに銃を引き抜いて反撃を試みるが、RPK-16に腕を掴まれる。RPK-16の腕が捻れるのと同時に男の体が回転、地べたに這いつくばった。
「RPK-16。こっちは終わった、そいつがリーダーか?」
「ええ、逃げ出す直前に捕まえました」
「…く、くそっ!ルールも破ってこんなことしてタダで済むと思っているのか!?法の執行者を攻撃しておいてブレーメンから逃げられると思うなよ!!」
リーダーが威勢よくRPK-16に吠える。
「おや、警察の方だったんですね?まぁ、どうでいいです。アーウィン、このリーダーさんをよろしくお願いします」
AK-15は無言でリーダーの男の襟を掴んで軽々と持ち上げると部屋の奥に引きずっていった。
しばらくして、部屋から何か激しく打ち付ける様な音が聞こえた。
男がなんとかして部屋から出ようとするも、すぐにAK-15に捕まり、部屋の中に引き摺り込まれた。
「どうして、皆さん無意味な苦痛を味わってから話したがるのでしょうか?ねぇ?」
そう感嘆しながら、RPK-16は男に対してしゃがみ込んだ。
「…く、う…!」
「話す気になりました?」
「は、話す…!情報はその公衆電話だ!かければわかる!!」
男が指差した先には公衆電話が置いてあった。
ジリリリ…!と音を立てて公衆電話が鳴り響く、RPK-16はそっと受話器に手を取る。
「はい」
その瞬間────片手に携帯電話を耳に当てながら、もう片方の手にアイスピック型の刃物を握った人形が音も気配も立てず…AK-15の背中にゆっくりと近づいてきた。
人形が刃物を振り下ろす直前、ふと振り向いたAK-15はなんとか身を捩らせて刃物を首筋ではなく、肩に晒した。
「────!!」
AK-15うめき声を上げたのを聞いて、RPK-16が振り向いた。
「AK-15…!ヴィシャス…!!」
AK-15を刺したのはヴィシャスだった、ヴィシャスはRPK-16を見たあと、視線をAK-15に戻してニヤリと笑った。
「上手ク避けたな…だが、惜しイ」
「惜しい…?────!!!」
突然、AK-15に雷に打たれたように、ガクガクと震えるとそのまま膝をつかず、倒れてしまった。
「どれだけの素体でもコイツに刺された時点で詰みだヨ」
ヴィシャスはAK-15に差した、アイスピック状の刃物を見せつけた。
どうやら、あの刃物には差した人形の動きをスタンバトンと同じように止める機能があるらしい。
「アンジェリアの対処も随分と早いな、外モあの状況でお陰で色々調整が面倒だ」
「なら、この前は失敗でしたね。私を仕留め損った」
「反省シテいるよ。余計な興味に気を奪われた私のしくじりだ」
ヴィシャスはせせら笑いを浮かべながら、刃物を構えた。
「…くっ、遅いぞ!」
「すみませんネ。まさか、獣にこんな芸当が出来るなんて思わなかった…いケ、ここは任せテくださいな」
ヴィシャスは目配せすると、起き上がった私服警官達はヴィシャスにその場を任せ、そそくさと出て行く。
「AK-15もいるのに前と同じように時間稼ぎが行くとでも?本当にかわいそうな人ですね」
RPK-16が読み切っていたようにAK-15が立ち上がると出て行こうとした、私服警官を捕まえようとするが…
「────!!」
AK-15の足が片方の接続の切れたイヤホンの様に不規則になり、バランスを崩すと地べたに転がってしまった。
「何がかわいそうナノカ、よくわかんねえナ」
RPK-16の顔から余裕の笑みが消え、ヴィシャスはせせら笑いを浮かべる。
「どうして、無意味な痛ミを味わってから諦めを覚えるのワタシにはワカラネェナぁ…アれ?これ、どっかで、聞いたヨウな…」
ヴィシャスは顎に手を置き、何かを考える様な仕草でRPK-16を挑発する。
「…本当に人をイライラさせるのが得意ですね」
「お褒めに預かり光栄だ。ワタシはお前らの様な何考えてるかワカンナイヤツをワカルヨウニするのが大好きなんだゼ?」
RPK-16が歪みそうな顔をなんとか抑えて、無表情でヴィシャスに相対した。
「ヤル気か?AK-15なんてなけりゃあ、お前なんて訳ネェヨ」
ヴィシャスが凄まじいスピードで蹴りかかる、その蹴りをRPK-16は頭を下げて、回避。
後ろに下がった、RPK-16はスタンバトンを拾い上げてヴィシャスの首に押し付けようとしたが、スタンバトンのスイッチが入れる前にヴィシャスがもう片方の足でサマーソルトを行い、スタンバトンを持っていたRPK-16の手を上に蹴り飛ばして強引に阻止した。
「銃は使わないんですか?」
「ここで使いたくはない、お前も…ダロ?」
RPK-16の顔から冷や汗が流れる。
ヴィシャスの発言は間違いはない、この建物の中に自分達が追いかけているパウエルがいる。
発砲したらその音でパウエルに存在がバレて、また逃げられる。
「ヨッと」
ヴィシャスに足払いをされて、RPK-16は体制を崩す。
「ジャあナ」
崩した拍子でヴィシャスに襟を掴まれ、首筋を露出。そのまま刃物を首筋に刺されそうになるがスーツを脱いで刺されるのを回避した。
「面白い事するネ。まぁ、刺されなくてヨカッタナ…褒めてやる」
それからなんどか、RPK-16はヴィシャスに攻撃を試みるが我流染みた体術で易々と躱されてしまう。
こちらの攻撃がまるで通じない、慢心の隙を突こうにも狙えるタイミングが本当に短い、なんて奴だ。
「く、う、うぅ…」
痺れが弱まっていき、AK-15が顔を抑えてなんとか起き上がる。
「アンタの調子も戻ったか?ほら、お2人さん。…どっからデモ来なヨ」
立ち上がったばかりのAK-15が恐ろしいほどの勢いでヴィシャスに向かってラリアットをして飛びかかる。
「────!」
両足がいきなり地面から離れた事にヴィシャスはほんの少しだけ驚いた、この少しだけの時間がチャンスだ。
RPK-16はスタンバトンを捨てて、全速力でヴィシャスの背後に回って彼女の後ろに回り込み、後ろの首筋に向かって思い切りハイキックを食らわせた。
「────ガッ!?」
さすがのヴィシャスもこれには参ったようで苦悶の声と苦しそうな表情で見せながら、勢いよく転がっていった。
「慢心されましたねぇ」
転がったヴィシャスにRPK-16は侮蔑の言葉を浴びせる、AK-15は息こそ吐いていないが少し疲れた表情にも見える。
攻撃を受けたヴィシャスがゆっくりと起き上がる。
「アァ…クソ、イテェな…」
ヴィシャスは2人に向かって、ゆっくりと近づいてくる。AK-15は嫌な予感を覚えてヴィシャスに殴りかかる。
左、右、左とサンドバックに打ち付ける様に強く…ヴィシャスはまだ反撃をしない。
「終わりだ」
「そうかな?────」
とどめを刺そうとすたAK-15に向かって放ったヴィシャスがその一言と同時に、AK-15とRPK-16の足元が宙に浮いた。
自分もAK-15もヴィシャスの二の腕に高まっている事にRPK-16が気づいた。
「潰れてナ」
その事実がわかって0.1秒もしない内にAK-15とRPK-16はヴィシャスによって、自らの体を背中から硬いコンクリートへ倒れていき、その勢いを利用して2人の体を背面から地面に叩きつけるネックブリーカードロップを食らってしまった。
「────ゴハッ!!」
「────ゲッ!!」
RPK-16達の視界がチカチカする。
周りを見渡すと必死になって立ちあがろうとする、AK-15の顔をヴィシャスが踏みつけて立ち上がれなくした。
「思ってたよリ。楽しめタヨ」
ヴィシャスは前の様にせせら笑いを取り戻し、AK-15の顔をねじる様に地面に押し付ける。
足をどかして、ヴィシャスは部屋の中を見渡して目的のモノを拾い上げる。
拾い上げたのものは公衆電話だった、あれでRPK-16達の頭を叩き潰すつもりだとAK-15は確信した。
「とはいえ、仕事は仕事、アンタらトハオサラバだ。腹を決めな」
ヴィシャスがRPK-16の頭に公衆電話を持ち上げた瞬間、公衆電話が鳴り響く。
「ハイ?モシモシ…」
ヴィシャスは受話器を持ち上げてそのまま耳に当てた。
<…人の部下に何をしている?>
「アンタは?アンジェリアには聴こえないガ?」
声の主は50を過ぎた辺りの老人直近の男性の声がヴィシャスの耳に響いた。
<お前達が嗅ぎ回っている男だよ…今すぐ、その人形ども始末を中止しろ
「テメェ、頭がおかしいんじゃねエカ?」
ヴィシャスは電話越しの相手に荒々しい声を上げた。
<始末の必要性があるかはお前の上司が判断する。お前は黙ってこちらの要求に従え>
ヴィシャスのポケットから電子音が鳴り響く。
「ハイ」
ヴィシャスは一旦、公衆電話を置いてポケットの中に入っているキューブ型の端末を広げた。
「ヴィシャスだ…何だト?チッ…!そういう事なら、仕方ナイ。了解、この場を放棄する」
ヴィシャスは心底納得出来ない顔で公衆電話を放り出した。
「運が良かったナ。今日は見逃してやる、後はこの電話の相手がお前に変われって」
ヴィシャスはひと睨みすると、受話器をRPK-16に放り投げて今からでも簡単にとどめをさせそうなAK-15とRPK-16を放置してその場を後にした。
「助かった…?」
RPK-16は静まり返った部屋でポツリと安堵にも疑問にもにた声でつぶやいた。
<運が良かったな、RPK-16>
受話器の奥から、RPK-16が知っている鼻持ちならない男の声が聞こえた。
「アナタのお陰ですか?助かりましたよ…"グリフィン"」
────ヴィシャスがRPK-16達を見逃す前の15分前に
悲鳴の方向を見た、ユーリとAK-12は信じられないものを見た。
────自分たちがいるところ向かって傾れ込む無数の難民たち、そしてその後を追いかける暴徒鎮圧用の戦術人形。
「逃げろ!」
「殺されるぞ!」
「うわあああ!?たすけてくれぇえ!!」
自分たちが目当てではないらしい、難民達はユーリとAK-12のことは気にせずドタドタと必死になって逃げる。
彼らを追いかける戦術機人形が銃を向ける。銃を持っているとはいえ、警察のワッペンをつけている。ゴム弾でも使って追い払う気か?2人はそう思った。
────だが違った。
「ぎゃああああ!!」
「いゃああああ!?」
戦術人形が発砲した弾丸は難民達の肉を抉り、血飛沫を飛び散らせる。
人形が発砲したのはゴム弾ではない、実弾だった。
「……なんだと!!」
「!!??」
ユーリにも弾丸は飛んでくる。
素早く床に飛び込んで、7.62ミリの弾丸を避けた。
「任務進捗率15%、ターゲット。本邸に侵入する敵の排除」
鋼鉄に覆われた、戦術人形がそんな事を言い出した。
AK-12は混乱する。まさか、シュタージが要請した支援がこのロボットなのかと思ったのだ。
「AK-12!お前、こいつと知り合いなのか!?」
それはもう、自分が狙われたらAK-12を疑うのは当然の判断だ。
もちろん、AK-12はそんなこと知っているはずもない
そもそもAK-12は────
「……あ……っ……うっ……」
「痛い……たす、け……て」
────やめて……殺さないで
────痛い……痛いっ……!
「ああっ……うああっ……!」
ユーリを裏切ったあの日の必死に命乞いをした民間の協力者を殺した時の過去の自分の記憶がフラッシュバックしていた。
「違う!────こんなの知らない!信じて!!」
AK-12はパニックになりそうだった。
「ターゲット……残り1」
鎮圧人形がユーリに銃を向けた。
「クソっ……!」
鎮圧人形はユーリに向かって発砲。
彼は事前に動いて弾丸から逃げているお陰でまだ当たっていないが頑丈なものを見つけなければ撃たれてしまう。
「やめなさい!」
アイツは残り1人がユーリでそれを殺そうとしている。彼が今回仲間だと言える状況じゃないし、ここで口封じで殺せばこの作戦の障害は減る。
そんなことはわかっていた。
だが、AK-12は……AK-12は鎮圧人形にやめろと叫んだ。
「やめろって────いってんのよ!!」
そして、気がつけばAK-12は手持ちのライフルを発砲していた。それも鎮圧人形に向かって。
放たれた5.45ミリで何十発も放たれて、取り付けた装甲を弾き飛ばし胸元をぐちゃぐちに引き裂いた。
「……はぁっ……はぁっ……」
「……ルシア、AK-12」
弾切れで撃ち終わった時、AK-12はユーリの声でようやく我に返った。
そして、私は自分が自分を不利にしてしまうような行動をとってしまったと理解した。
「……?」
ユーリがいつも仕事で使っている携帯に着信が入る。
一瞬、不審に感じたが視線をAK-12に意識したまま携帯の着信をオンにする。
「こんな時に……はい」
<貴様がユーリか?>
声の主は50を過ぎた辺りの老人直近の男性の声がユーリの耳に響いた、初めて聞く男の声だが誰だか何となく察しがついた。
「貴方は"グリフィン"でしょう?ロクサット主義の工作員の」
<フン…そこまで織り込み済みか。なら、話は早い目の前の人形を壊すのを止めろ、代わりに貴様らにとって有益な情報がある場所を教えてやる>
「ワタシがお前のリークに得するメリットはなんでしょうか?」
ユーリは表情を変えずにAK-12の方を向く。
言うことを聞かなかったら、今度はAK-12が自分を殺すのかと思ったからだ。
<お前らがこの情報を知らなければ俺を殺す以上の問題が発生する。そして、お前が眼前の人形を壊したらその情報は絶対に手に入らない…さぁ、どうする?俺は情報を破壊する為のボタンを押す寸前だぞ?>
ユーリは少しだけ思案する様に顔を俯かせたが、携帯電話とは別にキューブ型の端末を起動させて何者かに通信を入れた。
<ヴィシャスだ…>
「俺だ、これ以上RPK-16達に関わらなくていい」
<何だト?>
「俺たちを脅すほどの情報が奴らにはあるらしい。真偽を確かめたい、それに当初の約束も果たしている。これ以上欲を描く理由もない」
<チッ…!そういう事なら、仕方ナイ。了解、この場を放棄する>
ユーリは携帯と端末を閉まった後、踵を返す。
その姿を見て、AK-12はユーリを引き止めようとする。
「待って!パパ!私は────」
「敵発見」
AK-12が何かを言おうとした時、新手の鎮圧人形が突入してきた。
そして、今度は自分にも銃口を向けてきた、
「AK-12!!」
銃声が鳴り響く、そしてAK-12を狙っていた鎮圧人形が倒れる。
「パパ……な、なんで……」
「大丈夫か?」
鎮圧人形を倒したのはAK-12ではない、AM-17を発砲したユーリだった。
なぜ、助けてくれたのかはわからない。
けれど、AK-12がユーリを助けたのと同じ理屈なのかもしれない。
「話は……別の機会にしたほうが良さそうだな。立てるか?」
ユーリがAK-12に手を差し出す。
……ああ、忘れていた。この人はどんなことになっても手を差し伸べてくれる人だということに。
「……大丈夫」
AK-12は差し出された手を取った。
「AK-12、お前はアンジェリアを助けに行け」
「……ここは任せろってこと?」
「まぁ、頃合いを見たら俺もお暇させてもらうけど。運が向いたら、君たちが何しようとしているか、言い逃れできない証拠が手に入るかもだし」
ユーリも親切心だけで敵を引きつけるわけではないらしい。
けれど、これは本心じゃなくて……AK-12を落ち着かせるジョークかもしれないとも思えた。
ユーリは本当にジョークのセンスがどうしようもなく下手くそだから。
「敵発見、ターゲット2」
また鎮圧人形がやってきた。
今度は私もターゲットに含まれたらしい。
「……どうやら、ここにいる全員が邪魔な様ね」
「嫌われてしまったよ、俺も」
AK-12がフルオートで発砲して、装甲を引き剥がした。
「アンジェリアもこのままじゃ危険なのは本当ね」
「だから、早く行くんだ」
ユーリが発砲して、剥がされた装甲から見えたコアを撃ち抜いて倒した。
だが、まだまだ鎮圧人形がやってきそうだ。
「……分かった、しばらくここは頼んだわよ。アンジェにはまた私たちがパパを困らせたこと伝えておくわ」
「そうしてくれ。それに"友達の飛行機に乗ったら、すでにハイジャックされているなんて、なお笑うしかあるまい!"」
────
───
何とか反逆小隊を撒いたパウエルは同行者の手助けを借りて、コートを脱ぎ、襟を整えた。
「人は揃っているか?」
「はい」
パウエルが同行者によって一つの壇上にの案内される、演説用の壇上に立つパウエルの良く肥えた体がさらに大きく見えた。
「同胞達よ、奴らは強欲なブレーメンの役人やその手先どもがこの街にすらその魔の手を伸ばしてきた。我々が何をした?強欲と身勝手なドイツの連中の施策に耐えてきた我々が何をした?…いいや!何もしていないとも!それどころか、あんな殺人マシンまで送り込んだ!難癖をつけてな!我々はその難癖を黙って受け入れるだけなのか!?」
パウエルの怒鳴り声の様な演説に集まった難民達が唸り声を上げた。
────そんなわけがあるか!!
────受け入れない!ここは私たちの街よ!
────クソ野郎の役人どもめ!!
────奴らに死を!!
「そうだ!!奴らには死を持って償わせてやるのだ!全てを奪い取るクズども相手に誰が黙ってられるものか!!今こそ、奴らの血でその傲慢さを贖わせる時がきたのだ!!」
難民達は拳を高く突き上げて、建物に響き渡る声はアンジェリア達が立てこもっている礼拝堂にすら響き渡る。
────消えろ!!役人共!!
────ここは俺たちの街なんだ!!
────俺に続け!!皆殺しだ!!
難民の群れはパウエルから配られた大量銃と弾薬で武装され、凶暴化し、その数を次々と増やしていく。
暴徒の津波と化した、彼らの目的はアンジェリア達が立てこもっている礼拝堂だった。
「ハハハハハハ!!ざまぁみろ!!好きに暴れろ!混乱に突き落としてやる!!」
パウエルは理性を失った様に暴れる難民達の暴動を見て笑っていた。
────
───
ユーリは"グリフィン"が指定した、情報のある地点に辿り着く。
「これか…」
辿り着いた先にあったのは鍵のかかったロッカーだった。
ロッカーの目の前にたどり着くと自分の到着を待っていたかの様に1人でに扉の鍵が開き、中にはUSBメモリーが入っていた。
自分達もよくやる物物の受け渡しを思い出す。
「(…なるほど、考えることは同じなんだ)」
ユーリはそんな事を思いながら、USBメモリーを端末に差し込んだ。
USBメモリーにはひとつの動画ファイルが保存されていた、いるだけらしい端末を録画モードに変更したのを確認、ユーリは動画の再生ボタンを押下した。
「コイツは…!」
動画を見た、ユーリは驚愕した。
まさか、まさか…こんな事が本当にあるとは思えないものが動画に映し出されていた。
「…困ったことになったな」
動画を見終わったユーリは急いで指揮官のグランブルに連絡をかける。
「グランブル…見えてますよね?この情報は我々では見過ごせないものだと思います」
しばらく、グランブルが沈黙して…答えを出す。
「先程、あの方からも連絡が入った。優先目標を更新する…チームを集結させる。それと、ユーリ…グリフィンのPMCの件はまかせる」
「了解です。これは大変なことになったな」
ユーリは一度、状況の整理とヴィシャスとの合流をする為、ヴィシャスがいるはずの建物に視線を移した瞬間────
「な……!?」
目的の建物が爆発をした。
────
───
一方、アンジェリア達は…
「おい!これじゃいつまで持つかわからねぇぞ!!」
暴徒化した難民達の銃撃は老朽化した教会のステンドガラスにヒビを入れていくのを見て、Jは悲鳴の様な怒鳴り声をあげる。
「そうね…長居はできない、レナーテ?パウエルは捕まえたらレナーテ?」
何度かけても通信機の先にはノイズしか帰ってこない。
RPK-16達が追っていたパウエルが隠れていたはずの建物が爆発し、衝撃がガラスを粉砕する。粉砕し砕かれ、落ちてきたガラス片をホップスが庇う。
そして、爆発に呼応する様に難民エリアの上空でけたたましいサイレンが鳴り響いた。今度は何だ?
その後、数秒もしないうちにホップスの通信機にコール音が鳴り響いた。
「俺だ…な、何だと!?…分かった、それはこちらで何とかする!お前も自分の勤めを果たせ!」
「何があったの?」
ホップスが通信機を仕舞いながら自分達がブレーメンに入る為に利用したゲートを指差した。
「ブレーメンは強硬手段を取るつもりだ。自立型鎮圧人形で事態の収集を図るらしい」
「いいことじゃない」
「問題は武装した者、危害を加える者を敵味方区別なく攻撃するつもりだ」
「……クソ、最悪な状況が重なるわね」
「最悪な状況」が重なったとアンジェリアは現状に歯噛みする。
こうなったら、一刻も早く教会から逃げるしかない…幸い、最低限の証拠は揃えることができた。
パウエルに突きつけるには十分な量だ。
「ルシア、私たちと合流できる?」
<少し…厳しいけど、できなくはないわ>
通信越しのルシア、もといAK-12は少し苦しそうな声で返信した。
「何があった?今はどこにいるの?」
<後で…説明するわ。今、屋上にいる…そこから飛び降りて、AN-94と合流してそっちに合流する────あれは?>
AK-12がチラリと外の様子を確認し、苦悶の表情が焦りに変わる。
無数の血と肉の悪夢だった。
「アンティア!」
「ルシア!」
隠れていたAN-94がこっちにきた。
「そっちもヤバそうなのはわかるわ」
「……ああ、このままじゃ私たちも彼らと同じになる」
「よし、すぐに行くわよ」
「危ない!」
AN-94がAK-12の肩を掴み、素早くその身体を建物の中に引き戻す。
次の瞬間────自分がいた場所の後ろに数発の弾痕が形成されていた。
鎮圧人形……!まだいたのか!
判断少し遅れていたら、この弾痕は自分の顔に作られていただろう。
「……いくら、私たちを殺そうとした奴が混じってたとはいえ」
屋上から見る下の景色は凄惨なものだった。
難民が武装したもの、されてないものを問わず問答無用に撃ち殺され、弾がなくなったら素手で引きちぎられて殺される。
抵抗するものはいないわけではないが、痩せこけた難民で出来ることは分かりきっている。
「こんな事が許されていいの……?」
建物に隠れながら、AK-12はコッキングレバーを軽く引いて弾薬が装填されているか確認して戦いの準備をした。自分が隠れる前にチラリと見えた、あの大型の盾を構えて、もう片方の手でMP5サブマシガンを持つ戦術人形と戦う準備を、だ。
「アレ…ブレーメンの自立型鎮圧人形だったのね」
自立人形はまだ自分達に気づいてない。
列を成して、自分や難民、あらゆる標的に向かって見境なく無差別攻撃をするのに夢中なのだ。
「ルシア」
「アンティア、分かってる」
「難民よりも、先にアンジェ達を」
「分かってる言ったでしょ。これは悪夢ね……きっと、あの日私に殺された人も同じ思いだったんでしょうね」
────
───
左上から銃撃音が聞こえる。
「アンジェ!今よ!」
AK-12が鎮圧人形と暴徒の注意を自分に引くために発砲したらしい」
窓から、Jの所持しているH&K SFP9の射撃音と鎮圧人形に弾丸が当たった事で発生した金属音が交互に連続して聞こえる。
「くそっ…!鎮圧人形め!!拳銃じゃビクともしやしない!」
「ルシア!鎮圧人形のクラックはできないの!?」
<…無理よ。コイツら、アナログで動いてる。AIを介してないから…クラック出来ない>
あまりにも用意周到だ、まるでこちらのやり方とそれぞれのスペックを理解し尽くしての行動と見た方が良さそうだ。
「ここから出る、アンティア!邪魔な奴らを片付けて!」
<了解。進行ルート上の敵を殲滅します>
AN-94の初段の2発からくる高速レートの銃撃だけを発射できる様に"指切り"での射撃を行い、アンジェリア達の近くにいる鎮圧人形から順番に打ち砕いていく。
────
───
「追撃が薄い」
「難民を弾除けに使ってるからね」
阿鼻叫喚はまだ止まない。
そして、自分達はその阿鼻叫喚を聞かないフリをしている様にアンジェ達を優先した。
「…暴徒以外にも問答無用で殺すなんて、これじゃただの人殺しだ」
「残りマガジンは…3つね」
スーツに隠していた、5.45mm×39弾が装填されているプラスチック製マガジンを取り出してリロードを済ませる。
元々持ち込んだマガジンの数はここまで混乱した銃撃戦を想定していなかった為、心許ない数だった。
「ルシア、大体の脅威は排除した」
アンジェリアの脱出の邪魔をしていた鎮圧人形が粗方片付いたのをAN-94が確認。
建物から飛び降り、アンジェリアと合流するため教会へ走りだした。
AK-12も周りに自分が狙う敵がいない事を軽く確認して、今いる場所から脱出するため────なるべく身を晒さない様、姿勢を比較しながら教会に接近した。
教会につながるルートは案の定破壊された人形と無差別攻撃で死亡した難民達で溢れかえり、嗅ぐに耐えない匂いで充満していた。
「……クソどもが、こんな事で解決できる思ってるなんてね」
AK-12が悲惨な光景を毒づいたその瞬間────破壊された鎮圧人形が突如爆発した。
「────自爆ベスト!」
恐らく、鎮圧人形の中に爆弾が仕込まれていたに違いない。運良く…いや、この表現は良くない、たまたま鎮圧人形の側に横たわっていた難民の死体が爆発のカバーになった事でAK-12は爆発を免れた。
「ここは危険ね。脱出するわよ」
ここがもう、長くは持たないと判断したアンジェリアの号令で一同は教会から2階から飛び降りる。
「いたた…」
モリドーはまだ訓練を受けていない一般人の為か、飛び降りたときに足にきた痛みをおさえるように足をさすっていた。
「こっちよ!お互いしぶといわね…アンジェ」
教会から出て、すぐにAK-12達と交流した。
AK-12は全身は切り裂かれたようにボロボロになっておりアンジェリアたちを驚愕させた。
「聞かせてもらうけど、何があったの?」
「パパとあった」
「あー……」
そして、アンジェリアは察した。
あの長ったらしい事前報告をしない私たちがここにきたら、彼らに何をされてもこちらは大声で非難できない。
「私達を追いかけるなんてヒマなわけじゃないわね。どんな理由で来たの?」
「ブレーメン政府の頼みとついでに"グリフィン"っていう、エージェントの事を探しているみたい」
「グリフィン?グリフィンのエージェントの事?」
AK-12はかぶりを振る。
────違うらしい、グリフィンのエージェントではなく、"グリフィン"と言う名前をしたエージェントを探しているのか?
「お客さんだ!」
鎮圧人形の足跡が近づいてくる。飛び降りた瞬間を見られたらしい。
「アンジェ…行って。ここは、私達が抑える」
「分かった。ここは任せたわよ」
AN-94とAK-12の全力支援の元、アンジェリア達はパウエルを最後に確認した、居住区の元に駆け出した。
────
───
「グランブル…!こちら、鎮圧用途の戦術人形と交戦中!!」
一方、ユーリ達は別行動を取っていた工作員達も突発的に発生した混乱に対処していた。
<持ち堪えろ、そっちに敵の増援は来ない>
グランブルは冷静に混乱していた状況に顎を当てて、整理していた。
取引で手に入れた見つけた中身に関しては驚くものが入っていたがユーリが"グリフィン"との取引した行為そのものは当初の予備プランの中に入っていた。
「そろそろ、アンジェリアがあの場所に向かうか。AK-12もこの数で押し込まれたら足止めでどこかに残されているだろうな」
ユーリは冷静に状況を読んでいるという行動に言い訳が立てつつ、AK-12を鈍らせるというアンジェリアの妨害工作の仕事もぬかりなくすすめていた。
大規模な混乱起きていることは、確かに問題ではあるが、この混乱でアンジェリア達の仕事のペースが落ちているのは事実ではある。
しかし、あくまでこれは過程だ。本来の目的である"グリフィン"の始末の足がかりを得ることができない。
何が言いたいのかというと、グランブル達は取引相手に死んでほしくないのだ。
奴らの目的はパウエルの確保とは言っていた…ここまで支援するつもりは毛頭なかったが…この状況で取引を成立させる為にもこちらが力を入れて支援しなければならない状況であった。
「クソが!戦術人形め!暴徒どもと一緒にとっとと諦めやがれ!!」
ここで隠れて乱戦している工作員も特殊部隊上がりの先鋭部隊ではある…とはいえ、四方八方からの混乱の対処には厳しさを感じずにはいられなかった。
「ユーリだ。援護する、左の路地だ。撃たないでくれ」
ユーリが暴徒と鎮圧人形、両方の側面を攻撃できる位置に回り込むと、両勢力のリーダー格を瞬く間に撃破するとお互いの勢力が勘違いして双方の勢力が潰し合いに興じた。
その隙をチャンスと捉えた工作員たちは手薄になった箇所を突破して、ユーリと合流する。
「遅いぞ!今までどこにいやがった!!」
「申し訳ありません。物資と人形を回収してました、爆発に巻き込まれていたので」
行動が遅れたことに対して味方の工作員が彼を叱責する、その叱責を受けたユーリはその旨を謝罪しつつ、その理由を説明した。
「その人形は?」
「生きていますよ。ホラ、あそこに」
ユーリが指差したプレハブ製の建物屋上からガシャガシャと金属が軋む音を荒々しく立てながら飛び降りたヴィシャスが鎮圧人形の頭を拳で叩き割った。
「────スンマセンネ!!爆発の折にビーコンが壊れてしまったんです!!」
ヴィシャスが難民のいる方角に銃を向け、発砲。
放たれた弾丸は難民のすぐ後ろにいた鎮圧人形の首を吹き飛ばした。
「さぁ!逃げて!!」
「お前らがこの混乱を引き起こしたくせに!!」
助けられた癖に自分達に恨み節を吐きながら、巻き込まれた逃げていく難民たち、あれくらいの厚顔無恥な悪態をつけるならこの先も生きていけるだろう。
「クフフ!!スクラップになリなァ!!」
今度は暴徒化した難民の頭を掴むと豪快に引きずり回す。障害物そっちのけに振り回すので、電柱や家屋にぶつかり放題だ。
きっと暴徒の身体の中身はぐちゃぐちゃに潰れているに違いない。
「ヴィシャス。遊びは終わりだ。"雇い主"のお手伝いに行くぞ」
「うーっス」
味方の工作員がアンジェリアたちの妨害の為、移動し始めたのを見て、ヴィシャスは飽きたオモチャを放り捨て工作員の後を追いかけた。
────
───
「────キャアアア!!」
パウエルを追う、アンジェリア一向の背後から銃弾が飛び交い、モリドーの左足を掠め血が流れる。
「マズイ!俺が背中につく!!」
撃たれたモリドーを庇う様にJが銃を撃ってきた暴徒に牽制射撃を行い、動きを鈍らせる。
その短い時間を利用してアンジェリアはモリドーを軽々と抱えた。
「おい!見つけたぞ!!」
「殺せ殺せ!!」
「────ウァアアア!!!」
「な、なんだ!?…あ、あれはサツじゃねえか!兄貴がやられちまった!!」
暴徒が所狭しと押し寄せてくる、十字路から銃声が絶え間なく飛び交う。
当然、暴徒同士のフレンドリーファイアも起こるし、
銃声を聞きつけた私服警官や工作員が暴徒を鴨うちにしてくる。
アンジェリアたちの今の状況は進むも地獄、戻るも地獄な状態に嵌っていた。
「くそ…!さっきの警官の仲間だな、ルートを決めよう。このままでは俺たちも暴徒と間違われて巻き添えになる」
「臨機応変に行くわよ。どこに誰がいても神出鬼没なことを想定しましょう、弾薬は後どのくらいある?」
アンジェリア達は自分の銃に込められた弾丸とその予備をチェックした。
ホップスには予備のマガジンが2つ、マガジンが共用できない際に備えた携行用の箱に入った9ミリ弾の拳銃弾が60発ほど。
アンジェリアには予備マガジンが1つ。
Jには予備マガジンが4つだ。
…生き延びるにしては非常に心許ない数だ。
「どっちとやり合うのも得策じゃないわね…なら、ここを引っ掻き回してやりましょう。敵と味方も分からないくらいにね」
リスクがある考えだが、他にこれといった代案もない一同は危険なことではあると承知しつつもアンジェリアのプランで行くことにした。
「混乱に乗じて、パウエルを捕らえる。混乱している状況なら守りに隙ができた瞬間に漬け込んでやりましょう!!」
アンジェリアが暴徒の目の前に姿を現す。
「いたぞ!!サツだ!!殺せ!!」
暴徒が銃を向けた瞬間、アンジェリアは素早く路地に隠れて銃弾を避ける。路地で待っていた仲間たちの元に戻ると、今度は鎮圧用の人形が列を成している道路に向かってダッシュ。
走ってこちらに向かってくるアンジェリア一向を発見した鎮圧人形達はアンジェリアたちに向かって突撃。
それを目視で確認したアンジェリアたちがUターンを敢行、Uターンした先には暴徒たちがいる。このままでは挟み撃ちだ!!
しかし、それはアンジェリアの作戦の内に入っていた。
「今よ!!」
アンジェリアの命令で路地を半分ほど進んだ先にある建物の中にガラスを突き破り侵入した。
姿を見失った、鎮圧用人形が捕えたのは暴徒たちだった。
人形がアンジェリアを追っていた暴徒たちに見つかり、銃撃を喰らい鎮圧用人形も銃弾で反撃する。
混乱が発生した。暴徒も人形もアンジェリアを見失っている。
「本当にうまくいくんだな」
Jは口では乗り気ではあったものの成功するとも思っていなかったので、今更ながら成功していたことに喜んでいた。
「よし...この隙にあのデブを捕まえるわよ!」
AK-12が最後に残した、座標を確認する。
パウエルが潜伏している位置だ。ここから、300メートルもない、勝利を確信したアンジェリアたちが路地に出ようとすると────
「────悪いですが、それ以上は好きにさせない」
目の前に銃弾が降り注ぎ、暗雲から漏れた光から漏れた微かな人影がアンジェリアたちを覆った。
「当てたつもりだったんですけどね...流石は歴戦のアンジェリアさんと褒めたほうが良いでしょうか?」
「ユーリ...!」
アンジェリアたちに現れた、ユーリはまるで獲物を搔っ攫うイヌワシのような剛健で畏怖させる眼差しでこちらを睨み付け、AM-17の銃口を向けていた。
「今ここで、アンタに弁明しないといけないわけ?」
「おや、してくれるんですか?」
「できるか!強制送還するくらいなら。アンタを────」
アンタを仲間のところに送ってやるなんて、言おうとした自分が信じられなかった。
「アンタに捕まってる時間はないのよ」
「そうですか?でしたら、予定通り足止めだけさせてもらいます。これ以上、好きにされると色々よくない事が起きるんですよ。こっちも他に仕事が出来ましたし」
アンジェリアがグロックを発砲、ユーリはアンジェリアに銃口を向けられる前に首を傾け、銃弾を避けた。
「えっ!?凄っ!どうやって!?」
「お返し」
「させるか!!」
ユーリはアンジェリアに狙いを定め、引き金を引こうとした瞬間、Jの撃った9ミリ弾が肩を掠めて、血が流れる。
「────いいお友達を選んだようで」
ユーリがJとアンジェリアにお返しと言わんばかりに5.45mmの弾丸を足元に飛ばす。
足元から跳ね上がった、泥が強く飛び散り足に強くぶつかる。
「この数が相手…多少、厳しい。ですが、やりようもあります」
ユーリは懐に持っていたスモークグレネードを地面に頬り投げた。
「煙幕か!?」
アンジェリア達の周りを覆うように白煙が辺りに立ち込める。
視界が遮られ、お互いの姿が見えなくなった。
「ユーリ!あなた、何をするつもりなの!?」
ユーリは煙の中に入り込むとその姿が瞬く間に消えてしまった。
煙に覆われた、アンジェリア一行。その一人が混乱するように煙の出口を探していた。
「落ち着いてください」
「く、くそ……いったい何の真似だ!!」
その一人に向かって怪しげな、凍るような笑顔を向けながらユーリは近づいてきた。
「アンジェリアさんの人形と連絡を取れないようにしてあります。……やるなら、今ですよ」
その言葉を聞いた、一人はニヤリと笑った。
「おい、お前!!」
Jがスモークの中から、ユーリを見つけるとその姿を確認してすぐに銃口を向け、引き金を引き絞ろうとしたが、霧の中で詳しく分かる距離なんて人間の手と直接ぶつかるような至近距離だ。
「……」
「嘘だろ…」
ユーリは逆にJの持っていた拳銃のスライド強く押し、引き金を引かせないようにするともう片方の腕を動かして、Jの鳩尾に拳を叩きこんだ。
「────が、が!?」
ユーリの見た目は軽そうに感じる。だが、抉り込まれた拳の重さは鉛でできた鉄球のように重い。
いや、重さなんて関係ない────拳に入り込んだ時に感じた、体が複数に引き裂かれるような強い痛みにJは身を悶えた。
「ご、ふぅ……ッ!!」
ユーリはそのまま、Jの首元に腕を巻き付けると、背負い投げの後、蹴りを顎に叩きこむ。
「ガァ!!?」
Jが煙の外に叩きだされた時にはユーリはアンジェリアの元に迫っていた。
「AK-12は来られないようですね。RPK-16たちはヴィシャスが抑えてます」
「やっぱり、ヴィシャスを操っていたのはお前────」
アンジェリアが放たれる拳よりも素早く、ユーリがアンジェリアの脚を踏みつけて地面に転がっていく。
転がって、仰向けになるアンジェリアにユーリがAM-17の銃口を向けた。
「そろそろ……こんな因縁とも、さようなら────」
とどめを刺そうとする...次の瞬間、ユーリの表情が変わり、ポケットの中に入っていたキューブ状の端末を取り出す。
「ふむ、良かったですねアンジェリア、また命拾いしたようですね?」
ユーリがアンジェリアにそう言い放つと、彼の持っていた閃光手榴弾が光を放つ。
そして、ユーリはその光に包まれてその場から姿を消してしまう。
ユーリが消えた後、アンジェリアは立ち上がり、ユーリが立っていた場所に視線を向けた。
「消えた……本当に足止めのつもりなの?」
「や、やばかったな。アイツ……」
Jはすっかり、ユーリのことがトラウマになっていた。
ユーリがアンジェリアと交戦していた時と、同じ時間────
護衛が次々と死んでいく、パウエルに死を悼む時間はなかった。パウエル達は先ほど自分たちが脱出していたハズの難民救護で使用していた、協会再び戻っていた。
全ては”例のモノ”を使うために────
「フン、何を隠しておいでかな?」
協会にたどり着くや否や、パウエル達を待ち構えていたのは、武装している警察や自立用の鎮圧用の人形とは全く異なる”殺し”の装備を纏った兵隊とよく似た恰好をしたグループがパウエル達を包囲していた。
「安心しろ、まだ殺すつもりはない。”リスト”を寄越せ、そうしたら命は助けてやる。”友人としてな”」
"G95"もとい、”HK416A7”で武装した狩人たちがその銃口をを向ける。
「バトラー”中尉”じきじきに来られたのなら、付き従う他ありませんな」
ため息をついた、パウエルが懐に手を入れた。
リストを出して生き延びようとしているのか?
いいや、そうではない。
たとえ渡しても、それ以降もいつ使い潰されるかもわからない生活に戻るだけだ、誰でも理解できる。
「お前たち……私の為に命を捨ててくれるか?」
生き残ったパウエルの側近は2人。
その2人はパウエルが救わなければ、もっと前に死んでいた人間たちだ。
それが少し伸びただけ、それにその命が意味あるものになるならそれは本望だ。
2人は迷いなく、パウエルの問いに頷き肯定の意をしめす。
「撃て!!」
2人は命令通りに銃を構えて、引き金を引こうとした。
だが、狩人たちが先に構えていたのなら先に動けるのは狩人立ちだ。
引き金を引く間も与えられず、一瞬でハチの巣になった。
それでも、構わない。パウエルに欲しいのは時間だった。
その一瞬の隙にガスマスクをつけてもう片方の手で何かを投げつけると、たちまち部屋中に黄色い煙が蔓延した。
この煙を吸ったら、普通の人間は1分持たない。
勝利を確信したパウエルの足に銃弾が飛んできた。
「フン、甘いな。我々がお前の”製品”を熟知してないと思っていたのか?」
何と、煙の中から現れたのはガスマスクを着けていた狩人たちの姿だった。
「煙を吸いたくなかったら、大人しくリストを渡すんだ」
どうやら、こいつら”そこまでしか知らないらしい”パウエルを蹴飛ばした、兵士に向かってまだ勝機があることをパウエルは確信した。
「そんなにリストが欲しいなら、後ろを見るといい。付け加えることが出来るぞ?」
狩人たちの背中から、背筋を凍らせる用のおぞましい唸り声が響いた。
無意識に背後を振り向くと、そこにはハチの巣にされていた2人が起き上がっている。
「E.L.I.D…!?パウエル!貴様ァ!!」
狩人たちを率いていた、兵士の怒鳴り声が響き渡る。
パウエルの姿はもうない、2体の「怪物」と共に残されたのは狩人たちだけだった。
「く、くそ...早く手当てしないと」
パウエルは奇策でその場を生き延びたが流れ弾が当たっていた。
「ならこれを使いなさい」
手当をする道具を探していた、パウエルは手渡された、ガーゼを受け取りすぐに体中に冷ややかな汗が伝わりだす。
ガーゼを寄越したのはパウエルに拳銃を突き付けたアンジェリアだった。
「よくもまあ、逃げ回ってくれたわね?まさか、教会に戻るなんて完全に予想外よ」
「鍵を閉めたはずだ」
「ええ、でもうちにそのカギを開けられる秘書さんがいるのよ?」
アンジェリアは得意げに笑うモリドーを指さした。
「暴動で時間を稼ぎたいなら、鎮圧用の人形のことを考えたほうが良かったわね。武器だけで勝てるほど人形も甘くないの」
アンジェリアはパウエルを転ばせる。
「さて、お話しできるところに案内しないとコイツを拘束して。…J?」
「奴には聞こえんだろうさ」
部屋の陰から、気絶したJを引きずりながらこちらに銃を向けたホップスが現れた。
モリドーは慌てて、アンジェリアに近づいた。
「ホップスさん!?どうして!?」
ホップスがJをおもむろに投げ捨てると、銃を向けながら近場の椅子に腰を掛けた。
「第一に…ホップスという名前は偽名だ。”フランク・サレク”所属も警察の”GSG-9”ではなく、ドイツ陸軍のKSK(Kommando Spezialkräfte)の第二突撃連隊の偵察小隊長だった。もっとも、連隊と言っても度重なる軍縮で連隊規模の人間がいたかも怪しいが」
KSK……ドイツ連邦陸軍特殊作戦師団隷下の旅団級の特殊部隊、あのデルタフォースやSASが担当するような任務を励行するエリート部隊だ。
エレベーターがゆっくり上がってくる音が聞こえた。
エレベーターから、兵士たちが出て来る。全員が傷を負っていたが、それだけだ。
「ホップス隊長。いらしたのなら、連絡を頂きたいものです。てっきり拘束されたのかと」
「下は?」
「ええ。パウエルの奴、薬にコーラップス液を混ぜていましたが。あの”傭兵共”のお陰で、切り抜けました」
傭兵共と不穏なセリフを部隊長らしき男がホップスに告げる。
「その傭兵たちって?ユーリの事!?」
「ああ」
「ひええええ……」
ホップスがアンジェリアの疑問に短く答えて、モリドーもさっきのトラウマが蘇ったのか怯えだす。
────すまない。個人的な電話だ
────今からすること以上に重要なわけ?その電話
────…あぁ。…遅れてすまん。いや、俺の方に問題はない…ただ、あぁ、そうだ…。そっちの事は任せる
そういう事か、あの電話ユーリ達のものか。そして、ユーリ達はコイツらの要請でブレーメンに来ていたのか。
あの時の電話てユーリたちから、情報を貰っていたんだろう。
「始末の方は?」
「騙し討ちする手はずです、すぐに片付くかと」
下から複数の銃撃音が鳴りだし、静かになった。
「よし、これで秘密を知るものもいなくなったわけだ」
ホップスは満足げに語る。
「さて、我々はお前らとの戦争に負けて、国土も食い物も金も根こそぎ奪われた挙句、押し付けたものがあったな?」
アンジェリアはその押し付けた者の正体を何となく理解した。
「送り付けたのは貴様らが粉砕した都市で行き場のなくなった難民たちだ。そこまではいい、我々も敗者だ。気に食わんが受け入れよう、だがロクサット主義の掲げた国民の状況を無視した”世界統一”という理想主義はどう考えてもバカげている!死人をたたえるパラデウスもクソだが、我々が命を懸けて守ろうとした国是や伝統、そして生き様を徹底的に”見下した”行為には抵抗せずにはいられんのだよ!!」
そう、ホップスは激昂しアンジェリアに拳銃を向ける。その眼光は、射殺すように鋭かった。
ホップスの言い分も理解できる。アンジェリアにもそれは分かる。
「貴様はロクサット主義に何を期待している?」
「世界平和よ。未来の子供たちが戦争の後遺症で死なないようにすること」
アンジェリアはあっさりと、正直に話した。
「フン、どうやってかなえるつもりだ?」
「簡単なことよ。その日生きていけるだけの十分なお金と平穏な暮らしをみんなで望むだけ」
「馬鹿め。自分の国の弱者も賄えぬのにそんな事を簡単と望むな」
ホップスは鼻で笑い、銃口を向けた。
「話は終わり」そういうことなのだろう、目撃者は消す。そして、自分たちはまた闇に隠れ、パウエルのような協力者を通じて反抗の機会をうかがうつもりなんだろう。アンジェリアはため息をつく。
その瞬間────
<ロクサット主義に反抗する姿勢は気に入りました。しかし、あなた達は我々を裏切った。契約を守らなかった>
部屋の照明がいきなり消えた。部屋が暗闇に包まれる。
「クッ!下の連中を呼べ!」
「了解...!────つ、繋がりません!!」
<あなたの寄越した暗殺者は全員八つ裂きにしましたよ?さて、契約不履行……裏切り、どちらも我々のタブーでしてね。どちらも犯したアナタには...>
壁が吹き飛んで、AK-15とRPK-16が現れる。恐らく、ユーリたちが場所をリークしたのだろう。
<絶望がちょうどいいでしょう>
────
───
「散々な目に遭ったわね」
アンジェリアたちはブレーメンが用意していた、輸送機に乗っていた。
ホップスとパウエルはシュタージに拘束され、相変わらずトロイ”K”の奴は遅れて現場に到着して、残りを引き継いだ。
それにしても、ユーリたちはどうしてホップス達と取引を?ロクサット主義に抵抗する組織で組んだにしてはいささか軽率すぎないか?
「あ、そういえばアンジェさん!」
「何かしら?」
モリドーはあんな目に遭ったのに、相も変わらずきれいな瞳を輝かせてこちら質問しようとしてきた。
「あの、ユーリという人とはどういう関係なんですか!?」
「……」
「あっ、すみません。変なこと聞いちゃって……」
アンジェリアが黙り込むと、モリドーはすぐに謝った。
「別にいいのよ。ユーリとは、その、ちょっとした知り合いなの」
「やっぱりですか!?つまるところ、”人生の宿敵”!!な、感じですか?」
モリドーはユーリの事をテンションを上げて考察した、残念ながらそんな御大層な関係ではない。
「”腐れ縁”よ。出会いも行き当たりばったりだったし、別れ方もひどいもんだった」
モリドーは意外そうな顔をする。
アンジェリアはその顔を見て、少し笑う。
アイツは本当に今より、というほどじゃないけどいい奴だった。過ごしていて、楽しかったしこの関係が自分の予想よりも長く続けばいいなと思うほどに。
「あいつは昔はロクサット主義に対して、それなりの理解をしてくれた人だったの。でも……」
アンジェリアはそこで言葉を詰まらせる。
ユーリはロクサット主義に対して理解を示してくれていた。しかし、ある出来事を境に考えが変わった。
「ルシアって言う部下がいたでしょ?」
「ええ!とってもいい人ですよね!!」
アンジェリアは首を縦に振った。
AK-12が私の人形になる前はユーリの元で戦い方を学んで、いつの間にか父と娘の様な関係になっていった。アレを見てアンジェリアは人形と人間の共存も悪いものではないと思っていた、そう思わせてくれたのに
「...うちの上司がね。そのルシアに”ユーリと彼が所属している組織を滅ぼせ”という命令を出したのよ」
アンジェリアの言葉に、モリドーは目を丸くして”飛び上がるように元気よくに立ち上がった”。
信じられないといった様子でアンジェリアを見る。無理もない、アンジェリアだって驚いた。
「流石のユーリも仲間から殺されると思わなかったし、ルシアも嫌がった。けど、ルシアは忠実に命令を実行することしかできなかった。”お人形”だからね。その気になればボタンひとつで仲間を裏切り、武器も持ってない奴らを殺せる様にできる、悲惨なのはその上司が”ロクサット主義”を推し進めようとした、ウチの上司なのよ」
殺そうとした理由は簡単なことだ、ロクサット主義の方針も違う上にE.L.I.Dを倒し続けて名声を得るユーリが政治的に邪魔だったからだ。
そして、事実を知ったアンジェリアが警告するよりも前にAK-12は作戦を実行してユーリとその仲間を殺そうとしたのだ。
結果は失敗に終わった。
部隊は7割の人間を殺して、壊滅させたがAK-12は最後の最後に情に負けてしまいその躊躇いの隙に逃してしまった。
私たちを妨害する理由はきっと、この裏切りでユーリはロクサット主義にも絶望したのだろう。
「た、大変な人なんですね」
「何を他人事みたいに言ってるのかしら?」
アンジェリアは何と、モリドーに銃を向けていたのだ。
「な、何のつもりですか!?」
モリドーはおびえながら、たじろいた。
「足、ずいぶん平気そうなのね?撃たれたんでしょ?」
アンジェリアの言葉にモリドーは固まる。そう、モリドーは難民たちの銃撃で足を撃たれたのだ。
腕はともかく、足になると完治するまで不自由な程動けなくなる。
それなのにモリドーは先ほどのアンジェリアの昔語りに”元気よく飛び上がった”、怪しむには十分すぎる。
「あなた、何者?」
「はっ────」
アンジェリアの向けていた拳銃が吹き飛んだ。いや、正確に言えば弾かれたと言ってもいい。
どちらでもいいが重要なのはアンジェリアでも目で追えないほどのスピードで拳銃が吹き飛んだという事実の方が重要だ。
思わず、アンジェリアの指がトリガーに触り、発射された弾丸が後部ハッチに当たる。
「当てられますか?」
更にモリドーは今までの彼女とは思えないほど情人離れした速度でアンジェリアに不気味な笑顔を向けながらアンジェリアのけん制で放つ弾丸を次々と避けていく。
「アーウィンの探知に引っかからなかった。なるほど、新種のネイトね」
「ネイト……?まあ、見くびってくれますね。ブレーメンの難民エリアでは纏めて、消そうと考えましたが……まさか、あんなタイミングであなた達を足止めするなんて、お陰で設置した次元式の罠のタイミングが外れてしまったではありませんか」
モリドーはアンジェリアの目の前で止まり、彼女の首に手を伸ばした。
アンジェリアは反射的に銃口をモリドーの頭部に向けるが、その手は空を切る。
「実はね?初めから、私の目的はアナタなんですよ。アンジェさん?」
モリドーはアンジェリアの懐に潜り込み、アンジェリアの顔面を鷲掴みにしようとして空を切る。
「なるほど、じゃあこの飛行機アンタの息がかかっているってこと?」
「ええ、この飛行機は私の指定したところに行くように仕向けています。じっくり、”お父様”に語って欲しいものです。あなたの知っている情報について」
モリドーはアンジェリアの首筋を掴み、アンジェリアの瞳を覗き込んだ。
アンジェリアはモリドーの瞳を見て、背筋が凍った。
「こうは考えないの?私達がアンタを殺したら逃げられるって」
モリドーの締め付ける力が強くなった。
「寝ぼけたことは言うとは……アナタの愚かさには感服しますよ」
「寝ぼける?本気で言ってるわよ、ルシア!」
天井からモリドーの腕を銃弾が貫き、血しぶきを上げる。
モリドーの顔が歪んだ!
その隙にアンジェリアはモリドーを振り払い、距離を取る。
そして、銃声の方を見るとそこにはAK-12の姿があった。
「お前……!自立人形で足止めしたはず!」
AK-12はアンジェリアの隣に立ち、モリドーを見据えた。
その顔は無表情で、感情を感じさせない。
「パパが教会で足止めしてくれたおかげで間に合ったわ!アンタが飛行機の誰かと取引しているって話も教えてくれたしね」
────友達の飛行機に乗ったら、すでにハイジャックされているなんて、なお笑うしかあるまい!
あれは移動手段が敵に奪われていると意味の隠語だ。
AK-12はその意味を察してアンジェが乗る飛行機に潜んでいたのだ。
モリドーはAK-12に視線を向けた。
確かに、AK-12から「飛行機に潜んでいる」というメッセージは貰っていた。でも、アンジェリアはAK-12とユーリが何の取引をしたかまでは知らない。しかし、モリドーにとってまさかこのタイミングでユーリが動くとは予想外だった。
それは間違いない。
「フフ。ただまぁ……ルシアさん、私の前に現れたのがあなたとはマーキュラスの報告であなたの事は知っていましたけど、父親殺しをしようとしていたなんて……驚きです、親不孝者ですねぇ。よく父親と取引なんて……その面の厚さには敬服いたします!」
「黙れ……!」
私があの日をどれだけ後悔したのかも知らないくせに。
瞳を開き、AK-12はモリドーを鋭く睨みつけた。
少女が発しているとは思えない程の威圧、これが戦術人形か。
「私はお父様にすべてを捧げてきたのです。あなたのような無様なことは起こしませんよ?」
「貴様の親父は碌なやつでもないくせに!」
「AK-12!冷静になって!」
「うるさい!分かってる!」
モリドーが勝ち誇ったように笑う。
売り言葉に買い言葉である。AK-12はモリドーに銃口を突き付けた、決して言葉の殴り合いに負けたとかそういう話ではない。
「撃たれたサマを見るに、この5.45ミリのスチール製を耐えるほどの防弾性はなさそうね。簡単にハチの巣にできるわ!」
「けれど、こんなところでぶっ放したら、機内に穴が開いてさあ大変。飛行機は繊細なんですよ?主を殺してもいいの?」
AK-12は動じない。ようやく、少しずつ冷静さを取り戻す。
「……アンジェはただの指揮官よ。あと、アンジェはパラシュートを持参しているからご安心を」
「そうでしたか」
モリドーはため息を吐き、一秒もかけないでAK-12を蹴り飛ばそうとした。
AK-12は即座に引き金を引き、蹴られる前に脚を打ち抜く。
撃たれたモリドーは膝をつく。
「アンタの負けよ。私達より、高等だと自負するなら勝てないと分かるんじゃない?」
「ああ、なるほど。この距離で当てられるんですね。ふふ、良いデータが取れました」
そんなの設計段階でわかる話だ。
モリドーは明らかに負け惜しみを言っている。
……そのはずなのに、AK-12は奇妙な威圧感を覚えた。なんだ?このプレッシャーは?
「……しかし、残念です。確かにあなたも優秀なんでしょうけれど、私が今一番渇望している、"あの人"にはまだ及ばない」
「"あの人"?」
「あなたもよくご存知の方ですよ。あなた達もお世話になった、戦術人形……"M4A1"です」
「……っ!(M4のことを知っている!?)」
予想もしない発言にアンジェリアは驚愕する。
「パディルスキでの時は痺れました。あんなに手応えのある人に会えるなんて、初めてなんですから。AN-94さん達を助けに向かわなかったらもっと味わえたというのに」
AN-94……パディルスキ……まさか!
「……エルダーブレインを始末しに行ったM4A1から聞いた事がある。途中で見た事ないパラデウスを見たと…それが」
「M4A1は私のことについて話してくれたんですか?はい、その通りですよ。なるほど、M4はエルダーブレインを始末したかったんですね。残念、言ってくれれば代わりに始末してあげたのに」
クツクツと楽しそうに笑う、モリドー。
もう、AK-12やアンジェに与えられた屈辱がどうでもいい様に思い出に浸っている。
「教えてくださいよ?アンジェ、M4A1はこちらにおらっしゃるのですか?」
「……そんなの知らない、もうあいつはどっか行ったわ」
「M4のことまで知っている……?」
「うるさいですね、アンジェ。そんなことよりもM4の事を教えて欲しいんですけれど」
モリドーの態度がアンジェリアを見下したものから、鬱陶しいものを見る様に変わる。
「教えてくださいよ。M4A1はパディルスキの時より強くなっているんですか?それとも、新しい戦術を考えて私をまた驚かせてくれるつもりなんですか?」
飛行機の中はまた緊張が迸る。
一番先に根を上げたのは飛行機の方だった。
ガコン!と嫌な音を立てて、並行感覚を失った。
「……ただ、墜落したら無事かどうか分かりませんね。お先に失礼します……ああ、そうそう。もし、M4に会えたら伝言を伝えてあげて下さい。決着の舞台は押さえてありますからそこで存分に殺し合いましょうって!」
一瞬のことだ。モリドー機体のシートを掴んで轟音と共に引きちぎる。
引きちぎったタイミングと同じタイミングで機体のドアが勢いよく開く。
「あいつ!飛び降りて逃げるつもりよ!!」
空気の音が響き渡り、エンジンの轟音がとどろく。
モリドー勝ち誇った笑みを浮かべる。暴風に煽られるアンジェリアたち、体制を保つだけで精いっぱいだった。
「ルシア!」
「分かってる!」
AK-12はアンジェリアの命令以上に素早く、コックピットに移動して緊急着陸を試みる。
「心中するつもり!?このキチガイ女!」
モリドーの勝ち誇る笑みは崩れない。
「心中?誰がそんなこと?死ぬとしたらあなた方だけです」
モリドーがゆっくりとドアの方に向かう。アンジェリアもグロックを向けるが風にあおられてなかなか照準が合わない。
「生きていたら、また会いましょう」
そう言って、モリドーは扉から飛び降りた。
AK-12は必死に着陸を試みて、ラべ川の上に胴体着陸という名前の墜落をした。
「パラデウス……完全に人間との融合を果たしている」
この国の状況は思っていたよりも複雑だ。あとどれくらい、モリドーと同じような奴が潜んでいるのだろうか?
それでも、ようやく尻尾をつかめた。
ウィリアム、きっと奴はこの国に潜んでいる。今度は我々が奴らを責める番だ。
────
───
「”アドミニストレーター”、アンジェリアを乗せた飛行機の墜落を確認」
<よくやった。証拠を廃棄した後、離脱せよ。もっとも、これでアンジェリアが死んでいるかは怪しいだが>
ユーリはラべ川の麓で落ちていくアンジェリアの飛行機を観察していた。
”あの方”の指示通り、ただ観察だけにとどめていたが自分の周りには携行型対空ミサイルを用意していたチームが控えていた、その気になれば火の玉にしてすべて消すことが出来たのだ。
「本当にこの結果で良かったのですか?」
<よい。裏切者の漏れる口の言葉など、知れておる。それと、民間軍事会社のグリフィンにはもう依頼をしておいた、”工作員グリフィン”の始末は継続して、追いつつもそれ以上に”例の彼女”は何としても我々の手に収めねばならん。我々の目的にしても、ロクサット主義に対する手持ちの一つにするとしても、な。その為にはまだアンジェリアは生かす価値がある、そういうことだ>
アドミニストレーターはユーリにアンジェリアを泳がせている理由をまだ、教えていない。
だが、何となく予想はついていたし、アンジェリアはユーリの予想通りの行動をしてくれた。
「ああ、それと。お前に良いニュースがある。それはな────」
それはいいことを聞いた。
まさかAK-12が俺にあんな取引を吹っ掛けるとは夢にも思ってもみなかった。ユーリはAK-12から”取引”で受け取った”モノ”を弄ぶ。
「どうやら、次のゲームは俺たちの勝ちで決まりだな」
AK-12が受取ったモノ、それは...アンジェリアやホップスが血眼で探し回っていた、パウエルの”リスト”だった。
────
───
その頃、ユーリたちが所属している海底都市でも大きな動きがあった。
厳重な警備、厳選された設備のシステムが所狭しと稼働している一室。
その一室でアドミニストレーターは今か今かと待ち侘びていた。
「来ました!」
コンピューターを操作している、職員がフロア中に響く声で報告すると、海底都市の重役達の何人かが興奮で立ち上がる。
フロアの真ん中に鎮座された巨大なシリンダーの様な大型なカプセルの中に凄まじい放電が現れ、暴れ出す。
「こ、これは、カプセルが!!」
放電の熱量でカプセルが膨張してガタガタと音を立ててヒビが入っている光景なんて、職員の悲鳴を聞かなくてもヤバいなんて事は肌で感じている。
「────爆発するっ!?」
「総員離れろ!!」
カプセルの中の放電が治まった瞬間、直径30mほどの巨大なワームホールが発生した。
ワールホールはヒビの入ったカプセルを中から押しつぶし、爆散した。
爆発の白い煙を起こし、その場の警備兵や技術員が煙を吸い込んで咳き込んだ。
やがてゆっくりと煙が晴れて、全容が分かってくる。
カプセルがあった場所は爆発の影響で大きく陥没していたもはやカプセルのカケラすら残っていない。
いや、残っているものはあった。
それは────炎だ。
蒼く、艶やかに燃える、竜が放った様な幻想的な炎の蒼炎はまるで生きているかのように、艶やかな陽炎を纏いながら美しく燃えていた。
その場にいた誰もがその炎を見て、固唾を飲む。
「ほ、炎の中に誰かいるぞ…!?」
部屋の誰かが漏らした声に再び部屋の中の人員はその炎に注目した。
────本当だ。
蒼炎の中に何者かを想起させる黒い影が蠢いていた。
「────…!」
炎の中から、唸り声じみた反響音が聞こえた。
まるで、神話や童話の中に出てくるドラゴンの様な唸り声…の様な軋んだ音が炎の中から聞こえる。
「な、なんなんだ…?」
1人の警備兵が怯えた感情のまま銃を向ける。
「もしかしたら自分達はとんでもないバケモノを呼んでしまったのもしれない」という得体の知れない今日は真から来たものだった。
「やめておけ」
アドミニストレーターは銃を向ける兵士を静止する。
今まで見た事ないほど、警戒した眼差しではあったが「コイツ」に銃を向ける必要がない事を彼女は本能的に理解していた。
「────。────」
炎がうねり、竜巻の様に捻れていく。
ただの炎に過ぎなかった蒼炎が舞い上がり少しずつ空中に霧散していく。
炎の中に蠢いていた「彼女」がその原型を露わにしていく。
「フフ…それでいい。それでこそだ」
彼女の姿は────美しい姿だった。
誰もがその姿に見惚れる。そんな美しい女が、戦術人形が龍の様な角を瞬かせて、炎の中から現れた。
「優美よな…」
感嘆の声が上がる。
熱風に煽られるその髪は先程の蒼炎と同じくらい美しい蒼く、艶のある髪色をしていて、左側の髪のメッシュは虹色に輝き、アーマー越しにでもわかる均衡の取れた肉付き、海の真珠の様に煌めくピンク色に眩く瞳、幻想的な炎から現れるに相応しい幻想的な輝きを見せていた。
「ふぅ……」
────"ギシリ"と連続した金属音がフロアに響いた。蒼炎の女がゆっくりとアドミニストレーターに向かって重厚感がありつつも幻想的に、しっかりとした足つきで歩み寄ってきた足音だ。
誰もその歩みを止めようとする者はいなかった。
ただ美しいという光景に見惚れていたのもあったが、それ以前にこの女が誰であったか、ここにいる誰もが知っていたからだ。
足音がアドミニストレーターの目の前にまで近づき、ゆっくりと口元を開く。
「よく帰ってきた」
「お待たせして申し訳ありません、アドミニストレーター…」
「いいや?むしろ私の方から労わせてくれよくぞ、帰ってきた…大義であった、本当に…本当に…大義であった、”M4A1”」
M4A1────その単語は聞き間違いではない、ゆっくりとアドミニストレーターの足元に屈み込み、忠誠を示す、騎士の様に跪いた。
そして、立ち上がると左腕を掲げた。
「フフフ。さあ、皆さん。私たちで新しい世界を始めましょう?」
アドミニストレーターは満足気に笑う。
最強の切り札が最高のタイミングでこちらの手元に引き込めたのだから。