────M4A1、彼女の強さはまるで火山の噴火の様だった。
アドミニストレーターの密命で、異世界の調査から帰ってきた彼女は戦うまではまるで危険がない、大人しそうで美しい美女の様に思えた。
しかし…彼女が敵と相対し、銃のトリガーを引き絞ると我先に自分達を喰らわんと怪物達の群れを蒼い炎と共に塵芥に変えた。
自分達はこの戦いでこの怪物達に何人か、いや…最悪、全員が死ぬかもしれない事を想定してこの場所にきた。
世界から選ばれた先鋭の中でもさらに先鋭の自分達の誰もが同じように考えていた、でも…今、「なぜそんな心配をしたのか」という事実を馬鹿馬鹿しく感じるほど、彼女の強さは圧倒的だった。
「────グルオッ!!」
獣の様な唸り声で蒼色の乙女に向かって怪物が飛びかった。すかさず、護衛の兵士が援護しようとするが…
「────シッ!!」
蒼色の乙女がその援護よりも早く、風のような蹴りを繰り出し怪物の頭を容易く切り裂いた。
それだけではない、切り裂かれた所が一瞬で蒼炎に包まれたのと同時に勢いよく吹き飛んでいき、ビルに激突してビルが地響きを立てながら崩れ落ちていく。
『か、怪物か?…』
「自分の身の事だけ考えなさい。私の事まで気にする必要は…ない、わ!」
M4A1の銃がまた蒼炎を吹き、次々と敵を薙ぎ払っていく。
彼女の持っているライフルは見た限り、自分達でも知っているオーソドックスな武器"M4A1"のURG-Iだというのは分かる。
当然、M4A1の5.56ミリ程度にあんな威力が出せる訳がない。
確か、グリフィンが使っている戦術人形の銃も実銃とかけ離れている能力があると聞いた事がある。
きっと彼女が使っているのも同じ様に見た目だけが同じで段違いな性能を持つライフルに違いあるまい。
目の前の怪物達が全て消えたのを確認した蒼色の乙女がM4A1を手放すとその銃が光の粒子に形を変えて初めからなかったかの様に消え去った。
「全く……やっと静かになったわね。さぁ、行きましょうか」
蒼色の乙女が先行した。
『行くぞ』
呆気に取られていた兵士達も部隊長の声で正気を取り戻して、蒼色の乙女のその後ろを追従していく。
「ウォオオオオオオ────!!!」
さっきの攻撃を聞きつけたのか、大型のE.L.I.Dが身の毛をよだつ咆哮と共に現れる。
頭部に人間の頭を置いた様な恐竜を思わせる姿で、大きさは15メートルは下らないだろう、あんなE.L.I.Dに目をつけられたら運を頼りに逃げるしかないだろう。
それが…今まで彼らの中にあった"常識"だった。
「うるさい、邪魔よ」
そんな恐怖の象徴の様な大型のE.L.I.Dに向かって、青色の乙女はまるで夏場に自分達の周りを飛び回る蚊を見るように鬱陶しげな視線を向けた。
そして、溜息を吐きながら今度は光の粒子から現れた二振りの剣を握ると歩きながら、距離を縮めていく。
大型のE.L.I.Dが唸り声を上げて、彼女を一飲みにしてやろうと口をパックリと開かせた瞬間────
「お呼びじゃないわ」
────その口が消えた。
口の消えた所から蒼い炎がチロチロと燃えていて、蒼色の乙女が。
握っていた剣も逆手で持たれている。
怪物も何が起きたか分からず、呆気に取られて固まっている、自分こそがこの場所の王だと自信を持っていたE.L.I.Dが"分が悪い"なんて全く考えていなかった為、自分が今抱いている"恐怖"という感情を処理できずただ、固まるしかなかった。
「────失せろ」
蒼色の乙女は尚も退こうとしない怪物に向かって剣を振り回す。
その速さは凄まじく、分身をしたのではないかと誰もが錯覚するほど、素早く動き回り怪物の身体を細切れにした。
「あと、もう少しね。頑張りましょう?」
蒼色の乙女は余裕そうだ。また、手に持っていた剣が彼女の手を離れた瞬間、光の粒子に戻った後、跡形もなく消え去った。
こんな怪物をあっさりと屠る彼女を見て、彼女の実力を疑う存在はもういないはずだ。
いるとしたら、余程の馬鹿か逆に強い事を警戒する捻くれ者のどちらからだろう。
「よし、到着。予定だと2日掛かるって聞いたけど、3時間で着いてしまったわ」
2日をかける理由は怪物達をなるべく避けた上で急ぎに急ぎを重ねてここに辿り着く想定だったからだ。
3時間で着いた理由は聞くまでもなく、この蒼色の乙女の圧倒的な力のお陰で隠れたり迂回する必要がなくなったからだ。
「コイツの出番ね」
蒼色の乙女はまた光の粒子を作り出し、その粒子が固まり6角形の機材の形になった。
スイッチを押すと、複数のアンテナが展開された。
『OK。コイツは知ってるぞ、通信用の中継機だな』
「中の濃度が高すぎる。たぶん、あなた達のアーマーでも耐えられない」
兵士の一人が言った通り、これは通信の中継を行う機械だ。
距離が離れれば離れるほど情報伝達が遅くなるし、コーラップス液の放射線の高ければ高いほど、通信の電波が遮られる。
そこで、無線などの情報を別の所に送り届けるのが中継する機械が必要なのだ。
『隊長のその素体なら耐えれると?』
「そういうこと、"あの方"がは私をここに行かせた理由もきっとコレなんでしょうね」
『お前のその力には脅かされる。どういう原理で物質が現れたり消えたりするんだ?』
兵士の1人は不思議に質問を投げかけた。
先程もそうだが、彼女は光の粒子を作り、それを武器に変えて敵を蹴散らす。そんな技術今まで見た事が無かった。
「…現れたり、消えたり?あぁ…"粒子転送"ことね」
蒼色の乙女は何を言われているかわからずキョトンとした表情をしたが、直ぐに察しを付けて答えた。
「物質をこことは違う場所に保管して取り出す為に特殊な粒子を使って"ポート"させた物を"引き出して"いるんだけど…この話はあなた達が生き残れたら、分かりやすく話してあげる」
蒼色の乙女は片手を振って、自分の視線奥にある巨大な洞窟の様な穴に向かっていく。
兵士達の役目はこの穴に怪物達を入れない事だ、呼び出された時には飛び込む役目が回ってきたのかと思っていた…。
しかし、今は…この蒼色の乙女が穴に入ってくれた事に少し安堵していたかもしれない。
「真っ暗ね」
視界の先は暗闇に覆われていた。
蒼色の乙女の瞳が光ると僅かな光を増幅させる機能と熱源を映像化するサーマル機能を併用した暗視機能で視界をまるで昼間の様な明るい視界に切り替わる。
「どうだ…明るくなっただろう?…ってね」
視界がハッキリしたので穴の中を進んでいく。
穴の中には様々な軍用の車両の残骸や弾丸が命中した事による弾痕、腐乱しきった死骸がそこかしこに散らばっており、ここで凄まじい戦いが起きていた事を物語っていた。
視界の先にあった固く閉ざされた扉を力づくでこじ開け前に進んでいくと、中継器で明瞭な通信を取れていた外との通信状況が一気に悪くなった。
蒼色の乙女は慌てず録音装置を取り出して、録音ボタンを押すと自分の声が録音出来る事を確認した。
「通信が…繋がらない?けど録音できているという事はこっちの送信の電波がこの濃度に耐えられなかったのね」
コーラップス液の濃度を調べてみると核爆発直後と同じくらいの放射線濃度を検出した。
この濃度は外に出すと危険だと判断して、彼女は扉の奥に入った後にその扉を閉じた。
「…通信状況が悪い為、録音での状況の報告を行う。"遺跡"の内部に侵入した、暗視装置で確認できる映像を見る限り、至る所で戦闘の跡が残っている…どうやら、この遺跡で戦闘があったという話は本当らしい…。今のところ、敵の姿は確認できない…しかし、奇襲の可能性も考えられる、よって警戒を継続しつつ調査を続ける」
蒼色の乙女は報告を済ませると、ゆっくりと息を吐きながら、更に進んでいく。
壁元をみると、ちょっとした落書きが見える。世界崩壊の引き金は7人の中学生がこの遺跡に探検ごっこで踏み込んだのが始まりという通説になっている、陰謀論者などは他の可能性を吹聴しているし、実際そんな滅び方は馬鹿らしいと言えば馬鹿らしい。
しかし、この落書きを見ると中学生の侵入の通説の方に現実味が出てくる。
「come on(勘弁してよ)」
色々あって、慣れ親しんだ思わず英語でため息をついてしまう。
その後も警戒しつつ、この遺跡の目的地に続く扉が見えてきた。
この扉の先にあった物の調査をして原因を解明できれば任務完了だ。
あわよくば、サンプルも回収できればそれでもいいらしい。
「私の馬鹿力の出番ね…よし」
蒼色の乙女がガチガチにしまった扉の取手を掴んで扉を開閉しようとした時…ガタン!!と何かが倒れた音が聞こえた。
「……!!」
蒼色の乙女は即座に銃を呼び出し、構えると音の方向に照準を合わせる。
「くたばれ!」
倒れる様な音が連続して大きくなってくる。
射線の先に二次爆発など破壊されて危険にな物はない、彼女は躊躇いなく引き金を引き絞った。
「ギィイイイイイイッ!!??」
銃弾が飛んだの向こうから悲鳴と共に緑色の血飛沫が上がった。
彼女が悲鳴の方向に近づくと、悲鳴を出したと思われるE.L.I.Dの姿が視界に映った。音の正体はどうやら怪物と化したE.L.I.Dらしい。
「どうだ……?」
腹が大きく螺旋状に抉り取られており、苦しみ悶えながら歩いていたがその歩みも止まり、ゆっくりと息絶えた。
「よしくたばったわね。初めて見るE.L.I.Dね」
記録は大事だ。蒼色の乙女は視界の光景を撮影できるフォトモードを起動して倒した怪物の写真の記録を撮る。
今までにない姿形をした生物だ。
彼女は怪物の死骸を観察する、姿形にしては爬虫類を思わせる外見をしていた。
ただし、骨格の形は人間の造形をしている…このE.L.I.Dの元は人間である可能性が高い。
もう少し観察を続けると皮膚の辺りに人間の衣類に似た物が見える。
服の大きさが変わってなければ、大体、10代前半の人間が着用できるサイズだ。
「さて…観察はこのくらいにして、そろそろ仕事に戻らないと────?」
怪物の死体を観察している最中に、背後から気配を感じて振り向く。
そこにはさっき自分が倒したE.L.I.Dと同じタイプのE.L.I.Dが6体こっちに近づくのが見えた。
「…懲りないわね」
蒼色の乙女が銃を向けた瞬間、スコープの先にE.L.I.Dの皮膚とくっついた様な衣類が見えた。
「ギィイイイイイイ!!」
「────チッ!」
蒼色の乙女が少し固まったのを"ビビった"と勘違いしたE.L.I.D達が一斉に飛びかかったがそれを彼女は全て難なく躱して再度銃を構える。
「…まさかね」
先程、蒼色の乙女は怪物の攻撃を避けた時その怪物の身体の特徴を全て確認した。
彼女の予想通り、全てのE.L.I.Dに皮膚とくっついた様な衣類の跡があった。
そして、誰も中学生ほどの人間が着れるようなサイズだ。
世界崩壊の原因は中国の米蘭島の"遺跡"に遊び半分できた7人の中学生達…そして、ここは中国の米蘭島…怪物の数はさっき倒したのを含めて7体…
「世界崩壊の原因が私達の邪魔をする"番人"に成り下がるとはね…いいわ、ここで全員、楽にしてあげる」
蒼色の乙女の背中に粒子が現れて、4枚の機械の羽に形を変えると羽が乙女の背中に装着され、蒼炎が勢いよく噴き出された。
蒼炎の眩い光は暗闇を美しく隅々を照らし出し、塵すらも幻想的に輝かせていた。
蒼炎から逸れた小さな火の粉がE.L.I.Dにかかると、火の粉を浴びたE.L.I.Dは絶叫をあげて、後ずさる。
「フフ…」
蒼炎の勢いが彼女の闘志に比例してますます強くなり輝きもますます強くなった。
蒼色の乙女の瞳も海の真珠の様な麗しい瞳ではなく、まるで獲物を平らげるドラゴンの様な仰々しい瞳に変わりE.L.I.D達を睨みつけていた。
「覚悟はいいわね?」
────
───
「は、初めまして…グリフィンの皆さん、私はフェドロフと申します」
「え、M94────」
「ミーはデリンジャーデース!」
「馬鹿は引っ込んでなさい!このコリブリが見えなくてよ!」
「…お前らいい加減にしろ、騒がしくて済まない。私は彼らのまとめ役のペロサだ、フォトン指揮官。よろしく」
フォトンが"グリフィンとの連絡が終わって広間に戻ると建物に入る時に出会った人形達とAR小隊が挨拶をしていた。
「危ない旅をさせてしまってすまない。私はペロサ、"サー"の遣いだ」
フォトンが戻ったことにいち早く気がついたペロサが丁寧にお辞儀をして挨拶とお詫びをした。
「"サー"の人形?という事は"会社"の方の人形じゃあないのか?」
「はい。しかし、サーからはあなたの指示に従う様に命令を受けている、だから指揮系統の心配はしなくていい」
"サー"もその辺りの配慮は忘れていないという事か…第一印象としてはなかなか好印象だ。
とはいえ、クルーガーが"信用ならない"という奴なら、この辺りで緊張をほぐして懐柔する可能性も考えられるな…
「あの子は?」
「…あの子?ああ、あなたが助けた少女ですね?まだ、眠っている爆発の衝撃が強すぎたんだろう」
まだ、起きそうにないか…植物状態にならなければいいが…などと考えていたら、フォトンの端末から通知音がなる。
<よしよし…一回で繋がったいい傾向だ。数ヶ月ぶりですね、フォトン>
「フレーヴェン大尉」
端末を繋がる為連絡相手の正体は顔馴染みのユーリ・フレーヴェン大尉だった。
やはり、あの時のパラデウスからの襲撃を助けてくれたのはヴェルークトで間違いないらしい。
「アンタも"サー"の命令でベルリンに?」
<────"サー"?>
ユーリは少しの間、呆気に取られるという珍しい表情をして、首を振った。
「アンタ達が"あの方"と呼ぶ"男"の事だよ。アンタらも"サー"、いや"グリフィン"の命令でここにきたんじゃないのか?」
ユーリはまた少しの間、呆気に取られた表情になり…やがてクツクツを今にでも爆発しような笑い声を抑えていた。
<…ふ、フフ…アハハッ!…あー!いや!悪い悪い!まさかこんなくだらない事で笑えるなんて思ってませんでした!私が"グリフィン"の部下だなんて…フフ、ハハハ!違います違います!私はペルシカさんに頼まれてこの国に来たんです!今通信したのもペルシカさんにつなぐ為で…フフフ、いやぁ…笑える…フフッ!>
ユーリはこんなに笑ったことはない。本当に予想もしないハズレの回答が来てツボに入ったらしい。
ペルシカ?グリフィンではなかったのか?アテが外れた事に若干不機嫌になりつつも、ユーリ達の話す"あの方"の正体が"サー"ではない事を知り、不安が掻き立てられる。
「そうか…分かった」
<それとヘリアンさんが我々以外の助っ人を呼んでくれた>
「助っ人?」
<404小隊だよ>
通信に新しい接続が割り込んできた。
<久しぶりね、フォトン指揮官さん♪>
「UMP45」
接続された通信の画面に現れたのは404小隊の隊長である、UMP45だった。
まるで、AR小隊のある所に404小隊ありだな…下手したら、AR小隊より404小隊の方が記憶に残る。
「お前たちも来てくれたなら、心強いな」
<前金はたんまり貰ってるから気にしないでいいよ>
…いくらあるんだ、へリアンさんの予算は
<冗談はそこら辺で終わらせるにして…アナタが助けたあの女の子、大丈夫ですか?>
「パラデウスに襲撃した際に頭を打ってな…まだ、意識は戻らない」
<なるほど、そうですか。我々は引き続きそちらのサポートを継続します。そちらの予定は?>
「今後の方針としては、"ミネルバの梟"という場所でアンジェと会う予定だ」
<アンジェリアか…>
フォトンがアンジェリアの名前を出した瞬間、ユーリは若干不安そうな表情を浮かべた。
「どうした?」
<フォトン。来たばかりで恐縮だが…今回のアンジェリアはあまり信用しない方がいいかもしれない>
「…アンジェと何があった?」
いきなり飛び出てきた衝撃的なセリフに驚きつつもフォトンはユーリに説明を求めた。
画面越しのユーリは口に出そうか出すまいか戸惑っているように見える。
<我々の許可どころか、一報を入れないでで彼女は無断でドイツに来ている……という理由だけでは納得しきれませんよね>
「それはいつものことだからな、まぁ……やってることはドン引きするけどヤ」
<他の理由はまだ話せない…言い直すなら、そちらに話す事に対するデメリットが大きすぎる>
────
───
「────ユーリの話、どう思う?」
フォトンがダンデライオンにユーリの言った「アンジェリアは信用しない方がいい」という言葉について相談した。
少し考えてみても、特にアンジェリアを怪しむような節はなかった。
「彼の言葉のトーンから算出して、恐らくユーリは嘘をついていない。多分、明確な証拠を掴んでいるけどその証拠を話せない状況なんでしょう」
明確な証拠か…だからこそ、ユーリは「怪しい」ど断言できている。
しかし、それをユーリ自身が隠している以上、こっちが理解してもらう事は難しいと理解している筈だ。
「アンジェリアも潔白では無いわ、もしかしたら彼女がやっているかもしれない暗い事でアナタが巻き込まれてしまう…という可能性も考えられるわね」
確かにそう考えれば少しは辻褄が合う…しかし、それならばユーリは背景を説明するはずだ。
他のロシア人は知らないが少なくともユーリはそういう男である。
「他に考えられる可能性として、アンジェリアの直属の上司がユーリ達の組織にまた喧嘩を売り始めたという可能性とあるわね」
今まで検討していなかっただげで、探せば出てくる可能性は沢山あるな…こういう所は客観的に意見を出せるのは助かる。
「明日、アンジェリアと会うんでしょ?危険かどうかは…実際に会って確かめましょう?」
どちらにせよ、どこまで信頼できないのかはアンジェリアに会ってみなければ何も分からないな…
────
───
「…ふう」
「終わったか?」
ユーリが無線を終えて、逆探知やハッキングがないことを一通り確認した後、通信用のキューブ型端末を閉じるとユーリたちの任務を指揮する、”リーダー”と呼ばれる役割を持つ男が背中に立っていた。
「はい、終わりましたよ。どうやら、予想通りアンジェリアと会うみたいなので警告をしました」
「ああ、それで構わん。しかし、解せないな。お前がそこまであのグリフィンに肩入れする理由がわからない」
リーダーのと反応は至極当然だろう。
確かに米蘭島事件から始まった世界規模のパンデミックから呼応した第三次世界大戦で世界の軍事事情は大きく弱体化した。ヨーロッパでは自分たちの手に負えなくなった箇所を民間軍事会社に任せるほどに弱体化している。その上、相手は民間軍事会社の中でも最も規模の大きいあのグリフィンだ。
しかし、民間軍事会社は会社の枠を出ない。金と信頼の切れ目が命取りだし反抗されるのを恐れて使える武器にも制約がある。
要は軍や政治家からの観点では「必要不可欠な存在、でも代用が聞く存在」程度の存在でしかない。
その程度の存在に先鋭が”真剣”に最後まで付き合う義理はどこにあるんだというのがリーダー、いやこの作戦に参加した連中のイメージなのかもしれない。
「少し前のお前の古巣だから、という理由では付き合う我々も困るんだ。共に戦わされている以上、俺たちに利益がある存在でなければ困る。”この任務をする価値がある”と我々に思わせる位にな」
リーダーとしては「こんな任務くだらないから、さっさと終わらせて祖国を守るための怪物退治に戻りたい」と部下から愚痴を受けているのかもしれない。
普通は”あの方”なり、直属の上司に文句を言うところであるが…ユーリが「様子を見る」と言って引き延ばしたのが顰蹙になったのだろう。
「私もあなた方の不満が分からないわけではありません。ですので、正直に言います私は確かにグリフィンに対する思い入れがあるのは事実です、ですが…それ以上の今回の件はあまりに放っておけないことが多すぎます。我々も今回の件はもう少し、深入りするべきです」
「ほう?」
「まず、あの少女。任務の命令では”マハリアン”という少女という名前と伺いましが、この任務より前に同じ顔をした女と遭遇しています。それは任務前に報告した”モリドー”という女です。奴はパラデウスのネイトな上、実在する人物でした」
パラデウスのネイトな上、実在する人物…要は、入れ替わったということだ。パラデウスの技術は実在する人物にDNAレベルですり替わることが出来る。
「だが、我々が彼女を欲しがる理由はそれではない」
「ええ。作戦書を読む限り……まぁ、関係はありませんね。というか、まさかブレーメンにいることそのものが予想外でしたからね。それに……ドイツの要人秘書にすり替わる話は全くないように盛り込まれていなかった、新たに判明したことです。だからこそ…」
「なるほど、お前はパラデウスの反応を見たいのか。グリフィンを餌に"マハリアン"が何の役割を持つのか、パラデウスは何の目的があるのか」
ユーリは明確に頷いた。
パラデウスが近いうちにテロをするという話は最初からつかんでいた、そしてフローラ研究所でくすねた記録からも確定した情報だと理解した。
でも、具体的に何を、何処で、どうする?というのが掴めない。もし、マハリアンを早急に引き渡して海底都市に送り込んでいる間にパラデウスの計画が成功何起きたら、本末転倒だ。
「リスクは大きいぞ?」
「我々の任務にリスクが小さい作戦がありましたか?」
ユーリは笑った。確かにそうだとリーダーも苦笑いをした。
「俺たちの時間を借りているんだ。後悔させるなよ?」
手を振って、いなくなるリーダーの姿をユーリは無言で頭を下げて見送った。
────次の日
「急げ!遅刻する!!」
フォトンたちはベルリンの街を疾走していた。理由は単純、ベルリンの町が思っていたより複雑なのとよりによってフォトンが寝坊したから。
ユーリ曰く、「アンジェリアは遅刻する奴が嫌い」らしい。
SOPⅡが何処で同じ経験をしたか知らないが、もううんざりだという様な叫び声がベルリンの市街に響く。
「指揮官!このバーは!?」
「まって、ちょっと調べて────」
アンジェリアが指定した待ち合わせ場所は「ミネルバの梟」という名前のバーだ。
ダンデライオンの調査結果が出るよりも、早くフォトンは見つけたバーの中に突撃した。
「んー…暇だな、あれ?見てよ!RO!抗放射線の商品だって!」
「この値段で売られている時点でデマでしょうね。政府の発表で新薬が作られているとかなら、ともかくこれじゃね」
SOPⅡがはしゃいで露店に並んでいる商品をRO635が値段を見て、偽物だと断言する。
「外務省から支給される対E.L.I.D用の装備いくらすると思う?弾丸一発でも通常の弾丸の10倍の値段がするわ、人間に使う物質ときたら…私たちの一生分の給料でも買えないでしょうね」
「買った人からクレームが来そうだけど」
「難癖付けたくても、効果を試すには汚染区域に行かないといけない。で、汚染エリアなんて言ったらまず生きて帰れない。”これが効きませんでした”という証明が取れないわ」
生存者バイアスから来る、ひどいサイクルだとROは吐き捨てる。
「結果が出た。このバーは────」
ダンデライオンの調査結果が出る前に店のバーからすさまじい罵詈雑言とナイフとフォークと空瓶が飛んできたので火を見るよりも明らかに間違いであることを理解する。
「間違いだった、次にいこう!」
「いや…その、私達。急いで出たから忘れてたけど…私達、随分浮いてない?」
次のバーを探す前に、フォトンはSOPⅡに引き留められる。
「人形転売屋に目を付けられない限り…」
「なあ、アイツラの装備ピカピカの戦術人形じゃねえか?」
「装備だけ売っても年末まで食えるぜ!」
「全部捕まえて売っちまえば…数年は」
周囲から、ひそひそと居た声が聞こえる。ROが周りの音を大きくすると…やっぱり、人形達を闇ルートで売りさばく集団の声が聞こえた。
「はい、目をつけられますよね。知ってますよ!このヤロー!!」
「だから、新しい服を新調する話は後回しにするべきじゃないんだよー!」
SOPⅡが何処で同じ経験をしたか知らないが、もううんざりだという様な叫び声がベルリンの市街に響く。
「殺しはダメよ。ここの警察、ピりついているし」
「知ってる!前に治安がいい街で暴力沙汰を起こして、いやな思いをしたからね」
SOPⅡはフォトンのあずかり知らぬところで騒ぎを起こしていたらしい。
「いい考えがある。みんな、少し急ぎ目に走れ」
フォトンたちが走り出す。
無論、その後を人形転売屋たちが追いかけだす。
すると、何らかのセールやお祭りがあるのではないかと勘違いした民衆たちがどっと彼らの後を追いかけ始める。
「よし食いついた!UMP45、上手く撒ける場所はないか?」
<前方10メール先に隠れるのにいい路地がある。返り討ちにしたいならそこを使って────あ、────とは>
いきなりUMP45との通信が悪くなった、人混みが影響しているのかもしれない。
フォトンたちが路地に入るのを追いかけた人形転売屋が路地の中で次々と鈍い音と共に悲鳴を上げた。
「片付いたな────」
「てめえら!やりやがったな!!」
転売屋たちを成敗したと思ったら、人混みで遅れた転売屋が後ろでボコボコに殴られた仲間の姿をみて激高してどのモデルなのかもわからないほど粗悪なピストルを取り出す。
「手前らまとめて地獄に────」
引き金が引かれようとした次の瞬間────慌ててブレーキが効いた時の金切り音と共に現れた車がAR小隊の前に現れ、次の瞬間には車の直線状いた転売屋に激突。
────バコン!!と鈍く大きな音と共に車の上を転がっていった。
「おい!AR-57、なんて事したんだ!立派なひき逃げだぞ!」
「いやいや、ゴロツキだし、AR小隊のピンチを助けたら大丈夫だし…きっと」
「そんなんで済んだら警察は要らないのよ!!アホー!!!!」
「ああ、もう……本当にどうするのよ……」
車の中から、揉めるような大声が聞こえる。どれも聞き覚えのある声だ。
「アリージェンス!?どうしてここに!?」
車に乗っていたのはM4が従えていた傭兵部隊アリージェンスの戦術人形達だった。
どうやら誰かが別口で、彼女達に応援をさせに来たようだ。ちなみに車は、レンタカーのように見える。
「ミネルバの梟を探してんだろ?案内してやるよ!」
「指揮官!急いでください!」
レンタカーに乗っていたレミントン R5がAR小隊とフォトンをレンタカーに乗せると人混みの街を滑らかに疾走した。
「ここだ」
しばらく走らせた後に、目的のバーの前にたどり着いた。
そこは、店というよりレストランのような見た目をしている。時間まで、後一分もないフォトンは脇目もふらず店の中に突撃した。
「間に合ってよかったわ。で?アリージェンス?どうして、アンタらまでドイツに来てんのよ?」
「そりゃあ、決まってるでしょ?雇われてここに来たんだよ」
Ots-14の懸念に対して、AR-57はさも当然に回答した。
「やっぱりグリフィンから?」
ROの質問にMCXは人差し指を揺らして「違う」とジェスチャーした。
「ノンノン!私たちをここに寄越したのは別の人だよ!まあ、あなた達も知っている”あの人”なんだけどね~」
ダンデライオンは一瞬だけ、その人物を思い浮かべたが……すぐに打ち消された。
道向こうにある大々的に書かれている”祝ガラテアグループ100周年!”というテロップに目を奪われたから。
「ガラテアグループ…ポーン村でも聞いた名前ね」
Ots-14は村で代表と思わしき女が喋った言葉のことがこれであることを確信した。