アンジェリア達はミネルバの梟で見つけた"ウィリアム"の洋館に突入するための準備をしていた。
AN-94は自分の装備の確認を忘れない。
「任務に出るたびにその7.62ミリを準備しているんですか?」
「RPK-16?」
危険な雰囲気を漂わせるRPK-16が、気配もなく現れた。
あまりにも気配もないものだから、AN-94は、危うく驚きのまま引き金を引く所だった。
「…いつもではなかった。 お前とAK-15が復帰したから必要になったんだ」
「同僚のために面倒なことも引き受けてくれるなんて偉いですね~」
「喧嘩を売るなら買うぞ、AK-15が」
RPK-16は「悪気はありませんよ」とにこにこ笑ってAN-94の隣の椅子に座った。
どうやら、純粋に誉め言葉のつもりらしい。
AN-94は褒め言葉に謙遜し、布を銃身に差し込むんで、人のいない方に向かって銃身の汚れをふき取った。
「……反逆小隊、いや、それより少し前の研修で誰もが任務をより簡単に遂行できるように補助する、という作業を隊長が……まあ、その隊長はM4A1なんだけど」
「へえ、随分とM4A1から学んだんですね」
AN-94が手に持った部品を下ろした。
「お前は何が言いたいんだ?」
「よくわからないんですか?私は臨時隊長としてあなたをケアしてくれるのですが」
それはAK-12を失ったことで動揺しているとでも?と、食って掛かりたかったけど、それはAK-12に対する裏切りだ。
AN-94は気持ちを抑えて、あくまで冷静にふるまった。
「それなら、アンジェリアに所に行くといい。作戦計画を検討すべきだ」
「先輩も普段そんな感じだったんですか?」
「……あの、本当に訳がわからない。 何を言いたいの?」
AN-94は結局、我慢できず、意図も理解できない発言を繰り返すRPK-16をまっすぐ眺めた。
「私よりあなたの方がリーダーにふさわしいと思います私たちの中でAK-12のそばに一番長くいた人形はまさにあなたじゃないですか?それに、アンジェリアの考えも 一番よく知っています。 気配りも上手です。あなたにリーダーをできない理由はないと思います」
そういうロジックか、AN-94はため息を吐く。
客観的に自分がふさわしいというのはよくわかった。
しかし、AK-12はRPK-16を選んだ、AN-94はその選択を信じるだけだ。
あの時、私が一緒だったとしても、AK-12はあなたを指名したと確信している。
「あなたにリーダーの荷は重いモノなんですか?」
「リーダーの責任は誰にでも重い。M4を見れば分かることだろう。そもそも、私は指揮を執るのに適した人形でないし、アンジェリアとのコミュニケーションも円滑にできた実績はAK-12とお前だけだ、決定権が私にあったとしても、結果は同じ」
「そうですね」と、RPK-16がニヤリと笑った。
「分かりました。そこまで言われたら、仕方ありませんね」
アンジェリアは建物の間取りから、どのように侵入していくかの計画を立てている。
やっぱり、何の準備もしないで行くわけにはいかない。
分かっているのは、ここがウィリアムと関連した場所だということだけ。
見た目は廃墟の洋館のように見えても、中に一万のパラデウスが潜伏していると想定したっていい。
「僕のチームにも連絡しましょうか?」
提案してきたのはライトだ。
確かに今回は数は多ければいい。
「あなたが心から信じられるやつらだけ連れてきて。自信がないなら、いっそ一人のほうがいい」
「……了解しました」
数は絞られる。
だが、昨日アンジェリアに暴行したのもシュタージと考えると、シュタージ全体を信頼しきることはできない。
AN-94には、君はライトのチームと一緒に外で警戒してもらう。
ライトにはシュタージの執行権があるから、民間人に言いくるめることができる。
AK-15、RPK、自分と一緒に正門に突入する。
情報だけ中に誰もいないだろうが... 果たして本当にそうなのかは直接見ないと分からないだろう。
念のため、RPKは常時電波状況を確認してもらう。
「今は10時か。なら、午後3時には準備が間に合うわね」
「アンジェリアさん」
「何?やっぱり作戦から抜けたい?」
実のところ、アンジェリアはライトを動かすのは気乗りしなかった。
今すぐにでも、こんなことに関わわらないで欲しいくらいに。
「もちろん違います。 あなたの判断を信じています」
「あなたが私を尊敬するなら、アカデミーで道徳科目までAをもらえるでしょうね」
「えっと…そういうところに 行ったことがないんですけど… ソ連にはそんなアカデミーがあるんですね」
アンジェリアが唸りながら頷く。
あそこは人がどこまでクズになれるかの実験場みたいなところで、そのくせ役に立ったことなんてクソのひとつもない。
「ええ。しかも、とっても酷いところ。最初の授業で自分のパートナーとして使う犬を一匹を選ばせて、卒業試験はその犬を殺すことだった。上が相当な猫派だったんでしょうね…いい?助言ぐらいなら私が役に立つならいくらでもしてあげられる。でも、私のような人物は誰かの模範になる資格がない。むしろ、どうしてあなたが私をそのように見るのか気になるわ?」
謙遜しているな、とライトは確信した。
それでもライトにとっては構わないことだ。
「僕は"英雄"になりたいんです。そして、僕の理想の英雄像がアンジェリアさんなんです」
アンジェリアの表情はよろしくない。
それもそのはず、アンジェリアの知る英雄というのは大概、いい加減な唄い文句で非難される人間か慰霊碑の下いる人間たちで、この純真なちびっ子ライトには似つかない。
「何人倒れても退かずに進むのが英雄の根本です。僕はあなたのように、それらの霊たちのように、より良い世界を作るのに貢献したいと思っています。この身を捧げてでも」
「その歳でそんな考えは早すぎるわ。一体どうしてそういう考えに至るのかしら?」
「アンジェリアさんにはとても幼稚で退屈な話だと思いますが……僕は心からあなたを尊敬します。誰が何と言おうが、世間が何と言おうが、あなたが今までやってきた事は……全部、より良い明日のためじゃないですか」
この時代に理想主義者の居場所はない。 たった一席も。
もちろん···だからといって理想主義者が皆死ななければならないという意味ではない。
ライトのようにこんな問題を純粋な視点で眺めるのはとても難しいことで、そうであってほしい。
「あなたのような子は、本当に貴重よ」
「ありがとうございます」
「だから死なれたり、危険目に合うのはまだ困るのよ。分かる?」
ライトはカバンから金属でできたバッジを取り出し、アンジェリアに見せた。
そのバッジにはアルファベットが記載されていた。
「..."U"?」
「初期メンバーの数がちょうど26人だったという伝統です…
偶然にもみんな名前のイニシャルが違うからだそうですよ」
なら、ライトは「L」にしないといけないんじゃないか?
その答えはライトがすぐに教えてくれた。
「好きな単語や、自分のアイデンティティから取ってきます。アイデンティティは、"Unknown""名も知らない人"。
「Jの部下もエラそうなネーミングを考えるわね」
「ハハ……確かにシュタージは胸を張れるところではありませんけど、そんなシュタージでも先輩は私が幼い頃から面倒を見てくれてました。僕の母のJ先輩の先輩でした。後···。 僕はまだこのコードネームをもらっていません」
ライトの表情からアンジェリアは何かに気づいた。
「ビビったのなら、自信を持って。少なくとも私が思うにあなたはJより優れている」
「J先輩が情けなく見えるのは僕も承知しています。でも、J先輩の方が本当にこのバッジをもらうにふさわしい人ですよ」
ライトは親指で触っていたバッジをアンジェリアに渡した.
アンジェリアはバッジを受け取り、それを眺めた。
「どういうつもり?」
「僕はあまり親孝行できない人なんです。唯一の肉親である姉にも。それをしばらくあなたに預けさせてもらえませんか?今度の任務が終わった後に返してください。僕に資格があると判断されるなら」
アンジェリアもこれは予想できず、少なからず当惑した。
ライトは手を膝に乗せて姿勢を正した。
「… 私にあなたの卒業試験の審査員をほしいって?」
はい。と答える、ライト。
アンジェリアは両手でバッジをつかんだ.
「…受け取っておこう。それでもあなたの遊びに付き合ってあげるつもりはない。仕事が終わったら私の考えがどうであれ返すわ」
ライトはにやりと笑った。
「アンジェリア」
ライトが立ち上がった時、ちょうどRPK-16が声をかけた。
ライトがちらっと見ると、RPK-16は華やかな笑みで答えた。これにライトも照れくさそうに笑いながら回答し、席を譲った。
「何の話がしたいの?」
RPK-16が席に座ると、ライトがやったように両手を膝に乗せた。
顔からも彼女のトレードマークである笑いが突然消え、とても真剣な表情になった。
「今回の作戦…やはり キャンセルしてはどうでしょうか?」
「どうして?そんな余裕がどこにあるの?…子熊のミーシャの反応がないのはどうしてだと思う?偉い人たちは今私たちを気にする暇がないということ。わかる?」
「モリドーを尋問できればもう少し結果は変わっていたんでしょうか?」
「だといいけど。フォトン君たちは騙されてるんでしょうね、私が引っかかった時のように、一向に連絡をくれないのもそれが理由じゃない?」
RPK-16は口角を上げる。
今、なり続けているアンジェリア宛のコールを無視しながら。
────
───
「だめだ。アンジェリアには繋がらない」
「アンジェリアもヘソを曲げるのが早いわね」
フォトンは先ほどからずっとアンジェリアにマハリアンとモリドーは別々にいることを伝えるためコールし続けているが、一向に繋がらない。
M4も流石にこんな無視をするのかと呆れている。
「サー・グリフィンには?」
「俺からは無理だ。サーの部下が仲介して通信をしている。そして、部下は……」
「ああ、全滅……」
そもそも繋がったとして、サーが信用できるかも怪しいし、リスクを承知で情報を与えて信じてもらってもサーからの連絡をアンジェリアが受け取るとは思えない。
M4がフォトンにタブレットを見せる。
「突入部隊が手に入れた森奥の洋館だけど、調べてみたらヒットしたわ。オーベルシュタイン家の伝統的洋館よ」
「仕事が早いな。どうやって見つけたんだ?」
「ベルリンでの戦闘から、増援や奇襲をしたパラデウスの兵士の出現位置から、その位置に到達可能なルートをベルリン公式交通状況を参考にして調べてみたところ、この洋館から半径50キロ以内であることがわかったの。この洋館、地元スレッドによると"お化け屋敷"で有名らしいわ」
「お化け屋敷とは洒落ている」
M4が見せてくれた情報は詳細な計算と算出が割り出されており、信用には十分だった。
「アンジェリアがその洋館に向かったのをサーが教えなかったのはなぜ……というのもこれでわかったな」
「ええ、アンジェリアが入ったら周りからパラデウス達が一斉に取り囲んで仕留めてくる」
「余計なリスクはもうアンジェリアには払えないのか。ユーリもサーと同じ立場だったら同じ選択するだろうな」
「私でも、そうするわ」
おまけにアンジェリアはあの精神状態だ。正直に話そうが「だからなんだ」と正面から突っ込むに違いない。
「どうする?」
「決まってるだろ」
フォトンは助けに行くらしい。
仕方ないな、とM4はため息をつく。あれだけ迷惑かけたアンジェリアが自滅しようが気にする気も起きないが、この罠はアンジェリアだけではなくAN-94たち反逆小隊にも仕掛けられている。
今後味方になるか、敵になるかは分からないがストッパーとして彼女達には機能してもらいたい。
「エンペラー」
「はい、母上」
M4A1に呼ばれたエンペラーは姿勢を正してM4の方を向く。
「ちょっとウォーミングアップしてみない?」
「おやおや、母上。そのパラデウスはフリッパーと関係あるのですか?」
「まだわからない。でも、自分の力を自慢するいい機会とはおもわない?」
「……そう言われてしまったら仕方ありませんね」
エンペラーとM4は示し合わせたようにニヤリとわらう。
「指揮官、私も洋館に行く」
UMP45がフォトンの隣に立っていた。
自分も洋館に行きたらしい。
「エンペラー1人だと不安だからね、何しでかすか分かったもんじゃない」
「おやおや、疑われたものだ。なに、構わないさ」
エンペラーはUMP45の目の前に自分の巨乳を押し当てるように迫ると口角を上げた。
「その目でたっぷり拝見するといい、"最強の人形"エンペラーの能力をな」
────
───
「アンジェさん。こちらも準備できました」
「どれくらい連れてきたの?」
「多くありません、私の同期たちだけです。警戒任務とだけ伝えてます」
妥当な判断だ。彼にはAN-94と居てもらおう。
万が一グレイが現れた時に備えて。
「時間がないからすぐ突入する。ライト、君の友達に洋館周辺を封鎖してハエ一匹も入れないようにしろと言って。AK-15とRPKは私と行動よ」
「了解」
「では、行ってみましょうか」
シュタージが提供した情報によると、この洋館はずいぶん前に捨てられ、今は誰も住んでいないらしい。
洋館の古びた外観も、その情報に信憑性を加えた。
アンジェリアが今通過するこの庭園も、最後にここを手入れしたのがすでに数年前の事だと判断できる。
どこかから飛んでくるミツバチを除けば、庭の中に生きている動物はいなかった。
この死んだような静寂が、アンジェリアの神経を刺激した。
彼女の勘が、この方向に違いないと言っていた。
この羊羹のどこかに、彼女が欲しいものがある。
「正門から入りますか?」
AK-15の質問にアンジェリアは頷く。今の状況ではどこに入っても同じだ。
もし本当に中に待ち伏せがあったら…他のドアや窓から迂回するより、正面突破の方がマシだ。洋館の正門玄関前に立つ。洋館もまだ静かだ。
「AK-15、ノックしてみて」
「了解」
AK-15はドアに触れる。
「中は見える?」
「異常なし」
その言葉にアンジェリアも玄関の階段を上り、懐に隠していたグロックを引き抜くと玄関のドアノブをつかみ洋館の門を力いっぱい開けた。
いつでも蝶番が折れてもおかしくない古いドアは揺れながら積もっていた埃を払い落とした。
「敵影なし」
アンジェリアはグロックを懐に戻して、ゆっくりと中に足を踏み入れた。
陰鬱な洋館の静寂に三人の足音のこだまする。
「思ったより、広いわね」
「時間が少しかかりそうですね。AK-15、東館を調べてください。私はアンジェリアと一緒に西館を確認します。通信を常時維持して、些細なことでも見つけたらすぐに知らせるようにしましょう」
「異論はない」
AK-15が短く頷いてさっきまで構えていた銃をスリングで背負い東館に入るのを確認して、二人はゆっくりと西館の奥深くに進んでいく。
「ごほ、ひどい埃ね」
アンジェリアが手を空中にふっと、目の前に漂うホコリを払い除ける。
部屋の家具から見て、ここは書斎に見える。
華やかな絵が描かれている、壁には奇妙な形の注目の木の絵が描かれていた。
そして、その木の枝の先ごとに貼られた写真には、写真に映った人と見られる名前が書かれていた。
「これは、家系図…?」
アンジェリアは眉をひそめて、その華やかな「木の絵」を見上げた。
この家門の家系図はアンジェリアも驚きを禁じ得ないほど膨大だった。
しかし、この家系図が彼女の好奇心以上に注意を引いた理由は、まさに木の頂上にある。
家系図の末裔がいるはずの枝には、醜く燃え尽き名前も顔も見分けら無いほど焦げていた。
かすかではあるが見分けがつくのは、1人は男でもう1人女だった。
「これが……ルニシア?」
ちょうどその時、アンジェリアの通信機が鳴った。
「ライト?AN-94?どうしたの?」
「襲撃です!パラデウスです!アンジェリアさん! 早く出て! 」
直後に激しい銃声が聞こえて、通信が切れた。
「まさか……グレイ?」
キーッ……っと、軋んだドアの音に後ろの人の気配に、アンジェリアは反射的に振り向いた。
しかし、相手の顔を見てほっとした。ドアを開けたのはRPK-16だったらしい。
RPK-16はそっと部屋の中に入り、ドアを閉めようとした。
「まだ閉めないで。 今すグレイに対応しないと。 今ライトから────」
RPK-16の動きに異常は見えない────
しかし、長年にわたる経験のおかげでアンジェリアは異質な雰囲気を感じることができた。
「アンジェリア…ブレーメンの話していた"植物が 人類の未来"という話はどう思いますか?」
「……またその話?当然違う、あの時私が何て言ったか忘れた?とにかく、今そんなことを言っている場合じゃない。 外の警戒チームが襲われた、早くここから出ないと」
だが、RPK-16はアンジェリアの指示にまるで従おうとしない。
「確かに……そうです。植物はただの植物であり、未来の責任を負わせるには重い責任です。では、人形は?」
「お前、またどこかのネジが緩んだの?本当にそんなに哲学に浸りたいなら帰った後に退役申請してあげる」
RPK-16の奇異な表情を見るアンジェリアの心の中に不安が暗雲のように垂れ下がった。
「私たち人形は本当の苦痛が、悲しみが、快楽が何なのかわかりません。 生と死の概念はもっと理解できません。勝利はいつも人間のもので、死ぬのははいつも人形の役目……結局、死を完全に享受するのも人間です。あまりにもおかしくありませんか?」
「お前、まさか……」
アンジェリアに考えたくも無い考えが次々浮かんでくる。
「アンジェリア。────私はね?人間になりたいんですよ」
その瞬間、アンジェリアは理解した。
ヴィシャスが”信用できない”と繰り返していた言葉の意味を、彼らはとっくに知っていたんだ、反逆小隊の中に裏切り者がいたことを
「────クッ!」
アンジェリアは脇目も振り返らず、その書斎からに飛び出た。
いつの間にか、洋館の中に大量のパラデウス兵がたむろしていた。
前を塞ぐ敵1人と目が合って、こちらに銃口を向ける、それよりも早くアンジェリアがグロックを引きぬき、その一人を倒す。
その音を聞きつけると、すぐに2人目、3人目が現れた。
「目標発見」
「舐めるな!」
ほこりだらけの火災時に使う斧を収納したガラスを義手で割って、消防用斧を取り出し、狭い廊下を塞いだストレンツィの頭を叩きつけた。
もう一体の彼らのストレンツィが発砲して、銃弾はアンジェリアの足元に飛び散る。
2体目を対処しようとして、ストレンツィの頭から斧を引きぬくものの汚くてどろっとした血が銃弾の穴から少しよろめくだけで、すぐに再び銃を手にした。
もう片方の手でグロックをストレンツィの顎に向けて、発砲。
ようやく2人目を始末し、もう一人も始末する。
「クソッ!」
アンジェリアは東館に向かって振り向いて走った。
彼らはアンジェリアを攻撃することを敬遠している様子だった。
飛んでくる銃弾はすべてぎりぎりの位置に着弾する、威嚇射撃のつもりらしい。
「私を生け捕りにするって?」
屋敷内に待ち伏せがあると想定して、AK-15と一緒に行動した方が良かった。
自分の判断ミスで、アンジェリアは危機的な状況に置かれることになった。
通信機は雑音以外には何の応答もなく、AN-94の方の状況がどうなのかさえ把握できなかった。西間で爆発音が聞こえてきた。
「この館ごと吹っ飛ばすつもり?」
今はAK-15と合流するべきだ…AK-15は”最強の戦術人形”だ。絶対負けない。
「しまった……」
階段を飛び降り、角を回った瞬間ストレッチ2人と正面から向き合った。
アンジェリアは反射的にグロックを構えた、しかし、今度は相手の方が早い。
相手の銃弾が彼女の銃を弾き、その衝撃で手首がひりひりした。
「クソ!」
今度こそまずいと思い、眼前のストレンツィを睨みつけた。
次の瞬間、驚くべきことに甲高い銃声がストレッチの後ろから溢れ出し、その音にふさわしい威力でアンジェリアを威嚇していたストレッチの頭が吹き飛んだ。
「アンジェリアさん!大丈夫ですか?」
「どんだけ、ショットガン好きなのよ。坊や」
「こいつらを拳銃で相手できないことを知った時には、愛銃にすると決めました。とにかく、今すぐここを離れましょう」
「アンタの同期とAN-94は?」
「グレイがネイトを含む部隊を率いてきました。私の同僚は全員あっという間にやられました。AN-94さんが一人で時間を稼いでいます」
……一瞬で状況を把握した。これは奴らの計画だった。
見事に奴らの罠にはまってしまった.
グレイの手先はRPK-16で、アンジェリアはこれに全く気づかなかった。
自分がライトの部下、同僚たちを殺したのと同じだった。
「通信は残念ながら途切れました。 今回も信号が遮断されたようです。でも、範囲には限りがあるはずです。この辺りは私有地が多いので、洋館から離れるだけで支援要請ができるはずです」
「それはここから無事に抜け出せたらね」
それは、どういう意味だろうか?どうしてアンジェリアさんが一人で窮地に追い込まれたのか?と質問しようとした時、その答え合わせをする裏切り者が現れた。
「おや、アンジェ。酷いですね、あんなに驚いていたのにしっかり準備していたなんて」
RPK-16は相変わらず微笑んだまま、むしろ楽しむかのようにこちらを見下ろしていた。
その時になってようやく、ライトは少し前から感じていた違和感の原因に気づいた。
「なぜ……!」
この状況にライトは驚愕した。しかし、すぐに次の行動を考える。
「……とにかく、来る途中で一番近い脱出口を見ておきました。とりあえずここから出ましょう!」
アンジェリアはうなずいて気を引き締め、ライトはショットガンを握り直した。
この位置なら、RPK-16の持っている、ライトマシンガンはアンジェリア達に向けるには少々長すぎた、向けられるようになるには、位置を変えなければならない。
それよりも、先にこちらが逃げれらたら、こっちの勝ちだ。
先導しようとした時、灰色の形が現れた。
「────!」
「────?」
鋭い刃がライトの持っているショットガンの銃身を粉々にした。
ライトは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
アンジェリアの顔から数cm先に止まった煌めく刃は、血一滴ついていない。
サソリグレイの尻尾がライトの体を串刺しにした。
「そう簡単に行くとでも?アンジェリア」
「アンジェ…逃げてください…」
グレイは刃の尻尾を掴む。目標ではない獲物にはグレイは注目すらしていない、目も与えなかった。
ライトは声を絞り出してアンジェリアに「逃げろ」と言う、そして彼の腹から血が噴水のように噴き出した。
体は完全えぐり取られ、血を噴き出さないところは右脇の肉のわずかなところだけ。
ライトの血はアンジェリアの顔にも飛び散り…その体は藁のように倒れた。
アンジェリアの崩れる心と共に。
「よくもまあ、引っ搔き回してくれたわね。見逃そうと思ったけど、ここまで来たら逃がすわけにはいかないわ」
グレイの尻尾が伸びる。
その尻尾がアンジェリアを捉えようとしたとき、天井のガラスが割れ、一つの黒い影が飛び降りた。
「あら?久しぶりね?ヴィシャス……で、良かったのかしら?"我が創造主よ"と崇めてくれてもいいのよ」
「失敗作と吐き捨テて、廃棄処分しタ手前に言われてもな、ヒトデナシのマチガイだろうガとしかいえねえ」
「そう」と昨日の診療所とは違って、グレイは淡白な感情をヴィシャスに向ける。
「逃げロ、アンジェリア」
ヴィシャスはPPK-20をグレイに向けている。
今度はライトの代わりに戦うつもりらしい、あんな突き放し方をしたのに、なぜ?
「あと始末ダ。ロクサット主義も面倒度な事二首を突っ込ム、それに」
他の言葉を言い終わる前に、グレイが尻尾を振り回す。
「────オラァアアアア!!」
「────なっ!?」
グレイの尻尾を掴むと、掴んだ腕を切り下ろそうと振るった手刀を”PPK-20”サブマシンガンのフルオート射撃で弾きながら、そのままハンマー投げのように豪快に振り回し、ホールの扉に投げつけたのだ。
「貴様……!?」
瓦礫と化した扉から、グレイが現れた。今のは流石のグレイも驚いた。その顔はあの小柄な素体で発せられる出力に少しだけ驚きに変わっている。
ヴィシャスはちらりとアンジェリアも見つめる、放心状態でまるで動こうとしない。
「お手伝いしますよ。グレイ?」
RPK-16は銃を向けられる位置に移動したらしい、ライトマシンガンの銃口がヴィシャスの後ろにいたアンジェリアを狙う。
引き金が引かれそうになった直後、東側の壁から、巨大な影が現れた。
「AK-15────」
あれほど、大きな音を出したら、AK-15も気づく。
そして、たどり着いてみたら、RPK-16はアンジェリアに銃口を向けていたのだ目前まで迫ったAK-15にか細い手首をつかまれた。
「滑りますよ」
手すりに叩きつけられても、RPK-16の動きは落ちない。冷静な判断のまま、AK-15の足を払おうとした。
RPK-16の抵抗に、AK-15の眼差しがさらに大きく燃え上がった。AK-15は足払いを受けるよりも前にRPK-16の首を掴んでいた腕を持ち上げて、純粋な怪力で、AK-15はRPK-16を持ち上げて床に放り投げた。
「────」
その瞬間、RPK-16が感じたのは、自分の背中が地面から落ちる感じだった。
そして1秒後、天地がひっくり返ったような衝撃が背中に響き渡る。
バシッ…なんて聞こえたかもしれない。
たたきつけられ衝撃に、RPK-16は自分の回路にショートしたような音が聞こえたようだった。
「まず────」
まずいのは、AK-15が予想よりも早くやってきた事か、
それとも彼女の不興を買った事か、
それとも今のAK-15が情け容赦なく、容赦なくRPK-16の顔を殴れることか。
銃を持った手は膝に押さえられ、へし折れそうな重みが全身に乗せられた
まだ意識が晴れていないが、もう一方の手が自然に動いた。無意識に動いた手は、RPK-16の首のチョークを取ろうとするその手を。
「電子戦をさせない」
「やっぱり······物理的には性能差が激しいですね」
「お前のコアは、マインドマップをアンインストールした方がよさそうだな」
始めて話したような、AK-15の冗談。
その冗談がこの、逆鱗全開の表情でなければなおよかっただろうな、RPK-16は思う。
────
───
<そろそろ、目標よ。洋館は見えた?>
「もう少しだな。けれどもここからでも状況がわかる。面倒なことになっているな」
M4A1それに指揮官と通信しながら洋館に到着したエンペラーとUMP45が見たのは四方八方からやってくるパラデウスの兵士たちとそこら中に散らばっているシュタージと思われるエージェントの死体だった。
「酷い乱戦ね。中はもっと酷いんでしょうね」
「この死体……シュタージか?みんな若いな」
エンペラーは皮膚から、彼らが10代後半から20代前半であることを推察した。
「アンジェ……変わったわね。自分の私欲のためにこれほどの犠牲を強いるなんて」
<アンジェリアにはこの責任も取ってもらおう、その為には生きてもらわんと>
「当然よ、指揮官」
<方法は問わない。洋館に入って反逆小隊を救出しろ>
「いいだろう、了解」
「さて、どうする?遠回りだが、静かにいくか。近道だが、大騒ぎしていくか」
スコープで遠い順に敵をマークしたのと別のマークで入り口に乗り込もうとする大勢のパラデウスの兵士をマークする。
「こういうのはどうかな?私が暴れて注意を惹く。君がその隙間から静かに入り込む。分担だ」
エンペラーは大勢のマークに自分のピンをさし、少ないマークにUMP45のピンをさす。
「乗った」
「よし、合図をだしたら進め。アンジェリアを見つけたらこれを」
エンペラーはUMP45に発信機を手渡した。確かにあれだけ暴走するなら、発信機のひとつもつけてやりたいとUMPも思っていた。それに…もし、取り逃すことがあっても発信機があれば追跡できる。
そして、手を広げるとM4A1の時と同じように粒子からライフルに変わった銃が現れてエンペラーのその銃のグリップを握る。
「……待って、そのライフルはHK416?」
UMP45はエンペラーの銃を覗き、意外だと感想を述べる。
「何かな?」
「私のチームにもHK416がいるのよ。ほら、水色の」
「ああ!母上が話していたな。完璧主義者だが冷徹ではない、人形の友人がいた……と名前はそのまま416だったか」
「にしても小さいわね。こんなモデルがあるの?」
そもそも気にしていたのはUMP45がそのHK416は"かなり"短かったからだ。
AR-15で必要なバッファーチューブが入るのかと疑わしい小型のワイヤーストック、銃身が9インチぐらいでかなりの短さだった。
416が持っているライフルも本人が短い奴と言っていたが、それは10インチ前後はあり、ストックの長さも平均的だった。
「ああ、これは卸元の企業が私のいる軍の要請で開発された、試験型さ。HK416Cというモデルのデータを元に開発され、弾薬を300ブラックアウトを使えるようにしている」
「ライフル弾を使うPDWみたいね」
「驚いてくれたようで何より。だが、驚くのはこれからだ!」
エンペラーが飛び出す。
「やあ、諸君!」
レーダーでも気が付けなかったのと、いきなり飛び出した後で気づいたパラデウスの兵士たちはエンペラーに向かって発砲する。
茂みが多いとはいえ、平らな立地。身を守る遮蔽物はない。
あれをどうするのか?とUMP45は隠れて観察したが……直後、驚くべきものを見た。
「────レーザーが弾かれたっ!?」
エンペラーにパラデウスのレーザーが命中した途端、レーザーが弾かれて撃っていた兵士の顔面に跳ね返った。
まさか、エンペラーはレーザーを跳ね返す体で出来ているとでもいうのか!?
「レーザーコーティングの調子よし。さて、試し撃ちだ。」
エンペラーはライフルを向けると、ストレンツィに発砲。
「(聞いてたけど、ふざけた火力ね!?でも紫色!?青色じゃない!?)」
UMP45はエンペラーから発砲していた弾丸から紫色の硝煙になったとのを確認する。
そして、弾丸からはモリドーと戦った時にM4の蒼い炎ではなく、紫色のスパークが銃から漏れ出ていた。
「(どういうこと?M4と仕組みが違うの?…いや、違う)」
代わりに弾丸が命中した時、パラデウスはプラズマ上の電気を放出して一瞬で黒焦げになった。
あれはモリドーが受けたダメージと酷似していた。
「……なに?増援?」
様子を見ていた、ネイトたちが洋館の中と外側の森から現れる。
「ほう、これが母上の仰られた"ネイト"か。確かに若い頃とよく似ておられる」
「攻撃」
挨拶代わりにネイトがブラックオベリスクを発砲。
エンペラーがいた所が吹き飛ぶ。
「ハハハ!結構結構!派手なのは私も好みだ!」
だが、エンペラーは平気なのか、当たっていないのか。
傷ひとつないまま、空中に浮き上がる。
「なっ!?」
人形が突然、空中に浮きあがる。意図しなかった事態にパラデウスは反応が遅れる。
反応が遅れたのが、命取り。エンペラーの発砲に気が付けなかった。
「こ、こここ、高圧電りゅりゅ────」
弾薬が命中した、ネイトはカエルのように痙攣すると、パチパチとスパーク音を立てながら黒焦げになった。
「────!!」
ネイトたちに戦慄が走る。
「ぞっ、増援!増援を呼びなさい!」
「はっ!はい!待機チーム。こちらに増援に来なさい!」
ぞろぞろと、どこに隠れていたのやら大量のパラデウス兵とネイトたちが集まってくる。
「やっぱり、そうくるしかないよな。……合図だ。UMP45、今なら楽に洋館に入れる」
<了解。陽動に感謝>
しゃがめば大人一人身を隠せそうな茂みに身を隠しながら、UMP45は洋館を目指す。
視線は洋館を向いたままだが、エンペラーとパラデウスが戦う音は派手に聞こえた。
「洋館の入り口に到着。エンペラー、アシストに感謝」
<了解。そのまま突入しろ。私は注意を引き続きこちらに集中させる>
洋館の中に入ろうとしたとき、ネイトたちが悲鳴を上げた。
何事かと思って、ついエンペラーの方を見ると、エンペラーから体から何かが分離していた。
そして、数個の球体に変わり、エンペラーの周りに浮遊する。…あれも、いったいなんだ?
「(いまはアンジェのところに行かないと)」
気になって仕方ないが、今は任務を優先しなければならない。
UMP45は銃口が通せるだけ小さくドアを開くと待ち伏せがいないか確認し、そのまま洋館の中に侵入した。
────
───
グレイとヴィシャスの戦いは続く。
ヴィシャスの使っている9ミリの弾丸はE.L.I.Dを倒すために徹底して貫通力と破壊力を引き上げられている、簡単にはじける弾丸ではない、防戦一方ではないが、思うように接近できず、それがグレイの神経を刺激した。
「しっ────」
グレイが自分の手刀の射程に収まるほど接近できるようになる。
今度こそ、バラバラに切り裂いてやろうと突き刺さんとする、グレイの腕を────
「手ぬるイ!」
逆にヴィシャスが掴み返し、引き寄せると膝蹴りをグレイの腹に叩きこむ。
重い衝撃がグレイにほとばしる。
更に、蹴られてよろめくグレイの体にヴィシャスは強力な後ろ回し蹴りを叩きこむ。
再度、蹴り飛ばされるグレイ。
その体は館の壁に激突する寸前で、止まる。
「フフ、ハハっ!」
蹴られたところを調べるようになぞり、せせら笑うグレイ。
「やるじゃない。いい加減、手加減なんて飽きてきたのよ」
グレイが一歩、歩を進める。
その一歩一歩が先ほどまでのモデル歩きのような優雅さは感じず、まるで像やサイのような重量感ある、恐怖心を煽るような歩みだった。
「いいわ、アンジェリアの前に貴女を本気で殺してあげる」
一筋の灰色の閃光グレイの尻尾が視野の死角から舞い込むと、ヴィシャスは出せる最大限の速度で反応した。
ギリギリ、その閃光を避ける。
だが、グレイの尻尾は先端が変形する、ヴィシャスの左腕とその奥にいた、RPK-16を殴り殺そうとする、AK-15の片腕が宙に舞い上がり、人口血液が空中に飛び散った。
「か、ア······」
あっという間に自分の左側が消えている。
その衝撃に耐えながら、ヴィシャスは自分の右肩を抱えながら、素早く背中を壁にもたれかかって戦闘態勢をとった。
「く······」
腕を失ったのはAK-15も同じだった。
AK-15は素早く、考えを改めRPK-16の排除から、アンジェリアと脱出に切り替え、RPK-16から離れると一直線にアンジェリアのもとに飛び出し、アンジェリアを抱えた。
「レディならどんな状況でも品格を維持しなければならない。自分の価値を判断する機会を他人に与えるべきじゃないわね、”パンドラ”」
「こう見えても最善を尽くしたんですよ?グレイ」
RPK-16の視線はグレイを横切り、AK-15に抱えられ、うなだれたアンジェリアに向けた。
今のグレイは以前よりはるかに華やかになった。
彼女の両手の中指と薬指が割れた隙から伸びた鋭い刃の長さは前回の2倍くらい伸びているだろう。
AK-15の残った左腕にはホルスターから引き抜いたサイドアームのMP443を握られていた。
RPK-16が立ち上がった。
右手を挙げようとしたが、言うことを聞かなかった。先ほどAK-15が叩きつけられたときに使い物にならなくなったらしい。
「AN-94はどうなったんですか?」
「AN-94...? ああ、あの金髪ね。いや、逃がしたわ。周りの雑魚が死んだら一目散に逃げたのよ?」
「まあ確かに、あの人形はAK-12がいないと何もできませんからね」
RPK-16は微笑んで、もう何も言わなかった。
2人がAK-15とヴィシャスの存在を完全に無視して対話を始めたが、AK-15の視線はアンジェリアから離れなかった。まだ生きているが状態が最悪だった。
すでに満身創痍の身で今まで奔走していたのだから…その上、今は肋骨が折れて内臓まで負傷した。
グレイとの遭遇がトドメになったことは明らかだった。
「ヴィシャス」
「オう」
絶え絶えの呼吸を繰り返しながら、AK-15に相槌を打つ。
ブレーメンの時では、あれほど邪魔をしてくれた厄介者は今では自分たちの主人の命を少しでも延命させてくれる蜘蛛の糸の存在だった。
「このままでは、どちらにも勝ち目はない」
「だろうナ」
「私はアンジェリアを逃がしたい。お前はここで足止めしろ」
足止めする。口で言うのは簡単だ、おそらく足止めの対象もグレイただ一人だけだろう。
でも、その一人を止めるだけでもその言葉の意味は”死んで来い”と大差はない。
そして、敵にしては距離が近すぎて、味方にしては距離が遠すぎる存在の人形にいう発言ではない。
「外が騒がしい。お前たちの仲間が来ている。私が逃げたら注意が分散し、お互い助かる確率が上がるはずだ」
「ああ、分かッた。さっさと、そノ迷惑女を逃がシな」
その、残酷な発言を味方でもないヴィシャスはあっさりと了承した。
ヴィシャスは唸り声に似た一呼吸を済ませて、立ち上がった。
「うん?」
その動作をグレイが見逃すはずがなかった。
グレイは堂々と2人をあざ笑い、尻尾をAK-15たちに向かって叩きつけた。
その一撃を飛び上がって、躱して、ヴィシャスはグレイに向かって、PPK-20を顔面に向かって発砲。
AK-15の姿は消えていた。
消えたAK-15はRPK-16が追いかけた。
「あら?逃げるの?お友達を放っておいて、逃げるのね?」
グレイは嘲笑しながら、飛んできた弾丸を手刀で払い落とした。
だが、ヴィシャスはその一瞬の隙を狙っていた。ヴィシャスは勢いよく地面を蹴り上げ、地面が勢いよく飛び散りまるで爆ぜたようにも見える。
次の瞬間、ヴィシャスの姿が消えていた。
「は?」
────いや、消えていない。
低く、それもトカゲのように床に触ってしまえるんじゃないか?と思えるほどの、スレスレの高さに身を屈めてグレイに向かって突進していたのだ。
グレイはまた、ヴィシャスに向かって2度目の驚きを禁じ得なかった。
────バキリ
何かが軋む音が鳴る。
それはグレイがダメージを負った音ではなく、どうやらヴィシャスの関節が悲鳴を上げている音らしい。
グレイすら反応できなかったすさまじい速度。
それだけの出力を出して壊れない設計にできる技術まだこの世界には存在しない、
とはいえ、この一瞬で接近されたという事実はグレイはヴィシャスに対して”恐れ”に近い感情を持たせた。
「ぬん!!」
焦るグレイに彼女のとは思えぬ、力んだ声が上がる。
「────!」
そして、床に砕け散った破砕音。
グレイが己の尻尾でヴィシャスを地面に潰さんとして叩きつけた音だった。
結果として、グレイの攻撃は外れた、それでも衝撃は迸る。
それなのに、地面に叩きつけた尻尾の衝撃でヴィシャスの体感は揺らがない。
極限まで軽量化を施されたボディと瞬発力を生む為に組み込まれた複合素材の四肢はしっかりとグレイを狩るため、距離を詰めるためだけに作られたわけではなかった。
「おのれ」
尻尾は間に合わない、グレイは手刀を振る。
届かない、長身が災いして、手刀が届かない。
「────オオオオ!」
PPK-20の銃身がグレイを捉え、引き金は引き絞られる。
今まで当たらなかった弾丸がグレイを削っていく、グレイの腹は抉られ、口から人工血液が垂れた。
「ぐ······貴様ぁ!」
グレイは怒りを露わにし、叩き潰すために尻尾を巻き上げる。
ヴィシャスの体はグレイの尻尾を飛び上がり、避ける。
「ウオオオ!!」
ジャンプした上空から飛んでいる間にヴィシャスはPPK-20のマガジンを素早くリロード、そして落ちていくタイミングに合わせて、9ミリ弾をグレイに叩きこむ。
グレイの体中に穴が開く。
「!」
しかし、致命打ではない。
グレイは反撃に出る。
拳で殴り掛かるように腕を突き出して、手刀を伸ばす。
ヴィシャスはそれをギリギリまで見極めて、左足で受け止める。
「ギっ······!?」
受け止めた左足がちぎれる。だが、右足が残っている。
右足で着地をすると、その足で滑るようにグレイの懐に潜り込み、グレイの脇腹に銃口を押し当て、引き金を絞り、弾丸を叩きこんだ。
「死ネえエえ!!」
その瞬間、グレイの体がぐらりと揺れた。
倒した?そうではなかった、
「無駄よ」
グレイはまだ倒れない、足腰で踏ん張り、ヴィシャスを蹴り飛ばした。
ヴィシャスの体が宙に浮くと、そのまま壁に激突する。
激突した壁に大きなひびができている。
あと少しで壁がずれそうな程に、背中に走る強烈な衝撃。
「オ前、ハ、必ず。がッ!?あア?···ア、あ?ア······?」
立ちあろうとした。足に力が入らないことに気づいた直後、ヴィシャスはそのまま地面に落ちると、うつ伏せになったまま動かなくなった。
「……!……!」
アンジェリアを肩に担いで走っていたAK-15は街角を回った瞬間、飛び蹴りで道を塞いでいたストレンツィの頭を壊した。
片腕がなくなり、素体は壊れかけというのにショットガンのような蹴りだった。
館の広間では甲高い戦いの音が聞こえる。
まだ、ヴィシャスはグレイと戦っている、何のつもりでこの館化に来たなんて知らない、しかしこのチャンスをくれた幸運だけは取り逃すわけにはいかない。
素早く廊下を駆け抜けていた、AK-15が急停止した。
「逃げられませんよ?」
行く手をふさぐようにRPK-16とその前方に白いネイトと黒いネイトが一体ずつ立ちはだかっていた。
「(見つけた!アンジェリア!)」
そのころ、洋館に入ったUMP45も2階からアンジェリアたちを発見した。
ネイトに行く手をふさがれている。
AK-15は注がれる危険な視線に状況をすぐに把握した。
「少々、お待ちください」
アンジェリアを床に降ろす時に聞こえた彼女の息苦しさに、AK-15も焦った。
彼女の拳銃はまあ、ないよりマシだが、これだけで切り抜けるには少々心もとない。
「…お前の鎌が必要だ」
「死ね。……!?」
白いネイトが鎌を振り回そうとした瞬間、ネイトの動きが一瞬止まった。
「え?お姉さま?」
黒いネイトも突然のことで思考が止まってしまう。
「動きを止めた!今よ!」
AK-15も何が?と疑問に思ったがその答えを上から声が教えてくれた。
白いネイトの瞳が動き、次に体の取り戻そうとしている。
「了解」
AK-15も今しかないと即座に判断した。
そして、ものすごいスピードの飛び蹴りが白いネイトのわき腹を蹴り飛ばす。
「っ…!」
蹴り飛ばされ、ネイト握る力が弱まったのを確認したAK-15がネイトから鎌を奪う。
「私の鎌────」
頭上で風を切る音が聞こえると、体の動きを取り戻した白いネイトは慌てて後ろに下がって避けた。
巨大な鎌が空回りしたが、AK-15は慣性を利用してそのまま鎌を後ろに振った。
「え?」
射撃をしようとしていた黒いネイトは、巨大な鎌が自分に飛んでくるなんて思いもしないので反応できなかった。
せめて、胴体はと思って体を捻ろうとしたがまた動かなくなり、振り回された鎌が間に合わない黒いネイトの首から上を切り裂いた。
「どけ」
「や、やめて────」
逃げようとした白いネイトも、さっきと同じように動きが一瞬止まる。
頭から股にかけて、一撃で両断する。
「誰だ?」
「私よ」
「UMP45…なるほど、サーが送り込んだのか」
UMP45が階段から降りてきて、二人の前に現れた。
流石サー・グリフィン。こうしてバックアップを送り込むなんて自分たちのことを信用していない。
「いいえ、私をここに連れて来させたのは指揮官とM4A1よ」
「M4A1…っ。アイツもここに?」
「ええ、非常にご立腹なご様子でね」
ポンポンとUMP45はアンジェリアの肩をたたくのと同時にエンペラーの発信機を取り付けた。
発信機は服と同じ色に変化した。それは瞬時に溶けたようにも入り込んだようにも見えた。
「(異世界の発信機って、こんな仕組みなのね)思い当たるフシはいっぱいあるでしょ?」
「まあ、ね」
「あいつも指揮官も悪口が沢山言いたいそうよ」
どたどたと足音が聞こえる。2階からネイトが追いかけてきたらしい。
「けれど、ここから出るのが先よ。ここは私が食い止める」
「助かる」
AK-15はアンジェリアを背負う。
「M4に一つ伝言を。”必ず決着をつける”と」
「ハイハイ、覚えてくわ」
UMP45は銃を構えて、追いかけてくるネイトの方に歩いて行った。
AK-15は廊下を走る。
UMP45のおかげで余裕ができた。もう廊下をあと2つ通れば出口だ。
残った眼前の脅威である、RPK-16を睨む。
「さすが、AK-15。ソ連最強の戦術人形ですね。しかし───片腕のあなたに遅れをとると思っているんですか?」
「それはお前も同じだ。お前も片腕は使えない」
RPK-16から舌打ちのひとつでもあればよいが、残念ながらRPK-16はそういう人形ではない。
彼女の持つライトマシンガンが火を吹く。
片手で行われたいい加減な射撃、いつものAK-15なら強引に突破するか、素早く避けて懐に叩きこむだろう。
しかし、今回はアンジェリアを守りながらの戦闘で強引な手はアンジェリアを危険にさらす、その上狭い通路なので、避けられない。
「────ッ!」
AK-15の選択は自分の身体を盾にすることだった。アンジェリアの前に立つと、弾丸を受け止める。
衝撃が全身を走ると、身体中から悲鳴が上がったような気がした。
「…………!」
「AK-15?悲鳴は上げないんですか?」
無言のまま歯を食いしばって耐えると、銃弾を受けたままRPK-16に突っ込む。
今の位置はアンジェリアの真正面だ、攻撃を防げる。
弾はAK-15の右肩を貫く。
よろけた彼女をRPK-16はさらに発砲を続ける。
「…………」
壁に打ち付けられたAK-15はそのまま崩れ落ちる。その拍子に鎌を落としてしまった。
「これまでですね」
「どうかな……」
爆発の音がした。
反対方向から、別の人形が怒りと銃弾を抱いて現れる。AN-94だ。
グレイとの戦いで逃げたと思われたAN-94だ。
「おのれ!AK-15!!」
予想もしていない事態に柄にもなく、RPK-16が狂ったようにAK-15を睨みつけた。
AN-94の銃弾が正確にRPK-16の体を突き破る。
「……くっ!」
足掻くように、RPK-16はAN-94に向けて銃を乱射した。
「裏切り者!」
RPK-16の放っている、5.45×39ミリ弾はAN-94も使っている弾薬だ。
その弾薬の恐ろしさは使っている側のAN-94だって理解しているはずなのに、彼女はその銃弾を恐れずに前進し、近づいてくる。
「……こ、この」
AN-94との距離が詰まっていく。
AK-15が落とした、鎌を拾おうとするが、RPK-16の足元に転がったそれは手を伸ばしても届かない絶妙な位置にある。
「────!」
AN-94はRPK-16では対処不可能な距離まで入ってきた。
素体も万全でアサルトライフルの有効射程距離まで接近してきた状態では対抗することが難しかった。
そのために鎌を拾いたかったのに届かない、AN-94もAK-15も勝利を確信する。
……なのに、AN-94は引き金を引けなかった。素体が全く動かなくなった。
「危ない危ない」
RPK-16は微笑みながら、AK-15たちを嘲笑するように微笑みながら立ち上がる。
AK-12から指揮権を受領するときに受け取った切り札がある、それがこの人形の機能停止コードだ。
この場にグレイがいたら「さっさと使え」と文句が出ただろう、しかし、最後の最後に使うものだ。
「哀れな人、怒りや焦りに駆られなかったらこんな末路にならなかったのに」
RPK-16はいまだに目を覚まさないアンジェリアを本当にかわいそうなものを見るような瞳で見つめたのち、ゆっくりと拾い上げた。
後は、ネズミだけだ。アレはグリフィンからの救援だろう。
きっと、ネズミは自分が裏切ったことを知ったはず。まだ、自分が反逆小隊の人形という隠れ蓑は残したい。自分の裏切りが知られたら厄介だ、片付けなければ。
────
───
その頃、エンペラーは未だゾロゾロと集まってくるネイト達に大して縦横無尽に暴れていた。
「────ぎっ!?」
「────あっ!?」
エンペラーの銃撃で2体のネイトが黒焦げになる。もう、これで投入したネイトの30体以上が彼女に倒された事になる。
やたら変重した装備のネイトの攻撃は空中に浮いたり、地面に降りたりと不規則な動きをするエンペラーには従来の方式では動きを捉えきれなかった。
「(……遅いな)」
エンペラーは撃ちながら、時計を見つめる。
もうとっくにUMP45は洋館に入って30分以上は経っている。成功しようと失敗しようと、連絡もなしなのは不自然だ。
「……仕方ない。様子を見るか」
「────今だ!」
エンペラーが地面に降り立ち洋館の方を向いた時、待ち伏せていた白いネイトの鎌がエンペラーの首に振り下ろされた。
「やった!!」
他のネイト達も決まったと声を上げる。
だが────
「……不意打ち?結構結構!!」
「は────?」
だが、鎌は首を切り落とさなかった。
鎌はエンペラーの首に触れたまま止まっていたのだ。
「早く!姉様!切り落として!」
「やってる!────やってるのに!!」
周りは早く鎌を降ろし切れと催促する。白いネイトだって、そのつもりだ。けれども、いくら力を込めても鎌がピクリとも動かない。
「こうなったら!」
諦めて別の角度から首を刎ねようとするがそれも叶わない、鎌が離れない。
「な……ど、どうして!?」
なんと、鎌がボンドでくっ付けられたように球体とくっつき引き剥がせない。
「C'est une récompense ! Je vais te montrer quelque chose de génial!(ご褒美だ!いいものを見せてやろう!)」
エンペラーが指を鳴らす。鎌とくっついていた球体がブルブルと震える。球体から不気味な水音が流れる。
「……なに?」
水音の正体は球体が変形したことで発生した後だった、球体は液体金属だったのだ。
液体金属が形状を変えてものすごい速さで鎌を取り込んでいく、ネイトがそのことを理解した時にはもう侵食が手まで進行していた。
「────!」
必死に逃げようと身体を引っ張ったら腕が千切れてしまった。
パニックによる突発的な行動でも、この判断は良かったかもしれない。
「うっ!?腕がっ?腕がぁ!!!」
腕が千切れてしまったという結果に腕を奪われたネイトは叫び声を上げる。
引きずり逃し、周囲を取り囲んで攻撃するべきネイト達もこの未知の恐怖に動けなくなっている。
「ハハハ」
鎌を取り込んだ球体がエンペラーと一体になる。
そして、エンペラーの手から、また球体が現れると変形し、ネイトが使っていた鎌と同じ形をしたものが現れた。
"エンペラー"は戦術人形M4A1の基礎設計を模倣、参考にした世界が7番目に開発、正式配備された人形である。
彼女の最も特徴と言える部分はこの彼女はフレームの周りを覆うものとして採用されている液体金属だろう。
この液体金属はエンペラーは本人もしくは該当指揮官の判断で分離、合体が可能であり、この金属に触れた別の金属を吸収し、吸収した金属と同じ形状にコピーできる。
平たく言えば、エンペラーは金属を取り込むことができ、取り込んだ金属を模倣できるのである。
「う、うて!!」
戦うことを思い出したネイトが発砲する。
「なるほど!盾にはつかえそうだ!……切れ味はどうかな?」
エンペラーはニヤリと笑ったまま鎌を握ると、軽快な動作で振り回し、ネイトたちのもつMGの弾丸を全て弾いた。
「戦いに順番なんてものはないが……これは私の番ということでいいのかな?」
エンペラーは切先をネイトたちに向ける。
「そらっ!ゆくぞ!!」
エンペラーがネイト達に向かって遅いかかる。
少しでも鎌が届くなら鎌で持ち主以上に丁寧にネイト達を切り落とし、届かなければライフルで黒焦げにする。
「────やだっ!」
「────はやっ!?」
「こ、この!死ね!」
「撃つな!撃つ────うわあああ!!」
「やめて!こっちに!!────きゃああ!!」
掃討は10秒で終わった。
目眩しに時間をかけたが、急げばこんなものだ。
「ふう……」
死骸となった黒いネイトの頭を拾い上げる。
「さて、どうかな?」
口をパックリとあけたエンペラー、何をするのか?もちろん決まっている。
ぐしゃり、と果実を貪る音がした。そして、ネイトの頭が潰れた。
それが、2、3回続き……エンペラーはおもむろに食べ残しを地面に捨てた。
「うむ、不味いな。さっさと、UMP45を探そう」
正面玄関を吹き飛ばし、洋館に入るエンペラー。
数々の弾痕や破壊の爪痕はここで一悶着あった事を容易に想像させた。
「さて…」
エンペラーが周囲をスキャンする。UMP45の弾薬、45ACPを探しているのだ。
45ACPの薬莢があれば彼女はここにいた事になる。
「いないか」
スキャン結果は一致なし。あるのは5.45と7.62だけだ。
どこから、探すべきか?と思案した時、銃声が聞こえた。別館からだ。
そして、激しい破砕音。
「ほう、あそこか」
幸い、エンペラーか次に探るべき場所がどこか見当がついた。
「うっ……はぁっ……はぁっ……」
「びっくりしました。まさか、まさか、グリフィンの初動がこんなにも早いだなんて」
その頃、別館のロビーではUMP45が膝をついてボロボロになりながらRPK-16とグレイを睨んでいた。
隠れてエンペラーに応援を頼もうとしたら、味方を装ったRPK-16に襲われた。
反逆小隊のメンバーだから味方だと思っていた。でも、あいつは敵だった。その想定の甘さがいま、自分を窮地に招き入れた。
「あら、こんなところに発信機が」
「しまっ────」
アンジェリアの腕に取り付けた発信機をグレイが見つけ、取り出すとUMP45の目の前で握り潰してしまった。
「分かりにくいところに隠したつもりだけど、浅はかね」
「……終わった」
RPK-16が妨害したせいでエンペラーと繋がらない。
まだ、囮をつづけているんだろうか?
「さぁ、お父様の障害よ。ここで死になさい」
グレイの巨大な鋼鉄の尾がUMP45の眼前に突きつけられる。
これのせいで直撃しなくても全身が人間で言う骨折になってしまった。
振り下ろされたらペシャンコだ。そこに横になってある、もうすぐ死にそうなシュタージの若造と一緒に。
「おや、マドモゼアル。こちらで何をしているか伺っても?」
振り下ろされる直前、活力ある声がした。
歩きは堂々で、まさに自信家を思わせる人形、M4A1の娘"エンペラー"がグレイ達の元にやって来たのだ。