「エンペラー…」
「あら、まだお仲間がいたのね」
尾がエンペラーに振り回される。
周囲を粉砕しながら、エンペラーに襲いかかる。
「────可哀想に。後でお色直ししてあげよう」
「……何?」
「……!」
流石にグレイもRPK-16も予想だにしなかったことが起きた。
エンペラーには攻撃が当たらなかった。それどころか、床に倒れ伏していたUMP45とライトを抱えて2階に移動していた。
「逃げられると?」
RPK-16が追撃でLMGを発砲したが、エンペラーの体内から現れた液体金属が壁を作り、弾丸を止めてみせた。
「……は?」
「ふふ……また後でな」
唖然としたRPK-16にエンペラーは余裕の笑みで笑いかけるとそのまま最寄りの部屋のドアを開ける。
「降ろすぞ」
「────いった……」
部屋の真ん中で2人を降ろした。
「指は動くか?」
「……まぁ」
「では薬を、彼に」
UMP45に薬液が入ったスプレーを手渡す。
「……?」
「吹きかけてやれ、このスプレーで傷を塞ぐ応急処置ができる。このエージェントは生きてもらわねば」
「……あなたは?」
UMP45はスプレーを受け取る。
エンペラーは敵の反応の変化を気にすることなく、銃を持ち外を見つめた。
「奴らにお引き取り願うさ」
そのまま部屋を出て、再度グレイ達を見つめると2階から1階の広間にゆっくりと降り立つ。
「すまない、待たせたな」
エンペラーは来客を相手するように自然とした口調でグレイとRPK-16に話しかける。
「……」
「フム、その尻尾は"サソリ"。なのかな?フッ、私の知るサソリとくらべると……君は可愛らしく見えるよ」
エンペラーはグレイの特徴的な尻尾を可愛らしいと表現した。そのセンスには独特なものがある。
「……言ったことを忘れないようにね」
言われた本人は後で後悔するから先に言わせておこうと言う傲慢さが余裕に繋がっていた。
「もちろん覚えておこう。そうだ、思い出した君はRPK-16じゃないか?たしか、母上の腐れ縁の同じ部隊だから味方と思うのだが」
「母上?ええ、その母上に脅されているんです。助けてください」
その場では明らかに不自然な釈明をするRPK-16。
そもそも、RPK-16はエンペラーに銃を撃っている。
「お嬢さん、2つ忠告だ。ひとつめウソをつかないほうがいい。君の嘘はわかりやすい────」
「死ね────」
そして、エンペラーの後ろにカマを持ったそして、グレイの指示でエンペラーの首目掛けて飛びかかった。
「────え」
────奇襲したネイトの頭をエンペラーは一瞥もしないで握り、持ち上げた。
「甘いな」
「グレイ様!助け────」
「────」
「────」
そして、そのままネイトの頭を果物のように握りつぶした。
シャワーのように降りかかるネイトの血液。それがエンペラーのM4A1から受け継いだ美しい顔を汚していく。
「ふたつめ、母上の名前を気軽に言い訳にするな」
一瞬のことだった。エンペラーの全身から紫色のスパークが見え、数秒……建物の灯りが消えた。
再び、部屋の明かりが戻るとエンペラーの血の汚れは最初からなかったように綺麗に消えており、美しい顔に戻っていた。
「これは忠告で済まさない。お仕置きだ」
そして、2人は理解する。
この敵は絶対に侮ってはならないと。
「……あなたは、危険ね」
「援護しますよ」
グレイが攻勢のために尻尾を持ち上げる。
RPK-16は援護のため動きながら、LMGをフルオートで発砲。
「ん?」
身体のいくつかの穴が空いたエンペラーはその穴から、射線を計算しRPK-16の動きを計測。
今度はエンペラーは壁を作らない。弾丸がエンペラーの全身に命中する。
「ハハ、これは痛い痛い」
「これは……?」
前代未聞のことが起きた。エンペラーにはすでに20発以上当たっている、撃たれているのにエンペラーは少しよろけるだけでダメージを受けているように見えない。
苦笑しながらエンペラーは弾丸を受けながら、ライフルを構える。
そして、予想進路上に弾薬を発砲。弾丸はRPK-16の隠れた柱に命中した。
「────!!」
弾丸が命中した柱はRPK-16までに貫通しなかったがガラス細工のようにボロボロと砕け散り、衝撃で彼女を壁まで吹き飛ばした。
「────っ、やってくれましたね……」
あの銃撃が直撃するのはまずい。
見た目からして、5.56のライフル弾しか撃てない見た目をしているあの小さいライフルなのに……柱に当たった瞬間、パディルスキ潜水艦基地でたくさん味わった戦車の砲弾と同じくらいの衝撃を叩きつけて来た。
「あれ?」
立ち上がるRPK-16は違和感を覚えた。視界がおかしい、身体の動きも変だ。
まるで、電撃で麻痺したように身体が思うように動いてくれない。
RPK-16は辺りを見回す。
「────こ、れ……は!?」
身体中を見て、RPK-16は動かない理由を理解した。腕は弾き飛び、右手首から右足くるぶしまでの範囲でRPK-16の身体は一瞬で黒焦げになっていた。
「うまく動かないだろう?この電流は10万ボルトだからね」
エンペラーはニヤニヤ笑いながら、RPK-16に自分の力を自慢する。
「君たちでは私に勝てないよ。何せ、母上ご自慢の娘がお相手しているのだから。確かグレイだったかな?君も────」
「自慢が多いわね、間抜け」
話し続けるエンペラーの背中から現れたグレイが力一杯、銀色の尾を振り回した。
弾丸で、貫けないなら振り回して叩き潰す。
尾がエンペラーに激突する、轢かれた遺体のように肉片に変わると思われたが────
「……!」
だが、尻尾の攻撃を受けたエンペラーは叩き潰されることはなく……たた飛ばされただけだった。
床に転がったエンペラーはゆっくりと立ち上がる。
「ハハハ……!やはり君はかわいらしい……」
「……っ。死ね」
グレイはまた尻尾を叩きつけた。
今度は顔面、そして今度は一回ではなく、何度も何度も尻尾を叩きつけ続けた。
「……!────!!」
執拗に尾を叩きつけ続けて……ようやく、エンペラーが動かなくなった。
10回以上、叩いてからグレイは数えるのをもうやめてしまった。
それほどグレイは夢中になっていた、これほど必死になったのは初めてかもしれない。
「……まだ、全身が残っているなんて」
だが……それでも、まだエンペラーは全身の形状を維持したまま床に倒れている。
この人形は本当になんだ?重装甲の車両だってスクラップになるほどの攻撃を叩き込んでいるのにまだ動いている。
「……この死体はお父様の元に連れて行くべきね。その前に……」
グレイは2階の方を見た。
「RPK-16の回収と目撃者は始末しなければ」
グレイは歩きながら、2階に登るための階段に向かった。
「2階に隠すなんて面倒なことをしてくれたわね」
「フフ……配慮と言ってほしいな」
笑い声が聞こえた。
紛れもなく、彼女……エンペラーの声だ。
「……!!」
グレイは咄嗟に振り向く。
一瞬────だが、強烈な出来事が目の前に発生したグレイは戦慄を覚える。
「まさか……」
横になっていたエンペラーがゆっくりと起き上がる。
まるで意思を持った水のように足を折り曲げ……地につけると、腹の力で身体を起き上がらせて立ち上がった。
「痛い痛い、思わず、キミのラブコールをわざと受けてしまったよ」
「黙れ!!」
グレイはもう打算など考えられない、前と同じように尻尾を頭目掛けて振り下ろした。
今度は潰れるまでやる!叩きつけすぎて、尻尾が壊れても関係ない!コイツは徹底的にやらないとダメだと本能的に理解した。
エンペラーの顔面に尻尾が命中した。
「────は?」
確かに頭に当たった。だが、そこから尻尾が頭から離れない」
「遊んでて楽しかったよ、キミは」
エンペラーは張り付いた尻尾に指をふれる。
尻尾がエンペラーの指から現れた金属と同化し始める。
「でも、そろそろ遊ぶのは終わりにしよう」
「────!!」
侵食が自分に近づいてきた。グレイは急いで尻尾を切り離す。
「……おや、離せるのか?」
「────!────!」
グレイは切り離した尻尾から逃れるように後ろにジャンプする。
そして激しく呼吸し、息をしていた。
尻尾がエンペラーの液体金属に飲み込まれていき、彼女の一部に変わっていく。
もし、切り離そうと考えていなかったら今頃自分はどうなっていたのか。
「フッ……」
エンペラーがライフルを向ける。
グレイはやられたと理解する。距離が遠のけば自然と遠距離の武器を持つエンペラーの方が有利になる。
かと言って、全速力で格闘戦を仕掛けてもあの"取り込まれる"能力にはどうすることもできない。
認めてはならないことだとはわかっているが、自分たちはエンペラーをどうやっても倒せない。
「まだ手があるなら試してみたらどうかな?なんも意味もないだろうが」
……どうする?
グレイが辺りを見回す……すると、1人の味方が目に映る。
彼女が持っていたものを見て、グレイは何をするべきなのかわかった。
「────!!」
グレイは唸り声をあげ、思い切り自分の手刀を地面に叩きつけた。
粉塵と床の瓦礫が巻き上がる。
「オヤオヤ、ヤケのつもりかな?……む?」
この時、エンペラーは妙な違和感を感じた。
粉塵にしては煙の量が大きすぎる。
エンペラーは迷わず、ライフルを発砲した。
"力"は使わない、銃弾で煙を吹き飛ばても力の影響で壁が爆発して粉塵が増えるからだ。
フルオートであらかたスモークを吹き飛ばした後に見えたのは────
「……いない?」
すっかり姿の消えたグレイの姿だった。
床にはスモーク缶が転がっていた。
「────ああ!RPK-16!」
思い出したようにエンペラーは天を見て「ああ、やられた」と笑っていた。
あれだけ、黒焦げになってもスモークのピンを外して投げる力残っていたらしい。
……UMP45と同じように、彼女も戦術人形だから。
「……プライドだけでないようだ。懸命なこともできる」
ちゃっかりアンジェリアも回収して逃げ仰せている。
それは好都合なことだ。
────
───
「もう安全だ」
「アンジェリアは?」
エンペラーは2階に上がり、UMP45達のところに帰ってきた。
「彼女達が回収してしまった」
「まずいじゃない……!」
「わざと行かせたんだ。発信機がある」
「でも、発信機は!」
「問題ない」
エンペラーは携帯を見せる。
携帯には発信機のビーコンが今も稼働し、現在位置を示し続けている。
「……どういうこと?」
外された発信機を見せる。エンペラーが指をパチンと鳴らすと、発信機がエンペラーの一部に戻っていく。
「……!」
「実はあの発信機は私の一部を混ぜていてね。その一部は巧妙に擬態し、今もアンジェリアのところにいる」
「どこに……?」
トントンと、エンペラーは手を叩く。
「彼女の義手さ、破損箇所に見せ掛けた形でね」
「……なんだ、初めから行かせても良かったわけ」
「私のプランに付き合ってもらった例だ。君の腕も見た目だけだが治してあげよう」
エンペラーが一滴垂らした、彼女の一部の液体金属がUMP45の破損した左腕に付着して、破損した一部が元通りの形になった。
「気取られない配慮は得意でね」
「さすが、M4の娘……これで、私もアンタの監視対象ね」
「安心するといい」
エンペラーはUMP45の手に触れると、形はそのままに発信機だけ取り出して見せた。
そして、UMP45の眼前に手を差し伸べる。
端末はビーコンはUMP45に埋め込まれていなかった。
「やむおえない時以外は君たちを不快にはさせまいよ」
「……本当であることを願うわ」
UMP45は差し出された手を握った。
────
───
グリフィンやユーリ達が東側諸国で苦労している間、西側でも動きがあった。
ワシントン:ホワイトハウス
「おお……!」
「なんと……!」
政府の要人や名のある起業家、実業家たちは今目の前で起きている現象に幸福な夢、或いは神が気まぐれに起こした奇跡でも見ているのではないか、という光景を目の当たりにしていた。
突然、カナダやブラジル、メキシコとかつて、アメリカ合衆国に統合された各国の大統領や、その上院議員がなんの説明もなしに呼び出されると思いきや、その出迎えたスーツ姿の男やアメリカ合衆国大統領は「奇跡がここに成された」満足げな笑みを見せていた。
要人たちが用意された席に座り、その席にはモニターが設置されていた。
モニターの明かりが点灯し、映像が発信された。
「なにを起こしたのか?」と気になる、要人たちがモニターから見た光景は────
「それでは、コーラップス粒子の浄化処理装置の実験を始めます」
映像はアメリカのカンザスシティ周辺に設置された、隔離壁を映していた。
ガスマスクを被った研究員らしき人間たちが設置された円柱状の機械を起動させた瞬間────機械からおびただしい量のオレンジ色の煙を散布され、風にあおられてもいないのに、オレンジ色の煙はコーラップス液が充満していた緑色の煙に向かって飛んでいくと、放射能濃度が瞬く間に薄くなりだした。
「こ、これは!?」
要人は驚いている。
1時間もしないで、レッドゾーンだった汚染地帯はイエローゾーンとほぼ同等の濃度にまで下がったのだ。
数百年かかるコーラップス液の自然治癒、それが1時間もしないで薄まっていく光景にだれが驚かずにいられようか?
「これで、世界は救わる」
どこかの要人がそんなことを呟いた。
それは、希望でも憶測でもなく、当然の結論だった。
この世界を蝕み、第三次世界大戦を起こした原因のコーラップスはこれでこの世界から消える。
汚染された土地も戻る、穀物地帯も再開はそう遠くないだろう。
隔離壁は残ったままだろうが、自由に行き来はできるようになるだろう。
世界は救われる。
植民地支配をする時代から、自分たちは解放される。
これが、本当の光景であるなら。
「し、失礼します」
どこかの国のエージェントが一人の要人に耳打ちをして、その要人の顔が驚きの後、何処か観念した様子で映像を見つめなおしていた。
「映像は本物か、素晴らしい……ことだ。貴方方は英雄だ。この行為は後世に語り継がれるでしょう」
「素晴らしい……!人類は叡智で生き延びることができるのだ!」
「生きて故郷に帰れる日が来るかもしれませんな……!」
「一刻も早く国民にこのことを知らせるべきです!」
口惜し気に要人が認めたことで、他の要人もこの光景は事実だと理解し、この成果を純粋にほめたたえた。
その様子を見て、微笑みながらも何もしゃべらずじっと見ていてアメリカ合衆国大統領はようやく口を開いた。
「ご満足頂けて何より。それでは、今回お集まりしていただいた本題について話しますが……よろしいでしょうか」
「勿論です」
「ええ、お願いします」
「是非、教えてほしい」
全員が大統領の方に顔を向けると、大統領は少し間をおいてから、今回の目的を話し始めた。
「簡単なことです。今から紹介する方々とお話をして頂きたい」
大統領が目くばせをすると、モニターの映像が切り替わり、一人の女性がモニターに映った。
<お時間いただき、ありがとうございます。初めましての方にご挨拶を。私は”アドミニストレーター、この装置を提供した組織の代表をしております”>
────
───
「了解、エンペラー。戻っていいわ」
M4A1はエンペラーからの報告を聞き終え、キューブ型の端末で行った通信を終了させる。
「エンペラーからよ、アンジェリアは行かせた。発信機はまだ稼働中」
「なるほど、予備プランを実行したのか」
「それと、お土産もある」
「なんだ?」
「生き残りのシュタージエージェント。アンジェリアと組んでたのかもね」
こうなることはフォトンにはあらかじめ話しておいた、
ただ、これを伝えるとUMP45は予備プランに頼ると判断し、予備があることは伏せていたのだ。
「しかし、シュタージのエージェントも土産に回収するとはな」
「ヴィシャスも回収したし、マハリアンも安全。初仕事にしては上々の滑り出しかしら?」
状況を確認したM4は1番心配していた問題が片付くことに一応の満足を実感していた。
「アレが回収ね、ホラ」
M4がフォトンにまた粒子転送とやらで呼び出した双眼鏡を手渡す。
今、M4A1たちは負傷者の搬送と交代の部隊を同時に行う海辺で警戒、待機をしていた。
双眼鏡をズームして見てみると人っ子一人寄り付かなそうな、この寂れた港に数隻のボートがやってきたのが見える。ちなみにM4はこの双眼鏡を使わず、裸眼でボートを捉えていた。
着くまでに15分くらいだろう。アレで沖まで運んだ後に潜水艦とやらに乗せるんだろう。
「マハリアン、あっちでも上手くやれそうか?」
「えぇ。M4……レイラさんがあなたと定期的に話せるように掛け合ってくれたそうです。これでお別れですけど、またお話ししましょう、ロビン」
グリフィンにはいけないが、マハリアンの表情はパラデウスのからよりも落ち着いており、安定していた。
M4に感謝だな。あんな、一言二言しか話していない女をこっちの頼みとはいえ、あそこまで譲歩してくれるなんて。
前の時はまるで違う、必要に応じて気前良く融通している頼りになる。
「ユーリ」
「レイラ」
一方、レイラことM4A1はフォトンから離れ傷で横になっているユーリの元を訪れ、ゆっくりと腰を下ろした。
「お疲れ様」
「うん?」
M4が隣に座ると話しかけてきた。
「忙しくてごめんね。やっと、あなたとゆっくり話し出来ると思ったのに今度はあなたを見送らないと行けないなんて」
M4A1は昔を思わせるような穏やかな口調でユーリに話しかける。
けれど、せっかく長い苦労かけて戻ってきたのに、また手元から離れることに名残惜しさは隠しきれなかった。
「……俺の方こそ、すまない。こんな怪我を負うヘマをしなければ」
「それは違うわ」
M4A1はユーリの手をそっと握り、ユーリの謝罪を否定する。
「怪我を負ったのはあなたのせいじゃない。敵以外の誰が悪い話をしないとならないなら、それはあなたのところに来るのが遅れた私の責任よ。あなたは命を掛けて役目を果たしたのをそれを謝らなくていいの」
もっと早く到着していればモリドーに怪我を負わせられることなんて私が阻止していた。
「湿っぽい話より、他の話をしましょう?最近、珍しいことはあった?」
まだボートが来るまで時間がある。我々が出来るのは待つことだ。
「変わったことか、そうだ。君の娘と話したよ」
「エンペラーと?」
ユーリは頷いた。
「君が他の世界で娘が作られていることは彼女から聞いたよ。それで…君の知っているレイラのことを聞いてみたら、あの子は君のたくさんの話を聞かせてくれたよ」
「……あー」
M4A1は少し固まった。エンペラーが私の話をするのは想像できる。
想像できるのだが……あの子は私の話をする時、ものすごい自慢話になり事実ではあるのだが、かなり誇張した自慢をするのだ。
「……例えば、どんな話を?」
「病院の患者を逃すために自分と10人の部下で100名以上のフリッパーの兵士を皆殺しにしたとか」
「……まぁ、したけど」
正確に言えば、フリッパーの兵士が来たのは病院の患者を全員避難し終えたころだ。
砂の悪路という自然の猛威にフリッパーの進みは遅れて、トラップも位置取りも万全な状態で迎えあったという勝てて当然の状況で待ち伏せして勝利したのだ。
普通じゃ、私でもそんな上手く行かない。
「フリッパーの占領したところに行って、空軍基地を丸ごと消したり、新兵器の情報を丸ごと抜き取ったことは?」
「……まぁ、したわね」
でも、私は予備部隊で待機しただけ。
実行したのは同行した特殊部隊。情報も彼ら抱えきれない分を持っただけ。
追跡を食い止めるためにワンマガジン分の発砲したけど、実行と言える実行はしてない。
「本当に君のことが好きなんだな。エンペラーは」
「えぇ、母としてこれほど誇らしいことはないわ」
M4A1はこの時、間違いなく母親の顔をしていた。
「あの子は周りの期待が強い中生まれたから、プライドも高い。そして身内や自分の自慢が好きだし、人によっては付き合うのが疲れる子だと思われやすいけど……正義感の強いしっかりした子なの」
M4は他にエンペラーの話をいろいろしてくれた。
装備の中に必ずお菓子を持ち込むほど、お菓子が本当に好きだったり、抑揚のつけるタイミングは必ず計算したりなど話してくれた。
本当にM4は自分の後継機の人形を娘として愛していた。
「そうだな……あ、そうだ。髪の色……変わったね」
エンペラーの話題が落ち着いた後、ユーリは外見の事を改めて聞いてみた。
「ええ。素体を変える時に注文したの、あなた蒼色好きだったでしょ?」
「よく知ってるね、その虹色のメッシュは?AR小隊の?」
「正解!ちょっとした遊び心でつけてもらったの!」
やっぱり、改めて聞いてみるものだ。
蒼い髪に髪型のように並んでいるメッシュはM4の緑、AR-15の水色、SOPⅡの赤、M16の黄色、ROの白いメッシュを意識したものらしい。
「ふーん」
「……」
予想は当たったもののそこから次の話題が思いつかない、そして、気まずい沈黙。
M4は上手いこと話題を振ろうと頑張っているけど、正直、自分はまだM4の変化に戸惑っているんだろうか?
いや、違う。自分がM4の事情を意識して、一歩踏み出せていないだけだ。
「こんな事、言うのは見苦しいと、思うのを承知で話しておきたい事があるんだ」
「どうしたのよ?改まって?」
相変わらず、M4は「なんでも言ってよ」と気楽に構えている。以前より、大人らしい余裕がある。
それに対して、これから自分が言うのは情けないセリフだ。だが、これが情けないセリフだったとしても、はっきり伝えたいとこの時の自分は思っていた。
「正直に言うと、君とまた、離れるのが……すごい名残惜しい」
「え────」
M4は一瞬、面食らった顔をして、元の笑みに戻った。
彼女と離れる、後送される原因を作ったのは他ならぬユーリがマハリアン達の為に足止めをした結果起きた訳で……そうでもしないとマハリアンやAR小隊、そしてフォトンは間違いなくモリドーに殺されていたけど……
「それ、ホントに本当?」
M4A1事実を確かめるように聞き直す。ユーリは頷く。
駄々をこねるように"離れたくない"と言う気持ちをみっともないと思いつつ、自分は吐露せずに居られなかった。
「……うん、私も離れるのは嫌。でも、仕方ないわよ。プライベートでドイツ人を危険は晒せないわ」
「……そうだね」
分かっていた回答だ。
世界は都合のいいようには回らない。
「でも……あなたが私をそう思ってくれたのを知った時、私……嬉しかった」
M4A1は胸に手を当てる。こうすると自分の胸中が曝け出せる気がするのだ。
「実はね、私……あなたのところに戻るのはちょっと不安だった。こんなに変わってしまった私を見て……素直に信じてくれる自信がなかったの」
「でも、あなたは私のことを再開してすぐ気がついてくれた。驚いてしまうだろうなって思いながらあなたのところに戻った私が逆に驚かされて、そして嬉しかった。本当に愛する力っていうのがこの世界にもちゃんとあるんだって、あなたは私を見てくれているんだって」
だからこそ、こうして自分の手元に離れてしまう事をM4A1も口惜しく思ってしまう。
「問題を片付けたら、すぐに帰るわ。そんなにその時は私が一杯愛してあげる!"もう、愛されたくない!"って、言わせてあげるわ!……時間はかけない」
「……ああ」
「もう、心配性ね。あのねー、私があんなパラデウスに負けると思ってる……?やぁね、あんなのに私が負けるわけないでしょ」
M4は「心配いらない」と言ってくれる。
映画とかでよくやられる敵が言いそうなセリフだが、多分、彼女の言う通り、心配なく終わるなるだろう。
彼女に勝てる相手は今のところ、E.L.I.Dが手に負えないくらい成長した個体しか想像できない。
「この街のパラデウスにはアナタを傷つけた報いを受けさせてあげる。一生消えない恐怖を叩き込む。これは決まっている事なの、アイツらにカウンターされたり、痛い目に会うことは絶対に起きない。だから、ユーリが心配せることなんて何一つないのよ?」
また、会えるのはいつになるのだろうか。
なんでていう、特定の人間だけ特別扱いするのか、それをする人間を今までよくわからなかった。
でも、今はずっと考えてこなかった、"待つ"と言う不安を初めて覚えていた。
「まぁ……おあいこか」
「……おあいこ?」
何がおあいこなのかよく分かっていない、M4は不思議そうにこちらを覗き込む。
「ほら、ベオグラードで君から離れたじゃないか。君は引き留めたけど」
「行かないで」と懇願した彼女を無視しして、ベオグラードから消えた。
あの時の叫び声はまだ、覚えている。状況的にはこちらの方がしょうがないがやった事で言えば同じである、
「……それを持ち出すなら、私はエルダーブレイン、秩序乱流、パディルスキの勧誘、それと今回ので計4回ですけど?」
「それは……」
それは……確かに、思い返せばそうだけど。
なんて、思わず口に出そうとする前にM4の手が自分の頬を触れる。
「仕方ない人ね……はい、こっち顔向けて」
「……?」
なんの気なしにM4の方を見る。
その次の瞬間────
「……ん」
唇に暖かくて、柔らかい感覚を覚える。
ゆっくりとM4から熱を与えられるかのような、優しいキスをされていた。
熱が自分の体の中にゆっくり染み込んでいく気分だ。
時間にして、数秒。自分にとっては数分とも感じられた濃い味が自分の唇から離れていく。
「……元気の出るお薬よ。ずっと頑張ったご褒美ね」
「ご褒美?頑張ったって、言われることしたかな…?」
「頑張ったわよ、私よりもずっと……」
M4が優しい声と笑顔のまま、細長い腕を伸ばした。
伸ばした腕はユーリの頭は巻き取り、胸の膨らみに当てられた。
「ずっと……あなたをこうしてあげたかった」
M4A1はユーリを抱き寄せながら、抱いていた想いを語る。
「どれだけ、過酷なことが起きてもあなたにこうする事をしたいと思うだけで気持ちが奮い立った。自分が不思議に思うこともあったけど、やっと理解した。……私はあなたの温かさが本当に好きなのよ」
腕、肩、胸……身体のあらゆる部位でユーリの体温と感触を感じるM4A1。
これは本当に自分の生きてきた意味だと実感かせてくれる。
「……必ず貴方の元にこのままの姿で帰ってくるわ。約束する、だから待ってて」
髪を優しくあやすように撫でながら、M4は言う。
それは、俺が死んでいなければの話だ、そう言いたかった。
でも、それは彼女の前では言えない。
せっかく励まして、優しくしているのに、また駄々をこねたくなかった。
だから、その喪失感や不安を隠すようにただ自分を頷きだけで、返事した。
そして、ボートが港に着くまで、M4も本当に名残惜しいのかずっと自分を優しく抱きしめ続けていた。
「……ごめんね」
それがボートになる直前に聞いた言葉だった。
付き添ってあげられない事か、それとも本当はその約束は守れない事か、どちらなのだろう。
ボートは、後送する人員を全て乗せると潜水艦のほうに向かって進んでいく。
「……行っちゃったわ」
別れは済ませたはずなのに、M4はまだ離れていくボートを見つめている。
「お前は帰らないのか?」
てっきりボートに乗って帰ると思ったから、正直意外だ。
「そうしたいところだけど、今回は彼らの代わりでやってきたからね。よほどのことがない限り、私はあなたに協力するわ」
ユーリ達の上も裏切りはしない限り、仕事は投げっぱなしにしないで引き継ぎの人員を回すという方針か、悪い方針ではないと思う。
「……よし、仕事に戻りましょう」
M4A1はコンテナに詰め込んだ、女を見せた。
「とはいえ、まず何を始めるからはこの子の尋問をしてからね」
コンテナに詰め込まれていたのはM4A1と戦って敗れたモリドーだった。
ベルリン:グリフィン仮説基地
M4A1達は一旦、工作員をモーテルに戻して、グリフィンの人形やフォトンは怪しまれないよう、サー・グリフィンの用意していた拠点に戻っていた。
ジジジとバーナーの放熱音と不要な所を溶断する切断音が聞こえる。
「……時間はどのくらいかかりそうだ?」
自分が壊したモリドーを修復しているM4A1とSOPMODⅡに進捗を伺う。
「話せるようになるにはもう少し、掛かりそうね」
「結構黒焦げにしちゃったからねー、ユニット交換も楽じゃないよ」
やむ終えない状況だったとはいえ、面倒なことをしめしまったとため息をつく。
「"ハイエロファント"がいればもっと早く終わるんだけどね」
「だれ?」
「私の子供、修理や作成が得意なのよ」
「え!?エンペラーだけじゃないの!?」
そうよ、とM4A1は頷く。
M4A1の娘は"エンペラー"だけではない、M4A1を徹底的に参考にして各国が各々の事情に合わせたモデルを開発している。
その種類はM4A1が把握している中では12種類は存在する。
そして、ハイエロファントはM4A1をベースに開発された、12種類の娘の1人だ。
このハイエロファントが持っているのは"修理"と"作成"であり、よく"工兵"の役割で活躍している。
そして、M4はいまそのハイエロファンの"修理"を恋しがっていた。
「へー……結構たくさんいるんだねぇ」
「そうよ、エンペラーもあの子だけじゃなくて。本国なら数千は量産されているはずよ」
「数千!?」
「これでも少ない方だからね?ハイエロファントなら、1万は量産されてるんだから。もちろん、みんな私より全然強いわよ」
「……わぁー」
スケールの違いにSOPⅡも開いた口が塞がらなかった。
あの時の頼もしさと希望を抱かせたM4A1より、強い娘が数えるだけでも気が滅入るほど存在するなんてとんでもないことになっている。
「けどさ、そんなに作って大丈夫なの?鉄血みたいなことしたら……」
「そうね、でも……あの世界の人たちは少し鍛えれば私の子供達を一対一で有利に立てるし……恥ずかしい話なんだけど、私達の世界より人形の扱いが寛容なの。人間と結婚して、子孫を産もうとしている子も少しずつ現れているわ」
「……す、すごいね」
SOPⅡにはもう想像がつかないことが起きていた。
そして、感覚ではあるが自分たちより社会の仕組みが進んでいることも認めていた。
「はぁ……ホントにハイエロファントか恋しい。彼女が取り組むならこの作業も今終わってたわ」
「そんなにすごいなら、うちのご自慢の整備士と勝負させてやりたいわ」
UMP45がやってきた、進捗が気になってやって来たのでその進捗を知りたくてここまで来たんだろう。
「……あら?ライバル登場?損傷は大丈夫なの?」
「ええ、あなたの娘のおかげでね。それで、そのハイエロファントは何を治したことあるの?」
「大きいものなら戦車かしら?きっと、そんなに実力があるならあの子も喜んで受けて立ってくれるでしょう」
「せ、戦車……かぁ」
UMP45ご自慢の整備士というのはデールのことだ。
ハイエロファントの直したことのある戦車という規格外の存在に本当にデールが勝てるのかちょっと不安になったがそもそも長居しないのだから、無用の心配だ。
「あ、そうだ。そっちの戦車はどんななの?」
「うーん?まぁ、大して変わりはないよね?キャタピラで動いて、レールガンの主砲乗せて、サブに対歩兵の6.8ミリや50口径のMG積んでー、オプションでナノマシンの自動修理か工兵を乗せて迎撃用のトロフィーシステム詰んで…という感じ」
あれほどまでにすさまじい戦闘力を見せつけたM4A1が例に挙げた戦車の例もこっちの知っている戦車から見たら兵装はレーザーではなく、弾丸やロケットと割と時代遅れに聞こえる。
彼らの強さの源は案外、彼女の主張していて”波導”に頼っているのかもしれない。
「M4A1が見せた馬鹿力な割には遅れてるのね。こっちの戦車はレールガンからレーザーよ?」
「レーザーかぁ」
M4A1は微妙な反応していた。
うん?なぜ、M4A1にとっては実弾<レーザーではなく、レーザー<実弾なのか?
「実は私のお世話になった世界だと、波導、魔力っていう特殊なエネルギーを混ぜることで兵器の火力や強度を底上げできるの」
ただ……それができるのは弾丸や砲弾とか個体の形をちゃんとしている必要がある。
「残念なことにレーザーはその個体としての条件を満たしていない。電力でしか威力が変えられないかえられず、レーザー効く雑魚になら効率いいがそれを耐えられるような装備や肉体を持たせられるともう、豆鉄砲にもならない」
もはや、彼女たちの悩みは次元が違っていた。
つまり、M4A1が新しい素体を手に入れた異世界ではレーザーというは威力が安定しつつも満足できる威力出ないレーザーは天候とか、その他諸々以上に”役不足”らしい。
「そんな雑談していたら、いいところまで直せたわね。よし!ネットワークを繋げられるほど修理できた!」
「OK!よし、じゃあ指揮官に報告するわ」
UMP45の報告を聞いたフォトンはさっそくネットワークを通じてモリドー尋問に掛けることにした。
「よし、ようやく本領発揮ね」
UMP45を中心として、404小隊がモリドーにネットワークを接続を始める。
<指揮官、つながった>
「確認した。さっそく、ベルリンで起こそうしたパラデウスの企みを聞いて────」
「待った。モリドーが私たちを散々見下しているのに殴る蹴る、データを接続する、その程度で話してくれると思う?」
確かに。M4の意見の言うとおりだ。
そのままの姿で、モリドーが素直に話すとは思えない。
「だれか?いい方法があるか?」
ここでフォトンはアイディアを求めた。
「アドバイスになるか、分かりませんけど。潜入した時、パラデウスは”お父様”と呼ばれる存在を妄信していました。モリドーも従うよ?まぁ、ホント鼻持ちならない男ですけど」
UMP45から思いがけないアイディアが出た。
確かにネイトたちは”お父様”には絶対服従だった。その男に化けられたら、モリドーも報告するかの如く事実を語るだろう。
「よし、それで行こう」
お父様、つまりウィリアムを演じるのはフォトンに決まった。
それに若干、マハリアンは恐れを感じたが、あくまで演じるだけであってマハリアンのトラウマでもあるウィリアムになるわけではない。
尋問が始まった。
モリドーは今のところ、フォトンをウィリアムと信じ切って報告や計画を断片的に語っている。
「母上」
「あら、お疲れエンペラー。シュタージの方は?」
「臓器が複数やられていたが、代替の人工臓器を複数繋げたことで安定した。全く、コストのかかるボウヤだ」
ヤレヤレと被りを振り、現状は問題ないとエンペラーは語る。
「そうだ、母上。度々話題に上がるウィリアムって、どんな奴だ?」
「一言で説明するならクソ外道よ。こっちの世界のソ連軍をいいように駒に使ったり、セルビアのベオグラードでテロを起こしたり、子供をさらってこのモリドーのようなネイトに改造したり、ここではベルリンでゾンビを生み出す爆弾のテロをやると来た」
「なんと!ソ連軍はともかく、目の前にいるなら切り裂いてやりたいほどの悪だ!」
エンペラーはその”お父様”……ウィリアムの存在そのものに対して不服そうだ。
確かに、M4A1の娘であるハイエロファントからしたら、こんな存在にM4A1の基が作られたのだ、しかも”お父様”と呼ばせている、吐き気しか出ない。
「では、そのお父様とやらに因縁がある母上は、私たちに”母”と呼ばれるのは……」
M4A1は「まさか」とかぶりを振る。
そんなわけがあるか、むしろ娘からいつ母親扱いされないか戦々恐々だ。
M4A1は自分の手をエンペラーの頭の上に乗せて優しく撫でた。
「もう……そんなわけないでしょう?いつ、呼ばれなくなるかって、戦々恐々よ」
そんなわけがあるわけない、ウィリアムのように使い倒して、適当に廃棄する奴隷を作るためにM4A1は娘を作ったわけではない。
M4A1は自分から生まれた後継機……娘たちが生まれる事を心から祝福している。
あんな、ウィリアムの虫唾が走るような企みで作るのなら、絶対に彼女たちをあの”自分の胎から産み落とす痛み”に耐えられるわけがない。
「ハハ!私も愛しているよ母上、父上殿はまだ戸惑っているようだが」
彼にとっては突然の出来事だ。
ユーリはこの子達の親と受け入れるにはまだ時間いるだろう。
話は一度、したようだが……一度、膝を突き合わせてゆっくり話さないとならないだろう……彼を責めると受け止められないように気をつけながら。
「そこは、慣れじゃないかしら?一応、前向きに考えてるようだし、案外すぐにでも────」
受け入れてくれるんじゃないかしら?と話そうとしたところで、404小隊の様子がおかしい。
「────接続を切って!早く!」
「────G11のせいだよ!」
どうやら、ウィリアムに化ける作戦は失敗したらしい。
続いて、近くの車が吹き飛んだ。
どうやら、モリドーが位置情報をパラデウスに教えたらしい。
「仕事が早いのね、パラデウスの下っ端は」
パラデウスのモリドーを回収しに来た、部隊の規模は一個小隊レベルだ。
「迎撃しないと!」
「待って」
迎撃のために車両から出ようとするSTAR-15の肩をM4A1がやんわり掴む。
「私が出る。中で待機してなさい」