「M4A1、あなたを母と呼ぶ……あなたに似ている人形はなんなの?」
治療の経過を話している、M4A1とその娘をなのる"エンペラー"。
その2人に対して、警戒した視線で問いかけてきた、
「おやおや、結構警戒されてしまったものだ。私は私さ!誇り高き"レイラ"
お母様の娘が1人!"エンペラー"さ!」
エンペラーは腕を組み、警戒するUMP45に自信満々な自己紹介をした、
「レイラ……?」
「お前達だとM4A1だったかな?」
「ああ、そう。けど、私……いえ、みんなM4A1に娘がいるなんて聞いたことがないわ」
彼女が希望通り自己紹介しても、UMP45……いや、全員がエンペラーを警戒していた。
警戒するのは当然だ、M4A1に「娘」がいたなんて聞いたことがない。
「M4、何があったの?」
「……そうね、私から説明するわ」
ところで工作員の皆さん、あの方からは私の事情はどこまで教えてもらっているの?」
「どこまでって……。お前があの方の信用を得ている以上は何も……ユーリの方が詳しいのではないか?お前のことを知っていたらしいしな」
「でしょうね。けれど、ユーリですら……私がユーリと一緒の組織に入ったくらいしか知らないでしょう」
「なら、どうやってユーリさんはあなたのことを理解したんですか?」
見た目の意味ではもっともな疑問を口にしたUMP45だが、それを聞いたエンペラーは笑ってしまった。
「何がおかしいの」
「いやはや、そんなの決まりきっているからだろう?ですよね?母上?」
「ええ……きっと、私のことを理解しても分かってくれたのは……"愛"ね」
「愛!?」
UMP9の声が裏返った。
驚くのを放置して、パチンとM4が指を鳴らすと、また青色の粒子が現れボードみたいな形になると、色がついたようにボードみたいな形の粒子がホワイトボードに変わる。
あ、このモノが蒼色の粒子と一緒に現れる説明も聞かないといけないのを忘れてた。
「まず初めに、私は潜水艦で一度離れていた時にユーリ達が所属している組織のトップ……いや、支部代表かな?その人に面接を受けたの、簡単に言えばスカウトね。そこで働かないかって」
「はぁっ?」
AR-15は素っ頓狂に怒ったような声をあげた。
確かにAR小隊がM4から聞いた内容はアドミニストレーター、というユーリ達に指示を出す存在に直接会うという話しか知らないはず、騙されたか、洗脳されたか、いろいろな妄想が働いてしまっているに違いない。
「私が組織のスカウトを受け入れたのは周知の事実だったと思ってたけど、まあ仕方ないか。人形が秘密を隠し通せる確率なんてにたかが知れてるし、秘密にした方がリスク回避にもなるし……」
M4は今にも飛んできそうな、AR-15の文句の原因を一人で納得しながら、AR-15が噛みつくよりも前にM4は話を進めていく。
「私はその誘いを承諾して、そこでその組織の人員にふさわしい人員になるための訓練を受けたわ……まぁ、ここまでは工作員の誰かは知ってるでしょ?」
「あぁ、任務をもらったとも聞いた」
それは直接あの方から聞いた、それも中々の速さで。
元々、M4は自覚はなかったのだろうが、アドミニストレーターの側に行ける素質はあったらしい。
あの方がM4にしかできない任務なんてものを割り当てるほどに。
「そして、その組織に任務をもらった」
「その任務とは?」
「信じてくれるかしら……なんともらった任務は異世界の探索……よ」
「ふざけてるんですか?」
RO635が冗談を言われたと思って強めな姿勢で問いかけてきた。
もちろん、M4A1は嘘を言っていない、そしてチームリーダーも心当たりのありそうな反応をした。
「だが、M4の発言も嘘をつけたと決めつけられない。ついていたら、あの炎のようなことは出来なかったはず。それに人形は嘘をつけない」
「それは……」は言い返す言葉にRO635は困った。
モリドーを叩き潰した時のアレを出来る技術はこの世界に存在していないと思えたから。
「私はあの方からこの地球には存在しない場所の探索を命じられたの、資源を見つけてほしいってね」
この場にいる誰もが、「こいつは妄想を吐いているんじゃないか?」と言いたいに違いあるまい。
でも、M4は嘘や妄言ではなく、詳らかに事実を語っているんだろう。
淡々と経緯は説明する話は続いていく。
「そこから、仕事をもらって意気込んだのはいいけど……たどり着いた先の世界で襲撃されてしまってね。そして、その敵がとんでもなく強いからボロボロになっちゃてね。情けないことに現地の世界の人たちに助けてもらった上、新しい素体を使ってもらったの」
「それで作られたのが、今のM4の身体なのか」
「その通りよ」
なるほど、フォトンは一旦M4A1の見た目が変わっている理由について理解した。
前と比べて、容姿が大きく変わった理由はM4が話していた”異世界”とやらと取引をして提供してもらった素体に交換していたのが理由だったのか。
本当に異世界というものがあるのかないのか、定かではないとはいえど、素体が異世界の技術はどれほどのものなのだろう。
「私はこの身体になって、あの世界で5年半ほど、お世話になったわ」
「”5年半”?」
ダンデライオンはありえない話聞くように、5年半というワードを切り出した。
ダンデライオンの懸念は間違ってない、M4のいなくなった期間は数か月だ。年単位もいなくなったわではない。
「……この話題も話さないとね」
M4は「忘れていた」なんて、顔を浮かべて、ペンを取り出すと後ろのホワイトボードに……いや、ちゃんと最初から時系列で分かりやすく書いてある。
マメな性格はちゃんと維持されているらしい。
M4はホワイトボードのまだ余裕のある空欄に地球マークを2つ書いて、その隣に時計を書いていた。
「実はね……世界毎に時間の流れが違うの。端末だって、通信環境やテータの要領で更新速度が変わったりするでしょ?そういうことが、異世界同士で当たり前に起きてるの。でも、時間の流れのズレの心配はしなくていいわよ?こっちとアッチの世界の時間の流れを同じにできるようにしてあるからあっちの30分がこっちの1日なんて言う現象も起きないわ」
時間の流れが違う、M4は確かにそう言った。
それで、5年半は彼女の言う異世界に滞在していた。なら、あっちは今、どのくらいの時間が経過しているのかと、思ったがもう対策を立てているため、心配する必要はないらしい。
「なんで、時間のうんたらは分かったけどどうして5年半もお世話になるわけ?」
確かにそこは突っ込まれるだろう。
「私を助けてくれた人達も元の世界に戻すために手を尽くしてくれたんだけど……ある日、襲撃を受けた」
「誰に?」
「私が異世界に到着してきたあの穢らわしい奴ら……私たちはそれを"フリッパー"って呼んでいる」
「フリッパー?」
M4A1は忌々しげにフリッパーという単語を切り出した。
聞いたことない単語はSOPⅡに首を傾げさせた。
「異世界から異世界に渡って無差別に襲いかかる、侵略者達よ。彼らは観測した世界を"名誉"とか"旅路"とかご丁寧な名前をつけて、侵略した命を根こそぎ皆殺しにする、誰の例外もなく、遊びのように殺して……!!私たちはそんな奴らに目をつけられた世界に飛び込んでしまった」
「フリッパーは自由気ままに人殺しや建物を燃やして喜ぶような侵略者の外道どもだ、奴らは根絶やしにするまで殺しを楽しむが根絶やしにされるべきは奴らだ」
M4A1が憎しみが宿った瞳で淡々と語りだす。
そして同じものをエンペラーも宿し、彼らを憎んでいるように見える。
「……フリッパーの侵攻という非常事態に私たちは世界の帰還を先送りにされた。そして、元に戻れる時になったら……あっという間にあの世界で5年半が経ってた」
「我々が生まれたのもその時だ。母上が少しでもフリッパーに対抗できるよう自分の技術を全て私たちの世界に明け渡してくれたのだ」
「な、なんですって!?」
ROが裏返った声を上げた。
そして、だがそれはRO以外が驚いていないという意味ではない。
これは戦術人形全ての情報漏洩が行われていた事実であるからで、その事実の重大さに誰も声も出なかったのだ。
「M4!あ、あなたは何をしたか分かってるんですか!?」
「私だって、1日、2日で決めたわけじゃないわよ。けれど……彼らにはどんな戦力でも抵抗する必要していて、私はそれがあるのに黙っているなんてとても出来なかった。……あなた達はあのフリッパーの残虐さや悍ましさを知らないのよ……」
しでかした事を理解しながらも、どうしても必要な事だと悔しそうに語るM4A1。
あの悔しそうなM4A1の記憶の中にはどれほど悲惨なことがあったのだろうか。
「母上が私たちを産むためのメンタルデータの知識と人形がどのような仕組みになるかその情報を全てを差し出してくれた事で私たちが生まれることができた。……そう、母上の次の世代としてな」
「なるほど、このエンペラーってやつがM4をは母親呼ばわりした理由がわかったわ」
HK416が納得したように頷く。
このエンペラーというのはM4A1の素体ベースの情報を元に開発された次世代、もしくは量産型というわけか。
「それで?それに見合った戦果はあったの?」
「もちろん。我々人と生き物と私たち機械が一丸になって抵抗したことで奴らを退けることができた。母様のお陰で我々は勝ち、より多くの命が生き延びた。君たちにとっては目くじら立てる事なのだろうが、お前達の数よりも多くの者が母様に感謝している」
そして、エンペラーは皮肉げに聞いてきたダンデライオンを睨みつけた。
「けれど、驚くことだな。ただでさえ、世界の人間が一丸になって戦うのがまるで御伽噺な話なのに、動物まで共に肩を並べるとは」
「もともとあの世界は動物と人間がかなり密接な共生関係で成り立っていたの、それにあなた達の知る動物とは似たところもあるけど、かなり違いがある」
気づけばホワイトボードの数が増えて、M4A1が書き加えている。
また、あの蒼い粒子で呼び出したんだろう。
「とにかく自然環境が厳しい世界だったわ。その厳しい環境を生き残るために、動物と人間がこの上なく共存して、発展しているそういう世界よ」
「動物と人間が一緒に?……でも、その動物って」
M4が腕を組んでまじめな表情で頷いた。とはいえ、M4がホワイトボードに書いている”動物”は……
「私たちの知ってる"動物"とは結構違うね」
”10万ボルトの雷を打ち出す!”
”8時間で一周可能!”
”食べ物はなんと宇宙のチリだけで十分!”
黄色いネズミに、丸っこい黄色いトカゲ、東洋のドラゴンみたいなやつ、明らかに自分たちが知っているような動物のそれとは思えない。
「所変われば品変わる、世界が変われば生き物が変わる。私も目を疑ったけど、でもこれが現実。人間たちは彼らと何万年以上前から人間と協力して生きてるの。きっと、協力し合える下地がなければ今でも国同士が歪みあったりで長々と戦争が続いていたでしょうね」
「大丈夫だったの?そこでも苦戦したなら、見るからに危ない世界に見えるんだけど」
「けど、追い払えた。国同士や宗教、教義の枠を超えて一丸になれたのは……色々要因はあったんでしょうけど。たぶん、ある戦いで誰にもできないって思われた逆転を決めて見せたからね。そこから、希望とか、負けん気とか、勝ち馬に乗ろうとか色々な思惑に突き動かされた結果、それがいいように作用したからなんでしょうね」
M4は淡々と語るが、その時の戦いの勝利は今でも衝撃的で鮮烈に記憶に残っている。
あの世界での辛さは自分の世界で受けた痛み、苦しみ、絶望の1000倍はくだらないが、それでもいい経験ができた。
「……辛いことは多かったけれど、得るものも沢山あった。その中で素晴らしいもののひとつが娘のあなた達を授かったことよ。エンペラー」
「私も貴女のような母から生まれたことを光栄に思っている」
窓を見ながら過去を語るM4はなにか、懐かしい思い出に思いをはせるようにも、別れを惜しんでいるようにも、見えて、とても複雑な表情をしていた。
「娘がどうやって出来たのとお前に何があったかは理解した。その娘が来た理由はなんだ?」
フォトンはまだ知りたいことがあった。
まさか、観光で寄越したわけでもあるまい。こんな忙しい時に。
「それは私が説明しなければなるまいな、よろしいか?」
「ええ」
エンペラーがM4に伺いM4は頷いた。
「我々の目的は君たちの世界に忍び込んだフリッパーを探し出す事だ」
「M4の話したフリッパーがこの世界に……?」
「ああ、我々が阻止したフリッパーの工作員が君たちの近いところにある君たちの世界で悪事を働いていてね。最近、"掃除"したのだが残党が君たちの世界に逃げ込んだかも知らない記録を見つけた。残党は活動を再開する可能性が高い」
「けど、この世界のどこに?まさか、ひとつひとつ国に忍び込んで探していくの?」
「アテはある。君たちの世界では最近、世界政府みたいな物が出来上がると情報を得ている、工作員は世界政府に潜り込んでいた。活動を再開するための再スタート地点にするならそこだろう」
世界政府?
UMP45はある心当たりが閃いたきっとロクサット主義のことだ。
だがあんな実現できそうにない物が?本当に実現されると信じているのか?
「……それってロクサット主義のこと?あんな馬鹿馬鹿しいのが?」
「君たちの認識では難しいと思われるロクサット主義というものも件の工作員が協力すれば出来上がる可能性がある。奴らにはノウハウがある」
「フリッパーには慈善家の側面もあるの?」
「ない。狙いは世界を一つにして纏った所を一気に攻め滅ぼして皆殺しにするのだろう」
エンペラーはさっきまでしょっちゅうわざとらしく抑揚をつけて話していたが、この時は真面目に淡々と話した。
何度も話し慣れているように、それは何度も起きたに違いなく、感覚で把握し始めていた全員がぞっとした。
フリッパーというのは本当に殺人や破壊に執着しているらしい。
「滅ぼすことができれば、工作員は失敗の帳消ししてもらえる。そして、滅ぼされた世界は、さらに多くの世界を滅ぼすために再利用される。それは我々には困るんだ」
「だから、阻止したいと?」
「ええ、あの方が組織にブレーメンに続いてこのベルリンに向かわせた理由もそれなのマハリアンの回収だけじゃなくてね」
M4の発言はアドミニストレーターの意図がどうしてベルリン向かわせたのかその答え合わせになった。
「私達にもそのスパイ探しをさせる?」
「いいえ、グリフィンにも協力してもらったのはこのマハリアンの件だけよ。フリッパーのスパイ探しは頼まないわ」
「無論、手助けしてくれるなら有難いが無理強いはしない。君たちに聞かれたから、我々も事情を知ってもらいたくて話しているだけなんだ。そもそも、言葉だけではこんなもの信じられない話だろう?」
エンペラー達もこの話が荒唐無稽に聞こえるのを承知で話している。
だが、どう思われようと本当のことだ。
「M4はどうなるの?グリフィンから、出ていくの?」
「そうね……グリフィンはまだ続けるわ。けれど、私はあの方から、課せられた仕事は別にあるし……あの方はこの子の手助けをすることにはこの世界に対してもメリットがあるから、手伝ってほしいと頼まれてね。暫く忙しくなるから、顔を見せるのは偶にになりそうだわ」
M4とエンペラーが一緒にいる理由はわかった。
……グリフィンも依頼された仕事に応じて指揮官が人形を選んで仕事をする会社だ。
M4A1が偶にしか顔を出さなくてもクルーガーがクビにするか、M4から出ていく限りは問題ではあるが、アリの手段ではある。
「エンペラーの犯人探しはいまからするのか?」
「始めるのはもう少し後になる。私がここにきたのは後続の為にこの世界の状況を把握する為だ。暫くは見学ついでに負傷者の後送やこの状況を落ち着つかせるなど、君たちの手伝いをするよ」
たぶん、手伝う中にはこの世界の情報を少しでも多く得るという意図もあるだろう。
いいさ、敵じゃないし。終わったら、素直に引き上げてもらうためにも好意は素直に受け取ろう。
M4A1のいう通り、M4以上に強力な奴なら味方になった方が安心できる。
「なら、ご好意に甘えるさ」
「フォトン指揮官、素直な所は君の長所だ。尊敬するよ」
「私達の関係はこのまま継続ね。それじゃあ、今度は私から質問。あなた達はこれからどうするの?」
今度は自分の番ということらしく、M4A1はフォトン達に質問を投げかける。
「マハリアンは……そうだな、死んだと報告してサーの指示を待つ…その前にマハリアン、君の意思を聞きたい」
「……私は、私の力が悪いことに使われたくないんです。私はロビンといたいけれど……それで、迷惑がかかるならレイラさんのところにいた方がいいかもしれないと思って」
「あら?私たちがあなたを利用して悪いことをしないなんて保証はできないわよ?」
M4は試すようにマハリアンに向かって露悪的な態度をとる。
「それは私の信じられないような予言を真剣に取り合ってくれて、命をかけてくれたあなたの恋人のユーリも悪くいうことではありませんか?」
「……はぁ、痛いことを言ってくるわね」
M4はやるじゃないかと笑う。まさか、ユーリが戻る期間が伸びた理由のひとつがマハリアンの予言だったとは。
「けど、私もユーリも世間一般じゃ善人じゃない。どっちかに分けるな
らば悪人の違いよ」
M4A1がユーリを愛している理由は善人や悪人が理由じゃなくて、私を知ろうとして、どんなことが明るみになろうとも私を変わらず私と思ってくれるからだ。
「それでも信じるの?悪いことに使われないって」
「……あなた方が命をかけることを私は信じます」
決意はちゃんとしているらしい。なら、無駄に引き渡されない理由を作る理由もない。
「ならいいわ。フォトンはどうしていいと認めたの?サーも欲しがってるわじゃない?」
「俺だって不安だが…正直、俺は今のサーを信用しにくくなってる」
フォトンは辺りを見回す。カメラやマイクがないか気にしているらしい。
「事前にモーテルはダミーの話を流すマイクにすり替えしている。シュタージにはバレない。つまり、ここは安全だ。続けたまえ」
「よし、ならテレビをつけてくれ」
M4は顎でQBZ-191に命令し、やれやれとした表情を浮かべながらQBZ-191はリモコンを押した。
「どれもよくあるニュースばかりだな。芸能、政治、地元の話……この数日、目の覆いたくなるテロやバイオハザードが起きたばかりだっていうのに?どうして取り上げない?ポーン村は隠すかもしれないが隔離壁は?政府も隠すより逃さないといけないだろ?一層警戒を命令するべきじゃないか?」
「噂だが、難民エリアで警察の大規模摘発があったとも聞く」
QBZ-191は"職場"で話題になっていた噂話を思い出す。
「ああ、警察の人形が俺たちやアンジェリア、見境なしに襲いかかった」
「なら、そこで難民もたくさん撃たれたというのも」
「本当だ」
「そこは噂であってほしかったな……」
参ったと頭を掻くのはQBZ-191だけではない、さっきの警察の件もある、彼は不自然なほどいつもスムーズに根回しする。そんな奴が根回しを忘れたなんてあるのか?
「誰が味方かも分からないわね。それかシュタージに裏切り者がいないとも……限らない」
M4A1はQBZ-191を見た。
彼女はまたやれやれと首を振る。
「俺の中の信用は……サーより現場で手を尽くしてくれている。アンタらの方に傾いている。マハリアンを1番信用して預けられるのはお前達なんだ」
「どっちを信じるかはあなたに任せるわ。けど、任せてくれてありがとう」
M4はフォトンに近づき、握手した。
「マハリアンを任せた」
「彼女はケガ人の後送と一緒に組織の本部に移動させる。あそこなら、サーでもパラデウスでも近づけないからね」
その頃、アンジェリア達は……
「────クソッ!!」
「アンジェリア、落ち着いてください」
なんとか病院から生き延びて、身を隠すためのホテルに座り座るや否や、アンジェリアはすぐ近くのテーブルを力任せに蹴り飛ばした。
グレイをどうにか退け、パラデウスから逃れ、RPK-16は下水道に隠れたもののそこにも追手がいたらしい。
RPK-16曰く、銃を撃つために一時的に手放した時の隙を突かれて、白いネイトがレオーネの首を掻っ切りそれが原因でレオーネは絶命したとも。
レオーネは確かに悪人である、しかし、アンジェリアにとって大切なのはまた、守れなかった命があったと言う事実だ。その事が自分をさらに追い詰めた。
”君はパラデウスを本気にさせた”、あのイギリス人の言葉がヘドロのように耳元で木霊する。
うるさい!そう怒鳴りたかった。でも、あの言葉は正しく、このような望まない結果をもたらした。
ネイトである以上、グレイには逃げるしかない、レオーネは死んだ、もはや手がかりも何もない。
ベスランの時と変わらない。
何もできないで、震えることしかできない、無力なガキに逆戻りだ。
それはアンジェリアには耐えられないことだ。
「────クソッ!!」
モリドーから情報を聞き出したいが、モリドーはユーリが抑えている。ブレーメンでやりあった以上、絶対に、何があろうと引き渡さないに違いない。
だが、ここまでの状況になって、何もつかめない。
パラデウスを止める方法はない、”サー”は実際にテロを起こされたら何をするつもりだ?
”サー”はいま、何をしている?
「……そうだ」
アンジェリアはまた、直感めいたものを閃く。こんな状況になっておいて、今更会議なんてやってる場合じゃない、表に出ていかざる得ない状況じゃないか?
「ミネルバの梟に行きましょう」
「アンジェ、流石にそれは」
「私も同意見。お勧めできない」
RPK-16に続いて、AN-94も珍しく止めようとする。
「冷静になってください。AK-12も同じことを言うでしょう?」
「お前にAK-12の何がわかるって?」
だが、アンジェリアは止まろうとしない。むしろ激昂した気持ちも隠そうとせず、AN-94を睨みつける。
"何を言っても無駄"、ため息をつ区分けしかない。
「AK-12の事はAK-12にしか分からない。でも、あなたが冷静じゃないことをわからない奴なんてこの部屋にいない、ワタシもライトも、AK-15も」
「なんだと?」
「ユーリに忠告されたことを思い出してください!」
「黙れ!!」
アンジェリアがAN-94の首元に掴みかかる、それはもう握ったアンジェリアの指の骨の方が先に折れてしまいそうになるくらいにとても強く。
「ワタシがどうとか、最初できないとか関係ないわ。いいから、あんたは黙って命令に従え」
「……分かりました。準備する。行くときになったら呼んで」
観念したのかAN-94はアンジェの手を払うと、服装を少し整えて、部屋の奥の方に入っていく。
「本当に、いいんですね?アンジェ?我々は駒です。駒の責任は駒ではなく、棋士がとるものですよ?」
「後悔はないか?」と試すようにRPK-16が念押しで確認する。RPK-16にしては……くどい。
「ええ。いいのよ。それに、ソ連じゃね、駒の責任も、棋士の責任も、駒がとらないといけないのよ。ミネルバの梟に行くわよ!AK-15!AN-94!」
「了解。準備はできている」
「本気ですか?ライトも呼んで?ミネルバに?」
ああ、本気だ。「全力を尽くした」では意味がない。
アンジェリアが欲しいのは結果だ。特に、大切だと思っていた同僚が死んだこの日は特に。
「これが、”反逆”小隊、ね」
かぶりを振る。そして、"どうにもならないな"と意味深げに笑い、アンジェリアの後をゆっくりと自分が最後になるように女はゆっくりと歩を進ませていった。
ミネルバの梟の扉はアンジェリアの義手の一撃によって粉々に吹き飛んだ。
グレイの奴、仕事はちゃんとこなすタイプのようだ。
「お客様。店内での暴力行為は────」
「サーの奴はどこにいる?」
「……あの、何をおっしゃっているのか」
このバーテンダーが知らないはずはない、ここはすべて”サー”の縄張りで、こいつは前にもここにいた。
前と比べて、違うことは客の有無だろう。
バーテンダーの動きはとても分かりやすい。アンジェリアは冷ややかな笑みを浮かべる。
「カウンターの下にある銃でも取るつもり?」
「!」
「まあ、聞きなさい。私の目的はアンタの上司にこれからどうすんのって聞きたいわけ、三下に用はなんてないのよ。黙りつづけた結果、取り返しのつかないことをしでかして一生消えない後悔でも背負いたいのかしら?」
片腕で体を支えて、アンジェリアは前のめりになる。
だが、バーテンダーは一方的に「私には何のことかわからない」と同じ返答をしてきた。
「アンタに期待しないわ。AK-15」
「了解……見つけた、バーテンダーの後ろに隠し扉がある」
「な……!?」
ばれた事が相当まずかったらしく。バーテンダーは顔色を青くした。
手はカウンターの下にある銃に伸びている。
しかし、それより早くアンジェリアが義手でテーブルをたたき割るとそのテーブルの下にあったMP7A2を奪い取り、逆にバーテンダーの方に向けた。
「言ったわよ?取り返しのつかないことをしでかして一生消えない後悔でも背負いたいのかしら?」
「ば、馬鹿な……!?」
ライトがAK-15が指し示す隠し扉の位置を検査すると、一つだけ固定されていてた酒瓶を見つけた。
ライトがその固定された酒瓶を軽く引くと、棚が少し後ろに下がって隙間ができた。
アンジェリアが壁の中に入ると地図があった。
自分が探してくれと依頼していた”洋館”を指し示していた地図が。
「初めから、ここにあったのか……!」
アンジェリアがこぶしを握る。
「……後悔しますよ」
そんなもの、もう何年も前からしている。
何もしなかったという、後悔を。
でも、これで新しい突破口ができた。ここにもう要はない、アンジェリア達はバーを出た。
アンジェリアがバーを出て、すぐバーテンダーは銃があった隣のカウンターから、無線機を取り出す。
「アンジェリアが洋館に向かった!繰り返す!アンジェリアが洋館に……!」
────
───
15分後、工作員達がミネルバの梟の扉の前に集結した。
彼らはM4が合流はずだった工作員だった。
彼らがグリフィンの動きを追跡した頃に、別の"サー"の工作員に捕捉されていたのだ。
待機していたところにシュタージからの摘発を受け、幸い、カメラで気づいた工作員達は捜査官が扉の戸を叩く前に脱出し、いまこうしてヴィシャスの手助けを借りて合流していた。
「いくゾ……」
ヴィシャスの合図に一同は頷く。
ヴィシャスがバン!と勢いよく扉を開き、P365をもった工作員が店の中に突入したが……
「行けいけいけ!!」
10人ほどの男女と灰色のツインテールの戦術人形がいつのまにかバーテンダーを囲うようにミネルバの梟に入ったところで……店がバーテンダーをもぬけの空になっているのを理解した。
「逃げられたか」
「逃げる準備がいいのはお互い様か」
「こっちも挨拶してやろうと思ったのに」
ヴィシャスが立ち上がると、バーの奥の壁に不自然な跡が見つかる。
「壁にサイクのような物がある」
「ソナーで調べてみよう……アタリだ。部屋らしいのがある」
工作員が壁を蹴飛ばすと、呆気なく偽装が崩れ落ちて隠し部屋が隠し部屋が現れた。
「……ここで集めた情報を整理していたのか」
「こんなものを残すなんてね。よほど焦って出て行ったらしい」
部屋の中には沢山の線が引かれて蜘蛛の巣のようだ。
その中に一つ、"アンジェリアが来る"という、洋館の写真がピンで刺されていた。
「なんダよ?これ…?この洋館にアンジェリアが向かっタのか?」
「写真にはパラデウスの原点と書かれている」
「……なぁ、ワタシだけでモいい。この洋館、最後に調べネェか?」
「了解、あのグリフィンPMCとロシア人を抱えたサムライチームにも共有だ。"レイラ"にも伝わるかもしれん」