「少し傷を負わせたくらいで調子に乗るのは総計でしたわね。あなたの身体は後でゆっくり引き裂いてあげましょう。では、用事がありますので」
ユーリを倒したモリドーは悠々と歩いていく。
彼女が視線を向けているのは、フォトンとマハリアンだった。
ユーリが倒れたことで、護衛対象であるフォトンの目の前にモリドーが現れてしまったのだ。
『……っ、ガッ……!』
ユーリは割れたバイザーから血反吐を吐いて床に倒れた。
「このままならすぐに死ぬだろう」とモリドーはにたりと笑う。
ああ、あのかわいいお姉さまはこの男同じように刺し貫いたら泣き叫ぶだろう、それを知るためにもいたぶって殺すとしよう。
「お姉様?……そこにいたんですね?見つけましたよ。まさか、あなた方が姉を信じるとは思いもしませんでしたよ」
「も、モリドー……!」
モリドーはゆっくりと近づいてくる。彼女が来たということはユーリ…がやられたということだ。
ここで逃げたら、マハリアンに殺される、それに出口はすぐそこだ。
それがわかって、モリドーは自分たちを挑発している。
「お前がダンデライオンに勝てるのか?」
モリドーはフォトンのブラフを馬鹿にするように笑みを浮かべる。
「確かに…彼女と私なら腕っぷしではなく、電子戦の能力で私は完封されるでしょう。でも……このジャミング下で電子戦ができるとでも?」
だめだ。こちらの状況はあっちに理解されている。
爆発音が響いた。
「ハハハハハ!!来たよ!!お姉さま!!」
最悪な展開だ。穴が開いた個所から現れたのはナルシスと彼女に引き連れられた大勢のパラデウスの兵士達だった。
「まずい…!これじゃあ、逃げられない」
Ots-14の発言は正しい。
モリドーだけなら、敵は出口をふさいでいないので苦渋の決断で誰かを足止めに使って、出口に逃げられたかもしれないのにその可能性も潰えた。
「お疲れ様です。ナルシス、こいつらを殺しなさい」
「任せてよ!お姉さま!!」
後ろと前、どちらを進んでも逃げ場はない。
……戦うしかない。
『リーダー、ナルシスがこっちにいる。マハリアンを追いかけていたんです!ヴェルグ1もやられた!!』
ヴェルグ4が無線を弄って、リーダーと通信する。
<わかった。すぐに行く。10分持ちこたえろ!すぐそっちに向かう>
『聞いた!?10分よ!!』
ヴェルグ4が叫ぶ。
あと10分か…フォトンたちはその10分がとても遠く感じた。
────
───
彼女らの命がけの抵抗を始めてから、そろそろ8分だ。
正直、あのヴェルグ3とヴェルグ4は銃撃戦でも凄腕だ。彼らがいなければ、3分持っていたか怪しい。
でも、10分まで、あと2分もかかる。
「……はぁっ……はぁっ……」
じりじりと追い詰められ、いつもは無表情のダンデライオンも絶望感を隠し切れない。マハリアンも「今度こそ、おしまいだ」と涙を浮かべている。
「ぐっ……ゴフッ……」
一番厄介なのはモリドーだ。
火力が違いすぎる、あの線を振り回されただけで、人形たちは反応もできない速度で体を切り裂かれ、Ots-14は血だらけだ。
「……か、……かっ……あ、ぐっ……」
あれは脚らしい。
あの銀色の脚は軽く振られただけでAR-15は左目から上の部分がなくなっている。
「ぐっ……そ、そんな、からだ……からだ、が……」
ROは左手とサブマシンガンを失い、サイドアームのベレッタAPXで戦うことを余儀なくされる、SOPⅡはもう、しゃべることもできないくらい血だらけになっている。
「あーあー……こんなに無様で。私を足止めした男の人はもっとしぶとく耐えてくれましたよ」
アレを3本も、いなすことができる。ユーリは間違いなく人間、いや人形の範疇でも最強の部類に入れてもいいだろう。
でも、あれほどの実力があってもモリドーに貫かれてしまった。
「あなた方が、M4A1の姉妹機と聞いて少しはマシかと期待したんですけど、なんですこれ?無様すぎるでしょう?」
モリドーの嘲笑を誰もが笑えず、全員が本心で怯えていた。
M4A1、教えてくれよ。どうやって、コイツと渡り合えたんだ?俺たちじゃあどうにもならない、どうしろっていうんだ。
「言い残す言葉はありますか?忘れてあげます、淘汰される旧時代の事など、誰も覚えてはいないように」
相変わらず、モリドーは嫌な声色でこっちを挑発する。
最後のバリケードもあっけなく吹き飛ばされる。
もう、終わりか。そう思った矢先、404小隊から通信がはいる。
<なんとか、間に合ったようね。ジャミングを全部つぶしたわ……かなりの重労働になったけど>
ダンデライオンが自分の手のひらを見る。
どうやら、クラッキング能力が使えるようになったらしい。
<さあ、やっちゃて!!ここで突破口を切り開いて!!>
いわれなくてもそのつもりだ。ダンデライオンは珍しく冗談交じりな笑い声をあげた。
「力って……」
ダンデライオンが手をあげると、パラデウスの兵士たちの動きが一瞬で止まる。
「失ってみてから、必要になるのね」
そして、パラデウスの兵士たちのダンデライオンと重なるように動き、銃口が今度はナルシスとモリドーに向けられる。
「増援は要らなかったわね」
紆余曲折あって、ユーリも失ったがこれで形勢逆転────そう思った矢先
「……全く、くだらない」
モリドーが「くだらない」と笑って、4本の銀色の線がクラッキングを受けたパラデウスの兵士たちに向かって振り回される。
次の瞬間、パラデウスの兵士たちは最後の言葉もなく、バラバラになって肉片と帰した。
「────え?」
「適度に虐めて雑魚に仕事させるのもまた、乙だと思いましたけど、やっぱりつまらないものです。ああ、それと電子戦の話、あれ嘘です」
最初はだれも何が起きたか、まるで理解できなかった。
初めに理解したのはヴェルグ4だ。
あいつは自分の手駒を使えなくなったと判断するや、あの銀色の触手でまとめて切り裂いたのだと理解した。
明らかにモリドーの解決方は短絡的な解決方法だ。
それでも、自分の切り札をあっけなく破られ、絶望したダンデライオンの顔がみるみると青ざめていくには十分な事実なのだが。
時計を見る。到着まであと1分。
「死ぬ覚悟はしていますよね?」
────1分?5秒で皆殺しだ。モリドーは殺せるのに単純につまらないから手を抜いていたのだ。
「死んでください」
一瞬だけ見えた、銀色の触手の切っ先、あれで首を刎ねられるんだろうなあ。と思った、だけど、その前に小さく乾いた銃声がなり、9ミリの弾丸がモリドーの背中に当たる。
「冗談でしょ?」
「う…あ、クソ…詰めが…甘いんだよ…」
発砲したのは、さっきモリドーがやってきたところから現れたユーリだった。
何とか動かせる左手でPL-15ハンドガンを握って必死に悪あがきをしていた。
体中、穴だらけ、切り傷だらけで血まみれ、バイザーも、もう、元の役割を果たしていない、そんな状態で悪あがきをしていたのだ。
「まだ生きているんですか?冗談でしょう?」
さすがの生命力のしぶとさに、モリドーも邪魔された怒りより、あんな状態でも生きているユーリの姿に引いている感情の方が勝ってしまった。
「信じられない生命力ですね。どうやら、あなたは入念に殺さないと死なないようですね。だから、今度死んでください」
触手の刃が、ユーリの方に向く。今度は首を刎ねるつもりなんだろう。
銀色の線が振り下ろされる直前────
「はぁああああっっ!!」
さっと、空中から花火のような派手な音と共に蒼色の炎が天井を突き破られる。
「ぎゃっ!?」
そして、ナルシスが天井の衝撃にあっけなく吹き飛ばされた。
「?」
吹き飛んでいく、ナルシスがモリドーの視界に映り、攻撃の手をいったん止める。そして視線が崩落した天井を映しだす。
「なにが……?」
モリドーは人生の中で最も不思議な光景を目にした。
天井は崩落して、大きな穴が開いているのは降り注ぐ月の光で何となくわかる。
でも、天井が崩落した時に一緒に落ちるはずの瓦礫が見当たらない。
天井と床が黒く焼けて…違う、床も突き抜けて大きな穴が開いているのだ。
「穴?どうして?」
だから、本来床に散らばるはずの瓦礫はその大きな、穴の中に吸い込まれて消えていたということか。
どこかの馬鹿が迫撃砲か爆弾でも間違えてここに着弾させたのだろう、運がいい男だ。
たまたま、落ちた爆弾のおかげで命を取り留めるなんて….
「クソがっ!!」
ナルシスが怒号をあげて、吹き飛ばされたときにぶつかった壁を蹴飛ばして怒鳴り声をあげる。
ほら、やっぱりだ。たまたま運が良く、死ぬまでの時間が先延ばしされただけなんだ。
ユーリもさっきまでモリドーとほぼ同じ事を考えていた、”蒼い色”をしていたのは不思議ではあったが、それでも自分の運命先延ばしにしかすぎないであろうことを。
ちらり、フォトンたちを見た。残酷だが、長くは持たない。
攻めるときの自分なら間違いなくそう思う。
「……ちょっと予想外のことが起きましたが、結果は同じのようです。どれだけあがいても…あなた達の行動はすべて無駄なんです。ねえ?姉さん?」
モリドーの醜悪な笑顔がグリフィンとマハリアンに向けられてじわじわと責めるのを楽しみにしているかの如く意地汚く笑う。
ナルシスは、激情と醜悪な笑顔が入り混じった生理的に受け付けられないような邪悪な表情を見せている。
「アハハ!お姉さま!私いいこと考えた!!コイツら人形たちはばらばらにする!!指から一本一本切り裂いて────それからそれから!」
ゲラゲラと笑うナルシスはこれから一人一人が苦痛にあえいで死ぬ様を想像して楽し気に爆笑していた。
「まあ、あなたも頑張ったし。グリフィンは好きに殺していいですよ」
「いひひぃぇあ!!」
モリドーの許可にナルシスはさらに笑い声を強めた。
今にでも、浮遊するナイフが飛び出してきそうだ。
────これで、終わりなのか。
今に至るまでの道のりが一瞬にして過ぎ去っていく。
いろいろな苦労をしてその結果がただの時間稼ぎが最後…よくある雑兵のような最後が自分の最後か…褒められるような人生でもないので、あっさりと受け入れられた反面、彼女たちの役にもう少し立てたのではないか、と後悔に似た思いも湧き上がってくる。
「────死に損ない。これで、今度こそ終わりです」
銀色の線ををユーリの首元に飛ばしたそうとした、その瞬間────線は一瞬でチリになり、消失した。
「────?」
チリになったことも驚いていたが、モリドーがすぐに別の違和感に心を奪われた。
「なぜだかとても熱い」と、燃やされた家屋の中で閉じ込められているかのように熱い、熱いだけではない息するのにも労力がかかるように重苦しく感じる。
「熱っ……なに、この息苦しさ?」
直ぐにモリドーは周りを見回した、きっとこれから自分の目にはなにも燃えるようなものは何も映らない、単なる気の迷いだと、
────窓の景色が見えた瞬間、それは気の迷いでないことを理解した。
「なに…?燃えているの?」
モリドーの視界に映った窓の景色はごうごう、と容赦なく燃えている炎だった。
それも、オレンジ色に燃えるような普通のモノでは決してなく────
普通では、決して見る事ではないような蒼色の炎だった。
「こ、これは…」
「なんだ……?」
モリドー達はもちろんユーリ、そしてフォトンたちもこの状況を理解できない。
頭を混乱させえていると突然、鈍い音がして建物全体が大きく揺れた。
揺れは直ぐに収まったものの、今度はさっきの床を突き破った穴から、眩くばかりの美しい蒼色の光が漏れ出している。
「────」
光がどんどん強くなり、建物を照らしていき…’それ’は現れた。
色がはっきりしすぎて、むしろ堂々と輝いて見える漆黒の四肢、そして四肢に沿うように美しく光り輝く蒼色のライン。
そして、その光に勝るほど麗しく輝きながら、優雅にはためくクリアブルーの長髪、その頭部にはドラゴンの角のような鋭角上のアンテナ。
「……」
人間より美しく見えて、人形より精巧に見える。
敢えて表現するのなら…人間にも人形にも両方に利用できる、乙女が正しいのかもしれない。
その、誰もが心当たりがない未知の”乙女がユーリの目の前で上昇を止めると、巨大なドラゴンのようなシルエットをした翼を広げた。
その姿はあたかも、神が絶望した人間に施した救済が人の形をしていたようにも似て見える。
誰もが唖然として、"それ"見つめていたその時、くるりとユーリに向き直った。
その顔は美しい姿に似合わず、少しだけ焦りが混じっていたがユーリの姿がその瞳に映ると、その焦りが見間違いだったかのように優しく、輝くような微笑みを浮かべた。
そして自分に向けられた────
────彼女は誰だ?
いや、自分は知っているハズ。
いいや、あんな女を自分は見たことがない。
「ユーリ……」
でも、彼女は自分を知っている。
なぜ知っている?自分は初めて会った女の筈だ。
あんなに美しい女を見たのは初めてだ。
でも、彼女をみると懐かしい感じと宝物を取り戻したような高揚感を覚える、でもこの感情を与えてくれるのは……
そして、彼女、と、目が、合って、さっきまで、の、思考が、すべて、停止。した。
今の、思考、が、逃避、が、すべて、嘘、だ、と、理解、してしまった、
彼女の瞳が、ユーリを捉えて、
「やっと会えたね」と、
その声にユーリは、確信した。
「自分はこいつを知っている」、と。
「き、君は……?」
ユーリは傷だらけの痛みすら忘れて言葉かけることすら本当に悩んだ。
本当にこれで間違いないのだろうかと何度も悩んだ。
それでも、今の頭の中が”間違いではない”と主張し続けているので、言葉をつづりだすことしか、出来なかった。
「き、君は……?もしかして────え、M4?なのか?」
「ええ、そのとおりよ。やっと、また会えたわね。ユーリ」
その言葉を受け取ったM4A1は本当にうれしそうだった。
────
───
長い回り道、長いお使い、長い戦い、長い思い出……それらを経て、ようやくM4A1はユーリに再開した。
そして、やっぱり戦っていた。
目の前のコイツらは蹴散らすとして、ここまで変わってしまった私を一目で理解してくれるなんて、流石私のユーリ。
この一瞬だけでも帰ってきた甲斐があったというもの、さて彼になんて言い出せばいいかしら?
「ショータイム?」「マスディレクション?」それとも……
「……がっ!」
「────!?ユーリっ!!」
感動の再会も束の間、モリドーに切り裂かれた裂傷の傷からまたユーリの身体は血を吹き出した。
M4A1は理解した、彼は重症だと。
そして、その重症を負わせたのは……
「おやおや、また増えましたか。まさか、空から来るなんてコンテナにでも詰め込まれていたんですか?」
「んだよ?アタシを睨みやがって……?なんか、気に入らなぇのか?デクの棒さんよぉ!!」
M4A1はナルシスとモリドーを睨みつけた。
モリドーは余裕げに笑い、ナルシスは怒鳴った威嚇をする。
「────この分は高く付くわよ」
「高く付くのテメェの無鉄砲さだよ!!細切れになれ!デクの棒!」
すぐナルシスは邪魔者と認識したM4A1を始末しようと、
銀色の線と見間違うほど早い速度で動き回る触手と敵を切り刻み、突き刺すことを役目とした銀色の刃物を飛ばした。
アレは誰であっても"死の線"と呼べるような一瞬の速さで飛んでくる狂気だ。
1人増えたくらいでは解決できない。
それがここにいる全員の結論だった────その、はずだった。
なぜ、だったなのか、その理由は対して難しくない。
M4A1はその死の線────
「────シッ!」
振り向きざまに銃で一振り、その一動作だけで、死の線はいとも簡単に払いのけられてしまった。
「ハ────?」
誰もがこの光景に驚愕を覚えた。ナルシスもだ。
銀の線が消えただけじゃない、彼女から放たれた銃弾と思わしきものは蒼色の軌道を描き、まるでオーロラが放たれているが、それはあまり気にされていない。
大事なのは確信していたこと全てがそうではなくなったことだ。
「……くだらないオモチャね」
それを苦もなくやり遂げだM4A1は2人を見る事なく、ユーリの姿を一瞥していた。
「……っ」
「ユーリ────」
身体中から血を流して苦しそうに息をしていた。
そもそも、M4A1焦った。今理解した。彼の怪我は重い。
遊んでいる時間はない、短期決戦をしなければならないと。
「すぐに片付ける!もう少しだけ、持ち堪えて」
「片付ける?あはは!お姉様!片付けるだって!────片付けられるのはなぁ!テメェじゃねぇのかヨォ!」
雑魚と思われたナルシスは怒鳴りながらまた銀の線を飛ばす。
「そもそも、飛んでるんじゃねェ!アタシのパクリをしてんじゃねェ!」
ナルシスが威嚇しているのは、原理こそ不明だが、ナルシスと同じようにM4A1が空中に浮いていることだった。
それが、自分の、パラデウスの唯一無二だったことを汚されたように見えて、ナルシスは激昂していた。
M4A1はその線を今度は避ける。しかも、ナルシスが認識するよりも速い速度で接近して目の前にいた。
「────パクリ?冗談きついわね」
「は?……え?」
ナルシスは視界がぐるぐると回っている。
何が起きた?何をした?!
「頂くわ」
────何が起きた?M4が振り回したライフルが首を吹き飛ばした、それだけ。
頭がなくなった胴体は電池が切れたように崩れ落ちる。
「喰らえ」
M4A1はライフルを構えて引き金を引き絞る。
弾丸は激しい蒼い炎を上げながら、ナルシスの胴体に飛んでいき、命中すると砲弾のような激しい爆発を巻き上げ1発でナルシスの全身を黒焦げにした。
「────」
誰もが声を上げられなかった、とんでもない速度で自分達を絶望させていたナルシスがM4A1の手で一瞬で倒された。
それをやり遂げたM4A1はただ、次の獲物をモリドー切り替えていた。
「次はお前よ、FLAG弾を使わざるえなかった前と同じだと思わないことね?」
「FLAG弾?なぜ、M4A1とのことをあなたが?────ふふっ……ふふふっ……!」
それをモリドーが食らったのは人生で一度きりだ。
そして、なぜそれを知っているのか?それを疑問に思った瞬間、すぐにモリドーは目の前の女が誰なのかを理解した。
「なるほど、そういうことでしたか。まさか、素体を変えていたんですね?M4A1。けれど、素体を変えただけでまさか、ナルシスをあんなにあっけなく倒すとは……ふふ、それでこそ、私が狙った人形────」
さっきまでM4A1が立っていた地面が爆音と地鳴りが響き渡るともに土煙が上がり、ナルシスの時と同じように接近する。
「────ふふ」
ナルシスと同じように振り回されたライフルをモリドーは全ての脚を使って受け止めた。
「相変わらず隙を見つけたら躊躇いなく襲いかかりますね……!相変わらず、抜け目がないただ────こ、これは……!なかなか……!凄まじい、ものですわ……!?」
散々グリフィンを見下していたモリドーでも、簡単に受け止められるなんて思っておらず全力で受け止めにかかった。
だが、ユーリですら一本一本の脚を増やして遊ばれていたあの強靭な脚で全力を尽くしてもなおモリドーには信じられないほどの痛みが全身に響き渡る。
「けれど、受け止めました……!このまま、そのライフルを壊して上げましょう!」
モリドーの脚がライフルを締め上げていく、鉄骨すら容易くへし折れる握力のある脚……その4本でへし折りにかかる。
素体ではない、あのライフルだ。あのライフルが自分達をあっさり倒してしまいかねない脅威なのだ。
この武器を壊せればもっと熾烈な戦いができる、モリドーはこれからの未来を楽しみにしたが。
「……そんなものなの?」
M4A1からはつまらなそうな声、M4A1はライフルを片手だけに持ちかえ、空いた左腕でモリドーの脚を掴む。
「────!!??」
モリドーは驚愕を覚えた、ライフルを捨てるような真似に見えたからではない、M4A1は自分を容易く自分を掴み上げていたのだ。
「────!?」
人形達もまた、声を失う衝撃を覚えた。
信じられないパワーを持つモリドーをまるで赤子のように掴み上げる光景を前に何を考えたらいいのかすら思いつかない。
「そぉれ!!」
M4A1はモリドーを持ち上げながら、飛び上がる。
そして、そのまま突き進み、壁に叩きつけたのだ。
「────っあ!?」
モリドーは激しい衝撃でつい、ライフルに仕掛けた拘束が緩んでしまう。
M4A1は緩んでいるうちにライフルを引き抜くと、少し後ろに下がりモリドーに銃口を向けた。
「終わりよ」
「なっ────」
M4A1のライフルが蒼い光を放つ。
爆音が聞こえた後に出来上がったのは、モリドーが立っていた壁が呆気なく吹き飛ばされた光景だ。
「なんて……ちからなの……!」
モリドーはギリギリでM4の銃弾を避けていた。
そうでなければ、あの壁と同じように弾け飛んだに違いない。
「……本気を出さないといけませんね」
モリドーは理解した。
M4A1はもう、遊びで済ませられる相手ではない。
生き残るために全力で戦うしかないと。
「くらえっ!」
モリドーは脚を突き出す、M4も同じように突き出す。
しかし、空中でのお互いの攻撃が外れて、通り過ぎる。
「────」
「……」
モリドーとM4A1が振り向きお互いを見る。
モリドーが脚を上の通路や壁に突き刺して上に上がる。
M4A1も機械の羽を広げて飛翔し、追いかける。
「────!」
「……!!」
上昇しながら数度モリドーとM4A1がぶつかりあい、壁に叩きつけようと放った蹴りをギリギリ、モリドーは上に上昇して避ける。
「今なら!」
そして、モリドーは4本の脚全てを使ってM4A1に叩きつけた。
「っ…」
「だぁああ!」
モリドーがM4に追撃をしようと降りかかってきた。
「……」
地面に叩きつけられる直前、M4A1がふわりと軽やかな動きで浮き上がり、立つ姿勢に戻ると、そのまま後ろに下がることで追撃を回避。
「フッ」
そして、M4A1はモリドーに発砲。
蒼い光を纏う銃弾がモリドーに飛んでくる。
「────うっ!?うううっ!?」
モリドーは4本の脚を使ってガードした。
炎の銃弾は凄まじい威力で、モリドーは身動きが取れない。
「────ウッ!?」
だが、それで終わらせるM4A1ではない。
身動きが取れないモリドーにM4は飛びかかり、0.1秒もしない速度でモリドーの髪を掴むと空中に持ち上げ、思いっきり振り回して地面に叩きつけた。
「────がっ!?」
「仕留めるわ」
M4A1はすでに満身創痍となったモリドの髪を掴みながら空いたもう片方の手で握り拳を作る。
拳から炎が燃え上がる。その炎はM4A1の銃弾の炎と同じ色の青白い色をしていた。
「まさかっ……あの炎はっ……!?」
「終わりよ」
モリドーは勘違いしていた。M4A1の放つ蒼い炎の銃弾はライフルが作ったものじゃない、M4A1自身が作り上げた炎だったことを理解した。
そして、拳が振り下ろされる。モリドーの腹にめり込んだ炎は勢いよく燃え上がり爆発しただ。
「う……が……」
完全破壊は免れたが、もう戦闘不能で至る所から血を吹いていた。
モリドーはまだ諦めまいとM4A1を睨みつけていたが……限界を迎え、目を閉じてしまった。
あっという間の出来事だった。
出来事が終わった後には、あちこちの壁や構造物や階段が前とは違う形になっていた。
何も知らない人間が見たら、これを戦車の砲撃と勘違いしただろう 。
とても5.56ミリの弾丸から放たれた一撃とは想像もできない。
ましてや銃弾によって、これだけの威力が出るなんて誰も想像できない。
まるで、アニメや映画で見られるようなフィクションが現実から飛び出してきたかのようだ。
「……敵は見えない。これでクリアね」
M4A1は辺りを見回してもう、敵がいない事を確かめるとライフルの銃口を下げた。
「────くそっ!ようやく間に合った!わりい、遅れてマジでスマン!これから、」
「もう、大丈夫よ」
ようやく、時間通りにR5達と工作員たちがたどり着いた。
「あとは任せろ」、そう言いかけた彼らはすでに終わっている戦場に言葉を失った。
彼らも行くたびの修羅場を乗り越えてきたベテランだった。それでも、彼女らの目に映った"それ"はあまりにも異質な光景だった。
蒼色の煙のような匂いがする粒子が一帯を支配しており、そこら中におびただしい、クロイハナが咲いて、あちこちに、へばり、付いていた。
「ああ。来たのね」
"それ"の光景のど真ん中にいた蒼い光を纏うM4A1はパールのような美しい瞳でR5達を一瞥した。
彼女たちはその蒼色の乙女のことをM4A1であることはまだ知らない。
「お前が……やったのか?」
「ええ、ミッションリーダー。私がやったわ」
工作員のリーダーの質問にM4A1は肯定する。
「お前は……誰だ?」
「そうね、自己紹介が遅れたわ……私は」
<お前の説明は私からしよう、お前はユーリを>
通信に間に合わせるようにアドミニストレーターがリーダー達に連絡を入れた。
M4A1はアドミニストレーターに自分の説明は任せて、ユーリの元に降り立った。
「ユーリ……」
M4A1は傷を確認する。
……裂傷がひどい、モリドーにやられたのだろう。
下手に動かしたら本当に致命傷になる、そんな傷だ。
「あ、アレが…M4…?」
ボロボロになりながらもグリフィンの全員が思っていたことをようやくROが口にした。
そもそも、容姿が明らかに自分たちの知っているものとはかけ離れていた。
────本来、もしくは以前のM4A1の見た目は高校生くらいの"少女"に近いものだった。髪の色だって、清潔なイメージを漂わせる黒髪だった。このM4A1の髪の色はその黒髪ではなく、透き通らんばかりのエメラルドグリーンとクリアブルーを混ぜ合わせたような蒼色の髪色をしていた。
身長だって違う、以前は高校生くらいの身の丈をしていた。
ところが目の前にいる「M4A1」は2メートル近い細長い身長をしていた。
他にも、均衡のとれた体つき、おまけに甘い匂いがしそうな魅力的な顔。
とても、その姿は10代の少女に見えず、大人の"女"という表現をしたほうがしっくりくる。
よく、ユーリはそんな彼女をM4A1だと思えたものだ。
「……あの」
本当にM4なのか?付き合いの長いAR小隊でも、疑問に思わざるえない。
STAR-15がボロボロの身体で「M4A1」に話しかける。
「AR-15……あなたもひどい傷ね。私のことをいろいろ、聞きたいだろうけど……まずは応急処置をしましょう。彼も助けたいし……あなただって」
「────っ!」
「しっかり...ひどくやられたようね」
M4はすぐさま痛みに呻くユーリの傷口を手で押さえて、慣れた手つきで治療を始めた。
「ひどい出血…止血帯じゃあ間に合わない。確か…このあたりに、鱗をすりつぶして塗りたくった薬が────ー
M4A1が傷の状態をみて、すぐに処置をしなければならないと判断した。
声こそ落ち着いているものの、内心彼女は焦っている。
空中で何かをまさぐる様に手を動かすと、なにかを見つけたように、手を止めた。
「あった……これこれ」
そして、引き出すようなジェッスチャーをすると、彼女の手に水色の粒子のような光が集まりだし、オレンジ色のビニール袋が現れた。
M4はそれをすぐさま、掴む。
「…!」
空いた片手で止血剤を口まで持っていき包装していたビニール袋を口でびりっと音を立てながら歯を使って破ると、ザラザラとしたサメ肌にも見える止血剤が現れた。
「我慢しててね……」
そして、その止血剤を多少強引に傷口に押し込んだ。
「…痛っ!?ああっ…クソ…胸なら、痛みが小さいと思ったのに」
貫かれた箇所に止血用の布を差し込まれた彼の痛みは想像に難くない。
「ジョークのつもり?」
「…分かる?」
治療の最中だというのに年季の入った、夫婦のような会話が流れる。
どれだけ、姿形を変えても彼らの想いは変わらないのだ、目を合わせた瞬間、誰だか理解できるくらいには彼らの絆は強い。
「……全く、本音かと思った。やっぱりあなたのジョークは致命的な下手さだったけどね」
「ハハ…もっと勉強しないいけないね」
M4A1は励ますために穏やかだが、親しげな口調で話しかける。
それでも、M4A1は治療の速度は落ちない。
「随分、見た目が変わったね……」
「ええ、イメチェンしたのよ」
「……いい事だ。明るい君も可愛いし、おまけにとっても綺麗になった」
「全く…褒めても痛みは治らないわよ?」
ユーリに「綺麗だ」と褒められたM4は啞然に取られて、ほんの少しの間だけまるで魂が抜き取れたような表情に変わり、元の美麗な表情に切り替わった。
褒められると思考が停止してしまう、以前のM4と同じだ。
当然な事ではあるけど。M4のすべてが変わったわけじゃないと改めて認識した。
「あとは貴方の身体が持ち堪えてくれれば……そうよ、ほら……」
出血が止まり出した、薬が傷を一時的に塞いだからだ。
応急処置の止血剤が効いている。
「……よし、峠は越えたわね。応急処置は今はこれくらいにしましょう」
バイタルを確認して、M4A1はセーフハウスまで確実に持ちそうだと判断できた。
ユーリの顔を見てみると、ユーリも笑っている。
その顔は内心とっても嬉しそうに見える。
「これで、一応良し…と。ふ、飛ばしたかいがあったわ」
「飛ばした?」
もう血だまりが広がっていない。
あの止血剤の効果はかなりの極上品なのかもしれない。
「こっちの話。あとは保険を掛けて……と」
そしてなにか、気になる発言を残したM4A1だが、自分の意識はM4の手から発せられる紫色に輝く粒子に持っていかれる。
「あの、M4…」
「んー?」
ユーリが"M4"と言いかけた刹那、彼女から無言の圧力をかけられた。
その圧力も殺気というより不満げで拗ねたような感覚を覚える。
「…あ、いや…レイラ」
「ふふ、よろしい」
ユーリが言い直すと、M4A1は満足げにほほ笑んだ。
戦術人形M4A1には銃と同じ名前の"M4A1"という名前以外にもユーリから名付けてもらった"レイラ"という名前があった。
不満げなのはいつまで経ってもその名前で読んでくれないことに対する不満からだった。
「新しい薬よ。じっとなさい」
M4が傷口にすっと、軟膏をを塗る様に人差し指でユーリの傷口に紫色の粒子を塗りたくる。
ユーリは困惑しながらも塗りたくられる傷口を見つめる事しかできない。
「あれ?痛みが引いてる。血も出てない。これ、は?」
不思議なことに塗りたくられたところからどんどん痛みが引いていくし、傷口を見るとひとりでに傷跡が塞がっているように見える。
「後でね」
自分ではとても説明をつけられない事態に説明をもらいたかったけど笑顔ではぐらかされてしまった。
「じゃあ、次はグリフィンのあなた達ね。動けない訳じゃないんでしょうけど、そのままじゃあ辛いでしょう────」
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「立てる?」
「やってみる…」
M4A1のよる人形達の応急的な修復も終わった。
確認のために、M4A1は手を差し出して、立ち上がれるか確認する。
SOPⅡがM4A1の手を握り、ぐっと、腰に力を入れる。
あちこち身体が悲鳴を上げたが、その悲鳴は止血の時こそ、ひどくない。
「…立てた。たぶん、歩けるよ」
「上々、倒れそうになったら言って。助けるから…それで、アナタがマハリアン…ね」
応急処置も修復も終わりM4の視線がマハリアンに移った。
なにか、言いたそうな。なにか、1人で納得している視線でマハリアンを見つめた。
「…はい。あの、私に…何か?」
マハリアンは怯えながら、M4の方を見る。
その瞳からは、当然というかなんというか、恐怖心があふれていた。
あの圧倒的な力を見て仕舞えばそう思うかもしれない。
「大したことじゃないわ」
「ほ、ほんとう。ですか?」
あっけらかんと告げられる感想を聞き。
その言葉にマハリアンは今度は彼女に「殺される」という恐怖心を抱いた。
「……本当は私のこと殺したりするんですか?」
その怯えた様子に対してM4は納得こそしたものの、特に気にした様子もなく、彼女の質問に答えるために口を開く。
「安心して。君が被害者なのは知ってるわ。でも、あなたがそう怯えるという事はモリドーに騙された誰かがあなた達に悪い事をあれこれ吹き込まれたりしたんでしょうね」
よくそこまで思いつくものだ。
「第一、雰囲気も違うし誰が見ても一発でモリドーとあなたの違いが分かりそうなんだけどねえ」
M4A1はそれはお前が言っていいのかという発言をあっけらかんと答えた。
けれど、その言葉に安堵したのか、マハリアンはほっと胸を撫で下ろす。
安心できるのか、出来ないのか、それは少し分からないが……とりあえず、M4A1はモリドー=マハリアンではないという事実は知っていてくれたらしい。
「そうです、か」
「納得してくれたようね。それと……
マハリアンが安堵した表情を見せたのを見ると、M4A1は今までの仲間たち、AR小隊の方にようやく視線を向けた。
「遅れてごめんね。……それと、ただいま」